鳳凰一双舞い上がるまで 第三章 7話(下編) |
左慈SIDE
「……うん、よし。これにしよう」
倉ちゃんに真名を頼まれてもう何週間。なかなか良い物が思い出せないまま今まで悩み続けたわけですが、ようやく納得の行く真名を作れました。
でも、やっぱり悩み過ぎなのでしょうか。あまり悩みすぎたせいで、逆に良くないものになってしまったのではないかとちょっと心配です。
でも、娘の大事な真名。適当に作るわけにも……
「……さっちゃん」
「ひゃーーー!!」
後ろから呼ばれて思わず持っていた真名に関して書いてある本を上に投げてしまいました。
「倉ちゃん!?いつ来たの?…あ、あのね、倉ちゃんの真名決めたんだけど…」
「…今直ぐ来る」
「へ?!」
良く見ると、倉ちゃんの顔色が変だ。
一体どうしたの?
「どうしたの、倉ちゃん」
「……一刀、倒れた」
「!」
雛里SIDE
私が一刀さんの後を追った時、一刀さんは孫権さんに抱きつかれたまま気を失ってました。
そんな一刀さんを孫権さんの部屋の寝床に寝付かせたら、倉ちゃんが私たちの騒ぎを聞いたのか走ってきました。私は倉ちゃんに左慈さんを連れてきてくれるように頼みました。一刀さんのこと一番良く知っている人ですから、どうして一刀さんがいきなり倒れたのか分かるかもしれません。
「僕は君が想ってる『北郷一刀』じゃない。だから、僕にそれ以上『彼』を求めないでくれ」
それがどういう意味なのか気づいた瞬間、私は一刀さんにとんでもないことをしたって気づいてしまいました。
一刀さんはずっと悩んでいたのです。変わった自分の姿を私が認めてくれているのか。以前の自分と同じく愛してくれているのか。
なのに、私は、以前の一刀さんの姿を殺した孫策さんを許せないなどと言ってしまいました。
孫策さんが一刀さんを『殺した』と思っていること、それ自体、今の一刀さんにとっては自分の存在を否定されたことに等しいものでしょう。
そして、私が一刀さんを否定したから、一刀さんもまた私を拒みました。
「あの、鳳士元殿」
「……何ですか?、孫権さん」
「さっき医者は呼ばない方がいいと言ったけど、やっぱり医員に見せたほうが…」
「大丈夫です。医者よりもっと頼りになる人が呼んでます」
「そ、そうなの…」
孫権さんはさっきから気まずそうにしてます。
自分の前で突然人が気を失って倒れたのですから当たり前だと思いますけど、なんかソワソワしているのを見ると、あ、あら元なら私がやることなのにと思っちゃいます。
ところが今は……
「患者はここ!?」
「!」
左慈さん!……って、なんですかそのちょっと桃色の入った白衣は……
「ナース服!」
「あわわ、人の心読まないでください!」
「それより、あなたは誰なの?良く見たら、以前江賊団の洞窟で見たことがある民間人の……」
「あ、はい、頼まれたので特急で来ました。早速ですけど、ちょっと見せてもらっていいですよね」
「あ、ちょっと…」
この人、相変わらず自分の言いたいことやりたいこと先にヤッちゃう人です。
左慈さんはそのなーす服という服が上下一着になっているその服で中に入ってきて、寝床に居る一刀さんの上衣を脱がしました。
「って、ちょっと、何脱がしてるのよ!」
「肌を見ないと何なのか分からないのですよ。春風にな撫でられただけで恥らう乙女さんは見なくてもいいから出て行ってください」
「なっ!」
詰まった顔で孫権さんはふと私の方を見ました。
もちろん、私は出て行きません。
「い、いいわ、ここに居たらいいんでしょう?」
「……あら、案外に強気。……それがなんと、下の方も脱がさきゃ行けないんだけどね」
「へっ!?」「さすがにそれは無理でしゅ!」
って、脱がさないでください!出ますから、ちょっと待ってください!
「鳳統ちゃんは残ってもいいよ。予習も兼ねて」
「何の予習ですか!」
「いや〜ん、私に言わせるつもりなの?ぶへっ!」
と、その時、後を付いてきた倉ちゃんの棒が左慈さんの頭を剛打しました。
「…良いから早く診る」
「……はい」
・・・
・・
・
「あの女、この近くに住んでいる者だったの?こんなに早く来るなんて…」
「…はい、まぁ……」
部屋の外に出て、私は孫権さんの質問に適当に答えました。
人が死んで蘇ったとは言えても、さすがに「あの人は元蛇で、普段は一刀さんの鞄の中で寝てます」と言ったら変人あつかいされるでしょう。
………
「孫権さん」
「何?」
「どうして、ここに私と孫権さん二人しか居ないんでしょうか」
「へ?……あれ?倉は?」
あわわ、あの娘中に居る!?
がちゃ
「…雛里ちゃん」
中から倉ちゃんが出てきました。
「倉ちゃん、何でそこに残ってるの!?」
「……雛里ちゃんも入る。さっちゃんが呼んでる」
「あわわ?」
「患者に悪いからさっさと入って門閉じなさい!!」
中から左慈さんの鋭い声が聞こえて、私は孫権さんを一人に残して急いで中へ入りました。
倉SIDE
雛里ちゃんと孫権が外に出た。
あたしは残ってさっちゃんがすることを見ていた。さっちゃんが一刀に変なことしないか心配だったから…
でも、
「倉……」
「…うん?」
「……倉は、彼のことが好きなのかしら」
「…一刀?……うん、好き」
「………そういう意味で聞いたわけじゃないのだけれど…」
「……?」
どういう意味?
「鳳雛の力は無敵じゃないけど、少なくも病気なんてなるものじゃないわ……だとすれば考えられるのは一つしかない」
「……一刀、病気じゃない?じゃあ、何で倒れたの?」
「倉ちゃん、鳳凰が何でいつも一双になって呼ばれるか分かる?」
「……夫婦だからじゃないの?」
「そう、鳳凰とは元々雄の鳳と雌の凰をあわせて呼ぶ名。一双は夫婦であって、決して離れることがない。それはその名を受け継いだ人間だとしても同じよ」
「……?」
「雛里ちゃんを入らせて」
「……うん」
あたしは門を開いて雛里ちゃんを呼んだ。
「…雛里ちゃん」
「倉ちゃん、何でそこに残ってるの!?」
「……雛里ちゃんも入る。さっちゃんが呼んでる」
「あわわ?」
雛里ちゃんが中に入ってくるのを戸惑っているから、あたしも何も言わず門をあけたままそこに居た。
「患者に悪いからさっさと入って門閉じなさい!!」
そしたらさっちゃんが凄い声でそう叫んで、雛里ちゃんは慌てて中に入ってきた。
「……左慈さん…?」
「鳳統ちゃん、単刀直入に聞くけど、彼と何か言ったの?」
「…!!」
一刀の前ならちょっと恥ずかしがったりもするけど、いつもはしっかりしてる雛里ちゃんが、さっちゃんの問いに答えずおずおずしていた。
…雛里ちゃん、一刀と喧嘩した?
「左慈さん…私は……」
「…まぁ、別に良いわ。言いたくなければ言わなくてもいい。好きな人同士だとしても喧嘩ぐらいするものだしね。でも、鳳統ちゃんと一刀の関係はただの恋人同士よりもっと深いわ」
「…どういうことですか?」
「鳳雛の力を持った一刀は病気になることなんてない。だから彼が倒れた原因はただひとつ。愛する相手を失ったと思った時だけよ」
「…!!」
「鳳凰という生き物は常に愛を養分として生きていくの。氷龍が人の欲を自分の力の源にしているようにね。あなたは今の北郷一刀にとって唯一の愛することができる相手だし、それはつまりあなたが彼の命を掴んでいるというわけよ。あなたの言動次第で、彼を生かすことも、殺すこともできる」
「一刀さんは…治るんですか?」
「鳳雛の力を受け継いだ北郷一刀の貴女への愛は強迫に近いけど、あなたがそんな彼と居るのが苦しいと思って拒む限り、一刀は目を覚まさない」
「でも……一刀さんにもう断れたんです。私に、もう自分から以前の一刀さんのことを求めないでって…」
二人の対話は難しくて良く分からなかった。
分かることはただ、一刀と雛里ちゃんがひどく喧嘩したこと。そしてそのせいで一刀が倒れたこと。
雛里ちゃんと一刀はたまに『以前の一刀さん』や『以前の自分』という表現を使うことがあった。
それは、今あたしたちと旅をしている一刀と、あの日、孫策に殺されている一刀の姿を分けるため。
でも、あたしにとってはどの一刀も一刀だった。
変わったことは何一つなかった。あたしにとっては体型がどうなど、そういうことは何の差異もなかった。
髪が黒いとか白いとか、蛇とか人間とか、どんな形をしているとしてもその人の存在が変わることがないから。
「それはあなたが実際彼から昔の彼の姿を見つけようとしていたからじゃないの?」
「ち、違います。私は確かに言いました。今の一刀さんも私が好きな一刀さんだって…」
「『も』とかいう時点でアウトなのよ」
「へ?」
二人にとって、一刀という人は二人居た。
でも、違う。北郷一刀という人は、この世に一人しか居なかったし、それは今の一刀。
「一刀という人は一人しか居ない。あなたが今の一刀とあの時の一刀を見分ける時点で、ここにいる北郷一刀はあなたから求められている確信がつかなくなる。今付き合ってる人に昔の恋人はああだったのにとか言ってるようなものよ」
「………」
「彼がちょっと特殊なのは私も認めるわ。あなたが真剣になれないのも分かる。でも、それが今の一刀よ。……でも、もしあなたがそれを耐えられないというのなら、別にあんただけにその荷を背負わせるつもりはないけどね」
「それは……嫌です」
雛里ちゃんは寝ている一刀を見ながらそう言った。
「それって、つまり一刀さんが他の人を好きになるかもしれないってことですよね?」
「そう」
「でも、私は私だけを愛してくれる一刀さんじゃなきゃ嫌です」
「ならあなたもそれほどの愛を彼にあげなさい。じゃないと次は、本当に彼は死んでしまうから」
「…………」
雛里ちゃんは何もいわぬまま顔を俯いた。
「倉ちゃん、一刀を彼の部屋に運んどいて。私は戻って寝るわ」
「…何もしないの?」
「最初から私がすることなんて何もなかったわ。全部二人で解決しなければいけないことよ」
そう淡々と言ってさっちゃんは外に出て行った。
……さっちゃん、怒ってたかな
「……雛里ちゃん」
「…倉ちゃん……私って勝手だよね」
「……あたしは分からない」
でも、
「でも、あたしは、雛里ちゃんと一刀が仲良くするのが良い。喧嘩するの見たくない」
「……うん…そうだよね」
「仲直り、するの?」
「……わからない」
いつもより元気のない雛里ちゃんの姿はあたしはとても心配になった。
何か、あたしにできることがあるなら良いのに……
あたしは『恋』について何も知ってることがない。
「私、ちょっと休むね。一刀さんのことお願い」
「…うん」
真理ちゃんなら、こんな時なんて言うかな。
真理ちゃんはあたしよりも大人だから、きっと何か雛里ちゃんを元気付けることが言えるのに……
雛里SIDE
部屋に入って門を閉じた途端、私は寝床に顔を埋めました。
知ってました。一刀さんにあんなことを言ったら傷つくに決まっていたのです。
孫権さんに言った言葉。それはまるで、私にとって一刀さんという人はもう死んでいるようなものだと言っているものです。そんな言葉を今の一刀さんに聞かれてしまったら、一刀さんが私に対してどう思うだろうかを思いつくにはそんなに長い時間もかからないのです。
でも、実はそんなんじゃないです。私は一刀さんが好きです。そして、一刀さんが私以外の女の子と仲良くしているのが見たくなかっただけです。
ああ言ってしまえば、きっと孫権さんは一刀さんのことを諦めてくれるだろうし、そしたら快く一刀さんとまた旅が出来るだろうと思ってました。
でも、もうグタグタです。一刀さんにまであんなことを聞かれては、これからどうあの人の顔を見たらいいのかわかりません。
だけど、一刀さんと離れることなんて考えられないし、そんなこと考えたくもありません。
以前の一刀さんと過ごした早一ヶ月、今の一刀さんと過ごした一年。私にとってはどの一刀さん…いえ、一刀さんと離れていることなんて嫌ですし、一刀さんにも私が一番で在り続けて欲しいです。
謝ったら許してくれるでしょうか。でもそういう類の問題じゃなくなってるのかも知れません。
一刀さんは止める私のことを振り向かずに行ってしまいました。もう一刀さんは、私のことなんて好きじゃないかもしれません。
あまり自分でもこんな風には思いたくありません。元を考えると私が悪いんですから……でも、昔の、一刀さんが好きだった私は、今の私よりもっと純粋で、歪みなくて真っ直ぐな思いの娘だった気がします。一刀さんは姿が変わりましたけど、私でもあれから変わってないわけではないんです。
なのに、私は……
がちゃーん
「!」
突然、窓の瑠璃が割れる割れる音がして、私はびっくりして顔を上げました。
そしたら、窓側には真理ちゃんが木の棒を持って荒い息を立てながらこっちを見ていました。
「真理…ちゃん?」
「……やっと人に気付きますね…気づいたらこれから私が言うことしっかりと耳に入れてください」
真理SIDE
北郷さんが倒れて、孫権さんと雛里お姉さんが一緒に居るのを見て、倉ちゃんをそこに行かせたのは私でした。
私は行っても、今の二人だと気づいてくれそうにもなかったので、私は倉ちゃんに全て任せて『最初から黙って孫権さんの部屋に居ました』。
そしたら、あの左慈さんの人は、北郷さんのことについて私が聞きたくなかったことを言っていました。
『あなたは今の北郷一刀にとって唯一の愛することができる相手だし、それはつまりあなたが彼の命を掴んでいるというわけよ。あなたの言動次第で、彼を生かすことも、殺すこともできる』
雛里お姉さんと北郷さんの絆というものは、私が思った以上に深いものだったようです。
ただ愛しあう関係を越えた何かがそこにはありました。
恋愛小説の中で、恋人同士で『君が居なくちゃ生きていけない』というセリフを吐く男の人に憧れていた覚えがありますけど、それがこんな例で、しかもただの例えじゃなくなると絶望に近いものを感じます。
左慈さんの言う通りだと、どうなのでしょう?私にとっては機会さえも与えられないのでしょうか。
北郷さんは一生雛里お姉さんしか愛せないのでしょうか。
いえ、そうではないだろうと思います。
倒れる前に北郷さんは、孫権さんの告白に近いあの頼みを何の迷いもなく引き受けてました。北郷さんが、孫権さんがどういう意図であんなことを言っていたのか知らなかったとは思いません。北郷さんはそんな鈍感な人ではないです。
左慈さんの話からすると、北郷さんには雛里お姉さんしか居ないのかもしれません。でも、私は孫権さんのあの絶望的な状況でのお願いを受けてくれる北郷さんの姿を見たのです。私なんて、こんなに長い間一緒に居たにも関わらず、いつも雛里お姉さんの後ろで妹のような立場にしかなれなかったのに……。
左慈さんと雛里お姉さんが孫権さんの部屋を出ていってから、倉ちゃんが私の方を見ました。
どういう意図なのかは分かります。私に雛里お姉さんを慰めて欲しいのです。
でも、正直な話、私はそんな役割引き受けたくありません。このまま雛里お姉さんと北郷さんの関係がぎくしゃくすると、私にとってはいい機会になるんですよ?
私だって孫権さんみたいにしたいです。私だって雛里お姉さんが警戒するような領域に辿りつけます。いえ、これを好機にして雛里お姉さんを抜いて北郷さんを私だけのものにしたいとも思ってるんです。
「………」
うん、知ってる、知ってるよ、倉ちゃん。
倉ちゃんは二人が仲良くした方がいいよね。その方がこれからも楽しく旅をすることができるもんね。私もそれは同感だよ。
でもね、倉ちゃん。私だっていつまでも待つ側ばかりに立っていたくはないよ。しかも、私は既に一度雛里お姉さんに譲ったよ。なのに雛里お姉さんがあんな『馬鹿な悩み』しながら私に先に行ってくださいと言ってるんだよ。
………あの二人をまた繋いでくれたところで、私に良い事なんて何もないじゃない!!
・・・
・・
・
「私も北郷さんのこと好きです」
「……!」
「雛里お姉さんが北郷さんのことを好きだと思ってるぐらい、私も北郷さんのことが好きです」
「…真理…ちゃん?」
雛里お姉さんは、寝床から顔を上げて、力の入らない膝を床に落としてこっちを見ていました。
「だから、雛里お姉さんがそううろうろしていたら我慢できなくなるんです。そんなくだらないことで好きな人と別れたらどうしようとか一人で悶々としてる姿見たら……」
「……真理ちゃんに何が解るの?」
「ええ、どうせ私なんて何も知りません。私は『あの時、あの場所』になかったんです!だからなんですか?私は北郷さんがどんな姿でも良いです。どんな人でもかまいません。あの人はですね、私を『人の世の中』に連れだしてくれた初めての人です。その意味一つだけでも、私は一生あの人一人だけ見て生きます!報われない恋でも良いです。北郷さんが私のことを女の子じゃなくて妹分ぐらいにしか思わなくても良いです!辛くないからじゃないんです。報われなくても辛くないからじゃないです。北郷さんは雛里お姉さんと一緒に居るのが誰と一緒に居るより幸せになれると思ってるからです。でも、今の雛里お姉さんは一体何してるのか訳分かりません。好きな人に酷いことを言った?それが何です?好きな人だったら喧嘩もしませんか?口喧嘩一回したぐらいでぎくしゃくするぐらいの恋仲ならいっそここで別れてしまってください!後ろに順番回ってます!」
倉ちゃん、願う通りにしてあげる。
でも、そのかわりに私も心にあること全部ぶち撒ける。
ぎくしゃくになるのは私の方かもしれない。もう一緒に居られないかもしれない。
それでも良い。私にも、私が望むこの集まりの在り方があるから……
「雛里お姉さんは一北郷さんのことが好きだと言っているくせに、実は口だけでそれ以上一刀さんに近づこうとしません。好きな人を怖がっているぐらいなら、どうやってそ
の人を好きだって言うつもりですか?例えば今孫権さんが北郷さんに告白したら、雛里お姉さんにそれを止めるほどの勇気がありますか?」
「そ、…それは……」
「…それもできないぐらいなら、孫権さんがするのを待つまでもないです」
そう言って私は雛里お姉さんの部屋を出て北郷さんの部屋に向かおうとしました。
でも、後ろから腕を掴まれて私は振り向きました。
雛里お姉さんが、私の手首を掴んでいました。
震えてるその腕を振り切ってしまうことは簡単なことです。
でも、私の目的はそうじゃないですから。雛里お姉さんをこのまま奈落の底まで落とすのが目的じゃないですから、私は黙って雛里お姉さんを見つめていました。
「…やめて…」
「何をですか?」
「一刀さん……一刀さんを持って行かないで…」
こんな弱そうな人でしたっけ。それとも追い込み過ぎたのでしょうか。
「自分は捨てておいて、人にあげるのは勿体ないのですか?」
「違う……そんなんじゃ……」
「じゃあ、どうしてここに居るんですか?」
「…ふえ?」
「北郷さんなら直ぐそこに居ます。恋人を名乗るぐらいだったら彼氏が倒れている時に側に居てください」
「……でも」
「じゃあ、私が行きますか?」
「…行く……行くから……」
そう言いながら雛里お姉さんが立ち上がりました。
「…私が、一刀さんの所に行くから」
「……」
今回だけです。
ほんとに、今回で最後です。
一刀SIDE
「……さん……かずとさん……一刀さん……」
…雛里……ちゃん
雛里ちゃんの声が聞こえていた。
『こっちを振り向いてください』
声がする方を見ようとする。
だけど、僕の体は動いてくれなかった。
体が自分のものじゃないように、思うように動いてくれなかった。
その時、思い出す。
あの時振り向かなかったのは、確かに僕の意志だった。
でも、今振り向こうとするのも僕の意志だった。
だけど、僕は振り向かなかった。
何故?
何がそんなに不満だったのか。
雛里ちゃんが好きなのは北郷一刀だった。北郷一刀が僕だ。
それでいいんなかったのか?
いや、僕はそれでよかった。でも雛里ちゃんはそれでは足りなかった。
どうしてそう思うのかって?雛里ちゃんが蓮華に言った言葉。
北郷一刀は孫伯符に殺された。
なら僕は…雛里ちゃんにとって北郷一刀ではないのだろうか。
怖かった。雛里ちゃんが本当は僕のことを以前の一刀ではないと思っていて、僕のことを実は好きじゃないのじゃないかって。
雛里ちゃんが僕を好きになってくれるのではなくて、僕の後ろに薄らと見える死んだ北郷一刀の姿を追っているのではないかと思ったら、それがたまらなく怖くなっていた。
そう思ってきたら、もう雛里ちゃんに向かって愛してるといえる自身がなくなった。
雛里ちゃんに何を言っても、僕の声は彼女に届かない。
だって彼女にとっては、僕は((北郷一刀|愛する人))じゃないから……
「…一刀さん……」
「……『雛里ちゃん』」
それなら、どうだろう。
僕はいつまでも、彼女が愛した男の影になるしかないのだろうか?
そもそも僕は本当に北郷一刀なのか。僕は誰だ?
「一刀さん、気がつきました?」
「……雛里ちゃん」
目の前に雛里ちゃんの姿が見えた。
声も幻聴じゃなかった。
周りは暗くて、僕は布団の中に居た。
布団の近くにある小さな灯りだけが雛里ちゃんを照らしていた。
「はい、ここに居ます」
雛里ちゃん…ずっとここに居たのだろうか。
僕は……どうしてこうなっているのだろうか。
いや、そんなことちっとも重要じゃない。
「僕は、誰だ?」
「一刀さんは…一刀さんです」
「どの一刀?」
「一刀さんは一刀さん一人しか居ないです…最初から、今まで……一刀さんがずっと私が愛している一刀さんです」
「……僕は……雛里ちゃんのこと好きじゃないかも知れない」
「構いません」
「以前の北郷一刀は鳳士元が好きだったけど、僕は雛里ちゃんのことを好きなんじゃないのかもしれない」
「構いません」
「……実は巨乳好きなのかもしれない」
「殴ります?」
「……それでも良いの?」
「……一刀さんは、例えば私が実は一刀さんのこと好きじゃないと言ったらどうしますか?」
「死ぬ」
「……そんな意地悪言う人なのに、好きじゃないと言えるわけないじゃないですか」
「じゃあ、責任で付き合っているって?」
「どうすれば、私が一刀さんのこと好きだって信じてくれますか?」
……どうすれば……?
僕は……雛里ちゃん……
「雛里ちゃんが…欲しい」
「……!」
「………」
朦朧とした頭の中で、僕はそう思った。
雛里ちゃんが欲しかった。
僕が雛里ちゃんのことが好きだという証拠が欲しかった。
雛里ちゃんが僕だけのものだという証拠が欲しかった。
「…あわ、……あ、あの…それって……そういう…意味で、ですか?」
「………」
雛里ちゃんが戸惑っていた。
でも、僕は起きたばかりで、自分が何を言っているのか良く分からなかった。
「あわ、あわわ……それは、あの…うんと……」
「………雛里ちゃん」
「ひゃひ!」
僕は上半身を起こして雛里ちゃんを布団の中へと引っ張った。
「あわっ!」
「………雛里ちゃん」
「あ、あわわ、か、一刀さん、ちょっと待ってください」
「……待った」
「そうじゃなくてー」
「嫌なら逃げてもいい」
「そう言いながら両腕で道塞がれてます」
「逃げても良いって言っただけで、逃がしてあげるとは言ってない」
「ひっ!」
キスする時みたいに雛里ちゃんの顔に近づくと、雛里ちゃんは目を閉じた。
「……雛里ちゃん?」
「………」
「嫌だったら言って」
「………っ」
「雛里ちゃんが嫌いなこと、僕はできない」
実はすごく前からこうしたかった。キスだけじゃ、膝枕だけじゃ物足りなかった。
「嫌……じゃ、ない…です」
「……それも責任とか感じて言ってるの?」
「……意地悪」
先に唇を当ててきたのは雛里ちゃんからだった。
雛里SIDE
ちゅんちゅん
「……う…うん……」
朝……私…昨夜何……!
「あわ…っ!」
痛い!起きようとしたら腰が痛いです。
思い出しました。昨夜……
「起きるな、寝てなって」
「か、一刀さん?」
私が起きたのを見て、布団の外にいた一刀さんがそう言いました。
「お湯持ってきたよ。洗ってあげるからそのままにして」
「い、良いです。自分で洗いますから…っ」
痛いです。動く度全身が痺れます!
「あわ……」
「無理するなって。ほら」
「あわわ、あわわ……」
恥ずかしくて死にたいです…
「何かさ、…ごめん」
私の腕をお湯で濡らした布巾で洗いながら一刀さんが言いました。
「何か、僕必死になってたみたい。雛里ちゃんのこと本当に好きなのかも、雛里ちゃんが僕のこと好きなのかも……」
「……良いです。元を言ったら、私が悪かったのですから……それに、あの、同意の上にしたことですから……怒ってません」
「……うん、…あ、それとね」
「はい」
「何か、朝ご飯もらいに行ったら真理ちゃんたちが赤飯準備してた」
「死にます!一刀さんを殺して私も死にます!きゃっ!」
「大丈夫?雛里ちゃん!?」
痛いです!体も心も痛いです!
「うぅぅ……もう恥ずかしくて二人の顔見れません」
「………」
「…あ、いえ、一刀さんのことが恥ずかしいとかじゃなくてですね」
「うん、知ってる」
何か私を見て欝な顔をする一刀さんを見て、私は言い直そうとしましたが、一刀さんに止められました。
「たださ、ほら。もうちょっと正気な状態で一つになりたかったと思っただけ……何か、ちゃんと覚えてない。せっかく初めてなのに」
「…私もあまり覚えてないから一緒です。というか、覚えていたらそれはそれで……恥ずかしいです」
「た、確かに……」
「………」
「………//////」
「//////」
「ほ、ほら、上半身も洗うから。ゆっくり体起こしてみて」
「は、はい…って、ここからは自分でしますから!」
「胸ってさ、好きな人が触ってあげると膨らむってさ」
「言われなくてもぺたんこなの知ってるから黙っててください!」
「あぁ、ごめん。謝るから続けさせて。背中自分で洗えないじゃない」
「そんなの自分でなんとかしますから…あうっ!」
「ほら、あまり無理するとまた筋肉痛がもっとひどくなるから……」
「何で一刀さんは大丈夫なんですか。まさか、私以前でも……」
「僕も初めてだったよ」
「じゃあ、何で平気なんですか?」
「鍛え方違うからじゃない?」
それから、色々ありましたけど、私が回復するまで、旅立ちが長引くことになりました。
この後真理ちゃんや孫権さんや周泰さんの顔を見た時は互いに赤面していて恥ずかしくて死にそうだったのですが、その反面一刀さんは平然と振舞っていていました。
曰く、『好きな人と愛しあって何が恥ずかしい』とか言ってます。お願いだから私をこれ以上追い込まないでほしいです。
結局、一週間後、私たちは孫権さんから馬一頭と荷馬車、そして餞別を少しもらって、袁術領として、現孫家の長、孫策さんが居る豫州に向かいました。
・・・
・・
・
説明 | ||
真・恋姫無双の雛里√です。 雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。 それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。 コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。 色々考えた挙句こうなった………割りと悪くない出来だと思うけど、でもギャップが激しすぎる…まぁ、いいか。 |
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巨乳が好きかも知れないの後に殴ります……この二人はいい漫才コンビになりそうです(akieco) 種馬パワーが原作と比べて薄れてる気がする・・・・・・一途だからか?倉の真名は次回!(勝手な断言)(アルヤ) ついに結ばれましたか……ドロドロの状態がいつ起きるか不安ですね。最後のページの何か、朝ご飯もらうに行ったらのもらうはもらいにでは?(山県阿波守景勝) |
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