外史異聞譚〜幕ノ二十二〜
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≪洛陽・董卓邸/董仲穎視点≫

 

当然の事なんですが、帰ってきてからの私達の雰囲気は暗いです

 

詠ちゃんはずっと難しい顔をしていますし、霞さんは顔は笑っているけど目が笑っていません

恋さんはお腹が一杯になって眠くなったのかぼーっとしてますし、ねねちゃんもうとうとしてます

真弓さんは、この雰囲気が気に入らないのもあってか、不機嫌そうにお酒を飲んでいます

 

私達が真名を交わした理由は別の機会があればお話ししますが、こうしてみんなといるとちょっとほっとします

 

私は元々、洛陽の治安が落ちてきたのを理由に大将軍に呼ばれました

 

実際に来てみて、治安は酷いものだったのですが、そこで詠ちゃんが気を使ってくれて、表向きは詠ちゃんが“董仲穎”ということで頑張ってくれています

 

詠ちゃんに言わせると

「月は可愛くて押しが弱いんだから、表に出したらエロ官匪やエロ宦官の餌食になっちゃうでしょ!」

という事なのだそうです

 

へぅ…

そんなに頼りないかな…

 

私も何かできればいいのにな…

 

そんな事を考えていると、詠ちゃんがぼそっと呟きます

これは相当に機嫌が悪い証拠です

 

「なによアイツら…

 普通なら鬼札じゃない、こんな情報…」

 

お塩は本当に高くて、海から遠い涼州の私達には本当に貴重品です

質のいいものは同量の金と同じくらいの価値がつくこともあります

 

「せやなぁ…

 あの調子じゃ、他にどんだけ腹に飲み込んどるか解ったもんやない…」

 

「しかし、それなら普通は我々ではなく武威の寿成様を頼るのではないか?」

 

敵でも見るかのように贈られたお酒を睨んで呟く霞さんに答えたのは真弓さんです

戦いが関わらなければ割と冷静な人なので、こういう時はありがたいです

 

「普通はそうよね…

 寿成様は漢室への忠義も高いし、涼州での信望も篤い方だし」

 

「せやなぁ…

 そこが判らんと、話に乗るわけにもいかんなぁ…」

 

再び悩みはじめたふたりですが、私はとりあえず恋さんに声をかけてみます

 

「あの…

 恋さんはあの人達をどう思いましたか?」

 

眠そうにぼーっとしていた恋さんでしたが、私の言葉に反応してくれて、しばし小首を傾げています

 

「……………たぶん優しいひとたち、でも恐い」

 

「優しいって、あれが!?」

 

「なるほどなぁ…

 優しいけど恐い、か…」

 

「ふむ…

 確かに末席にいたのはかなり使えそうだったが」

 

真弓さんがちょっと的外れな感想を言って

「そら違うやろ! 確かにアレはちょーっとやりあってみたい気ぃもしたけどな」

と霞さんが突っ込んだところで、やっと場の空気が軽くなってきました

 

そこに一石を投じたのはねねちゃんでした

 

「難しく考える必要はないと思うのでありますぞ」

 

「ちょっとねね、それってどういう事よ?」

 

「恋殿と食事をしていて思ったのですが、あやつらは月殿や恋殿に害意はなかったと思うのです」

 

害意…

確かにそういう感じはしなかったかな…

 

「当然油断はできませぬが、少なくとも宦官連中や無能な武官共よりは信用できるとねねは感じましたぞ」

 

「そりゃまあ確かに…」

 

「じゃあ、寿成様ではなくボク達に接触してきたのを、あんたはどう考える訳?」

 

「それはねねには解りませぬが…」

 

「…………………たぶん、涼州を信用してない」

 

恋さんのその言葉で、私はふっと腑に落ちるものがありました

 

「ねえ詠ちゃん」

 

「?

 どしたの月?」

 

「たぶん、多分だけど…

 あの人、恋さんが言うように涼州を信用してないんだと思う」

 

私の言葉にみんなが考え込む

なので私は説明を続ける事にしました

 

「えっとね…

 接触するのは涼州の豪族なら、きっと誰でもよかったんだと思う

 それでね、多分なんだけど、詠ちゃん達が今日の酒席で私を守ろうとしてたから、それで…」

 

「あいつらとしては、一定の信用をする基準になったって事?」

 

「へぅ…

 たぶんそうだと思う…」

 

甘いかな…

へぅぅ…

 

そんな心境が伝わったのか、詠ちゃんが苦笑いしてる

 

すると、急に表情が明るくなった霞さんが贈られた酒瓶の口をあけました

 

「あー…

 やっぱウチは頭使うの苦手やわ

 よーし、こうなったら飲むでぇ!」

 

「ちょ!

 なんでこの流れでそうなるのよ!」

 

「うむ、私にも寄越せ

 こうなればたっぷりと飲もうではないか!」

 

「真弓まで!

 ………あーもう!

 こうなったら私にも寄越しなさいよ!

 やってらんない!!」

 

ようやくみんな、いつものみんなに戻ったみたいです

 

「…………月、嬉しそう」

 

「へぅ…

 そう見えますか?」

 

「……………(こっくり)」

 

「じゃあ、折角ですし、貰ってきたお菓子も食べましょうか」

 

「……(コクコク)」

 

「あー!

 ずるいのですぞ月殿!

 ねねも食べるのです!!」

 

こうしていつもの雰囲気に戻った私達は、和気藹々としながら、とりあえずもう一度あの人達と交渉を持とう、という事で落ち着きました

 

そして、みんなの笑顔を見ながら思うのです

 

 

こんな日々がずっと続けばいいのにな、と…

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≪洛陽・商家/北郷一刀視点≫

 

「我が君、先方より招待状が届きました」

 

ぼーっと庭を見ていた俺は、その言葉に顔を懿の方に向ける

 

「予想していたより随分と早かったな…

 7日やそこらは待たされる覚悟はしてたんだけど」

 

「恐らくは呂奉先殿か華猛達殿がきっかけではないかと

 お二人共、理ではなく感で物事を判断する性質のようですから」

 

淡々と答える懿に俺は溜息をつく

 

「そういう人は厄介なんだよなあ…

 一度敵と思われたらまず修正不可能だし…」

 

確かに、と笑う懿に、皆を集めてもらうように頼んで俺はしばし思考する

 

(さて、とりあえずは董仲穎とその周囲の人間性は確認できたな

 この外史でもほとんど差がないようでまずは一安心ってところだ)

 

このまま思考の海に自分を沈めていく

 

(そうであるなら賈文和は絶対に董仲穎を見捨てないだろうし、状況によっては呂奉先も張文遠も側を離れないだろう

 華猛達は不確定要素だけど、たぶん他と同じだろうし、陳公台は絶対に呂奉先から離れない)

 

ならば俺は、俺達はどう立ち回るべきか…

 

(考えられる方法としては、董仲穎を取り込んで傀儡とする

 しかし、基本的に外史の軍師や武将は潔癖の度合いが強い

 そう考えるとこれは最終的にマイナス

 次策としてはよき隣人であること

 しかしこの場合は董仲穎の人間性もそうだが政治力がどの程度かに不安が残る

 賈文和や陳公台が正史と違って謀略には向いていない事を考えると、これも不安材料だ

 となると…)

 

「我が君、皆が揃いました」

 

その言葉で俺は思考の海から引き上げられる

 

「みんなご苦労さま、忙しいのにごめんね」

 

「くきゃきゃっ!

 今度はどんな悪巧みをしてたんですか」

 

「そりゃないよ…

 これでも真面目にだな…」

 

「一刀ちゃんが悪巧み」

「一刀ちゃんが腹黒い」

『性格悪いのはいつものこと』

 

多分非常に情けない顔で俺は懿と令則さんを見る

 

あ、目を逸らされた…

 

ひどいやみんな

 

するとトドメの如く、ぼそりと令明が呟く

 

「自業自得です一刀様」

 

あまりの仕打ちに轟沈していると、アイアンクローで引っ張り上げられる

 

本当にひどいや…

 

「落ち込むのは後でご存分に

 とりあえずご自分で立ち上がっていただきたい」

 

いや、あのね?

俺いま“ぶら〜ん”てなってるの

足が地面についてないの

そこのところ解ってる令明さん?

 

「本当に困ったお方だ…」

 

痛いいたいイタイ!

だから足がついてないんだってば!

痛くて声も出せないんだってば!!

 

そんな俺の心の悲鳴が聞こえるはずもなく、意識が真暗になったところで俺は開放された

 

 

「あー…

 川と花畑が見えたよホントに…」

 

ぶつぶつと恨み言を呟くんだが、全員が顔を逸らしている

 

なんてこったい…

 

まあ、このまま追求したらまた同じ目に合いそうなので、今回は黙って引くことにする

 

コノウラミイツカハラサデオクベキカ

 

どこかの魔少年の決め台詞モドキを心で呟きつつ、俺は話をはじめることにする

 

「とりあえず、董仲穎とその周囲の人間性は皆にも掴めたと思うんだけど、どうかな?」

 

それに皆を代表する形で答えたのは令則さん

 

「基本的に善良で裏表がなく、権力欲も薄いというより皆無という印象を受けました」

 

「武官連中はどっちかというと戦うのが生き甲斐って印象はありましたね、くきゃ」

 

子敬ちゃんの補足に皆が頷く

 

「奉先ちゃんはちょっとわかんないかな」

「奉先ちゃんは動物みたいだったかな」

「思考がまったく読めないよね」

「仲業ちゃんの大熊猫みたいだったよね」

『戦場では会いたくないよね』

 

皓ちゃん明ちゃんの印象に令明が深く頷いている

 

「令明は飛将軍相手にやれそうかい?」

 

俺の問いにしばし考え込んでから首を横に振る

 

「一騎討ちなら張将軍とも華将軍ともひけをとらない自信はあります

 ですが恐らく、呂将軍相手では10合もつかどうかかと」

 

「そこまで差がある?」

 

真顔になった子敬ちゃんの問いに令明が淡々と答える

 

「あれの相手をするのは、野生馬を素手で殴り殺せるかというのと同じだろう

 いや、もっと悪いか…」

 

「うわー…

 それはやってられないですね、くきゃきゃきゃきゃきゃきゃ」

 

一通り評価が出たようなので、俺は話を続けることにする

 

「じゃあ、基本方針としては、董仲穎は味方に引き込みたい、という事でいいかな?」

 

全員が頷くのを確認して告げる

 

「じゃあ、この招待は受けるってことでいこうか

 今回は皓ちゃん明ちゃんと懿は別行動ってことで、長安の仕込みの確認をよろしく」

 

このまま解散、となったので懿にそっと耳打ちをする

 

「元直ちゃんに“10単位で仕上がったら洛陽へ”と連絡しておいて

 500になったら君も動くように、と」

 

頷いて去る懿の後ろ姿を見ながら、俺は一人呟く

 

 

さて、これからが乱世の始まりだ

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≪洛陽・商家/張文遠視点≫

 

“鉄は熱いうちに打て”

そないな言葉があったんやけど、誰が言ったんやったかなぁ

 

まあええわ、今のうちらはそういう心境やったりする

 

詠がぼそっと言うとったんやけど

 

「話術や視野といった“軍師”の視点で交渉したら、多分あいつらには勝てないと思うの

 だからお願い、もしもの時は霞に頼るしかなくなると思う」

 

なーんて、めっちゃ可愛い事を言うてくれたりしよったねん

 

ウチも頭使うんは得意やないけど、そうまで言われたら気合も入るっちゅうもんや

 

考え込んだら深みに嵌るちゅうのは確かな事やったし、ウチらは早々に次の席を作って交渉に臨むってことで意見が一致した

 

招待状を送ったら即日返事が返ってきて、ウチらの都合のいい日取りで、と言ってきた

 

これは悔しいけど相手の余裕やな

 

言い方はアレなんやけど兵糧攻めみたいなもんや

どーんと構えて時間が経てば経つほど自分達が有利やっていうのを知っとるんやろな

 

なら、士気が高ぅて相手の増援が来ぃひんうちにガツーンとカマしたるのが礼儀ってもんやろ

 

今回もまたおおっぴらには会えんよって、今度はウチらが懇意にしてて信頼できる商家を借りて、となった訳や

 

 

こうして会談となった訳やけど、確かに詠やねね、月だと分が悪いみたいや

 

何で分が悪いんかと言われると困るんやけど、なんちゅうかこう、違和感がある

戦場で相手の意図を何か見逃しているような、そんな違和感や

地味にこういう時にアテになるのは、猪の真弓や野生の感で動く恋の一言だったりする

ウチはこういうときに一人で悩む趣味はないから、遠慮なく両側に座るふたりに耳打ちする

 

「なぁ、なんかおかしくあらへん?」

 

「確かに、なんともいえんが妙な感じだな

 敵の奇襲部隊を見逃しているような、そんな感触がする」

 

真弓もやっぱそうか

 

「うむ

 文和も頑張ってはいるようだが、どうにも相手の掌の上から出られんようだな」

 

隣に視線をやると、こうなんともいえん表情で恋がもふもふと食べとる

こんな時まで可愛いやっちゃなぁ…

 

「奉先はどない思う?」

 

「…………………………(フルフル)」

 

「やっぱこのままじゃアカンか…」

 

「………(こっくり)」

 

どうしたもんかと悩むウチに、苛立たしげに真弓が呟く

 

「これが戦場なら、この程度の事など問題にもならんというのに」

 

「?

 どない意味や?」

 

ふん、と胸を張って真弓が言う

 

「たとえ何があろうが踏み潰し、武力をもって本陣を先に落とせば我々の勝ちだろうが」

 

その言葉に“きゅぴーん!”という効果音(?)がウチの頭で鳴り響いた

真弓、正直スマンかった

まさかアンタがこんな席で役に立つとは、ウチちーとも思ってへんかったわ

ゴメンなぁ、後で酒おごるよって堪忍してなぁ

 

考えてみればねねもそう言うとったやないか

「難しく考える必要はない」

ってな

 

なるほどなるほど

奇襲に突破ならウチらの一八番やで

 

詠、待っとってな

 

今から助けに向かうよってな

 

なんとなく固まりかけてた雰囲気の中にウチは切り込んでいく

 

ほっとしたようなみんなの顔がなんとなく嬉しいし誇らしい

 

どうやら援軍は間に合ったみたいやった

説明
拙作の作風が知りたい方は
『http://www.tinami.com/view/315935』
より視読をお願い致します

また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します

当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです

本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」
の二次創作物となります

これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します


その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です

尚、登場したキャラクターについては
『http://www.tinami.com/view/315170』
を参照いていただけると助かります

コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール
『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』
機会がありましたら是非ご覧になってください
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コメント
菫卓軍は天譴軍に、一刀君は仲間の皆に振り回されてますね。菫卓軍は突破口を見つけたようですけど、一刀君は挽回の機会がある……ワケないか、うんw続き、期待してます。(田吾作)
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