双子物語12話
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 中学校の入学式も終わり、ほどなくこの制服の袖を通すのは2度目となる。

白を中心にセーラーカラーがグリーンでリボンがくっついていて、スカート

も色はグリーン系で爽やかな感じがする。

クラス分けでは運よくなのか、先生が考えてくれたのか。彩菜や大地くんとは

同じクラスになった。新しいカバンに教科書、ノート、筆記用具。

 気持ちを新しく、彩菜と一緒に登校していく。最初の一年間どういう

一年になるかが楽しみだった。教室に入り、前日に決められた席につく生徒達。

そう時間も経たずにチャイムがなり、少し遅れてガラッと音を立てて担任の

先生が中に入ってこようとしていた。実はどんな先生なのかまだ知らなかったり。

新しく来たばかりというのと、寝坊した理由で前の日には来られなかった。

ちょっと問題がありそうなイメージなのだけど。

 瞬間、顔が見えたときに私と彩菜と大地くんが思わず立ち上がって「えっ」

とちょっとトーンの高い声で口から漏れてしまった。

 

教師「こらこらっ、私語は控えてね〜」

 

 その先生はチョークを持って力強く黒板に書き殴ると自己紹介に移った。

 

教師「これから、アンタたちの担任を請け負う。宵町県、よろしく!」

雪乃「あ、あれ。先生、小学校でやってなかったっけ?」

 

 私の隣にいた彩菜もびっくりしながら頷いていた。名前も顔も言動も同じと

なれば同一人物ということだろう。相変わらずの黒を中心とした服装も

相変わらずだった。呟いた私に気づいたのか県先生は私を見ると以前と変わらない

力強い笑顔でかえした。

 初日は授業とかはほとんどなく、色々説明を受けながら話を聞いていると

あっという間に下校の時間になっていた。その後は各々好きなことをするように

とのこと。つまりは部活したい人はその場所へ向かったり、中学校舎内を散策

するための時間とかを作っているみたいで、早めに切り上げるらしい。

 2年3年も短い時間だが、部活はあるみたいだから入学したばかりの

生徒にとってちょうどいいのだろう。

 私は特に入りたいところはなかったけど、彩菜と大地くんがノリノリで

野球部を見たいと言い出したので私もついでについていった。全く興味が

ないわけではないから。

 1年の教室は1階なので突き当たったら階段か昇降口にぶつかる。そこで私たちは

昇降口で上履きから靴に履き替えて表に出ると賑やかな声が校舎の裏から聞こえてきた。

裏へ回るとそこは立派なグラウンドが広がっていた。

 ちょうど練習をしていたところなのか先輩とおぼしき人がバットを構え、後輩っぽい

人がちょうど守備の練習をしていた。しかし、中学生とは思えないグラブ捌きに

私たち3人はその動きに驚き見入っていた。

 

女子「どうしたの?」

雪乃「…!」

 

 別にやましいことなどないのだからびっくりすることないんだろうけど、いきなり

背後から声をかけられるとさすがに過剰に反応してしまう。そして、その声で私たち

に気づいて私の背後にいる女子生徒のもとへ歩み寄る野球部員。

 

エース「どうした、小夜子」

小夜子「なんだか見学の子がいてね。さぁ、こんなとこで突っ立ってないでもっと

   間近で見ましょう」

 

 小夜子と呼ばれた女子に優しい声で囁かれながら背中を押されてグラウンドの脇に

あるベンチに移動して野球部員たちと向かい合う。さすがに本格的な練習をしている人

たちだけあって迫力がある。どうやら選手は15人ほどで先ほどの女子は

マネージャーみたいだ。

 

エース「まぁ、とにかく自己紹介しようか。俺は部長の投手エース。風上洋輔、3年だ。」

小夜子「私はマネージャーをやってる、3年の三島小夜子よ」

 

 当たった。続いて何人かの爽やかなメンバーが帽子を脱いで挨拶してきた。

その人たちはレフト・ライト・センター・ファースト・サードの5人。

ただ、一際印象に残る二人のときはさすがに覚えそうな気がする。

 

男子「ショート・生田亮、2年生」

男子「セカンド・生田大輔、2年生」

 

 ほぼ同時に名前とポジションをいう二人の男子は声が一緒で外見もほとんど

見分けがつかない。これってもしかして。私たちは目を白黒させていると

風上先輩は笑いながら二人の間に立って肩を叩いた。

 

風上「こいつら、双子なんだよ」

 

 よもやそっくりの双子を見ることになるとは思わなかった。わたしたちも双子だけど

見た目は全然違うし。それにさっき見たすごいプレーの人がその二人だったとは。

見分けつかないと思っていたら亮先輩の方が急ににこやかな表情に変わり大輔先輩は

変わらず無表情だ。これはもしかして、性格が違う?

 

大輔「どう、驚いた? にしても亮、お前もっと表情やわらげろよ。怖がってるだろ」

亮「別に無理して笑うことはないだろう」

 

 茶色の短髪と黒髪の短髪で見分けもつきそうな気がする。色と性格ってけっこう

合ってると思うから。その後、私たちも自己紹介をして結果、当然だけど双子と

気づかれなくてけっこうに驚かれた。まぁ、こちらは見た目も性格もまったく

違うのだからしょうがないけど。

 

小夜子「あら、楓夏ちゃんは?」

風上「おっと、忘れるとこだった。捕手の紹介がないなんてうっかりした」

楓夏「お兄ちゃん、ジュースこれでよかっ…わぅっ!」

 

 二人のやりとりの後、私たちが覗いていた場所辺りから走ってくる女子が何本も

缶ジュースを抱えて走ってきたが途中でつまづいて転んでしまった。

すると、そこにいた全員が慌てて楓夏に駆け寄った。すれたのか鼻を押さえながら

涙目で起き上がる女子生徒。首筋辺りまで伸びた黒髪が綺麗だ。

 

楓夏「いたたっ…」

風上「おいおい、しっかりしろよ」

小夜子「見学の子が来てるわよ」

楓夏「えっ、ほんとに!?」

 

 背の高さは私たちとほとんど変わらない繕った笑顔が幼く感じる女子生徒は

私たちの前に立って紹介してくれた。

 

楓夏「えーと、私は風上楓夏。2年の正捕手やってるよ」

大地「えっ、女子で正捕手?」

 

 大地くんの言葉にぴくんと反応した楓夏先輩は一気に大地くんに詰め寄る。

 

楓夏「キミはあれかね、古い頭の持ち主かね?」

大地「失言でした…すみません」

楓夏「素直でよろしい」

 

 大地の対応にニカッと笑顔を向けた楓夏先輩は私たちのほうも向くと彩菜に近づいて

ほうほうと唸っている。その反応によくしたのか彩菜も笑顔で発言を待っている。

 

楓夏「なんか動きなれてる体つきしてるね、いいよ。君。ところで、名前は?」

 

 言い忘れていたか、慌てて私たちは入学したばかりの生徒ということを証明するために

軽く自己紹介を交わした。すると、さっきまで少し不機嫌そうだったエースの人が

彩菜と大地くんに話を持ちかけてきた。

 

風上「おい、二人とも野球は上手いのか?」

 

 その言葉に大地くんは張らなきゃいい見栄を、一目惚れした小夜子先輩の前で

張ってしまった。

 

大地「は、はい。小学生エースをしてました…!」

彩菜「おい・・・」

雪乃「おい・・・」

 

 ほぼ同時に突っ込むが、相手に聞こえない程度の音量だったので話がどんどん

進んでいった。大地くんの様子から察するにすぐさま、この部活に入るように

思われる。本当のところは打撃力も投手力も彩菜の方が上なんだけど。

 

風上「じゃあ、気が向いたら入部届けを書いて提出してくれ」

大地「はいっ、わかりました」

彩菜「なんか、面白そう。私もここ来ようかなぁ。ねぇ、雪乃」

雪乃「なぜ私も…」

 

 かといってどこかの部活に入る予定もないし、この髪型に弱い体でまたからかわれそう

だから別にいいんだけど。私が一度保留するというと彩菜も同じように言おうとするから

慌てて止めた。

 

雪乃「なんで、私に合わせるの」

彩菜「だって一緒にいたいもん」

雪乃「いつも一緒でしょうよ、入るって言ったんだから責任を持ちなさい」

彩菜「うー、わかった…」

 

 私が諭しているとなんか、周りがみんな和んでいるような柔らかな表情をしていた。

いかん、ついいつもの拍子で注意してしまった。人前だというのに。その後、ある程度

案内と説明を受けたあとに3人で仲良く帰り道を歩いたのだった。

 

 家に入って手洗いうがいをしっかりしてから階段を上ってドアにあるノブに手を

かけて開けるとそこには目があった彩菜がいた。あ、そうだ。自分の部屋があったんだ。

 

彩菜「ユー、こっち来なYO〜」

雪乃「ノーセンキュー」

 

 バタンッ

 

 躊躇なくドアを閉めると「なんでぇ〜」と情けない声を上げる。声に背を向けると

私は向かい側にある本当の自分の部屋に入って荷物を置く。新しいベッドが置いて

あって、なんか疲れを感じた私は制服を脱いで私服に着替えたらそのままベッドに

倒れこんで目を瞑った。しばらくそうしてから起き上がって部屋の様子を見回すと

サブちゃんに頼んであったときからあまり弄ってないが、全ての私物を完璧に

分けてあった。

 

雪乃「すごいな、サブちゃん」

 

 全てを研究済みされてるみたいで複雑な気分であった。それよりも、あんまりにも

彩菜が私にべったりになっていくのが目に見えて増えていっているのが気になる。

さすがに少し鬱陶しい。でも、こんな体の自分に気を遣っているのかもしれない。

そんなことを少し考えていたら下からお母さんの声が聞こえたので部屋から出て

階段を降りていった。

 

 

 それから数日、一人で部活めぐりをしていたが、どれもこれも人を不思議生物を

見るような目で見るし、体が弱いことを聞いているのか腫れ物を触るような感じで

よさげな場所は見つけられなかった。途中、県先生と会って声をかけられる。

 

県「どう、新しい学校生活は」

雪乃「はぁ、別にどうとも」

 

県「ははっ、やっぱみんな怖気着くよなぁ。その外見だと。知ってる私はなんとも思わないけど」

雪乃「私、先生のそういうところが好きです」

 

県「そう、ありがと。でも、慣れてきたら段々良いほうに変わってくるってもんよ」

雪乃「はぁ」

 

 しっくりこなくて、生返事をすると私はじゃあっと言ってとある場所まで歩いていった。

やっぱり向かうは、野球部。ここは出会って間もないけど私のことを普通に接してくれる

人たちが多いので落ち着くのだ。一人で帰るのもつまらないし、ここを入部するのも

アリかもしれない。野球自体はできないけど。

 

彩菜「オーライオーライ!」

 

 彩菜もしっかり守備練習を見事にこなしている。こういうときの彩菜ってかなり

かっこいいと思う。その反面、かっこつけていた大地くんは引け腰の守備に先輩たちに

叱られていた。こりゃ、すぐ辞めるかなと思っていたら案外続いている。

 ぼぉっとしていると、小夜子先輩が四苦八苦しながらノートとにらめっこしていた。

先輩は頭いいから勉強では悩まないと思うが、と私は後ろからノートの内容を

失敬してこっそり見せてもらう。ああ、やっぱり野球に関するノートのようで

慣れている割には選手の特性をしっかり捉えられてはいないようだ。

 

雪乃「あの、小夜子先輩」

小夜子「あら、雪乃ちゃん。どうしたの」

 

雪乃「ここの、先輩はですね。アウトコースによく空振りするので書いといた方が

  いいですね。それと…」

小夜子「…」

 

雪乃「あっ」

 

 やばい、でしゃばりすぎてしまったか。驚いた顔をした先輩が一言私に告げた。

文句かなぁとか思っていたら嬉しそうにこういうのだ。

 

小夜子「すごいね、私でもよくわからないのにこんな短い期間で」

雪乃「えっ…」

小夜子「実は良いデータ取れる人いないかなぁて思ってたんだけど。雪乃ちゃん、

  手伝ってくれないかな?」

 

 いきなりのことでおろおろしてると取り上げたノートをぺしっと小夜子先輩の頭を

はたく風上先輩がいた。

 

風上「おいっ、いきなり頼み込むやつがいるか。彼女困ってるじゃないか」

雪乃「わ、私は別に…」

小夜子「へっ、本当に。ごめんね、雪乃ちゃん」

 

 本当に申し訳なさそうに謝る先輩に私は慌てて止める。ってなんで私が慌てないと

いけないのか。悪い気はしないけどペースを乱されて微妙な気持ちだった。

マネージャーである小夜子先輩は練習が一段落すると、綺麗で長い髪を靡かせながら

タオルをもってみんなに渡していた。今日は遅くなりそうだったから先に帰宅しようと

歩いていると、偶然にも田之上さんと会った。

 

田之上「やぁ、お久しぶり」

雪乃「は、はい」

 

 なんだろう、なんだかドキドキする。あれから定期的に新作の本は貰って

読んでいてファンのような気持ちなのだろうか。メガネから覗く瞳は綺麗で

吸い込まれそうになる。近くに公園があったのでベンチに座って途中で買った

缶ジュースを飲んでいた。

 

田之上「今、ちょうど休憩中でね」

雪乃「いつも楽しんで読んでます。すごいですね」

田之上「まぁ、素人の作品だけど」

 

 いつかはプロになりたい気持ちもあると言うこの人の目は不思議な感じがする。

落ち着かなくて空を見たり、下見たり不振な動きをしている中、田之上さんは

私に声をかけてきた。

 

田之上「悪いんだけど、ちょっと手伝ってくれないかな。マンガの」

雪乃「ええっ、私、何もできないですよ!?」

田之上「簡単な作業だし、ちゃんと教えるからお願いできないかなって。

   やっぱ無理だよね。ごめんね、急に変なこと頼んじゃって」

雪乃「ううっ」

 

 そう頼まれると断れないじゃないか。しかし、できることなら私も手伝ってみたい

ものだという好奇心もあるから、私はその申し込みをありがたく請け負うことにした。

田之上さんの住む家の前はまでは来たことあるけど、中。しかも部屋まで行くのは

初めてじゃないだろうか。ワクワクしていたものの、玄関を開けたらうんざりする

ことになった。

 

金城「お久しぶり〜、雪乃ちゃ〜ん」

雪乃「うぇ…」

田之上「うぇって言われたぞ。随分嫌われてんな、お前」

 

 金城さんはやけに私に好意的な人で田之上さんの連れだから悪い人ではないのは

わかるのだが、いかんせん言動全てが気持ち悪いのだ。うぇっと言ってしまうのは

仕方のないことなのだった。落ち込んだ金城さんは奥のほうへ去っていった。

 

雪乃「あの、金城さんはお手伝いしないんですか?」

田之上「ああっ、ヤツは後ろで応援するだけで何もしてくれないんだ」

 

 階段を上りながら田之上さんはほんとに役に立たないよなって、

口元が少し上がっていてなんだか嬉しそうだった。役に立たないって

言っているにもかかわらずなんで、嬉しそうなのだろう。

私はわからなかった。部屋に入ると色々なものが転がって少々乱雑になっていた。

どうやらよほどキツイらしい。できることだけでも手伝ってあげようと思った。

 

 

 

彩菜「ううっ、雪乃が先に帰った」

大地「仕方ないよ、今日は終わるの遅かったし」

 

 練習が終わって急いで教室に戻ると誰もいない。グラウンドにももちろん誰もいなく

上履きが置いてあるからおそらく雪乃は先に帰ったのだろう。私は仕方なく大地くんを

連れて一緒に帰ることにした。すると、どうだろう。家に近づいた途中で、知らない家

から雪乃が出てきたじゃないか。しかも中の人と挨拶を交わして少し嬉しそうに

出てきて私と目が会うと驚きの表情に変わっていた。

 

彩菜「え、ここ誰んち?」

 

 まだ中学入って間もない雪乃には仲が良い友達なんてできそうもないし、ということは。

 

雪乃「あっ、田之上さん家でお手伝いしてきた」

 

 さらりっとそう言ってのけたのだった。お手伝いってなんだ。なんのお手伝いを

したのか。私の雪乃が汚された気分で、私は雪乃に飛びついた。

 

雪乃「ちょっ、彩菜?」

彩菜「どうせ厭らしいプレイとか強要されてたんでしょ!?正直にいって!」

雪乃「そんなわけないじゃない。どこでそんな言葉覚えたのよ…」

 

 唸る私の頭をぽんぽん軽く叩きながら引き剥がした。そうしたら雪乃は微笑みながら

私に背を向けて歩き出した。

 

雪乃「あまりぐずる子は相手にできません。さっ、大地くん帰りましょ」

大地「え、う、うん」

彩菜「ちょっ、ちょっと待ってよ〜」

 

 夕焼けからやや薄暗くなる中、私は少しずつ離れていく雪乃を走って追っていった。

後で聞くと、マンガの作業に困っていたから簡単なことだけ手伝っていたとのこと。

そんなの放っておけばいいじゃないというと少し機嫌が悪そうだった。なんでだろう。

なんだか少しずつ雪乃との距離が遠くなっていくような気がした。

 

 それから数日、急な他校の練習試合があるからと、私と大地くんは授業が終わってすぐ

顔を出した。新顔の実力を見たいからと、風上先輩と顧問の先生からスタメンに入ること

を命じられた。二人ともせっかくの機会だからと快く承諾をした。そのことを雪乃に

話すと、ふーん、とかへーとかしか返ってこない。

 

彩菜「見に来てくれる?」

雪乃「ん〜、まだわからないなぁ」

 

 雪乃の部屋にお邪魔してその話しをしている間も手をごそごそ動かしているのを

止めない。見ようとしても嫌がられるのがわかるのでそれ以上はしないようにしていた。

 なんとも言えない返事で私はなんだかもやもやした気持ちのまま、ベッドに潜っても

なかなか寝付くことができずに、試合当日に迎えることとなってしまったのだった。

 

説明
中学生編に入りますが、終わり近くまでは特に地味な感じになってます。
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双子物語 双子 中学生 ほのぼの 

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