SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガール ACT:13
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 そのとき、単純で伝統的なチャイムの音階と共に黒板モニターに電源が入った。いわゆる校内放送である。

 各教室には、黒板(といっても盤面は白いのだが、永年の慣例で今なおそう呼ばれている)がそのまま視聴覚授業用のモニターに化ける仕掛けがあり、同時に校内放送のための端末にもなっているのだ。

 これは信号の入力があると、それまで黒板にタッチペンで描かれ表示されていた文字や図形はなかったかのように消えて、大型テレビと同じ様相になるというもの。

 内容はメディア部放送班による現時点での事故状況の報告や今後生徒たちが採るべき行動について指示の放送。

 えんえんと教師たちによる会議の結果、結局採られた方法は(───という事までは言わないが)事故現場方面に住む生徒に関してはルートを迂回した上で、要所要所に教師たちが警戒要員として配置につき、さらに可能な生徒には保護者に迎えに来てもらってほしい、というものだった。

 

 

 事故状況のニュースは、もちろん三宅亜郎たちによる最新最速の実況映像と、すでにテレビ報道された一般放送局との編集済み画像とを織り交ぜたものである。といっても、実は放送局が流している第一報の画像すらもみな亜郎たちが別名を使ってリークしたものだったが。

 今日ばかりは放送を終えるなり、メディア部も早々に帰宅せよと校長からの厳命が飛んでいるので、いつもなら明日のための放送準備に余念のない亜郎たちも今日ばかりは一般生徒と共に校門をくぐることになった。

「まあ、小田原評定の結果はこんなもんだね…とはいえ、会議は長引いたけど、部活やっててこんなに早く帰るのは久しぶりだな。」とメディア部副部長の平賀。

「先生たちも気の毒ですよ。生徒を守ろうとしているのにヘタに口や手を出せば無理解なPTAから逆ねじ喰らわされるんですから」

「はは。ま、今日くらいは一般視聴者として自宅で報道番組を楽しむか。じゃな、亜郎」

「ええ。おつかれさまです、平賀さん」

 右と左に分かれたが、つと平賀が戻ってきて小声で囁いた。

(亜郎、今日はおとなしく帰れよ?現場へは行くなよ。体当たりルポなんて流行らないからな。命あってのモノダネ、安全あっての特ダネだからな)

「お。それ、韻踏んでますね。スポーツ紙の見出しみたいだ」

「うあ。いっしょにすんなよ。失礼な…いや、ほんとに頼むぞ。大人しくしてろ。無茶すんなよ…」と念を押しながら平賀は帰っていった。

(いい人だなあ)と平賀の後ろ姿を見送りながら亜郎はひとりごちた。

 並み居る先輩たちを尻目に、若輩の自分を今のポジションまで引き上げ押し上げてくれたときの彼は底知れない謀将のイメージで不気味でさえあったが、根の部分ではもしかしたらかなりのお人好し…というか、どこか世話焼きのオバチャンのような人なのではないかと亜郎は思う。

(おとなしくしてろ、か。)どうやら平賀の眼に亜郎は相当無鉄砲に見えるらしい。

 

「あれっ」

 

 

 ふと見れば、20mほど前の方を須藤夕美がひとりで歩いている。

 一緒に歩いている生徒は他にもいたが、方向が同じというだけで知り合いというわけではないようである。

 彼女の家は例の山の上だから、同じように今回の事故現場とは無縁な他の生徒たちに混じって帰るところに出くわしたというわけだ。

「ゆ…」亜郎は声をかけようとして、ハッとした。

 帰路につく生徒たちに混じって、一般的なスーツ姿の男がふたり。ほかにも行き交うサラリーマンたちと同じ様な恰好なのだが、亜郎はどこか違和感を感じた。

 前から来る人を避ける歩き方も、特定の方向を見る視線も、ふたりは妙なタイミングでシンクロしているのである。ふたり以外の要素に対して反応している証拠である。ふつうに歩くだけの二人連れならこんなことはない。

 

 もちろん後ろから見ている亜郎に彼らの視線の先が直接分かろう筈もないが、首の動きが常に指し示す先には、須藤夕美の後ろ姿があった。

(彼女をつけているのか───!?)

 夕美に知らせたいが、ヘタに名前を呼ぶことがためらわれた。というのも、情報で身を立てようと考える亜郎である。

 たかが名前だが、名前さえ判れば様々な手段を使って個人情報を盗み出すことなど、現代では学生レベルの技術でさえもさして難しいことは身をもって知っている。

 そこで一計を案じ、あえて大声で叫びながら駆け出す。

 もしかしたら連中は人違いをしている可能性もある。または、逆に人違いだと思うかも知れない。名前ひとつ知られることが命取りになるかもなんて、まるで呪術か魔法の世界のようだな、と亜郎は思いながら。

 

「夕子さ?????ん!」

 

 あまりに大きな声に;みんなが思わず振り返る。同時に亜郎の方に振り返った二人組の間を割ってさらに夕美まで一気に駆けていった。

「さがしたよー、ゆ・う・こ・さーん!」

 当然、夕美は返事などしないが、自分めがけて何者かがバカ声を張り上げて急速に接近していることは分かる。自分より前に“ゆうこさん”が歩いているのだろうと思って道をあけたが、駆け寄る足音は自分の真横で立ち止まった。

「今帰り!? ゆ・う・こ・さん。」

「ゆうこ?」

 初対面のくせに人をファーストネームで呼び、しかも間違っているコイツは誰や、といぶかしむ夕美。

(すみません、僕に合わせて)「ゆうこさんてば?、僕をほっといていっちゃうんだから、ひどいよ」

「なっ、何やあ!?夕子て、わたしゃ京都みやげか。だいいち、あんた誰や!?」

 

 

〈ACT:14へ続く〉

 

 

説明
毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ?つ!!”なヒロインになる…お話、連載その13話。
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