外史異聞譚〜黄巾の乱・幕ノ十〜
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≪冀州某所/荀文若視点≫

 

私は凪が持ち帰ってくれた情報を精査している

 

凪はこういうとなんだけど、融通が利かない堅物なところはあるのだけれど、こういう場合には非常に頼りになる人間だ

 

融通の利かなさは報告に置いては私情や私見を交えないものとなる

 

堅物なところは与えられた目的を限界まで達成しようという執念に通じる

 

なので、私はこういう任務には好んで凪を推す

 

解らない部分を憶測を交えず「解らない」と言ってくれる斥候を任せられる武官は非常に貴重なのだ

 

こういうとなんだが、春蘭のような全季節脳内花畑人間には絶対に任せられない

 

本来は華琳樣にも聞いていただくべき報告なのだけれど、今は軍の指揮中であらせられるので後程同じ報告を軍議で行なってもらうという事で先に私が聞いた訳だ

 

普段ならそういう事はないのだけれど、どうしても胸騒ぎがしたのがその理由だ

 

そして、私の胸騒ぎは悪い意味で的中したことが判明した

 

可能なら確保し利用する事を考えていた張三姉妹とかいう芸人姉妹を漢中に確保された可能性が濃厚となったのだ

濃厚というよりはほぼ確実と考えていいと思う

 

もっとも、これについては凪を責められない

 

これが見つけて逃げられたというならいくらでも罵声を浴びせてその無能さを弾劾するところだけれど、相手に確保され“保護した村娘”と言われて尚人物の確認を要求できる訳がないからだ

私達が張姉妹の顔を知っていれば別だろうけど、そんな事もない以上、引き下がった凪の判断は非常に正しい

 

これらの事が指し示すのは、この反乱は漢中の連中にとっては全て“予定調和”だったという事

 

悔しいけれど、今回に限っては全て相手に上をいかれたという事だ

 

もっとも、華琳樣が簡単に上をいかれるはずはない事は自明の理なので、今回は相手が悪かったというよりは華琳樣のお立場から仕方がないと考えるべきだ

 

華琳樣はその覇気といい遠望といい、本当に王たるに相応しいお方だけど、残念ながらその地位や身分はその覇気に全く追いついていない

これは宮廷のやつらが無能なせいなので、華琳樣のせいでは決してない

華琳様に漢中のやつらや董卓と同程度の身分があれば、このような事には絶対になっていないし、私がそうはさせないからだ

 

その点では秋蘭や春蘭のバカ、あの三人もいるし季衣もいる

 

後塵を拝する理由は本当に今の立場、ただそれだけなのだ

 

 

私達が漢中を最大の仮想敵と見定める、と華琳樣が決めて早速この調子だ

 

華琳樣の嗅覚と勘には脱帽せざるを得ない

 

その華琳様を私が支えるためにも、今後は更に漢中に注意を払う必要がある

 

この智謀と知識、私の全てでもって華琳様を支える

 

 

それが私の望みなのだから

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≪冀州某所/諸葛孔明視点≫

 

「はわわ〜……」

 

愛紗さんの報告を聞いて、私の口からでたのはそれだけでした

 

雛里ちゃんは今、鈴々ちゃんと一緒に前線に出ているので、この報告を聞いたのはとりあえずですが私と桃香さまという事になります

 

「漢中の人達って、やっぱりすごいんだね〜…」

 

ええ、確かにそうなんですけど、これは感心してばかりじゃいられません

 

「先の陣中でも感じましたが、なんというか異質というか、肌に合わぬ着物を着せられているというか、そういう感じがしております」

 

そうなんですよね

この違和感がどこから来るのか、それが判らないうちは迂闊に手出しをしてはいけないような、そんな気は私もしています

これは雛里ちゃんも同意見です

 

あと、曹操軍の方々が知らない事実を私達は掴んでいます

 

それは、元直ちゃんと巨達ちゃんが漢中にいる、という事です

 

この二人は水鏡先生のところでも優秀だった人達で、特に元直ちゃんは私達のお菓子作りの師匠だったり同好の士だったりもします

いつか三人で本を作りたいね、と語り合った事もありました

巨達ちゃんはそういうのが苦手みたいで、他のみんなとそういう話をしていると真っ赤になって逃げ出したりしてましたけど……

 

 

はわわ…

関係ないですよね

 

ともかく、漢中に巨達ちゃんが仕官していった後の元直ちゃんはものすごくて、その勉学にも鬼気迫るものを感じたくらいです

 

私達よりも先に塾を出たのですが、その時には

「まず漢中に行ってやらなきゃならない事がある」

と言っていました

 

その後、正式に漢中に仕官したと聞いて少し残念に思ったりもしましたけど…

 

 

このような経緯から、私達は策略や内政においては漢中は油断できないものを既に持っている、という事は知ってはいたのです

 

ただ、それがこんな反乱鎮圧に影響するとは全く思っていなかったですし、先の陣触れで出会ったあのおふたりとの会話と関係するとも思ってはいません

 

それは、元直ちゃんや巨達ちゃんの考え方というより、漢中そのものの考え方が根本にあると感じたからです

 

今まではそう思っていたのですが、私はそれを改める事にしました

 

元直ちゃんがいるのなら、この反乱を利用して実を取りきるという程度の策謀は十分にこなしきるだろう、という事が理解できたからです

 

愛紗さんの話では、崖の上で出会った魯子敬さんという方も油断できない容易ならざる人物だという事でした

本人の弁によると、私達が漢中の人と出会った陣にも居たのだそうです

 

戦った直後だったようなので、戦後処理をしていたのかも知れません

 

ともかく、漢中は恐らく、この乱で実を取りきることに徹することができるくらいの実力をもっていて、その中には間違いなく元直ちゃんや巨達ちゃんも加わっている、という事です

 

私は桃香さまに

「ないものねだりをする前にやるべき事をしよう」

と伝えましたが、私の予想以上に漢中と私達の差はある、そう考えを改めるべきです

 

その方向も思想も実力も人材も、そのなにもかもが比較にならない差をもっている、多分そう考えないと永遠に後手を踏む事になる

 

私は敢えて自分を格下と考えて接しなければならない、そう感じました

 

 

この事は後でみんなで話そう、という桃香さまと愛紗さんに頷きながら私は考えます

 

果たして漢中は桃香さまの理想に着いてきてくれる、もしくは理解をしてくれるのだろうか、と

 

 

私にはなぜか、その理想に理解と共感を示してくれつつも、尚私達を認めてはくれない、そんな予感がしています

 

これも気のせいならいいのですが、この反乱での功績が認められ、なんとか私達が落ち着ける場所を手に入れたら、本格的に情報を集めてみようと思っています

 

私の予感の根拠が、漢中の陣で言われた言葉だけなので、それをまだみんなに伝えるべきではないと思うからです

桃香さまの理想を私の私見を基準に後退させるような事があってはならない

そう思うからです

 

だからこそ情報を集め、十分に考えた上で判断を仰ごう

 

そう思います

 

 

「軍師殿、そろそろ諸侯の軍も追い込みに入るようだ。我らも動くべきではないか?」

 

思索に更けていた私の意識を呼び戻したのは、そんな愛紗さんの言葉でした

 

私は一旦思索を取りやめ、目の前の戦場に意識を集中します

 

「そ、そうですね…

 ではみなしゃん!

 雲長さんに続いて一気に突撃してくだしゃいっ!」

 

思わず慌ててしまってかみかみな私に、みんなが笑います

 

はわわ〜…

恥ずかしいよう……

 

そんな私を微笑んで見つめながら、桃香さまが号令をかけました

 

「よーっし!

 辛かったこの戦いもこれで終わりにしよう!

 みんな、後少しだけ頑張ろう!!」

 

続く愛紗さんの号令と共に突撃していく義勇軍のみなさんをみつめながら、私は乱の収束と新たなる戦いを感じていました

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≪後日・漢中鎮守府/北郷一刀視点≫

 

これで黄巾の乱も終了、というところかな

 

俺は久々に漢中に全員が戻ってきたことに、心から安堵していた

 

なにせ自分が体を張って戦場には出られない身だ

 

武力じゃお話にもならないのは理解してても、そこはオトコノコなので、やっぱり忸怩たる思いはあるわけです

 

久方振りの円卓で皆と語らっていると、本当に色々な事があったのだとわかる

 

令則さんや仲業が曹孟徳や劉玄徳御一行と会っていたのには驚いた

かなり興味もあったのでふたりに感想を聞いてみると

 

「ボクは曹孟徳とは趣味が合わないかな

 花を愛でるのに一瞬“ぬらっ”とした空気が混ざるのがなんともいえず趣味に合わない」

 

仲業がそう評するのを、懿がコクコクと頷いていたのには笑ってしまった

そうか…

そうとう守備範囲が広いんだな、さすがは曹孟徳

 

「そういえば、仲達ちゃんにも会いたがっていたよ?」

 

と仲業が伝えたら、みんなに見えないところに鳥肌が立っていた

そこまで百合百合しいのはダメですか、司馬懿さん

 

令則さんは

「一刀さんに毒される前だったら、劉玄徳にお仕えしてもよかったかもですねー」

と言っていた

 

その評価は嬉しい事は嬉しいんだけど、毒されるってなに!?

 

しかも全員力強く何度も頷いてるし!

 

泣くよ? 泣いちゃうよ?

 

「おふたりとも、それなり以上に人材を抱え求めて、それぞれ考える事はあるみたいです」

 

まあ、そりゃそうだろう

だって彼女らはこれからの歴史で本来は主役を張る人物達なんだからさ

 

儁乂さんは河北袁家の文季徳と顔叔敬の二人と会ったみたいで、なんだかしみじみと

「拙者、漢中に仕官できた事を本当に感謝しております…」

と呟いていた

 

皓ちゃん明ちゃんがそれを見て笑っているので、多分何かあったんだろう

 

俺が知る“外史”の袁家はどこも残念なところだから、多分なにか突っ込んじゃいけないような事があったんだろうな…

 

河北袁家については、糧食の供与があったってことで、礼状と特産品を後日贈る、という事で話はまとまった

 

洛陽組からは基本的に怨嗟の声しか聞こえてこない

ここで本来は“後々曹孟徳が平らげるはず”の青州黄巾党を強引に平らげてきたこともあり、とにかく彼女達は今後も仕事が山積みである

 

まあ、ここを乗り切れば実質兵力は現在で大陸最大、生産規模でいうなら500万に達する民衆を食わせる事が可能な大穀倉地帯として生まれ変わる事が明白なだけに、その表情は明るいものなんだけど

 

 

他には、俺がちょっとした悪戯のつもりで仕掛けた袁公路と孫伯符に対する策は、張文遠と華猛達の二人が孫伯符に同情するほどすごいことになったらしい

 

懿が言うには

「あそこまでエラい事になるんやったら、先に言っといてぇな…」

「私がいうのもなんだが、あれは酷いものだったぞ」

と苦情を言われたくらいにはすごかったようだ

 

まあ、飛び出す気満々の釘だから、少しでも叩いておくに越したことはないから、そこはいいんだけどね

 

肝心の洛陽に関しては一応間に合ったと言えるが、こちらとしても収穫を待ちたいのが本音である

 

そこまで持ちそうかどうかに関しては

「あとは賈文和と董仲穎の頑張り次第」

と全員が口を揃えて言ったという点から、これ以上こちらで機を図るのはかなり難しい状態だと判断できる

 

他には忠英さんが

「曹孟徳が私らの武器欲しがってたから“鎚”はくれてやったんでよろしく」

などと気軽に言われて一瞬唖然とした

 

さすがに問い詰めようと思ったのだが

「あれなら問題ないね

あっちは私達と違って“剣”なんだから、あれを研究しても遠回りになるだけさ

もっとも、そこから先にいけるような人間がいれば別だけど、それでも私が言うのもなんだけどものすごく金と時間はかかると思うよ」

そう、自信満々に言うのを聞いてなるほどと納得した

 

まあ、それはそうか

 

その為に一般兵の携帯武器を剣から“鎚”に変えて、警備兵も“棍”にしたんだし

 

重くて粘りがある金属は打撃武器には向くけど、刃物には向かないからね

 

公祺さんは“太平要術書”が確保できた事に心底安堵してるみたいだ

これからの五斗米道の活動に必要な部分を抜き出したら、焼いてしまうと言っている

 

世の中にあっても混乱しか招かないものだから、残しておくと危険だからだそうだ

 

そのあたりの判断は俺ができるとも思えないので、公祺さんに任せることとする

 

これらの雑談で出てきたのに、呂奉先が本当に一人で3万を撃退してしまったっていうのがあって、なんというか予想はしてたけど苦笑いするしかない俺でありました

 

そんなのがこれからゴロゴロ出てくるわけで、俺としては正直やってられん気分だ

 

 

そして、この黄巾の乱を締め括るための事柄として彼女達の事を話しておこうと思う

 

真先に漢中に戻ってきたのは子敬ちゃんで、彼女は3人の姉妹を連れ立って戻ってきた

 

当然俺にはそれが誰だか判っているわけなんだけど、なんというか…

 

謁見したときの雰囲気が、ハリネズミみたいだったのにはびっくりした

なんかすっごく子敬ちゃんが楽しそうだったことから、相当にいたぶられて漢中まで来たんだろうと思う

 

子敬ちゃんも独特を通り越してるからなあ…

 

そんなハリネズミ状態の彼女達に警戒を解いてもらって会話を成立させるにはかなり苦労した

 

それで、彼女達と今後について話し合ったんだけど…

 

「つまり、私達は自由にしていいが今の名前は捨てろ、という事ですか?」

 

「うん、まあ…

 なんというか、さすがにそのままじゃこっちも庇いきれないんでね

 そこは我慢して欲しいかな…」

 

眼鏡でしっかりした感じの子がこの姉妹の交渉役みたいだ

 

あとはえらく気の強そうなつるぺったんな子と、なんだかほややんとした胸が立派な子がいる

令明のアイアンクローが怖くてすぐに胸から視線を逸らした俺はやはりチキンかも知れない

 

「……そこは仕方がないとも思いますので理解しました

 考えている事もありますし…」

 

「それは助かる」

 

「それで、漢中での行動と安全は保証してくれるんですね?」

 

「まあ、他の人達と同程度には

 ただし、これは納得してもらうけど、一生俺達の監視はつく

 君達に悟られるようなヘマはしないけど、そこのところを踏まえてある程度自重してくれれば問題はないと思うよ」

 

「監視ってなによ!

 それじゃまるで私達が犯罪者みたいじゃない!!」

 

「姉さん…

 私達は犯罪者なのよ…

 悔しいけどね」

 

「ぬぐぐぐぐ…」

 

「そっかー…

 お姉ちゃん達犯罪者になっちゃったんだね…」

 

うわ…

なんか偉く罪悪感が…

ま、俺が仕掛けた結果だから、それなりには希望は与えないとさすがに問題はあるよな

 

「と、そこのところを納得してさえくれれば、別に漢中では何をやっても構わない」

 

『え?』

 

きょとんとする三人に俺はこう告げる

 

「具体的には太平要術を用いないなら、歌おうが踊ろうが構わないってこと」

 

『それって…』

 

「当面の生活費は出すけど、そこから先はさすがに面倒は見ない

 なら君達もなにかして糧を得なくちゃならないでしょ?

 どうしてかこの漢中には元反乱軍の農奴が大量にいるし、もしかしたら慰問とかも考えなくちゃならないしね」

 

眼鏡の子が恐るおそる聞いてくる

 

「私達が、また歌ってもいいってこと…?」

 

「駄目だと言った覚えはないんだけどな…

 ま、いつまでも漢中にいろと言う気もないし、洛陽にも捕まって農奴になってる人は沢山いるしね

 俺は“名前を変えてある程度自重してくれれば”とは言ったけど、歌うななんて言った覚えはないよ」

 

一斉に希望に輝く三人の笑顔を見ながら俺は伝える

 

「そんな訳で、これからの活躍に期待してるよ

 未来の“大陸一”の歌姫さん達」

 

 

 

 

それからしばらくして………

 

この漢中では“天和・地和・人和”という名で“役満三姉妹”と号する歌姫達が活躍するようになる

 

彼女らの活躍で、後日色々な芸事を披露・観賞するための一大施設の建設が漢中鎮守府で行われるようになるのだけど…

 

 

それはまた別のお話

説明
拙作の作風が知りたい方は
『http://www.tinami.com/view/315935』
より視読をお願い致します

また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します

当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです

本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」
の二次創作物となります

これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します


その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です

コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール
『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』
機会がありましたら是非ご覧になってください
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コメント
通り(ry の名無しさま>種馬ならそれでいけるんだけどなー…(小笠原 樹)
いやいや、それすら一刀さんの策の一つですよ(ナニ(通り(ry の七篠権兵衛)
通り(ry の名無しさま>拙作の一刀、そこまで優しいかなあ・・・(汗)(小笠原 樹)
差が埋めれなくて「はわわ〜」と泣き顔になって、一刀に撫でられて、「もうそこまで一人頑張らなくてもいいんだよ」と言われて陥落する・・・まで見えた。(通り(ry の七篠権兵衛)
田吾作さま>ほんと、どうなるんでしょうか、作者にもわからん(マテコラ(小笠原 樹)
荀文若と諸葛孔明が動き出しましたね。王佐の才・伏龍と言われた彼女達は持ち前の頭脳でどう対処するのでしょうか。それと孔明が自分達と天譴軍が相容れない存在である、と気付きましたね。これが後にどう響くのか気になります。最後に一刀君、良かったね本来仕える主に出会う前に優秀な人材引っこ抜けてw(田吾作)
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