花の話
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都へ向かう道ばたに、小さな白い花が一輪、咲いていました。

道を行く人たちは忙しそうに通り過ぎるばかりで、誰も花には目を向けませんでした。

冷たい雨の日も激しい風の日も、気持ちよく晴れた日も、花はただ、一輪で誰にも見られることなく咲いていました。

 

ある日、痩せたのっぽの男と太った小柄な男が、花の前で足を止めました。

二人はこれから都で一旗揚げようと、故郷の村を連れ立って出てきたのでした。

 

「おや、こんなところに綺麗な花が咲いている」

のっぽの男がかがみ込んで言いました。

「本当だ、見たことのない花だな」

太った男も、花に目をとめます。

 

「丁度いいや、都の女の子へのお土産にしよう」

太った男がそう言って花を摘もうとするのを、のっぽの男がそっと押しとどめました。

「まあ待ちなよ、君」

 

「どうしてだい? かわいい花じゃないか。

 胸に飾ったり、髪に挿したり、こんな素敵な花なんだから女の子もきっと喜ぶさ」

太った男は少し怒って、のっぽの男に食ってかかりました。

 

「こんな小さな花だもの、すぐに茶色くしなびて枯れてしまって、女の子もがっかりするよ」

のっぽの男は、水筒の水を優しく根元に注ぎながら言いました。

「それに、都に行けば、もっと綺麗でもっと華やかな物がたくさんたくさんあふれてる。

 小さな白い花なんて、見向きもされないに違いないよ」

 

「なるほど、それもそうか」

と、太った男も考え直し、一つ大きく伸びをすると、花に背を向けて歩き始めました。

のっぽの男は苦笑すると、帽子を被り直し、太った男を追いかけて行きました。

 

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小さな白い花は、また、誰に見られることもなくなりました。

冷たい雨の日も激しい風の日も、気持ちよく晴れた日も、ただ、一輪で静かに咲いていました。

 

 

しばらく経って、二人の男が花の前で足を止めました。

服は少しくたびれてすり切れていましたが、それは前も足を止めた二人でした。

都から、故郷の村へと帰る旅の途中でした。

 

「おや、あの花がまだ咲いている」

のっぽの男はかがみ込んで言いました。

「本当だ、なんだか懐かしい気分だな」

太った男も、花に目をとめます。

 

「丁度いいや、村へのお土産にしよう」

のっぽの男はそう言って、花を掘り起こそうとしました。

 

「おいおい、君は、僕が行きに摘もうとしたのを止めたじゃないか」

太った男はあきれ顔でのっぽの男に言いました。

 

「こうして土ごと持っていって、道々水をやれば枯れたりはしないだろう」

持っていた革袋にそっと納めながら、のっぽの男は言いました。

「それに、都と違って僕らの村は、本当につましい村だから。

 小さな花でも目にとめて、楽しんでくれる人がきっといるに違いない」

 

「やれやれ。好きにすればいいよ」

太った男は肩をすくめて歩き出しました。

のっぽの男は苦笑すると、帽子を被り直し、太った男を追いかけて行きました。

 

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山間の小さな村に、小さな白い花が咲いていました。

農家の周りに、往来の脇に、畑を囲うあぜ道に、沢山の沢山の白い花が咲き誇っていました。

村の人たちは、野良仕事の合間に、井戸端会議の最中に、ふと優しい風が吹いた時に、折に触れてその小さな白い花を眺めては、ほっと心を和ませるのでした。

 

 

説明
知人に「絵本の題材」を頼まれた際に送った文章
かれこれ半年近く音沙汰無いので多分没ったんだろう
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