閃光のプロキオン 第二話 戦闘少女
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あれからは父さんが全てやってくれた。例え緊急事態だったとしても一般人である僕と愛菜が軍事機密を目にした事に変わりはない。普通なら裁判でもかけられるのかもしれないけど父さんが何とか誤魔化してくれたのだ。

コックピットからでるとVMFLで採用している戦闘用スーツ、AD〈アーマドレス〉を着た人にこっ酷く叱られたりした。でも僕は目の前で死んだ人がいる、守れた命がある。それだけで手一杯で頭が真っ白だった。

それからややあって僕は愛菜といっしょに軍の人に家まで送ってもらった。愛菜の両親は二人とも無事でおじさんもおばさんも心配してくれた。

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朝、ホームルームが始まる直前になって涼介が登校してきた。いつもこんな感じだけど今日はなんだか様子が違った。

「おはよう、何かあった?」

「あったさ、昨日の騒ぎ覚えてないのか?」

「そりゃ覚えてるけど……」

というかこのクラスの中で一番僕が知っているだろう。今、改めて自分が何をしたのか考えるとゾッとする。

「んで、警戒網をくぐり抜けて撮ってきた戦利品がこれよ!」

そう言って涼介はぺたんこのカバンから写真の束を取り出す。僕は涼介からその束を受け取ると一枚一枚ゆっくりと見始めた。

「これって自衛軍の戦車?」

「ちっちっちっ。二三式特殊機動戦車。普通の戦車と間違えて貰っちゃ困るぜ」

「ふーん」と適当に相槌を打ちながら写真を見ていくとなんと僕と愛菜が逃げるとこが写った写真まであった。

「おっ、その写真は撮るの大変だったんだぜ。なんたって目の前にMFLがいたんだからな。いやぁ〜それに向かって120mm滑空砲を撃つ二三式の勇姿!お前にも見せたかったぜ」

「ああそう……」

というかその二三式をくぐり抜けたバイクが僕なんだが涼介は全く気づいちゃいなかった。

「――これは?」

一枚、空を撮った写真を差し出す。

「あー、これはADを取るために連写した時の奴だ。確か4枚目に――」

そう言って涼介は僕から写真の束を取ると手馴れた動きで写真を探す。

「あー、あったあった。これだよ」

机に差し出された写真をみる。映っていたのは装甲のような物を身に付けた少女だった。足からは眩い光を放つバーニアがあって、腕にはアサルトライフルを構えている。

「AD隊ってこんな子小さい娘もいるんだな……」

僕がそう呟くと涼介は途端に黙った。さっきまで軍事関係の知識をあれよあれよと披露していたにも関わらず口をポカーンと開け、目を見開く。

「あの……俺何か言った?」

「言ったとも…………ああ、言ったともさ!お前AD部隊のアイドルにして最強のAD使い、長門 流希さんになんてこといってんだ!!」

ガシガシと襟首を掴まれ、縦、横、斜めに振り回される。目が回りながらも僕は必死に止めようとするが涼介は何か喋りながら僕を振り回す。

「止めッ、涼介……っし……死ぬぅ……」

首を締められ、死にそうになった途端、教室にガラガラという音が響いた。

「こら、西!さっさと席につけ。ホームルーム始めるぞ」

担任の伊藤先生ががに股でガツガツと涼介に近寄り、得意の怪力で強引に席へ座らせる。賑やかだった教室は静まって険悪ムードになった。

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ホームルームが終わり、チャイムが鳴る。昨日の一件で政府からの連絡がたくさんあってホームルームは結構間延びした。いつもはチャイムがなる前には終わるというのにギリギリだ。

ファイルに挟んだ予定表を見る。一時間目は……古典か。また嫌な授業が朝から来たもんだ。

僕は引き出しから教科書、参考書、ノートを取り出して机に置く。それと同時にチャイムが鳴った。もう授業が始まるのだ。古典の担当である西東先生が既に教卓に立っている。

「起立。」

日直の女子生徒が爽やかに言った。続けて礼に着席と相変わらずな号令を済ませて授業が始まる。

「あー、今日は57ページから――」

パラパラと教科書をめくる。いまどき全く目にしない言葉が並ぶので正直頭が痛い。というか古典ってやる必要があるのかと思う。

僕はパラパラと肩肘を突き、あくびしながら西東先生の指示した57ページを開こうとすると教科書の間からパラリと何かが落ちた。写真だ。

「これって……」

女の子の写真だ。確か長門 流希とか言ったっけ?そういえば涼介が伊藤先生に強引に連れてかれたので返し忘れたのだった。

にしても可愛い娘だと思った。昨日、プロキオンに乗っていた時は無我夢中で周りが見えていなかったから顔はよく覚えていないけど、こうしてまじまじと見れば可愛いなと思った。

「長門 流希……」

思わずその名を口に出した。

黒髪を二つに縛り、勇ましく戦う姿。一瞬を写したその写真には彼女の全てが収められているような気がして――

「待て、長門 流希……」

何かが引っ掛かった。記憶の片隅。彼女の名前が。

「…………ああッ!」

声を上げ、机を叩く。椅子をガラガラと足で動かし、僕は立ち上がった。

「……どうした、瀬田?」

西東先生がポカンとした表情で僕を見る。

「あの……その……」

すると西東先生はふぅとため息をついて肩をなでおろす。

「じゃあ、この五行目から瀬田」

「えっ?はい、わかりました」

慌てて教科書を持つ。先程立った時に衝撃でページがめくれた教科書は百何ページとかになっている。

「えーっと……ゴホン、青葉になり行くまで――」

前の席の涼介がまたも笑っている。周りからん羞恥の目から耐えながらも僕は読み切る。先生も少し半笑いだった。

席に着く。僕は隣の席、空席を見る。

長門 流希。

隣の席の所有者。記憶の片隅に残った情報が僕にそう告げた。

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今日の掃除当番も終え、あとは帰宅するだけとなっていた。

僕はカバンをとって愛菜の下へ行こうと思った。すると僕のケータイが途端に震え出した。

「こんな時に誰だ……」

ズボンのポケットを漁る。ミニ掴み取り大会が僕のポケットの中で開催された後、お目当てのケータイ電話が手元に現れる。

非通知だった。ちょっと嫌な予感がしたけど通話ボタンを押して耳に当てる。

「もしもし……」

「私だ。大輔、元気にしているか?」

その声ですぐに分かった。父さんだ。

「どうしたの?わざわざ非通知でなんて」

「学校が終わったのならばVMFLに来て欲しい。早急にな」

僕は「うん」と答えるや否や父さんは電話を切る。もともと電話は恥ずかしいとか言っていたのでやっぱりいつもの父さんだなと思った。

「大ちゃん、その――」

後ろに愛菜が居た。全く気付かなかった。

「ああ、その父さんから電話があってさ。VMFLに来いって」

「じゃあ、今日はいっしょに帰れない?」

首をかしげて愛菜はそう言った。

「うん、そうなる――かな?」

「じゃあ、私おいしい料理作って待ってるね!」

愛菜は満面の笑みを浮かべると昇降口へと向かう階段へと掛けていった。

「さて、じゃあ僕も行かないとね」

父さんからの直々の呼び出し。嬉しいけど何か嫌な予感もした。

 

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新長野市は大きく分けてABCDの四区画に分かれている。政府機関、軍事機関のそびえるAブロック。商業施設、教育施設が立ち並ぶブロック。居住区画であるCブロック。そして他国との貿易、つまりは大きな空港が存在するDブロックに分かれる。

もちろんVMFLは軍事施設のあるA区画に存在する。因みにA区画は僕らが住んでいるC区画とは真逆の方向で、A区画には政府関係者、軍関係者用に小さな都市が出来ているとかで電車が殆どない。その昔の長野の電車はそれぐらいのインターバルで来るらしいけど僕にとっては不便だった。

電子定期券を財布の中から取り出す。カードのような定期券にタッチするとそこに時刻表が表示される。

「えっと……新長野第三高校駅発、A区画VMFL基地行き列車は……5時ジャスト」

携帯を見る。待受になっているアナログ時計は4時45分を指し示す。そうだ、あと15分しかない。しかもこの列車を逃したら約1時間は帰ってこない。A区画行きの列車はABCDと回っている。時間がかかるのだ。

うかうかしてられない。廊下で涼介に「ゲーセンにいこうぜ!」と誘われたけど「明日な!」と適当に返して駅へと走った。

 

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「間も無くVMFL基地です。軍関係者の方はこちらです。Soon you will arrive in VMFL Base.Military personnel who get off here, please.」

流石A区画。といった所か。外交だの貿易だのでこの列車は外国の人も利用していてアナウンスも英語が流れる。噂に聞いていたけど実際に聞くのは初めてだった。

警笛が鳴る。金属が擦れる音、即ちブレーキの音が響く。座席に座った僕の体も少しだけ横に倒れる。

「VMFL基地、VFML基地です。Arrived in VMF Base.」

プシュッとドアの開く音がして、乗っていた内のたった数人が降りていく。通勤ラッシュなんて時間でもなければA区画への列車なんてこんなものなんだろう。

すると電車を降りた僕の目に一人の男性が飛び込んだ。奇抜というか周りのビジネスマン達にそぐわない白衣を着た男性。間違い無い。昨日、僕がプロキオンを動かした時にいた人だ。

「おっ、いたいた」

そう言って白衣の人は僕の方へ駆け寄ってきた。すると途端にピースサインをしてはにかみながら「ピース」と言った。何かよくわからないけど取り敢えず僕もピースと返す。

「おお、流石DE-Sを動かした逸材。ノリもいいじゃないか全く!」

「あの……それよりも父さんが呼び出したのって……」

『DE-S』という言葉が引っ掛かったけど、取り敢えず本題であるそれを聞いた。

「ああ、司令から聞いていたか。正確には僕が君に要件があるんだ。昨日のことでね」

すると白衣の人はポケットからなにやら四角い紙切れを取り出す。

「初めまして。ではないけれど相模原遺伝子研究所の鏑木 正晴だ。以後お見知りおきを」

「鏑木さん。ですか」

名刺を受け取る、そこにはしっかりと相模原遺伝子研究所所属 VMFL技術顧問と書かれている。

「では、自己紹介も終えた所で本題に入ろうか。瀬田 大輔君」

そう言うと鏑木さんは白衣をたなびかせ、エスカレーターの方へと歩き出す。僕もそれを追う様にして歩きだした。

 

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駅を出てすぐ、徒歩5分も無い所に巨大な施設が立っていた。ここがVMFL。昨日、僕が戦った場所である。

あれほどの戦いがあったというにも関わらず、すでにVMFLの付近はきれいさっぱり元通りになっている。

「さあ、こっちだ。プロキオンと君の父上が待っている」

鏑木さんは正面のゲートにはいかず、回り道をするようにフェンス際を歩いていく。フェンスには有刺鉄線があり、きっと高圧電流でも流れているのだろう。

そんな恐ろしい妄想をしていると大きなドアの前にでた。ドアというよりもシャッターというべきなのだろうか?

「さて、ようこそVMLFへ」

ドアが自動に開く。シャフトのような物が空気が抜けるような音と共に外れ、ゆっくりとドアが開く。

すこしずつ、光が差し込む。

「さあ、これが昨日きみが使ったものだ」

人一人入れるぐらいに開いたドアの中へと鏑木さんは入っていく。僕もそれを追っかけていくとやはりそこにはプロキオンがいた。

「……プロキオン」

「そうだ、遅かったな大輔」

格納庫のような部屋に鏑木さんでも僕でもない声が響いた。

「父さん!」

「……大輔、大きくなったな」

そう言うと父さんはゆっくりと僕らの方へ近づく。

「いいんですか司令?もう戻れませんよ?」

鏑木さんが言う。

「ああ、覚悟は出来ているさ」

「えっと、何の話を……」

僕が二人に割り込もうとすると父さんが僕の方を向いた。その目は真剣で優しい父さんというより威厳があるという感じだった。

「大輔、今からお前はプロキオン専属のパイロットとしてVMFLに配属される」

「……え?」

頭が真っ白になる。確か僕は昨日、成り行きでロボットを動かしてしまって……

「やっぱり、軍事機密を知ってしまったのがいけなかったの?父さん!どういうことなのか説明してよ!」

僕が父さんの服を引っ張りながらそう聞くと父さんは冷静に頷く。それを見た鏑木さんも頷くと僕と父さんの間に割って入った。

「いいか、大輔君。君に罪はない。これは君に与えられた選択だ。お父さんの言い方はちょっと強引だったかもしれないから僕が説明するよ」

そう言うと鏑木さんはプロキオンの方をゆっくりと向いた。

 

「君は東京探査班は知っているかい?」

「ええ、歴史の授業で少し……」

「それなら話は早い」

そう言うと鏑木さんはプロキオンと僕らを隔てる小さなフェンスに手を掛ける。

「17年前、東京で何かが起きた。それを探るために組織されたのが東京探査班。それぐらいは知っているだろう?でも彼らは何も分からないまま第六回の探査で行方不明になった。でもそれは違うんだ。……ねえ、大輔君。このロボット、誰が作ったと思う?」

半回転して鏑木さんはフェンスによりかかると僕に聞いた。

「えっと、やっぱり戦闘機とかそういうのを作っている――」

「ブッブー!ハズレです」

僕が言い終わる前にそう答えるともう一度プロキオンを見て話を続けた。

「この機体はね、東京探査班のリーダーであった相模原宗介の設計で作られ、僕のいる相模原遺伝子研究所に保管されていた。それだけじゃない。今軍部が採用しようとしているAD〈アーマードレス〉だってそうだ。東京で何かを見つけた相模原教授はそれを使ってこれほどの兵器を作り上げた。そしてそれを見つけた出した僕らは一体教授は何を見つけ出したのか研究することにしたんだよ」

「……それがDE-S」

「ザッツライ!」

僕の方を指差し、そう言った。

「DE-S。何の略称かは知らないがそれが教授の残した遺産。けれども僕らにはそれの起動方法がわからなかった。だからプロキオンは兵器としての運用が見送られていた。」

暗い、不安そうな顔をして言う。すると突然明るい顔に戻る。

「でも、君が現れた!昨日のたった一度の運用で君はDE-Sをたった3%だが起動させた。これは快挙だ!機体の運動性能は2倍になった。たった3%で」

カツカツと革靴で金属の床を歩く。一回転して僕の方を向く。

「君は逸材だ。その君にしかない力を是非とも貸して欲しいんだ!」

僕は父さんの方を見た。父さんはゆっくりと頷く。

「……考えさせて下さい。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいんです。明日には決めます」

「そうか、いい返事を期待してる。その先の道が駅と繋がってる。ゆっくり考えて、君の思いを教えてくれ」

「……わかりました」

そう言って僕は自動ドアを抜け、駅への連絡通路をゆっくりと歩きだした。

 

 

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「軍に入れなんて、そんな事言われても……」

僕にしか出来ないこと。確かに魅力的ではある。でも……

不安なのだ。昨日、僕の前任者であった男性は僕にあの機体を託し、死んだ。あの人にだって遺した家族が居るんだろう。そう考えると胸が痛くなる。

「どうすればいいのさ……」

駅のホームに電車が入る。でもこの列車はC区画行きではない。次の列車で行ったほうが確か早く着いた気がする。

電子定期券を取り出す。 時刻表を呼び出そうとしたら途端に全ての時刻表が文字化けした。

「何だ、何が起きて――」

ドカン。と爆発音が聴こえる。

方向はA区画。すぐ近くだった。僕が時刻表に目を落とすとそこには「緊急事態発生。前線を避難経路に変更します」と表示される。先程の文字化けはこれの前兆だったのだ。

広告用の液晶ディスプレイもすべて批難警報へと変わる。

昨日の、人が死んでいく光景がフラッシュバックする。

「クソ……クッソォ!どうしてこんな!!」

ぼくはいてもたってもいられなくなってホームから改札を逆走した。

 

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駅の二階。テラスのようになった所から僕は外を見た。防衛省の隣にあるVMFLから炎が上がっている。

僕はどうすればいいのか。黙ってプロキオンに乗って戦えと言われてもそう簡単に頷くことは出来ない。命を簡単に賭けることなんてできないんだ。

僕は臆病者だ。あの時、僕にプロキオンを託してくれたあの人に申し訳ない。

涙が溢れた。目からあふれるそれを拭こうとすると口の中に入ってしょっぱい味がした。

砲撃の音がここまで聴こえる。目を凝らすと砲塔から赤い光りが放たれるのが見える。そして二三式に対を為すように翼の生えたMFLがいた。昨日現れたMFLとは違い触手が無い代わりに巨大な翼が生えている。

その巨体には似合わぬ速度でMFLは移動する。砲撃に混じって違う爆発音がした。二三式が爆発したのだ。

もう限界だった。理性とか倫理とかそういう難しい言葉で表すものじゃなくってもっと直線的で感情的な物が僕を突き動かす。何時の間にか僕の足はVMFLへと向かっていたのだ。

道路は封鎖される。逃げ惑う役人達を掻き分け、僕は戦地へと向かう。鉄の臭い、血の臭い、火薬の臭い。臭いの方へと僕は動く。

爆発の音が大きくなる。近づいているのだ。

何度か「君、何処にいくんだ!危険だぞ!」とか言われたけど僕はそれを無視した。危険なのはわかってるんだ。

人ごみが消えた。

目の前には無骨な戦車。上空には5,6機のヘリ。一部は煙を上げながらも戦っている。

走ったせいか息切れをした僕はフェンス越しにVMFL基地に立ち尽くした。

すると途端に隣にあったスピーカーが鳴り響く。

「AD〈アーマードレス〉隊出撃を開始。カタパルト付近の車両、航空機は直ちに離脱せよ。繰り返す、AD〈アーマードレス〉隊出撃を開始。カタパルト付近の車両、航空機は直ちに離脱せよ。」

警報が鳴った。爆音が響いていてあらゆる音は聞きづらいハズなのに耳を塞ぎたくなるほど警報音は大きい。

僕がスピーカーに目を奪われていると途端に戦闘機でも離陸したような音がした。にしては目の前に飛んだ物は異常に小さい。

AD〈アーマードレス〉

戦闘用の特殊装甲として開発されたというそれはウェアラブルコンピュータの発展形として『着る』戦闘機となった。

上空、雲を切り裂くように飛ぶ『彼等』その中に一際目立つカラーリングの機体がある。

真紅の機体は拒否するように空の青から浮いている。

「長門……流希……」

前に涼介が言っていた。真紅のADを操る最強の少女がいる。それが彼女。

急降下した彼女は地面にぶち当たる寸前で足のバーニアを地表に向けて全開にする。滑り込むようにMFLの4本足の中へと入り込むや否や彼女はその手にもったライフルをMFLの腹にめがけて発射した。

言葉には言い表せないような悲鳴をMFLは上げる。

「すごい……」

そうととしか言えなかった。戦車隊が幾ら撃っても倒せなかった相手をたった一回のアプローチでよろけさせたのだ。

彼女はもう一度上昇する。怯んだMFLへの攻撃は他に任せ、次のチャンスを生み出そうとしているのだ。

だが、それはうまくいかなかった。

途端、先程の射撃で怯んだと思っていたMFLが背中の大きな翼をはためかせて急上昇した。するとその長く鋭い前足の爪で長門を殴るようにして引っ掻いた。

あまりに唐突の事で避けようにも避けきれなかった彼女は地面に叩きつけられるとそのまま滑るようにして僕のいる方へと向かってきた。

砂埃が立ち込める。彼女は体中傷つきながらも立ち上がろうとする。

「何よ……あんた何でこんなとこにいるのよ!!」

MFLへの憎悪をぶつけるように彼女は僕にそう言いながらライフルを撃った。トリガーを引くと7.56mm弾のリコイルショックが彼女の小さな体へと響く。

「早く逃げなさい!今の貴方は只の一般人よ!たった一度皆を助けたぐらいでいい気にならないで!」

弾が切れる。彼女は急いでリロードしようとするもMFLは待ってはくれない。その強靭な爪が彼女を襲う。

「ああぁッ!」

甲高い声の悲鳴を上げると彼女は砂埃をまき散らしながら僕の足元に転がり込んだ。

でも、それでも彼女は戦う事を止めない。膝まづいてでも銃を撃つ。

「……クッソぉぉぉぉぉぉォォ!もう止めろ!!」

僕はそう叫ぶと長門さんの目の前に立った。まるで立ちふさがるように。

「何やってんのよ!死にたいの!?」

「死にたくなんかない!でも、他人が死ぬのはもっとイヤなんだよ!!」

そう言うと僕は携帯電話を取り出す。電話帳から急いで父さんの番号を見つけ出し、それに掛ける。すると父さんは僕から電話が来るのを待っていたかのようにたった一回にコールで電話しでた。

「もしもし父さん?僕、決めたよ」

「……いいんだな?」

「うん、僕にしか出来ない事なんかじゃない。今僕に出来ることをやりたい」

「――分かった、今すぐお前の目の前のA27ゲートにプロキオンを向かわせる。……守って見せろよ、大輔」

僕は黙って頷くと電話を切る。ポケットにケータイを入れると目の前の床が割れ始めた。そのせいかMFLはこれ以上僕らの方へは進めない。

でも、僕は違う。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォ!!」

無我夢中でその穴の中へと走った。近づく度きゴウンゴウンという機械音が強くなる。

そして僕は飛んだ。その中――プロキオンの中へと。

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僕がその中へと入ったと同時、プロキオンのコックピットハッチは開いた。吸い込まれるようにして僕はコックピットに入る。やはり高低差があるせいかお尻か痛みがした。

目の前のコンソールに明かりが灯る。球体型のモニターが部分ごとに外を映し出す。最初は前から。そして後ろへとほんの数秒で映像として映し出す。

「後戻りはできないぞ、大輔」

モニターに通信た表示される。そのウィンドウの上には「VMFL Base」と表示されている。

「男なら、誰かの為に何かをしなくちゃいけないって。それが僕のやるべきことなんだって」

ウィンドウが閉じた、元々父さんは人と人話すのは苦手だったので恥ずかしかったんじゃないかなと思った。

「大輔君。今、プロキオンには前の時と違って武器が付いている。わかるな?」

ウィンドウがもう一度勝手に開いて鏑木さんが話した。鏑木さんの言うとおり、モニターの右側を見るとプロキオンの右手があり、そしてライフルを持っていた。

「いいか、照準は全て君の目の動きに併せて動く。そして引き金は腕を動かすメインレバーに付いているはずだ。それを引けばあとはコンピュータが勝手にやってくれる」

僕は目をしばたたき、目の前のMFLを見つめた。それから少しして球体型モニターに丸いロックオンサイトが表示された。

敵を凝視する。汗ばんだ手でレバーを握る。

今、僕に出来ること。僕に与えられた事。

「プロキオン、行きます!」

黒かったアイセンサーが真紅に染まった。目の前のコンソールには残弾を始めとする武器の情報、メインの球体型モニターには照準が。

メインレバーを前に倒すと銃を構えた。僕はそのままMFLを凝視するとトリガーを強く引いた。

途端、銃口が赤く光った。それと同時、僕の体全体が強く揺れる。

硝煙が立ち込める。空気へと消える煙には目もくれず、ただMFLだけを凝視する。

「……来た!」

羽が広がる。レバーを後ろに引くとガード体制を取る。強靭な爪は腹部にあるコックピットを切り裂こうとするもプロキオンの装甲はそれを許さない。

急いでライフルを構えると零距離で発砲する。さっきよりも強いリコイルショックが体に響いた。その振動で機体が揺れるのがよくわかる。

「大輔君、バヨネットだ!前方の兵装管理用のタッチパネルで銃剣に切り替えろ!」

後方のスピーカーからノイズ混じりの鏑木さんの声が聴こえる。

「タッチパネルって――これか!」

僕は無理矢理叩くようにパネルを叩いた、すると画面に表示されていたライフルの下。レールの搭載された部分から鋭利な刃物が飛び出る。

その画面と連動し、右手に持ったライフルの先端には刃物が飛び出す。

「これでぇッ!」

昨日の様に無我夢中でレバーを動かす。ガンッガンッと殴りつけるような音がレバーから鳴る。

返り血が白いプロキオンの装甲について赤く染まる。

「トドメだあぁぁァァッ!!」

槍のように銃剣刺し込む。けど、手応えがなかった。

ばさっばさっという羽音が聴こえる。何時の間にかMFLは僕の遥か上空にいた。敵を切り裂く事しか考えて無くって隙を取られたのだ。

急いでコンソールをタッチしてライフルモードへと切り替え、レバーを押し込む。しかし、それよりも早く何かが僕の後ろから飛び去った。

「いい、アンタはアイツの頭を狙って。そしたら私が空中でアイツを刺し殺す。分かった?分かったなら後退して精々照準でも頑張って付けてなさい!」

ボロボロのADを着た長門さんだった。戦闘機……とまではいかないが恐らくプロキオン以上の空戦性能を持つAD。そして何より長門さんが僕よりも戦闘経験があるということを考えれば妥当な判断だ。

「分かった。出来るだけ頑張る。でも……」

「でも何よ?」

「―――死ぬなよ」

「誰に言ってんのよ」

長門さんはそう言うと足のバーニアを地面スレスレで蒸かし、急上昇する。

「いい、3カウントで行くわよ。少しでも間違えたらアンタが死ぬと思いなさい」

「分かった」

敵の頭部。羽ばたくMFLはゆっくりと空中を上下する。なかなか狙いが定まらない。

「3!」

カウントが始まった。

「2!」

長門さんは上昇をやめ、下へと反転を始める。狙いはまだ定まらない。

「1!」

下降する姿勢を整える。

「0!」

電子音が耳元で鳴った。それと同時、ロックオンサイトが赤く染まり、僕は引き金を引く。

ダダダッ!と音と共に反動がして僕は仰け反る。その刹那、羽を持ったMFLが気を失い、地面目掛けて落下を開始する。

「よくやったわ、トドメは私が!!」

バーニアの光りが青い弧を描いてADは降下する。その一秒とない間に長門さんは腰に備えたブレードを引き抜くと切っ先をMFLに向け突撃する。

ブスッという音が鳴った。MFLは血が溢れ出し、完全に活動を停止する。

「……やった。長門さんやっ―――」

何か。何かが引っ掛かった。何かが足りない…………

「――バーニアの光が無い!?」

僕はペダルを強く踏むと背中と足のバーニアに火が点き前方に向け加速する。よく見れば長門さんは剣を引き抜こうとするも上手く抜けず、脱出を出来ないままMFLと落ちている。きっと、前にMFLに引っ掻かれた時にシステムに異常が起きたのだろう。

「長門さん!!」

僕はそう言うとコンソールを叩いて武器を離す。ペダルを踏んでバーニアを蒸すとレバーを押し込んで右手を差し出した。

 

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「アンタ……何やってんのよ……」

プロキオンの掌。グレーの機械的な手の上に長門さんはちょこんと乗っていた。空中でホバリングし、ゆっくりと降りる。眼下には血で染まった巨大な怪物。羽の生えた奇形の犬が横たわっている。

「何って、最初に言っただろ?他の人が死ぬのは嫌だって」

僕がそう言うと長門さんは顔は動かさずに目を閉じ、大きくため息をついた。

「とんだ阿保ね」

「どこがだよ」

間髪いれずに僕は問う。しかしながら長門さんは余裕の笑みを浮かべながらやれやれと両手を上げる。

「あの時、確かに私はエンジントラブルが起きていたわ。でもね、こっちにだって脱出用のパラシュートぐらいあるのよ。アンタが突っ込んで来なけりゃペイルアウトしてたってのに……」

「あの……それはつまり―――」

「邪魔だったてこと!」

ガシャン。と機械音がしてプロキオンはふんわりと着陸する。

「それはその……ごめん」

取り敢えず誤っておく。助けてあげたというのに怒られたのでこうして謝るのはいささか不本意ではある。

マニピュレータを地面へと降ろす。柵代わりになっていた指がゆっくりと地に着く。

「まあいいわ。今後は邪魔しないでよね」

彼女はそう言って不機嫌そうにプロキオンの掌から降りるとわざわざメインカメラに向かって「べぇ〜!」とやった。

「こりゃ相当嫌われてるな……」

僕の方がやれやれと言いたい気分だった。

 

 

 

 

「……彼がいなければ死んでたわね」

夜遅く。一人の私は格納庫にいた。私はボロボロになったAD〈アーマードレス〉を撫でるように触れ、「ごめんね?」と言った。

「あの時、私のADは完璧にコードを受け付けなかった。ウェアラブルコンピュータ事態にバグが起こってた……つまりあの状態で手動でパラシュートを引くなんてこと―――」

なんだかむず痒い気分になった。

私は気をまぎらざす為にADに触れる。抱きしめるように。

「……お父さん」

これが私の存在意義。戦わなくちゃいけないんじゃなくて戦うしかないのだ。

「瀬田 大輔……か」

彼の名前の口に出す。すると勝手に私の口は動いて「とんだ阿保ね」と言っていた。

本当に阿保だ。

本当に……

 

 

 

朝。C区画とB区画を繋ぐ列車に乗って僕は愛菜と登校する。通勤ラッシュを避けて学校に向かうと大体始業20分前に到着する。

「ねみぃ〜」

あくびをしながら廊下を歩く。昨日、一昨日とあんな事をしてればそれはそれは疲れるもので体は悲鳴を上げる。

「寝足りない」「もっと休ませろ」

僕の体の節々はそう語っている。

すると朝から教室の前に妙な人だかりができていた。その中には涼介もしっかりと混ざっている。彼奴にしては珍しく早い。

「おはよう涼介、今日は随分と早いなぁ」

「早いも何も、お前メールみたか?」

「はあ?」

しぶしぶと僕は眠い顔をこすりながら携帯を取り出す。どうやらサイレントマナーになっていた。

メールが一件。涼介からだ。

『長門 流希がウチの高校にいるぞ!』

「あー、長門 流希って……おい待て、何であの女がここにいる。つか、この人だかりは長門さん目当てなのか?」

「お前……当たり前だろうが!!俺達は長門流希親衛隊。長門嬢をMFLから守るのが俺たちの勤め!!」

涼介がそう高らかに言い放つと後ろにいた連中をうんうんと頷く。

「あっそ、きっとアイツはお前等が思ってるような女じゃないぞ?」

「なっ……大輔、お前長門さんと親交が―――」

涼介は取り敢えず無視する。人だかりを掻き分けようとするとまるでモーゼのように道が出来る。なんだ?と思ったら俺の目の前には……

「長門……流希……」

「昨日ぶりですね。瀬田君。いや、瀬田特技兵」

雰囲気が全然違っていた。昨日の勇ましい、髪の毛を縛った彼女の姿な無く、長い黒髪を垂らし、メガネを掛けた大人しそうというか優等生のような雰囲気を醸し出している。

「改めて。よろしくお願いします、瀬田 大輔特技兵。」

彼女がそう言ったや否や僕は押しつぶされる。そう、例の親衛隊に。

「貴様!長門様とどういった関係だ!!」とか「この無視が!長門様の露払いは我々が!!」とか「長門様は俺の嫁!!」とか言いながら。

親衛隊に押しつぶされる僕を見ると長門さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、教室へと戻っていく。

その後、担任の西東先生にきっちり絞られたのは言うまでもない。

説明
今から17年前。東京を壊滅させる程の何かが起きた。都市は破壊され、日本は17年の歳月を経て首都を長野県へ移した。しかし、『何か』がもたらしたものはそれだけでは無かった―――
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