外史異聞譚〜幕ノ二十六〜 |
≪漢中鎮守府/北郷一刀視点≫
さて、俺は現在とっても暇である
まがりなりにも太守なのに何故暇なんだ、と言われても暇なものはしょうがない
ちなみに、俺以外の全員、令明も含めて馬車馬のように働いている
結局洛陽では大量の捕虜を抱えきるのに問題があり、漢室のお膝下という理由もあって、確保した捕虜を全部漢中で背負ったというのがその理由だ
いやあ、歴史では黄巾の乱って100万とも1000万とも言われる農民反乱だったけど、その六割近くを捕虜にするなんて、さすがの俺にも予想できなかった…
おかげさまで現在の漢中の国庫はからっぽで、黄巾の乱の前には一汁一菜でも結構贅沢というか彩り豊かな食卓だったんだけど、今の俺は主食も汁物も蕪一色である
いや、食えるだけでもありがたいんだけどさ…
そのうち、メニュー改善とかも考えないといけないかな
とはいえ天の国の食事なんて、1800年後ってこともあり、基本的には再現不可能か非常に高くつくような料理ばかりなんだよね
後、漢中で何がありがたかったかというと、秦代にはここや巴蜀は流刑地だったわけなんだが、現在では良質の米が産出される穀倉地帯だっていうのがありがたい
水稲はさすがに生産制限をして小麦や大麦といった穀類の生産を優先しているけど、日本人の俺にはやはり米が必要なのである
品種改良に関しては巨達ちゃんと伯達ちゃんがなんか言ってたっけかな?
現状の穀類はなんか色々と弱いらしいので、公祺さん達と試験場を作るとか言ってたっけな
まあ、紀元前から蕪やらも品種改良されてたんだから、この時代でもやってやれないこともないだろうし、問題は受粉だな
養蜂による受粉は冬にはどうしても南方にいかなければならないので、現在巴蜀の劉君郎と商業交渉中らしい
まあ、劉君郎が俺の知る通りの人物なら下手に交渉すれば食い殺されかねないので、そこは漢中としてでなく“流民”として上手に入り込むように指示はしたけどね
ま、そこは子敬ちゃんと元直ちゃんが上手くやってくれるだろう
各地を回る職業はその大半は、現在漢中では間諜を兼ねたりしているしね
特に個人行商は“漢中の宣伝にもなり経済効果もあげられる”と子敬ちゃんが地味に力を入れていて、それに乗っかる形で元直ちゃんが情報収集をさせようとしている、という訳だ
これら行商人による情報網は、今では漢中を支える一大情報網を形成している
上庸と漢中の間にも交易港を兼ねた関所もほぼ完成し、これが軌道に乗ればかなりの貿易収入が見込めるようになる予定だ
重量物や大量輸送にはやっぱり船が向いているってことだね
大量の農奴に関しては、元からの住民や難民流民より厳しい律を提示することで一般の農民とほぼ同程度の待遇を約束している
まあ、何が違うのかというと、軍指揮下での作業を5年間続ければそれまでに開拓した農地を分配するという事と、その過程で選抜された中で希望する者を兵として登用する、という点、あとはその間に犯罪を犯したら今度こそ本当に奴隷として扱う、という点くらいなものだ
農奴とはいっても家族や親族の招聘も認めているため、実質人口は洛陽・長安に次ぐ規模を持っているのが現在の漢中である
この状況に軍関係者も当然悲鳴をあげることになっていて、なんというかみんな目が血走っている
柔軟な指揮を可能にするため、俺がいくつかの組織図を提示し、それに修正を加えてもらったものが現漢中軍の組織なんだけど、中級以上の指揮官を選抜するだけで一苦労という状態らしい
でもまあ、基盤はできていたのでそう時間はかからずに組み込めるという話だから、それまでみんなには泣いてもらおう
仲業と儁乂さんがたまに奇声をあげてるとか聞くので、そろそろ壊れかけてるのかも知れない
仲英さんと令明も現在は泣いているかも知れない
このふたりの部隊はその性質上、色々と特殊になるため人員選抜や運用に関しては結局自分で監督してやらねばならないらしく、全く手が抜けないという事らしい
人が増えれば揉め事も増えるということで公祺さんと令則さんも火を噴いている
諸侯への様々な問題を全員に押し付けられた皓ちゃん明ちゃんは机の前で毎日泣きながら踊っているらしい
懿はたまにやってきては俺に椅子になるのを強要して帰る
あの懿が目を血走らせて髪を振り乱してやってくるので、俺としてはオッカなくて逆らう事ができない状態だ
ものすごく蛇足なんだが、一度これを伯達ちゃんに見られたところ、毎日誰かが俺を椅子にしたり敷物にしたりするようになった
一見すると俺に対するご褒美に見えなくもないんだが、毎日はさすがに厳しい
これは俺が贅沢を言っているんだろうか…
まあ、こんな感じで今の俺達は余暇ともいえる僅かな平和を満喫していた
≪???/北郷一刀視点≫
おっと、そういえば各諸侯の動向について話しておこう
まあ、有力なところ以外はたいして気にもしていないんだけどね
って、俺は誰に向かって話してるんだろう…
まあいいか、自分の思考を纏めるってことで
てことでまずは河北の雄、袁本初
彼女は河北の騒乱を一気に鎮圧した功績を特に賞され、非常に面目を施した形となる
宮中での位階もあがり、漢室直属の軍として任命されたという点は袁本初にとっては当然ともいえる待遇をようやく得た、というところだろう
事実上河北の支配権を与えられたという事もあり、今頃は喜悦で高笑いしているに違いない
(おーっほっほっほっほっほっほっほ!
当然ですわ!!)
なんか聞こえた気がするけど気のせいだろう、次いこう次
次が南陽の袁公路
これも宮中での位階をあげ、実質的に荊州とその東南部を手にして面目をおおいに施している
肝心の異母姉である袁本初との関係は良好とは言い難いようだが、手にしている地域が違うため、現在は冷戦状態といったところか
実質的な宮中官位や影響力は一歩劣っているが、その権勢は拡大されたといっていいだろう
(当然なのじゃ!
なにせ妾は名門袁家の本当の当主じゃからの!!)
(お嬢さま、何もしてないのにタナボタで得られたものに威張るそのお姿、最高です〜)
またなんか聞こえたような…?
気にしたら負けだ負け、次にいこうか
そして、この乱で一気に名を揚げたのは曹孟徳
さすがは後の覇王というべきで、その軍は諸侯など話にもならないくらい精強で軍律が厳しかったらしい
しばしば略奪に走る諸侯豪族の軍勢と一線を画したそれは、宮中でも絶賛されることとなり、袁本初と同じく漢室直属としての身分を新たに得て、正式に領地と兵馬を得るに至っている
彼女にしてみれば、ようやくスタートラインに立ったという所だろう
(当然よ!
私はこんなもので満足しないわ!!)
幻聴が激しいな…
後で公祺さんか華陀に診てもらおう…
で、劉玄徳であるが、彼女も義勇軍としての活動を認められることになった
河北平原の相を任じられ、これより漢室の臣として活躍することを期待されることとなる
彼女にしてみればようやく拠点が得られた訳で、まずは一安心といったところだろう
まあ、実質上は袁本初の下という扱いではあるが、その政治にいちいち袁家を通さなければならない程の身分でもない訳で、これで一息つけてようやくというところか
(うん!!
私、これから頑張るよ!!)
おかしいな俺、暇すぎてどうにかなったんだろうか…
孫伯符は、こちらの目論見通り、この乱では一切名前をあげることはできなかったようで、当面は袁公路と食い合いを水面下で続ける事になりそうだ
面倒な敵は少ないに越したことはないのだけど、多分英雄補正とかでどうにかしてしまいそうな予感はしている
面倒だなぁ…
(ぜっっっっったいに!
このままで終わるもんですか!!)
あれ?
なんか怖気が…
よし、気にしない気にしない、一休みひとやすみ…
涼州連合はこの乱の間は、五胡の襲撃を抑えるのに必死だったようだ
まあ、匈奴が静観の姿勢を見せたことで、他部族が遠慮をしなくなった、というのが大きい
涼州諸侯を束ねる馬寿成が近年体調を崩していると聞き及んでおり、その娘の馬孟起が主に前線で指揮をしているらしいが、母親と違って政治など全くできないようなので気にする必要もないだろう
(うわ…
アタシなんか酷い扱いなんだけど…)
(お姉さまのお漏らし癖が治らないからだと…あいたっ!!)
聞こえんきこえん
これは幻聴だ幻聴…
後は漢中の立場でいうなら、別に特筆するような人事はなかっ………
ああ、そういえばあの人がいたな
北平の公孫伯珪がいたっけか…
でもこの人、色々と河北で頑張ったらしいんだけど、なぜか情報が入ってこないんだよな…
まあ、多分忘れてもいい人なんだろう
忘れるのはすっごく危険な気はするんだけど、どうしても覚えてられん…
(覚えてないとか残念とかいうなーっ!!)
そして今は俺達漢中の唯一といえる同盟者である董仲穎であるが…
これもある意味、俺が待ち望んだ情報と共に、その近況はやってきた
≪洛陽宮中/世界視点≫
そこは血の海となっていた
その海に漂うのは大将軍・何遂高
現皇帝劉弁を擁立し、十常侍と対立を続ける現漢室の最高権力者のひとりである
一説には霊帝の遺言を握り潰して外戚として権力を握ろうとした稀代の奸臣である
その出自は低く、周囲には“肉屋の小倅”と侮られるような様であった
もっとも、そう侮られるのも無理はなく、金と縁故で現在の地位に登り詰めたような男であるから、本来その地位に要求されるような人望や実績・能力がある男では決してない
そして、このような人物にありがちな事ではあるが、権力の増大に比して自己顕示欲は強くなり同様に我欲も肥大していく
そうなれば邪魔なのはいまだ宮中に権勢を誇る宦官・十常侍である
何遂高はこのような状況を打破すべく、涼州の田舎豪族のひとつに目をつけた
それが董仲穎である
元々権力欲などなかった彼女に目をつけ、大将軍の地位と勅を盾に洛陽に呼び込み、その精強な兵馬を自分のものとして頃合を見て宦官を一掃して真の権力を握る
これが何遂高が考えた筋書きである
しかし、彼は大きな誤算をいくつもしていたといえる
ひとつは董仲穎が彼の予想以上に権力欲や栄華というものに対して淡泊な人物であったこと
一言でいうなら毎日をのんびり過ごすのが大好きな“田舎娘”だったのである
これでは地位や財貨を餌に操ることもままならない
ふたつめには、董仲穎が擁する兵馬はとても彼の手に負えるものではなかったことである
強い、確かに強い
しかし、建前としてはともかく、それら兵馬は彼に御しきれる範囲を遥かに超えていたのだ
その点では涼州を“所詮は田舎”と侮っていたツケが回ってきたともいえる
みっつめには董仲穎麾下の軍師将軍が、これまた彼の手に余る人物ばかりだったという事である
基本的に剛毅で清廉であり、とにかく贈物が通用しない
しかも、こちらの官位に頭を下げはするが嘲弄しているのが見え透いている
これでは自分の役には立たない
そしてこれが一番の誤算といえる部分でもあるが、ある意味僥倖ともいえる事柄である
董仲穎が彼の想像していたものと異なり、非常に可憐で楚々とした美少女だったことである
ある意味彼は狂喜したといってもいい
場違いにも己を知らぬにも程があるが、彼女に懸想したのである
当然、彼女が靡く訳もない
しかし、何遂高はある意味非常に粘り強かった
こうして日々鬱屈していく状況の中で、とうとう彼は爆発したのである
彼にしてみれば、自分の権力や身分に従わず、その身を心を差し出さない彼女に思いを持て余しただけであろう
付け加えるのであれば、そうして強引に事に及んでも、彼を責められるものなど宮中に存在しないのだ
こう考えて実行に及ぼうとした結果、これあるを読んでいた者達の手にかかり、声ひとつ上げることができずに血の海に臥す事になった、というわけだ
このような未来を予想していたはずもなく、哀れといえる最後ではあるかも知れない
そして、そこに3人の少女が駆け込み入ってくる
少女達が見つけたのは抱き合って震えるふたりの少女
「………いつかこうなるとは思ってたけど、とうとうやっちまいよったか…」
「………違う、ボク達じゃない………」
青龍刀を携える少女の呟きに、眼鏡の少女が応える
と、方天画戟を肩に担いでいた少女が柱の影にその鋒を向ける
「………………そこのお前、出てこい」
その言葉に、入ってきた少女達はそれぞれの得物を構え、抱き合っていた少女達はお互いをきつく抱きしめる
柱の影からは誰も出てこず、ただくぐもった男とも女ともつかぬ声だけが返ってくる
「お静かに
漢中太守が貴殿達と成した約定により、御身らをお守り仕りました」
「なん、だと……!?」
大斧を構えていた少女の口から漏れた言葉に、柱の影から響く声はこう応える
「漢中太守の申された約定より“董軍令様が嫌でも宮中で動かねばならぬ事態”と判断致しました
故にこれより、我ら一同、かのお方が洛陽に参られるまで御身らをお守り致します」
そして気配は消え去る
呆然とする彼女らの耳に凶報が飛び込んだのは、それから間もなくのことである
十常侍をはじめとする宦官官吏、5000名余殺害という、信じられない出来事と共に
説明 | ||
拙作の作風が知りたい方は 『http://www.tinami.com/view/315935』 より視読をお願い致します また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します 当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです 本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」 の二次創作物となります これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール 『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』 機会がありましたら是非ご覧になってください |
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コメント | ||
ハムの幻聴だけ聞こえないとかヒドスwwwwwwwwwww(通り(ry の七篠権兵衛) 3ページ目:これあるを読んでいた者達の手に〜→これを読んでいたある者達の手に〜 かと思われます 天譴軍の皆(一刀君除く)が馬車馬の如く働いている最中に董卓軍の方は状況が一変しましたね。以前約束した事を彼らは守ったんですが、一体どういった対価を董卓軍の面々は支払わされるのか。続きに期待させていただきます。(田吾作) |
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