brotherly |
「父さん、弟か妹が欲しい」
そうティルが言うと、テオは顔を引きつらせた。
グレミオもクレオもパーンも、幼い主を驚いた表情で見つめる。
「お土産でいいから」
その夜――ティルが寝てから家族会議?らしからぬ物が開かれた。
内容は勿論、昼間の要望について。
普段、遠方に出かけているテオが帰った為、ティルが我儘を言っただけだ。
だが、内容が内容なだけに、どうしようかと思った訳である。
出来れば叶えてやりたいのだが、とテオが妙に渋い顔をしながら呻った。
「兄弟……が欲しがるのも判らん訳では無いが……」
ティルの母、つまりテオの妻は既に死別している。
そのため、欲しいと言われても出来ないものは出来ない。
其処まで考えて、テオはハッと顔を上げた。
まさかソニアとの噂を聞いたのだろうか。
いや、まだ噂になるほど話した訳ではないが……。
そもそも彼女も、グレッグミンスターに殆ど帰ってこない。
それならば何が理由で――
「あの、テオ様?」
思いに耽っているテオにグレミオが声を掛ける。
それにハッと顔を上げて、何でもないと苦笑した。
はー、と自然に溜息が漏れる。
四人は揃って、何かを考えるように首を傾げた。
「ぼっちゃんは……寂しいのかしら」
クレオがポツリと呟く。
それに他の三人は驚いた風に視線を向けた。
「流石に、慣れたと思う」
テオが居なくて寂しい、と思うなら。
そう思ってパーンは首を振った。
ティル自身も、既に泣きわめく子供では無い。
父親が居なくても、代りに居るグレミオで十分代りになっている。
「……そう思うと、不甲斐ない父親だな……」
はあ、とテオが溜息を付く。
仕方が無い事だといえ、ティルがどう思っているのかと気になる所だった。
「いえいえ、ぼっちゃんはテオ様を尊敬してますから。その点は大丈夫ですよ」
ニコリとグレミオがテオに微笑む。
その笑みは取り繕うものでもなく、それが真実だと物語っている。
「でも、クレオさんの意見は正しいかもしれませんね」
「意見って……寂しいという事か?」
クレオが聞き返して、軽く眉を顰める。
それにグレミオは頷いた。
「世話役として言える事では、ぼっちゃん、最近よそよそしいんです」
何、と皆の視線がグレミオに集まる。
「もしかして、反抗期かもしれませんね」
「……それで纏めるのか」
期待した自分が馬鹿だったという風に、クレオが顔を伏せた。
同じようにパーンも呆れた風に溜息を付く。
期待した反応と違うので、グレミオが困った風に眉を顰めた。
「えっ、違いますか?」
「反抗期……か」
そうなんだろうか、とテオも首を傾げた。
眠っている自分を見下ろして、何だか不思議だな、と思ってみる。
今、目を覚ましたらどんな顔して僕を見るのだろうか。
驚くのだろうか。
夢だよって言えば、素直に信じるのだろうか。
この頃は確か……其処まで素直でも無かったから、前者だろう。
ビッキーに再会して、とある物事に気が付いた。
それをルックに問い詰めてみると、嫌な顔をしながらも教えてくれた。
瞬きの紋章はテレポートの術が使える。
それが更に、過去や未来にも行ける……時があるらしい。
大概が失敗する大技だ、と彼は言った。
飛び越えてきたビッキーは、失敗で来たと言えばそうだった。
過去に……テレポートをしてみよう、と何気なく思った。
未来には、興味がない。
先に知っても面白くない、という所がある。
それに――昔の自分を他人の目で見てみたかった。
昼間は、グレミオに悪戯をして家から逃げるように飛び出していた。
何て危ない事をしているんだろう、と見ていてハラハラした。
せめてパーンでも護衛を付けないと危険だと思った。
テッドにも言われていたけれど、幼い頃の僕は歩く身代金。
誘拐すれば金に有り付けそうな気がする。
と言っても、天下のマクドール家に喧嘩を売るようなものだけれど。
あれ……そういえば、テッドは?
まだ、居ない時期の過去……か。
「あっ」
幼い僕は屋敷を出て直ぐの大通りに出る前に、グレンシールに捕まっていた。
父さんの片腕であるグレンが此処にいるという事は……あっ、アレンもいる。
となると。
「お帰り、父さん」
嬉しそうに笑う僕を、父さんが抱きかかえていた。
……いつの時期なんだろうか。
父さんが帰ってくるのは頻繁じゃなかったから……思い出せば思いつくと思うけれど。
「グレミオに言ってくるね!」
本当に心底嬉しそうに、僕が屋敷に駆けて行った。
さっき、グレミオに怒られて逃げ出してきた事など忘れて。
「おや……何がご用ですか?」
不意に声を掛けられて、反応が遅れた。
見ると、父さんが僕の方を向いている。
屋敷の前に突っ立ってたから――不審に思われたのかもしれない。
実際に、グレンシールとアレンの視線が結構きつい。
「いえ……別に」
念のため、と普段のマントでなくローブを着ていたのは幸いだった。
フードを深めに被り、パッと見では表情まで判らない……と思う。
でも幾ら昔でも僕の顔を見れば、父さんは気付くかもしれない。
「……お子さんに、友達は居ないのですか?」
余り不審がられないように、差し当たりの無さそうな話題を出してみる。
「友達?」
父さんは一瞬考えたようだったけど、軽く首を傾げた。
「そういえば、余り聞いた事なかったな……」
「さっき、一人でお出かけなされたようでしたが」
グレンシールが囁くように言うと、父さんが驚いた表情をした。
それを少し見た後、サッと立ち去る。
こんな風にすると不審に思われただろうけど、余り長居はしたくなかった。
……未来に影響を与えてしまうかも。
その辺は、帰ったらルックにでも聞いてみよう。
「……………」
不意に、昼間に会った人の台詞を思い出した。
暫く考えてみたが、グレミオの言う通り反抗期とは思いにくい。
第一、反抗期だったら私に要望など言ってこないのだろう。
となると――考えられる限りでは、クレオの言った通り。
「グレミオ」
テオに呼ばれて、グレミオが静かに振り向いた。
「ティルに親しい友人が居るか?」
「えっ……」
待って下さい、と一言置いた後、グレミオは思い出すように俯いた。
それを暫く待つつもりで居たが、彼は直ぐに顔を上げる。
「友達は居る事はいると思うんですけど、親しいと言えるかどうか……」
「…………」
昼間、一人で出かけようとしていた姿が思い浮かぶ。
テオは軽く溜息を付いた。
「ティルは寂しいんだな」
テオ一人で完結してしまった為、他三人が不思議そうに顔を見合わせる。
その反応に苦笑しながら、テオは軽く頷いた。
「兄弟は無理だろうが、ティルの願いは考えておくか……」
心の通える友人を。
年頃になれば、グレミオやクレオでは対応できないこともあるだろう。
他愛のない恋愛話や遊びの事は、同世代の子でなければできないことだ。
もう一人の自分の、規則正しい寝息を聞いていると何となく眠くなってきた。
時間は――元の時間帯でも、同じように流れているんだろうか。
そっと顔を覗いてみると、僕の気配を感じたのか少し身動ぎされた。
「……テッドと、父さんを大切にしなよ」
出会いは偶然でも別れは必然。
僕が下手に弄ったから、もしかするとこの僕はテッドに会わないかもしれない。
それは……それで良い事かもしれないけれど……。
テッドにとっては、悲しい事かもしれない。
――それに、僕には変わりようがない。
「…………」
誰かが、一階の廊下を歩いている。
多分、僕の様子を見に来たグレミオだろう。
窓の側にある樹に飛び移り、静かに屋敷から出るなんて事は十分慣れてる。
この頃の僕は小さくて、未だ出来ないだろうけど。
窓を閉めておけば、別段不審がられないだろうし……。
「テッドは、今、何処に居るんだろうか……」
あの僕は未だ小さかった。
もうちょっと――先の話かもしれない。
説明 | ||
幻想水滸伝。 結構前に書いたものですが、個人的にも気に入ってるものです。 坊ちゃんとテッドの関わりみたいなものです。 |
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幻想水滸伝 テッド 坊ちゃん | ||
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