外史異聞譚〜反董卓連合篇・幕ノ十三/虎牢関編〜
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≪虎牢関/?令明視点≫

 

私は時を置かず、令則殿と仲業殿を伴って虎牢関へと向かいました

 

このお二人が共にある理由は、ふたりとも守勢に強く非常に我慢強い性質の武将であるため、一刀様が想定された事態となったときに将兵を宥めることができる、と皆で相談した結果です

もっとも、令則殿は最初は自分ひとりで十分だ、と主張していましたが

 

筆頭軍師である元直殿も、という意見もあったのですが、それはご本人が首を横に振りました

元直殿がいうには

「私は武人としての気質も高いため、そういう場ではむしろ流されやすい」

と自己評価をしておりました

 

先の華将軍での一件も、自分が現場にいないから冷静になれただけで、そういう意味では現場には居ない方がいい類の人間だ、と苦笑していたくらいですので、割合に短気なのかも知れません

 

私が同行するのは、もしもの場合に少しでも呂将軍を止められるのは私しかいないだろう、との判断によるものです

できればそのような場が来ない事を祈りたいものですが

 

我々としては、とりあえず一騎討ちが始まってしまっていた場合と、将兵が激発していた場合、それと激発しそうになっていた場合に関してのみ打ち合わせておきました

 

馬上での打ち合わせなので煮詰めるなど不可能なのですが

 

 

こうして我々は虎牢関に着いたわけですが、一刀様の予想とは違い、いまだ睨み合いが続いてる状況のようで、むしろ将兵は明るく士気も高い状態のようです

 

両将軍も城門の上で待機はしておられるようですが、むしろ余裕があり酒盛りにでもなりそうな雰囲気とのこと

我々はその事に安堵しつつ、兵に案内してもらい、城門の上へと向かいます

 

「おー!

 なんや自分らも結局来たんかい

 先日はおおきになぁ」

 

張将軍が

「20万の軍勢を肴に飲めるやなんてそうそうないでー」

と言いながら機嫌よく杯を傾けています

天譴軍なら厳罰ものですが、不思議と不快感を感じません

令則殿もそう思われたようで、苦笑しつつ話しかけています

 

天譴軍が陣中での飲酒を基本的に禁止しているのは風紀面より安全面が主な理由で、一定以上の酒の摂取は止血が困難になるためという理由があるのだそうです

 

呂将軍は大量の饅頭を前にもふもふと食事をしています

羨ましいと思いましたが、腹筋を引き締めて堪える事とします

 

ともかくも陛下が虎牢関にこられるまでは我々も駐屯するということで話はまとまり、雰囲気も和やかといえる状況になった頃にそれは起こりました

 

袁紹軍の方から武将がひとり、騎馬に乗り駆けてきます

 

「?

 なんやあれ?」

 

「ふむ、見た目はいいのだが、惜しいな…

 もう少し若ければ着せ替えでもしたいところなんだが…」

 

「……………………くるくる」

 

誰が何を言ったのかは敢えて言いますまい

 

我々に確認できたのは、見た目だけは見事な装飾過多の馬に乗り、見事な金髪を“くるくる”としか表現できない状態に見事に仕上げた女性がひとりやってきた、という事です

 

その女性は声の届く位置までくると、手の甲を口元に当てて胸を張り、高笑いをはじめました

 

思わず私は引いたのですが、それは皆も同じだったようです

 

袁本初と名乗るその女性は……

袁本初!?

 

私は皆と顔を見合わせます

 

あれがこの諸侯連合の発起人であり盟主でもある袁紹か

 

和やかだった空気が一気に変わりました

それはそうでしょう

わざわざ諸侯連合の盟主が舌戦を仕掛けてきたのです

 

令則さんが呂将軍と張将軍に小声で伝えます

 

「うちの一刀さんからの伝言です

 重ねて挑発には乗らないように、と」

 

それににやりと笑って張将軍が答えます

 

「わかっとるがな

 ウチらの名誉もあのドアホウの名誉ももう守られとるんや

 今更出ていく理由はこっちにはないで」

 

基本的にこういった舌戦に応えないのは礼儀を失している、もしくは自分達の立場に自信がないというのが常識です

 

しかし、この場合はそれに該当しません

我々は陛下の親征を待つ身であり、それに応えるべき立場ではないからです

 

仮にも名門の出自たる袁紹がその程度の道理を知らないとも思えないのですが、そこに一刀様の予測を当て嵌めれば納得がいきます

 

袁紹は我々に殺される事によって最後の名誉を守ろうとしている

 

袁紹の誹謗中傷弾劾に徐々に将兵達が騒ぎ始めますが、我々は逆に冷めていきます

 

それは、最初のうちは怒りを覚えていた張将軍や呂将軍にしてもそうです

 

一見余裕をもって見下したように舌鋒を繰り広げる袁紹ですが、一度冷めてしまえばいやでも理解できてしまうのです

彼女がどれだけ必死であるか、ということが

 

ぽつりと張将軍が呟きます

 

「なあ…

 ウチらは本当はこないな事いったらあかんのやろうけど、ここまでひとりの人間に恥ぃかかせて、そこまでして諸侯全部の勢力って削がなならんもんなんやろか…」

 

私達は押し黙ります

そもそも、流言を用いて諸侯連合の成立を誘発したのは我々天譴軍なのです

それに答え得る口があろうはずがありません

 

袁紹を眼下にずっと考え込んでいた令則さんが答えたのはそのように私が思い悩んでいたときでした

 

「我々はこれを受けるべきだと思います」

 

「令則殿!!」

 

思わず彼女を押し止めようとする私を、仲業殿が押さえます

 

「ボクとしてはそう考える理由が聞きたいかな?

 いくらあの一刀だって、道理が通らない事をそう何度も笑って見逃してはくれないと思うよ?」

 

令則殿は厳しい眼差しで袁紹を見つめながら答えます

 

「これが“軍勢”を擁してのものであれば我々が乗るのは論外です

 このまま冷笑しておけばいいんです

 私も馬鹿貴族が囀っている、で済ませます」

 

ですが、と令則殿は言葉を続けます

 

「袁紹は理由はどうあれ、今は諸侯と軍と一族の命運、他にもあるでしょうがそれら全てを背負い守るためにあそこにいます

 恐らくは勝てないことを承知した上で、恥を晒すことを厭わずに」

 

そして我々の顔を見渡して断言しました

 

「喩え陛下にどう思われようと、天の御使いがどう感じようと、自分が守るべきものの為に全てを差し出している人物には応えるべきだと、私は思うのです」

 

令則殿の言葉に、仲業殿が頷きます

 

「確かに策がどうであろうと、あの軍勢が漢中の民であの袁紹がボクだとしたら、形振り構ってはいないだろうね」

 

張将軍も頷きます

 

「せやな…

 あんたらの立場も悪うなるかもやけど、ウチらも首かけるよって、ここは見逃してもらうとしよか」

 

「参ったね…

 今度こそ何言われるかボクにも想像つかないよ

 とりあえずあの説教はごめんだな」

 

「あはは…

 あれで済めばいいんですけどねー…」

 

そう苦笑して首肯するふたりに、私も苦笑します

 

「本来ならば力尽くで、という場面なのだがな

 確かにこれを無視しては、我々は戦うべき理由そのものを失いそうだ」

 

そして我々は厳しい表情で袁紹を見つめ続けていた呂将軍に顔を向けます

 

「奉先、本当はウチら全員でいきたいとこやけど、ここは最強の武であるアンタに任すで」

 

「………………いく」

 

力強く頷いて駆け出した飛将軍を背に、我々は再び袁紹を見つめます

 

 

一刀様、これもまた武人の感傷でしかないのでしょうか

 

私には難しすぎる問題です

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≪虎牢関/世界視点≫

 

怒号に満ちた大歓声と共に、重く軋んだ音を立てて城門が開く

 

それに歓喜の表情を見せる袁紹

 

彼女は思っていた

例えどれほど悪し様に華将軍を詰り、董卓を謗り、彼ら将兵の心を傷つけようとも、この一騎討ちに応じる可能性は限りなく低い、と

 

袁紹の思惑では、この愚行を諸侯に非難され誅殺されるというのが一番大きな筋書きであった

 

それが、最後に来て少なくとも名誉を保てる形で終われる

 

本来は感謝すべき事柄ではあるが、それを正直に伝える場面でもない

 

彼女は城門からゆっくりと進み出る少女に、馬上から傲然と伝える

 

「おーっほっほっほっほっほ!

 猪将軍の仲間はとんだ腰抜けとばかり思っていましたが、少しはましな方がいらっしゃったようね

 特別に名前を聞いてさしあげてもよろしくってよ!」

 

緋い髪の少女は、俯き加減のままそれに応える

 

「………………第一師団師団長・呂奉先」

 

これがあの…

 

知らず袁紹の喉が鳴り、全身を汗が伝う

震える歯の根と指先を引き締め、彼女は叫ぶように返答する

 

「なるほど…

 この袁本初を討つには天下に名高い飛将軍でなくては無理という事ですわね!

 いいでしょう、かかってきなさい!!

 おーっほっほっほっほっほっ!!」

 

 

(いや、絶対にそうじゃないだろ!

 少しは自重しろお前!!)

 

 

心ならずも敵味方の気持ちがひとつになった瞬間と言えなくもない

 

袁本初、色々な意味で恐ろしい女である

 

そんな空気を他所に、呂奉先が呟くように彼女に尋ねる

 

「……………ひとつだけ聞いておいてやる」

 

「?

 この期に及んでなんですの?」

 

「……………………死にたくないなら言っておけ。加減はしない」

 

その言葉に気色ばむかのように本初は轡を引き締める

 

「…っ!!

 そのような減らず口、すぐに訊けなく…」

 

彼女は最後まで言うことができなかった

 

なぜなら、一気に間合いを詰めてきた奉先の一撃で、馬ごと吹き飛ばされたからである

もんどりうって地面に転がる彼女であったが、誠に運がいいと言わざるを得ない

真二つにされた馬の下半身の上に落ちたため、ほぼ衝撃を受ける事がなかったからである

運の悪い手合いなら、馬の下敷きになって終わっていたであろう

 

それを見つめている諸侯将軍の思いは同じである

 

予想以上に勝負になってすらいない

 

屠殺というにもまだ温い、ただただ一方的な虐殺

 

暴風と表現するのも烏滸がましい方天画戟の一閃に本初が耐えているのが逆に不思議である

 

一合毎に身体ごと吹き飛ばされ、自慢の容姿も髪も既に泥と血反吐に塗れている

 

その瞳にも既に力は無い

 

むしろ、数合とはいえよくぞ堪えた、と賞賛の念すら沸き上がる光景である

 

荒い吐息しか出ない袁紹に、呟くように奉先が話しかける

 

「………………おまえ、よくやった。誇っていい」

 

その言葉に地面を掻き毟りながら本初が身を起こす

 

「っ……

 なに、を偉そう、に……

 わたくしはまだ、負けてはおりませんわよ……っ」

 

その言葉に奉先は目を見張ると、はじめて肩に担いでいただけだった方天画戟をしっかと構える

 

「……………………おまえの事は覚えておいてやる。だから安心して逝くといい」

 

これが最後

 

天下の飛将軍が十全の構えで必殺の気合を見せる中、本初は痛みと衝撃で覚束無い身体を立たせ宝刀を青眼に構える

 

『はあああああああああああっ!!』

 

気合と共に重なるふたつの影

 

 

 

そして、鋼が砕ける音と共に、ひとつの塊が蒼天に舞った

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≪虎牢関/袁本初視点≫

 

こういうのを走馬灯というのかしらね…

 

まるで時間の流れが何十倍にも遅くなったかのようにゆっくりと迫る矛先を見つめながら、わたくしはそのような事を考えていました

 

 

思えば、わたくしの出自はそれほど恵まれたものとは言えませんでした

 

母や父を恨む訳ではございませんけれど、名門袁家にあって妾腹という出自は、決して民衆が考える程よいものではありません

 

それでも、正腹である公路さんが産まれる前まではまだましだったといえます

 

影で妾腹と蔑まれ、表では時期当主として恥じぬようにと言われ続けたわたくしにとって、本当は袁家などどうでもよいものだったのかも知れません

 

そんなわたくしにとっての思い出とは、いつもふたつの出会いに集約されます

 

ひとつは、学舎時代

何時の間にやら髪型を同じくし、わたくしは模範的な優等生で華琳さんは優秀だが手の付けられない不良として、啀み合いながらそれでも楽しく過ごしていた事を思い出します

思えば、袁家の家名に皆が敬語を使って接するなかで、唯一無礼な物言いをしてきたのも華琳さんでした

わたくしはそれが決して不愉快ではなく、むしろ嬉しかった事を覚えています

お互い後に若気の至りともいえる花嫁強奪未遂事件を起こし、それを機に真名を交わしたのもいい思い出です

もっとも、これはわたくしにとっても華琳さんにとっても痛恨事ともなるのですが、それもまたいいでしょう

そういった意味で最初に心から笑ったのは、この学舎時代がはじめてだったのかも知れません

 

もうひとつは学舎を出てすぐの賊討伐の時でした

猪々子さんと斗詩さんに出会ったのがこの頃でしたわね

………あら?

そういえば、どうして猪々子さんと斗詩さんはわたくしに仕えるようになったのでしたかしら?

確か、賊を討伐にいったらそこに猪々子さんと斗詩さんがいて、いつものようにわたくしが名乗りをあげたら、何時の間にか宴会になって………

やっぱりよく思い出せませんわね

多分、わたくしの華麗で優雅な姿に降伏したか何かしたのでしょう

ともかく、わたくしにとって大事なのは、この日を境にわたくしを慕ってくれる友人がふたりもできたことです

猪々子さんは時折なんというかこう、ほっぺたを抓りあげたくなるような事を言ったりもしますし、斗詩さんにはわたくしの我侭で苦労をかけることもたまにはあるな、とも思いますが、打算抜きにわたくしを慕ってくれたのはこのふたりがはじめてでした

 

こうしてわたくしは袁家の長として、名門を背負うものとして日々邁進し努力を重ねてきたのです

 

猪々子さんや斗詩さんに支えられ、かつての思い出に支えられながら、世に恥じぬ人物たろうと過ごしてきた日々に今となっては後悔のひとつもありません

 

 

わたくしは元々、大抵の事はわたくしに都合よく物事が進みますが、自分でも今の今まで忘れていたことがあります

それは、ここ一番の大勝負では、運といいますか天佑といいますか、そういうものに見放される性質だったということ

 

それは学舎時代のあの思い出でよく知っていたはずでした

 

つまり、今のわたくしにとってはこの諸侯連合を発起したことは、それに類する“大勝負”だったということなのでしょう

 

とはいえ、どのみちわたくしには他に選ぶ道はありませんでしたから、やはりこれは天命というべきなのかも知れませんわね

 

それに、わたくしの運も最後の最後で戻ってきたようです

 

本当なら惨めに自陣で公路さんあたりに自刎を迫られていたであろうわたくしに、最後に名門貴族として、武人として死ねる機会が与えられたのですから

 

しかも、相手は天下に名高い飛将軍・呂奉先

 

わたくしの首を賭けるのに、これ以上の相手が天下に存在するはずもありません

 

「なるほど…

 この袁本初を討つには天下に名高い飛将軍でなくては無理という事ですわね!

 いいでしょう、かかってきなさい!!

 おーっほっほっほっほっほっ!!」

 

わたくしは歓喜に数倍する恐怖を押し殺しながら、精一杯の見栄を張ります

飛将軍はわたくしの言葉に憤る事もなく、ただただ獣のような殺意を叩きつけてきながら呟きます

 

「……………ひとつだけ聞いておいてやる」

 

「?

 この期に及んでなんですの?」

 

これ以上、まだなにかあるというのかしら?

そう思い思わず疑問が口にでたわたくしに、飛将軍は告げます

 

「……………………死にたくないなら言っておけ。加減はしない」

 

…っ!!

このわたくしにこの期に及んで命乞いをしろと、そうおっしゃるの!

しかも、いくら力量差が明白といっても、わたくしは騎馬で貴女は徒歩ですのよ!?

 

この暴言とも言える態度に、わたくしはさすがに憤りを隠せませんでした

 

「…っ!!

 そのような減らず口、すぐに訊けなく…」

 

そうして騎馬を廻らせ槍をつけようとした瞬間、それは起こりました

 

それは一陣の疾風……

いいえ、まさに死を運ぶ暴風でした

一瞬で間合いを詰めてきた飛将軍の姿を、わたくしは捉える事すらできませんでした

 

(え……?

 一体なにが………?)

 

わたくしの手足や腹に、かの方天画戟が届かなかったのは、果たして幸運であったのか不幸であったのか

 

次の瞬間、わたくしは地面に叩きつけられました

受身など取れるはずもなく、やはり僥倖というべきなのでしょう、ふたつに断ち割られた馬の下半身の上にその身を投げ出す事になります

 

「……っぐぅ!!

 ………かはっ!

 ……ごほっ!!」

 

詰まる息をなんとか吸い込み、必死で身を起こすわたくしを、飛将軍はただ見つめています

ありがたい事に降伏を問うつもりはないようで、方天画戟はその右肩に担がれたままです

 

そして、わたくしが構えると同時に、蚩尤すらも一撃で屠れそうな斬撃が襲ってきます

 

たった一撃

 

それを勘でなんとか受け止めたはずですのに、再びわたくしの身体は宙を舞います

 

(…こんな馬鹿なことが……っ!!

 いかな飛将軍とはいえ、これではまるで……っ!!)

 

わたくしが携えていたのが袁家伝来の宝刀でなければ、その一撃で砕け散り、そのままわたくしの体もふたつになっていたでしょう

 

「あぐっ!

 ………うぐ…っ!!

 ………がふっ!!」

 

そう、たった一撃で、わたくしは半日も鍛錬を続けていたかのように疲労しています

 

(これは、想像以上ですわ……

 さすがに洒落になりませんわね……)

 

しかしそれでも、わたくしは無様を晒したまま負けることはできないのです

 

せめて、せめて一太刀報いなければ!

 

血と汚泥に塗れながら立ち上がる私を、容赦なく飛将軍は叩き伏せます

いえ、容赦はしてくれているのです

わたくしが立ち上がるのを待っていてくれているのですから

 

わたくしにとっては百にも等しい斬撃と時間でしたが、多分ほんの数合なのでしょう

 

それでもわたくしの目は霞み、意識は朦朧とし、既に手足にも力は入りません

 

そうして地面に臥しているわたくしに、飛将軍が言葉を投げかけてきます

 

「………………おまえ、よくやった。誇っていい」

 

………なんですって!?

ここまで無様に、ただ叩きつけられ続けただけで身動きひとつできなくなりつつあるわたくしに、それを誇れと!?

 

その言葉に地面を掻き毟りながら身を起こします

 

悔しい!

情けない!

立ちあがれ袁本初!!

 

わたくしは誰だ?

 

名門中の名門、貴族の中の貴族、世に並ぶものなき袁家の長、袁本初ではないのか?

 

それが感謝すべきとはいえ、敵に情けをかけられ、それを誇る?

 

ありえない!

ありえないですわ!!

 

わたくしは残る気力を掻き集めて立ち上がり、その侮辱に対して精一杯の言葉を叩きつけます

 

「っ……

 なに、を偉そう、に……

 わたくしはまだ、負けてはおりませんわよ……っ」

 

わたくしの言葉に飛将軍ははじめて表情を変えました

その目を見開き、ずっと肩に担いでいたままだった方天画戟を構えて呟くように私に告げます

 

「……………………おまえの事は覚えておいてやる。だから安心して逝くといい」

 

(大陸最強の武に武人として名を留めてもらえるとは光栄な事ではありますけれど、わたくしはまだ諦めてはおりませんわよ)

 

そう、わたくしは今こそ示さなければならないのです

 

わたくし達諸侯の決起に恥じるところも負い目もなく、その気概と義憤を示すために

 

水関で散っていった、あの猛将のように

 

今にして思えば、あれはわたくしの不注意でした

せめて猪々子さんか斗詩さんを前線に出しておくべきだったのです

そうすれば少なくとも、あのような不名誉だけは起こらなかったでしょう

 

しかし、その悔いも今此処で取り返しましょう

 

届かぬまでも、せめて一太刀報いる事で!

 

わたくしが必死で宝刀を構えるのを待っていてくれたのでしょう

 

既に支えるのが精一杯のわたくしがようやく剣先をあげて構えたところで、飛将軍に今までにない裂帛の気合が漲ってきます

 

(……呂奉先!

 この一撃が今のわたくしの全てです!

 受け取りなさい!!)

 

『はあああああああああああっ!!』

 

 

ここまでの事が一気に思い出されたところで、ゆっくりと迫ってきていた矛先が、わたくしの愛刀である宝刀を打ち砕きました

 

その矛先は次の瞬間、目にも止まらぬ速さとなり、わたくしを打ち抜いていきます

 

そうしてわたくしの視界に映ったのは、遥か遠く、後ろにいるはずの華琳さんの強ばった顔と、涙でぐしゃぐしゃになった猪々子さんと斗詩さんの顔でした

 

(わたくし、大事な友人を最後まで泣かせてしまったわね………)

 

華琳さんは自分では気付いていないでしょうが、負の感情を押し殺すときはどうしても顔が強ばるのです

普通に見ていても多分判らないでしょうけれどね

 

猪々子さんと斗詩さんは、感情豊かでそれを隠す事もありませんから、やっぱり泣いているのでしょう

 

(ごめんなさいね

 でも最低限貴族としての義務は果たせましたわ

 後はお願いしますわね

 わたくしの大事な友人達………)

 

 

徐々に下がっていく視界の中で暗くなる意識を自覚しながら、それでもわたくしは心配はしてはおりませんでした

 

 

わたくしの友人達があとはきっとなんとかしてくれる

 

それを信じておりましたから………

説明
拙作の作風が知りたい方は
『http://www.tinami.com/view/315935』
より視読をお願い致します

また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します

当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです

本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」
の二次創作物となります

これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します


その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です

コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール
『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』
機会がありましたら是非ご覧になってください
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コメント
通り(ry の名無しさま>難産だった甲斐がありまする(小笠原 樹)
shirouさま>そういっていただけるとありがたいです。実はここの加筆が一番難産でした(小笠原 樹)
田吾作さま>まあ、ロクなことはせんかと・・・(小笠原 樹)
転生はりまえ$さま>基本的にそれはイコールですけどね、封建社会では、ですが(小笠原 樹)
いい加筆修正ですよね・・・ほんにありがとうございます。(通り(ry の七篠権兵衛)
前回の文に比べ麗羽の心情とかが加筆されててより背景がわかりやすくなってる感が。いよいよ新作部分に差し掛かっていきますが楽しみにしております。(shirou)
やはり天譴軍の皆も誰かの誇りを侮辱するような真似は出来なかったですね。ただ、彼女達のお陰で袁本初が最後に美しく散ることが出来たとあれば一読者としては良かったのかな、と思ったり。まぁ、サラッと一刀君がとんでもない事を言いそうで物凄く怖いんですが……。(田吾作)
袁家の誇りでなく自身の誇りのためにか・・・・良き君主であれってな・・・・(黄昏☆ハリマエ)
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