外史異聞譚〜反董卓連合篇・幕ノ十四/虎牢関編〜
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≪虎牢関/文季徳視点≫

 

あたいと斗詩は、麗羽さまの首が飛んだと同時に駆け出した

 

涙で目の前が曇ってるし、顔もぐしゃぐしゃで息をするのだって苦しいけど、そんな事はどうでもいい

 

確かに麗羽さまは我侭だし身分を鼻にかけるし空気も読まないし基本的に馬鹿だけど、それでも本当は不器用だけど優しいというか、ただ他人に対する甘え方とか気遣いの方法とか、そういうものが致命的に下手なだけで、こんな死に方をするような人じゃないんだよ!

 

 

姫は覚えてないかも知れないけど、あたいと斗詩を結果的に助けてくれたのだって姫だった

 

馬賊をやってて討伐されそうになったとき、あたい達を見ての麗羽さまの第一声は

 

「あら、思っていたよりみすぼらしい賊ですわね」

 

なんていう、今考えてもあたい達に喧嘩を売ってるのかって一言だった

 

ただ、これがなんというかいかにも麗羽さまで、これが嫌味とか皮肉じゃなくて、ただ本当にそう思っただけだったそうだ

 

あたい達も討伐されるってくらいだから結構それまでは暴れてたんだけど、姫はそれで一気にやる気をなくしたみたいで

 

「こーんなみすぼらしい賊なんか、わたくしが構わなくてもいずれ野垂れ死にするのがオチですわね

 見逃して差し上げますからせいぜい頑張りなさい

 おーっほっほっほっほっほっほ!」

 

なーんてすっごくムカつく事を言って本当に帰ろうとしてた

 

あたいはともかく、斗詩は可愛いし綺麗だし胸もおっきいので、思い切りそれに反論したんだけど

 

「あら?

 わたくしと美を競おうなんて、無謀な賊ですわね

 ……いいでしょう、ではみなさんに

 この、わ・た・く・し・と!

 その貧相な胸の貴女とそっちの貧相なお顔のお嬢さんのどちらがより華麗で優雅で美しいか、見て貰おうではありませんの!!」

 

てな感じで、なんというか戦う雰囲気じゃなくなって、結果として宴会というかそういうのになった

 

まあ、当時のあたい達はなんというか、賊をやってたんで服も化粧も髪ひとつとったって姫に敵うはずもなくて、結果として惨敗したんだけどさ…

 

そうやって姫と話しているうちに、なんていうのかな…

 

あたい達はこの人が好きになった

 

基本、自分勝手で周囲の迷惑なんか何も考えないし、やることなすこと勘弁してくれって事も多いんだけど、そこに悪気は全然なかったんだよな

ほっとけないっていうか、う〜ん…

あたいじゃ上手く言えないや

 

だけど、だからこそ言える

 

麗羽さまはこういう死に方をする人じゃない

 

もっとこう、姫が言うところの華麗で優雅な、それでみんなに「またかよ」とか呆れられながら、それでも笑って見送ってくれる、そんな死に方が似合う人だった

 

それが、それがこんな……

 

 

斗詩もあたいと同じ気持ちなんだと思う

 

二人で必死に走っていると、横に親衛隊の馬が寄せられてきた

 

見れば、親衛隊が馬を引き連れていて、そこに孟徳樣もいる

 

「あんた達、本当に馬鹿よね…

 走ったらどれだけ時間がかかると思ってるの?」

 

呆れたようにあたい達に馬上から声をかける孟徳樣に、あたいも斗詩も返事をしたつもりだったんだけど、孟徳様は溜息をついてあたい達に乗馬を促す

 

「今は無理に喋らなくてもいいわ

 とりあえず先に麗羽を迎えにいかないとね」

 

後を任されちゃったんだし仕方ないわよ、と不機嫌そうに呟く孟徳樣

 

(ああ、この人って麗羽樣が言ってた通り、かなり照れ屋なんだな)

 

そう思ったあたいは素直にそれを口にする

 

「孟徳樣って、結構照れ屋さんなんですね」

 

一瞬顔に朱を佩いた孟徳樣の強烈な視線に、あたいは失言を悟る

 

「………今度同じことを言ったら、その首刎ねてあげるから」

 

「……ごめんなさい」

 

ふと見ると、斗詩もあたいも涙は止まらないままだけど、気持ちに少し余裕ができてきたみたいだ

 

あたいのドジも、こうなるとたまには役に立つんだな

 

あたい達に少し余裕ができたのを確認したのか、孟徳樣が声をかけてきた

 

「さて…

 それでは急いで迎えにいくとしましょうか

 せめて身体だけでも取り返さないとね」

 

『………はいっ!!』

 

待っていてください、麗羽さま

 

今すぐあたい達がお迎えにいきますからね!!

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≪虎牢関/文仲業視点≫

 

まあ、ボク達にとってこの一騎討ちの結果そのものは決定事項だった

 

むしろ、よくもまあ十合に満たないとはいえ、粘ったものだと感心できるくらいだ

 

ボクなら馬ごと騎兵を吹き飛ばすようなのとやりあいたくはないね、本当に

その点では袁紹、君は本当にすごかったよ

ボクは素直に賞賛しよう

 

とはいえ、ボクはこのまま感心している訳にもいかない

 

なにしろボク達ときたら、呂将軍は言葉が致命的に足らないし、張将軍は根が優しいので相手にきつく当たれない

令則はこういう場合は律を優先した物言いを故意にするきらいがあるから逆に当たりがきついし、令明も言葉が多い方じゃない

となると、ボクがやるしかないわけだ

 

ボクは敵陣から駆けてくる騎馬の間に割り込むように馬を走らせる

 

気持ちは解るんだが、さすがにそこまで諸侯連合に譲歩する訳にはいかないんだよ

 

「済まないが、そこで止まってもらえるかい?

 もし一騎討ちを申し込もうというのなら、さすがにお断りをしないとならないんだけど」

 

人数はひのふの3人、か…

もし本当にやる気満々だとしたら、かなりきついな

うち二人は泣きっぱなしだし、てことは袁紹の部下の文醜と顔良かな

 

もうひとりは…

百合百合な曹操くんか

まあここで勧誘したり百合百合ったりはしないだろうし、まあいいか

 

「ボクは天譴軍の文仲業

 悪いんだけど、ここまで来た理由を聞いてもいいかな?」

 

ボクの質問に、泣いている二人に代わって曹操くんが答えてくれる

 

「本初の身柄を引き取りたいのだけど、それは許されないことなのかしら?」

 

あー…

やっぱりね…

ボクとしては是非にと言いたいんだけど…

 

「首以外は持ち帰ってくれて構わない、というのは納得してくれないだろうね」

 

「私としては、その言い分は当然よね、と言いたいところなんだけど…」

 

悪戯っぽく笑う曹操くんに僕は続きを促す

 

「約束しちゃったのよね

 後始末は引き受けるって」

 

あー…

やっぱり一刀はすごいわ

 

恐らくこういう展開になるってのも予想してたんだろうな

そうかそうか、一騎討ちだけで諸侯の罪状を問えなくなるなんておかしいな、とか思ってたりしたんだけど、ボクらにとって袁紹の首を確保するのが当然なように、向こうにとってもそうな訳だ

 

ここでこちらが首を確保すれば、表向きは罪科を袁紹が背負ったってことで、諸侯は首実検のために呼ばれる、という形になってしまう

 

ここであちらに首を渡せば、罪科は問えるけど事実上は諸侯連合に譲歩した事になるから配慮は必要になる、と

 

いやいや、やっぱり一刀はすごいよね

 

でもまあ、ボクらとしては首は譲れない訳で、そうなると卑怯かもだけどこう言うしかない

 

「ボクらとしてはどちらでもいいんだけど、ここでこちらに首を渡してもらった方がそっちの都合はいいと思うよ?

 一応、実検が終われば返還できるように具申はしてみるからさ」

 

「ひっく……

 えぐっ……

 本当に…

 えぐっ……

 還して……

 くれるなら………

 ぐすっ」

 

「うぐっ…

 我慢……

 ひっく………

 します…」

 

思わず曹操くんに「紹介してくれない?」と視線で伝えたボクなんだけど、なんというか泣いている女の子は苦手だなあ

曹操くんも溜息をついて紹介してくれる

 

「そっちの髪の短い方が文将軍で、大人しそうな方が顔将軍よ」

 

ああ、やはり予想は当たってたって訳だ

ボクはふたりにきちんと告げる

 

「確約はできないけど、必ず具申はさせてもらうよ

 それと…」

 

ボクは布に包まれた袁紹の首を、近くに寄ってきた呂将軍から借り受けると、丁寧にその髪を切り落とす

 

「具申はするけど確約はできないんでね

 せめて遺髪は持ち帰ってもらえるかな?

 こんな事しかできなくて悪いとは思うんだけどね」

 

感極まったのか再び号泣するふたりに髪を握らせて、それに縋って泣き続ける二人から視線を外す

 

そして馬首を返して戻ろうとしたボクと呂将軍に向かって、曹操くんがさらりと告げた

 

 

「そういう事で、盟主もいなくなった事だし、私達諸侯連合は降伏する事にしたから」

 

 

………いや、そんな事をあっさり言われても、ボクの手には余るんだけど

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≪虎牢関/張伯輝視点≫

 

この結果はお嬢さまにとってはまずまず、というところですね〜

 

かといって私達が何かした訳じゃあないんですけど

 

ここは本初さまに感謝しなくちゃいけないところです

 

それと、あの無謀な一騎討ちを受けてくれた人達にも感謝かんしゃです〜

 

これで袁家の存続と参加者の生命だけは保証されたようなものですので、後はこれからどう動くか、ですよね〜

 

とはいっても、今までのように宮中や諸侯に賄賂を贈るようじゃ多分逆効果です

 

そこが容認できるなら宦官官匪の大虐殺なんて、董卓さんはしてないんですからね〜

 

むしろ、しばらく領地の経営を誰かに任せて洛陽に居座る、というのもいいかも知れません

領地経営は下手に家臣に任せるより、ここはぱーっと陛下あたりにお任せしちゃうのもいいかもですね〜

これって一見責任放置に見えますが、なにしろお嬢さまお若いですから、自ら人質になって忠義を示しつつ、面倒な責任は背負ってもらいましょう、という事なんですよ〜

 

これって普通なら面子とかが邪魔しちゃってなかなか取れない手段なんですが、今回は本初さまが見事に散ってくださったので、良くも悪くも親族遠戚も口出しできないですし、むしろ袁家の安泰のためなら後押ししてくださるっていう訳です

諸侯もお嬢さまが率先してそれを言い出したら、それ以上の追求もできなくなりますしね〜

 

お嬢さまには花の都を満喫してもらえばそれでいいですし、後は頃合を見て領地に戻ればいいだけです

 

その上で孫策さん達の独立を支援する、という名目で実質的には両方に恩を売る、と

 

ま、こんなところでしょうかね〜

 

後はそうですね〜

 

曹操さんは多分仲良くできないですが、劉備さんは可能な気はしますね

 

この陣にいるうちに、ちょっとお話させてもらう事にしましょうか

 

文醜さんと顔良さんは、本初さまの首の扱い次第でしょうかね

 

……………この部分はすこ〜し小細工がいりそうです

 

ま、このまま袁家に残って嬢さまの側に来てくれればいいかな、程度で考えておきましょうか

 

 

後は曹操さんが頑張ってるところ申し訳ないんですが、お嬢さまを名目上でも諸侯連合の代表にしていただくようにしておかないといけませんよね〜

 

まあ、本初さまの首を取り返すにはそうでないと困る訳で、そこはすんなりいくと思うんですけどね

 

こちらはもう、ぜーんぶ本初さまにひっかぶってもらうつもりですので、そこのところをつつけば曹操さんの事です、名目上の代表なんて事にはこだわらないでしょう

そもそも、曹操さんは今はそういう肩書きが邪魔な位置にいたりしますしね

 

 

とまあ、そんな訳で〜…

 

私はさすがにこれ以上は傍観できなくなったため、今は本初さまの身体を取り戻した事で曹操さんが事実上仕切っている本陣に向かいます

 

そして、到着すると間を置かず、陣幕の前に立つ衛兵に笑顔で告げました

 

「曹孟徳さんにお取次ぎ願いますね〜

 張伯輝が来たと言ってもらえれば多分全部通じますので〜」

 

 

さて、これから色々と忙しくなりそうですよ〜

説明
拙作の作風が知りたい方は
『http://www.tinami.com/view/315935』
より視読をお願い致します

また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します

当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです

本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」
の二次創作物となります

これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します


その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です

コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール
『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』
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コメント
M.N.F.さま>英雄に限らず、かなー…(小笠原 樹)
gotouさま>いや、悪人からは程遠いかと。おばかさんなだけで…(小笠原 樹)
田吾作さま>愛すべき馬鹿ですし、本来は(笑)(小笠原 樹)
英雄とは得てしてそんなもん・・・(M.N.F.)
最期がきれいならなんか良い奴にみえる不思議(gotou)
なんだかんだで袁本初は慕われてたんですねぇ……やはり散るには惜しいなと思ってしまいます。さて、連合内部で不穏な動きが出てきましたが、どうもしこりを残してしまいそうな気がしますね。張伯輝はいかに立ち回るのか、続きが気になりますね。(田吾作)
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