外史異聞譚〜反董卓連合篇・幕ノ十六/虎牢関編〜
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≪虎牢関/文仲業視点≫

 

あはははははははは………

 

いや、確かに洒落にならない仕打ちが来るとは思ってたけどね

 

よもやここまで容赦がないとは、ボクもまだまだ認識が甘かったな

 

さすがのボクでも顔から血の気が引くのが判る

 

令則や令明の顔を横目で見てみれば、やっぱり血の気が引いている

 

そりゃそうだよねえ……

 

これ、本当にこの罰が通ってしまったら、令則が発狂するんじゃないだろうか?

 

いやまあ、ボクがどうして余裕に見えるくらいこうして思考が回ってるかっていうと、それについては考えるのをやめたからなんだけどね

 

あはははははははは………

 

笑ってる場合じゃないか

 

 

とはいっても、ボクらはこの場に立った時点で俎上の鯉な訳で、後は周囲の尽力に期待するしかないっていうのは確かだ

ついでに言うなら、一刀がこの場では無茶をいうのは想定内だった訳で、こういうと奇妙なんだけど、一刀が無茶を言えば必ず誰かがなんとかしてくれる、という妙な安心感がある

 

甘え、というのとは少し違うかな?

 

これが本当にボクらが悪くて理も認められないなら、それがどんなに酷い罰でもみんなはそれを支持するだろうし、ボクもそれを受け入れるだろう

 

だからこれに関しては漢中にいるときとは別人に思える程に外面が悪くなっている一刀にも少なからず非がある

 

ただ、なんていうのかな

 

ボクには違和感があるんだよね

 

一刀は確かに性格は悪いし色々捻じ曲がってるとも思う事も多いけど、少なくともここまで露骨に敵意を煽るような人間じゃない

もしそうだったら、そもそもボクらがずっと一緒にやれてきたはずがないんだ

 

確証がないから言えないけど、多分一刀にとっては董卓やその部下も、そして陛下も“敵”なんだろうな

 

だからボクらに見せる顔とはまるで違うんだろう

 

あと、これは仲達ちゃんと話してて思ったんだけど、どうも天の国ってやつには、ボクらのような武人はいないみたいだ

格闘技やらを生業にしている人間もいるらしいんだが、戦場なんてものは遠くの出来事で、武を生業にしてる人間も生命のやりとりなんてものは論外らしい

 

まあ、平和ではあるんだろうけど、味気ないというかボクにしてみれば灰色の景色の世界だね

 

でも、天の国がそういう場所なんだとしたら、そりゃあボクら武人に理解を示せるはずがない

 

そう考えたら腑に落ちる事が結構あるんだよね、ボクとしてはさ

 

 

だから令則の暴挙ともいえるこの行動に付き合ってる訳だけど

 

 

それでも、ボクらの意思の齟齬は必ず擦り合わせて埋めなくちゃならない

 

だったら身体を張るくらいはいいんじゃないかな

 

そういう意味では令則と令明は最悪の場合にはかなりどころじゃなく可哀想だけどね

 

そこもボクが上手に庇ってなんとかするつもりだけど

 

公祺と仲達ちゃんあたりを抱き込めば多分、ふたりの貞操はなんとかなるだろうし、そこはさすがに協力もしてくれるだろうさ

 

どこぞの曹孟徳くんみたいな趣味に目覚められたりするかも知れないけど、それでも少しはましだろうからね

 

 

さて、それは今考えても仕方がない

 

ボクはおとなしく待つしかないんだからね

 

これはこれで、地味にしんどいなあ……

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≪虎牢関/賈文和視点≫

 

ちょっと!

コイツ今何言ったか解ってんの!?

 

そりゃあ確かに、こいつらがボク達とはまるで違う、異質と呼ぶのも烏滸がましいものだってのは理解はしてたけど、これはもう異常とかそういう問題ですらない

 

これはボクがそういった経験がないからとか、そういう事ですらない

 

こんなもの、殺してあげた方が遥かにましだ

 

ボク達にとって“死刑以上”といえる内容の刑罰のひとつとして、生殖器を使えなくするというものがある

 

まあ、男の場合は後宮で権力を掴むために、身分が低くて学に自信がある男が自分から受けたりもするんだけど、身分そのものとしては、これを受けた時点で奴隷以下の存在だ

 

あと、男性の場合はこの手術をしても9割以上は生き残るんだけど、女性の場合はその、なんていうか、あそこを焼くので実際はほとんどが死んでしまうっていうのもあったりするんだけど

 

それで、これだと死亡率が高いってことで、貴人の女性に適用される事が多いのが、枷を嵌めて逃げ出せないようにして、全裸で外に放置するというもの

 

監視は当然つくんだけど、それは勝手に死なないようにするための監視であって、そこで何が起ころうが放置される

大抵は数日でおかしくなってしまうらしい

 

で、身分が低い女性の場合に適用されるのが、コイツが言ったような事だ

 

身分が低い女性の場合、結婚も認められないような身分の低い連中のところに端女として放り込まれる事がある

名目は掃除やら給仕の世話なんだけど、そこはもう推して知るべし

 

つまりはロクなもんじゃない

 

少なくとも、今目の前にいる将軍達のような身分の人間に適用されるような刑罰じゃないし、ボクの感覚ではそんな重罪でもない

 

謹慎や減俸、体罰がないというのならそれはそれで仕方がないけど、どう考えたっておかしいものだ

 

ボクも月も陛下もみんなも、そう感じたから真っ青になって立ち上がったんだけど、連中は顔は流石に血の気が引いているけど、あいつの言葉そのものは間違ってはいない、と思っているみたいだ

重すぎるとは感じてはいても、決して不当じゃない

そういう空気がある

 

尚恐ろしいのは、これで恐怖政治になってないという事だ

普通はこんな律、恐ろしくて誰も従えない

とっくに人民は漢中から逃げ出しているような、そういう厳しさだ

 

でも、実際に律が厳しくて逃げ出してきた民衆の話なんて出てきたことがない

もしそんなのがいるのなら、こいつらがどれだけ上手に情報を封鎖しようが必ず逃げ出す人間がいるし、行商人も寄り付かない状態になるはずだからだ

 

旅人は原則として、その土地の律に従うのが通例

ということは、こいつらの持つ律は確かに厳しいけれど、大半の民衆には量刑が重いというだけで特に生活に影響はない内容だという事になる

 

しかも、こいつらの口振りからすると、民より官により量刑が重く設定されているという事になる

 

これは最近知ったのだけど、望んで腐刑を受けた人間は、漢中では仕官が認められていないらしい

徹底的に代々の奴隷を開放し、量刑としての奴隷も一代限りとした代わりに、望んで身分を落としたような人間を助ける理由もない、という事のようだ

こいつが太守の時から妾どころか正妻すらもいないらしいので、宦官なんかに食ませる禄はない、という方針だとの事だ

 

諸侯連合に参加している曹操の持つ軍も鉄の軍規という事で有名なんだけど、こいつらは事によるとそれ以上の規律で軍や官を統制している、という事になる

 

 

ということは、ボク達に向かってこいつはそれをわざわざ見せつけている、という事だ

 

これはなまなかな事ではできない、高度な政治工作である

 

自分達の規律から見て目に余るようなら、ボク達も陛下も敵だ、と露骨に伝えてきているのだ

 

 

ボク達の常識を叩き破り、そして尚上から見下ろすかのように仕掛けてくるこいつに、ボクはもうひとつの意味で血の気が引くのを感じる

 

こいつが持つ悪人の仮面は多分これ一枚ではない

 

陛下が「悪人でもあるが善人でもある」とこいつを評していたと月に聞いたけど、こいつの理解しやすい顔に騙されていては、ボク達は本当に食い殺されかねない

 

 

ボクは果たして、この怪物から本当に月や陛下やみんなを守りきれるのだろうか

 

こいつだけじゃない、司馬仲達をはじめとして、多分ボクなんかより経験も豊富な綺羅星の如くといえる頭脳を数多抱えるこいつらに

 

 

いや、弱気になっちゃいけない

 

それでもボクはみんなを守ると誓ったんだから

 

 

でも、天譴軍という壁は、今も重く厚くボクの前に立ち塞がっている……

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≪虎牢関/司馬仲達視点≫

 

(これだから我が君は……)

 

私は表面上は微笑んだままで、内心でこれ以上ないくらいに壮絶な溜息をつきます

 

この、明らかに拍と間を見据えた偽悪趣味ともいえる言動は少しは自重していただきたいものです

 

まあ、どうせ我が君の考えている事ですから、ここまで無茶を言えば他の誰かがどうにかして突破口を思いつくだろう、とか思っているのでしょう

 

その考えは非常に正しいとは思いますし、本当にどうにもならなくなれば私が提案はしてみようと思いますが、また恨まれるだけだというのに、本当に困った人です

令則殿がこうして“わざとらしく”天律に反した行為を繰り返したのかも、仲業殿や令明が今回それに乗っかったのも、恐らくは理解していて尚、このような言動に走るのですからどうしようもありません

 

これだから皆の説教が絶えないというのに、本当に懲りないといいますかなんといいますか…

 

 

我が君が兵馬を整えるのに熱心でありながら、その実それらを非常に軽視し厭っているのは、既に全員が知るところです

 

令則殿はこれを機に将兵や将帥の感じ方や考え方というものを肌身で知ってもらうために、このような一見愚挙に思える事を繰り返してきたのでしょう

 

我が君の思考法と性格、そして捻くれ具合をよく把握した見事な策と言えます

 

この策の唯一の欠点は、策が成功した暁には自身の身命に全く保証のなかったことです

事実、さすがの私もここまで無茶を言い出すとは思っておりませんでした

 

いえ、律に当て嵌めるならむしろ順当なのですが、その程度は妥協するだろうと考えていた時点で、私の見通しも甘かったという事になります

 

それに我が君の事です

本当にこの三人がそこまで身を落とすような事になれば、一生一椀の雑穀粥で修行僧のような生活を送りかねません

いえ、絶対にそうなります

減刑がなったとしても三人が復帰するまではそんな生活をしかねないというのに、これ以上心労を増やされてはたまったものではありません

 

令則殿のようなやり方しかなかったとは私も思いますし、これで本当に我が君がその意図を理解しきっているかは不安なところではありますが、そこは後で一押しすれば問題はないでしょう

 

次に予想される戦は、天譴軍はじめての“侵略戦争”となるはずですし、その前にこういった形で我が君が抱えていた不安な部分を解消もしくは改善できるのは喜ばしい事ではあります

 

 

しかし……

 

やはりもう少し自重を願いたいと思う私は間違っているのでしょうか

 

皆が既に理解している事とはいえ、我が君の優しさは時を追う毎に伝わりづらいものとなってきています

これが無意識ならどうにかして庇う事もできるのですが、なにしろ故意ときています

 

ただ、これも確信できるのです

 

我が君の瞳の光の強さと純粋さは、はじめてお会いした時から全く変わっていません

 

そうであるなら、我が君にとってはこれらの言動は“最初から決めていた事柄”なのだという事になります

 

こうまで自戒に自戒を重ね、極端とも言える偽悪の衣を纏って同盟軍と接し、諸侯の力を徹底的に削ぎ落そうとする執念は、どこから来るのでしょう

 

 

多分、これはいい機会となります

 

我が君のこういった部分は、確かに私達の結束と相互理解を促進しており、それはこの洛陽で急速に深まってきています

 

事実上の施政も、既に我が君をほぼ必要としない状態であることも確かです

 

とりあえず、私は我が君を今更逃がす気は全くありませんので、ここらでひとつ自覚を持ってもらう事にしようかと考えています

 

 

その為にも、できれば私以外の方にこの状況を打破していただきたいものです

 

 

ですので、ぎりぎりまでは会議を見守らせていただく事に致します

説明
拙作の作風が知りたい方は
『http://www.tinami.com/view/315935』
より視読をお願い致します

また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します

当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです

本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」
の二次創作物となります

これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します


その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です

コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール
『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』
機会がありましたら是非ご覧になってください
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コメント
matsuさま>荒れましたしねえ…(遠く(小笠原 樹)
通り(ry の名無しさま>夫婦なのは決定なのか(笑)(小笠原 樹)
ここのシーンにみんなの思考を書いてくれたのには純粋にありがたいです。(matsu)
あー、一刀の心のどこかに「もう消えても大丈夫だろう」みたいな意識がどっかにあるんだろうか。自身の思考ではまだ未来だと言ってるけど。さすが夫婦だ、よく見てるよ・・・(通り(ry の七篠権兵衛)
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