外史異聞譚〜反董卓連合篇・幕ノ二十/虎牢関編〜 |
≪虎牢関・仮設謁見所/世界視点≫
謁見、もしくは会見と称した、諸侯連合にとっては事実上の査問会は、その日の正午より執り行われた
当然の事であるが城門より先に武器の携帯は許されておらず、馬や車を用いる事も諸侯には許されてはいない
入念な身体検査が行われ、針一本ですら携帯を許されぬ状況で諸侯ははじめて奥へと進む事ができた
謁見所は虎牢関より洛陽側に位置する本陣に設けられ、本陣の入口までは兵が道を創っている
ほとんどの諸侯が、恐らくは計算されたものであろう威圧感に気圧されながら進む中、むしろ傲然と胸を張る者達もいた
ひとりは曹孟徳
ひとりは孫伯符
ひとりは劉玄徳
そして馬孟起である
それぞれに一見傲然とも思える程に胸を張って歩む理由は異なるが、そこには恥じるべき事柄はなにもない、という確固たる意思を周囲に知らしめすには十分であった
そして本陣に設えられた謁見の間へと足を踏み入れた諸侯は、はじめてそれらの姿を目にする事になる
五爪の龍車の正面は御簾がかけられ、皇帝の玉体を直接窺う事はできない
その龍車の右には革を張り詰めた車椅子に座す白く輝く上衣を纏った黒髪の男
その龍車の左には宮中に於いて最高位を示す冠と礼服を纏った楚々とした少女
諸侯はその位置から知る
その二人が天の御使いと呼ばれる自分達にとっては詐欺師に等しい男と、宮中で専横を働く為に宦官官吏を虐殺したと言われる董仲穎そのひとであると
自分達が持っていた印象との違いに唖然とする諸侯を睨むのは、皇帝の護衛としてその下座に位置するふたりの武者
右手に金剛爆斧を握り羽織を靡かせる“神速”張文遠
左手に方天画戟を携え超然と佇む“飛将軍”呂奉先
その下座、右側には司馬仲達を筆頭とした武官一同が
左側には賈文和を筆頭とした文官一同が列を成している
その列の間には、黒檀で誂えた卓に白木の箱が袱紗に包まれて鎮座していた
「今上帝の御前である!
一同控えませい!!」
文官筆頭に位置する賈文和が号を発する
これに唯一控える様子を見せないのは天の御使いのみである
諸侯の中にはその不敬を非難する呟きが沸き上がるが、それは居並ぶ文武両官の威圧する視線で泡沫と化す
再び諸侯が畏まるのを確認し、賈文和が告げる
「それではこれより、逆賊袁紹の首実検を執り行う!
一同、粛々として義務を果たすよう心得よ!」
逆賊との言葉に諸侯が一瞬騒めくが、それを故意に黙殺して侍従のひとりが袱紗を解き箱を開ける
そこに在るのは髪を切られてもかつての面影を残した袁紹の首級であった
恐らくは誰かの気遣いであろう
髪は短いなりに整えられ、死化粧が施されており、故人の名誉を最低限気遣う工夫が成されていた
その様に泣き伏す者がふたりいたが、それを敢えて咎める声はない
首級は上座に位置する諸侯より順に改められ、間違いがないという場合はそのまま元の席に戻るのが作法である
本人ではないと主張する場合は、そのまま首級の脇に待機する事でその意思表示となる
幸か不幸か、それを主張するものは皆無であり、実検そのものは最後に皇帝の眼前へと首級を掲げた事で終わりを告げた
「皆の者、大儀でありました
これにて御前にての実検は終了とします
陛下はこれが過不足なき仕儀であった事に満足しておられます」
董相国がそう告げた事で、場の空気は一気に緊張感を増した
そう、諸侯の命運を賭けた謁見は、これからはじまるのである
≪虎牢関・仮設謁見所/?士元視点≫
あわわ〜……
どうもこの謁見は異例の事だらけのようです
本来、こういった場で査問や詰問が行われる場合、通常は上座から行われるように決まっています
なぜなら、上の罪が決まらないと下の罪も定まらないからです
ですが、再び号令を発した文官筆頭の位置にいるひと、恐らくはあれが董卓軍の筆頭軍師である賈文和さんだと思うのですが、まず目録から名前を読んだのは、せいぜい私達と同じかそれ以下の軍勢しか率いていなかった弱小諸侯だったのです
また、賈文和さんが目録を読み上げながら詰問をしているのですが、どうやってここまで調べ上げたのだろうというくらいに微に入り細に穿った指摘がなされ、僅かでも保身の為に嘘をつこうものなら容赦なく弾劾されていきます
多分これは、主要な諸侯に対する見せしめを兼ねているのです
半端な覚悟で逃れられると思うな、と、そう言外に告げているのです
そうしてあらかた諸侯の方々の詰問が終わり、その大半が項垂れる中で、名が呼ばれます
「公孫伯珪殿、陛下の御前に」
その言葉に伯珪さんは礼をとって前へと進み出ます
私と星さんもそれに続き、再び一礼して待機しました
伯珪さんとは、これらの質疑を予想しての返答は事前に打ち合わせてあるので、余程の事がない限りは大丈夫だと思います
形式通りに虚言を用いない旨を宣誓し、質疑がはじまりました
その内容は予想通りで、特に不利益になることもなく終わろうとしています
「ではこれにて…」
賈軍師がそう言いかけたのに私が安堵したそのとき、武官側の上座から声がしました
「すみませんが、私もひとつ質問をさせていただいても宜しいでしょうか?」
一瞬怪訝そうな表情をした賈軍師ですが、別に非礼という事もないのですぐに首肯します
「ご自由に、司馬将軍」
え…?
あわわ〜…
ちょっと待ってくだひゃい!!
私は内心でそう叫びますが、当然叫ぶ訳にはいきませんし、御前で狼狽える訳にもいきません
伯珪さんの追従ですから、その質問には私も答えられるのですが、多分聞かれたら困る質問が来るのです
あれを聞かれてしまうと、伯珪さんのみならず、桃香さままでが不利になってしまいます
武官の筆頭に位置する女性は、微笑みながら囁くように問いかけてきます
「公孫伯珪樣にひとつお尋ねしたいのですが、激を発したのが袁紹でなければどうなされておいででしたか?」
あわわ〜………
そう、袁本初さんと隣り合わせる私達には、この質問だけはされたくなかったものなのです
袁家の武威に屈したとなれば漢室に対する忠誠を疑われ、そうでないと言うなら何故洛陽の安否を自分達で確認にこなかったのかを問われます
他に答えようがないのですが、私達は洛陽と陛下や民衆の無事を確認するために義憤にて参加したと言わざるを得ない以上、この質問をされた時点で逃げ道はなくなるのです
逆に袁紹さんが“逆賊”として首級を挙げられている以上、大半の諸侯は「まさか袁紹に翻意があったとは」と言い抜けし再びの忠誠を誓うことで、最悪でも死罪や官位の剥奪は免れます
でもそれは遠いから言える事で、隣り合う私達と伯珪さんはそれを簡単に口には出せないのです
当然、そう言い張るしか道はないのですが…
思わず絶句する伯珪さんから視線を外し、私に向かって微笑みながら、司馬将軍は賈軍師に告げました
「少々意地悪だったようです
他になければこれで」
その言葉に賈軍師はまた一瞬だけ訝しげな表情をつくりましたが、すぐに頷きました
「そうね…
ではこれにて、公孫伯珪の詮議を終了とする
粛々として下がりませい!」
策も弄する事ができない状態で餓虎の前に裸でいた事を今更ながらに思い知らされます
そして、漢中に赴いた同門のふたりを視界に止め、私は悔しさと恥ずかしさで赤面し、帽子で顔を隠しました
次は負けない、負けないよ、元直ちゃん、巨達ちゃん
≪虎牢関・仮設謁見所/夏侯妙才視点≫
初見から当時は漢中軍と名乗っていた天譴軍のやつらには、ある種の不気味さを感じていたのは確かだが…
私は正直、この場に桂花がいない状態である事を心底悔いていた
あれは華琳樣の事が関わるといささか面倒も起こすが、当代随一といってもいい政治家だ
当然、このような場所で得られる情報は所詮武官である私とは雲泥の差がある
ことこの場になって、私が桂花の代わりに兵を率いて戻るべきだったと思う
ただまあ、そうなると姉者の抑えが華琳樣だけとなるので、それはそれで問題なのだが…
こやつらの何が不気味かというと、弱小諸侯にはかなり圧力をかけていたにも関わらず、我々や劉備には形式通りといっていい詰問に終始した、という点だ
むしろ劉備達は、華雄に最後に槍をつけたという事実を感謝されてすらいる
唯一公孫?に僅かながら何かを仕掛けたらしいが、それは残念ながら聞き取れる程ではなかった
本来ならすぐにでも華琳様にお伺いを立てたいところなのだが、御前であるため無駄口を叩く訳にもいかない
それを咎められれば無用の罪科を問われる事にもなりかねない立場だからだ
このちぐはぐとも言える詰問の状況は非常に不気味としか言いようがない
それを華琳樣も感じておられるのだろう、常になく固い表情で董卓と天の御使いとやらを気づかれない程度に睨みつけておられる
詰問が残っている諸侯は袁術と涼州の馬一族のみだが、この順番もいささかおかしい
確かに馬一族は諸侯連合にあっても有力といえる勢力ではあったが、その実態は我々の監視をしていたようなもので、むしろ立場としては董卓寄り、というのが他諸侯の一致した見解であったからだ
このように考えるのは、同行はするが戦闘はしない、と最初の軍議で明言されたことによる
当然諸侯から不満もあがったのだが、戦上手で名高い錦馬超の宣言にそれを強弁しようなどという者もおらず、結果好きにさせようという事で落ち着いたという経緯がある
今は袁術が呼ばれているところだが、側近である張勲が詮議に応答している
袁術本人は見た目通りの子供であるため、袁紹に逆らうことなど不可能であった、との言に矛盾もなく、主家の要請に従わざるを得なかった被害者という立場を明示している
いささかあざとくはあるが、いざ戦闘になった場合は埋伏となる事も考えていた、という言葉の虚偽を確かめる術もないため、ある意味穏当に詮議を終えた
やはり妙だ、そう思わざるを得ない
華琳様もそう感じたのか、本当に小声で囁いてこられた
「最後が袁術ならともかく、錦馬超とはどういう事かしら…」
私も僅かに頷いて唇を動かさぬように囁き返す
「妙を通り越して不気味と言わざるを得ませんな
ここに文若がいればまた違ったのでしょうが」
華琳樣は私の言葉に僅か眉を顰める
「失敗したわね…
こんな事ならあの三人だけに任せておくのだったわ」
これでは董卓と天の御使いとやらがどのような無茶を言い出すか知れたものではない
心構えとして最悪を想定しておく必要があるだろう
私は季衣に目で合図をしてから、最後となる錦馬超達の詮議に意識を戻す
そして私は心から安堵する事になる
あの位置に立たされたのが華琳樣でなくて本当に良かった、と
説明 | ||
拙作の作風が知りたい方は 『http://www.tinami.com/view/315935』 より視読をお願い致します また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します 当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです 本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」 の二次創作物となります これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール 『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』 機会がありましたら是非ご覧になってください |
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コメント | ||
言うに事欠いて「天の御遣い」を詐欺師扱いとか酷過ぎるw確かに碌でもない手管は使うし、自分(ら)のためだけにそれを振るうのは同じだから余計に質が悪いwwさて、諸侯への威圧と劉玄徳と公孫伯珪への揺さぶりなどが今回あったわけですが、次回涼州に恐ろしい一撃を与えるみたいですが、彼女達はどう対処するのか。相変わらず続きの気になる引きです。(田吾作) | ||
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