『夢のマウンド』第一章 第八話
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甲子園出場をかけて行われる都大会を間近に控えた六月下旬。

ベンチ入りメンバーを含めた21名が発表された。

「それではレギュラーを発表する。名前を呼ばれた者は前へ出て、マネージャーから背番号を受け取れ」

都大会を明日に控えた最後の練習後。野球部の部室では、今回の大会でのレギュラーとベンチ入りメンバーを、監督自ら一人、一人読み上げて行く。

その度に一喜一憂する部員――特に三年生――たち。

勇斗はと言えば、結局スターティングメンバーの背番号は貰えなかった。が、控え選手として背番号14を渡された。

一年がベンチ入りするのに反感・反発を覚えない上級生はいない。

だが、この二ヶ月間、勇斗のプレイを見ていた部員からすれば、むしろ彼がレギュラー入りしていない事の方が驚きであった。

それほどまでに、勇斗の実力は飛び抜けていた。

そしてその日の帰り道。

「ベンチ入りおめでとう、勇君」

「ありがとう、舞。でも、いいのかな? オレがベンチ入りなんてしちゃって」

「だって、監督がキャプテンと相談して決めた事なんでしょ? だったら……」

「まぁ、確かに嬉しいけど、さ。でも、そのために他の先輩――特に三年生の席を奪ったと思うと、やっぱり気は遣うよな〜」

「じゃあ、その先輩達の分も頑張らなくっちゃね」

「……ああ、そうだな。出番の時は、先輩たちに恥じないようなプレイをするよ!!」

そんな会話をしながら、勇斗と舞は帰途に着いた。

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「レギュラー入りおめでとう、勇君」

「ありがとうございます、唯さん」

帰宅後、舞によってもたらされた勇斗のベンチ入りの情報に、唯は柔らかな笑顔で祝福した。

そして、彼から手渡された背番号を見てはっと息を呑む。そして、「フフッ」と懐かしむようにそっと番号をなぞる。

「不思議な縁ね。主人が一年生の夏に付けていた背番号も、14番だったのよ」

「へぇ、お父さんが……」

「ええ、ホント、懐かしいわね……と、ごめんなさいね、折角のおめでたい日に」

場を取り繕うように、「昔を懐かしがるなんて、年かしら」とおどける姿に、勇斗と舞は視線を交わして肯き合う。

「唯さん。ユニフォームにゼッケンを縫い付けるの、お願いしてもいいですか?」

「え、と……舞はそれでいいの?」

「まぁ、できれば私がやりたかったけどさ〜」

「杉村晋作の息子が、かつて栗原豊さんのつけていた番号を着るんです。だから唯さんに、ぜひ。折角の『不思議な縁』ですし、俺にとっても験担ぎみたいなものですから」

「そういう訳で、私からもお願いね、お母さん」

「も、もう、二人とも、大袈裟なんだから。でも、ありがとうね。それじゃあ、任せておいて」

その言葉に、笑顔でタッチを交わす勇斗と舞。それを見逃す唯さんではなかった。

「もう、二人とも。仲がいいのは分かったから、あんまり見せ付けないでね〜♪」

そう言われてハッとした二人は顔を真っ赤に染め、先ほどとは別の意味で居心地の悪さを感じてしまう。

「あ、ああ、そうだ、勇君。夕飯までもうちょっと時間がかかるから、先にお風呂でも、どう? 汗かいて、気持ち悪いでしょ?」

「そそ、そうだな。うん、そうしよう。それじゃあ、お先に!!」

言うや否や、ギクシャクと居間を出てゆく勇斗を、舞は赤い顔で、唯はニヤニヤと笑みを浮かべて見送った。

「さて、それじゃあ舞。勇君にああ言った手前、手の抜いたものは作れないわよ。さっそく手伝ってちょうだい」

「あ、うん。任せて♪」

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その日の夜、同じクラスの勇斗と舞は、一緒に宿題をするために勇斗の部屋に集まった。

「今日は悪かったな」

「?」

突然謝ってきた勇斗の意図が見えず、小首をかしげる舞。

「いや、ユニフォームの件。お前、つけるの楽しみにしてただろ」

「ああ、そのことなら気にしないで。私もお母さんの話を聞いて、勇君ああ言ってくれてうれしかったんだ。だから、むしろ私の方こそ『ありがとう』だよ」

そう言い切った舞の笑顔に嘘は感じられなかった。そのことにほっとしつつ、だからこそ申し訳ない気持ちになる勇斗は、思い切った提案をした。

「まぁ、チャンスはあと4回もあるしな。それは全部、舞に頼むから」

「うっわ、それって3年間レギュラー宣言? すごい自信だね。もう先輩たちに気は遣わないんだ」

一瞬きょとんとした表情を浮かべた舞だったが、その意味を理解するや、悪戯っ子のような笑顔を見せる。

「ま、3年生には確かに気を遣うけど、二年やタメは別。こっちはレギュラー争いのライバルだし、負ける気も譲るつもりもない」

「じゃあ、ちゃんと4回、約束してよね」

「おう、任せとけ! きっかり4回、舞にお願いするから」

「うん、絶対に絶対の約束だよ、勇君!!」

そう言って「指きり」と小さく呟き、右手の小指をおずおずと差し出す舞。

思わずクスリと小さく微笑み、頷いて同じように小指を差し出して絡ませる。

「「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます、ゆーびきーったっ!!」」

説明
シーズン終盤、ジャイアンツとの直接対決では予想外の反撃にあったものの、なんとか優勝の栄冠を勝ち取ったドラゴンズ。
未だにクライマックスシリーズには理不尽な思いがしないでも無いですが、頑張って欲しいですね。
ちなみに私はジャイアンツファン。だが、クリーンナップが一人として本塁打20を越えないって、ドユコト?
長嶋監督時代が懐かしい。
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