心音
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壊すこと以外、男は救う術を知らなかつた。

 

先刻までの自らの行為とは裏腹に、丁重に目の前の女の身体を拭いていく。

力尽きて気を失つている彼人(かのひと)は、「青年」と呼ぶには幼く、「少年」と言ふには物の考へ方がそれらしくはなかつた。

行灯の明かりが彼人の肢体を照らす。

散々乱して穢しておきながら、全て吐き出した後はこうやつて「元通り」にしようとするのは、男の習慣となつている。

男自身もどうしてそうするのかは皆目見当つかないが、無意識の内にやつてしまうのだから仕方ない。

ぼんやりと浮き出ている白い胸元に、起こしてしまわぬようそつと顔を埋める。

嗚呼、生きている。

心臓がこうして脈打つ音を聞くと、何とも言えぬ安らぎを得ることが出来る。

鼓動が何処か弱々しいのは気の所為であつて欲しいと、柄にもなく思う自分がいることに思わずふつと、男は口元を緩ませた。

此のままずつと籠に閉じ込めて飼ひ殺しにして、枷で繋ぎ止めておけば、心音は途絶えずに自分の聴覚の中に溶け込む。

自分だけが此の子の理解者であれば其れで良い。

ゆつくり胸元から離れて、着物を着せる。

「元通り」になつた彼人を見て、男は妙な安堵感を覚えた。

それは、何とも言ひ難き温かさであつた。

説明
ヒバヒバ。腐向け注意。何年か前に提出用に書いた500字小説です。
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