博麗の終  その8
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【動きだす大図書館】

 

 

『領分を侵さないことも従者の勤め』と口にはせずとも、

図書館の管理一般にだけは全く手をつけようとしない様は雄弁である。

 

 

 

 紅魔館で最も、というよりも唯一の働き者は、己のすべきことを為すだけでいつも手一杯以上なのだ。だから今、図書館へ頼んでいない紅茶が届けられたことには、意味があると思うべきなのだろう。

 

 近づいてくる紅茶の香りに気付いた時、パチュリーは本を閉じて軽く思考を巡らせた。

 

 そして、そっと机に紅茶が置かれるまでの間に概略を固めると、「ちょっといいかしら」と声をかけた。

 

 

 

「どう、レミィの様子は。そろそろかと思っているのだけれど」

 

「姿こそあのままですが、殺気が一段と激しくなってきました。おそらくは、この夜に」

 

「そう。それで?」

 

「美鈴は気を感じてか、体を動かして準備を始めています。妹様は待ちきれない御様子です。事が起これば追うしかありませんので、私が後ろに張り付いておくつもりです」

 

「はぁ……まあ、おおよその事情は把握しているからね。悩んだのだけれど、私も着いていくことにするわ」

 

「お嬢様もきっと、喜ばれますよ」

 

「心にも無いことを言わないで。レミィはもう、私達のことなんか考えてないわ。聡明さを激情で犯し尽くされる寸前なのに」

 

「…それでも、少しでも周りに目を向けられた時。そこにパチュリー様がいなければ、きっと寂しさを感じられることでしょう」

 

「それは……うん。そうでしょうね。そうだと思うわ。レミィは我侭だから。後でぐちぐちと文句を言われるのはいやだもの」

 

「はい。かなり根に持つお方ですから、飽きるまで言われ続けるでしょうね」

 

「ふん。まあ事が起こってしまえば、結果がどうあれ、そんな余裕は無くなってしまうでしょう。ああ、だったら私だけ行かないのも悪くないわね」

 

「お戯れはおやめください。承知でお決めになられたのでしょう?」

 

「まあね。どちらにしても、レミィがやっちゃったら幻想郷にいられるわけがないもの。それにね、確実にやらない方がいいのなら、私だって止めるわ。それこそ身を張ってでもね。幻想郷の居心地は悪くないのだから、強引な手を使ってでもやらせはしない。だけど……今回の件は判断がつかないのよ」

 

「パチュリー様でも決めかねる事態なのですか」

 

「博麗システムが解明されていない以上、博麗の巫女の突発的異常事態への対応なんてものは『仮定と推測が入り混じった妄想のような結論』しか出せないのよ。正直、アレだけの強運と絶対的な勘と天才的な実力が備わっている人間がね、道半ばでぶっ倒れるなんて全く予想もしていなかったわ。ちなみに、あなたが亡くなってしまった時の対応は、パターン別にそれぞれ最低五つづつくらいは用意してあるから安心していいわよ」

 

「とてもコメントし辛いですが、ひとまずはお礼を申し上げておきます」

 

「あなたもいきなり吸血鬼として生き返るのは嫌でしょう。ちゃんと折に触れて意思を確認しておくから、主様が意思に反することを仕出かす時にはちゃんと灰にしてあげる」

 

「安心してロスト出来るわけですね」

 

「テレポートで壁に埋め込んだりはしないから大丈夫よ。さて――」

 

ここではじめて、パチュリーは咲夜の方を向いた。それはちゃんと話をする体勢に入ったということだ。

 

「それじゃあ、戦略でも練りますか。まずはいきなり特攻するであろうレミィの速度に、どう追い縋るかという基本的な問題なのだけれど……」

 

説明
彼女らの様子は、すきまで窺われています。
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