ぬこ救出作戦!
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「待てえぬこ〜!」

「レン! そっちから廻りこむのよ!」

 ドタドタとすさまじい足音を立てながら、カガミネーズが駆け回っていた。さっき裏庭から家に入り込んできたねこを捕まえようとしているのだ。

「二人とも! 危ないから走っちゃダメだよ!!」

 そんなカイトの声が二人に届くことはなく、ねこを追ってカガミネーズは風呂場へ飛び込んだ。

「もう、いい加減にしないと…」

 カイトが言いかけたときに、ガシャーンと風呂場から大きな音がした。

 

「ど…どうしたの!? 大丈夫? 何があったの?」

 カイトが驚いて風呂を覗くと、そこには全身ずぶ濡れのレンが立っていた。カイトの問いかけにレンは一瞬言葉に詰まった後、手に濡れねこを抱えて、言い訳がましく言った。

「湯船の蓋の上にぬこが飛び乗ったら、蓋が割れちゃった…」

 さすがのカイトも「じゃあ、なんでレンくんはそんなずぶ濡れなんだろう?」と思わないでもなかったが、

「大丈夫? 怪我はない?」

心配すぎてそこには深く突っ込まなかった。

 

「ばかねえ。そんなのレンが蓋の上に飛び乗ったに決まってるじゃない」

「ええ!!? ウソ!!?」

 本気でびっくりしている弟の顔を見て、メイコは深いため息をついた。この弟の性格、なんとかならんもんか。

 カガミネーズは頻繁にこういった破壊を繰り返す。メイコが家にいるときには大事になる一歩手前で防げることが多いし、ミクもなんだかんだで二人をうまく御していると思う。

 それなのにカイトときたら!

 カガミネーズとカイトに留守番をさせるとだいたい何かが破壊され、出費が嵩み、酒代に使える金が減っていく。正直メイコはうんざりしていた。

「あんたもさあ、もうちょっと兄としての威厳を持つというか…、二人をちゃんと抑えなさいよ!」

「俺だっていいお兄ちゃんになるべく努力してるんだよ! お菓子買ってあげたり…ロードローラーの洗車してあげたり…」

「なんの努力? ナメられる努力?」

「懐かれる努力ですよ! あの年頃は難しいからね!」

 なぜかカイトは得意げに言った。「褒めて!」と言わんばかりだ。

「よく分かった」

 メイコはことさらゆっくりとそう言った。

「カイト、一度あの二人をちゃんと叱ってみなさい」

「……えええ!!!?」

「普段のほほんとしたアンタが叱ったらきっと効き目あるわよ。二人も少しはあんたのこと見直すかもしれないし」

 カイトは二人を叱る自分を想像してみた。……それだけで全身が震えた。

「ムムムリだよ」

「いいからやってみなさい!」

 メイコの厳しい声にカイトは黙り込むしかなかった。

 

 今、カイトの前にはカガミネーズがちょこんと座っている。

「この間のぬこ事件のことなんだけど…あれってレンくんが蓋の上乗ったのかな?」

 努めて厳しい口調を装ってカイトは言った。

「ちがうよ。ぬこが乗ったら蓋が割れたの。こないだもそう言ったでしょ?」

 レンは当たり前のようにそう言った。とても嘘をついているようには(カイトには)見えなかった。

「蓋が老朽化してたんだねー」

 リンもしたり顔でたたみかける。

「え、えっと、でもね? レンくんが上に乗ったんじゃないかって…めーちゃんが言ってたんだ…」

 

 人のせいにした! あまりの情けなさにメイコは思わずため息を漏らした。

「…お姉ちゃん、なにしてるの?」

 壁に耳を当てて隣のリビングの会話を必死で聞きとっているメイコを見て、ミクは不審顔だ。

「しっ」

 メイコはするどくそれだけ言うと、ミクに手振りで一緒に盗み聞きをするように促した。ミクは姉のまねをして壁に耳を当てた。

 

「お兄ちゃん、もしかしてあたしたちを疑ってるの?」

 急にリンの瞳に涙がたまりはじめた。

「僕…ぬこを助けようと必死だったのに…」

 レンの声も少し震えているようだ。

「えっ!? いや、そ、そうだよね、やっぱり……レンくんはぬこを助けようとしただけだよね?」

「そうだよっ。お兄ちゃんのバカ!!」

 ぐしぐしと目元をこすりながらレンが言った。

「え、えと、ごめんね? レンくん」

 

「謝りましたよ、あの人。嘘泣きまるだしなのに…」

 ミクが少し壁から身を離してメイコに言った。

「ホントにあのバカは…!!」

 メイコはミクが壁から離れているのを確認してから、渾身の力を込めて壁を蹴った。

 

 ドン! と壁を蹴るすごい音がして、カイトはビクッと身を震わせた。どうしよう、めーちゃん、怒ってる!! な、なんかお兄ちゃんっぽいこと言わなきゃ!!

「と、ところであの時レンくんはなんであんなにずぶ濡れだったのかな? ぬこ助けるだけであんなに濡れるかな?」

「ぬ、ぬこを…きゅ…きゅうしゅつしようと…必死で…」

 カイトが投げかけた素朴な疑問に、途端にレンはしどろもどろになった。

「? ふーん……?? そうなんだ…」

「お兄ちゃん!! そこはたたみかけるチャンスよ!! 納得したらダメなのよ!!」

 なぜかミクがだんだん熱くなってきて、壁一枚隔てたところからカイトを応援し始めた。

 

「でもね、レンくん、リンちゃん。いくらぬこを助けるためとは言え、お風呂に突っ込んで行ったりしたら

危ないでしょ? ダメだよ、絶対!!」

 カイトは腰に手を当てて、真剣に言った。

「ごめんなさーい」

 リンは適当に返事をしたが、レンは黙ったままだった。

「レンくんは? 分かった?」

 俺、今すごくお兄ちゃんっぽい…!! カイトは自分のお兄ちゃん振りに少し酔っていた。

「うるさいなー、いちいち」

「こーゆーことは大事なの!! レンくん、もうああゆう危ないことはしないって約束してっ!」

「カイトうぜえ!」

 さっきまで泣いていたはずなのに、レンは顔をしかめて叫んだ。

「え……」

 急に怒鳴られてカイトはびっくりしてしまった。

「ネチネチねちねち言っちゃって、こ…この……!!」

 レンはなにか悪口を言おうとしていいのが思いつかなかったらしい。

「この…クソジジイ!!」

 レンはそう言い捨てると自分の部屋に走り去っていった。

 

「あらあら、まあ、どうしましょう」

 ミクはやたらとうれしそうに言った。

「ちょっと効き目がありすぎたかしら…。レンがあそこまでムキになるとは思ってなかったわ…」

 メイコはカイトをけしかけた手前、ミクのように面白がるわけにもいかない。

「大丈夫よ〜、ミクにまかせて!!」

 ミクは手をひらひらさせながらそう言うと、部屋を出て行った。

 

 トントン、とドアを叩く音がして、ミクが能天気な声で言った。

「レンくーん、入るよ〜?」

 レンは「いい」とは一言も言っていないのに、勝手にミクは部屋に入った。

「レンくん、サイコー!! カイト兄ジジイとか言われてかわいそう…!!」

 そう言うとミクは、キャハハとやたら楽しそうに笑った。

「うるさいなー、何しに来たんだよ、ミク姉は…」

「いやあ、GJなレンくんを褒めにきたんですよ!! GJよ、レンくん!!」

「……」

 レンはうっとうしそうに顔を歪めて無言でミクを見つめた。ひとりしきり笑った後、ミクはストンとレンの横に腰を下ろした。

「でも、このままじゃお兄ちゃんとことん落ち込んじゃうから、もうちょっとしたらフォローしに行ってあげてね」

「ヤだよ、落ち込ませとけばいいじゃんカイトなんて」

「まあ、そう言わずにさあ。面白かったけど、クソジジイはちょっと言いすぎだよ、レンくん」

「だって…!!」

「びっくりしちゃったんだよね、カイト兄がいつもと違って、食いさがってきたから」

 すぐに言い返すべきだったけれど、ムキになるとからかわれるし、気の利いたセリフが思いつかなかった。

「お兄ちゃん単純だからレンくんがフォローしてあげれば立ち直るからさあ、フォローしてあげてよっ」

「イヤだ、調子乗るから。うっとうしいもん」

「でも落ち込んでるおにいちゃんの方がうっとうしいよ」

 それは否定できない。

 

 結局レンは度量の広いところを見せることにした。

「お兄ちゃん…」

 恐る恐るリビングの扉を開くと、しょんぼりしたカイトの頭をリンが撫でているところだった。

「レンくん…!」

 レンを見つけたカイトが走りよってきた。

「ご、ごめんね…。俺、叱ることに夢中になってて、レンくんの気持ち、考えてなかった…!! お兄ちゃん失格だよね…」

 先に謝られてしまって、レンは少し拍子抜けした。

「もういいよ、俺も悪かったし…」

「ホントに?? レンくん許してくれるの?」

 ぱあっと顔を輝かせてカイトは笑った。目じりに少し涙まで浮かんでいる。ホントに単純だな…カイトは。

 まあいいか。今回のことは水に流して忘れてあげることにしよう。

「ところでさあ、…」

 カイトは目をクリクリさせて言った。

「やっぱりレンくんは蓋の上に飛び乗ったの?」

 …………なんで蒸し返すんだろう。レンはまたイライラしてきて叫んだ。

「カイト死ねばいい!!」

 

説明
カイトがレンを叱ります。反抗期のレンきゅんとお兄ちゃんしたいカイト。
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ボーカロイド 鏡音リン・レン KAITO 

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