双子物語-14話-
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 季節は夏。秋にある全国大会に向けて野球部員は夏休みでもあまり休みを取らない

みたいだ。この学校の場合は・・・。エースで部長の風上先輩が夏休み少し前に

グラウンドを長い期間預かり、もう特訓するぞと意気が上がっていた。

 全員喜ぶものはいないが、どっちにせよ先輩がやる気がある以上それは半強制的

なイベントらしい。私は少しでも快適な部活を送りたいために、手を挙げて提案した。

 

雪乃「私たちの別荘でやりませんか?」

 

 この時期、日陰が涼しいあの場所でやるのが一番良いと思った。しかも結構

土地も広いのでおじいちゃんに頼めばすぐに簡易のグラウンドくらいは

つくってくれそうだったからだ。最初、その言葉を信用しきれなかった周囲の

人たち。まぁ、大地くんから言わせれば別世界だというから仕方ないけど。

 彩菜と大地くんの証言で、先輩は納得して、私の案を使ってくれることになった。

その前にもこの話をうっかりしてしまったため、田之上さんが行くイベントに

いけなくなってしまったけど。「学生時代の行事は大切にしないと」とかいわれた。

まぁ、私の気持ちを知らないわけだからしょうがない。

 

彩菜「なんか嫌ながっかり感を感じるのだが?」

雪乃「いいえ、乙女らしい純粋ながっかりです」

 

 あえてこういうと、なんだか純粋に感じないのが不思議だ。とはいえ、これが恋か

と聞かれると、まだはっきりとはわからないのだけど。滞りなく、ミーティングは

終了して帰宅の路につくのだが。なんか最近視線を感じる気がする。

 

雪乃「ということで、お頼みしたいことがあるのですが・・・」

じじ「なんだ、急にかしこまって」

彩菜「あのね、おじいちゃん。かくかくしかじか」

菜々子「便利ねぇ、その言葉」

 

 マンガとかならまだしも、本当に「かくかくしかじか」と言って通じるわけ

ないじゃないと思っていたらおじいちゃんはうんうんと頷いていた。まさか…ねえ。

 

じじ「わかった、急いでグラウンドをつくってやろう」

 

 エスパーだ。エスパー極道だ。と驚き、目をしばしばさせているとおじいちゃんは

笑いながら、私たちの近況をおじいちゃんにちょこちょこお母さんが報告しているとの

こと。なんだ、無駄にびっくりしたじゃないか。

 

じじ「わかったから、態度は普通にしてくれるかね。むず痒くていかん」

彩菜「うん、わかった。背中掻いてあげるよ」

 

 そういう意味じゃないのだろうけど、おじいちゃんは幸せそうな顔をして掻いて

もらっているので私はそのことを心の奥底にしまっておいた。

 

 

 

雪乃「と、そういうわけで、ここが私たちの祖父が作ったグラウンドです」

 

 かなり良い感じに仕上がったと思われるグラウンドや他施設に関して説明を

するが、部員たちはあまり良い顔をしない。

 

雪乃「あの、どうかしました?」

風上「どうもこうも・・・」

 

 先輩たちは私の傍と先輩達の後ろにいるおじいちゃんの部下たちが気になるようで

警戒を強めているように見えた。ああ、そうだった。私の家では普通だけど、

一般の人はその手の人は怖いのだろう。本当は優しくて可愛いところもあるのだけど。

 

雪乃「あの、後は私と彩菜で出来るので席を外してもらえますか?」

893「しかし、お嬢!」

雪乃「サブちゃんに言いつけるよ」

 

 私の一言で彼らは体を硬直させ、渋々納得してくれた。去る間際に部長である

風上先輩に手を握って一言告げた。

 

893「お嬢たちのこと、よろしく頼む!」

風上「は、は、は、はいです!」

893「よし、行くぞ。てめえら!」

893「へい!!」

 

 そう声を張り上げると元気よく私たちの前から去っていった。すると、緊張の糸が

切れたのか、先輩達の表情が疲れているようだった。私と彩菜は部員たちに謝った。

 

小夜子「二人はそういう家柄だったのね。知らなかったからびっくりしちゃった」

 

 選手たちと違って朗らかに笑みを浮かべた三島先輩はいつもの調子で私に声を

かけてきた。だから、一言弁解というか、誤解を言ってみるのだ。

 

雪乃「気迫もあるし、言葉も荒いけど本当は良い人たちなんですよ、さっきの人たちは」

小夜子「そうなの、じゃあ私たちも怖がって悪いことしたかしら?」

雪乃「う〜ん、そんなに気にしないと思いますよ」

 

 身内に対しての話題をしながら野球部は案内された部屋に通された。男子用と女子用

に用意されて、話をしやすいように部屋は隣同士になっている。完全な和室で襖・畳は

当たり前。畳は取り替えたばかりなのか、青臭い香がして私はこういうのが好きだった。

 

小夜子「ちょっと、女子だけにしては広いような」

彩菜「男子と同じ広さになってるからね。こっちが少ない分、広く感じるかも」

 

 15人くらい寝れる広さにしているのだから女子4人しかいないのだからそりゃ広いさ。

ついでに小奇麗にしてそれだけの広さがあると当然、はしゃぐ人たちも現われるわけで。

 

楓夏「わー、なんかゴロゴロしたい!ねぇ、ゴロゴロしていいよね!?」

小夜子「ちょっ、楓夏ちゃん。もう…」

雪乃「いいですよ、喜んでもらえれば」

彩菜「よぉ〜し、楓夏先輩に負けてたまるかー!」

 

 そうして、子供っぽい二人による壮絶な新しい畳の上で転がる対決が幕を上げるの

だった。なんだそれ。それと同時に隣でもけっこうな騒ぎが始まっていた。子供っぽい

人はこうやってシンクロしていくのだろうか。外に出ると、非子供部隊が顔を合わせた。

三島小夜子先輩、私、生田亮先輩とちょっとインテリっぽいメガネをかけた竹橋くん。

 

小夜子「どう、そっちは」

亮「いえ、手に負えませんでした」

竹橋「これでは今日は練習になりませんね」

雪乃「たまにはいいと思いますよ。家のことで無駄に疲れちゃったみたいだし」

 

 そういうと、私たちはさっきのことを思い出して笑った。なんだかこういう雰囲気は

好きだ。男子と仲良くいられるということが今まであまりなかったから。…大地くんを

抜いての話だけど。それから、涙目でボロボロになって這いずりながら助けを求める

大地くんを見て今度は爆笑してしまった。少し心の中でごめんと呟いた。

 

 食事の時間に呼ばれて移動をしながら風上先輩が彩菜に誰が料理すんの?と聞いた。

聞かないほうがイメージは湧かなくていいのにと思ったが、彩菜が即答するので

まず、止められなかったのだった。

 

彩菜「サブちゃん!」

 

 また動きがぎこちなくなる部員。大地くんと私と彩菜は慣れたものだからそれ以外の

人という意味。だが、その空気を察知することなく彩菜は目をキラキラさせて熱弁を

振るう。

 

彩菜「サブちゃんの料理はすごいよ。スウィーツから外国料理、和食なんでもござれで

 こう、繊細な飴細工とかもやっちゃうんだよ!外見あんななのに、ぶふぅー!」

 

 最後は笑いのツボに入って噴いてしまう彩菜、失礼なヤツである。しかも見た目あんな

とか言われたら余計、ごついイメージしてしまうだろうに。可哀想だ。しかし聞いている

うちに、小夜子先輩と楓夏先輩はなんだか楽しみにしているようだった。

 サブちゃんはお母さんが学生の頃辺りから趣味にしているのが料理で今では家庭料理

から逸脱して本格的なことまでするようになった。本人曰く、生きがいになったらしい。

 

 ごつい、危ない人が作った料理というイメージが抜けなくなった部員たちの度肝を抜く

見事な綺麗な料理が並んでいた。和洋折衷。どんなものでも食べれるように様々な料理が

バイキング形式になって並んでいた。肉料理、魚料理、野菜料理、パスタ、鍋物、

デザートなど。広い部屋に置いてあるものだから、ざっと十何種類以上あるだろうか。

 それを見た部員達のテンションはMAXに達していた。サブちゃんは遠慮してか

その場には誰もいなかったのだ。不自由なくするために、食器や他のも充実していた。

 

小夜子「おいしい、この小籠包」

 

 料理が上手いと定評のある小夜子さんも唸るほどの腕前ということか。

密かにネットでも販売していてその売り上げで組の財政の一部を支えているというの

だから将来有望である。部員全員大騒ぎで半分くらい食べ尽くして動けなくなっている

ところで、私はゆっくりとまだ食事を続けていた。

 

雪乃「みんな思ったより小食ですね?」

風上「お前が大食いすぎるんだよ」

彩菜「あははっ、すごいな。雪乃は」

 

 こうして、一日目はゆっくり過ごして終わり。翌日からは人が変わったかのように

仕切る風上先輩の姿があった。そして、それを見ている三島先輩の表情もどこか

うっとりしている。無意識なのだろうか、マンガ以外でこういうのを見るのは初めて

だからよくわからなかったが。そのことをちょっと彩菜に言うと私は何故かツッコミを

クリーンに入れられていた。

 

彩菜「よくわからないとか、おかしい!」

雪乃「何故」

彩菜「雪乃だって、そういう目をしているときあるじゃん!」

 

 二人きりになっていたとき、ふとこの疑問を投げかけると私は何故か彩菜に

攻められていた。私がそういうとき…あったかなぁ。自分では気づかないものなのか。

しかし、じゃあどういう時になってるの、と聞いたのなら頭が冷めたのか急に口を閉ざす。

 

雪乃「田之上さん」

彩菜「ぎくっ!」

雪乃「…。そうなのかなぁ、よくわからないわ」

彩菜「…。ついでにそのまま彼の存在を忘れてください」

雪乃「無茶言うな」

彩菜「うぐぅ…」

 

 しかし、惹かれる何かはある。ドキドキもする。でも、決定的な何かがまだ欠けている

ような気がする。尊敬、恋愛。その二つのどちらかは前から絞れてはいたが…。

 だがそんなことより、今は野球の研究で忙しいのだった。私は彩菜を連れて日陰で

涼んでいた縁側からグラウンドまで歩いていく。快適だった気温から一気にむわっと

むせるような暑さに変わる。彩菜は変なうめき声を上げながら抵抗したが、先輩に

気づかれると観念したかのように大人しくなった。

 こういうところまで来て練習をするのが億劫らしい、全く不真面目なことだ。

有名校ではないにしろ、せっかく出れる全国大会なのだからはしゃいでもいいのに。

 

 彩菜を送り出し、私も先輩の隣に座って当たりそうなチームの大まかなデータと

うちのチームのデータを見ながら気になっていた先輩に声をかけてみた。

 

雪乃「三島先輩は今、幸せですか?」

小夜子「? ええ」

 

 いきなりぶっとんだ質問をしてしまったか。しかし、すぐに何のことか理解したのか

少し赤らめて照れながら笑顔で答えるその姿は清々しいくらいはっきりわかって、

見ている私も少し顔が熱くなった。そうか、幸せなのか。私も今度は田之上さんとこ

行ったら少しは意識して考えてみよう。

 

 遊び、学び、練習し。最終日の食事の後、私は生田兄弟のマジメな亮先輩に

急に呼び出された。何だろう、今まであまり話したことなかったから意外だった。

だが、呼び出された先にはもっと意外な言葉が待っていた。

 

亮「俺と、付き合ってくれないか?」

雪乃「へっ?」

 

 先輩には悪かったが、あまりにも急だったから変な裏声が出てしまった。

それにしても、いつどこでどんなことで先輩はこの告白に辿り着いたのだろうか。

もちろん、私としてはただの先輩としてでしか見ていなかったけど。先輩はどういう

目で私のことを見ていたのだろう。

 

亮「…」

雪乃「ごめんなさい」

 

 という答え以外は用意できるはずもなく、期待して待っている先輩に焦らさず早く

伝えることが賢明だと判断した。それまで爽やかだった雰囲気の先輩の背中は気のせいか

どこか淀んでいる気がした。

 

雪乃「どういう気分ですか?」

 

 嫌味という意味ではない、好奇心というものが押して無意識に発した言葉を聞いた

亮先輩は苦笑して少し間を作っていた。思えば空気が読めてないと言ってから気づく。

しかし、発した言葉は戻らないしそのまま返事を待っていると。

 

亮「やっぱ辛いよな」

雪乃「あっ、すみません」

 

 先輩の顔がふと、泣く前の彩菜の顔と一瞬ダブって見えて反射的に謝った。私は時々

こうやって人の気持ちになって考えられないところがある。かなりの反省点であることは

承知しているのだが、直らないものだ。頭を下げていると先輩に言われ顔を上げる。

 

亮「澤田でよければこれからもよろしくな」

雪乃「はい、こちらこそ」

 

 でも、彩菜よりは引きずらないし、さすがイメージ通りの好青年。場の空気も

よくなった気がする。けっこうポジティブなのか、考えないようにしているだけなのか。

どちらにしろ、引きずらないのはいいことだ。

 

雪乃「部活、頼りにしてますから」

亮「ありがとう」

 

 そう言って励ますと先輩は少し表情を和らげて男子部屋の方に戻っていった。

少し胸がドキドキしている。断ることが100%わかっていても、この瞬間は

それだけ気が張るということがわかった。恋を抱くということはこういうことなのか。

私はまだ、そんな気持ちになったことないな・・・。

 私はゆっくり女子部屋に帰ると、入った瞬間に彩菜に抱きつかれてそのまま後に

倒れこんだ。危ないでしょう!?と彩菜に怒っていると、怒られている彩菜はどこか

楽しそうで私は困惑したのだった。

 

 翌日、充実した日々を過ごした面々がもう慣れたのか、うちの人にちゃんと挨拶を

交わしていた。まぁ、怖いのは見た目だけだから一緒に暮らせば大丈夫とは思ってたけど。

その別れの雰囲気で男同士涙流しながら抱き合うのはどうかと私は思った。

 

 今年の秋の大会が今から待ち遠しい。ここまで頑張って練習してきたのを見ていた

だけに、楽しみだった。

 

 家に帰ってくると、見慣れないゲームソフトが置かれていた。やけに見覚えのある

メーカー名が入っていて私は飛びついた。これは、お父さんの会社のゲームだ。

 

菜々子「もうすぐ完成だからって、完成分の見本を持ってきたのよ」

 

 私が見入っていると後からお母さんが私が見ているソレの説明をしてくれた。

最後の仕上げとして、ウチでテストを行っている。これでもう3作目である。

それなりに、売り上げを伸ばしていて少ないながらも黒字になっている。

 

菜々子「やってみようか」

雪乃「え、親子でギャルゲー?」

菜々子「うん」

彩菜「じゃあ、3人で見てみようか」

 

 お父さんの姿は今ここになく、話を聞くには一度忘れ物があって会社に取りに

いっているとか。帰ってきたら女3人でギャルゲーやっていたらびっくりする

だろうな。

 

雪乃「なんで、ジャンルをギャルゲーにしたんだろう」

菜々子「売れるからじゃない?」

彩菜「あっ、この子かわいい!」

 

 起動して、幼馴染が主人公を起こすシーンで彩菜がキャッキャッと喜んでいると

お母さんが別荘でのことを聞いてきた。

 

菜々子「楽しかった?」

雪乃「うん…。告白されちゃったけど」

菜々子「あらまぁ」

彩菜「あっさり振っちゃったけどね」

菜々子「ふ、ふふっ…」

 

 何がおかしいのか、目を輝かせて喜んだ後に彩菜の言葉でツボに入ったのか笑いを

こらえるので一杯みたいだった。そんなことより気になることが。

 

雪乃「彩菜、覗いてたの!?」

彩菜「えっ、心配だったから…」

雪乃「何の心配よ…」

菜々子「私の雪乃がどこの馬の骨ともわからない男に襲われないかーとか?」

彩菜「ちょっ」

雪乃「ふぅ、アホらしい。百歩譲ってそんな状況でも、場所がうちの別荘っていう

  時点でアウェイなのに、そんな損ばかりすることなんてするヤツはいないよ」

 

 何気にゲームも地味に進んでいて内容を理解するのに少し時間がかかってしまった。

コントローラーを握っているのはお母さん。お母さんは娘の話を聞きながらゲームを

進めていた。どうやら、笑っていたのはゲームの内容についてだと思われる。

 彩菜も私の言葉を聞いたあとすぐにゲームに夢中になっていた。扱いは簡単だが

こうしつこいと少し疲れてくる。ため息を吐くと玄関の音が鳴り、ゲームがある

リビングへとお父さんが向かってきた。そして、おもむろに座りだしたのだ!

 

静雄「よしっ、みんなでやるか!」

雪乃「あれー?」

 

 今気づいたことだが、どうやらウチの家族は一般的な家族とは程遠いということが

わかった気がする。しかし、その穏やかな表情を見ていると平和だし、まぁいいかと

そんな和やかムードのまま、時間が過ぎ去ってようやくベッドに入れた。たった少しの

間、部屋での生活をしていなかっただけなのに、なんだか懐かしく感じた。

 ああいう団体での生活も楽しかったけど、私にとっては少々しんどくもあった。

ほどよく疲れていたせいか、すぐに睡魔も駆けつけてくれてすぐに眠れたのだった。

 

 

 夏休みも終わり、学校が再開したその日。お母さんは私と彩菜にあるコンパクトサイズ

の折り畳み型のを手渡された。言わずもがな、その形状を見れば誰でもわかる代物で。

 

雪乃「携帯電話?」

菜々子「そろそろ、必要かな。と思って」

 

 最初は親が選んだもので、次回からは自分で機種変するなりなんなりしなさいと

いわれた。しかし、これはセンスの件では悪くはない。お母さんは比較的感覚が若者

だから、私はしばらくこれでいいと思えた。

 彩菜も慣れないものを持っているものだから、微妙に手が震えている。そこまで

慎重にならなくてもいいと思うのだが。中学2年に上がったときのパソコンの授業は

どういう反応するのだろうと、今から考えてしまう。

 

彩菜「雪乃、こういうの得意でしょう!?」

雪乃「はいはい、教えてあげるわよ」

菜々子「じゃあ、行ってらっしゃい」

二人「行ってきまーす」

 

 珍しく二人声を揃えて外に出た。もう少ししたら中学校全国大会が始まる。

 

 

説明
過去作より。中学生編、野球の話が続きます。先輩と後輩って感じのやりとりが中心かもしれません。ほのぼのな感じですね。
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