真・恋姫†無双〜猛商伝〜第二話
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第二話 "Bon Voyage!"

 

 

 

<Side 一刀>

 

佑が落ち着いてから俺たちは今後のことについて話し合うことにした。黄巾の乱が始まるまで後十数年しかないのだ。

残念ながら商人である俺は、色々と準備をしなければ天下どころの話ではない。そのため、この残された時間をどう使うかによってその先の道筋が大きく変わる。

とりあえず、今後のことについて祐と話し合っておこう。

 

 

「俺はひとまず地盤を固めておきたい。商いの内容と方向性は大まかに決まっているが、今のままでは計画だけで頓挫してしまう」

「そこら辺は任せてもらってかまわへんよ。ただ、俺とかずピーが繋がってることが明らかになるんは避けてぇな」

「ああ、承知している」

 

 

そう。俺にとっても佑にとっても二人の繋がりが明らかになるのはまだ時期的に避けねばならない。

まだ俺には宮中のごたごたに巻き込まれても生き残るだけの力もなく、佑にしてもこれから彼方此方とドンパチやらかす俺との繋がりは、対立陣営に付け入らせる隙にしかならない。

それに、俺自身を鬼札もしくはそれに準ずる札として切る可能性が高い今、札の秘匿性は高いに越したことはないだろう。

 

 

「で、かずピーの新しい城なんやけどな、実はもう用意してあんねん」

「城?」

「そや、新生北郷商会や。貂蝉が二人ほど俺んとこに置いてってな、んでそいつらに下準備は任せておいたんや」

 

 

さすがに佑が出張ることはできなかったようだが、それならば話が早い。そいつらが有能であることは佑の態度からも分かるし、これでかなりスタートが早くなる。

 

 

「そいつはありがたい。で、その二人は今どこにいるんだ」

「于吉はそろそろ来る頃やろ。ただ、左慈については今洛陽の外におるからまた今度な」

 

 

于吉と左慈は演義に出てくる仙人だったと記憶している。

道術を使ったり、病気を治したり殺されたり、殺されかけたりした人物だ。

というよりも、この世界には仙術妖術の類が存在するのだろうか。

だが性別などが入れ替わっているこの世界だ。二人とも歴史とは違った人物になっている可能性もあるし、本当に妖術使いの可能性もある。

だが俺は嫌だぞ、悪人面したおっさん二人を引き連れていくなんて。

そこで俺は一縷の望みを託して尋ねてみることにした

 

 

「なあその二人はかわいい女の子か?」

「どうやったらそんな問いが返ってくるんか教えて欲しいんやけど。

 そこは普通どんな人物なんだーとか人間性や性格、適性なんかを聞くとこやろ?」

 

「その二人は性格もいい、可愛い女の子なのか?」

「落ち着いてくれかずピー」

 

「これが落ち着いていられるか!死活問題だぞ!?」

「その二人は残念ながら男だ」

 

 

「絶望した!!」

 

 

 

「さっきまでのシリアスで格好いいかずピーはどこへ消えてもうたんや」

 

なにか佑がひどく残念そうな顔をしていたが、今はそんなことに構っている暇はない。

俺がなんとも形容しがたい顔をしていると、ノックの音がした。

すると佑が、

 

「お、噂をすればやな。早速ご対面やでかずピー」

 

ついに来るのか。俺はいったいどんなヤツだろうと、緊張しながらその扉から現れる人物を見る。

すると、扉をくぐってきたのは俺の予想に反して顔立ちの整った理知的な雰囲気の青年だった。

 

「おや、騒がしいですね。ともかく、ただいま帰りました」

「すまんなぁ、かずピーがなんか暴走しとんねん。しかも性格が変わっとるきがするんやけど」

「それは恐らく、肉体が若返ったために精神がそれに伴い青年時代に近くなっているんでしょう。

 そんなことより一刀君、この世界でははじめましてですね。私の名前は于吉と申します。

 分かりやすく言えば、貂蝉たちみたいな存在と思ってくれれば大丈夫です。」

 

 

どんな老人が出てくるかと思えば、今の俺と同じくらいの見た目の青年だったので拍子抜けしてしまった。

唯気になるのは貂蝉たちと同じ存在というところだ。

 

 

「こいつらも色々とわけありなんや。まあ詳しくはこいつが今から説明するから

 それでええやろ?」

「ああ。じゃあ于吉、頼む」

 

「ええ、では先ずは私達とあなたとの出会いから説明するとしましょうか・・・・・・」

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<Side 于吉>

 

まず私達は外史の管理者の中でも、外史の存在を否定する立場にありました。

 

「『あった』ってことは今は違うのか?」

 

「ええ。その理由は一刀君あなたですよ」

 

 

「私たち管理者というのは世界から生み出された存在でしてね、性格の差などはあっても基本は世界に対して絶対服従なんですよ。」

 

そう自嘲気味に笑いながら私は言いました。

 

 

「外史を否定するものとして生み出された私達は、外史を破壊し続けました。一刀君、貴方達を殺すことによってね。

 最初はその行為に何の疑問も抱きませんでしたが、だけどだんだんとその行為が嫌になり、自分たちの運命をのろうこともありましたよ。

 それも五桁を越えた辺りでいくつ目の外史かを数えるのも止め、ただ機械的にこなすようになっていきました。

 そんな時だったんですよ、あの一刀君に合ったのは。」

 

 

世界によって生み出され、嫌々役割に従事させられるなんて、なかなかに悪趣味な世界(父親)だと思ます。

そんな永遠のループの中で生き続ける運命ってものは、まさに生き地獄でした。

 

 

思えば、その頃の私たちには、外史を破壊する。北郷一刀を殺す。

ということ以外の思考をほとんど持ち合わせていませんでしたね。

我ながらつまらない日々だったと思いますよ。その点今は毎日が新しい物で溢れている。

この感覚を、生きるとでも言うのでしょうか。

 

 

さて、話を進めるとしましょう。

 

 

「ええ、ある時彼は泰山の頂で私たちを殴り倒した末にいったんですよ。

 『クソッタレな因果から抜け出て、自由な明日を生きてみないか』とね」

 

 

言っていることだけはすばらしいんですが、その時の状況がひどいものでしたよ。

私も左慈も死屍累々。生きているのが不思議な私たち二人を見下ろして、そんなことを言ってきました。

 

その外史は北郷一刀が今まで関わってきた全ての私達管理者の解放を願って作られた外史でした。

彼をいつも助けている貂蝉達を助けたいというのならば、まだ理解はできるんですがね。

どうやら私達も含まれていたようです。

 

最初は呆気に取られていた私たちですが、その意味を理解した時思わず涙が出ました。左慈なんかは蹴りかかっていましたね。

今まで殺し殺されをして来た相手に、生きろと。生きていこうといわれたのですから。

 

それが他の人物から言われたのなら、ただの戯言として気にも留めなかったことでしょう。ですが私達は知っていました。北郷一刀ならばそんなことを言っても不思議ではないことを。

 

今までどんな外史でも

 

どんな逆境にあっても

 

決して諦めない彼の生き様を

 

何処までも人に甘く、何処までもお人よしな彼を

私たち管理者は、他のどの外史の住人達よりも知っていたのですから

 

そして私達は外史の否定派から抜けることを決めました。その際管理者としての力の大半を失いましたが、私達は否定派・肯定派のどちらでもない『北郷派』として外史を転生する旅を始めました。

数多ある外史で北郷一刀を支えるために。いつか彼が最後の外史を終端へと導くその日まで。

 

 

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<Side 及川>

 

普通の青年にしか見えない彼らの過去は、日常とかけ離れたものだった

そして、その外史のかずピーはどうしようもないお人好しの最高な野郎だった

どの世界でもかずピーは結局かずピーだ

 

俺には何となくその場面が思い浮かんだ。

かずピーは生粋の悪人でいつもは計算的で傍若無人でイロモノなのだが、なんだかんだで優しくて面倒見の良い奴だ。

だから彼ならそんなことを言いそうだし、言われた于吉や左慈の気持ちも良く分かる。

かずピーは人に恨まれるのも上手だが、人に好かれるのもまた上手い。

 

彼が居なかったら今の俺はいなかっただろう。ただただ他人の人生を壊すだけの下衆になるか死んでいたかのどっちかだったに違いない。

だから俺はかずピーにとても感謝しているし、彼の役に立ちたいと思っている。

異常なまでの求心力と人望、まさに王。この時代のそこらの王様より余程王様だろう。

逆にそうでもなければ世界だの何だのとは言いはしないだろう。

 

 

むしろ言わないでいてくれた方がありがたかった。イロモノ全開で、下手に実行力がある分手が付けられない事が多かった。

そのせいで何回俺たち良心派が後始末に奔走したことか、今思い出しても涙が出そうだ。

間違いなくかずピー以外の社長だったら辞表を叩きつけていた事だろう。

ここまで産まれて来る時代を間違えたのだろうと思う人物はいないであろう。

 

……話が逸れた。

 

兎に角、今まで左慈や于吉にかずピーを助ける理由を何回か訊いてみる度に『いつか話しますよ』とはぐらかされてきた疑問が解決された。

何だかんだで二人とも俺と同じでかずピーに助けられ、かずピーの人柄に惚れ込んで彼と共に肩を並べて歩みたいと思っているという事だ。

 

 

さて、それでは我らが王様の輝かしい未来の準備と、その為のお話でもしますか。

 

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<Side 一刀>

 

「そうか。他の世界の俺に恩義がね」

 

于吉が語った過去は想像の斜め上だった

こいつともう一人の左慈は唯のヒトではないらしい。

で、なにやら厄介な事情があってそれを俺が解決したとのこと。

そんな事言われても俺にそんな記憶は無いので、少し戸惑うところもあるが、協力してくれる様なので特に言うことも無いだろう。

向こうもそれを承知のようで、自分たちの前歴は一応知っていてもらえればいい程度の認識であるらしい。

人間関係の距離は徐々に近づけていけばいいですよ。とも言っていて、今後を共にするにあたって良きパートナーにはなれそうだ。

 

「それで佑は于吉たちに何をやらせていたんだ」

 

「一年っていう制限付きやったからたいした事はできなかったんやけど、主に漢中及び長安の主だった官吏の身辺調査や。

 他には侠とかの怖いおっさんたちの調査とかになるな」

 

「ただ、私たちが今できるのはここまでですね。あまり一つの外史に干渉し続けると外史への負担が大きいので、一度離れようかと思っています。

 たまに顔を見せには来ますがね」

 

「成る程な」

 

この時代、国民の全人口の半分近くもしくは以上が大陸の北側にいる。

荊州辺りの人口が増えるのはもっと後だ。なので、先ずは早いうちに北を手中に入れたほうが良いだろう。

 

それに乱世に早いうちから備えることは他の勢力を削る事につながる。

分かりやすいところで言えば人材だ。物資について言えば、多少無理をすればどうとでもなるが、優秀な人材というのは無理をしてもどうにかなる物では無い。

こちらには未来の知識という卑怯じみた情報においてのアドバンテージがある。諸侯に流れる前に歴史に名を残す人物をなるべく陣営に引き入れたほうが良いだろう。

ただ、現代人の俺とこの時代の人間では価値観の相違がある事は否めないので、その辺りに注意が必要かもしれない。後ろから斬りかかられるような事態は避けたい。

 

「で、成果の程はどうなんだ」

 

俺の問いに于吉が答える

 

「9割方というところでしょうか。首尾は上々といって差し支えないでしょう。

 洛陽と漢中におきましては、公的資金の流用や賄賂、身内の犯罪の揉消し、etc…etc…。文武両官の約4割の首を飛ばせられる分の証拠を調査、資料の作成を完了しました。正直な感想としては良くここまで腐っていて政治機能が維持できているなといったところです。

 長安については、元々清流派などの左遷された方々が主なので余りそういった物はありませんが、家族構成や友好関係などについては大方の調査が終わっていますね。」

 

そう言って机の上に紙の束を置く。

かなりの量だが、これでもまだほんの少しらしい。それには様々な人物についての詳細な調査結果が書かれていた。

そこに書かれた内の何名かの名前には覚えがあり、盧植や陳蕃等の有名所も居た。

 

「これだけあれば充分だろ。

 今後の大まかな方針だが、まず三年掛けて大陸に根を張る。その後は勢力拡大と、国外貿易だな。

 その為には侠や宗教に限らず、利用できるものはし尽くしていくぞ」

 

まるで悪の組織みたいな言い草ですね。と于吉が言っているが、実際向こうでの俺もそのようなものだったのだからそれでいいだろう。

そんなことより国獲りだ。不謹慎な話だが心が躍る。歴史に名を残した英雄たちと戦えるのだ、誰がいったいこうなる事を予測できただろうか。

 

最初はどうなるかと思ったが、なかなかどうして人生とは分からないものだ。

これから来る乱世に向けてやる仕事は山積みだ。だが、俺は今かつて無い程にそれらの仕事が楽しみでならない。

于吉の言った通り悪の組織北郷商会として、来る乱世を制してみせよう。

そのための準備として、先ずは無難に塩と紙から始めるとしますか。

となると益州と五胡と揚州辺りからスタートとなる、離間に借刀殺人、偸梁換柱に敗面?口、仮道伐?に反客為主・・・・・・さあさあどんな手を使おうか。

 

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<Side 及川>

 

「ふふふ、ふはは。ふはははははは」

「あぁ、かずピーが本格的に悪役笑いしとる。こりゃ絶対に碌でもない事考えとるで」

「同じ北郷一刀でもここまで違うこともあるんですね。まあ私たちとしてはこちらのほうが親しめそうなんですが……」

「俺は一度でいいから見てみたいわ、綺麗なかずピーを。俺らはこれがデフォだったんやで」

 

俺は深いため息をつく。かずピーに長い間振り回されてきただけあって、おれの言葉には重みがあった。

実際問題、俺には于吉が言う綺麗な北郷一刀を目の前の悪役笑いをしている人物から想像する事はできなかった。

 

「あなたも苦労したんですね……」

「ありがとな。そう言って貰えると助かるで」

 

そう言って肩に手を置いてきた于吉とガシッと握手をし、またも盛大な溜息を吐く。ここに二人の絆はより深いものに(?)なった。

さて、馬鹿な事ばかりをしているわけにもいかない。まだまだ俺たちには片付けるべき敵がわんさか居る。

 

たが秋空の下、来る乱世への船出を終えた俺たちの上に広がる空には唯一つの雲も無かった。

 

 

 

「おい佑、于吉。先ずは漢中を攻め滅ぼすぞ!」

「いいですね、攻めは好きですよ。攻めは任せてください、攻めは」

「・・・お前さんも乗らんでくれるか?あと発言が危険なんもどうにかしてくれ」

 

・・・・・・撤回。どうやら俺たちの航路は前途多難らしい。

目の前の二人の会話に頭が痛くなってくる俺だが、先日まで感じていた不安や絶望は、いまや全くといっていいほど無かった。

 

「ついでに五胡も滅ぼそうぜ」

「いいですね。左慈も呼んでパーっとやりましょう」

 

どうやらさっさと止めないととんでもない事になりそうだ。

「お前等ええ加減にせえや!! 阿呆な事ばっか言うな。まずは、」

「「まずは?」」

「健闘を祈って酒でも飲まへんか」

 

いつだって真面目に卑怯に愉快にそれを楽しむ。『悪の組織』北郷商会

 

上等な何かなんていらない。蒼空の下、友と酒。それだけで事足りる。

なんとも俺たちらしい船出じゃないか。

 

                     ――――――To be continued

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あとがき

 

<Side 作者>

 

お久しぶりです、作者の砥石です。

 

一週間ペースぐらいで投稿できたらいいな。とか思ってたら、二週間以上経っておりました。

これからもこんな事が何度かあるかもしれません(テスト前とか……

そんな時も生温かい目で見守って行って下さい。

 

それでは、ここからキャラ紹介のページとさせて頂きます

 

前漢悲劇のヒロイン、王昭君と言えば知っている方も多いと思います。

中国王朝の政策の犠牲となってしまった彼女は、様々な作品で今も見る事が出来ます。

王美人は名と字が不明のため、彼女からお借りしました。

 

次回から本格的に物語を進めて行きたいと思っています。

ではまた次回/~~

 

 

説明
大変遅れました、第二話です。

本作には
・作者の勝手な解釈
・作者の勝手な世界観
・作者による勝手な設定
・作者による勝手な補正
・作者が勝手に登場させるオリキャラ
等の成分が含まれております

上記の成文にアレルギーをお持ちの方は
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コメント
骸骨様&gt;&gt;一刀と及川の立場が原作と逆転しておりますww(砥石)
一刀が黒いwww于吉も黒いwwwそして及川苦労人wwwだがそこが面白い。(量産型第一次強化式骸骨)
クォーツ様&gt;&gt;期待にこたえられるように精一杯、精進していきたいです。(砥石)
執筆お疲れ様です。まさか、統一が国獲りに、そして更に何時の間にか秘密結社に・・・一刀の明日はどっちだ?!塩攻めは彼の武田信玄率いる甲州騎馬隊にすら効果抜群だったので解るのですが、紙は何をするのでしょうか・・・其処が楽しみです。商会はガンガン大きくしてください 次作期待(クォーツ)
アルヤ様&gt;&gt;コメントありがとうございます。そう言って頂けると僥倖です。(砥石)
お待ちしておりました。完全にノリが頭の悪い高校生くらいのものですね。だがそれもまた良し!(アルヤ)
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