博麗の終 その9 |
【八雲紫に見えるもの】
八雲紫はまだ悠然とした態度を崩していない。
『幻想郷を愛している』と公言して憚らない彼女が、幻想郷そのものを失いかねない事態に陥ったこの現状でも、いつもと変わらない印象を与え続けている。
しかし、焦っていた。
起きてしまったことは仕方が無い。
博麗霊夢が致命的な昏睡状態になってしまったことは既に受け入れている。
懺悔も、自虐も、後悔も、何かを思うならば事が落ち着いてからだ。
幻想郷崩壊の事態を回避できなかった責任をとりきって、その後に奈落の底まで落ち込めばいい。
そんなことよりも今は次の手を捜すことが第一で、唯一のやるべきことだと理解している。
他に力を注ぐ余裕など全くもって皆無なほどに、危機的な状況だと判断しているのだ。
だから幻想郷の主だった勢力との協力体制と、無干渉協定を全力で構築した。
ここまでは出来て当然、出来なければお話にならなかった。
ここからが始まりである。
考えなければならないこと、やらなければならないこと、判断しなければならないこと。
何もかも全てが山積みである。
その全てをこなせる自信は持っている。
今のところは識者たちで想定した中でも、かなり良い形を作ることができているのだ。
ここまでは、いい。
ここまではいいのだ。
ここまでは最高に近いと言っていいのだが、そろそろ最初にして最大の山場を迎えることになるだろう。
始めから今までずっと保留している懸念事項がある。
今、八雲紫の眼下には紅魔館がある。
アレらが動き出すのは事態が始まった時からもう確定されていたことで、誰もが予想しているのに誰も有効な対処方法を見出せていない。
あの吸血鬼が暴走して向かってくる場合、間違いなく弾幕戦のような甘い話にはならない。
吸血鬼が、世界で広く最上級の化物として恐れられているのは決して伊達ではないのだ。
はっきりいって、日本の隅に追いやられたような妖怪では相手にならないという予想をしている。
ごくごく一部の超上級妖怪でも、『足を止めて相手をせざるを得ない』と判断させられるくらいが関の山だろう。
レミリア・スカーレットに負けを意識させることなどできようはずも無い。
彼女はきっと、どれだけ疲れるか、面倒か、時間がかかるか、その程度の対応しか必要とせず、真っ直ぐ突っ込んできて、蹴散らして、一顧だにせず意志を貫くはずだ。
そして博麗霊夢は、人でもなく巫女でも無い、吸血鬼と成り堕ちる。
博麗霊夢を再起動させるにはそれしかなくとも、博麗システムの決定的な崩壊を意味するそれだけは絶対に避けなければならない。
だからレミリア・スカーレットが全てをなぎ倒し、神社へとたどり着いて、博麗霊夢の寝所の戸を開いたその時、最後の砦として待ち構えるのは、すきまの使える八雲紫以外には考えられない。
まず、これは前提。
博麗霊夢の緊急避難。これが行えない限り、やはり防御に隙があると言わざるを得ない。
最後の手段として存在するのであれば絶対に失敗は許されない。
つまりは最高最良のタイミングで事を行うため、その場にいることが必須なのだ。
間違っても他の場所で別の用事をしながら行うような役割ではない。
そして九分九厘発生するであろう緊急避難を行うと、その後の戦闘で八雲紫は戦線離脱を余儀なくされることが予想される。
すきまは万能ではないのだ。
あの動作を行う時間があれば、吸血鬼の一手で致命傷の一つや二つはどうしても喰らってしまうだろう。
今回の件、八雲紫だけで手がつけられないことは自他共に認めている。
けれどそれは八雲紫が最も重要な人物であることを否定しないのだ。
幻想郷を誰よりも理解している上に、今となっては唯一の結界の専門家である。
むしろ最重要人物で、絶対に失っていはいけない者。
だから、
八雲紫はレミリア・スカーレットとの戦闘が出来ない。
失った時には幻想郷崩壊が決定される。
吸血鬼と対峙してはならない。
巫女から吸血鬼へと落ちた時、幻想郷は崩壊するだろう。
緊急避難を行う時が来るだろう。
全てを満たす、解はない。
八雲紫は焦っている。
レミリア・スカーレットがやってくる。
主が従者を従えて、友らも連れてやってくる。
時を止めてのかく乱と、魔法の広範囲攻撃と、最高の技術を持った肉弾戦が展開される。
きっと狂気もやってくる。
八雲紫が焦っている。
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