俺とネクロちゃんと空から降る100億の五臓六腑 |
俺が初めてネクロちゃんと出会ったのはまだ俺の頭がくるくるぱーのどんでんがっしゃんになる前でまだまだ俺が健全なキチガイだったころだ。どういう経緯で出会ったのかはもうすっかり忘れたけど俺はネクロちゃんに直説会うまでてっきりこいつは男なんだろうなとか思っていた。しかし実際会ってみると俺より少し年上の偉い美人で、あの頃の俺はどうやってこいつとセックスするかにしか頭には無かったが、そこは当然いろいろ問題があってまあ早い話ネクロちゃんはロリコンでしかも困ったことにそれは笑い話ですむような話ではなくて、俺からみてもまだちんちくりんのガキンチョにしか見えないガキのストーキングとかに割と時間を惜しんでしちゃうようなタイプで、更に困ったことに彼女は 死体偏愛家だった。まったくストライクゾーン狭すぎである。俺は心底絶望して悲しみを知った。
「幼女の死体ダイスキとか、そういうのは普通男が嵌るもんじゃねーの」
「私、男の子もイケる」
「そういう問題じゃねーだろ」
何がどうイケるのか分からないが彼女は死んだ幼女の写真を見て耽るらしい、もっと詳しく言えば死にながら犯される幼女に感情移入して耽るらしい。彼女のパソコンのハードディスクにはきれいに死んだ女の子の画像が何十ギガも入っているらしい。彼女は42インチの液晶ディスプレイいっぱいに広がった幼女の真っ白な頬が朱色に染まるまでメイベリンニューヨークで口づけるらしい。うえークワバラクワバラ。
俺が高校を停学になって暇していた時にネクロちゃんから電話がきたことがあった。
「今暇?」
「暇」
「ちょっとつきあってよ」
「ええよ」
ちなみにネクロちゃんの声は大変エロい、電話で彼女の声を聞いていたら途端に勃起したので俺は彼女の豊潤な肉体を想像し、自涜して家を出た。
日比谷線に揺られながら俺はネクロちゃんのことを想った。彼女の幸福について想った。結局彼女を幸せにするのは幼女と死体だけで、幼女と死体なんてものは足しても引いても生産性はないわけで。それゆえネクロちゃんはアクセル全開で幼女の死体に突き進むしかないのだろう。彼女のように悪い意味で、何者かはっきりしている人が、何者にもなれない存在に憧れることはあるだろう。しかしそれは無い物ねだりで結局のところ大きく見れば「実存が被っている」人間同士を見比べても精密にみれば全く同じ人間など存在しないのだ。
おまたせーと言って俺が待ち合わせ場所である広尾の改札口にいるネクロちゃんに声をかけると「うん」と言って彼女は歩きだす。俺は彼女についていく。青いドット柄ワンピース着た彼女は誰もが一瞬振り返る美しさだが内実ゲロ塗れだと言うことを俺は知っている。
「ナイルハルドのメーターが振り切れてね……交換しなきゃいけないの……でもそれにはDNA分離精製装置用卓上遠心機が天使の刺青連合を牛耳るミスターバンデインを暗殺しなきゃ……」
そんなことをぶつぶつつぶやきながらネクロちゃんは高いヒールを下駄のように鳴らして歩く。
俺は痺れを切らして尋ねた。
「今日はなに?」
「あ、ごめん。ちょっと一緒に来てほしくて」
「別にいいけど、どこいくの」
「いや、別にどこへ行くわけでもないんだけど」
右手の人差し指を口もとに当てながら彼女はうつろな目で遠くを見て答えた。
「はあ、じゃあ何なの?」
「子どもの写真撮るからさ、見ていてほしくて」
彼女は肩にかけていたポーチから小型のデジタルカメラを取り出すと俺に見せていった。
「え、それって結構ヤバい感じ?」
「あー私がやってるとやばい感じかなー。だから君に見ててほしいんだよねー」
いやなんじゃそりゃ俺が見ていて何が変わるっちゅうねん、と思ったけど口に出さず「ははは、おっけーおっけー」と言っておいた。
駅から少し歩いたところにある広場のような公園に着くと親に連れられた子どもたちがわらわらと遊んでいた。
「じゃあちょっとそこらへんで見てて」彼女はそう言うとすたすたと子どもたちの方へ歩いていき「すいません。ちょっと写真撮ってもいいですか」と礼儀正しく母親たちに尋ね了承を得るとバシャバシャとシャッターを切り始めた。てっきり遠くからこそこそと盗撮でもするものかと思っていた俺は意表を突かれた気がした。
午後の昼下がり、穏やかな風が吹き、子どもたちの騒ぐ声と、母親たちの談笑する声と、ネクロちゃんがシャッターを切る音だけがきこえていた。
ベンチに座ってぼーっとしていた俺が違和感に気付いたのは母親たちの声に不穏なものが混じり始めたことがきっかけだった。子どもの写真をちょっと撮るにしてはネクロちゃんはあまりに熱心すぎた。子どもたちは明らかに怯えていて、なり続けるシャッターの音はもはや穏やかな昼下がりに鑿を入れるような不協和音としてきこえていた。
「おい、ちょっと」
そう言って俺が声をかけて、肩を叩いて肩を掴んで揺すって、それからようやく彼女はあたりに漂う気まずい空気に気付いたようだった。
「あーごめんごめん、ごめんねー」極度の緊張状態から脱したように彼女は顔面を蒼白にしていた。額に汗を浮かべながら壊れた笑みを浮かべて子どもたちに謝り。そして「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」と吠えた。
ネクロちゃんの絶叫が、この世のものとは思えないほど醜く黒ずんだ声になって辺り一帯に響き渡った後、一瞬の静寂があり。それから堰を切ったように一切が爆発した。
子どもたちは皆泣き叫び、母親たちもヒステリックに叫び子どものもとへ駆け寄った。通行人たちは何事かと足を止めた。真昼の住宅街は騒然として、十分事件として機能する、そんな叫び声だった。
俺は慌ててネクロちゃんの手を掴み走り出した。状況の修復が不可能だというのは誰の目にも明らかだった。時期に警察が来るだろう。こんなところで警察のお世話になるのはごめんだ。俺は彼女の手を引いて走った。ネクロちゃんの手を引いて俺は駆ける、彼女は俺に引っ張られるようにしてふらふらと走った。もつれるように情けなく走る俺らを外人のカップルが指差し HAHAHAHAHA!と笑っているが気にしない。なぜならネクロちゃんの絶叫はまだ俺の中でこだまし続けているからだ。
走って走って、ようやく人気のないところまできた俺らは立ち止まって息を整えた。彼女はまだ自分が何をしたのか分からない様子で茫然としていた。髪の毛も汗で乱れてぐちゃぐちゃだ。顔はまだ真っ白で血の気がない。俺は我慢できず怒鳴った。
「てめーいったいなにがしてえんだ!!」
「ごめん」
「ごめんじゃねーだろアホ、なんだありゃ」
「だからごめんって!」
「なんであんな…」
「知らないよ! あたしだってなにがなんだかわかんないよ!」
「わけがわかんねーのはこっちだっつーの」
「だから私はこうなっちゃうから! 見ていてっていたの! 何でわからないの!」
全くわけがわからない、俺自身わけがわからないのだ、何だろうこの女は、女のくせにロリコンでいっつも子どもの死体を見たがっていて、無我夢中で子どもの写真を撮っていたと思ったら突然叫び出して、薬でもやってるのか? というかそもそも俺が、なんでこんなめんどくさい女の相手をしているのかわからない。俺はただセックスがしたいだけだった。用があるこの女の肉体だけなのだ。俺の意思は最初から首尾一貫してそれだけだ。
結局そのあと俺はネクロちゃんを 30分ほど説教して、セックスしようと言って断られて、家に帰って寝た。彼女は終始飼い犬が飼い主に手を噛まれた様な顔をしていた。
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