【DQ5】遠雷(7)【主デボ】
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 ―― 高いところ。

 ―― 白い塔。

 ―― 雲の上のお城。

 ―― 竜の神様。

 全部知っている。気がする。

 何処で知ったのか、何を見たのか、何時から解っているのか、全然覚えていない。ただ、識っているのだ。

 

 そのお城は、もう、世界の何処にも無い。神様が消えてしまったから。

 神は死んだ?

 人々はそれを知らない。この世界に神様など存在しない。

 消えたのだ。

 いずれ、人の心からも消える。

 そうしたら、神は完全に死ぬ。

 

 ―― 教えてあげなくちゃ。神様を殺しては駄目。

 

 

 遠雷が微かに響く、その中を走る。

 ―― 教えてあげなくちゃ。

 人々が神様を心の中から消してしまったら、この世の何処にも神様が居られなくなる。夢も現実も――

 “妹”の手を取る。彼女がいなければ、己は何事をもなせない。二人で一つなのだ。手を離してはいけない。

 一緒に、降りていかなければ――

 

 ―― 一緒に……

 

 奇妙な夢を見た。デボラは胃の奧にむかつきを覚え、ため息を吐く。

「なんで!この私が!こんな目に遭わなくちゃあならないのよ!」

悪態を吐いても、今は、受け止めてくれる相手はいない。

―― あんたの所為なのに。

 デボラがどんなに罵倒しようが蹴飛ばそうが、笑いながら受け入れてくれる、異常に懐の深い“しもべ”は、今はいない。無事に帰ってくる保障も無い。

「ただ待ってるだけ、っていうのは、性に合わないのよねぇ……」

 早く帰ってこい、とは言わない。会いたい、だとか、寂しい、だとかは絶対に言わない。言ってしまったら、空虚な気分になる。

 手触りのよいシーツを撫でる。ふかふかの毛布を二三度叩く。同じようにふかふかの枕の上で方向転換する。腹に負担がかからぬように寝返りを打つのにももう慣れた。

「踏みつけたい時にいない、っていうのは、気分が悪いわねー……。」

 何度目かのため息を吐き、“しもべ”の顔を思い浮かべようとしたが、うまく思い描けなかった。

 ―― そういえば。

 あの時も、変な夢を見た。それは、“しもべ”と出会った後―― 結婚した日の夜だった。それから、もっと前。

「あの時も、見たわ。」

 今思い出すと、顔から火が出そうになる。それでも、平然としていなくてはならない。

 デボラは、“しもべ”と出会った日のことを思い出した。あの時は、デボラは妹のことで頭がいっぱいになっていた。それなのに、“しもべ”は、たった一瞬ですべてを覆してしまったのだった。

 そんな経験は、あとにも先にも無いだろう。デボラは、占い師でもなんでもないが、それだけは確信があった。

 

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(7)

 書庫から出てくると、その外の明るさが目にしみる。鼻の奥がむずむずして、デボラは盛大なくしゃみをした。書庫の埃が、己にも降り積もっているような気分になる。

「あーあ……」

ため息を吐いても埃は消えない。けれども、デボラはもう一度ため息を吐いた。

 自室へ向かう階段を一段一段、のぼりながら考える。

 結局、フローラの結婚を阻止する策も思い浮かばず、デボラの気分は最悪だった。

―― 私、何をやってるんだろう。

またため息を吐く。ため息を吐くだけでどうにかなるならば、何度でも吐く。だが、どうにもならない。どうにもならないから、更にため息を吐く。本当にどうにもならない。

 かぶりを振る。二階にたどり着いていた。このフロアにはフローラの部屋がある。

―― フローラが、結婚したらどうするんだろう。

不意に、考えてしまう。こんなことを考えては駄目だと思っていても。

「……お昼寝しよう……。」

煮詰まった時は昼寝に限る。デボラは自室へ戻ろうとした。その時、背後に何かがぶつかったような衝撃があった。

「何すんのよ!私を誰だと思ってるの!!!」

苛々にまかせて叫ぶと、ぶつかってきた本人は、悲鳴のような声で謝罪しだした。

「ごめんなさい、お姉さん。」

フローラだ。デボラは驚いた。普段ならば、彼女がこのようなそそっかしい真似をすることなどないからだ。

「あ、フローラ……。」

フローラは、とても取り乱した様子で、何度も何度も頭を下げた。

「私ったら……、本当にごめんなさい。怪我はない?」

「うん……大丈夫よ。」

背中から腰にかけてがちょっと痛いけれども、怪我をしたわけでは無い。デボラは、ぺこぺこと頭を下げ続ける妹が可哀想に思えてきた。

「もういいわよ。」

そう言いながら、顔を上げさせる。フローラは、顔を真っ赤にして、大きな蒼い瞳いっぱいにデボラを映していた。

―― 様子がおかしいわね。

「どうしたの?」

不安に思い、問いかける。けれども、フローラは「なんでもないのよ。」と言うと、自室にこもってしまった。

「……なんでもない、って言われると、気になるのよねぇ。」

妹の走り去った方向を見ながら、今日何度目かのため息を吐く。

 そうしている間に、なにやら階下が騒がしくなっていることに気づいた。

「何かしら。」

何か、厭な予感がする。デボラは、一気に階段を駆け下りた。

 

(つづく)

 

説明
デボラ様へんな夢を見るの巻
※2012年1月8日 ちょっと加筆しました。
*の部分のデボラ様が変な夢を見てぼんやりしているあたりです。
あんまり変わってませんけども。

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