バー通いの男
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ごめんなさぁい。今日は駄目なの。また今度さそってね?」

 

「この前もそのセリフ聴いたけど。」

「本当にごめんなさい。それじゃあ。」

店の奥へと消える彼女を名残惜しく見つめる。

このバーに通いつめてかれこれ3年になる。ここで働く女の子に猛アタックをかけるもことごとく振られ無駄に金を使ってしまう。

 

「田崎さん・・・あんまりしつこいと嫌われますよ?」

「うるせー俺は彼女に命かけてんだ!マスター!チェック!」

ここのマスターともすっかり仲良くなった。まったく男との交流など求めてないというのに。

「タケちゃんは大丈夫だよ。もともと嫌われてるから」

「うるせーな!俺はこれからなんよ!」

顔なじみの客も増えたはいいが、こいつらは邪魔と茶化す事しかしない。まったく無粋ここに極まれりだ。

「人の恋路を邪魔するやつは馬にけられて死ね!」

 

「怖い怖い。じゃあ死ぬ前に帰るかね。マスター。こっちもチェック」

 

マスターが会計をしにテーブルを離れる。

 

 

「なぁ・・・タケちゃんよ・・・佳代ちゃんは止めとけ・・・」

 

 

 

「なんでだよ?お前も狙ってんのか?」

 

 

 

「馬鹿言え。俺ほどの愛妻家は世界中探し回ったってそうわいねーよ。」

 

 

 

「家族サービスもせず風俗行くような奴がよくいうよ。」

 

 

 

「心と体は別なのさ。定期的な検査もしてるし余裕のある範囲で行ってるんだ。まったく問題ない。」

「そういい切れるお前が凄いよ・・・」

 

「俺のことはいい。悪いことは言わないから佳代ちゃんだけはやめとけ。」

 

「だからなんでなんだ?とめる理由があるんだろ?」

「・・・それは言えない・・・」

「やっぱり狙ってんのか?」

「じゃあそういうことにしておくかな。」

「なんだよそれ。」

「失礼します。お会計1万2000円です。」

言われた値段を払い店を出る。週一回一万円程度の支払いがもはや義務のようになってしまった。これがなければ欲しかった時計も買えたのだが。

 

 

 

「はぁ・・・虚しい・・・」

 

 

 

夜の帰り道。一人ため息混じりに呟く。

 

仕事も上手くいかず彼女もいない。生きる目的もなにもない。毎日が楽しくない。

 

将来に対する漠然とした不安。それを一時的に緩和するために通っているバー。しかしそこでもヤキモキした気持ちが心を支配する。

カラン

ドアを開ける。今週もきてしまった。

「いらっしゃい。」

「ギムレット。」

「ハイ。」

「マスター。佳代ちゃんは?」

「今日は休みです。」

「休み?どうしたんだ?風邪でも引いたか?」

「いえ・・・実は・・・」

「実は?」

佳代ちゃんは妊娠したという

「誰の子だよ・・・」

「私です・・・」

「そうか・・・ずっと黙ってたのか・・・」

「すみません・・・」

「いいよ。商売なんだからさ。」

「・・・・」

「すまなかったな・・・今まで・・・」

「いえ・・・」

「なぁ・・・一つ相談なんだが。」

「なんでしょう?」

「これからも来ていいかな?」

「勿論ですよ。」

俺は笑った。マスターも笑っていた。

 

出されたギムレットの味は、強く印象に残っている。長いお別れの味だ。

 

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