夏を駆ける |
「不況」
夏の査定を受けるために戻って来ました私が開口一番言い放ちました。
「皆さんそう言いますね」
そうでしょうとも、そうでしょうとも。
この夏は去年同様ものすごく暑くなり私の出番! と意気揚々と職場探しをしたわけです。
しかし。
去年の疲れが残っていたのか、今年が熱すぎたのか自分に合った職場が見つからないわけです。
少しでも好条件を望むじゃないですか、誰だって。
私もあちこち探してみたんですよ。
一つ妥協し、二つ妥協し、ようやく見つかった職場は少々狭い所でしたが一年の稼ぎの半分近くがこの時期になる私にはそれ以上選り好みする時間はなかったのです。
快適と言い難いのは節電のせいだったのですが、それは仕方ありません。
そして私、夏の間は無休で頑張りました。
ですが実入りは今ひとつでした。
これは夏が短かったことが大きな原因でした。
そして不況故においでになるお客様も去年より少なかったのです。
ほんとうに恨めしいです。
ところで私のお客様は九割九分がグループです。
ペアも多いですね。
女性グループはとても賑やかで、女性ペアともなると一番気前がよく上客であります。
次は男女ペアでしょうか。
報酬を下さるのは女性が多かったですが、たまに男性の方が多いと嬉しい反面、彼の先行きを心配してしまったりします。
ほら、頼りない男に愛想を尽かすってよくあるじゃありませんか。
そして男性グループは時には素晴らしい報酬を下さるのですが、罵倒されることもありまして……。有り難いような有り難くないような微妙なことも多かったですね。
同じ職業の仲間たちも似たり寄ったりだったようで、自分だけではなかったとホッとしたりもしました。
そうそう情報番組で私たちの仕事の成果を確認しているものがありました。
偶然見かけたのですが、暑い夏に一服の清涼感になるらしく、結果は上々で正直鼻が高かったです。
そんなこんなで査定の申告が終わりまして、職場内をあちこち駆け回っていた夏の慌ただしさもなくなり、秋冬春はどこか一カ所でのんびり仕事をしたいと思ってます。
ええ、実はもう仕事先は見つけたんですよ。
雨風凌げて若い女の子のグループが多い事が決めた理由です。
夏も報酬が多かったですしね。
ただ今回は報酬は後払いになってしまうこともあるんです。
それが不満と言えば不満ですが、うやむやになってしまうわけではないのでよしとしましょうか。
仲間内でも私の職場の良さが話題になったようで、近くで仕事をする者も出てきました。
夏の職場は夏以外は閑散としてますし。
そうなんですよ。
カメラや携帯で写真を撮るのは場所が決まっていませんからね。いわゆるプリクラならそこで待っていればいいわけです。
女の子たちが楽しげに撮る写真の中にひっそり映るんです。
すぐに気がつく事もあれば、後から気づく事もあります、私が映っていることに。
もちろん私、笑顔じゃありませんからね。
気づくと悲鳴が放たれるわけです。
そう、それが報酬なんです。
人間の恐怖が一番の喜びです。
もっと私の話が聞きたいですか?
明日にでも撮りに来て下さい。
仲間にも話しておきます。
あなたが来たら、はっきり映り込むよう気合いを入れて念じるようにと。
説明 | ||
仕事に精を出した夏、さて秋からは…。 お題を使っての掌編、4作目です。 ・3作目「星降る夜に」http://www.tinami.com/view/325936 ・5作目「少年期」 |
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掌編 夏の仕事 ヒンヤリ | ||
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