独立都市リヴィラ ep.1 迷い込んだ子供
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 そこは暗い荷馬車の中だった。

 あたりに積まれた木箱が、絶えずカタカタと音を立てる。規則的な振動のほかに、不規則にガタンと大きな揺れも生じる。何か小さな石にでも乗り上げたのだろう。木箱が大きく揺れるたびに、箱の中で複数の石が擦れる音が聞こえる。

 その揺れ続ける木箱と木箱の間に、二人の子供が小さく座り込んでいた。 

 二人の子供は同じ帽子を被り、よく似た顔立ちをしている。服装はよくある旅装束だが、汚れが目立ちくたびれていた。片方がくせ毛の少年で、もう片方は真っ直ぐに伸びた長い髪を持つ少女だ。

「ねぇ、勝手に乗っちゃって本当に大丈夫かな……」

 少女が連れの少年に声をかける。周囲に音が漏れるのを気にしているのか、それはひどく小さな声だ。

「大丈夫だ、あいつらまだ気づいてない」

 同じく小さな声で、少年は言う。

 少女の不安を取り除こうとしっかりとした口調ではあるが、声の震えから彼も不安を感じていると分かる。

「でも……もし見つかったら……」

 少女は帽子の端をつかみ、さらに小さくなるようにぎゅっと下へと引っ張った。彼女の体が小さくふるえているのが、隣にいる少年に伝わっていく。

「そのときは、……」

 言葉を切って、少年は視線を下へと落とす。そうなったとき、自分に何ができるだろうか。

 彼は少女の手を強く握った。

「……なんとか、なるよ。だから安心しろ、ルシエラ」

 握りしめた手がふるえているのが、彼女にはよく分かる。

 それでも励まそうとしてくれる彼に、心が痛んだ。

「うん……。…………ごめんね、ユリウス」

 絞り出すようなルシエラの声に、ユリウスは沈黙で返した。

 カタカタと荷馬車は揺れ続ける。この場所には彼ら二人しかいない。馬車の隙間から差し込む光が、二人を照らし出した。

 この馬車がどこに向かうのか、彼らにはそれも分からない。

 そんな不安を抱え、子供たちはそっと肩を寄せあった。

 お互いのふるえを感じながら、それが少しでも止まるように。

 大きな音を立てて、馬車が揺れた。そしてまた規則的に馬車は揺れ続ける。

 幼い彼らはそれが永遠に続くような気がした。

 

 

 ◆

 

 独立都市の愛称を持つリヴィラは、大陸唯一の都市国家だ。都市は高い塀に囲まれており、外部の侵入を拒絶している。それでも不思議と圧迫感も威圧感もなかった。

 都市の入り口は東西南北に分かれている。その中でも街道に面した東門は、毎日のように人々が出入りするにぎやかな場所だ。行き交う人々は行商人たちのキャラバンであったり、反対に一人で気楽に各地を回る旅人だったりと多種多様だ。立ち振る舞いや言葉遣いなどからも、決してこの近辺の人間だけがこの場にいるのではないと分かる。

 もちろん、こうした人の出入りは自由ではない。各門にはリヴィラの警備隊員が配備され、人の出入りを管理していた。

 赤と白を基調とする隊服に身を包んだ隊員たちは、今日も各自の持ち場で仕事にいそしんでいた。

「行商許可証、確認終了しました。積み荷の確認が完了するまでしばらくお待ちください」

 東門の一角で、警備隊服を身にまとった男が、都市へ入ろうとする行商隊の入国審査を行っている。審査は許可証などの確認するための隊員一人と、荷物を確認する隊員二人の三人一組で行われる。今日は二組の警備隊員が待機していた。

 一つの行商隊が審査を終えて門の中へと消えて行くのを見送り、先ほどの男はほうと息を吐く。平均より少し高めな身長と、この地方でも珍しい黒の髪色が合わさり、その男はほかの警備隊員たちの中でも一際目立った存在だった。身体はほどよく鍛えられているが、決して屈強な戦士という感じではない。どことなく柔らかな表情は、見る人に親しみを与えていた。

「あ、イツキー」

 その彼に、とある男が声をかけた。

 イツキと呼ばれた警備隊員はその声の主をさっと確認する。

 馬車の御者に声をかけてから、その男は小さな馬車から飛び降りこちらに近寄ってくる。馬車の様子からどうやら行商用の荷馬車のようだが、一台だけで規模はとても小さい。

 その男の外見はイツキとはまるで正反対だ。背はイツキよりはるかに小さく、体つきはどちらかと言えば細身。髪は明るい金色だ。

 イツキは人懐っこそうな彼の顔を見て、ふっと笑う。

「あぁジーンか。ほら、許可証だせよ」

 その言葉とともに少々乱雑に出された手を見て、ジーンと呼ばれた男は苦笑する。

「お前、扱いが雑すぎるだろ」

「そりゃ別に丁寧にする必要もないからな」

「ひでぇなおい」

 意地の悪い顔をするイツキの言葉に、ジーンは文句を言いながらも笑う。気の合う友人同士の会話なのだな、と周りから見ていてもそれが分かる。

 ジーンは洋服のポケットから許可証と積み荷の内容が書かれた羊皮紙を取り出し、イツキに渡した。イツキの横に並ぶとまるで小さな子供のような彼だが、リヴィラ出身の優秀な商人の一人である。取り扱いは布だの服飾に関連する品ものだ。

 イツキは渡された許可証を丁寧に確認し、同グループの警備隊員たちに羊皮紙を渡す。隊員たちはリストと実際の積み荷が正しいか、馬車の中を点検しだす。都市内に不審物を持ち込ませないための処置だ。

「はいよ、荷の確認が済み次第通れよ」

「はいはい。しっかし久々だなー。二か月ぶりぐらいか」

「そんなもんだな。旅先で迷子にはならなかったか?」

「子供扱いすんじゃねえよ。背が低いのは仕方ねえだろ」

 ふてくされたようにジーンはふいと顔をそむける。

 ジーンはこの世界でいわゆる小人と呼ばれる種族の人間である。成人しても普通の人(特別な特徴を持たない種族の人間を指す)と比べると子供のような大きさまでにしか成長しない。リヴィラではさほど珍しくもないが、よその国ではほとんど見かけない存在であり、ただの子供だと思われることも少なくない。

 この世界には様々な特徴ごとに種族が分けられてはいるが、世界中の人がその区別を正確に理解しているとは言い難い。基本的に別の種族が同じ町で暮らすことは少ないし、種族によっては絶対数が少ない者たちもいるため、そもそも出会う機会がないのだ。

 そんな中でリヴィラは多種族が暮らす場所として知られていた。

「まったく、この身長だといちいち子供扱いされるし、ちょっと人ごみに紛れただけでも前が見えなくなるし。厄介だ」

 ジーンは深くため息をついた。

「そうだな、靴の底上げるにも限界あるだろうし」

 愚痴を言うジーンにイツキはそう言う。

 自分の生まれに文句をつけるつもりはないが、やはり不便を感じてしまうのは仕方がない。

「そういやイツキ、知ってるか?」

「? 何を」

 まじめな顔をしたジーンの唐突な問いに、イツキは首をかしげる。

「いや……なんか最近半獣人が奴隷商から逃げ出したんだってよ」

「半獣人?」

 この世界に存在する種族には、「獣人」と呼ばれる者たちがいる。言葉通り、獣の姿を持つ人のことだ。二足歩行する犬や猫を想像すると分かりやすい。

 「半獣人」というのは獣人と普通の人との間に生まれた者のことを言う。彼らは普通の人の体をベースに、親である獣人の特徴を一部受け継ぐと言われていた。

「あちこちで噂になってるみたいだぜ。……悪い意味でな」

「まあそうだろうな。普通はかかわり合いになりたくないと思うだろうよ」

 基本的に半獣人を含め、種族混血は禁忌とされる。このあたりはまだマシだが、国によっては公的に狩られる立場になりうることすらあった。

 人々は基本、禁忌や厄介ごとに関わろうとはしない。例外があるとすれば、奴隷商とその顧客だろう。珍しい混血児はいい金になる。金が有り余った者たちの中には、そういった存在を手元に置きたがる者もいるのだ。おそらく逃げ出した半獣人もそのような人々の手に渡る予定だったのだろう。

 イツキは嘆息した。こういう話はどうも気が重くなる。見ればジーンも苦しげに顔を歪めていた。

 リヴィラはいつも多くの人で賑わう豊かな場所だ。そのほかの国もまた、そうだ。人々は毎日、保証された立場の上で生活している。

 しかし、そこからほんの少し目をそらしただけで、混血者や奴隷など身分を保証されない人々の存在が見えてくる。

「まあ、そうだな、俺らのほうでも気にしといてやるよ。もしかしたらこの街にもくるかもしれないし。見つければなんとかできる」

 まだ顔をしかめ続ける友人の頭をイツキはくしゃくしゃとなでながら言う。言ったことはただの気休めだ。

 もちろん実際にその半獣人がリヴィラに来たら保護はする。ここはそれができる唯一の場所だ。

「……おいこら子供扱いすんな」

 ジーンはすぐにイツキの手を払いのける。その顔には先ほどのようなかげりはもうない。

「積み荷確認終わりましたよ」

 二人に別の隊員が声をかける。イツキの後輩で生真面目な男だ。

「あぁ、じゃあ俺行くわ」

「はいよ、フールさんによろしくな」

 笑って手を振り、ジーンは行商隊に指示を出しながらリヴィラの中へと入っていった。

 

 ジーンが去ってからも、イツキは黙々と仕事を続けていた。

 すでに日は高く上り、真上に近い。夏は過ぎたといってもまだ残暑がきつく、汗が流れていく。朝に食料を与えたきりの胃がそろそろ空腹を訴え出す時間だ。

 確認が終えたばかりの馬車が、門の中に入っていく。その様子を見送った後、イツキは手持ち無沙汰に街道のほうを見た。かなり遠くの方を見ても、もう人影は見あたらない。この時間帯は隣の組が現在審査している行商隊で最後だろうとイツキはあたりをつけた。

 イツキは首を向け、隣の班の様子を見る。そこに停まっている馬車の群れから、巨大なキャラバンであることが見て取れた。人の数だけ見ても文字通り桁違いである。さすがに一組ですぐに審査をできる規模ではない。さらに向こうの班には一人新人隊員がおり、効率的に作業が進んでいるとは言いがたかった。

「イルニア、向こうの手伝い行くぞ。エレさん、こっちのほう頼みます」 

 同じ組の隊員に声をかけ、イツキは隣の応援に向かう。

 普段からよくあることなので、すぐに隊員の一人が確認するためのリストを渡してきた。どうやら鉱石のたぐいを運ぶ馬車のようだ。

 イツキは担当する馬車にさっと飛び乗る。御者や商人には一応声をかけるが、あまりいい顔はされない。ここまで厳密に積み荷を確認するのはリヴィラぐらいで、反発が多い。それでもリヴィラを訪れる商人が多いのはリヴィラ特有の品があるからだという話を前にジーンから聞いた。詳しいことまでイツキには理解できなかったが。

 馬車の中に積み上げられた箱を、一つずつ開けて中を確認する。リストにない品物が一つでもあれば、違反物として即座に報告に走らなければならない。もちろんそうめったに起こることではないが。

 イツキが手際よく確認作業を続けていると、視界に妙なものが映り込んだ。

 箱と箱の隙間にお互いに寄り添いあって静かに眠る、二人の子供だ。

 片方はくせ毛の男の子、もう一人は真っ直ぐ伸びた長い髪を持つ女の子だ。お揃いの帽子をかぶり、顔立ちはとてもよく似ている。

「は?」

 イツキは手に持つ紙に目を落とすが、もちろんそこには子供など書いていない。どれも鉱石の名前ばかりだ。いや、確認するまでもなく、こんなところに子供がいるのはどう考えても異常だった。どうやらそうめったに起こらないことが起きてしまったらしい。

 とりあえず彼らを連れ、責任者に事情を聞くべきだろう。

 イツキは子供たちのほうに近づくために、足を向けた。

「!」

 足音や振動でも感じたのか、それとも意外と鋭いのか。イツキが一歩足を踏み出した瞬間、子供たちはパッと目を覚ました。そのままイツキを驚愕した顔で見る。

「あーおまえらちょっと、」

 イツキが声をかける。それを合図に、少年は少女の手を持って立ち上がり、イツキの横をすり抜けようと駆けだした。

 子供にしてはあまりにも思い切りのいい行動に、イツキは反応が遅れた。その間に子供たちは馬車から飛び降りる。

 しかし、イツキもそれを見過ごすわけにはいかない。すぐさま後を追って飛び降り、馬車から数メートル離れた場所で彼らを捕まえた。

「やめろっ! はなせ!」

 少年がじたばたと暴れる。少女のほうはおとなしくしているが、その顔は気の毒になるほど真っ青になっていた。

 イツキがとにかく少年を逃がさないように必死になっていると、異常に気づいた隊員や、行商人たちが近づいてきた。

「イツキ! 何があった!」

 一番にイツキに駆け寄ったのは、今日この場での責任者でもある、壮年の警備隊員だ。彼はイツキの腕の中にいる二人の子供を驚愕した顔で見つめる。

「すいませんクリフさん、ちょっと、ってこら暴れるな!」

 イツキは上司であるクリフに事情を説明しようとするが、少年が暴れてそれどころではない。なんとか彼の動きを止め、報告を始めた。

「この馬車の奥に、この子たちがいたんです。ちょうど箱に隠れる位置です」

 該当位置を指しながら、イツキが説明する。

 その間に、少し恰幅のいい男性が近づいてきた。

「いったい何事ですか!」

 焦ってやってきたその男の顔はイツキにも見覚えがある。この行商隊を率いる、そこそこ名の知れた商人だったはずだ。名前はたしか、アベルハイドと言っただろうか。

 気がつくと、この行商隊に所属する商人や御者、護衛のための傭兵たちまで彼の周りに集まってきている。

「アベルハイドさん、あなた方の馬車の中にこの子供たちが乗り込んでいたようです」

 突然の状態にあわてる商人に、クリフは冷静に状況を説明し出す。責任者である彼の落ち着いた態度に、イツキも少し気持ちを鎮めることができた。

「子供……? わ、わしは知らんぞ、そんな……」

 事態を知ってアベルハイドは慌てふためく。荷物に申告外の物品があれば、それは立派な規約違反だ。故意であれば罪に問われるし、故意でなくとも信頼が重要な彼らにとって、そのような疑いをかけられること自体が汚点となりうることなのだろう。

「落ち着いてください、アベルハイドさん。我々も、すぐにあなた方を疑うわけではありません」

 諭すようなクリフの言葉に、アベルハイドは青ざめた顔でこくこくとうなずいた。こんな調子で商人などつとまるのかとイツキはうろんげに彼を見る。

「この馬車に子供が乗っていたことはご存じないんですよね?」

「とんでもない! わしらは子供をつれることなどしないし、まして大事な商売道具と同じ馬車に入れるなどありえない!」

 アベルハイドは力強く言い切った。ほかの商人たちも皆一斉に首を縦に振った。誰もこのことを知らなかったらしい。

「そうですか」

 クリフは彼らの主張を聞いてから、イツキの方、正確には子供たちの方へと向きなおった。

「それで、君たちは? あそこで何をしていた?」

 クリフの問いかけに、子供たちは無言を返す。しかし、少女は口を開くことができないほどおびえているし、少年はクリフをにらみながら逃げようと必死にもがいていた。

 その様子を見たクリフは、あきらめたように目をそらす。

「アベルハイドさん。今、子供たちに事情を聞くのは無理そうです。彼らが落ち着いて事情を聞いてから処遇を……」

「子供が落ち着いてから、だと? 冗談じゃない。こっちはここでの仕事を終えたら即刻次の場所に向かわないといけないんだ!」

 クリフの提案を、アベルハイドは大きく首を振って拒絶する。さきほどまで真っ青だった顔色は真っ赤になっていた。

 そして刺さるような視線を子供たちへと向ける。

「要はこの子供らをあんたらの街に入れなければいいんだろう! おい、そこのおまえ! こいつらをさっさと奴隷商にでも売り払ってきてくれ!」

 アベルハイドは部下の一人に怒号を飛ばす。

 「奴隷商」の一言に、子供たちの体がこわばった。あんなに暴れていた少年の動きが止まる。

「落ち着いてください、アベルハイドさん。さすがにそれは……」

「わしはこのガキのせいでとんだ恥をかいたんだ! これぐらいしても罰は当たらん!」

 アベルハイドは興奮して、クリフにくってかかる。もう理性が働いているようには見えない

 そんな状態のアベルハイドを見て、イツキは内心ため息をついた。たしかに自分の知らぬところで起こった不祥事に冷静でいられないのはわかるが、これでは八つ当たりもいいところだ。

「アベルハイドさん、落ち着いて、落ち着いてください。さすがにそれは……」

 クリフはアベルハイドをなだめられるよう、言葉を探す。

「都合が悪いというのなら、このことはこちらですべて処理します。それならアベルハイドさんはいつも通り……」

「これはわしのとこで起きた問題だ! わしがこいつらを処罰して何が悪い!」

 激しく怒り狂うアベルハイドにあたりが困惑した空気に包まれる。どうも彼は感情に左右されやすいタイプのようだ。商人に向いてない、とイツキは呆れた。

「おい、そこのおまえ! そいつらをこっちによこせ!」

 アベルハイドは怒りの矛先をクリフからイツキへと向ける。子供たちの体がさらにこわばった。

「いいえ、できません」

 イツキは真っ直ぐにアベルハイドのほうを見、言い放つ。

「何を!」

「彼らはたしかにあなたの馬車に忍び込んだ不法侵入者ですが、リヴィラへの不正入国未遂者でもあります。彼らの処遇に関して、リヴィラの秩序は介入する権利を持ちます」

 イツキの言葉にアベルハイドは少したじろぐ。呆然とした目で子供たちがイツキを見上げていた。

「そして、リヴィラの秩序は罪人を奴隷の身へ落とすことを認めていません。ですので、あなたの提案は聞き入れられません。この子たちはリヴィラが保護します」

 イツキが言い切ると、アベルハイドはバツの悪そうな顔をした。真っ向から畳みかけられたせいで、少し冷静になったのかもしれない。

 腕の中の子供たちは、もう逃げ出そうとはしない。珍しいものを見るようにイツキに視線を送っていた。当人であるイツキは、それに気づかずじっとアベルハイドを見つめている。

 しばしの沈黙を破ったのは、やはりクリフだった。彼はすっとした姿勢でアベルハイドの方を向く。

「この隊員の言うとおりです。こうなってしまった以上、この問題の解決にはリヴィラの法で決めることが一番でしょう」

 クリフの言葉にアベルハイドは苦々しい顔をする。 

「この子たちの身柄はリヴィラ警備隊が預かります。その上で処罰が必要なら処罰をあたえます。あなた方はこの件に関与していないようですし、特別我らが拘束する必要はないですが……」

 どうしますか、とクリフは問いかける。

 リヴィラの法を破り子供たちを売るか、すべてを任せていつも通り商売をするか。リヴィラの法を破れば、もうこの場所で商売をすることは不可能。それをわかっている上での問いかけだった。

「ぐ……」

 アベルハイドは大きく顔をひきつらせる。そしてしばし悩んだ後、子供たちの処遇をリヴィラ警備隊に一任することを了承した。

「まったく……なんでわしがこんなめに……やはりこんな街にくるんじゃなかった……奴らが押しつけなければ……」

 アベルハイドはぶつぶつと小声で恨み言を言いながら去っていく。おおかた鉱石商人ギルドで一番実力のない男に押しつけていたのだろう。リヴィラの独自の政治体制やその成り立ちからリヴィラを忌避する人間が多いのだ。

「イツキ、よくやったな」

 アベルハイドの去り際を冷ややかに見つめていたイツキに、クリフがねぎらいの言葉をかける。

 上司からの一言に一瞬イツキは顔をゆるめそうになるが、すぐにその背後に潜む空気に、顔を引き締めた。

「クリフさん、なんか考えてますよね」

 イツキがそういうと彼はにやりと子供のように笑う。外部の前では厳格な彼だが、身内の前では少し茶目っ気のある人だ。

「警戒するな。別にただその子らの事情聴取を任そうと思っただけだ」

 未だにイツキの腕に抱かれている子供たちを見ながらクリフが言う。そういえばそろそろ腕がだるい。

「いや、クリフさん俺そろそろ休憩ですし、そういうのは俺よりもっと適任が……」

「その子らを最初に見つけたのも、かばったのもお前だ。適任というのならお前が一番だよ」

 まぁ休憩ついでに子供らと昼飯でも食ってこい、と言ってクリフはそのまま自分の持ち場へと戻って行ってしまう。

「どうすんだよ、これ……」

 腕に子供たちの重みを感じながら、イツキは途方にくれた。

 

 

 

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 上司であるクリフから子供たちの事情聴取、という名目の世話役を命じられたイツキは、とりあえず彼の言葉通り昼食をとることにした。

 警備隊詰め所にある休憩所に、イツキは二人をつれていく。

 休憩所の机に外で買ってきた軽食を乗せ、子供二人と向き合うようにイツキは席に着いた。

 子供たちも警戒しながら椅子に腰をかける。少しおびえてはいるものの、机の上の軽食を興味深げに見つめていた。

「別に遠慮せずに食えよ。腹減ってんだろ」

 イツキは机に手を伸ばし包みを一つ取る。包みの中はふわりと焼かれたパンの間に具を挟んだ、リヴィラでは定番の料理だ。まだ出来立てで暖かいパンの間から溶けたチーズがあふれ出る。あたりにパンと具の匂いが広がっていった。

 おいしそうに食べているイツキに安心したのか、それとも耐えられなくなったのか。二人は一斉に料理に飛びついた。

 必死に食べ続ける二人を見て、イツキはほほえましい気持ちになる。こうしていると普通の子供のようでほっとした。

 とはいえ彼らは不法侵入と不正入国未遂の現行犯としてここにいるのだ。子供とはいえ、立場上甘やかすことはできない。処罰を下すのは司法の連中だが、調書を作るのはイツキの仕事なのだ。

「で、お前らなんだってあんな所に潜り込んでた?」

 子供たちが食べ終わったあたりを見計らって、イツキは声をかける。

 すると少年がはっとなって、イツキをにらみつけてくる。あきらかに空気のかわった片割れに気づき、少女のほうも身を堅くした。

 イツキは軽くため息をつく。これではまともに会話もできそうにない。

「……じゃあとりあえず名前は? 名前ぐらい教えてくれてもいいだろう?」

 今にもかみつきそうな少年は置いておいて、イツキは少女のほうを見る。少年のほうはきっと何も答えないだろう。おびえてはいるものの少女の方がまだ話を聞いてくれそうだった。

「……あ、……え、……えっと……ル、……ルシエラ……です……」

 なんともしどろもどろで消え入りそうな声だ。顔を青くしておびえる姿が痛ましい。

 少しでもおびえがなくなればと、イツキはルシエラに微笑む。そして、少年へと目を向けた。

 少年はいやそうな顔をしていたが、ルシエラのほうをちらりと見ると、やがて観念したかのように口を開く。

「…………ユリウス」

 ルシエラとはえらく違う、不満げな声だった。イツキは内心苦笑するが、表には出さない。

「ルシエラにユリウスね。ちなみに俺はイツキな。ここ、リヴィラの警備隊員だ」

 この二人から事情を聞き出すには、とにかく二人と信頼関係を築くしかないだろう。なんとかして彼らに警戒を解いてもらう必要がある。

 できるだけ親しみをもってもらうため、イツキも二人に名を教え、笑いかける。他人に信頼してもらうためには笑顔を絶やさず相手の目をしっかり見ることだ、とは先輩隊員の言葉だったか。

「それで、二人ともまだ小さいけどお父さんやお母さんは?」

 とりあえず基本的なところから尋ねていこう。

 と思ったが、予想以上に二人は体を堅くしてしまった。ルシエラに至っては少し目が潤んでいる。

 そういえば十ほどの子供が二人だけで馬車に不法乗車しているのだ。この子たちの両親に何かあったのだろうことぐらい想像しておいてもよかったのかもしれない。

 イツキは失敗したな、と思い、さっと違う話題を振る。

「あーえっと。そういや二人はよく似てるけど、兄妹?」

 話題が変わったことで明らかに二人は安堵の表情を浮かべた。やはり先ほどの話題はまずかったらしい。

「……双子」

 意外にも返答はユリウスからだ

「双子なのか。なるほどなぁ、よく似てるわけだ」

 思わずイツキは彼らをしげしげと見つめてしまう。あまりにも見すぎたのかユリウスに睨まれた。イツキは肩をすくめておどけてみせる。

「で、二人はどこから来たんだ?」

 生まれ故郷が分かればこの子たちの両親も見つかるかも知れない。そう思っての問いだったが、双子たちはまた全身を堅くして拒絶した。どうやらこれもダメらしい。

 どこが地雷なのかわからずイツキは思わず頭を抱えたくなった。子供の相手も、取り調べも慣れない彼にとってこれはあまりにもハードルが高すぎる。

「……あ、ところで二人とも。お揃いの帽子なのはいいができれば室内で帽子はとっておいたほうが……」

 何を言っていいか分からなくなったイツキは、ぱっと目に入ったユリウスの帽子に手を伸ばす。

 しかし、その手が届く前に、彼は素早い動きで帽子をとられまいとイツキの手を払いのけ、帽子の端をぎゅっと握りしめた。それから鋭い目でイツキをにらんだ。

 どうやらふれてはいけないところにふれてしまったらしいとイツキは悟る。

「あー悪かった。別に人がいやがることを積極的にする趣味はないから、」

 そう言うと深くかぶった帽子から、ユリウスはそっと目を出す。

「外したくなければそれでいいさ。無理にとは言わない」

 イツキの言葉に、ユリウスはあからさまにほっとした顔をする。しかし、警戒心は収まりそうにない。その空気が伝染してか、ルシエラのほうも落ち着きがなかった。

 これではらちがあかない。事情を聞き出すどころか、まともな会話もできそうになかった。子供は嫌いではないが、こうなってくるとイツキには「お手上げ」だ

「よし、」

 イツキは勢いよく立ち上がった。いきなり立ち上がった衝撃に、二人はびくっと肩をふるわせる。

「とりあえず外にでも行こう。こんなところにいても息が詰まるだけだしな」

 にっこりと二人に笑いかけながら、イツキは手を差し出す。

 そんなイツキの行動に驚いたのか、ユリウスとルシエラはお互いに顔を見合わせた。きょとんとしたその表情があまりにもそっくりで、鏡合わせのようにイツキには見えた。

 

 

  ◆

 

 

 リヴィラの商店街はとにかく人が多い。東門を通る行商隊のほとんどがここで商売をするわけだから当然といえば当然だ。色とりどりの商品が並ぶその場所は、リヴィラの名所の一つではあるのだが、二人が人混みに入るのをいやがったのであえて裏路地を進む。

「表通りは外から来る人間とかが多くなるんだけどな、こっちはここの住人が細々とやっているような店が多いんだよ」

 クリフに事情を説明し、二人の外出許可をもらったイツキはユリウスとルシエラの二人をつれてリヴィラの街を案内していた。

 最初はびくびくしていた二人だったが、次第に街の景色に目を輝かせていた。

 どんなに警戒心が強くても子供は子供だ。目新しいものに興味を持つところは同じなのだなと、イツキは微笑ましい気持ちで二人を見つめた。

 それと同時に、一つの疑問が浮かぶ。

 どうしてこんな子供だけで、他人の荷馬車に乗り込むような事態になったのか、だ。

 街の風景を二人は楽しげに見ている。だが人が近くを通るたびにその目は地面へと向けられた。

 あきらかに他人を避けるその姿はやはり異様だ。過去に何かしらあったのだろうとイツキは考える。

 とはいえここでそれを直接聞いても失敗するのはわかっている。まずは世間話からだ。世間話、世間話……。

「えっと……あ、そういや双子ってどっちが兄とか姉とかあるのか?」

 いやそれはどうでもいい。口走ってからイツキは自分で自分を殴りたくなった。

「あ……えっと……ユリウスが、お兄ちゃん、です」

 いきなり話しかけられたことに驚きつつも、ルシエラが答えてくれた。イツキはほう、と息を吐く。とりあえず答えてくれただけでも進歩だ。助かった。

「そうか、いいお兄ちゃんだな、ユリウス」

 イツキがそういうとルシエラは嬉しそうに笑った。その横ではユリウスが少し恥ずかしそうに顔を赤らめている。

「あーじゃあ好きな食べ物とかは?」

 お見合いか。自分の言葉にますます頭を抱えたくなる。だが、おそらくこういう方向から攻めた方がいいのだろう、とイツキは気を取り直しておく。

「え、えっと……キノコ、とか……? 好き、です」

 ルシエラが首を傾げながら言う。まだおびえは残っているが、しっかりと質問に答えてはくれた。女の子はおしゃべりだというから、この子も本来は話をするのが好きな子なのかもしれない。

「キノコか。あーえっとユリウスは?」

 ルシエラににっこりと笑いかけてからユリウスのほうを見る。

「……トマト、とか」

 先ほどの真っ赤な顔で、絞り出すようにユリウスは言う。トマトのような顔でトマトが好きと言う、その様子がおかしくてイツキはくすりと笑う。

 思わずイツキは彼らの頭に手を伸ばす。しかし、その動きに二人はびくりと体をふるわせた。

 二人の反応に、イツキは少し寂しい気持ちになる。なんとか会話できるようになっても彼らはイツキが怖いのだろう。

「なぁ二人とも……」

 イツキはその場に立ち止まって声をかける。二人はおそるおそる、不思議そうにこちらを向いた。

 その様子にイツキは少し苦笑する。

 すっとイツキは膝を折ってその場にしゃがんだ。二人と視線をあわせる。そしてその動き一つ一つに二人は驚いたようにこちらを見ているのがわかった。

「そんなに俺が怖いか?」

 真っ直ぐ彼らの目を見ながらイツキは尋ねる。尋ねた後、なぜそんなことをしてしまったのかと、今日何度目になるかわからない後悔をした。

 おそらく自分たち以外の人すべてを、二人は恐れているのだろう、それは想像できている。それなのに、真っ向から訊いてしまったのはたぶん回りくどいことができない自分の性格のせいだろう。

「…………別に……今のあんたは怖くない……」

 やってしまったと苦悩するイツキに答えたのは、ユリウスだった。まだ体はこわばっているが、しっかりとこちらを向いている。

「でも、……いつ……怖くなるかわからない……」

 ユリウスが続けた言葉に、ルシエラもうなずいた。

 その様子を見て、イツキはふっと笑う。必死に気持ちを伝えてきた子供たちを、イツキは始めて好ましいと思った。

「そうか、……ならいいかな」

 イツキはそう言って立ち上がった。二人はそれを不思議そうに見つめる。

「今はそれで十分だ。……ホントは細かい事情聞き出すまでが仕事だけどな。それは俺が信頼できると思えてからでいい」

 二人はイツキの顔をまじまじと見つめてから、互いを伺うように顔を見る。イツキはその様子を微笑ましく見つめていた。

「あら、イツキちゃん?」

 イツキたちが道で立ち止まっていると、年輩の女性に声をかけられた。 

 その声の方を振り向けば、そこにはイツキよりはるかに小さな女性が、買い物かごを下げてこちらへ向かってくる。少し肩幅は広いがどちらかといえばころころした、という形容が似合いそうなかわいらしいおばさん、といった感じだろうか。

「フールさん、こんにちは、ご機嫌いかがですか?」

「元気よ〜。イツキちゃんはどう? あ、ジーンは迷惑かけたりしなかった? あの子ったらいきなり帰ってくるから……」

 フールという名の女性はまくしたてるようにイツキに言葉をぶつける。彼女はジーンの母親で、イツキとも交流が深い人物だ。

 変わらない彼女の様子にイツキは苦笑する。

「元気ですよ。ジーンも真面目にやってますから」

「あらそう? もう帰ってくるなりだらだらしてるのよね、ほんと心配だわぁ。ところでイツキちゃんそのかわいいお子さんたちはどうしたの?」

 話し続けるフールの視線は、イツキの後ろに隠れるようになってしまっている二人に向けられた。当人である二人は突然の出来事に驚いたのか、呆然としてしまっている。

「あぁ、俺が保護してる子供たちです。ユリウス、ルシエラ、この人はこの道の角で洋服店をしているフールさん」

「よろしくねぇ」

 満面の笑みを二人に向けるフールに、さすがの二人もおどおどしながら軽く会釈を返した。にらみつけるだのおびえるだのしていたイツキの初対面とはえらい違いだ。四人の子供を育て上げた女性に子供の扱いでかなうわけがない、ということなのだろうか。

「あら、お洋服が少しほつれてるわね」

 フールはすっとルシエラに近寄り、ケープの裾をそっとつかんだ。たしかに何かでひっかけたようなほつれが見える。

「あ、あの……」

「あぁ大丈夫大丈夫。これぐらいならすぐ直せるわ」

 戸惑うルシエラをよそに、フールはさらに彼女に詰め寄った。この年代の女性特有の大胆な行動を止めることなど、イツキには不可能だ。口すら挟めないままに話は進んでいく。彼女にも悪気がなく、純粋な好意なのだから無理に割って入るのもはばかられた。

「さぁさぁ、せっかくだからうちに寄ってきなよ。これぐらいサービスでなおしてあげるからさ」

「え、あ、あの……」

「……っ、ちょっと待てよっ!」

 ルシエラの手を引き、歩きだそうとしたフールを遮ろうと、ユリウスが飛び出した。その衝撃でぱさりと彼の帽子が落ちる。

 

 古ぼけた茶色の帽子。

 使い古され、くたびれきったその帽子の下には銀に輝くくせ毛の髪ととがった獣の耳があった。

 

「あ……」

 誰からもれた声だろうか。

 それが判断できないほどに、彼らは驚きに身を固めていた。

 この世界で獣の特徴を持つ人は、獣人か、半獣人のみ。

 体の一部にのみ獣の特徴を持つのは、半獣人だ。

「ユリウス……」

 イツキが問いかけるその前に、ユリウスはルシエラの手をつかみ、その場から一気に駆けだした。

「おい、ユリウス! ルシエラ!」

 イツキははっとして名前を呼ぶが、それで彼らの足が止まることはない。ほんの少しの間に、二人はイツキの視界から姿を消している。

 その場には、少年が身につけていた帽子だけが残った。

 

 

 

-3ページ-

 

 

 二人は必死で走り続けていた。

 そこはもうリヴィラの町並みを通りぬけ、深い緑が目に飛び込む森の中だったが、二人はいつそこに入ったのかも気づけぬほど必死で走り続けていた。

 がさがさと葉っぱの上を走り抜ける音と共に、声が聞こえる。

(なんだ、この耳。きもちわるい)

 幻聴だ、それはわかっている。それでも過去に投げつけられたその言葉に、ユリウスは唇を噛む。

 帽子の中身を知った人間は、いつもそうだった。

 半獣人は禁忌だと。不吉だと、冷ややかな目を向ける。時には石を投げられる。半獣人だと知って近づいてくる奴らは、売り物として、利用しようとする者ばかり。

 自分たちを守ってくれる存在は、この世にいない。

 一番近くにいた母親は自分たちのことを「化け物」と言った。

(こんな化け物は私の子じゃない。私はこんな子供産みたくなかった!)

 やつれた母の言葉は幼い二人にとって、鋭利な刃物だった。

「っ、あ」

「ルシエラ!」

 ルシエラが木の根に足を取られて体のバランスを崩し、その場に倒れる。スカートから見える足に一筋の赤い血が流れた。

 彼女を気遣わずに走ってきてしまった。ユリウスはそのことを後悔しながら、妹の容態を確認するためにしゃがみこむ。

「大丈夫か?」

「うん……。ごめんね、ユリウス……」

 怪我をしたのは自分なのに、ユリウスを気遣うルシエラの言葉に彼は自分を殴りつけたくなる。

 元はといえば全部自分が引き起こしたことなのだ。

 少なくともあそこで余計なことをしなければ、逃げずにすんだのに。

 あの警備隊の男は自分たちに危害を加えたりしなかった。もし、あそこで帽子が外れなければ……。

 そこまで考えて、それを振り払うようにユリウスはかぶりをふる。

 あの男が無害だとどうして言えよう。どうせあそこでバレていなくとも、いつかはわかったことだ。隠し通すことはできない。そして、自分たちの正体を知れば、彼はきっと危害を加えてくるに違いない。

「……あ、あのね、ユリウス、わたしまだ走れるから、」

 黙り込んでしまったユリウスを心配して、ルシエラが声をあげる。ユリウスはその言葉にはっとなった。

 こんな調子では駄目だ。自分がしっかりしなければ。

「無理するな、ルシエラ。そんなすぐ逃げる必要もないから……」

 逃げるにしても、どこか目的地があるわけでもない。街からかなり離れただろう今、急ぐ必要もない。

「しばらくここで休んでろ。足怪我してるんだから無理するな」

「……ユリウスは?」

 兄の物言いにルシエラは眉を寄せて、首を傾げる。

「おれはちょっと食べれるもの探してくるからさ。しばらくここにいろよ」

 彼女を安心させるように、ユリウスはあえて笑顔で言う。ルシエラは何か言いたそうに口を開くが、やがて諦めたのかそっと口を閉じた。怪我をした自分が行っても足手まといになると思ったのだろう。

「じゃあ行ってくるから」

「うん……。……ねぇユリウス」

 呼び止める彼女の声にユリウスはそっと振り返る。

「もう、戻れないかなぁ……」

 ルシエラはさきほどまで走っていた道へ視線を送る。その向こうにはリヴィラの街が広がっているはずだ。

 しかし、ユリウスには彼女が言っているのは街ではなく、あの長身の男のことだろうと分かる。事情も話さず、黙っていただけの自分たちに優しく接してくれた人。

 彼が自分たちの扱いに苦労していたのは分かっていた。それでもなんとかして、自分たちに接しようとしてくれていたことも。

「……無理だよ」

「……うん」

「もう……バレた」

「……うん」

 それでも、戻るという選択肢だけはない。

 二人が逃げてきた今までにも、優しい人はいたのだ。それでも、自分たちが半獣人だと知ったとたん、みな態度を変えた。そうなってしまえばもう、逃げるほかない。

「ここから動くなよ、ルシエラ」

「うん……。気をつけてね、ユリウス」

 少女の言葉に頷いてから、少年は森の奥深くへと入っていった。

 

 

 ◆

 

 

「……あいつらどこまで行ったんだ!」

 あの後、自分が何かしてしまったのかと動揺するフールをなんとかなだめ、イツキは彼らの後を追いかけた。

 すぐに姿が見えなくなってしまっていたが、あたりの人に訊いたり、あえて人気のないところを進んだりして、なんとか森の入り口で子供二人の足跡を見つけることができた。

 その森は普段住人がよく出入りする場所ではあったが、それでも子供だけでは危険が多い場所でもある。

 イツキは幼い二人の顔を思いだし、思わず舌打ちをする。

 あの二人がおびえているのにずっと気づいていながら、その理由にまで思考がいっていなかった。彼らが危険にさらされていればそれは自分の責任だ。

「ユリウス! ルシエラ!」

 イツキはできる限りの大声で二人の名前を叫んだ。返事があるとは思っていない。それでも名を呼ばずにはいられなかった。

 名を呼びながら森の中を走る。すると、近くでがさりと音がなった。

 その音にイツキは足を止める。

 音のしたほうに目をやると、木の幹から長いスカートがはみ出していた。

「ルシエラ?」

 イツキはその木に近寄った。

 あわてた様子で、彼女はさっと木の後ろへと隠れてしまう。イツキはそれを追いかけて木の裏側に回り込んだ。

 木の根本、そこで小さくうずくまる形でルシエラはじっとうつむいていた。

「よかった、無事だったか」

 ほっとして、イツキはルシエラに近づく。彼女の肩がびくりと動くが、逃げようとはしなかった。

 イツキはさらに彼女の元へと近づく。

 ルシエラは逃げない。

「……足怪我してるな。ちょっと待ってろ」

 彼女の足に赤い一筋があるのを見て、イツキは怪我の具合を見るためにその場にしゃがみ込んだ。少し擦っただけのようだが、早めに消毒したほうがいいだろう。

「立てるか?」

 イツキの言葉にルシエラは小さく頷く。

「ユリウスはどこに行った? はやく……」

「なん……で……」

 質問を続けるイツキの声を遮るように、ルシエラはか細い声を出した。

 彼女はうつむいて、決してこちらの目を見ようとはしない。

「……なんで……やさしくしてくれるの?」

 絞り出された言葉に、胸が締め付けられる。この子たちが今までどんな環境で生きてきたか、この言葉だけでもそれは想像するに難くない。

 イツキはそっと彼女に手を伸ばす。

「大丈夫だ」

 そのままその手は優しく、ルシエラの頭に触れた。イツキの大きな手と比べれば、彼女の頭はとても小さい。

「俺はそんなことしないし、ほかの誰にもそんなことはさせないさ」

 諭すようなイツキの言葉に、ルシエラはゆっくりと顔を上げた。

「……ホント?」

「あぁ、本当だ」

 優しく、イツキは彼女の頭をなでる。

「……もう、にげなくて……いい?」 

 ルシエラの瞳からポロポロと涙があふれだす。その目を真っ直ぐ見て、イツキはうなずいた。

 そのままひくひくと少女は泣き出す。イツキは戸惑いながらも、あやすように彼女の頭をなで続ける。

「……ひっ……っユリ、ウスがっ……」

 泣きながら、ルシエラはイツキに訴える。

「一人でっ……奥にっ……」

 泣いた興奮が残る、とぎれとぎれの言葉だったが、イツキには彼女の言葉が伝わった。

「森の奥に行ったのか?」

 イツキの言葉に、ルシエラがうなずく。

 この森の奥に進めば高めの崖がある。しかも、木々が覆い茂っているせいで、気づかずに足を踏み外す可能性もあった。

「……分かった、あいつを迎えに行ってくるから、ルシエラはここで待っててくれるか?」

「……かえって、くる?」

 不安そうにルシエラはイツキに見つめた。

「あぁ。必ず」

 彼女の不安を取り除くために、はっきりとイツキは告げる。それで安心したのか、ルシエラは淡く笑った。

 頭を軽くなでてから立ち上がり、イツキは森の奥へと走り出した。

 

 

 隣接する木の枝たちが複雑に絡み合い、葉の一つ一つが視界を遮る。こういう時にだけ、無駄に高い背丈が煩わしい。イツキは逸る心を抑えながら、森の中を進でいく。

「ユリウスー!」

 イツキの呼び声はそのまま森の中へと消えていった。あたりを丹念に見ていくが、目に映るのは草木ばかり。

「どこまで進んだんだ、一体」

 内心の苛立ちを隠せずにイツキは叫んだ。

 この森はそこかしこに段差になっている箇所がある。中には非常に高く崖のようになっている場所もあり、草木に囲われて見えなくなっているそれに足を滑らせて、大怪我を負う危険もあった。

あれから時間もずいぶん経ち、あたりは薄暗い。森自体の暗さも合わさって、数歩先からは何があるのか見えないほどの闇が広がりつつあった。

「ユリウス……」

 彼の鋭い目がイツキの脳裏に映し出された。そういえばまだ二人の子供らしい表情をほとんど見ていない気がする。

 その時、先の方で枝が大きな音を立てて裂けていく音が聞こえた。はじけるようにイツキはその方角へ顔を向ける。その瞬間、少年の悲鳴と共に、木の枝が地面へと叩きつけられた音が響き渡った。

「ユリウス!」

 急いでイツキはその場所へと走った。イツキを行く道をふっと途切れた。たたらを踏んで立ち止まれば、深い崖が足下に広がっている。その上から下を見れば、小さいユリウスの姿が見えた。 

 幹から折れたのであろう太い木の枝に片足が挟まったようで、身動きが取れずにいる。挟まっていないもう片方の足で必死にもがくが、びくともしない。

 それでもユリウスはなんとかぬけだそうと体をひねる。

「ユリウス!」

 イツキが少年の名を叫ぶ。ばっと勢いよく彼がこちらを見るのが暗がりの中から分かる。

 ユリウスの動きが止まる。動けない彼にイツキは叫ぶ。

「待ってろ! 今そこに行くから、」

「来るな!」

 はっと思い出したかのように、ユリウスはイツキの言葉を遮るように拒絶の言葉を発した。その瞳が、射抜くようにイツキをにらみつける。

「来るな……! おれのことなんか……放っておけよ!」

 激しい空気の揺れが、イツキの鼓膜を揺らしていく。

「いいから……はやくどっか行」

「うるさい!」

 さらに言い募ろうとするユリウスの言葉を、イツキの怒鳴り声が遮った。

「いいから無理に動こうとするな!」

 戸惑うユリウスをよそに、イツキは降りる道を見つけてさっと崖を降りて行く。呆然とそれを見ていたユリウスは、その場から逃げ出そうとするが、枝にはさまれた足はそう簡単に動かない。その間に、イツキは彼の元へとたどり着いた。

 イツキはユリウスにそっと近づいて、目の前で膝を折る。ユリウスはひっと小さな悲鳴をあげた。

「……別になにもしねえから落ち着けよ」

 ユリウスの頭を優しく撫でてから、イツキは立ち上がった。その様子をユリウスは信じられないような目で見つめている。

「いいか、変に動こうとするなよ。今こいつをどかしてやるから」

 イツキはそう言うと、ユリウスの足の上にある太い枝に手をつけた。慎重に持ち上げようとするが、太い枝の重量は相当なものだ。

「……っ」

 徐々に枝が持ち上がっていく。イツキの持つ側だけ持ち上がるので、斜めに上がっていく。

 普段、鍛錬を怠っているつもりはないが、一人で枝を持ち上げるというのはなかなかに骨が折れる。こんな調子ではだめだなと、自嘲じみた笑いが漏れた。

 枝が持ち上がり、地面との間に隙間ができあがる。

「……はや、く、出ろ……!」

 腕に力を入れたまま、イツキはユリウスに言う。ユリウスは言われたとおり枝の下からのそのそと這いだした。

 ユリウスが完全に抜け出したのを見て、イツキは枝を地に落とした。ドスンと音がする。 

 イツキは少し息を整えてから、ユリウスを抱き起こした。

「大丈夫か? ほかに怪我は?」

 言いつつ怪我の有無を確認する。草がクッションになったのか、そこまでひどい外傷は見当たらない。緊急に手当が必要な状態ではなさそうで、イツキはほっと胸をなで下ろした。

「…………なんで、たす、けた」

 ユリウスは体をふるわせながら、イツキに問いかける。

「お前みたいな子供を、助けないわけがないだろうが」

「おれは、……半獣人なんだ!」

 ユリウスの目が潤んでいく。涙が流れないように、必死で押しとどめようとしているように、イツキには見えた。

「半獣人がどうなろうなんて…………あんたに、関係ないだろ!」

「ユリウス……」

 イツキが彼の顔をのぞきこもうとするよりも先に、ユリウスは力いっぱいにイツキの体を押した。そのまま反動で後ろへと下がる。

 体が痛むのか、それとも、心が痛むのか。ユリウスは顔をゆがめた。

「もうおれたちを……これ以上……」

 期待させないでほしい。

 音が森に吸い込まれる。だが目の前にいるイツキには、唇の動きがよく見えた。

「ユリウス!」

 イツキが彼のもとへ向かうために足を踏み出そうとしたとき、唐突に彼の名を呼ぶ声が二人の間に突き刺さった。

「ルシエラ!?」

 声のした場所――すなわち崖の上を見て、ユリウスが驚きの声を上げた。もちろん、驚いているのはイツキも同様だった。

 崖の上にいる少女、ルシエラは体を震わせながらそこに立ち続けている。

「ルシエラ、なんで来た!」

「ご、ごめんね、ユリウス……。声が聞こえたから、どうしても心配で……」

 ユリウスの言葉に答えるため、おどおどとルシエラは崖の淵へと近寄る。足下の石がカラカラと音を立てて、下に落ちていった。

「ルシエラ、危ないからそこから離れろ!」

「え、あ、きゃあっ」

 イツキが彼女に警告を発したが、それが一寸ばかり遅かった。

 暗く足下が見えていなかったのか、ルシエラはそのまま地面のない場所へ足を踏み出してしまった。

「ルシエラ!」

 ユリウスの悲鳴が耳を打つその前に、イツキの足が地面を蹴った。真っ直ぐに、崖の下、少女が落ちるその場所にイツキは駆け寄る。

 ルシエラの体が地面に叩きつけられる。それよりも、イツキが彼女のもとにたどり着くのが先だった。間一髪で、ルシエラはイツキの腕の中へと収まる。だが、全体の力の動きを止めることができず、イツキはルシエラを抱えたまま、地面へと叩きつけられた。高い場所から落ちた少女の体は、実際の重量よりもはるかに重い一撃となって、イツキの体を襲う。

「いっ……」

 ルシエラを全身で庇ったまま、地に転がるイツキは思わずうめき声をもらした。いくら体を鍛えていようと、防具を身にまとっていようと痛いものは痛い。

 それでも、そのことを悟られないようにイツキはルシエラを抱えたまま起き上がった。

「ルシエラ、怪我は?」

「あ、……え、だ、大丈夫です……」

 身を挺した甲斐あってか、ルシエラの体に特に異常はなさそうだ。

 イツキはそれに安堵し、息を吐く。

「ルシエラ!!……っ」

 ユリウスが二人の元へ走り寄ってくる。枝に挟まれた時に体を痛めているためか、顔が痛みで歪んでいる。

「ルシエラ、無事か?」

「うん、大丈夫」

 心配するユリウスに、ルシエラが安心させるように彼のもとへと駆け寄った。

「助けて、もらったから……」

「…………」

 ルシエラの言葉に、ユリウスが複雑そうな表情をした。

 唇をぎゅっと噛んだその顔で、彼はイツキのほう見る。その視線をイツキは真っ向から迎えた。二人の視線が真っ直ぐに交差する。

「あんたは……何がしたいんだ」

 唇から押し出された言葉が、イツキの耳に届く。イツキはそれをしっかりと聞いていた。

 ユリウスの隣にいるルシエラが、不安そうな顔をして二人を交互に見る。

「おれたち、半獣人は……不吉で、不幸を呼ぶ存在なんだ! そんなの助ける必要なんて……ないだろっ!」

叫ぶような少年の声。押し止められなかった涙が目の端から順に溢れ出る。水滴が頬を伝い、地面に落ちた。

「ユリウス……」

 ルシエラも同じように泣きそうな顔をして、彼の様子を見守る。

 イツキが静かに二人のもとへと近寄る。

それと同時に後退りしようとするユリウスの腕を、ルシエラが掴んだ。ユリウスは驚いた顔で、彼女の方を見る。

二人のもとへとたどり着いたイツキは、二人をしっかりと腕の中へと引き寄せた。心ない人々の言葉で傷ついた子供の涙が、服を濡らしていく。

「そんなわけ、ないだろう」

 イツキがあやすようにユリウスの頭をなでる。どうすることもできず彼はイツキの腕の中でじっとしていた。

「お前たちが不幸を呼ぶなんてそんなことあるわけがないんだ」

 イツキが抱きしめる二人の肩はとても小さい。どこをどう見ても、ふつうの子供の体だ。

「お前たちはただの、子供だ。だから俺は、何があってもお前たちを助けるよ」

 子供が傷つくところはあまり見たくない。

 イツキはそう言って、ユリウスとルシエラの、二人の顔を見た。

「もう大丈夫だ」

 その言葉を合図に、二人はその場で勢いよく泣き出した。

 

 

  ◆

 

 

 ユリウスとルシエラが落ち着いてから、イツキたちは無事リヴィラの街へと戻った。あたりはもうすっかり真っ暗になっており、家々には明かりが灯っている。

 イツキを挟むように歩く二人の顔に、もう怯えはない。その様子を見てイツキはうれしく思った。

 詰め所まで戻ると、心配していたクリフたちに出迎えられた。二、三ほど小言をもらうことになったが、それは仕方ない。

簡単にクリフに事情を報告したイツキは、二人を連れて詰所の一室に入った。

二人を椅子に座らせ、机の上にマグカップを並べる。秋風に当てられて冷えた体を温めるために、熱い牛乳がカップに注がれた。

そうして少し落ち着いてから、ユリウスとルシエラはイツキに事情を話し出した。

 二人が半獣人の双子で、予想通り生まれ故郷では禁忌として疎まれ続けていたこと。母親としても望んだ出産ではなかったため、奴隷商に売られ、その途中でなんとか逃げ出してきたこと。

 ジーンの話していた脱走した半獣人とはおそらく彼らのことだ。まさかここまで幼いとは思わなかったが。

 どこに行けばいいか分からない時に、たまたま飛び乗ったのがあの行商人の馬車だったと二人は語る。

「……そうか。話してくれてありがとな、二人とも」

 イツキが笑いかけると、二人はほっとしたような顔をする。

 しかし、それがすぐに暗い表情へとかわっていく。

「……なあ……おれたち、これからどうなる?」

 不安げにユリウスはイツキの顔を見る。ルシエラも言葉こそ出さないものの、同じような目を向けた。

 ――種族混血児は禁忌の子供。

 たしかにそういった信仰はある。そして、その信仰を信じるあまり、彼らを傷つける人はあまりにも多い。混血児として生まれた以上、そのことからは逃げることはできない。

「……二人はここがどうやってできたか知っているか?」

 イツキの突然の問いに、二人はそろって首を傾げる。その様子がおかしくて、イツキは笑った。

「この街はもともとな、種族混血の人々が独立するために作られた場所なんだよ」

 イツキの言葉に二人は目を丸くした。

「だから、この街でお前等を傷つける奴はいない。行くとこねえなら俺が面倒見てやる。どうせ男一人で寂しい生活してたしな」

 おどけたようにそう言えば、二人は呆けたようにイツキを見つめる。

「だいぶ遅れたが、リヴィラへようこそ。この街はお前等を歓迎するよ、ユリウス、ルシエラ」

 にっこりと、イツキは二人に笑いかける。

「ほんとうに……」

 呆然としていたルシエラがゆっくり口を開く。

「ほんとうにここにいていいの?」

 不安と期待が入り交じったような二人の視線。

 それに対してイツキは大きくうなずいた。

「もちろん」

 イツキが返事をしたとたん、二人は勢いよくイツキに飛びついた。

衝撃で二人の帽子がはずれ、獣の耳が見えるが、それを気にする必要はもうない。

 ぎゅっとしがみつく二人の姿を見て、イツキは優しく微笑む。

「後でちゃんとアベルハイドさんに謝りに行こうな。明日の朝に出るらしいからまだいるだろうし」

 二人の頭をなでながらイツキは言う。

「それで明日になったら、いろいろ買い物に行こう。生活に必要なもんそろえねえといけねえし、フールさんにも謝りに行こう」

 二人はイツキの腕の中で、大きくうなずいた。

イツキは自分の腕の中にある、二人分の体温をしっかりと感じ取った。

これから忙しくなりそうだ。

 そんなことを思いながらイツキは自分の腕の中で丸くなる彼らを見つめていた。

 

 

                             終

 

説明
独立都市の愛称で知られるリヴィラの街。
その街で暮らす人々のお話です。
短編連作の一作目となります。


*学校で作った冊子に載せた作品です。

トップイラストは秋風蔵圦さん(http://www.tinami.com/creator/profile/27105)が作ってくださったタイトルロゴです。
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都市 ファンタジー 猫耳 双子 シリーズ 短編連作 オリジナル 

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