【改訂版】真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 二章:話の七
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 /一刀

 

 州牧様は、とても良い人でした。

 俺みたいな子供に、ちゃんとした仕事を与えてくれて。

 しかも、傍で仕えろだなんて……信じられないくらい良くして貰ってます。

 丁苞様の件は凄く残念ですが、そのご遺志を預かったという意味でも、

 誠心誠意ご奉公させていただきたいと思います! 

  

 と、“人が良く気配りが出来、しかし所々子供らしい好青年”な俺は思う。

 自分の特技だが、変化自由自在な多重人格みたいなもんだ。

 

 

 正直なところは……クソ喰らえ、だ。

 

 丁苞の爺が政をやらせなかったのも仕方がない。

 こいつは40も過ぎて、政治が何か、何もわかっちゃいない。

 

 俺を見る時でさえ打算と自分の利益をたぎらせた色で見てきた。

 政治も、コイツは得と野心で向かっている。

 

 それじゃあ、こんな人間のレベルが低い時代では通用しない。

 俺の居た時代なら、会社が、労働者が、消費者が、ほっといても政治経済流通貨幣全部動かした。

 

 この時代は、そうはいかない。

 

 未来を中学生、つまり指標さえあれば自分で動ける社会、とすれば。

 この時代は赤ん坊だ。

 為政者達がおんぶにだっこで全部を動かし全部を引っ張らなければ、なにもしないし何もできない。

 そして、何もやらせない。

 

 まぁ、赤ん坊に皿洗えだの掃除しろだの言って出来る訳がないから。

 そういうことだ。

 

 しかし、それは為政者達だから出来ること。

 この馬鹿は、何もかもを自分の利権にしようと目論んでる、そう俺は見た。

 

 独裁者? いいえ、唯のバカです。

 独裁者といえど、人は使うだろう。

 ヒトラーとゲッペルスとか、そういうのが絶対いるもんだし、その他諸々数百の手足が居た。

 

 だがこの馬鹿は愚かにも、一対の手足、つまり自分一人でしようとしてる。

 ……あ、あと多分その他諸々の腕候補は俺だな。

 

 アレか、光源氏計画か。

 若紫が俺で、源氏がこのおっさん。ロリ……いやショタだな。

 どちらにせよ嫌だなぁ、絵面的にも。

 

 「ここだ、明日から此処へ来るが良い」

 「……あ、はいっ」

 「ふむ、どうした? 何やらぼんやりしておったようだが」

 「あ、いえ、その、張越様の居城というだけあって、凄く立派だなぁ、と……」

 「ほう、ここの良さが解るのか? そうかそうか。その様に言われたのは初めてだ」

 

 ぼんやりしていた俺を、一瞬だけ訝しむも、褒めると直ぐ機嫌を直した。

 ……丁苞の10倍は扱いやすいな。

 因みにその私邸、っちゅうのは、これでもかってくらいに趣味が悪かった。

 何て言うか、キモヲタ拗らせてヴィジュアル系に走った男子中学生の部屋に匹敵するくらい。

 ……我ながら分かりづらいたとえだなぁ。

 

 「そんな、分からない人の目は節穴だったんですよ!」

 「そうだな、私もそう思うぞ」

 

 ……とりあえず褒めとくか。

 なんだか、扱いやす過ぎて金髪くるくるドリルな髪型が思い浮かんだ。何故だ。

 因みに張越は黒髪だった。……はて、霞は紫だったよな?

 

 

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 **

 

 

 傍仕えまでのし上がってから、4日が経った。

 

 「おはようございます」 

 「……ああ、北郷、やっと来たか。その、茶はあるか?」

 

 この男は、本当に早かった。

 何がって、中毒が出始めるのが。

 

 禁断症状じゃなく、快楽を求めての方だけど。

 意志ゆるゆるにも程があるだろう、と。

 

 最初茶を出してみて、なんとなくほんわかと幸福感を感じさせ、だんだんと身体に幸福感を覚えさせ……というのが普通なのだが。

 張越は、2日目には既に茶の虜になっていた。

 

 無駄に良く働く勘か何かがあるんだろう。

 幸福感の元を探り当てたこの馬鹿は、翌朝出勤してきた俺に、あろうことか茶をもっとくれないかと聞いてきた。

 

 まさか二日で探り当てられるなんて思っても無かった俺としては、

 計画が露見したのかと内心ひやひやだったのだが、どうもそれは的外れな予想だった様で。

 

 一片も疑いもせず、唯幸せになれる素敵なモノだと思い込んで……。

 4日目には既に禁断症状の片りんを見せ始めていた。

 

 ……本当に、こんなの傀儡にしても大丈夫なのか?

 まあ、仕事が早く終わればそれだけ家に早く帰れる訳だ。

 そうすれば、もし、また霞が許してくれたなら……。

 

 ……いや、楽観的な予測は止めよう。

 俺は許されざるコトをしてるんだ。

 ……いくら彼女が許してくれたところで、その罪自体は、無くならない。

 まぁ、その行為自体は生きる為、と割り切れるところが、俺がこの世界で変わった一番のところだよな。

 

 と、ニヒルな感情に身を任せていると、すっかり目の前の愚か者のコトを忘れていた訳で。

 

 「茶はあるのかと聞いておるではないか!」

 「え、ああ。はい、ありますよ」

 「では早速出すのだ」

 「その前に張越様、お話が……」

 

 まぁ、馬鹿と分かったなら、馬鹿へなりの対応がある。

 

 

 

 「もっと、幸せな気持ちになりたくないですか?」

 

 

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 **

 

 「ふぅ……」

 

 順調に、張越は酒色に狂って、順調に中毒になってきた。

 今日も一仕事(?)無事終わって、あてがわれた部屋へ帰る俺。

 ……少し前までは、霞が隣に居た。

 

 もちろん、帰る場所も、やってたことも、何もかもが違うけど。

 ただ、横に居た筈のあの娘が居ない。

 

 ソレだけで、ぽっかりと胸に大きな空洞が開いた気分。

 たった半年の間だったのに、それより前は今と変わらなかったのに。

 

 『……はぁ。 ……ん?」

 

 何か、今何処かで聞いた様な声が……。

 一瞬、溜息が重なって……いや、流石にソレは無いよな……。

 ったく、俺どんだけ霞に依存してるんだか……。

 

 「はぁ……」

 

 んん? やっぱり俺じゃないぞ。一体どこから……。

 もしかして、俺も少し薬吸っちゃってたとかかもしんない……。

 

 「ヤバい、ヤバいぞ。……俺、大丈夫か?」

 「ん……一刀? ……って、一刀!?」

 

 幻聴がどんどん大きくなってる……ああ、中毒ったかも。

 信賞必罰だからって、こんなタイミンぐぇっ!!?

 上から来た!? なんか上から来た!! 上から来るぞ気をつけろとか実際無理ですから!!

 とりあえず背骨がヤバい! 何が起きたの!? 敵襲!? 敵襲なの!? とりあえず衛生兵!衛生兵カモン!!

 

 「このアホ一刀!! なに勝手に消えとんねん!! 

  ウチ、どんだけ心配したとおもっとんねん!! あほ!ばか!まぬけ!朴念仁! 

  ……ばか。……うぐっ、ひぐっ。ほんまに、ばか。 

  ……ぐすっ、んでも久々の本物の生一刀や、にゃはは、って……おーい? 」

 

 

 ダメージが体力ケージを振りきっちゃったぜ。

 多分ライダーキック的な技を後ろから受けるとこんな感じなんだろうなと。

 

 

 「……ああ、時が見えるよ。おやすみ、パトラッシュ……ぐふっ」

 

 「あ、死んだ。

  ……って、誰がパトラッシュや!」

 

 

 「いや突っ込むとこ違うだろ!?」

 「なんや、生きとるんやん」

 

 はっ、つい突っ込まなきゃいけない衝動に駆られて……って。

 

 「し、霞なのか……?」

 「にひひ、久し振り」

 

 

 俺の想い人が、別れたときと何ら変わらない笑顔でそこに居た。

 

 

 「な、なんで……」

 「んーとな、昨日突然連れてこられた」

 

 もう会えない、もう会わない、会うべきじゃない。

 そんな思いばかりぐるぐると俺の中を回って、言葉がうまく出ない。

 

 でも、これだけは……。

 

 

 「駄目だよ霞、俺なんかと一緒に居ちゃあ……」

 「てかそんなことどーでもええねん!! なんで勝手に居なくなっとるんや!」

 

 と、そんな俺を怒鳴りつける霞。

 

 「え、だ、だって! 俺は霞の父親に手を掛けに行ったんだぞ!? それが、被害者の娘と仲好く一緒に居るとか普通おかしいじゃん!」 

 「ウチは別にええって言ったやん! あんなオトンかどうかも怪しい様なオッサンと一刀、どっちが大事かなんて」

 「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ! それに下手したら霞が父親を狂わせるよう仕向けたなんて風評が出回ってもおかしくないんだぞ!!」

 「別に構わんわ!」

 「俺が構うわ!」

 

 意見が何か噛み合わない。

 俺なんかを大切にしても、霞の幸せは無いのに。

 

 「別にウチの勝手やん! 何が大事で何が大事やないかなんて!」

 「霞が勝手にしても、それじゃ霞は幸せになれないんだよ!」

 「なっ、なんで一刀にウチの幸せ語られんならんねん! ウチの気持ちも分からん癖に!!」 

 「分かる訳ないよ! 俺は俺、霞は霞だろ!! でも、俺みたいな薄汚い奴と居たら霞もここの居場所がなくなるかもしれないんだぞ!!」

 

 俺みたいに、泥ん中で蠢く一生を送らせたくない、それだけなのに。

 霞は、生まれ持ったアドバンテージを捨てようとしている。

 どれだけの人間が、そこを渇望しうらやんでいることか。

 

 「分かれや馬鹿!! そーやって勝手に何でも決めてまうトコが一刀の悪いトコやで!!」

 「でもそれじゃあ霞まで乞食に身を落とすかもしれないんだぞ!!」

 「うっさいわ! ウチはな、イヤなモン我慢して居るよりも、好きなとこで好きなコトする方が幸せなんや!!」 

 「意味分かんないよ! なんで楽に生きられるのにそれを捨てるのさ! なんで俺なんかに合わせるのさ!!」

 

 声を張り上げて訴えかける。

 ここが何処かなんて関係ない。

 

 霞の幸せを願ってるだけなのに、どうしてそれを分かってくれないのか。

 

 

 「んなもん決まっとるわ!! ウチが一刀んことが大好きやでや!!」

 「なっ!?」

 

 言われてしまった。色気もくそも無い告白。

 薄々分かってたのに、それを知ってしまえば戻れなくなると分かっていたから、超えなかった一線を。

 

 霞はあっさりと超えてしまった。

 

 「お、俺だって、俺だって霞が大好きだよ!!

  でも、でも! そんな子供じみた想いじゃ、誰も幸せにはなれないんだよ!!」

 

 こうなると、傷つけあってしまうって……霞も分かってたんじゃないのか?

 

 「嫌や! そんなん一刀の思いの押し付けや!! ウチが幸せんなるのは、一刀んところだけや!!」

 「押しつけでも……好きな人の幸せを……霞の幸せが、俺と一緒じゃ、霞は幸せになれないんだよ!!」

 「そんなん暴論や!! ウチの幸せはウチが手に入れるもんや! ウチが何が幸せか決めるんや!!」

 「分かってくれ! 想いだけじゃ、何もないんだよ……!! 世界は、霞が思ってるよりずっと残酷なんだよ……っ」

 

 もう、霞と話してられなかった。 

 どうして。どうして、どうしてどうして!!

 

 ……気付けば、俺は逃げだす様にそこから走り出していた。

 

 「あっ、ま、待って!!」

 

 霞の言葉を、無理やり振り切って。

 縋る声にも、足を止めることなく、走った。

  

 

 

 「今夜は、なにも無かった。

  真っ直ぐ部屋に帰って、それで終わりだ。ああ、今日も平凡な一日だった」 

 

 そう、自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

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 ** 

 

 

 

 早い、早過ぎて逆に不安になるレベルだよ。

 こいつ、政治を云々とか言う割に意志ゆるっゆる過ぎだろ……。

 

 

 二週間が過ぎた。

 投与量をエライ一気に増やしたのが四日目。

 んで、今日が十四日目、たった十日でもうあの愚者はアタマがラリってしまった。

 

 

 十二日目辺りまでは、増幅された快感と俺が大急ぎで調達してきたたっぷりの白胡で、

 そりゃあもう朝から晩まで、酒色におぼれる、って状態をこれでもかと体現してくれてた。

 因みに酒と女は黒社会が提供してくれた。

 どうも見た感じ、かなり大勢が普通に入り込んでいるっぽい。

 この州駄目だ、早くなんとかしないと……。

 

 

 んで、試しに少し白胡の量を減らしてみれば、叫ぶわ切れるわ怒鳴るわ暴れるわでエライ事になった。

 そのまま一日、極々少量ずつ、禁断症状でイッてしまわない程度に摂取させつつ、目立たない適当な倉にでもぶち込んで放置してみることになった。

 

 それが昨日までの話。

 で、今日の俺のすることは、状態を確認して、計画の最終段階に入るコトなんだけど……。

 

 

 どうやら、あのおっさんには激痛がもうやって来だした様で。

 異様な絶叫と失禁に脱糞を重ねた悪臭が、朝、閉じ込めてた人気の少ない場所の蔵に訪れた俺に襲いかかった。 

 

 「おはようございま……っ、うぇ臭っ!?」

 「イ、ギギギ……っ、頼む、く、薬を」

 

 なんかもう部屋んなかが肥溜状態だった。

 ……とりあえず、まともな交渉は出来なさそうだ。

 それが狙いだけどさ。

 

 アレだけ偉そうで、実際金も地位も持ってた男が、何もかも奪い去られて、部屋の中でウジ虫みたいにくねくねしてる。

 盛者必衰、なんて言うけど、流石に少し哀れに思った。

 

 「……はい、これが薬です」   

 「っ!! 早く、早くそれをくれ!!」

 「いいえ、まだ駄目です」

 「頼む!! 身体が、痒くて痛いんだ!! 俺を、俺をウジ虫が食べてるんだ!!」

 

 幻覚も末期症状、痛覚、触角にも異常大。

 ……こりゃ、確実に廃人だね。

 

 「この書状に、ぽんと印を押すだけで良いんです。そうすれば、薬を上げましょう」

 「押す!今すぐに押す! だから、薬をっ!!」

 「良く言えました。はい、どうぞ」

 「く、薬だっ!!!」

 

 飢えた畜生だ、まるっきり。

 人間の尊厳も、プライドも何もかも全部すっからかんだね、こうなると。

 

 「……ああ、ふふ、ははははは! いいぞ、すごくいいぞ!! 俺が支配するんだ!」

 「ありがとうございます、お陰でこの嫌な役目も終われそうです、って聞こえちゃいませんね」

 「はははは、ははっ、はははははははははは!!!」

 

 「……では、さようなら」

  

 狂った笑い声を背に受けながら、部屋を出ると。

 

 「……取れたか?」

 「滞りなく」

 

 待ちかまえていたのは、俺の上司。

 もちろん、ボスの方じゃ無くて、顔が見た事ある奴だけど。

 

 一言ずつだけ言葉を交わすと、あとはもう何もしゃべらない。

 俺が書類を渡して、上司が書類を受けとるだけ。

 

 ……ふぅ。

 

 これで終わりか。

 あとは、報酬を貰って……。 

 

 

 「あ、ちょっと待て」

 「なんです……え?」

 

 すとっ、と大根にでも刃を突き立てたような音がした。

 そして下腹部に突き立つ小さな刃物。

 

 「どうし……て……」

 「知り過ぎた人間は、邪魔になる。賢いお前なら分かるだろう?」

 

 そっか、そりゃそうだよな。

 州の乗っ取り計画なんて大層なこと、知ってる人間は少なけりゃ少ないほどいいのに。

 自分で、自分のコト、鉄砲玉って分かってたのに。

 

 白の文官服に広がる血の痕。

 血はまだある筈なのに。やっぱ、刺されたことがショックだったのかな。

 意識が遠のく、ってのがどういう感覚か実に良く分かる。

 瞼が重くて仕方がない。

 

 

 

 

 「ちく……しょう……霞……」

 

 

 

説明
今北産業
・雛見沢的な幻覚
・おや、一刀のようすが
・ティウンティウンティウン(ロッ●マンの死亡音的なアレ)


・正直、ゴメン
・友人に『いつまで引っ張るの?』って言われました。
・はやくちゅっちゅいちゃいちゃさせたいんですごめんなさい。
・展開を予想し辛い様に進めてたらエライ事なっちゃったぜ\(^o^)/
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コメント
颯爽と現れるヒーロー(霞)がヒロイン(一刀)と助けるか・・・・・・・・・あれ、逆?(駆逐艦)
パスワードで途中から・・・は無理か。 (azu)
つE缶 頑張って下さい!(ぁぁぁ)
霞さん、助けて!一刀君のライフが点滅し始めたよ!!!(summon)
一刀君ピンチ!!まあ、霞が何とかするでしょう。ってかなんとかして!!(量産型第一次強化式骸骨)
一刀君、レッドカードで一発退場?(歴々)
張越が小物すぎるwwwwww(アルヤ)
まあ、この辺は予想通りですが・・・霞なんとかして!(mokiti1976-2010)
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