ハルナレンジャー 第一話「迫り来る魔手」 B-1 |
Scene4:榛奈駅前広場 PM00:00
駅舎の壁面に設置された、地元ケーブルテレビの大型モニタが0:00の時報を告げる。
と、同時にモニタいっぱいにシェリーの顔が大写しになった。
突然のきりっとした美女の顔に驚いて立ち止まる人々の前で、シェリーが口を開いた。
「我々ダルク=マグナは、世界征服の第一歩として、ここ榛奈市の征服を行うことを宣言する」
その宣言のあまりの突拍子も無さに、野次馬が集まり始める。
「榛奈市民のみなさん。我々の目的は当市政権の平和的かつ恒久的な奪取であり、みなさんの財産を不当に接収したり、お子さんやご家族の皆さんを傷つけることでは有りません。どうか、冷静な対応をお願い致します」
落ち着いた、だがしっかりとした口調でその群衆に語りかけると、その宣言は始まったとき同様唐突に終了した。
切り替わったのはいつものお昼のトーク番組のスタジオである。
「……と、のっけから少々物々しい演説で始まってしまいましたが」
と、アシスタントの水谷さん(30歳、彼氏募集中)がメインパーソナリティの滝本アナ(50歳)に水を向ける。
「あ、はい。こちら、本日付で当市の侵略開始を宣言したダルク=マグナのシェリル将軍による演説テープなのですけども。やー、美人ですねえ」
「そこに行くんですか。良いですけども。で、ですね。本日はいつもの番組と趣向を変えまして、『ダルク=マグナ侵略開始スペシャル』をお送りしようと言うことで」
「んー、このね。凛としてるんだけどちょっと気苦労がにじみ出てるって感じがね。プライベートでは安らがせてあげたい、みたいなね……え?先へ進めろ?はいはい。というわけで、駅前広場に中継をおつなぎしますけれどね」
「はい。今日この番組は『明日へ照らせ叡智の光』ヘルメス製薬の提供でお送りさせて頂きます……現場の、石川さーん?」
切り替わって映るのは、まさにこの駅前広場。
工事現場用らしい、大仰なヘルメットを被った女性リポーターがマイクを持っている。
「はーい、現場の石川です。いよいよ侵略活動が始まるわけですけれど。現場は異様な空気に包まれております!」
何が始まるのか気になって覗きに来た野次馬以外は、別段気にせず通り過ぎていく人も多い、そんなのどかな昼下がりである。
「…え、はい?はいはい、あ、何か始まるみたいですよ……ってきゃあ!」
わざとらしい悲鳴を上げたレポーターの石川さんの背後で、ドラゴン花火が盛大に吹き上がる。
もくもくとたかれるスモーク。
その中から現れたのは……
「はーっはっは、ひれ伏すでやんすー!」
腰に手を当てて高笑いをするレミィと、十人ほどの戦闘員だった。
「あっしらは強いんでやんすよー。怖いでやんすよー!」
威嚇するレミィに、どこかやけな雰囲気が漂っているのは気のせいだろうか?
「おおーっと、これがダルク=マグナの幹部と戦闘員なのか!ここで何を始めようと言うのでしょうか!」
全体に白けた空気の中、一人ノリノリで実況を開始する石川さん。
と、そこへ。
ぎゅきゃきゃーっとタイヤの音を派手に響かせて、一台のバンが飛び込んでくる。
ちょっと古ぼけた白のボディの側面には「榛奈市庁舎」の文字。
何度かぶつけたのだろう、凹んだドアを力任せに蹴り開いて飛び出てきたのはカラフルな全身タイツに身を包んだ五人組。
言わずもがな、ハルナレンジャーの皆さんである。
「ええい、そこまでだ!」
レミィに指を突きつけ怒鳴るブルー。
「ケーブルテレビをジャックしてこんな騒ぎを起こすとはどういう了見だ!」
「ジャックじゃないでやんすよ? 放送枠をコマーシャル枠ごと買い上げたでやんすから、問題はないでやんす!」
あっけらかんと答えるレミィにぐっと詰まったのをこらえて、更に追求。
「そ、それにしたって、平日の駅前で!」
「駅前広場の使用許可はほれこの通り、ちゃあんと取ってるでやんすよ!」
これ見よがしに書類をちらつかせるレミィ。
「ぐ、ぐぬう」
「青や……ブルー、しっかり!」
たじろいだブルーをピンクが小さく応援。それに力を得たか、ブルーが再度吼える。
「ええい!悪の秘密結社が段取り踏んで騒ぎを起こすな!」
「正規の手順を踏んだ真っ当な活動に文句つけるなんて、それが市民の生活を守る市役所のやることでやんすか!」
「……正論だな……」
思わず頷くレッドに、腰砕けになるブルー。
「先ぱ……いやレッド、あっちに同調せんでくださいよ……」
「ええい、んなこたどうでもいいでやんす!こうして舞台を整えってやったんだから、とっととかかってくるでやんす!」
どうにも気勢がそがれたハルナレンジャーに、今度は何故かレミィが吼えた。
「なんでお前の方がやる気満々なんだよ」
「こっちにもいろいろ事情があるでやんす!」
呆れ口調のブルーに対して、やっぱりやけ気味なレミィ。なぜだかちょっと涙目。
「ああもう戦闘員、やっちまえーでやんす!」
ぺいぺいと振られた手に呼応して、「イーッ」と言う叫びとともに襲いかかる戦闘員。
「何だってんだー!」
かくして我らがハルナレンジャーと世界征服を企む悪の組織ダルク=マグナとの二度目の戦闘は、どこかなし崩し的に開始された。
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