楽々・恋姫無双 七話 |
一刀ちゃんこと曹丕子桓(2)は魏の将の皆仲が良いですけど、その中で誰が一番好きか聞かされると、一刀ちゃんはきっとママって答えると思います。
もちろん、そんな愚かな質問を本当にする馬鹿なんて魏にはいませんので、大した問題はありません。
突然何故こんな話をいうのかというと、今回の物語は、魏の将たちが一刀ちゃんと華琳さまの間の絆の深さをもう尚更思い知ることになる事件たちだからです。
その時期の一刀ちゃんはすごく大人しい性格をしていて、また魏の皆のことがとても好きな良い子だったのですが、一方好き嫌いも確かな子でした。
例えば……
「…ヤだ」
「一刀ちゃん、好き嫌いしちゃ駄目だよ」
「ヤだ<<ぷい>>」
「うぅぅ……」
ある日、流琉ちゃんは一刀ちゃんのご飯を作ってあげた時の事件です。
問題は一刀ちゃんが炒飯に入っていた青豆だけ一隅に集めておいて食べないのを流琉ちゃんが見かけた時から始めました。
「一刀ちゃん、炒飯美味しくなかったの?」
「……炒飯は美味しい。でも豆はヤダ」
「何で?豆美味しいよ?」
「豆…美味しくない。噛むと変な感じする」
豆の食感が気にいらなかったのか、それから豆が嫌いと言い始める一刀ちゃんに対して流琉ちゃんも踏ん張っていましたが、何を作っても豆は置いて食べる始末。
「一刀ちゃんが美味しく食べて欲しいからお姉ちゃん頑張って作ったのに、美味しくないなんてひどいよ」
「……流琉お姉ちゃんの料理は美味しい。でも、豆は嫌い」
「あぅぅ…そう言わずに、一度だけで良いから」
そう言いながら青豆を掬って一刀ちゃんの口にスプーンを伸ばす流琉ちゃんですが、一刀ちゃんの口は絶対に開きません。
「うぅぅ……そんなこと言う一刀ちゃんにはもうご飯作ってあげないもん」
「……!」
これには流石に一刀ちゃんも少し揺らぎましたが、
「……豆鬼の作るのなんて食べなくてもいいもん<<ぷい>>」
「ま、豆鬼…!」
普通、そういう類の脅かしは子供を更に意地っ張りにさせる傾向がありますので良くありません。
更に嫌われますので、特に魏の将たちの場合注意があります。
皆さんも、『青鬼』とかいう変なあだ名付けられて床に両手ついている流琉ちゃんみたいにならないように気をつけましょう。
……え?あだ名間違ってる?
えーーほんとですかーー?(棒読み)
「流琉、どうしたの?」
「か、華琳さまーー」
「…!」
その時、丁度遅い政務を終わらせてお昼を食べに来た華琳さまが厨房で絶望している流琉ちゃんの姿を見かけました。
そんな華琳さまに向かって、流琉ちゃんはいつもの一刀ちゃんがするように走って行ってその胸に顔を埋めるのでした。
「一刀ちゃんが…一刀ちゃんが鬼って……豆……私のこと嫌いって……」
「落ち着きなさい…流琉、とりあえず私の顔をちゃんと見なさい」
華琳さまは冷静に流琉ちゃんの顔をあげさせながら言いました。
「先ず一つ、一刀ちゃんは何があってもあなたが嫌いとか言うことはないわ。ホントに一刀ちゃんがあなたのこと嫌いって言ったかしら」
「……ひくっ……う……いえ、……そうは言ってません。でも!でも、一刀ちゃんがもう私の料理食べないって…」
「そう…それは困ったわね。流琉が料理を作ってあげなかったら、一刀ちゃんはこれからどうやってお昼ご飯を食べるつもりなのかしらね……」
華琳さまはそう言いながら向こうの一刀ちゃんの顔を見ました。
一刀ちゃんはママと目が合ってそっぽを向きます。
「ほら、泣かないの。あなたの料理が不味いからじゃないわよ。一刀ちゃんはどっちかと言うと、不味くてもあなたが泣くぐらいなら意地でも食べてあげる方だからね。なんだって一刀はあの春蘭の杏仁豆腐を何も言わずに食べた子よ」
「う……でも……」
「私に任せなさい」
そう言いながら華琳さまは一刀ちゃんの方へ近づきました。
そして、一刀ちゃんが食べた皿に青豆だけが残っているのを見て大体状況が判りました。
「……そう、一刀は豆が嫌いになったのね」
「…………ん」
「そう…でも、一刀、流琉お姉ちゃんが炒飯に豆を入れたのは、きっとその方が一刀ちゃんが美味しく食べれるからよ。それを豆だけ残して不味いから食べないというのは、流琉お姉ちゃんに失礼よ」
「………」
「それに一刀、あなたが今食べたくないと捨てようとするその豆も、また魏の民の血と汗でできているものよ。魏の王子として、そしていつか魏の王になる者として、そういう行動するあなたを見逃すわけにはいかないわね」
「………豆なんて作らなければいいのに」
一刀ちゃんが言うと、農夫が聞くとほんとに魏で豆を育てるのをやめてしまいそうなのでそういう発言は控えてほしいというのは本望ではあります。
「そう、そこまで豆が嫌いなのね」
「……ん」
「…じゃあ、一刀ちゃんは麻婆豆腐も食べないわね」
「………え?」
好物の一つの麻婆豆腐を食べないって言われて一刀ちゃんは一瞬呆気取られました。
「なんで麻婆食べないの?麻婆食べるよ?」
「だって、豆腐も豆で出来てるのよ。知らなかったの?」
「……!」
まったく知らなかった顔で、一刀ちゃんの目は丸くなります。
「後、一刀ちゃんが好きな街の肉まんの中にも豆入るわよね」
「…え?」
「後、そうね。ママが週末に作ってあげる『一刀ちゃん専用特製定食』にもお豆入っちゃうから、アレももう作るのやめないとね」
「あ……あぅぅ……<<あわあわ>>」
決定打を打たれた一刀ちゃんはもはや言葉にもなくなった声でパクパクと口だけ動かしながら華琳さまを止めようとします。
「残念ね。今週はママ色々と特別なもの準備していたのに、一刀ちゃんが豆が嫌いだと言うのなら、作るわけにはいけないかしら」
「う……ぅぅ……」
そこまで言って、華琳さまが厨房から出ようとする仕草をすると、涙でうるうるな瞳で一刀ちゃんは皿に残ってた豆を一気に蓮華ですくって口に入れました。
「あ」
それを見た流琉ちゃんはそれはもうびっくりです。
「………ふ……ふえぇ……やっぱ不味いもん……」
でも、食べた本人はもう色々と感情が爆発したのが豆が不味いのと混ざって泣き始めました。
「はい、良く出来ました……」
それからやっと華琳さまも一刀ちゃんの方へ振り向いて泣く一刀ちゃんを抱きしめました。
「ふええ……まーぼたべるもん……ママのかじゅと……とくせいていしょくたべたいもん……」
「そうね。一刀ちゃんが頑張ったから、ママも頑張って一刀ちゃんが大好きな『特製定食』作ってあげるからね」
「ふええ……」
とまぁ、こんな感じに、それから一刀ちゃんは流琉ちゃんに限らず誰が作ってあげた料理でもお豆を残すなんてことはなくなった、というお話です。
一刀ちゃんの意地っ張りする場面は他にもあります。
「あああ!!一刀ちゃん返してーな。それはウチの大事な夏侯惇将軍……!!」
「………春蘭お姉ちゃんのお人形……」
事件は一刀ちゃんが真桜君の部屋に尋ねた時に発生します。
普段は真桜が他の人たちに見つからないように保管してあったはずの真桜君の所蔵品の中でも超レアなもの、夏侯惇将軍を、一刀ちゃんが見つけてしまったのです。
その上、一刀ちゃんが何やらそれが気に入ってしまった様子で、どうしても真桜君に返してあげる気がないようです。
ありますね。この年の子たちが一度気に入った人形や玩具を寝る時もご飯食べる時も離さないという悪い癖。
お母さんたちが力で奪おうとしてもなかなか思い通りにいかないものです。しかもこの場合夏侯惇将軍はとても繊細な絡繰なので真桜君にしてはそんな力で奪うなんてことは出来るはずもありません。
「……良し、一刀ちゃん!ほなそれ返してくれたらウチの秘密所蔵品の『凪の汗かいた姿で水筒の水を頭にかける』写真やるで!」
これを書いている記録者の場合口から手が出るほど欲しい写真ですが……
「……真桜姉また変な写真撮ったんだ。凪姉に言いつけるよ」
「なんやて!?ウチの秘密兵器が聞かへんと!?」
下心がない一刀ちゃんに向かって黒心しかない新兵たちに使う方法を使ったところで効くわけもありません。
「ほな……これはどうや!季衣がお腹一杯食べてお腹出して日光浴びながら寝てる写真!」
「そんなのいつでも見れる」
ほんとそれいつものことですね。敢えて写真にすることもありません。
「じゃあ、これはどうや!この前発売した張三姉妹の限定版木人形!」
「ボクの部屋に3つ届いてたから部屋の本棚に飾ったよ」
「もう持ってるとな!?」
「とりあえず地和が胸囲を騙しているということは分かった」
何でわかるんですか、一刀ちゃん。
「桂花は毎晩少しでも胸をふくらませようと胸が大きくなる体操をしてる写真!」
「たまにボクが揉んであげてるんだけど」
「なんと!」
一刀ちゃん、そこに関しては詳しくお願いします。
「真桜ちゃーん、大変なの!凪ちゃんに警邏サボったのバレちゃったよ。早く逃げないと………って、何してるの?」
「ちょっ、沙和!一刀ちゃんとめてやー。ウチの夏侯惇将軍とって返してくれへーん」
「えー?!」
「……沙和姉」
真桜君の部屋に多忙に入ってきた沙和君は、真桜君と一刀ちゃんが対峙しているのを見て、大体話が判りました。
「へー、じゃあ、真桜ちゃん、沙和が夏侯惇将軍取り返したら、この前阿蘇阿蘇で出た新品の服、買うの手伝ってくれる?」
「わあった。わあったから、あれだけ取り返してな」
「やったーなの。そんなの簡単なのー」
余裕満々でそう言った沙和は一刀ちゃんに向かって言いました。
「一刀ちゃん、それ返してくれたら、この前沙和が一刀ちゃんのために作った『天使一刀ちゃん』の小悪魔ヴぁーじょん着せてあげるの」
「…………絶対に返さないーー!!」
「沙和、この阿呆がー!」
「えー?!何で!?一刀ちゃん沙和の新着衣装着てみたくないの?」
逆効果になりました。
沙和君はこのお外史だと色々と扱いが残念です。
それでもまだ登場すらしてない人たちに比べりゃマシです。
「沙和!真桜!お前たちまた警邏を真面目にせずにサボったな!いつになったらお前たちは……」
「っ!!」
再び凪によって開かれた扉を見た途端、色々と恐怖に満ちていた一刀ちゃんは、夏侯惇将軍を持ったまま外に逃げ出しました。
「あ!ちょっ、凪!一刀ちゃん捕まえてー!」
「は?…そんなことよりお前ら…!」
「ああー!あれもし春蘭さまにバレたらウチもうアカン!殺される!」
「真桜ちゃん、その前に凪に殺されそうなの」
「今日という今日は二人とも許さないぞー!」
「な、凪ちゃん、許してなの!」
「問答無用ー!!」
「「キャーー」」
その夜、
「?一刀、その人形はどうしたの?」
「……」
夜、華琳さまと一緒に寝る時、華琳さまはその時までも春蘭さんのお人形を抱えている一刀ちゃんを見たのでした。
「確か、それは真桜が大事に隠しておいた『つもり』の人形だったはずなんだけど。もらったの?」
「…………」
一刀さんはママに聞かれて、頷くこともできず、だからって勝手に持ってきたと言ったら奪われそうだったのでそうもできずに目は宙を見つめていました。
「……そう、もらったのね」
「…!」
「きっと一刀が優しくて、素直で良い子だから、真桜が自分の大事な大事な人形でも、一刀に譲ってあげたのよね」
「……(あわあわ)」
「それじゃあ、もう寝ましょうか。お休みなさい」
それだけ言っておいて、華琳さまはそのまま枕に頭を置いて眠ってしまいました。
「……(あわあわ)」
一刀ちゃんも慌てながらも、取り敢えず一難凌いだので寝ようとします。
でも、あんなことを言われた後ですからね。なかなかお人形を抱えたまま眠れることができないのでした。
一刀ちゃんは意地っ張りでもママに嘘を付いてそのまま居られるほど悪い子ではありません。
「……!ママ…ママ」
「……」
でも、華琳さまは深く眠ったようでなかなか起きてくれません。
「……ぅぅーん……」
・・・
・・
・
コンコンコン
「…ん?…誰や、こんな遅い時間に…って、一刀ちゃん?どうしたん」
「………真桜姉」
お人形を抱えたまま一刀ちゃんが向かったのは真桜君の部屋でした。
お人形を抱えたまま涙一杯の目で、一刀ちゃんは真桜君に夏侯惇将軍のお人形を差し出しました。
「返してくれるん?」
「……<<こくっ>>」
「…ありがとうな、一刀ちゃん。ウチが後で、コレとそっくりなん作ったげるからそれまで我慢してな」
「……ん」
一刀ちゃんはうなずいて、そのまま華琳さまの部屋に戻りました。
・・・
・・
・
「……」
部屋に戻ってきて門を閉じた一刀ちゃんは、再びベッドの華琳さまの隣に潜り込みました。
そして、瞼を閉じようとする一刀ちゃんを、
「……!」
「………良い子ね」
華琳さまは目を開けずにそのまま両手で強く抱きしめてあげました。
ママの温もりを感じた一刀ちゃんがママが寝ている方を向くと、華琳さまはとても嬉しそうに一刀ちゃんのことを見つめています。
そんな華琳さまの顔を見た一刀ちゃんも、とても嬉しくて、更にママの胸に体を密着させました。
「……おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
ママに抱きつかれて、一刀ちゃんはそう眠りにつくのでした。
こういった他の将たちではどうしようもないことも、華琳さまが一言二言で一刀ちゃんを制圧してしまうエピソードはこれ以外にも多数ありますが、今回はこれぐらいで締めようと思います。
でも、だからって誤解はしてくださらないで欲しいです。
一刀ちゃんは魏の皆のことが大好きです。ただ、ほんのちょっとだけ、ママに嫌われるのがもっと嫌いなだけです。
また面白いお話があったら、皆さんにご紹介するとして、今日はこれまでにしましょう。
・・・
・・
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説明 | ||
もう一つぐらいネタ考え浮かべたかもしれませんが、これ以上長引くと忘れられそうだったのであげます。 今回は華琳さまがメインです。次回の予定は五才の時の桂花とのお話が準備できてます。 |
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コメント | ||
は覇王・・・もう副題にしてもいいんじゃないかな・・・ママ華琳ええのう・・・(通り(ry の七篠権兵衛) は覇王最強説(誤字であらず(TAPEt) いいお話でした。一刀ちゃんお母さんのこと好きなんだねぇ。(shirou) 母は強し。よきかなよきかな(時の灯篭) 華琳ママ最強だ(VVV計画の被験者) 華琳お母さんの包容力(破壊力)がスゴイ(ロンギヌス) 可愛いです。そしてお母さん華琳さんも凄くいいです。(山県阿波守景勝) 一刀ちゃんかわいい、和むなぁ・・・・・・(アルヤ) まぁ一刀くんですから(下駄を脱いだ猫) 一刀ちゃんいいこだなぁ・・・(たこきむち@ちぇりおの伝道師) |
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