楊儀伝 〜北郷再生工場シリーズA〜 |
「ええと、じゃあ。敵が、兵2万を率いて来るとの仮定で、君らが率いる数千の分隊は、この戦場でどう対応するべきだと思う。補足だけど、この戦線の確保は必須、つまり、より有利な守りやすい土地への撤退は不可で、味方の援軍は1月後に到着予定」
俺は、朱里から託された。
いやっ、まあ、「押付けられた」という方が、俺の実感だけど。
ともかく、朱里から、預かっている5人(楊儀、馬謖、李厳、法正、姜維)を連れて、蜀の首都である成都から、数キロ離れた山岳地帯に来ていた。
「ここは当然、敵を見下ろせる山に登って援軍を待つべきです」
「馬謖殿、そんな事をしたら、敵に包囲され孤立してしまいますよ」
「なにをいうのですか。後に到着する本体との連携を考えればです。山の上に分隊を配置して置く事は、挟撃の一翼となりえ、敵に大きな脅威を与える事ができます」
「それはそうですが、その前に、自分の分隊が敗れれば、逃げる場所も無く壊滅ですよ」
「姜維殿、数千の「枝」の為でなく、もっと大きな、主力同士の「幹」を考え作るのが重要ですよ。分隊の安全を主体に物事を捉えては行けません」
「それもそうかもしれませんが、わざわざ、孤立するリスクを負わなくても。それよりも、山岳地帯で進軍路も狭いこの土地を生かして、街道で敵を防ぐべきでは」
この場所に来たのは、この娘らに「参謀旅行」をさせるためだ。
「参謀旅行」というのは、実際の場所、地形を眺めながら、先ほどの俺(教師役でもある)のように仮の状況(戦の)を話し、それに対し生徒(この場合は馬謖ら)達は考え、論議をしてなるべく優れた回答を導く。そして、その回答に不備があれば教師が指摘、修正し生徒達の理解を深めさせる。まあ、簡単にいえば参謀の「実地訓練」の一種である。
そして、なぜそんな事をしているかのという。
この娘らの教育の為、もっと端的に言うと「性格改善」の為だ。
ちなみに、俺が、改善しなければいけない各々の性格というのは。
「愚直」「協調(の欠如)」「狭量」「怠惰」「極悪」」と、いった感じだ。
なんか、こんな風に、単語にしてしまうと。
この娘達の問題の多さとそれを直す、俺の苦労の程が忍ばれる・・。
そう、俺の苦労の数々が・・。
ほ、ほんと、なんなの、この娘達!!
みんな、俺のいう事一切従わないよ!!俺、一応、上司だよ君たちの!!
いや、そうじゃなくても人として最低限のしないといけない事が、その、色々あるじゃない!!なのに、なんで一切出来ないの!!なんで「5人皆で、分けて食べてね」言って、俺が魏の出張土産であげたお菓子、なんで自分だけで食べちゃうの!!
はぁ、はぁ・・。
まあ、そんな俺の情緒不安(彼女らの教育係に任命されてから)は、一旦置いといてだ。
そんな感じの、この娘らと、数ヶ月過ごして分ったことがある。
・・なんというか、この娘らに共通して言えることが一つある。
「人付き合いに対する経験不足」
と、いう点だ。
人間というのは、生まれた当時から個々に問題点=特徴を持つもの(我儘や短気等)で、実際、幼年期にはそれが顕著に表れる(欲しいものの前で、駄々をこねるのが分りやすい具体例)。とはいえ、ある程度の年齢を取り、人との付き合いが深まる事によって(特に学校などの集団に属すると)、その特徴を自ら押さえ。集団の構成者の一人として=ベターな存在、社会化していく。
それは、この娘らもそうで、この娘らの問題は本来、集団化していく過程で直っていく類の物であった。しかし、この娘らは、その特徴のそのものの「我が強い」かった事や、環境的問題等で、その社会化が上手くいかなかった。
まあ、「社会化」=「個性がない」と揶揄できるが。この娘らの様に、悪い意味で個性的過ぎるのは、周囲にも本人に良くはよくない。
そういう事で。
俺は、彼女ら5人を参謀旅行との名目で、「旅行」をさせて、人との付き合い方を深めさせようとしているわけなのだが。
実際。
今、馬謖と姜維の、二人こそ、俺の意図通り、喧喧諤諤と意見を交わし、人付き合い(意見交換の形式で)しているのだが。
「「「・・・・」」」
ただ・・。
他の3人が、問題だ。
「・・ふぁ〜ぁ」
一人目、李厳は。
つまらなそうに欠伸をしている。
あっ、耳をほじり始めた。
「・・(にやっ)」
二人目、法正は。
俺を値踏みするような目を向けながら、口元を歪ませている。
そして、三人目の楊儀。
この娘は、なんというか、一番、露骨である。
「・・」
この娘は、口を尖らせ、眉も険しげに歪ませ。
「不快」そのものといっていい、全く持って、露骨過ぎる表情をしている。
・・なにが、そんなに気に食わないんだ、この娘は。
まあ、とはいえ。
実は、コレ(この表情)が、この娘のベターである。
つまり、今日だけでなく、この娘は、常日頃から口を尖らせ、眉を歪ませているのだ。
まるで、世界の全てが憎いといわんばかりに。
・・ほんとうに、なにが気に食わないんだ、この娘は。
この娘の、本来、童顔で丸顔な人のよさそうな顔の作りを台無しにしている。
その「不満」は何なのか。
一度、俺は。
この娘に、その不満を直接尋ねてみた事があったが。
当人からは『不満なんてありません・・』との返答が戻ってきた。
とはいえ、その顔は、言葉と異なり。いつもの通り、「不満」そのものであった。
だが、俺も、一回は。
元々彼女の表情の作り(不満げに見える)が、こんな感じで。
本当は、不満を感じていないのでは等と思ったりしたが。
この娘の会話の節々から、すぐさま、誤りだと思い直した。
例えばだ。
今、こういう参謀旅行の時等に、俺が5人に質問をする事がある。
5人同時であるため必然、その答える順番は挙手制で、俺も平等に順番を与えるのだが。この娘は、自分が一番に当てられないとなると、毎度。
「・・私の扱いが酷い」
等と、俺に、わざと聞こえる音量で口走る。
他にもだ。
他の仕事が入っていたこの娘を置いて。他の4名で交流を深めるためにと、花見をしたら。数日後に、彼女が俺の家に尋ねてきて。
「・・私だけのけ者ですか」
玄関まで迎えに来た、家主の俺に対し。
その一言だけ言って、帰っていった。
上に、似たような例が。
幾つもある、そして彼女は何時も『私だけ・・(なんで、こんな目に)』と呟いている。
この娘は本当に。
常日頃から「不満」なのであろう、特に自分の扱い・・いやっ、自分自身の存在に対し。
先ほどから、俺は。
「なにが不満なんだ」と、心の中で呟いていた。
実際のところ、この娘の不満の「細かい」発生原因は、今だ掴めていない。
だが、この娘を、朱里に預けられて以来。
数ヶ月じっくり、注意して観察していると、徐々に、その不満の「芯」となる部分が見え始めていた。
いやっ、正確には。
一月前のとある、「事件」のお陰で見え始めていた。
その事件とは、この娘(楊儀)が、焔耶(魏延)に、本気で泣かされた一件である。
事件のあらましを言うと。
5人の教育に一種のショク療法をと。
俺は、この5人と真逆な性格の持ち主である焔耶に。この5人の教育を1日任せてみた。焔耶は、俺の予想通り(蒲公英の「脳筋」との評通り)、「よき心はよき肉体から」と言わんばかりに、5人に激しいシゴキを行った。それに対し、一番体力が無い楊儀は耐え切れず、珍しく感情を露にして、焔耶に不満を口にし、当然、焔耶もそれに反論し、二人は言争いになった。
まあ、それだけならただの喧嘩であり、たいした事は無い。
俺も、焔耶に預ける以上、口喧嘩程度は覚悟していた。
ただ・・。
この娘と焔耶は、人間の性質が「水と油」あり。
一度始めてしまった喧嘩は、激しさを増し。
ついに焔耶は、怒りに身を任せて、楊儀の、目の前に刀を突きつけ脅してしまう。
ちなみにだが、後々。焔耶にその事を(焔耶は、無闇に刀を抜くような人間ではないので、不思議であった)尋ねたら。焔耶は、大人気なかったと謝りつつ。楊儀の発言がどうしても許せなかったと、言った(どうやら、この娘(楊儀)は、焔耶の「恋人」である俺の事も侮辱したらしい)。
まあ、ともかく、焔耶が刀を抜いてしまった。
その時点で、周囲が止めに入り、それ以上の暴力沙汰にこそ発展しなかったが。ただ、楊儀は、刀を突きつけられた恐怖から、数十分泣きつづけていたらしい。
そして、俺が騒ぎを知り(俺は、焔耶に任せ、他の用事をしていて現場には居なかった)。駆けつけた時も、この娘(楊儀)は泣き続けており、俺があやしたのだが。その時に、この娘が、とある言葉を口にした。
「ひぐっ、ひぐっ・・な、なんで、わたしだけ、なんで・・わたしだけがこんな、何時も、何時も、昔から皆、わたしを馬鹿にして・・わたしに怖い目にあわせて・・」
・・どうにも、この娘は。
幼少期は、虐められる側の人間であったらしい。
その為であろう。
この娘、自分に対する他者の行為(評価)に過敏な反応をみせているのは。
・・自分が、当てられなかったり、一人残されたりする時の、あの過剰な反応は。
だだ、それだけでは、この娘の全体から現れる「不満」の様は、理解できない。
虐められる「だけ」の人間は、注意を引かぬよう「不満」ですら隠してしまう物だ。
しかし、その不満を表面に出している。
それは、彼女がただただ、過去が故に他者の行為に過敏なだけの「いじめられっ娘」でない事を示す。
なら、なにがこの娘の不満を表わせている裏づけ(自信)になるのだろうか。
たぶんだが、この娘の、その才が。大人になり、その才能(諸葛亮に一時軍を託される程の)の才が、周囲の評価を得て、この娘の自信となったのであろう。
だから、この娘は、自分の意志というのを表現しようとしている。
ただ。
朱里を輔弼できる程の才能に対する「自信」と。
虐められていた自身に対する「不信」の。
この二つのアンバランスが。
彼女が声高に意見すること止めさせ(才に裏打ち(自信)され意見があるが、自信への不信のなさでハッキリと言えない)。
彼女の自己表現を「不満」という方法のみにもしているのであろう。
・・なら、彼女には。
自信を持たせないといけない。
しかも、それは自分の才能じゃなくて、自分自身に対する自信を。
「ということで。ねぇ・・楊儀」
「・・なんですか」
「君、恋愛してみないかい?」
「・・・はい?」
俺は自信ありげに、そんな事を言う。
そんな自信の元は・・。
「恋愛で自信が付くって、よく言うし」
「・・」
そんな、ちゃちぃ恋愛雑誌の一文を真に受けたが故だ。
「駄目?興味ない?」
「えーと、北郷殿は、私が好きなのですか?」
「へっ?」
「それ、俺と恋愛しろって事ですよね」
・ ・んー、どういうこと。
俺が、君に告白しているのかですと。
・・なっ!!なんですとー!!
お、俺がいつそんな事を!い、いや、まって、そう解釈できないことを口走った気も。
とーいう、事で後日。
北郷は、教え子に手を出そうとしたとの噂から「鬼畜師匠」の評を得た。
あと、その噂を真に受けた恋人達、特に楊儀と「水と油」の焔耶による制裁を受け、北郷の体の節々には痛みが与えらたのであった。
後日談。
「楊儀、次の参謀旅行のなんだけど」
「はい、北郷殿。丞相様への許可を始め、諸事務は私が済ませておきました」
「ありがとう、助かるよ」
「いえ、別に、この程度は構いません」
あれから(俺が、焔耶にボコボコにされてから)。
この娘(楊儀)は、よく喋るようになった。
また、前と違い、協力的な姿勢を見せてくれるようになり。
今も、俺の事務仕事を手伝ってくれる(彼女の事務能力は舌を巻くほど素晴らしい)。
なにより。
「ただ、ここは予算が掛かりすぎで。削減すべきです」
不満があれば、ちゃんと口にするようになってきた。
どうにも、俺の愛の告白(勘違いであるが)が効いたらしい。
自分で言うのもむず痒いが、三国の王を、恋人に持つ俺を、「逆に」惚れさせた「自分」
というのに、自信を持ったらしい。
まあ、それも他人の評価という「範疇」に属する自信であるが。
本人が自信付いたようだし。
結果オーライだから、いいかな。
「うん、楊儀を信頼しているから。一切一任するよ」
「北郷殿、御信任、ありがとうございます」
うーん。
その時々、見せる笑顔は、その童顔で丸顔な顔に実に映える。
実にいいことだ。
ただなー・・。
俺と、この娘が、こんな風に親しげ話をすると。
「はぁー孔明様も、こんな鬼畜師匠の何所がいいのか(馬謖)」
「北郷様、上司と言えど。教え子相手に手を出す不純は許せませんぞ(姜維)」
「よー、鬼畜(李厳)」
「くすっ・・鬼畜師匠なんて、きえちゃえー(法正)」
いや、まあ、本当は。
他の4人からの評価はがた落ちで結果オーライじゃないけど。
あと、ちなみに、告白(しつこいが勘違い)は。
「生徒に手を出そうとするような外道と付き合う趣味はありません」
と、至極まっとうな理由ですべなく断られた。
まあ、そんな感じで、理由はちゃんとしていたのだが。
その時(俺を振る時)の楊儀の余裕の笑みといえば、もう、その丸顔、童顔のおかげで、余計小憎らしいったら、ありゃしなかった。
楊儀が、自信もち始めたのは、俺を「惚れさせた」というより、俺を「振った」事による自信じゃないかとも思う。いやっ、そこまで楊儀も底意地が悪くはないか。
「(ふっふふ。教え子に手を出そうとした北郷殿も悪いが。魅力的な、私も悪い女だな)」
な、なんか、また小憎たらしい笑顔をしている。
この娘の、底意地が、悪くないとは・・断言できない。
あとがき。
「一騎当千」とか、フワフワした話が多い中で。
楊儀の「本気泣き」エピソードは異色で、実に人間臭い印象があり。
作者の中では、楊儀は結構好きな武将のほうです。
ネタ(設定)は。
不満ばかり言う楊儀のキャラを、どう理由付けるかに始まり。
そこに「魏延に脅され泣かされる」という、なんというか「イジメッ娘」と「イジメられっ娘」構図をはめ込み、無理矢理に作成という風になっています。
まあ、そんな順序の無い発想による設定で。
筋が全然無く、説明もふやけた内容になり、浅学(「社会化」の件は、特に酷い)を示し、作者の残念な文章能力を露呈したssになりました。
そして、そんな内容でも投稿する、作者の浅ましさ(駄目な勿体無い精神)をも露呈するという、どうしようもーないssです(笑)。
説明 | ||
楊儀を恋姫風に・・ssです。 残念なssなので、心に余裕のあるときにどうぞ。 ※作者は基本コメント返ししません、それをご理解ください。 |
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面白かったです、続きが気になりますねぇ。(惣三) | ||
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