ハルナレンジャー 第一話「迫り来る魔手」 B-2 |
Scene5:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所・最上階 PM00:15
アジトの中枢たる最上階、将軍シェリーの執務室。
外観こそみすぼらしい雑居ビルのままであったが、内部は数日の内にすっかり様変わりしていた。
床のカーペットは柔らかな色調の物に、壁も漆喰とマホガニーで貼り直され、まるでどこかの重役室のような印象を与える。
家具や観葉植物も嫌味のない程度に品の良い物が配置されており、コーディネートした者の趣味が伺える。
部屋の中央、これまた以前の事務机とはうって変わって高級感のある木製のデスクに置かれたモニタを見つめる人影が二つ。
この部屋の主であるシェリーと、その軍師ジルバである。
「始まったか」
座り心地の良さそうな椅子に深く腰掛けてシェリーが呟く。
「なるほど、良い動きをしていますね」
その背後に影のように控えるジルバが感心したように頷いた。
二人が見ているのは、地元ケーブルテレビの特番として現在駅前で派手に行われている、レミィ達とハルナレンジャーの戦いである。
室内の静謐な空気に反してナレーターの石川さんはノリノリ。どこから引っ張ってきたのか、古い戦隊物のテーマらしいBGMまで流れているのだが……音量をめいいっぱい絞られているのか、毛足の長いカーペットに空しく吸い込まれている。
「この青いのはストリート上がりだな」
手甲に包まれた指で示した先で、ブルーが戦闘員を乱暴に蹴り飛ばした。
蹴った勢いのままで踏み込むと、思わず引いた別の戦闘員に頭突きをかます。
荒っぽく見えて、威力のある一撃を的確に急所に打ち込んで無力化していく姿は、確かに喧嘩慣れしていそうだ。
そのブルーの背後から殴りかかろうとした戦闘員が吹っ飛ぶ。
滑るように割り込んで来たレッドに、鋭い肘撃ちを喰らわされたのだ。
ブルーの荒っぽさとは対照的に、格闘技の教本にでも乗っているかのような綺麗な型だった。
「こっちは格闘家崩れか? この二人はコンビネーションが出来ているな」
戦い方のクセは対照的ながら、息のあった動きでお互いの背後をかばうようにしながら戦い続ける二人を見て、シェリーが感心する。
と、画面の真ん中を黒い塊が横切る。
「……なんだこいつは」
呆然。
ピンクが片手で軽々と戦闘員を投げ飛ばしている。
ピンクと言うだけあって、線の細い女性的な印象を与える外見なのだが、その見た目に反して使う技は豪快。
「というよりはただの力任せ、か」
当たるを幸いなぎ倒す勢い。技もへったくれもないのだが、全てを力業でねじ伏せている。
「彼女も侮れませんね」
ジルバが指さしたのはイエロー。
こちらも女性的なシルエットだが、力任せに暴れ回るピンクとは対照的に、悠然と立ったまま殆ど動かない。
だが、与しやすしと見て襲いかかった戦闘員はその場で転がされ、ぴくりともしなくなる。
思わず包囲の輪を拡げた戦闘員達のうちの一人がくずおれる。
その背後には、包囲の中央にいたはずのイエロー。
数メートルの距離を一挙動で詰めてなお姿勢を崩さず、まるで最初からそこに立っていたかのようにたたずんでいる。
「こちらは技の極みという奴だな。合気とかいう武術か」
シェリーが興味深げにあごをさする。
「なるほど、生半可な準備では手こずるはずだな」
戦闘員がばったばったとなぎ倒される光景を映し続けるモニタから目を外し、考えにふけるシェリー。
明かにレミィ達の方が劣勢なのだが、それを気にした様子はない。
「計画の見直しが必要ですか」
懐から電話帳ほどもあるファイルを取り出すジルバも、モニタからしきりに響いてくるレミィの悲鳴を無視している。
シェリーがデスクに置かれたキーボードを操作すると、モニタの映像が切り替わる。
変わって映し出されたのは榛奈市の立体地図。
シェリーの操作に合わせて、その地図の上に幾つかの情報が重ねて表示されていく。
しばらく考え込むシェリー。
再度操作すると、待機画面になる。
「ま、良かろう。少々の変動は予測の内だ」
伸びと共に椅子の背もたれがぎしっときしむ。
「では」
こちらもファイルを繰っていた手を止め、ぱたんと閉じるジルバ。
「そろそろアレの我慢も潮時だろう。撤退させろ」
「了解致しました」
「……せいぜい、派手に負けろ、とな」
ファイルを懐にしまうと一礼するジルバ。
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