School days 2 |
School days 2
南葛中に入学して、早二ヶ月――――――。
学校生活に関しては、すっかり馴染んだ井沢だったが、肝心のサッカーに関しては、正直、フラストレーションが溜まっていた。
というのもこの2ヶ月、ゲームはおろか、サッカーボールにまともに触れることも出来ない状態が続いていたからだ。
ライン引きや、ボール磨き等が主な作業で、その裏方の仕事が終わったと思ったら、
あとはひたすらランニングと筋力トレーニング。
公立の中学の風習なのか、ここは完全な縦社会であり、
中学一年生の井沢達は、いくら小学生時代に、全国大会に優勝した輝かしい実績があっても、まずは先輩達のサポートをしなければならなかった。
サッカーボールを蹴る先輩を横目に、ひたすら筋トレに励む毎日が続いていた。
********
「はぁ…つまんね。サッカーやりて〜!!」
部活帰り、来生がついに想いの丈をぶちまけた。
仲間達皆が、同じ想いだった。
「愛しのトモダチと触れ合えない、この辛さ。わかるだろ?翼。」
翼に同意を求める。
「うん…、基礎体力作りも大事なのはわかるけどね。やっぱりサッカーやりたいね!!」
そこは翼も同じ想いだったようだ。
井沢は、そんな翼を見て、何故だかそれがとても嬉しく思った。
そして皆にウインクしながら、思わず提案する。
「んじゃ、久しぶりにやりますか?」
「おう!」
********
そうして、河原のわずかなスペースで、ミニゲームが始まった。
基礎トレーニングで身体は疲れているはずなのに、そんな事をすっかり忘れて、日が暮れるまで、みんな夢中でボールを追った。
「はぁ、はぁ…。やっぱ、サッカー楽しいな!」
「うん、試合出たいな〜。」
「ぜぃ、ぜぃ…、やっぱ、ゲームだよな!!」
全力でボールを蹴り合った後、河原に座り、暮れ行く夕陽を見ながら、自然と皆が自分の想いを口にし出す。
「だいたい、一年だからってだけで、まともに練習させてもらえないって、おかしいよな。」
「そうそう、ぶっちゃけテクは俺等の方が上じゃね?」
「だよな!たいした事ね〜って思ったぜ!」
「いやいや、オマエに言われる筋合いは無いって!」
全員に突っ込まれる、石崎であった。
「オレ、しばらくしたら、監督に直談判しようと思う。」
そんな中、唐突に翼が呟いた。
「え!?直談判って何を?」
皆一斉に、翼を見る。
「何をって…、皆が今言ってた事だよ。一年だからって試合に出れないのは、おかしいって。」
「バカっ!!やめろよ!そんな事言ったら、お前殺されるぞ!!」
皆慌てて、翼を止めにかかった。
先程は、デカい口を叩いていたが、実際一年からスタメンで出るなんて、不可能だってわかっていた。
中学生は1番身体が成長する時期だ。
中学1年と3年では、身体の大きさも強さも違い過ぎる。
競り合った時に絶対にまるで歯が立たない。
そして、何より生意気な事を言って、先輩に目を付けられ、集団リンチにでもあったら―――――。
そんな皆の心配をよそに、大空翼というサッカーバカは、簡単にそれを飛び越えて行く。
「そりゃ、お前だったら3年にも勝てるだろうけど、サッカー以外で大変な目に合っちまうかもよ?」
「でも…。」
「そうだよ、翼。やっぱり先輩は立てとかないと。」
来生・滝が説得するが、それでも翼は首を縦に振らない。
「でもオレ決めたんだ!!中学の試合は全部出る。そして全部勝つって!!そして、中学を卒業したらオレ、ブラジルに留学するんだ!!!」
そう言って、翼は仁王立ちし強い眼差しで、夕陽を見た。
「翼…、お前まだ諦めてなかったのか。」
南葛SCのメンバーは皆知っていた。
翼は全国小学生選抜大会で優勝したら、ロベルトと一緒にブラジルへサッカー留学をするはずだった事を。
――――――だけど、それは叶わなかった。
ロベルトは翼を置いて、単身ブラジルへ帰ってしまったのだ。
泣き叫ぶ翼を見て、流石に酷いと思った。
その後、あまりのショックで、しばらくサッカーも出来ない状態だった翼を、皆で励ましたな…。
井沢は、翼の横顔を見ながら、そんな事を思い出していた。
まだ、半年前の出来事なのに、翼は立ち直り、自分の力で夢を掴み取ろうとしている。
(そんな彼に比べて、自分はなんなんだろう?)
井沢はふいに自分のことを考えた。
(そりゃ、オレだって将来はサッカー選手になりたい!と思ってる。
だけどその為に、単身ブラジルにサッカー留学するなんて、できるか!?
・ ・・ダメだ。自分にはとても出来ない・・・。)
自分と同じ歳の翼は、既にはるか彼方、地球の反対側のブラジルを見ている。
そして、世界を――――――。
(若林さんも、そうだったんだろうな…。)
やはり彼らは、自分とは違うのだ。
凡人と天才との違い―――。
それを認めたくなくて、目を背けてきたが、いま、この瞬間、
それをまざまざと見せ付けられてしまった。
きっとこの先、彼らとの差はどんどん広がって行くのだろう。
明日、明後日と―――――― 。
(この太陽が沈まなければ良いのに・・・。)
今日の夕暮れを、とても寂しく感じた井沢だった――――――。
********
シリアスな展開になってまいりました。
天才・翼との溝を思い知る、井沢少年12歳――――。
説明 | ||
南葛中学1年生の井沢君のお話 | ||
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