即興話
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 その少女は、最初から欠陥品でした。

 

 人が人であるがゆえに人であるとするならば、少女は何一つ壊れていない無垢の花だったのですが、人はイコールとして社会性を持つが故に、少女はその身に欠陥を抱えなければならないのでした。

 

 辛く、苦しく、思った時、少女の瞳から流れるのは涙であるのですが、楽しく、嬉しく、思った時、少女の瞳から流れるのは水であったのです。

 少女は、心におけるプラスのベクトル全てを、その心を以て理解出来ないのでした。

 よろこびは全て、虚無だったのです。

 

 いくつかの経験を踏んで、自身が異常であることを悟った少女は、ただ普通である振りをすることだけに努めて来ました。何も感じないことに対して、周囲に渦巻く人々に合わせ、心を削りに削って、喜ぶ振りをして来たのです。自身が人から異物として見られることと、心にもない芸をして精神をすり減らすことと、秤にかけて、前者は耐えられなかったのです。

 

 それでも。皮ではなく、実全てを摩り下ろされんばかりの林檎のような、自分の心の有様に耐えかねて、少女はとうとう友人とされる知人に、真面目な顔で聞くのです。

 楽しいとはどういう気持ちなんだろう。嬉しいとはどういう気持ちなんだろう。よろこびとは一体何なんだろう。

 友人はその言葉を受けて、変わった冗談だね、と言いました。もっとどこで笑っていいのか分かるようにしないと、と注文をつけてきました。

 

 その言葉は、これまでの中で最も、少女の心に強い感情を揺り起こしたのです。

 

 その後も、少女は、一見至って普通の人生と日常を過ごしています。

 けれど、あれから心が磨り減ることは一度もありません。あの時に心の全てが雲散霧消してしまったからです。少女の心があった場所に鎮座するのは、淀み、濁り、曇り、沈殿した、極めて混沌とした、何かの欠片でした。

 

 人が人であるがゆえに人であるならば、彼女は寧ろ、清廉潔白な人であったかもしれません。しかし、人の性質が少女を壊してしまったのです。ゆえに、少女は最早、欠陥品を通り過ぎて、人ではなくなってしまったのでした。

 少女は只の肉塊であるのです。

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