ハルナレンジャー 第一話「迫り来る魔手」 B-4/5
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Scene7:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所 PM01:00

 

「……以上、今回の戦闘結果になります」

 読み上げたファイルを閉じ、懐にしまうジルバ。

 先ほどと同じ部屋。

 椅子に座るシェリーと、その後ろに立つジルバも同じ。

 シェリーのデスクの前、直立不動でだらだら冷や汗をかいているレミィだけがさっきと違うところ。

「負傷者に関しては傷病手当と臨時休暇の手配を」

「は」

「とりあえずの目標は達成したか。その後の風評等については?」

「観測を開始しております。一両日中には大勢がつかめるかと」

「ふん……で、どうした」

 緊張でそろそろ死にそうになってるレミィに視線を戻す。

「何をそんなに緊張している?」

「その……あの……負けたでやんすし……」

「私は『負けろ』と命令したのだ。命令通りに負けて来た者を、褒めこそすれ叱る道理がないだろう?」

 かつかつと、手甲に包まれた指でデスクの表面を叩きながら。

「実際お前は良くやった。あちらの戦力評価に充分なデータが集まったのだからな」

「うー……」

 ぼろぼろと、こらえきれなくなった涙がこぼれる。

 手を差し伸べようとしたジルバを、右手を挙げて押しとどめると、シェリーは立ち上がり、レミィの側へと歩み寄った。

「大局的な勝利を得るためには、小さな敗北が必要な時も有る。今回の責任は、これを活かせなかったときに私が背負うべき物だ。お前が気に病む必要はない」

 そっと頭を抱いてやる。

 シェリーの胸に顔を埋めたレミィの口からひんっひんっと嗚咽が漏れる。

 

「……部下にあまり感情移入しすぎるのも考え物だな」

 レミィがまだぐずりながら退出した室内で。

 手の甲にあごを乗せたシェリーが呟く。

「将軍のご薫陶とお見受けしますが」

「私はそこまで善人ではないさ」

 自嘲気味に言って唇をゆがめると、キーボードに指を走らせる。

「『負ける必要があったから負けさせた』、か。アレを殺す必要があるなら……」

「殺しますか」

「部下に死ねと命じられんようでは軍にはおられんよ」

 再び、榛奈市の地図。データが重ねられていく。

「で、計測部隊の結果はどうだ」

「順調にデータ計測が始まっております……案の定こちらに注意は向いていない模様で」

「ふん……陽動としての効果はあったということか」

「今後の継続調査の結果が出ないことには確言出来ませんが…」

「そのためのレミィだ。今後もせいぜい派手に負けさせるさ。

 勝ってしまえば相手を本気にさせる。かといって決定的に負けてしまえば侮られる。

 無視出来ないほどには脅威だが、本気になるほどではない。

 『のどにささった小骨』のような存在として、市当局の目を引かせ続けるのだ」

「……また泣きますね」

「胸くらいいくらでも貸してやる。その程度で作戦が遂行出来れば儲け物だ」

 

 

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Scene8:榛奈市役所 「安全対策課」 PM06:00

 

「かくて決戦の火蓋は切って落とされた、と」

 窓のない地下の室内で。

 田中課長が独り言を呟く。

 青山君はもう帰宅した。

 今頃は「先輩」とやけ酒でもして暴れているだろう。

 明日には機嫌が直っていると良いが。

 

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B-3続き
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