真・恋姫無双〜君を忘れない〜 六十五話 |
祝融視点
とうとう雨が降ってきた。これだけ本降りであれば、火計を使おうとしても上手く機能しないだろう。そして、この雨は遠征軍である益州軍の士気を大いに下げてくれるね。兵糧なんかもそれで駄目になってくれると助かるんだけどね。
そんな雨空を眺めている内に部下の一人から益州軍が動き出したという報告を受けた。関羽と厳顔――益州の猛将率いる三万が、猛烈な勢いでこちらに向かって進撃してきているという。
「よし、兀突骨に迎撃するように伝令を放ちな。あたしたちも出るよ」
「はっ」
陣頭から戦場を見ると、確かに三万の軍勢がこちらに攻め寄せてきた。戦闘で暴れ回っている二人が関羽と厳顔だろう。二人だけは藤甲兵の特殊な鎧も意味がないようで、竜巻が起こっているかのように兵を蹴散らしている。
しかし、それも長くはもたないね。こちらは兀突骨の率いる藤甲兵部隊が二万程はいるんだ。藤甲兵は矢も弓も通じない兵士――雨で火も使えない環境ならば、やつらは南蛮最強の戦士たちなんだよ。
いくらお前たちの国で代表される程の猛将が奮闘しようとも、二人では二万の藤甲兵を全て倒すことは出来ないさ。それが個人の限界だからね。
あたしたちが出張る間もなく、兀突骨が率いる藤甲兵の部隊が益州軍の突撃を正面から受け止めると、関羽と厳顔を迂回するように兵を動かして、他の雑兵どもを攻めかかり、すぐに算を乱すことが出来た。
さすがの関羽と厳顔も兵がやられてしまえば、自分たちだけで戦い続けるわけにもいかないのだろう。苦渋の表情を浮かべながら、撤退の命を出し始めた。
「兀突骨様から伝令でございますっ! 我は益州軍を追撃し、徹底的に殲滅させるとのことですっ!」
「分かった。象を連れておいで。あたしたちも後を追おう」
「承知しました」
兀突骨が追撃に向かったのは、常識的に考えれば当然と言える行為であった。この天候ならば火計の恐れもなく、しかも、あいつはこれまで散々口喧しく益州軍との決戦を主張していたのだ。そろそろ我慢も限界なのだろうね。
だがしかし、何故か嫌な予感がした――先ほどまでは、あたし自身も追撃の好機であると思っていたのにも関わらず、別の者が追撃に向かったという聞いた瞬間、いけないと思ってしまったのだ。
すぐに部下に象を三頭ほど率いさせて、追撃に向かった兀突骨の後を追った。通常の待ち伏せならば、藤甲兵は物ともしないが、相手もそんなことをしても無駄であることは知っているだろう。だからこそ、奇策をとってくる可能性がある。
飽く迄も兀突骨の支援に向かうだけだから、率いる兵は一万程で充分だろう。もしも、敵の策が待っているようならば、兀突骨の援護に向かい、それが杞憂であれば、そのまま任せてしまえば良い。
すぐに兀突骨の部隊の後姿が見えてきた。それを追っていくと、どうやら敵は左右を切り立った崖に囲まれた隘路に逃げ込んだようだ。
まず疑ったのが伏兵の危険性であったが、崖は相当高く、そこから駆け降りてくることなんて出来ない。また、隠れるような草木も生えていないから、敵が伏せている可能性もないだろう。
「兀突骨っ!」
「おぉっ! 祝融殿も来なすったかっ! しかし、ここは我が益州軍を壊滅させてみせましょうっ!」
「あぁ。 だが、油断は禁物だ。 少々嫌な予感がするよ」
「わははっ! でしたら、祝融殿は後詰めで控えておられよ。儂と藤甲兵たちの活躍を御覧になっておればよいでしょう」
「…………」
兀突骨の奴、完全に勝ちに乗っているね。
確かにこれまでの鬱憤を晴らしたいという気持ちは分かるけど、そんな冷静さを欠いた思考では、敵の策に易々と嵌まりかねないね。
だが、この千載一遇の好機を逃してしまえば、おそらく敵は一度本国へと帰還してしまうだろう。そうなれば、追い返したことにはなるが、根本的に益州との敵対関係が解消することはなく、こちらの藤甲兵を研究される機会を逆に与えてしまう。
ここは、兀突骨に賭けてしまっても良いのかもしれないね。
この雨で火計は使えないと分かっているのだ。この隘路にも伏兵の気配はなく、ここさえ抜けてしまえば、敵の本陣も見えてくるだろう。
どんな奇策が待っていようとも、あたしは益州の連中を黙って本国に帰らせるなんてことはしない。ここで奴らを殲滅させて、この地に平和をもたらすまでは、あたしは戦い続けなくてはいけないんだ。
あたしも覚悟を決めたときだった。
先行していた益州の部隊が隘路を抜けようとしていると、そこに二人組の人影が見えた。その片方――藍紫色の髪を棚引かせた女が、冷徹な眼差しでこちらを射抜くように睨んでいた。
その視線に含まれた禍々しい殺気を感知した私は、思わず兀突骨に軍を止めるように叫ぼうとしたんだが、もう遅かった。
一刀視点
「一刀くん、怖い?」
「……少しだけ」
俺と紫苑さんは朱里の策通り、愛紗と桔梗さんが敵を誘き寄せるだろう隘路の出口付近に立っていた。既に視界には愛紗と桔梗さんが見えている。その後ろには藤甲兵数万が押し寄せているのだ。
将として陣頭に立つことの出来ない非力な俺は、こうやって敵を目の前にすると、自然と恐怖心が首を持ち上げて、俺の精神を支配しようとするのだ。
「大丈夫よ。私が一刀くんを守るから」
そんな俺を、紫苑さんが優しく励ましてくれる。特別に声をかけてくれるわけではない。そっと手を繋いでくれるだけで、紫苑さんの存在を再確認することが出来て、それが俺の心を落ち着けてくれる。
「さぁ、時間よ」
紫苑さんがゆっくりと俺の前に立った。
愛紗と桔梗さんの率いる部隊が俺たちを避けるように通り過ぎていく。目の前には投降兵たちが肉薄する。特殊な鎧を身に付けて、本来であれば、この天候下では彼らを止めることは出来ない。正しく最強の歩兵部隊なのだ。
しかし、今だけは違う。
三国志を代表する天才軍師、あの諸葛孔明が練り上げた必勝の策があるのだ。相手はおそらくそれに気付いていないだろう。そして、気付いたとしても、もう既に遅いのだ。敵は既に死地にある。
「では、お願いします」
「ええ」
紫苑さんは深呼吸すると、静かに弓を構えた。それを見ているだけでも、惚れ惚れするような綺麗な構えだ。
既に南蛮軍の戦闘集団も俺たちを視界に捉えているだろう。間もなく、射程範囲に入るだろう。
凶悪そうな南蛮兵たち――本物の獣のように獰猛な犬歯を剥き出しにして、ある者は舌なめずりをして、蛇のように長いが舌が髭に塗れた口元を妖しく濡らしている。それを見ているだけで、俺は怖気立ちそうだった。
しかし、紫苑さんは涼しい顔をして集中力を高めている。これからが彼女の本領発揮する瞬間で、一本の矢に魂を込めて打ち込むのだ。おそらく、目の前に敵が迫ってきても、彼女の集中力は乱れることはないだろう。
ただ目標するものを射抜くことだけを脳裏に浮かべて、それ以外のことなんて視界に映ってすらいないのだろう。そんな彼女から放たれる矢は、決して逸れることはなく、目標に向かって吸い込まれるように射られるのだ。
紫苑さんがかっと瞳を見開いて、まずは初射、そして、そのまま続いて三本の矢を放った。風切り音を発しながら、それは目にも止まらぬスピードで、南蛮兵の頭上を通り越えていった。
初射は俺たちの左右を囲んでいる崖を目指し、あるものを射抜いた。それは縄であった。
俺たちはこれまでの間、ただ南蛮兵と小競り合いを繰り返し、敗北を重ねていたわけではない。それは飽く迄も、俺たちが粘り強く戦い続ける姿勢を相手に示すためだけに過ぎなかったのだ。
本来の目的は、敵を待ち伏せるに適した隘路を探し、そこに罠を仕掛ける時間を稼ぐことだったのだ。兵士たちには辛いときを過ごさせてしまったかもしれないが、おかげで罠は完成した。
この悪天候、それに付け加えて崖の高さもあり、南蛮兵たちは完全に俺たちの罠に気付くことはなかったようだ。
その罠――縄は焔耶が砕いた土砂を支えているのだ。一本の太い縄を、重量を支えられるように捻ったものだが、それは紫苑さんが放った矢によって千切れ、崖の下へと一気に土砂となって崩れた。
その轟音に南蛮兵たちは驚き、足を止めてしまった。彼らの背後にはいつの間にか、土砂が溢れかえり、完全に退路が断たれた状態になってしまったのだ。
「恐れるなっ! 我らは無敵の戦士だっ! 敵の伏兵など、返り討ちにしてやれっ!」
おそらく、それが俺たちの伏兵だと思ったのだろう。敵の将の一人が声高にそう叫び、南蛮の戦士たちを鼓舞した。
しかし、本当の恐怖はこれからなのだ。
紫苑さんが放った残りの三本の矢――それは、今度は崖の上に吊られた大釜を射抜いたのだ。その中にこそ、俺たちの切り札が隠されているのだ。
大釜の中にはなみなみと油が入っている。
それは紫苑さんの矢に射抜かれると、釜から溢れ出て、南蛮兵と地面に生えている草を濡らした。
既に雨により藤甲兵たちはずぶ濡れになっているので、油を頭から被ってもあまり不快感を得なかったのか、最初はきょとんとした表情でその液体を指先で触れていた。
「南蛮の兵士たちよっ! 我が名は天の御遣い、北郷一刀であるっ! 我が怒り、天の炎となりて貴様らを紅蓮の炎に包み、全てを燃やし尽くすであろうっ!」
俺はそう叫んだ。
南蛮兵たちは一体俺が何を言っているのか、理解出来ていないといった表情を浮かべていた。しかし、すぐにその顔は恐怖と苦痛に歪むであろう。
「紫苑さんっ!」
「行くわよっ!」
紫苑さんが今度は穂先に油の染みた布が巻かれた矢を取り出すと、俺が素早くそれに火を点けた。雨が降っていても、それならばすぐに消えることはない。
そして、紫苑さんはそれを南蛮兵に向かって、射かけた。
油に塗れた藤甲兵の鎧や草は、油をたっぷりと吸い込んで、少し火が点いただけで一気に燃え上がったのだ。
祝融視点
二人組の女の方が弓を構え、それをあたしたちに向けてではなく、別の方向に撃ったとき、敵の狙いが明らかになった。敵もあたしたち同様にこの天候が来るのを待っていたのだ。
私の嫌な予感は当たっていたのだ。
敵はこれまでただ戦い続けていたわけではない。その最中で、既に藤甲兵を打ち破るべく策を練っていたのだ。敗戦続きという逆境においても、敵は活路を見出そうとしていたのだ。
初射で私たちの退路を断ち、その後の数本の矢は崖の上に設置してあった釜に向けられた。それは驚くほどに正確に放たれ、釜を撃ち抜き、あたしたちの上に何か液体を降らせた。
そのぬるぬるとした感触に、私はすぐにそれが油であることに気付いた。
――やられたっ!
すぐに、退却の命を出そうとしたが、一体あたしたちはどこに退却すれば良いのか。退路を断たれ、目の前にはいつの間にか、撤退していたはずの益州軍の部隊が立ちはだかっていた。
「南蛮の兵士たちよっ! 我が名は天の御遣い、北郷一刀であるっ! 我が怒り、天の炎となりて貴様らを紅蓮の炎に包み、全てを燃やし尽くすであろうっ!」
敵総大将北郷一刀の号令と共に、敵は火矢を放った。
それはあいつの言った通りにあたしたちを炎の渦に呑み込んだのだ。
油が染み込んだ鎧は雨の水に濡れても容易に消えることはなかった。藤甲兵たちはそれが油だと気付いていないのか、顔を恐怖に歪ませながら算を乱してしまった。
「うわぁぁっ!」
「本当に火が起こったっ!」
「天の怒りだぁぁぁっ!」
そう口々に騒ぎながら、ある者は必死に逃げようと崖を登り、そのまま墜落して命を落とし、ある者は鎧の火を消そうとするが、上手く消すこと出来ず、そのまま燃え尽きて死んでしまった。
「落ち着けっ! この天候だっ! すぐに火は消えるっ!」
そう叫んだところで、恐怖に混乱してしまった兵たちを落ち着かせることは出来ず、狭い隘路の中、兵たちは悲鳴をあげながらあたしの言葉なんてまるで耳に届いている様子はなかった。
そして、あたしは未だに敵の狙いに気付かなかったのだ。敵は火計だけを狙っていたのではないということに。
あたしたちが率いる後詰の部隊――そこには三頭の象がいるのだ。
象は火を極度に恐れる生き物だ。目の前に突然燃え盛る炎が出現したらどうなるのか、それは考えるまでもなく明らかだった。
火に恐怖し、錯乱状態に陥った象たちは御者の制止を振り払って味方の兵士たちに襲いかかったのだ。あたしたちの藤甲兵に次ぐ武器である象が、今度はあたしたちを更なる窮地に追い込むことになったのだ。
「しゅ、祝融様っ!」
「くっ! 孟優、お前は兀突骨の許に行って、すぐに藤甲兵たちの混乱を収拾するように協力しろっ!」
「はっ! 祝融様は?」
「あたしは退路を確保するっ! 出来次第、すぐにここから撤退するぞっ!」
「了解しましたっ!」
配下の一人である孟優に厳命すると、あたしはすぐに行動を開始した。
崖を素早く登り、暴れている象の一頭の背中に飛び乗ると、そこを優しく撫でながら何とか落ち着かせ、すぐにあたしの言うことを聞くようにした。
さらにそれを背後に向けると、あたしたちの退路を塞ぐ土砂へと突っ込ませた。巨大な頭と鼻で何度も土砂にぶつかり、それを掻き分けるようにして、何とか味方の退路を確保することが出来た。
よし、と思って、孟優が無事に藤甲兵たちを纏め上げているかどうかを確認するために後ろを振り返ったが、既にそこは正に生き地獄と化していた。
そこにあったのは既に悲鳴を上げる者たちではなく、既に言葉を発することの出来ないかつて人であった者たちだけ。炎に包まれ、肉の燃える嫌な匂いが立ち込めていた。
さらには象に押し潰され散っていった我が同胞たちの無残な姿――どうやら、兀突骨や孟優もその混乱の中で命を落としていったようだ。
「……遅かった……ね」
唇をぎりりと噛み締めると、皮が破れて血が滲んだ。
あたしがもっと慎重に行動していれば、こんな結果にはならなかったのだ。およそ三万もの犠牲を出してしまった。あたしたちの大敗だ。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
おそらく、敵はここぞとばかりに攻めかかってくるだろう。
北郷一刀は、天の御遣いという名を利用して、火計を天の怒りだとあたしたちに思い込ませた。そのことを知った他の将兵たちは、やつのことを神の如くに恐れるだろう。
一気に戦況は逆転してしまったが、ここであたしが敗れてしまえば、南蛮の地は再びやつらの凌辱に晒されてしまう。そうなれば、あの娘たちはどうなるんだ。美以もトラもミケもシャムも、あいつらに穢されてしまう。
純粋なあの娘たちはあたしが守るんだ。
絶対に負けられない。この命に代えても次の決戦で、あの男を――北郷一刀をあたしの手で殺してやる。
一刀視点
朱里の策は見事に決まった。
油を使って火を起こし、敵が連れてくるであろう象を暴れさせるという手によって、こちらの犠牲をほとんど出すことなく、藤甲兵たちを殲滅させることが出来た。彼らさえいなくなれば、互角以上の戦いをすることも出来るのだ。
俺たちは再び部隊を纏め上げると、南蛮軍の本陣に向かって全兵力を以って向かった。この機会を逃すわけにはいかないのだ。
こちらの兵士たちも、先の大勝によって大いに士気を上げることが出来た。しかし、それは飽く迄も精神面の話であって、肉体的にはそろそろ限界が来ているのだろう。未開の地で過ごし続けることは、予想以上に過酷なものなのだ。
「敵の兵力はこれでこちらとほぼ同数です。後は総大将の祝融を討ち果たすだけです」
俺の横にいる朱里と最後の打ち合わせをする。こうなってしまえば、余計な小策を弄することなく、正々堂々と敵を打ち破るだけである。
「藤甲兵はいなくなったけど、それでも南蛮兵が強力であることには変わりない。皆、油断せずに最後まで戦い続けよう」
「応っ!」
軍を三隊に分けた。
一つは愛紗が率い、もう一つを桔梗さんが率い、最後の一つを俺と桃香が率いている。
三方から南蛮軍に攻め寄せようとすると、さすがに同数だけあって手痛い抵抗を受けた。しかし、先ほどの敗戦が伝わっているようで、敵は俺たちが姿を現すとかなり動揺が走り、逃げ出そうとする者もいた。
敵は完全に纏まっているわけではない。
元々、敵は部族ごとに行動している習慣を持つ。今は祝融が指揮権を孟獲から譲渡されて、部族たちを率いているものの、それは形式的に過ぎず、もしものときにはバラバラの行動をしてしまってもおかしくはない。
一方、俺たちはというと、益州は反乱をして新しく生まれ変わった軍だ。団結力ならば、他のどの国にも負けていないという自負がある。これまでの苦戦を晴らすかのような清々しい戦いぶりを披露している。
「桃香、ここはお前に任せていいか?」
「え? どういうこと?」
「俺は今から祝融に会いに行く」
「ダメだよっ! そんな危険なことっ!」
俺が祝融の許に――すなわち敵の本陣のど真ん中に行くと言い出したら、さすがに桃香から厳しい目つきで制された。
しかし、この戦いは俺の手で終わらせたかった。
この戦いは桜のための私闘だと言って良い。そんなものに国を巻き込んでしまったのだから、俺は最低なことをしているのかもしれないが、俺は桜を泣かせた祝融をどうしても許せなかったのだ。
「お前様、余のためにそう言ってくれるのは心から礼を言う。しかし、余のためにお前様が傷つくのはもっと嫌じゃ」
「ありがとう。だけど、俺はやっぱり許せないよ。桃香も分かってくれ」
珍しく俺が怒りを露わにしていることに気付くと、二人も黙ってしまった。
「分かりましたわ。その代わり私と焔耶ちゃんが護衛についても良いですわね?」
「はい。お願いします、紫苑さん、焔耶」
二人を伴うという条件で俺は祝融と雌雄を決することを承諾してくれた。
桔梗さんと愛紗の部隊が両脇からぎりぎりと敵軍を締め上げているようで、おそらく正面から吶喊すれば、本陣まで辿りつけることが出来るだろう。
「じゃあ行こう」
俺たちは祝融の許へと走った。
焔耶が先頭を走って、敵を蹴散らしていく。さらに新たに身に付けた技を駆使して、地面を破壊することで、その衝撃で敵が散っていった。
そして、程なくして俺たちは敵の本陣らしき場所を視界に捉えることが出来た。そこの中央に悠然と構えているのは、金髪を風に靡かせている女性――紛れもなく祝融であった。
「行くぞっ!」
焔耶が気合い一発、さらにスピードを上げて本陣目掛けて疾駆する。
俺と紫苑さんもその後に続いた。焔耶が討ち漏らした兵を、紫苑さんが走りながらも、信じられない正確さをもってして、矢で射ぬいて行く。
そして、ついに祝融ともう少しという距離まで辿りつくことが出来た。
「ここから俺一人で行きます」
「え?」
「祝融は瞳術を使います。彼女の瞳を見るだけで、おそらくその術にかかってしまうでしょう。だから、二人は俺の後ろを守って下さい」
「……分かったわ」
「気を付けてくれよ」
「大丈夫だよ」
俺は地面を蹴って、祝融との距離を詰めた。
戦況は圧倒的に俺たちに傾いていた。しかし、祝融の表情には相変わらず余裕の笑みが浮かんでいた。嗜虐的な笑みを俺は目撃してしまった。
そう、俺は祝融の顔を見てしまったのだ。
その瞬間、南蛮の戦場に立っていたはずの俺は、真っ暗な闇へと叩き落とされていたのだ。
あとがき
第六十五話の投稿です。
言い訳のコーナーです。
さて、南蛮編も佳境になりまして、朱里の策が明らかになりました。
前回のコメントでも予想されていましたが、朱里の練った策とは油を使ったものでした。豪雨の中、油を使ったとしてもちゃんと火が点くのかどうかは微妙なところですが、さらに朱里は象を使った二重の罠を仕掛けたのです。
これまで象を化物だと恐れていた彼女ですが、一刀くんから象が巨大なだけで普通の生き物であると知らされると、動物が本能的に火を恐れるということを利用して藤甲兵を駆逐しました。
それにより、藤甲兵を失った南蛮軍を一気に押し返すことのできた益州軍は、最後の決戦のために一刀くん自身が祝融と雌雄を決すために本陣へと向かいました。
そして、彼は祝融の瞳を見てしまったのです。
闇へと落とされた一刀くんは無事に祝融を倒すことが出来るのでしょうか。
さてさて、この南蛮編もやっと終わらせることが出来そうで、ホッとしております。スランプの中、作品を執筆し続けるというのは、かなり苦しいものですね。
一応年内中にこの作品を終わらせて次の作品に進みたいと思っているので、何とか書いておりますが、何を書いているのか、自分でも分からなくなってきます。
作品を御覧になっている方で、作者と同じく作品を書いていらっしゃる方がおりましたら、スランプを脱する術とかありましたら、是非とも教えて欲しいものです。
とりあえず、南蛮編が終了したら、スランプから脱することを切に願っております。
さてさてさて、次回で戦争は終了。
祝融の想いと、それを受けての一刀くんを描きたいと思っております。
前回のあとがきにおける質問――どうして作者があんなことを尋ねたのかは、そのときに明らかにしたいと思います。
では、今回はこの辺りで締めたいと思います。
相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。
誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。
説明 | ||
第六十五話の投稿です。 朱里の策がついに成った。藤甲兵は火の海に呑み込まれて無残にも散っていく。それを黙って見ていることしか出来ない祝融であったが、一刀は自らが祝融を討つべく出陣する。そして、二人がぶつかり合おうとしているのだが……。 いつも通りの駄作です。これは最早スランプのせいには出来ないのではないか……。それではどうぞ。 コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます! 一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。 |
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コメント | ||
徐越文義様 今回は朱里の策のお披露目ということで、さすがは、はわわ言ってるけどやるときはやるなってところを見せたかったのですが、まんまと美味しいところは持って行かれました。さすがは一刀くんです。(マスター) RevolutionT1115様 チート性能のあまりない一刀くんだとこうなってしまいますよね(笑) 読者様から全力の突っ込みが多くて、見た瞬間吹いてしまいました。さて、この窮地を我らが種馬は無事に切り抜けることが出来るのか、次回をお待ちください。(マスター) summon様 本作品ではあまり出番のなかった朱里ではありますが、天下で随一の頭脳の持ち主ですからね。親友のあわわ軍師も活躍させてあげたいのですが、そんな余裕があるのかどうか……。今回ははわわ軍師に軍配があがりました。(マスター) オレンジぺぺ様 それはもう原作では、この南蛮の地で四人全員を(ry さてさて、益州と南蛮の因縁は次回を期待せずにお待ち頂くということにしまして、言ってるそばから罠に嵌まってしまうところが彼らしいと言えるでしょう。(マスター) 山県阿波守景勝様 今回ばかりは素でしたね。そして、やっとのことで南蛮も終わり、作者自身も胸を撫で下ろしています。皆様にお見苦しいところばかり――いつもと変わりませんが、見せてしまい大変申し訳なく思います。祝融については次回明らかにしますので、ごゆるりとお待ちください。(マスター) 劉邦柾棟様 なんだかんだ言っても、所詮は一刀ですからね(笑) 本作品の一刀くんは覚悟だけは誰よりも定めてあるので、精神的には強い面を持っていますが、他には特に秀でた部分はあまりないです。(マスター) ちょ、何見てんの!やっぱり一刀はこうでなきゃww(RevolutionT1115) さすが、朱里ですね。普段からはあまり想像がつきませんが…お見事です! (summon) わざとなのか、素でうあったのか……南蛮もやっと終わりますね。余程劉焉はいらないことをしたのか……(山県阿波守景勝) 言ってる傍から見ちゃってるしwwwwww。 orz 一刀の馬鹿ーーーーーーーーーーー!?(劉邦柾棟) |
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