本編
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悪魔騎兵伝(仮)

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第一話 振りかざした正義

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C1 祈り

C2 夢

C3 元傭兵

C4 決意

C5 告白

C6 賊

C7 捕縛

C8 凱旋

C9 議会

C10 公開処刑

次回予告

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C1 祈り

 

雪が降るフィオラ山地。闇に隠れたアレス王国機動城塞ヴェルクシュイヴァンの傍ら、上級騎士ヴェイロークと侍従のカストを後ろにアレス王国第二王子ファウスは巨大な墓石に跪き、祈りを捧げている。ファウスの月明りに照らされた銀髪の光沢の上、舞い降りた雪は淡く溶け、失せる。

 

小刻みに震える体。頭を上げたその瞳には苔生した墓石の碑文が映え、吐かれた息は彼の口元を白く彩った後、四散する。眼から溢れる滴は頬を伝い、地面へと下落する。彼は眼を閉じ、頭を下げて再び祈る。背後のヴェイロークが前に出る。

 

ヴェイローク『ファウス様、もうこのくらいでよろしいでしょう。』

 

ファウスの口元から白い息が漏れる。

 

ファウス『もう少しこのままにしておいて…。』

 

カストが前に出て、自身の外套をファウスにかける。

 

カスト『お体に触ります。』

 

ファウスは後ろを振り向く。その眼に映えるカストの震える指先。

 

ファウス『カスト、ありがとう…。』

 

ファウスは立ち上がると、その外套をカストにかける。

 

カスト『ファウス様!?』

ファウス『僕の為にこんなに無理をしてくれて…ごめんなさい。』

 

ファウスはカスト見つめる。カストは顔を赤らめ、喉元を鳴らす。

 

カスト『そ…、そんな臣下として当然のことです。』

 

ファウスはヴェイロークの方を向く。

 

ヴェイローク『お戻りになられますか?』

 

ファウスは頷き、カストの後ろをついていく。その後ろにヴェイロークが続く。

 

ファウスは途中で一度墓石の方を振り返り、しばし見つめる。カストが振り向き、ヴェイロークがファウスの肩に手を置いて無言で頷く。三人はヴェルクシュイヴァンの夜陰の中に消えていく。

 

C1 祈り END

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C2 夢

 

窓から差し込む月明かりが淡い青に染めるヴェルクシュイヴァン内通路。三つの伸びた黒い影がファウスの寝室を過ぎて止まる。

 

ヴェイローク『ファウス様、色々と雑務を残してきました故、私はこれにて』

 

ファウスはヴェイロークが言葉を発している間中、彼の顔を見つめ続けている。ヴェイロークはしゃべり終わるとファウスに対して一礼する。ファウスは握った拳を胸に当て、歪んだ眉の下、潤んだ瞳がヴェイロークを見上げる。

 

ヴェイローク『ファウス様、何か?』

 

ファウスは首を横に振る。

 

ファウス『う、うん、なんでもない。お休みなさい…ヴェイローク。』

 

ヴェイロークはカストの方を向く。

 

ヴェイローク『後は頼んだぞ。カスト。』

カスト『ハッ、はい。』

 

カストはヴェイロークの背に敬礼する。彼は扉を開けて部屋に入り、照明をつけ、部屋を覆う闇を取りはらう。そして、ファウスから手渡された外套を外套かけにかける。

 

脱いだ衣服から現れる透けた白い肌。揺れ、背中にあたる長髪の隙間から分かる首元に印された深い傷跡は上着により隠される。ボタンを留める音のする間中、露わにされている素足。ファウスはズボンを履き、着ていた服をカストに手渡す。

 

カスト『では、私はこれで…』

 

ファウスに背を向けたカストの袖口をファウスが掴む。

 

ファウス『待って、カスト…』

カスト『…何でしょう?ファウス様。』

ファウス『カスト、今夜はここに居て。』

 

カストの目の前のファウスはベッドの上に座り、体を小刻みに震わし、青ざめた表情をしている。

 

ファウス『怖いの。あの悪夢が!あの闇よりの刃が、仄暗い蒼の輝きがこの地に近づくにつれ、はっきりと…』

 

潤んだ瞳がカストを見つめる。

 

カスト『例の…』

 

カストは眼を閉じ、頷いて再び開ける。

 

カスト『分かりました。大丈夫ですよ。ファウス様。私がついていますから。』

ファウス『ありがとう…カスト。』

 

カストはベッドの横に腰かけを置き、座る。ファウスはベッドに仰向けになり、カストの方を見つめる。

 

C2 夢 END

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C3 元傭兵

 

ドアを2、3回叩く音。女上級騎士ファンデラドンはため息をつき、ファウスの寝室の扉から離れ歩く。扉が開く音。ファンデラドンは振り向く。扉を開け、片目をこすりながらファンデラドンの方を見るファウス。

 

ファウス『…どうしたの?ファンデラドン。』

ファンデラドン『ファウス様…御就寝中のところ真に申しわけありません。ん…』

 

開かれた寝室の扉とファウスの間隙の仄青い空間の中ファウスのベットの傍らで眠るカストがファンデラドンの眼に映りこみ、ファンデラドンは眉を顰める。ファウスはファンデラドンの眼を見て口を開く。

 

ファウス『あの、僕がカストに頼んだの。寝付けなくて…だからカストを責めないで上げて…』

 

ファンデラドンは表情を解き、ファウスの方に目を向ける。

 

ファンデラドン『左様でございましたか。』

 

ファウスはファンデラドンの顔を見つめる。

 

ファウス『ところで何かあったの?』

 

ファンデラドンは頷く。

 

ファンデラドン『はい。艦橋にてデンザイン様と天空騎士エガロが口論し、仲裁にヴェイローク様が入っているのですが、なかなか上手くいかず…』

 

ファウスは一歩前にでる。

 

ファウス『どうして!?』

 

ファンデラドンは眉を顰め、口を開ける。

 

ファンデラドン『盗賊がいるらしいとのエガロからの報告で…』

ファウス『盗賊!それは大変!』

 

ファウスはすぐに艦橋に向かって駆けていく。ファンデラドンはファウスに向かって手を伸ばす。

 

ファンデラドン『ファウス様、寝巻の…』

 

ファンデラドンは口を閉ざし、手を下ろして駆け足でファウスの後をついて行く。

 

ヴェルクシュイヴァン艦橋より言い争う声。

 

デンザイン『ここは盟主領!そんなものなど居る筈があるまい。』

エガロ『だから、分からない奴だな、あんたも。居るものはいるんだよ。鉄屑の残骸やら、人型機構や機動城塞の軌跡やらが。』

デンザイン『そんなもの貴様の見間違いであろう?』

ヴェイローク『二人とも落ち着いて下さい。』

デンザイン『ヴェイローク卿、貴公はこの薄汚い成り上り者の言動を信用し、我らが盟…』

 

艦橋の扉が開き、ファウスが現れる。ファウスは口を閉ざした三人を見回す。

 

ファウス『盗賊がいるの?』

 

デンザインはファウスに近づく。

 

デンザイン『これはこれはファウス様…』

 

エガロはデンザインを押しのけ、ファウスの前に立ち、デンザインの方を指さす。

 

エガロ『ファウス様。この石頭に何とか言って下さいよ。俺はただ、偵察の詳細を報告しているだけなのに…このお方ときたらまるで聞く耳をもたないのですから。』

 

デンザインは声を荒げて反論する。

 

デンザイン『ファウス様!こやつは元傭兵。到底信用のおける男ではございません!!仮にもここは盟主領…』

ファウス『デンザイン。エガロは仲間だよ。』

 

ファウスはデンザインを直視する。デンザインは口を開きかけたがすぐに閉ざして眉間にしわを寄せ、沈黙した。

 

ファウス『喧嘩はしないで。もし、エガロの見間違いだったとしても、もう一度確認すればいいことでしょう?そうすれば…』

 

デンザンの眉をひそめた険しい表情から口元が動き、言葉を発する。

 

デンザイン『う…うむ、勝手になさるがよろしい!』

 

デンザインは後ろを振り向き、扉にすすむ。

 

ファウス『ありがとう。デンザイン。』

 

ファウスの言葉が終らない内にデンザインは艦橋から出ていく。ヴェイローク、ファウスの前へ出る。

 

ヴェイローク『しかしながら、ファウス様。我々を統率する盟主領に山賊がいるということは由々しき事態。』

 

ファウスは頷きながら、エガロの方を見つめている。エガロは頭を掻きながら、口を動かす。

 

エガロ『まあ、この坊ず…』

 

エガロは咳払いをする。

 

エガロ『ファウス様が言うように実際に見ればよく分かるぜ。』

 

ファウスはヴェイロークの服の袖口を引き、顔を見つめる。

 

ヴェイローク『何でしょう。ファウス様?』

ファウス『僕が行きます。』

 

ヴェイロークはしゃがみ、ファウスの両肩に手を置く。彼の瞳にはヴェイロークを見つめるファウスの姿が映っている。

 

ヴェイローク『そういった雑務は部下にまかしておけばいいのです。将がそれを行うのは馬鹿げたこと…。』

ファウス『でも…この目で見なければいけないと思うんだ。』

 

ヴェイロークは苦笑いを浮かべ、立ち上がり、エガロの方を見る。

 

ヴェイローク『…まあ、仕方あるまい。エガロ、ファウス様を頼んだぞ。』

エガロ『ああ。了解した。』

 

エガロはファウスの側に歩み寄り、手を差し出す。ファウスはエガロを見上げ、彼の差し出された手を握る。

 

C3 元傭兵 END

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C4 決意

 

フィオラ山地上空を舞うガガジェット級偵察機コックピット。透けた自身の姿と背後のカストの姿を現すガラスを通してファウスは外の雲を見る。

 

エガロ『しかし、お荷物が一つ増えたとはな…。もう少し信頼して欲しいものだ。』

 

ファウスは立ち上がる。

 

ファウス『カストは僕の為を思ってついてきてくれたのに…お荷物なんて言い方は酷いよ!』

 

機体が傾き、ファウスは体勢を崩してカストの方へ倒れこむ。

 

ファウス『あぅ!』

カスト『ファウス様!』

 

ファウスを受け止めたカストの目はエガロの座る操縦席に向けられる。

 

カスト『エガロ!ファウス様に何てことを。』

エガロ『はぁ?勝手に立ち上がるな。危ねえぞ。』

カスト『貴様!!』

ファウス『カスト!止めて。僕が悪いの。』

 

ファウスはエガロの座る操縦席に眼を向ける。

 

エガロ『あ、この辺だな…。ファウス様、下を見な。』

 

ファウスは窓に顔を向ける。その眼には雲の合間に輸送艇の残骸、黒焦げになった森や鉄屑が映える。

 

ファウス『あれは…。』

 

ファウスの眼は輸送船のマークを捉える。

 

ファウス『あれは…ロズマール帝国近郊領からの脱出艇。』

 

カストはファウスの方を向く。

 

カスト『ロズマール近郊領からの脱出艇であれば傭兵部隊の護衛が付いていた筈…。』

 

ファウスはカストと顔を見合わせ、エガロの方を向く。

 

ファウス『山賊はそんなに腕が立つ人達なの?』

エガロ『いや、ここにはどこもかしこも脱出艇の残骸しかない。おまけに機動城塞の軌跡があるだけだ。』

カスト『それはどういう…。』

エガロ『ま、おそらくは脱出艇の金銀財宝目当てに傭兵部隊が盗賊と化して、襲撃したってことだろうな。』

ファウス『そんな…。信頼して助けを求めた守るべき弱い者に力を行使するなんて…。』

エガロ『よくある話さね。強い者より弱い者を狙った方が効率がいいからな…。それにロズマール近郊領からの脱出艇はますます増えるって話だ。奴らにとって稼ぎ時だな。』

ファウス『脱出艇に乗っていた人は大丈夫なの?』

エガロ『まあ、生き残った奴らは人身売買で売る為に残されるか、あんまり価値が無ければ奴らの玩具にされて殺されるか…。』

 

ファウスは体を前に傾ける。

 

ファウス『そんなの間違ってる!早く戻ろう。戻って、エガロの報告が正しかったことを皆に伝え、盟主様に伝えて彼らを止め、脱出艇の人達を助けないと!』

 

エガロは頷き、ガガジェットはヴェルクシュイヴァンの方へ方向転換する。

 

エガロ『あ、そうそうファウス様。闇よりの刃が、仄暗い蒼の輝き…悪夢。そんな状態で指揮などとれるのかい?』

 

ファウスの額から汗が垂れる。大きく見開かれた眼はエガロの据わる操縦席を映している。カストもまたそちら側の方向を向く。

 

カスト『どこでそれを…。』

エガロ『俺の耳は良くてな。しかし、一国の王子が悪夢に怯えて進軍を停止しているとはねぇ。しかもそのことを配下が知らないとは…。メフィス王子派に取り入るのもいいし、他国に売り渡すのもいい情報だ。さて、ファウス様は俺をいくらで雇う?』

カスト『下劣な!だいたい我が陣営において派閥争いなど無い!』

 

エガロは笑い出す。そして、黒い小箱をファウスに向かって投げる。ファウスはそれを受け取り、掌に乗せ、うつむいて見つめる。

 

ファウス『これは…何?』

 

ファウスはか細い声を出し、顔を上げる。

 

エガロ『メフィス王子派の騎士がファウス様の部屋に仕掛けた盗聴器だ。』

 

ファウスの掌から盗聴器が落ち、2、3回音を立ててバウンドし、椅子の下に潜り込む。

 

ファウス『盗…聴…器!』

エガロ『こいつを調べればすぐに分かることだ。』

 

大きな音を立て、ファウスは歪んだ表情で椅子に崩れ落ちる。

 

ファウス『お兄様が…まさか、そんな…』

 

ファウスの顔は青ざめ、潤んだ眼を見開いたまま固まる。カストはファウスの腕を掴んで揺する。

 

カスト『ファウス様!ファウス様!!』

 

沈黙の時間が流れ、ガガジェットは雲の上を進む。

エガロが口を開く。

 

エガロ『主力は既に遠征地。機動城塞一隻、ヴェルクーク数騎を与えられ、残りはビクトリア女王の命の下、メフィス王子のお守りか。』

ファウス『お兄様のことを悪く言わないで…、きっと僕が悪いの。悪夢に苛まれ…何もできない臆病者の僕が。ヴェイロークには口止めされてた…けれど、もう隠すことなんてできないよ。』

 

カストはファウスの顔を覗き込む。

 

カスト『ファウス様・・・。』

 

ファウスはカストを見る。

 

ファウス『いいんだカスト。僕は臆病な自分から逃げていた。あの時、身代わりになってくれた農奴の子にすがるしか無かったんだ。』

 

ファウスはエガロの方を向く。

 

ファウス『エガロ・・・僕に勇気を与えてくれてありがとう。』

 

エガロは自身の頭を2、3回軽くたたく。

 

エガロ『…ハハハハハ。ここまで言ってありがとうとは・・・面白い王子様だな。』

 

C4 決意 END

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C5 告白

 

ヴェルクシュイヴァンの飛行板に集まるアレス王国の兵士達。滑走路に着陸するガガジェット。ガガジェットのコックピットのハッチを開け、降り立つファウスはアレス王国騎士達を見回す。ヴェイロークがファウスに近寄る。

 

ヴェイローク『ファウス様…、申し訳ありません。私が諌めたのですが…』

ファウス『えっ??』

 

プードル犬獣人でアレス王国騎士のグークラークが前に出る。

 

グークラーク『ファウス様!聞けば、命の恩人とはいえ高だか農奴の墓参りをしていると言うではないですか。あなたがその様な下らぬ私情で無為に時を過ごし、我々の歩みを止めることに我慢なりません!』

 

ファウスは眼を見開き、その場に固まる。アレス王国女騎士シャロンはグークラークの傍らに移動する。

 

シャロン『グークラーク殿。ファウス様は、このフィオラの地が盟主領となってから来る機会も無く…』

グークラーク『何を悠長なことを!今はその様な状況ではない!』

 

アレス王国騎士ダンダスダンが前に出る。

 

ダンダスダン『盟主領では次期盟主に御指名されたエグゼナーレ殿が第二次ロズマール遠征に期待し、首を長くして我々の到着を待っているというのに。この様な茶番をしていては他国に先を越されてしまう!!』

 

兵士大多数喝采。

 

ファウス『…皆、僕は…』

ヴェイローク『ファウス様!』

 

ファウスは兵士達に何か言及しようとするが、上級騎士ヴェイロークの言葉に遮られる。

 

ヴェイローク『ファウス様は、長旅の疲れか、ここのところ体調が優れない状態が続いているのだ。カスト。』

 

カストは一歩前へ出る。

 

カスト『は、はい…。』

ヴェイローク『ファウス様をお部屋へ。』

 

ファウスはヴェイロークを見る。

 

ファウス『ヴェイローク、もう隠すのは止めよう。』

ヴェイローク『ファウス様…何を。』

 

ファウスは潤んだ瞳に兵士達を映しながら前に進む。

 

ファウス『…夢を…夢を見るんだ。幼い頃によく見た…あの悪夢を。頻繁に…。闇よりの刃が、仄暗い蒼の輝きが漆黒のヴェルクークによる一閃が僕の首を刎ねようとする悪夢を…。それが、あの忌まわしい事が起こったこのフィオラの地に近づくにつれて段々とはっきりと!』

 

ファウスの顔から汗が噴出し、握られた拳は震えている。しばし沈黙が続き、静かなざわめきが起こる。デンザインの足を踏み出し、ファウスの手前に寄る。

 

デンザイン『ファウス様…。よろしいか?』

 

ファウスは頷く。

 

デンザイン『だったら、なおさら農奴とはいえ、命の恩人の墓前にすがるのではなく、ファウス様にその過去を乗り越える勇気と力を養ってもらわなければ、これから対峙するロズマールの赤猫目とは張りあえませんなぁ!』

 

ファウスの表情は青ざめ、力無くうつむく。デンザインは後ろを向く。

 

デンザイン『出発の準備をしろ!盟主領に乗り込み、我が国の精強さを見せ付けてやるのだ!!』

 

エガロは笑い出す。

デンザインは振り向いて、エガロの方を睨みつける。

 

デンザイン『何がおかしい!』

エガロ『いや、失敬失敬。』

 

エガロ『な〜に、主力部隊は主戦場であるロズマール帝国との国境上に、予備部隊の大半は兄君のメフィス王子のお守…おっとアレス王国の守備の為待機。寄せ集めの部隊が俺らが第二次ロズマール帝国遠征選抜隊…人数もいなけりゃ、華も無い。』

 

兵士達、エガロを睨みつける。

 

エガロ『おっと、そう睨みつけなさんなよ。それにだ。いくら重厚な装備、屈強な兵士の衣を纏ったとして、それで着飾る頭がこのようななりとなってしまっては、ハハ、盟主領に一番乗りを果たしたとしても騎士団の威信もへったくれもあったもんじゃねだろ。』

シャロン『エガロ!貴様!!我が騎士団の冒涜のみならず、ファウス様まで侮辱するとは!!』

 

エガロはシャロンの後ろに回り込み、シャロンの乳を強く掴む。

 

シャロン『えっ…何を…ひ、ひゃん!』

エガロ『別に俺は、あんたらがファウス様を蔑ろにしている事実を言っているだけだがな。』

 

エガロはシャロンの耳元で口を動かし、吐息を耳に吹きかける。シャロンの瞳は収縮し、その場に崩れ落ちる。ファウスはシャロンに駆け寄り、抱き起こす。

 

ファウス『シャロン…大丈夫?』

 

ファウスは立ち上がり、エガロに詰め寄る。

 

ファウス『エガロ!酷いよ!こんなことをするなんて!!』

 

ファウスはエガロに背を向けシャロンの方を向く。エガロはファウスを引き寄せる。

 

ファウス『やっ…』

エガロ『箔をつけてやろうと言っているんだよ。現に俺とファウス様はフィオラの地に盗賊がいる証拠を掴んでいる。』

 

エガロはファウスを見る。

 

エガロ『そうだろ。ファウス様。』

ファウス『そ、それはそうだけど…これとそれとは…』

エガロ『早く脱出艇に乗ってた奴らを助けたいんじゃないのか?』

 

シャロンは立ち上がり、ファウスの傍に寄る。

 

シャロン『ファウス様…。私は大丈夫です。申し訳ありません。気が動転してしまいまして…。』

 

ファウスはシャロンの方を向く。

 

ファウス『シャロン…。』

 

エガロは顔をあげる。

 

エガロ『ならば、その盗賊を討ち、精強さを示せばいいだろう。』

 

デンザインのこめかみに血管が浮き出、握られた拳は激しく痙攣する。その血走った眼で後ろのアレス王国騎士達を見、エガロの方を向くが、あごに手を当てた後、不敵な笑みを浮かべる。

 

デンザイン『…よかろう。ただし、盗賊討伐の指揮は貴様にとってもらう!』

エガロ『いいだろう。だが…あんたを含め、後ろの連中は俺の指示に従わん可能性が高い。俺がファウス様にあらかじめ指示を出しておくので、その後、ファウス様に直接指揮をしてもらうとしよう。』

 

エガロはファウスに目配せし、ファウスはそれに頷く。唖然とするデンザイン。

 

エガロ『では、皆さんに戦闘準備にとりかかってもらいますかね。ファウス様。』

 

ファウスはエガロの顔を覗き込む。

 

ファウス『えっ?』

エガロ『いいから、戦闘準備にとりかかれって言やい〜んだよ。』

 

ファウスはアレス王国騎士達の方を向く。

 

ファウス『あ、…はい。せ、戦闘準備にとりかかって下さ…い…。』

 

エガロはアレス王国騎士達の方を向いた後、ファウスの方を向く。

 

エガロ『聞こえてないみたいだが…もっと大きな声で。』

ファウス『戦闘準備にとりかかってください!!』

 

アレス王国騎士達は頷いて飛行板から去る。

 

C5 告白 END

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C6 賊

 

ヴェルクシュイヴァン艦橋。アレス王国女魔術師カリュフラは眉間にしわを寄せ、エガロを傍らに玉座に座るファウスを見る。

 

カリュフラ『わざわざロズマール近郊領の脱出艇に偽装しなくともたかだか盗賊ごとき私達の敵ではありませんよ。』

 

ファウスはエガロの方を向いてからカリュフラの方を向く。

 

ファウス『エガロには考えがあるんだよ。』

 

カリュフラはエガロに目を向け、すぐにファウスに目を向ける。

 

カリュフラ『まあ、そうですね…。ファウス様がそう言うのであれば。』

 

カリュフラはファウスに背を向け、前を向く。木々を押し倒し、森を切り裂きながら進むヴェルクシュイヴァン。機械より音が鳴り、アレス王国オペレーターのマーアが口を開く。

 

マーア『反応多数!人型機構級です!!』

 

木の葉が舞い、大多数のランティッド・コルドナ級人型機構が斧を振り上げてヴェルクシュイヴァンに向かってくる。ファウスは喉を鳴らし、カリュフラの方を向く。

 

ファウス『カリュフラ、頼みます。』

 

カリュフラはファウスの方を向き、頷いて再び前を向き、呪文を唱える。前方のランティッド・コルドナ級人型機構の動きが止まる。ファウスは無線機を取る。

 

ファウス『全軍突撃して下さい!』

 

ファウスの号令により、アレス王国所属ヴェルクーク級人型機構が森林より現れ、ランティッド・コルドナ級人型機構の群れに向かっていく。背を向けて逃げ出すランティッド・コルドナ級人型機構。ファウスはエガロの方を向く。

 

ファウス『僕も行かなきゃ・・・。』

エガロ『ファウス様。・・・あんたはここに留まってもらわなきゃ駄目だ。』

 

ファウスは玉座から立ち上がり、エガロの方を向く。

 

ファウス『皆が戦っているんだ。』

 

機械より音、マーアがファンデラドンの方を向く。

 

マーア『逆方向から新たに反応多数。』

 

エガロは前を向く。ファウスは扉に駆けていく。

 

エガロ『一番近い部隊は?』

マーア『デンザインの部隊です。』

エガロ『ふ〜む…、上級騎士とやらの力を見せてもらうかね。デンザインの部隊に行かせとけ。』

マーア『了解。』

エガロ『あれ、ファウス様は…。』

 

閉じようとする艦橋の扉。

 

エガロ『まったく!』

 

ヴェルクシュイヴァンのハッチより出撃するロード・ヴェルクーク級人型機構。木々が押し倒され、木の葉が舞い散って手前にランティッド・コルドナ級人型機構一騎が現れる。ランティッド・コルドナ級人型機構はロード・ヴェルクーク級人型機構をに向け斧を振り上げて襲いかかる。

 

その斧は天に弧を描き、回転しながら落ちて地面に突き刺さる。倒れこむランティッド・コルドナ級人型機構に剣の切っ先を向けるロード・ヴェルクーク級人型機構。ランティッド・コルドナ級人型機構のコックピットが開き、盗賊Aが両手を上げ出てくる。

 

盗賊A『こ、降参だ!もう抵抗しませんから…命だけはお助けを。』

 

ファウスは自機のコックピットを開け、出る。エガロ専用人型機構が現れ、その剣の一閃が盗賊Aの挙げられた両腕と頭を体から切り離す。切り口からは鮮血が噴出し、切られた両腕は力なく地面に落ちる。

頭部は勢いよく回転しながら転がって森の闇へと消え、体は力なく血だまりの中に前のめりに倒れる。ファウスは後ろに後ずさり、目を閉じて顔をそむけ、再び目を開けてエガロ機の方向を向く。

 

ファウス『エガロ!無抵抗の者を斬るなんて!』

 

エガロ専用人型機構のコックピットのハッチが開き、エガロが出てきて剣を抜いてその切っ先を盗賊Aの死体に向ける。

 

エガロ『ファウス様、完全に武装を解除してない者を無抵抗とは言いいませんぜ。』

 

盗賊Aの死体の腰ベルトには鞘に入れられた短剣が少しはみ出し、日の光による光沢を醸し出す。ファウスは腕輪のボタンを押す。

 

ファウス『盗賊達を殺さないで!』

 

ヴェイロークのホログラムがファウスの前に現れる。

 

ヴェイローク『ファウス様!生け捕りなど正気ですか!』

ファウス『盗賊だからといって命まで奪う必要はないよ!』

 

ヴェイロークのホログラムはファウスをしばらく見つめる。

 

ヴェイローク『御意。』

 

ヴェイロークのホログラムが消え、エガロは手をたたく。

 

エガロ『それはいい。実に良い案だ。生け捕りにすれば見栄えが良くなる!』

 

エガロはファウスの方を見る。

 

エガロ『では、ファウス様。何騎か見逃してアジトを突き止めるとしましょうか。』

 

ファウスは倒れているランディッド・コルドナ級人型機構を見ながら無言で力なく頷く。

 

C6 賊 END

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C7 捕縛

 

ヴェルクシュイヴァン艦橋。

 

デンザイン『ファウス様を出撃させるとは貴様の監督能力がなってないのではないか!』

 

エガロはデンザインの方を一瞬見て、すぐに前を向く。

 

エガロ『上級騎士とあろうものが盗賊風情を一体逃すとはな。』

 

デンザインは口をつぐんで後ろに控える。

 

ヴェイローク『予想通り機動城塞を根城にしているわけだが…生かして捕らえるとなれば難しいぞ。脱出艇の人々がいたとして人質として使われたら厄介だ。』

 

エガロは両手を広げる。

 

エガロ『逃げていくランティッド・コルドナの腹の中に俺の部下を多数入れておいた。後はファウス様とロード・ヴェルクークを貸して頂ければあの城塞を無傷で落としてみせよう。』

 

ファウスは玉座から立ち上がり、エガロを見る。

 

ファウス『僕が必要なの?』

 

エガロは軽く頷く。

 

デンザイン『エガロ!もし、ファウス様に何かあれば貴様の首は飛ぶことになるぞ!』

 

ファウスはデンザインを見つめて微笑む。

 

ファウス『デンザイン…。心配してくれてありがとう。でも、きっと上手くいくよ。』

デンザイン『むぅ…。』

 

デンザインは口を閉ざす。

 

ヴェルクシュイヴァンから出撃したロード・ヴェルクークは森林をかきわけデュッケ級機動城塞へ向かう。操縦席に座るエガロ、後ろには縛られて猿轡をはめられるファウス。計器より音が鳴る。

 

エガロ『おお、来たな。』

 

エガロは計器のボタンを押す。

 

盗賊の親分『止まれ!貴様だな!俺たちの仲間を殺したのは!!』

エガロ『おいおい、俺が貴族にみえるか?俺はフリーの傭兵だ。』

 

エガロは後ろのファウスを指さす。

 

エガロ『仲間とはぐれたのか森の中でおろおろしていたこいつと出くわしたんで倒した。まあ、見た目も立派だし、身代金もとれると思ってな。』

 

モニターに映る盗賊の親分は顎をさする。

 

盗賊の親分『貴様の人型機構が見えんようだが…。』

 

エガロ『はぁ?ボロの人型機構よりこっちの綺麗な奴の方がいいだろ。カッコイイしよ。頂戴したってわけよ。それより、お前さん方は何をやっているんだ?見たところ機動城塞なんてたいそう洒落たものを持ってるようだが…。』

盗賊の親分『…い、いい金になる仕事よ。…お前、腕が立ちそうだな。ちょうどいい、俺たちの仲間にならないか?』

エガロ『おお、願っても無いことだな。今、仕事が無くてよ。』

盗賊の親分『よし、機動城塞まで来い。出迎えてやる。』

 

ロード・ヴェルクーク級人型機構は艦橋の手前に乗りよせ、エガロはコックピットから出る。艦橋の出入口へと向かう。

 

エガロは出入り口に入るとファウスを片手に抱えたまま、飛んで盗賊の親分の首元に短刀の切っ先を当てる。盗賊の親分は苦悶の表情を浮かべる。

 

盗賊の親分『なっ!何すんでえ!!貴様…』

エガロ『部下に武装解除させろ!』

 

盗賊の親分の息子がエガロに飛び掛かる。

 

盗賊の親分の息子『父さん!おのれ!!』

 

エガロは盗賊の親分の息子の股を勢いよく蹴り上げる。

 

盗賊の親分の息子『はんぎゃ!』

 

盗賊の親分の息子は股を押さえ、体全体を痙攣させて口から泡を吐きながら白目をむく。

 

盗賊の親分『む、息子よ!お、俺を殺したところでお前もその貴族のガキも死ぬんだぞ!』

 

エガロが口笛を吹き、艦橋に雪崩れ込んでくるアレス王国天空軍兵士達。ひるむ盗賊達を押し倒し、鎖で捕縛する。エガロは短刀の切っ先を首に突き立てる。

 

エガロ『もう一度言う。武装解除させろ。でなければ貴様の命は無いぞ。』

 

盗賊の親分の顔から汗がわき出る。

 

エガロ『妙な指示を出そうとすれば…分かっているな。そろそろ外の騎士団が乗込んでくる。抵抗をすれば貴様らを皆殺しにするぞ。』

 

盗賊の親分は顔を歪ませる。

 

盗賊の親分『分かった…。』

 

盗賊の親分は無線機を持つ。

 

盗賊の親分『野郎ども…殺されたくなきゃ武装解除して乗り込んだ騎士達に降伏しろ…。』

 

盗賊の親分はエガロの部下に鎖をかけられる。ヴェルクシュイヴァンが現れ、次々とアレス王国騎士達がデュッケ級機動城塞に乗り込む。ファウスの猿轡と縄をエガロが短刀で切り離す。

 

エガロ『はい、お疲れさん。』

 

カストはファウスに駆け寄る。

 

カスト『ファウス様!大丈夫ですか。』

ファウス『僕は大丈夫…。』

 

ファウスは捕縛されて目を閉じている盗賊の親分の息子に駆け寄り、エガロを見る。

 

ファウス『それより、この子は大丈夫なの?』

エガロ『なに、2、3時間もすりゃ目を覚ますだろうよ。』

 

ファウスはしばらく盗賊の親分の息子を見つめる。

 

ファウス『脱出艇の人を助けないと…。』

 

ヴェイロークがファウスの前に現れる。

 

ヴェイローク『ただいま、騎士達が盗賊どもを捕縛しております。残すは倉庫のみ。しばらくすれば盗賊の捕縛は完了するでしょう。』

ファウス『倉庫!』

 

ファウスは艦橋の扉を開け、駆けていく。それに続くカスト、ヴェイローク。アレス王国騎士によって縛られ連行される盗賊達の横を駆け、ファウス達は倉庫の前に辿りつく。

 

ファウスは扉に手をかけて押すときしんだ音を立てる。磔にされた女性の裂かれた腹から出ている腸を棒で突いている下劣な笑みを浮かべている女や子供達が扉を開けて立ち尽くすファウスを見て、唖然とする。その横には折り重なった腐敗と損傷の激しい死体が積み上げられ、贓物をまばらに床にばら撒いている。

 

ファウスは口を押さえ、入り口から飛び出ると壁に手を当てて、地面に嘔吐物を垂らす。駆け寄るカスト。

 

カスト『ファウス様!大丈夫ですか?』

 

ファウスは潤んだ瞳でカストを見つめる。カストはファウスの背中をさする。ヴェイロークが女や子供達を捕縛し、扉から出てくる。

 

C7 捕縛

-11ページ-

C8 凱旋

 

デュッケ級機動城塞と脱出艇の残骸を曳航し、フィオラ山地を降りるヴェルクシュイヴァン。艦橋から見えるシュヴィナ王国城壁よりはみ出るヨネス王国機動城塞メロードの艦影。

 

デンザイン『あれは!ヨネス王国の機動城塞メロード!しまった。先を越されたか…。』

エガロ『心配しなさんな。ヨネス王国は小規模勢力。兵力はたかが知れているし、俺達には生け捕りにした盗賊がいる。そいつらを外に出し、ヴェルクシュイヴァンに引かせれば良い絵柄となるだろ。』

デンザイン『おおっ!』

 

デンザインは大声で笑い出す。

 

デンザイン『ハハハハハ、それはいい。次期盟主殿に好印象を与えることになるな!貴公を見直したぞ。』

 

デンザインはエガロの肩に手をかける。ファウスは玉座から飛び上がってエガロに駆け寄る。

 

ファウス『エガロ!そんなこと止めて!彼らを見世物にするなんて!!』

エガロ『見世物になるべく酷いことをやっているだろ。倉庫で見たことを忘れたのかよ?』

 

ファウスは口をつぐみ、エガロを見つめて再び口を開ける。

 

ファウス『お願いだからそんなこと止めて…。彼らだって心を持っているんだよ!だから、そんな酷いことは…。』

 

エガロはファウスの腹を殴り、崩れ落ちたファウスを玉座に置く。艦橋から見えるシィヴィナ王国トーマ城の城壁には貴族連合盟主の息子エグゼナーレと側近のヴォルフガング・オーイーと三大臣、ヨネス王国王子ヨナン・ヨネスそして多数の兵士が居る。

 

C8 凱旋 END

-12ページ-

C9 議会

 

荘厳な部屋のソファにもたれかかっているファウスは眼を開く。扉より声。

 

パンデモ『近頃、市民達が徒党を組み。何かよからぬ動きをしております。こやつらを始末すべきだと考えます。場合によってはロズマール王国の様な革命につながりません。』

ジェントン『市民たちは日々の暮らしに対する不満を持っています。ここは話し合いをすべきかと。』

貴族A『たかが市民と話し合い?フン、小賢しい。血迷ったかジェントン卿!』

ロペスビエル『話し合いでは公正な人物が必要となります。オルセンド王国国王オルテンドを召喚して話し合いに臨むべきかと…。』

貴族B『市民ごときの為にオルテンド国王を!!?馬鹿か貴様らは!!』

ヴォルフガング・オーイー『静粛に!貴族が革命に怯えるのも良く分かる。それは革命の起きた地にいた私がよく分かっている。市民の力は革命の原動力だった。しかし、それはイレジスト王の悪政があったからこそなのだ。市民の声に耳を傾けず、ただ闇雲に罰するだけでは本当に革命が起きてしまいますぞ!!』

 

ざわめきが起こる。

 

エグゼナーレ『うむ。この一件はオーイー殿に一任するよ。』

 

拍手喝采。

 

ファウスは鍵穴から覗きこむ。

 

ジェントンの下に兵士が駆け、ジェントンの耳元で口を動かす。ジェントンは青ざめ、議場に一礼すると凄い勢いで扉から出ていく。

 

三大臣の一人パンデモがメガネをかけ直し、額の汗をハンカチーフで拭く。

 

パンデモ『さて、次にアレス王国騎士団が捕らえた盗賊ですが…。処罰はどうししましょう。こやつらは本来護衛すべき脱出艇を襲撃し、金品を奪った挙句、搭乗員を殺しました。』

 

ロペスビエルは立ち上がる。

 

ロペスビエル『盗賊とはいえ、心を持ちます。改心する可能性があるのです。』

 

三大臣の一人女性で厚化粧をしているジェルンが静かに立ち上がり、ホログラム映像機を机の上に置く。

 

ジェルン『果たしてこの悪逆行為を見ても改心する可能性があるかどうか…』

 

議場が暗くなり、ホログラムに映るはらわたをつつきだされ苦悶にもだえる裸の女。議場が明るくなる。ロペスビエルは頭を抱える。扉から現れたジェントンは力無くその場に座り込む。

 

ジェルン『アレス王国騎士達が押収したものです。盗賊どもはあろうことか、これをスナッフフィルムとして売り出そうとしていたのです。』

 

大きな音を立ててジェルンは椅子に腰かける。ヴォルフガング・オーイーは立ち上がる。

 

ヴォルフガング・オーイー『今はロズマール帝国との決戦の最中。彼らを養うことは遠征地に送る食糧が減少することを意味します。早いうちに全員処刑した方がいいでしょう。ちょうど市民のうさばらしにもなりますし。新兵器アクマドの標的とすればテストも兼ねることができます。』

 

オンディシアン教会司祭で甲殻人ザビ・Lが立ち上がる。

 

ザビ・L『女や子供達に何の罪もありません。育った環境が悪かったのです。我々教会が預かり、神への奉仕により改心させることを誓いましょう。』

エグゼナーレ『女と子供達はザビ・L司祭に預けるとしよう。しかし、盗賊の頭の息子めはその邪悪な血を引き継いでいるに違いない。よって、盗賊と盗賊の頭の息子をアクマドを用いて処刑することにする。すぐに準備に取り掛かれ!』

 

三大臣の一人モーヴェがエグゼナーレの方を向く。

 

モーヴェ『今すぐですか?』

エグゼナーレ『そうだ!アクマドの性能をこの目ですぐに確かめたい。盗賊どもを奴らの人型機構と機動城塞に縛り付けよ!よい標的となるだろうて!』

 

ざわめきと靴音が頻繁に鳴る。扉のノブを回すが開かないので体当たりするファウス。扉を開けるカスト。

 

カスト『ファウス様?お目覚めですか?申しわけありません。次期盟主殿のお計らいで議会が終わるまで…。』

 

静寂の中、肩を落としているジェントンに駆けよるファウス。

 

ファウス『ジェントンさん?』

 

ジェントンはゆっくりと顔をあげファウスをみる。

 

ジェントン『ああ。ああ、そうだが』

ファウス『早く止めないと!』

ジェントン『止めるって?何を?』

ファウス『何って、処刑です。子供も殺されるんです。止めないと!!』

 

ジェントンは開かれたペンダントを眺め、それを閉じる。血が付いたペンダントを握り締めファウスを睨みつける。

 

ジェントン『奴らは全員処刑されて当然だ!罪の無い命を軽々しく奪っておいて、神に奉仕するならば許されるだと!!女、子供であればどんな残虐行為を起こしても許されるだと!神が許しても…私の気は晴れん!!!奴らを皆殺しにするまではな!!』

 

議場に響き渡るジェントンの怒声。ファウスは眼を見開いてジェントンを見つめる。

 

ファウス『ジェントンさん…。』

 

ジェントンは再びペンダントを開く。

 

ジェントン『必ず…必ず仇はとってやるからな!』

 

ジェントンは靴音を響かせながら、扉の奥の暗闇に消える。ファウスはうなだれる。

 

C9 議会

-13ページ-

C10 公開処刑

 

グラルタ湾に現れる超兵器航空戦艦アクマド。アクマドの砲塔から煙が噴き出、デュッケ級機動城塞が跡かたも無く吹き飛ぶ。

 

盗賊の親分が鎖を引きちぎり、自分の息子の鎖を解き逃がし、自分が縛られていたランティッド・コルドナ級人型機構に乗り込む。城壁に投影される盗賊の親分の巨大なホログラム。モニターに現れる盗賊の親分は大きな動作で口をしきりに動かすが、音は出ず、すぐに消える。そして、仁王立ちするランティッド・コルドナ級人型機構に発砲するアクマド。ランティッド・コルドナ級人型機構は、鎖で縛られた盗賊もろとも仁王立ちしたまま黒焦げになる。最上階に息を切らしたファウスが現れる。

 

エグゼナーレは走る盗賊の親分の息子を指さす。

 

エグゼナーレ『連射砲の成果を見せてよ。』

 

エグゼナーレの方向へ駆けていくファウス。アクマドの連射砲は動かない。

 

エグゼナーレ『何をやってるの!』

 

エグゼナーレの声が響く。

 

シュヴィナ王国士官A『も、申しわけありません。獣人の砲主が言うことを聞かないもので…。す、既に別の獣人の砲主がご安心を。』

獣人『オラ…撃てん。オラ…』

シュヴィナ王国士官A『黙れ!役立たず!』

 

シュヴィナ王国士官Aはモニターの隅に映っている獣人の尻を蹴飛ばす。

 

リズミカルな連射の音。ファウスは盗賊の親分の息子の方に目を向ける。波打つ砲弾により、逃げる盗賊の息子の四肢は切断され、胴体と共に空を舞、地面に鈍い音を立てて落ちる。ファウスはその場に崩れ落ちる。

 

シュヴィナ王国兵士が二人ファウスの方へ歩いてくる。

 

シュヴィナ王国兵士A『あ〜あ、あれだけ汚しちまって…。誰が後片付けすると思ってるんだよ。まったく。』

シュヴィナ王国兵士B『そうだよなあ。死体の臭いがついちまってしょうがない。デートに支障だってでるしよ。』

シュヴィナ王国兵士A『だいたいアレス王国の王子が生け捕りにしてきたのがいけないんだよ。死体で持ってくりゃ処理が楽なのに!!鉄屑、死体拾い、残骸集め…。兵士の仕事じゃね〜だろ!アホかってんだ!』

 

シュヴィナ王国兵士Bはファウスを指さす。二人のシュヴィナ王国兵士達は足音を立てずに口を手でふさいでファウスの後ろを通過する。

 

ファウスの手は力無く手摺に延ばされる。彼の眼下に小さく映えるアクマドの砲撃により四肢がまばらに砕け、散乱する山賊の親分の息子の死体。

 

C10 公開処刑 END

-14ページ-

次回

気高き理想。仮面の共鳴。

 

END

 

説明
・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
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R-18グロテスク 悪魔騎兵伝(仮) 

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