鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第五十二話
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〜レイサー森林〜

 

はしゃぐように久しぶりの依頼を体感するエステルの後ろで、

 

苦笑いと演技をするような陽気を出す三人が居た。

 

ユーリは、情報を耳にしていた。

 

ここ、レイサー森林で

 

ウリズン帝国崩壊の原因を探す一環として調査するという事を。

 

クレスに騎士団の調査の依頼を出し、それを仲間であるソフィが受け持って、

 

見事にその情報を掴んだのである。

 

『アスベルの顔が見たい』

 

たったこれだけの言葉で、騎士団の部屋の中に自由に入り込めたという。

 

フレンが居るからか、どうも管理やセキュリティが甘いな。

 

そう思い、ユーリが溜息を吐くと、エステルが心配した

 

『どうしたのですかユーリ。どこか気が進まないのですか?』

 

『いや、気が進まなくはないが、ここ最近……何か妙な事がいろいろ起こって。俺達大変な事になってんなー。と思っただけだ』

 

嘘でない、素直な気持ちを使って言い訳をした。

 

ユーリのその言葉を聴いて、エステルは何も言わずに少しだけ暗い表情になった。

 

さすがに、久しぶりの依頼にこのような話は持ち込むべきでは無かったか。

 

少し失敗した。という表情をした。

 

それを察するかのように、アルは話題を変えた。

 

『エ……エステルさんは、この森には来た事がありますか?』

 

アルがそう言うと、エステルは考える仕草をした。

 

『………。言われて見れば、ここはウリズン帝国の国地なので、足を踏み入れたことはないです。』

 

『なら、僕に任せてよ。僕、この森の事は結構知ってるんだ。』

 

アルがそう言うと、またパーティの空気が重くなった。

 

その唐突に、アルは少し慌てだした。

 

すると、スコップを持っていたエミルが口を開いた。

 

『……そういえばアルフォンスさんは、僕達アドリビドムに入る前は、この森に居たんですよね……。』

 

『そっ、そんな気持ちで言ったんじゃないよ。それに、今は皆と会えて、仲間になったから。今は幸せだよ。』

 

その言葉を聴いて、エステルの表情は少し柔らかくなった。

 

『そうですか。それなら良かったです。アルフォンスさん。これからもよろしくお願い致します。』

 

これからもよろしくお願い致します。

 

その言葉を聴いて、アルは少しだけ胸が痛んだ。

 

『は……はは。』

 

苦笑いが、表情に出ない事をアルは心から安堵した。

 

『じゃぁ、早く行きましょう。ええと……この森に生えてる”紫色に光るキノコ”を探すのが依頼目的ですよね。』

 

そう言って、エステルは地面を見つめた。

 

他の三人も、そのキノコを探す振りをした。

 

当然、そんなキノコ等生えているわけが無い。

 

もし生えているとしても、確実に毒キノコだ。使う用途は武器に使う以外ほとんど無い。

 

だが、エステルは何の疑いも無く地面を見つめ、探し物をした。

 

『…………』

 

三人は、紫色に光るキノコとは別の物を探しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ……。なかなか見つかりませんね……。』

 

エステルが溜息を吐いた瞬間、誰も何も返さなかった。

 

歩いてから1時間が経ち、気持ちが落ち着いてきたのか。全員が軽い気持ちになりつつあった。

 

『まぁ、そうそう簡単に見つかったら面白くないわな』

 

ユーリが場を和ませるようにそう言うと、そうですねとエステルは微笑んだ。

 

探しながら、パーティは二手に分かれた。

 

一人は、エステルと同行。

 

二人は、離れて捜索という内容だ。

 

このまま、二人が捜索して見つかれば良いのだが。

 

『この森は、………何故か魔物が少ないです』

 

エステルが、ボソリと言葉を漏らした。

 

思えばそうだ。

 

この森は、コンフェイト大森林に比べれば、遥かに魔物が少ない。

 

『……多分。ここにも影響が及んだんだろうな。』

 

ユーリが、エステルに聞こえないようにボソリと言った。

 

『?何か言いましたか?ユーリ』

 

『いや、なんでもない。』

 

さすがに、あの事については思い出させないほうが良いだろうと思い、ユーリはそこで黙り込んだ。

 

国全てが賢者の石にされ、アスベルも石の餌食にされてしまった。あの事を。

 

ユーリは、その思い出を頭の中で振り払いながら、再び依頼をこなす仕草をした。

 

『んな事より、仕事しようぜ』

 

そう言って、また地面を見ると、エステルが少し嬉しそうな表情になった。

 

そしてそのまま、エステルも紫色に光るキノコを探すことにした。

 

瞬間、向こうの茂草から物音が聞こえた。

 

『ユーリさん!』

 

慌てた様子のアルフォンスとエミルが、こちらに近づいてきたのだ。

 

『どうした?アル』

 

アルは、疲れる実感の無い身体の為、間髪入れずに答えた。

 

『あそこに……あそこにガルバンゾ国の騎士団が!』

 

『!!』

 

一番反応したのは、エステルだった。

 

そこに騎士団が居るとすれば……。フレンが居る可能性がある。

 

フレンに、こんな顔を見られでもしたら……。

 

そう思うと、エステルの中に恐怖が湧いた。

 

ユーリは、ようやく見つけたのかという表情をしながらアルを睨みつけた。

 

『……そうか。報告に来てくれてありがとな』

 

ユーリは、エステルの聞いて思った意味とは違う意味で、アルに感謝の言葉を言った。

 

エミルは、これから先の事は聞いていない為、どうするか分からないで慌てていた。

 

『ユ…ユ…ユーリさん……。どうしましょう…』

 

『どうするも何も……何の為にアルを連れて来たと思ってる』

 

ユーリがその言葉を発した瞬間、全員がアルの方を見つめた。

 

すると、アルは『えっ』と言葉を漏らし、そのまま立ちすくんだ。

 

『ア……アルフォンスさん!お願いできますか!?』

 

『えっ!?えええっ!?』

 

これから先の事も、アルは聞いていなかった。

 

というよりも、ユーリからは

 

≪この依頼には、お前の空洞の身体が必要だ。≫

 

としか聞かれていなかったのだ。

 

驚いて当然だろう。

 

『え……ええと…』

 

アルは、答えを聞くようにユーリに目を向けた。

 

ユーリは、ただ静かに頷いただけだった。

 

『う……うん!分かった!』

 

『本当ですか!ありがとうございます!』

 

エステルは、深々とアルに礼をし、アルは遠慮がちな行動をした。

 

そう言って、エステルが一生懸命アルの鎧の腹の扉をこじ開け、中に入って行った。

 

エステルが完全にアルの中に入った瞬間、大きな衝動がアルを襲った。

 

『うわぁ!』

 

『あっ…!すみません』

 

エステルが謝罪すると、アルはいえいえと手を振って遠慮をした。

 

そもそも、この後は裏切ることになる。

 

だから。謝罪も怒りも、しょうがないものになるのだ。

 

アルが腹の扉を閉めると、ユーリの方を見た。

 

ユーリは頷いた。

 

エミルも、静かに頷いた。

 

そしてアルとエミルは、来た方向へと戻るように走った。

 

『大丈夫でしょうか……。』

 

アルが心配そうに言葉を発した。

 

『安心しろ。あいつの事は俺が一番分かってる。行動も大抵予想は出来るからよ。』

 

ユーリがそう返答すると、エステルが安堵する表情になるのが分かるような声を出した。

 

『ユーリは頼もしいです。』

 

その言葉が、少しだけ後ろめたくなる気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

歩いて10分

 

騎士団の軍団が見える所まで近づけた。

 

後は、気付いてもらうだけだ。

 

『……ユーリ?』

 

アルの中で、不安そうな声が響く。

 

『静かに』

 

ユーリが、静かな声を出してエステルを黙らせた。

 

この足音の多くに、近くに騎士団が居る事に気付いたのだ。

 

すると、エステルは息を殺すように手を口で覆った。

 

『………………』

 

ユーリは、その騎士団の軍団を良く見ていた。

 

そこに、ユーリが騎士団に居た時に見た奴も居れば、

 

新しく入ったであろう、若い騎士も居た。

 

あの双子は、会った事があるだろうが、ほとんど覚えていない。

 

まぁ、あまり興味は無いが

 

『ユーリさん?』

 

『ああ。大丈夫だ』

 

すると、エミルが足をずらし、小枝を踏んだ。

 

パキリという若い音が辺りに響いた。

 

『!』

 

近くに居た騎士団が、その場で止まりだした。

 

『何かが居るぞ!』

 

そう言って、近くに居た騎士団は、仲間を集めて剣を抜いた。

 

『ちっ!!』

 

ユーリ達は、腰を低くしながらその場から逃げ出した。

 

『追え!逃がすな!!』

 

若い声の響きが、辺りに響く。

 

『ユーリさん!』

 

『分かってる。俺の後ろに続け!』

 

そう言いながら、三人は全速力で走る。

 

アルは、中に入っているエステルを気にかけながら、少しだけスピードが落ちてしまった。

 

だが、それでも後ろの騎士団兵を遠ざけるには十分だった。

 

『これで……大丈夫でしょうか。』

 

エミルが、不安そうにそう言った。

 

『ああ。大丈夫だ』

 

ユーリが、その返事を返した直後、足音が聞こえた

 

『!』

 

こちらの存在に気付いたのか、こちらに向かってきている。

 

そして、足音が止まった瞬間、アルは後ろ退がった。

 

止まった後、しばらく時間が経ち、女性の大声が響いた

 

『隊長!!こっちに居ます!!』

 

『!』

 

『ぅぅ…!』

 

エステルのうめき声が、三人の耳に響いた

 

と同時に、三人の前に近づく駆け足が増えた。

 

『こっちだ!』

 

ユーリは、辺りに気付かれないような声で二人を誘った。

 

二人は、ユーリの声に誘われて、あさっての方向へと走った。

 

後ろに近づく音が、大きくもならず、小さくもならず。絶えず聞こえた。

 

アルとエステルは、自分が歩く物音でほとんど後ろの駆け足が聞こえなかった。

 

草を掻き分け、溢れるように生えている木を避けながら、ユーリの駆ける方向へと二人は走った。

 

すると、後ろに聞こえた足音も、徐々に小さくなっていった。

 

エステルは、物音が徐々に穏やかに成ると、安心した息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここなら大丈夫だろ』

 

ユーリはそう言って、太陽の見える崖の方へと辿り着いた。

 

沢山の花が生えているその場所で、三人は腰をおろした。

 

すると、エステルはアルの頭を取り出し、顔を出して声を発した。

 

『なんだか……大変な事になりましたですね。』

 

『しょうがねえさ。こんな所に騎士団が居るなんざぁ俺達ぁ知らなかったんだからな。』

 

ユーリのその発言に、少しだけギコチナイ表情でエミルも声を出した。

 

『そ……そうですよね。こういう時…って。滅多に遭遇しませんし、対処法も難しいですから。』

 

『紫色に光るキノコ、どころじゃなくなっちゃったね。』

 

アルのその一言で、エステルは少しだけ落ち込んだ表情をした。

 

『あっ!そ……そういう意味で言ったわけじゃないんだよ!』

 

アルがそう宥めている姿を見て、ユーリは微笑した。

 

『まぁ、いいさ。いざとなったら俺が指示してやるからよ。だから、俺達は依頼の方に専念しようぜ』

 

そう言って、ユーリは立ち上がり腰に手を当てて堂々と答えた。

 

『俺は、フレンがどう行動するかは、大体予想できるんだからよ。』

 

『僕も、ユーリがどう行動するかは、大体予想できるつもりなんだけどね』

 

『そうそう。なんたって騎士団時代では、結構一緒に居たんだぜ』

 

ユーリの後ろの木の陰に、エステルが今一番出会いたくない人が立っていた。

 

フレンの声を聞いた瞬間、エステルは身を潜めてアルの中に入ろうとした

 

『何をしようとしているのですか?エステリーゼ様』

 

フレンの淡々とした口調で突きつけられ、エステルは目に涙を潤わした。

 

そのまま、フレンに背を向けたままエステルは固まった。

 

『貴方は……!』

 

エミルが、フレンを見て少しバツ悪そうな顔をした。

 

前に、ガルバンゾの王都で襲ったのを最後に、去った相手だったからだ。

 

フレンも、その事は忘れておらず、エミルを睨みつけるように目を向けたが、

 

今は、そのような事は眼中に無く、ユーリとエステルの方向に目を向けていた。

 

『ユーリ。こんな所まで来て……一体何のつもりだ?』

 

『依頼だよ。ただのな』

 

ユーリが単刀直入に返したと同時に、フレンは大きく息を吐いた。

 

そして、改めるように言葉を出した。

 

『……ユーリ、単刀直入に言う。エステリーゼ様をこちらに渡してくれないか。』

 

その言葉に反応したのはエステルだけだった。

 

それ以外の人は、初めからそれが分かっていたかのように、そのまま固まったまま動かなかった。

 

『フレンさん…』

 

アルが、フレンの方を向いたが、大きな鎧が動くことにまだ疑問を感じていないのか、アルの事は無視していた。

 

また、鎧が喋っているとは思っておらず、別の誰かが語っているのだと考えていた。

 

『今、エステリーゼ様を解放されたら。罪を失くすことは出来ないが、減刑は考えてやろう。だから…考えてくれないか?』

 

フレンが、ユーリの元へと歩み寄る。

 

『アスベルが死んだギルドの中に、国の重要人物を置いておく僕らの身にもなってくれ。これまで私は、エステリーゼ様がお前に誘拐されたと聞いても不安でしょうがなかった。だから』

 

ユーリを通り過ぎた後、鎧の中に入っているエステルの方向へと向かう。

 

『今、無事の状態で、エステリーゼ様を確保して、安全な城の中に滞在して頂きたいのです……。それが、我々騎士団が一番望んでいる事……』

 

『でも、もし今確保されたら……監禁と同じ事になってしまうのではないですか?』

 

エミルがそう言うと、フレンは首を横に振った。

 

『しばらくは……しかし大丈夫です。その間にも、我々騎士団は、エステリーゼ様の意思を継ぎます。なんなりと命令さえしてくれれば、我々は動くのですから。』

 

『今のエステルに出来ることが出来ないお前らじゃは、多分無理だろうよ』

 

ユーリが皮肉るようにそう言った。

 

『だが……。本当に減刑とか考えてくれるってんなら、その約束忘れんじゃねーぞ』

 

『ユーリ!?』

 

ユーリのその言葉に、エステルは荒げるように声を出した。

 

フレンは、目を瞑りユーリに返答した。

 

『……礼は言わんぞ』

 

『誘拐したのは俺だしな』

 

そう言って、フレンはエステルの肩を掴んだ

 

エステルの肩が震えているのを見て、フレンは優しい微笑みをかけた

 

『さぁ、行きましょうエステリーゼ様。皆が心配なさってますよ。』

 

ゆっくりと、エステルはフレンの方へと振り向いた。

 

エステルの表情は、申し訳ない表情と、緊張と絶望が混じった物になっていた。

 

エステルの片目のアイマスクを見て、フレンは表情が固まった

 

『エステリーゼ様……?なんでしょうか?その仮面は……』

 

そう言って、フレンはエステルの悪趣味なアイマスクを取ろうと動いた。

 

だが、エステルは一瞬抵抗した。しかし、それは無駄となった。

 

『エステリーゼ様!』

 

フレンが強引に仮面を剥ぐと、目に映った光景に驚愕した。

 

『!!!』

 

片目の仮面の下には、消失した眼球、剥がされた皮膚、穴となった耳があった。

 

仮面の下だけを見ると、それは最早人間の顔には見えなかったのだ。

 

『う……うう……』

 

エステルは、ついにその場で泣き出した。

 

大粒の涙が、片方の頬だけを濡らし

 

眼球の無い目の方には一滴の水も流れなかった、

 

顔を抑え泣き出すエステルの前に、驚愕と怒りで震えたフレンの表情があった。

 

『ユーリ……これは一体どういう事だ……』

 

ユーリは、フレンの顔を見なかった。

 

『答えろ!!!』

 

フレンが大声を出した瞬間も、ユーリはビクリとも動かなかった。

 

だが、口は動かした。

 

『馬鹿をやらかした結果、相当な罰を受けた……。船に居る奴が言えば、そう言う事だ』

 

瞬間、フレンは剣を抜き出し、ユーリに向かって太刀を振り下ろした。

 

瞬間、ユーリも剣を抜き出し、フレンの剣を受け止めた。

 

『ふざけるな!これは……こんな事は……!!!』

 

『フレン、前に聞いたことがあるだろ?錬金術』

 

錬金術

 

その言葉を聴いて、フレンの表情がより一層険しくなった

 

『エステルは、その錬金術とやらを使って、人を生き返らせようとしたんだ。そんな馬鹿をやった結果、罰を受けた。これは俺がやろうが、貧乏人がやろうが、奴隷がやろうが、罰を受けるのは平等だ、同じ人間なんだから。エステルは、その罰を受けただけだ』

 

『ならば、何故止めなかった!!』

 

『お前はこうなる結果を予想していたって言うのかよ!』

 

ユーリは、受け止めていた剣を弾き、戦闘体性に入った。

 

『ユーリ!フレン!止めて下さい!!』

 

エステルが叫んでも、二人の耳にはそのような言葉は入っていなかった。

 

フレンが剣を突き刺すようにユーリに向かって突進した。

 

『ぅぉお!』

 

ユーリは、その剣を弾き、体ごとずらして、その攻撃から避けた。

 

『マジで殺る気かよ…フレン』

 

『殺しはしない。だが、うっかり殺すかもしれないな』

 

フレンの目は本気の目だった。本当の殺意が湧いていた。

 

そしてまた、剣を構えユーリに突進した

 

『容赦はしない!エステリーゼ様をこちらに引渡し、もう二度と近づくな!!』

 

『そんな顔で言うような言葉なんて、聞き入られねえな』

 

フレンの表情は、心の奥の”悪”がしっかりと滲み出ている。

 

そんな表情をしたフレンに、ユーリはエステルを引き渡したくなかった。

 

そう思い、ユーリは剣を構え、再び守りの体制に入る。

 

だが、足の踏ん張り準備を見れば、隙を突く攻撃をする事が明らかだろう。

 

その足を見て、フレンの目はより一層変わった。

 

隙を生まないような攻撃体制に入ると、ユーリの目つきも変わったのだ。

 

『喧嘩じゃねえなこれは……。殺し合いか』

 

そう呟いた瞬間、エステルが外に出て自由になったアルが反応した。

 

そして立ち上がり、二人の間に入って行った。

 

『待って!!フレンさん!ユーリさん!!』

 

一瞬、大きな鎧の姿を見てフレンは驚いた。

 

だが、その反応も遅く、フレンの剣は鎧に深く突き刺さってしまった。

 

鈍い音が、フレンの耳に響いた。

 

アルの体に剣が突き刺さったまま、フレンは固まってしまった。

 

『……………っ!!!』

 

人間を殺めた

 

その事が、フレンの頭の中でぐるぐる回った。

 

目を見開き、今自分がした事を見つめていた。

 

隊長となるものが、何てことをしてしまったのだ。

 

そう、絶望に落ちるような感覚に陥ると、同時に

 

非現実名光景が目に映った。

 

『こんな事は止めて下さい!』

 

そう言って、何事も無かったかのように鎧は剣を引き抜いたのだ。

 

しかも、その剣には血が全く付いていないのだ。

 

『…!?』

 

その光景から見えるのはただ一つ。目の前の鎧の中に何も居ないという事だ

 

『どういう事……なんだ?』

 

目に見える光景が信じられなくて、ただアルの体をまじまじと見た。

 

その様子に気が付いたユーリは、アルの体を拳で叩いてフレンの意識をこちらに引き戻した

 

『目ぇ覚めた顔してんな』

 

そう言って、ユーリは剣を鞘に戻した。

 

闘う必要が無いと判断したためか、そのまま手を下におろした

 

フレンは、ガクリと首をうな垂れ、表情が分からなくなった。

 

『フレン、簡単に自分を見失う所は、全く変わって無えんだな。』

 

ユーリがそう言うと、フレンはしばらく黙り込んだ。

 

そして、ゆらりと体を動かし、そして口を開いた。

 

『……ユーリ、お前の居るギルドというのは、本当にとんでもない所だと……僕は思う』

 

『あ?』

 

『中身が空なだけの化物……そして隣には本気で人を殺しに掛かる事の出来る者……。そしてエステリーゼ様を危険な道に導く物。アドリビドムというのはそのような者ばかりが集っているのか?』

 

フレンのその言葉に、エステルが耳を疑った。

 

今までのフレンならば、こんな事を言うはずが無いのだ。

 

聞き間違い。そう信じたかったが、そう言うわけには行かなかった。

 

エステルは、反論しようと口を開いた。

 

『フレン!なんて事を言うのです!!アドリビドムは、私たちのギルドは……そのような物ではありません!!私たちの国よりも有意義です!!私だって……』

 

瞬間、フレンの平手打ちがエステルの頬に当たった。

 

フレンにビンタされた瞬間、エステルは黙り込み、

 

しばらくして見開いた虚ろな目になった。

 

『………そのような大怪我をしておいて…何を言っておられるのですか。』

 

フレンの体が震えていた。

 

『僕は、もうそのギルドを真っ当なギルドだとは思えないんです!!そう思いたいのに……もうそう思えなくなったのです!!!』

 

本気の怒涛の声が、辺りに響いた。

 

『僕は…自分が憎いです!!騎士団の任務としても全う出来ず!!エステリーゼ様を守ることが出来なかった…!!今、私が一番許せないのは自分なのです!その自分を反省すべきに、自然とそのギルドが悪式に思えてくるのです!!』

 

アルとエミルが、深く傷付いたような様子になった。

 

ユーリは、ただ怒涛の声を叫んでいるフレンを眺めているだけだった。

 

『ですから……ギルドの事を思うなら、国の事を思うなら、民衆、人間、国を思う気持ちに私も含まれているなら……お願いします。これ以上私を苦しめないで下さい……。』

 

深くお辞儀をし、歯を食いしばるように声を出した言葉は、エステルの心に深く突き刺さった。

 

フレンのその気持ちが、エステルの心の中にひしひしと伝わってくるからだ。

 

そのフレンの言葉を聴いて、エステルは何も言えなくなっていた。

 

フレンの気持ちを思うなら、城に戻ったほうが良いだろう。

 

しかし、エステルは

 

『まだ……私にはやるべき事があるんです…。』

 

申し訳なさそうに、答えを苦し紛れに答えた。

 

その答えを聞いても、フレンは何も言わなかった。黙り込んでいた。

 

フレンは顔を上げた。何の感情も無い、完全なる無表情となっている顔だった。

 

『………………』

 

何も、答えなかった

 

そして、静かにエステルに背を向けて、歩き出そうとした。

 

『………』

 

その表情に、どこか悲しみを感じ、エステルの表情も沈んでいた。

 

瞬間、草の茂みから騎士団の一員と思われる青年が現れた。

 

『隊長!!』

 

その者は、とても慌てている様子でこちらまで走り寄ってきた。

 

『引き上げだ。隊を集めて城に戻るぞ』

 

冷たいようにフレンは青年にそう告げた。

 

青年は、その言葉の意味が理解できたようだが、納得は出来ずに首を大きく横に振っていた。

 

『そうじゃないんです!!』

 

そう言って、フレンを手招きして先ほど来た場所へと戻って行った。

 

『どうした!?』

 

異常事態が発生した物を見るように、フレンは青年の後に続いた。

 

また、ユーリ達もその異常事態を放っておくことが出来ず、フレンの後へ付いていった。

 

『大変なんです!隊が……隊の半数以上が!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の入り口付近で見たものは、目を疑うような光景だった。

 

『………!!』

 

そこにあったのは、先ほど元々は人間の形をしていた騎士団員だった。

 

今は、人の形をしていない。

 

鋭利な物で切り刻まれ、ハムのようになっている部分が多い。

 

さらに、人間の中にあったであろう。消化器官や目玉が転がっていた。

 

中には、骨と肉片と体毛なども散っていた。

 

『うっ………』

 

思わず、目を背けたくなる光景だったが、フレンはその光景を真っ直ぐ目に焼き付けた。

 

アルとエミルは、とても見ていられずに目を思い切り逸らして見ないようにしていた。

 

『ぅぅ……ぅ…』

 

エステルは、その場で吐いてしまった。

 

『エステリーゼ様!』

 

フレンが、エステルの体を気遣い、エステルの元へと歩み寄った。

 

だが、エステルは手を突き出して感情を表現した。

 

『大丈夫……です。』

 

その表現に、フレンは押されるように身を引いた。

 

そして、そこに転がっている人の形をしていない死屍累々を見つめた。

 

血の臭いが、充満する

 

『これはひでぇな……。一体誰がやりやがったんだ』

 

ユーリが、顔をしかめてそう答えた。

 

すると、今度は向こうから悲鳴が聞こえた。

 

≪キャ!!!≫

 

と同時に、肉と骨が切られる音が響いた。

 

『!!あそこだ!!!』

 

フレンは、音の鳴った方に全速力で駆けつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『こっちよ!!ヒスカ!早く………』

 

シャスティルは、先ほどの攻撃で右脚を失った妹のヒスカの腕を担いで、”敵”から逃げていた。

 

その敵は、思えば何の躊躇も成しに私たちの仲間を殺し、反撃の隙も突けなかった私たちは、いつの間にか二人になっていた。

 

草している間にも、後ろからは”敵”がこちらを狙いに来ている。

 

嫌だ。死にたくない。

 

『………っ!』

 

気がつけば、口の中が血の味がする。

 

”敵”に、何度も斬られてたからだろう。

 

『………シャス……ティル……』

 

かすれたような声で、ヒスカはシャスティルの背中に語りかけた。

 

『喋らないで!体力が消耗するわ!』

 

『それは……それで良いと思わない?』

 

ヒスカのその言葉に、理解するのは遅くなかった。

 

『私は……何も聞こえないわよ』

 

『私が居なくなれば……シャスティルが逃げられる……可能性が高くな…』

 

話している途中で、シャスティルはヒスカの腹を肘で殴りつけた

 

『ぐへっ!』

 

『良いから黙ってろ!!』

 

そう言って、ヒスカは前へ前へ進んで行った。

 

後ろの足音から逃げるように、必死に、必死に逃げるように。

 

そして、足音が鳴り止んだ。

 

鳴り止んでからしばらく歩いたが、異変に気付き、シャスティルは振り向いた。

 

後ろには、ピンクの髪の少女が、血まみれで剣を持ちながら笑顔でこちらを見ていた。

 

『待ってよー。』

 

無邪気の声が、恐怖に脳裏の中に響いた。

 

『逃げて!!』

 

ヒスカは、精一杯の力でシャスティルを押した。

 

だが、すぐに駆け寄ってヒスカの腕を掴んだ。

 

『馬鹿言わないでよ!!妹を見捨てる姉が居てたまるものか!!!』

 

『良いから早く……!!!』

 

こうしている間にも、ピンクの紙の少女がこちらに近寄ってくる。

 

笑顔で、まるで公園で無邪気に遊んでいる子供のように、

 

それを見て、ヒスカはガタガタ震えだした。

 

『ヒスカ!!!』

 

シャスティルは、再びヒスカの腕を握って走り出した。

 

ヒスカは、引きずられるように、走るペースが遅くなっていた。

 

『早く!!走って!!』

 

片足だけでも、早く動かしてくれないと、二人とも殺されてしまうだろう。

 

ヒスカの脳裏には、目の前で肉片になった仲間たちが写った。

 

『嫌だ……』

 

足が、思うように動かない。

 

遅い。だんだんとまた足音が近づいてくる。

 

近づけば近づく程、肉片の映像が鮮明になる。

 

吐き気を催し、走りながら吐いてしまった。

 

涙が、止め処も無く流れる。

 

『嫌だ……嫌……死にたくない……』

 

引きずられながら、ヒスカは呟いた。

 

同時に、更に片足で跳ねながら動くスピードが早くなった。

 

だが、それでも追いつかれるだろう。

 

少女の足は、不気味なほど遅くもなれば、早くもなるのだ。

 

捕まるのも、少女の掌で踊っているに過ぎない。

 

『ヒスカ!!早く!!ヒスカ!!』

 

『うわああああああああああ!!!』

 

瞬間、ヒスカの足が無くなった。

 

左足も、切り落とされたのだ。

 

支える物が無くなったヒスカの身体は、吸い込まれるように地面に落ちた。

 

『あ……』

 

その姿を見て、驚愕したシャスティルは、その場で膝から崩れてしまった。

 

ヒスカはまだ生きてはいるが、精神的にもボロボロであり、言葉を出すことすらままならなかった。

 

ヒスカの両足を切り落とした少女は、ニコニコ笑顔でこちらを見ている

 

『殺すなら私も殺しなさいよ……。私も……』

 

シャスティルは、涙を流している目で少女を睨みつけた。

 

『うん!』

 

少女は、素直に答えた。

 

その返答には、絶望さえもあったが、同時に安堵感があった。

 

そして、倒れたヒスカの服を握るように掴んだ。

 

『駄目………逃……げ…て………』

 

息を吐いているだけかのような声で、ヒスカはシャステルに告げた。

 

だが、シャスティルは動かなかった。

 

『じゃぁ、行っくよー?』

 

少女は、剣を振り上げた。

 

あと二秒でシャスティルは死ぬであろう。

 

シャステルは、この二秒の間に色んな事を考えた。

 

幼少時代に、姉妹一緒に遊んだことや

 

騎士団に入るまでに稽古したこと。

 

ずっと、ずっと騎士団に入る為に努力を続けてきたのだ。

 

だけど、この少女のせいで、全てが無駄になる。

 

無駄だったのか。と失望した感情が全身に流れた、

 

そして、剣が振り下ろそうとされた。

 

瞬間、地面が発光した

 

『!?』

 

発光した地面が、土を利用して硬い壁を作りだし、少女の剣から姉妹を守った。

 

剣と壁が弾かれる音が響く。

 

『間に……合った?』

 

アルの、救出の疑問の声が響いた瞬間、シャスティルは後ろに振り向いた。

 

そこには、どこか見た事のある者も居た。

 

『シャスティル!!ヒスカ!!!』

 

フレンの叫ぶ声が、二人の姉妹の耳に入った。

 

そして、その隣にユーリが居る。また隣に、仲間と思わしき者も居る。

 

瞬間、シャスティルは”助かった”という感情が芽生え、ヒスカを抱えて、そちらへと駆け寄った。

 

『フレン隊長!ユーリ!!』

 

『おい、……何があったんだ。ヒスカに』

 

ユーリが、両足を失っているヒスカを見て、表情が真剣になっていた。

 

そして、恐怖に怯えるシャスティルを見て、向こう側を見た。

 

そこには、血まみれのピンクの髪の少女が居た。

 

『………白いカノンノ…!』

 

エミルとユーリが、その姿を見て戦闘体性に入った。

 

『知り合いなのか?』

 

『あいつに……俺達ギルドの野郎がやられたんだ!』

 

エミルの目が赤くなったと同時に、体制と口調が変わった。

 

エミルの言葉を聴いて、フレンも目の色を変えた。

 

『エステリーゼ様!離れていてください!』

 

フレンが鞘から剣を引き抜くと、フレンの戦闘体性に入った。

 

だが、完全に入る前に白いカノンノはこちらまで駆け寄ってきた。

 

『!!』

 

『危ない!!』

 

青年が、剣を引き抜いて動き出したが、

 

剣が青年の胴体にぶつかり、青年の身体は二つに分かれた。

 

『ジャーン!!!』

 

フレンは、青年の名前を叫んだ。

 

『うららららぁあ!』

 

狙いはアイヒープ姉妹だったが、その前にアルが動き出した。

 

『危ない!!』

 

そう言って、アイヒープ姉妹を庇うと、白いカノンノの剣がアルの体を貫いた。

 

『ひぃ!!』

 

串刺しになったアルを見て、アイヒープ姉妹は小さな悲鳴を上げた。

 

だが、白いカノンノはつまらなそうな顔をしている。

 

アルが、突き刺さった剣を握ると、白いカノンノの動きを封じた。

 

『むー!!離して!!!』

 

白いカノンノが、その体にあるとは思えない程の力でアルから剣を引き抜こうとすると、鈍い音と共に剣は徐々に引き抜かれようとした。

 

『今だ!!』

 

アルがそう叫ぶと、エミルとユーリが一斉に白いカノンノへと向かって剣を振り上げた。

 

『ぐふっ!』

 

瞬間、アルから思い切り剣が引き抜かれ、引き抜かれた剣でユーリとエミルの攻撃を防いだ。

 

『フレン!!!』

 

ユーリが叫ぶと、すぐさまにフレンは白いカノンノに向かって剣を突き刺そうとした。

 

だが、突き刺そうとした瞬間、白いカノンノは剣を振り回した。

 

『!!』

 

剣を握っていたフレンの三本の指が、切り落とされた。

 

『いやぁぁあああああ!!!』

 

エステルの悲鳴が、辺りに響く。

 

アイヒープ姉妹は、それ以前に目の前の光景が信じられなかった。

 

『何よ……これ……』

 

風穴となった鎧の中が、一切空っぽなのだ。

 

中に何も入っていない。

 

何一つ、存在していない。

 

まるで鎧そのものが、意識を持っているか

 

透明人間が操っているかのように。

 

『大丈夫!?』

 

そのくせ、突き刺さっていたにも関わらず、鎧はピンピンしているのだ。

 

『あんた……何者よ?』

 

シャスティルが、アルにその存在を問うと、アルは俯きながら答えた

 

『今は、そんな事を言っている場合じゃないよ。』

 

そして、代弁するように遠くに居るユーリが答えた

 

『人間だ!そいつも。魂は本物のな!』

 

そう言って、白いカノンノの攻撃を防いでいた。

 

だが、シャスティルはどうしても信じられなかった。

 

目の前にある、中身が空の鎧が動くなど、常識ではほとんど信じられないからだ。

 

『大丈夫…。ちゃんと守ってあげるから。』

 

声は、まだ幼い。

 

だけど、大きな背中が、アイヒープ姉妹を心強くさせた。

 

いつの間にか涙は止まっていて、シャスティルはヒスカの手を強く握っていた。

 

『うるぉおおおおおおおおお!!!』

 

閃空列波を行い、大車輪の如く体ごと剣を振り回したエミルは、

 

白いカノンノに向かい、恨みを晴らすべく突進した。

 

だが、それも空しく剣で止められようとした瞬間、

 

エミルは閃空列波を途中で止めた。

 

『?』

 

『剛・魔神剣!!!』

 

エミルは、叩きつける様に、魔力の溜まった剣を強く地面に向かって振り下ろし、白いカノンノを巻きぞえるように落ちた。

 

瞬間、ようやく白いカノンノはまともにダメージを負った。

 

白いカノンノの口から、一滴の血が流れ出したのだ。

 

だが、

 

『ドゥグ!!』

 

まだ体力は残っているようで、

 

蹴飛ばされたエミルは派手に吹っ飛んだ。

 

『これでも喰らえクソっタレ!!!』

 

ユーリは、その隙に剣を再び振り下ろした。

 

だが、それも白いカノンノの靴の金具で受け止められた。

 

そして、白いカノンノは一回転して、体制を立て直した。

 

『じゃぁ、次はもう少し思いっきりやるね!』

 

そう言って、床に深く刺さっている剣を造作も無く引き抜いた。

 

『!!』

 

まるで、かなりの力を簡単に使ったかのように。

 

『エステル!!』

 

ユーリの叫びと共に、エステルは目を見開き、手を叩いた。

 

すると、白いカノンノはエステルの方を睨みつけた。

 

『!!』

 

その様子をフレンが見ると、急いで駆け寄った。

 

だが、白いカノンノの足には間に合わない。

 

『エステリーゼ様!!』

 

瞬間、エステルは地面に手を置いた。

 

すると、自動的に地面が発光し、そこから不恰好の壁が作られた。

 

『!!!』

 

不慣れで、不完全の為、簡単に剣が突き刺さったが、一瞬の動きを止め、逃げるには十分だった。

 

『練成陣なしで……練成を…』

 

ユーリが、感心するようにエステルを見つめた。

 

だが、一番驚いているのはエステルだった。

 

師匠の技を、奇跡的に出来ない物かと考え、

 

咄嗟に、何も考えずに、ただ、無謀に自分の身を守る為に、無駄なことをやっただろうと考えていたからだ。

 

だが、それは良い方の裏目に出た。

 

エステルの錬金術は、まだ不完全に、完全に理解していないにしろ、

 

練成陣なしで錬金術を使えるようになったからだ。

 

『ユーリ!』

 

その嬉しさに、エステルは自然と笑顔になり、ユーリを見つめた。

 

『エステル!左だ!!』

 

ユーリがそう言うと、ユーリから見て右から白いカノンノがエステルを襲おうとしていた。

 

だが、また瞬間的にエステルは手を叩き、錬金術で壁を発動させた。

 

すると、今度は先ほどよりも強度が強くなり、剣が刺さったにしろ、完全には切れなかった。

 

『エステル……。』

 

その成果を見て、アルは逆に少しだけ切なくなった。

 

これが出来るようになったのは、あの”トラウマ”が原因だからだ。

 

真実を知れば、またエステルは苦しむことになるだろう。

 

だが、今はそれが”希望”に繋がる

 

『良いぞ!エステル!!』

 

ユーリはそう言って、剣が突き刺さって、引き抜こうとしている隙を突いて、突進した。

 

『お?』

 

『油断大敵、喰らえ!!』

 

そう言って、ユーリは剣を白いカノンノに向かって振った。

 

白いカノンノは、その太刀を避けたが、頬に少しだけ深い傷を負った。

 

離れたところまで行った所で、白いカノンノは立ち止まり、

 

そして、思い切りの笑顔を全員に見せた。

 

その笑顔の不気味さに、ユーリとフレン以外の全員は後ろへと退がった。

 

『ひゃははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっははははははははははははははっははははっはははっははははっははははははははっはあっはははははははは』

 

笑い声と共に、白いカノンノはエステルに駆け寄った。

 

『!!』

 

『エステル!!』

 

ユーリが、エステルの前に行こうとしたものの、

 

『ぐはっ!!』

 

肘うちを喰らい、ユーリは吹っ飛ばされてしまった。

 

樹木に身体を打ち、立ち上がるのに時間を要した。

 

『エステルさん!!』

 

次に、アルが錬金術を用いてエステルの前に壁を作り出した。

 

だが、エステルの作る壁とは比べ物にならないくらいの強度にも関わらず、剣一振りで簡単に崩れてしまった。

 

『させっか!!』

 

エミルが太刀を振り、白いカノンノの太刀を受け止めようとした瞬間、

 

エミルの剣は、何の耐えもせずに簡単に壊れてしまった。

 

『………!!』

 

有様を見たエミルは、その場で足が動かなくなった。

 

『ひぃい!』

 

エステルは、自分の身を守るように、錬金術を使って目の前に壁を作り上げた。

 

だが、それも空しく崩されるだろう。

 

『エステリーゼ様!!!』

 

壁が壊されようとした瞬間、フレンがエステルの前に立った。

 

そして壁が崩れた瞬間、剣が真っ直ぐエステルに向かって伸びた。

 

剣は、フレンを貫いた。

 

『………………っ』

 

エステルは、その光景に驚愕した。

 

目の前で、フレンが死のうとしているのだ。

 

『お怪我は……ありませんか?』

 

フレンがそう言うと、エステルは静かに頷いた。

 

すると、フレンは優しく微笑んだ。

 

つまらなそうな顔をした白いカノンノは、剣を引き抜こうと腕を引っ込めたが、

 

それをフレンが許さなかった。

 

フレンは、剣を指が切り落とされていない方の腕で掴んでいた。

 

『逃がさん……ぞ!!』

 

だが、白いカノンノが完全に無表情になった瞬間

 

剣は強い力で完全に引き抜かれた。

 

『………ぁ…』

 

フレンが小さく声を出した瞬間、放たれたようにエステルは悲鳴を上げた。

 

『ぃいやぁあああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

『ぅうらぁあああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

瞬間、ユーリが白いカノンノの隙をついて突進した。

 

『ん?』

 

無表情の時は、大分鈍くなるようであり、ユーリの剣は白いカノンノを貫いた。

 

『エミル!!』

 

『ぉおらぁあああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

エミルは、白いカノンノの背中の真ん中に、持っていたスコップを突き刺し、地面に叩き付けた。

 

『アルフォンス!!』

 

『はい!!』

 

アルは、白いカノンノの周りを練成し、管状の物体を練成して白いカノンノを縛り付けた。

 

足、手、首、そして風穴にさえも管を通し、

 

ついに動けなくなった白いカノンノを囲んだ。

 

ユーリが、動けなくなっている白いカノンノを見て、剣を向けた。

 

『報いろ。お前が死んでも、俺は絶対にお前を忘れない。』

 

そして、ユーリは思い切り剣を白いカノンノに突き刺した。

 

まるで、剣で魔物を封印するかのように。

 

『あはっ』

 

白いカノンノは、悲鳴を上げるどころか、喜びの笑みを浮かべた。

 

その笑みに、ほとんどの者は不愉快を覚えたが、

 

それも、一瞬で別の感情に変わった。

 

『!』

 

白いカノンノが、溶けているのだ。

 

いや、”地面に飲み込まれていく”という方が正しいだろうか。

 

とにかく、このままではまた、白いカノンノを逃がすことは明らかだった。

 

『待ちやがれ!』

 

エミルが白いカノンノの腕を掴んだ、

 

だが、それも地面に吸い込まれてしまった。

 

エミルの身体は、当然ながら地面に吸い込まれなかった。

 

『…………っ!!』

 

殺人少女の痕跡は消え、

 

その場所には、ただ悔しさと恨み、最後に恐怖だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フレン!!しっかりしろ!!フレン!!』

 

ユーリが、風穴の開いたフレンを掴むと、フレンの目は虚ろになっていた。

 

『フレン!死なせません……フレン!!』

 

エステルは、治癒術でフレンの傷を癒そうと全力を出していた。

 

まだ、完全でない錬金術を使うよりも、確実である治癒術を使うほうが懸命だと考えたからだ。

 

『隊長!!命令を!!………隊長…!』

 

シャスティルも、ヒスカを担ぎながら一生懸命フレンに声を駆けていた。

 

すると、フレンも少しばかりは回復したのだろうか。声を出せるようになった。

 

『……………ユー……リ…』

 

今にも消えそうな、その声は、ユーリをより一層心配させた。

 

『ユー……リ………すま……ないが、』

 

フレンの声が、徐々に辛くも発せられた。

 

『…この……森で……ま…だ……生き…の……こっ………て……いる……者…が……居な……いか……グフッ!!グフッ!!……探して……くれ』

 

その言葉に、ユーリは呆れと怒りを同時に抱いた。

 

『お前……今、自分がどうなっているのか分かっているのか!?』

 

『僕…の……心配……を……して……いる暇は……無い。』

 

『フレンさん!!』

 

その、自分を全く大切にしない精神に焦りが生じた。

 

『隊……長!』

 

ヒスカも、苦し紛れで声を出した。

 

『ま……だ…生き……て……いる……者も……居る……。だか……ら……』

 

『フレン!喋らないで下さい!』

 

エステルが、必死の形相でフレンに言葉を発した。

 

すると、フレンは安らかな表情になり、そして目を閉じた。

 

全く動かなくなり、エステルは急激に不安になった。

 

『フ…フレン?』

 

エステルが声を出しても、返事が来ない。

 

ユーリがフレンの脈を測ると、首を横に振った。

 

『安心しろ、眠っただけだ。だが……このままだとマズイな…』

 

生きている事を知っても、誰も安心はしなかった。

 

『ユーリさん!』

 

エミルが、慌てるように、頼るようにユーリに言葉を出した。

 

『アル!』

 

ユーリがそう言うと、アルは頷いてフレンを抱えた。

 

そして、今まで居た場所に背を向け、アイヒープ姉妹に目を向けた。

 

『戻る場所は、分かるな?』

 

ユーリがそう言うと、シャステルはヒスカを抱えたまま、大きく頷いた。

 

『ええ。今の騎士団ならそれくらい出来るわよ。』

 

”今の”を加える辺り、少しだけユーリを皮肉っているようだ。

 

すると、シャステルは元来た場所へと戻っていき、ユーリはシャステルの後を追った。

 

『急ぐぞ!!王都に戻るんだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士団の集合場所は、血と肉片でまみれていた。

 

どこにも、生きている人間が居ないと分かるくらい、静かだった。

 

どれも、人の形をしていない。もし生きていたとしても手遅れだろう。

 

騎士団を引っ張っていた馬も、全滅していた。

 

『うっ………!』

 

血の匂いが充満する中で、シャステルは全員を見た。

 

そして、ユーリが呟いた。

 

『本当に酷えな……。いくらなんでも……』

 

終末の日の前にも関わらず。

 

と言おうとしたが、言えなかった。

 

シャステルは、地に落ちている血を見つめた。

 

髪の色、パーマ具合から分かる事があった。

 

先輩と慕ってくれていたパリス。グレイトン。スリス。

 

ジョニール。バーバガス。シャロン。レノア。ブロサム……。

 

『生きている騎士団員って……。どうやって見つけるんですか?探している間に……フレンさんは…多分手遅れに……。』

 

アルがそう言うと、シャステルは説明するように、無表情で答えた。

 

『集合する為の笛があるのよ。』

 

そう言って、血まみれになっている馬車の中から、ほら貝のような笛を取り出した。

 

『まだ……使ってたんだな。その笛』

 

ユーリがそう言っても、シャスティルは何も言わなかった。

 

その行為が、分かっていたのか、ユーリもそれ以上何も言わなかった。

 

アルも、フレンを抱えたままずっと立ち止まっていた。

 

恐らく、フレンもそれを望んでいるだろうから。

 

その笛を握り締め、後ろに振り向いた。

 

『ガルバンゾ!!全12隊!!集合!!』

 

そう叫んで、笛を吹いた。

 

その笛は、おそらく森林全てに響き渡るであろうほど大きな音だった。

 

鳴り終わった後、しばらく待った。

 

だが、誰も来なかった。

 

もう一度笛を吹いた。

 

だが、誰も来なかった。

 

こちらに来る、足音さえも聞こえなかった。

 

もう一度吹いた。

 

誰も来なかった。

 

『ガルバンゾ!!全12隊!!集合!!』

 

もう一度叫び、笛を吹いた。

 

誰も来なかった。

 

もう一度吹いた。

 

誰も来なかった。

 

『………!!!12…隊!!集合……!!』

 

笛を吹いた。

 

誰も来なかった。

 

足音も聞こえなかった。

 

時間が経っても、誰も来なかった。

 

シャステルの目に、涙が浮かんだ。

 

その光景を見ていたエステルも、泣いた

 

切なくて、残酷で、恨めしくて

 

悲しくて、怖くて、怒りに震えて

 

涙がずっと、止まらなかった。

 

もう一度笛を吹いた。

 

誰も来なかった。足音が聞こえなかった。

 

『集合……!!集合…!!集合!!集合!!集合!!しゅうごう!しゅうごう………』

 

声が、上手く出せなくなった。

 

涙が止まらなかった。

 

足音は、聞こえない。

 

シャスティルは、もう笛を吹くのを止めた。

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かなり久しぶりの更新です。本当にすみませんでした。
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