サテライトウィッチーズ 第五話
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 第五話「俺も一緒だ!」

 

 

8月16日の夜、ガロードは芳佳、美緒、ミーナと共にブリタニアの本部にいる上層部の元から、輸送機に乗って501の基地に帰還途中だった。

 

 

 

「むう〜……」

 

ふと、ガロードは向かい合うように座っていた美緒が不機嫌そうな声を出している事に気付き、彼女に声を掛けた。

 

「なんだもっさん? 随分と機嫌悪いじゃねえか」

「上層部の奴らが態々呼び出しておいて何かと思えば、予算の削減だなんて聞かされたんだ、顔にもでるさ」

 

そう言って美緒は腕組みをしながら、ムスッと口を尖らせていた。

それに呼応するように、ガロードもへらへら笑いながら先ほどのブリタニア軍上層部とのやりとりを思い出していた。

 

「俺もさりげなくDXよこせって言われちゃったぜ、あいつら態度があからさますぎるんだよなあ」

「でもすごいよねガロード君、言葉巧みに誤魔化してDXを守るなんて……」

「まあね! 交渉術には自信があるのさ!」

 

感心する芳佳に対し、胸を張ってえへんと胸を張るガロード。

それを見ていたミーナは自分なりの見解を含めた補足を加える。

 

「彼らも焦っているのよ、いつも私達に戦果をあげられてはメンツに関わるし……自分達でも操縦できるかもしれないDXを是非とも欲しいと思っているのよ」

(無理だと思うけどね……アレがなけりゃ)

 

ガロードは胸のポケットの中に隠しているある物に触りながら、上層部らの企みが通じない事に自信を持っていた。

そして美緒とミーナはさらに話を続ける。

 

「連中が見ているのは自分達の足元だけだ!」

「戦争屋なんてあんなものよ、もしネウロイが現れていなかったら、あの人達……今頃は人間同士で戦い合っていたのかもね」

「さながら世界大戦だな」

 

そう言って美緒は上層部への侮蔑をこめた笑みを浮かべる、それを見ていたガロードは自分の世界で起こった戦争の事を思い出した。

 

(そっか、ここにはネウロイがいるから人間同士で戦うことは無いんだ、じゃあ俺達の世界のような事は起こらないのか……? まるでネウロイが人間同士の戦争を阻止しているみたいだ)

「ガロード君? どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 

芳佳に話しかけられ思考を中断するガロード、そして彼は何気に輸送機の窓から外を眺めた。

 

その時……。

『ララーララー……』

 

突如機内に、清らかな水のように透き通った美しい歌声が響き渡った。

 

「……? 歌声……?」

「坂本さん、何か聞こえませんか?」

「ん? ああ、これはサーニャの歌だ、基地に近づいたな」

「私達を迎えに来てくれたのね」

 

美緒とミーナに目線で窓の外を見るように促されて、芳佳とガロードは外にいるサーニャの姿を確認する、そしてそのまま窓の外のサーニャに向かって手を振った。

 

「ありがとうサーニャちゃん!」

「すげえな! 歌上手いじゃん!」

『……! ラ……ララーララー……』

 

するとサーニャは恥ずかしそうに頬を赤く染めて、そのまま雲の中に潜りこんでいった。

 

「あらら、雲の中に入っちゃったよ」

「サーニャちゃんって照れ屋さんですよね」

「うふふ、とってもいい子よ、歌も上手でしょ……あら?」

 

その時ミーナはサーニャの歌が中断したことに気付き、彼女に確認を取る。

 

「どうしたサーニャ?」

『誰かこっちを見ています……』

「報告は明瞭に、あと大きな声でな」

 

美緒に指摘され、サーニャは声色をふわふわしたものから、はっきりとしたものに切り替えた。

 

『すみません、シリウスの方角に所属不明の飛行体、接近しています』

「ネウロイかしら……?」

『はい、間違いないと思われます、通常の航空機の速度ではありません』

「私には何も見えないが……」

 

美緒は右目の魔眼でネウロイの位置を確認しようとするが、うまくいかなかった。

 

『雲の中です、目標を肉眼で確認できません』

「そう言うことか……」

「おいおいこれってかなりやばいんじゃないの!? 俺達戦えないしサーニャだけ戦わせるのは……!」

「ど、どうすればいいんですか!?」

 

敵が近付いている事を知り動揺するガロードと芳佳、対して美緒は至って冷静だった。

 

「どうしようもないな」

「そんな!」

「悔しいけどストライカーが無いから仕方がないわ……は!? まさかそれを狙って!?」

 

ミーナの考えに、美緒は首を振って否定した。

 

「ネウロイがそんな回りくどいことなどしないさ」

『目標は依然、高速で接近しています、接触まで約三分』

「サーニャさん、援護がくるまで時間を稼げればいいわ、交戦はできるだけ避けて」

『はい』

 

そう言ってサーニャは自分の武器であるフリーガーハマーを構え、そのままネウロイがいる方角に向かって飛んでいった。

 

『目標を引き離します!』

「無理しないでね!」

「よく見ておけよ」

「は、はい……サーニャちゃんにはネウロイがどこにいるか判るんですか!?」

 

芳佳の質問に、美緒は自信満々といった様子で答えた。

 

「ああ、あいつには地平線の向こう側にあるものだって見えている筈だ」

「へえー……」

「それでいつも夜間の哨戒任務に就いてもらっているのよ」

「お前の治癒魔法みたいなもんさ、さっき歌を聴いただろう? あれもその魔法の一つだ」

「歌声でこの輸送機を誘導していたのよ」

 

サーニャの能力の詳細を聞いて、ガロードは自分がよく知る能力の事を思い出す。

 

(まるでニュータイプみたいだな……もしかしてサーニャ、サテライトシステムを動かせたりして?)

 

 

 

一方サーニャは、ネウロイの位置を特定しフリーガーハマーの引き金を引いた。

 

「……!」

 

フリーガーハマーから放たれた数発の弾は、そのまま雲の中にいると思われるネウロイの予想位置に着弾し大きな爆発を起こす、しかし……。

 

「反撃して……こない?」

 

弾が当たっていないのか、ネウロイが撃墜された様子はなかった。

 

『サーニャ、もういい戻ってくれ』

「でも……まだ……」

 

息も絶え絶えにまだ戦える事をアピールするサーニャ、しかしミーナ達はそれを聞き入れなかった。

 

『ありがとう、一人でよく守ってくれたわ』

「はい……」

 

そしてサーニャはネウロイ撃墜をあきらめ、美緒達の指示に従い輸送機と共に戻っていった……。

 

 

すると彼女達の前方から、援護にやってきた他のウィッチ達が飛んできた。

 

「サーニャ!」

「エイラ……」

 

そしてエイラが真っ先にサーニャの元に駆けつけ、彼女の身の安全を確認する。

 

「大丈夫か? どこも怪我していないか?」

「うん、平気……」

『おうおう、仲いいじゃん二人とも』

「うっせ、からかうなよ」

 

茶化してくるガロードに対し、エイラは舌をべーっと出して反撃した……。

 

『ガロード君、エイラさんと仲いいね』

『まあな、基地に来た時初めて会話したのがエイラだったから……』

「鉄格子越しだったけどな〜」

 

 

 

それから一時間後、ブリーフィングルームに集まった芳佳達ストライクウィッチーズ全員とガロードは、先ほどサーニャが撃墜しそこねたネウロイについて話し合っていた。

 

「それじゃあ今回のネウロイはサーニャ以外誰も見ていないのか?」

「ずっと雲に隠れて出てこなかったからな」

「けど、何も反撃してこなかったっていうけど、そんな事あるのかな? それ本当にネウロイだったのか?」

「……」

 

エーリカの指摘にサーニャは俯いてしまう。

 

「恥ずかしがり屋のネウロイ……なんて事ないですよね、ごめんなさい……」

「だとしたら、ちょうど似た者同士気でもあったんじゃなくて?」

「……べー」

 

リーネの言葉を使ってサーニャを皮肉ったペリーヌに対し、エイラはちょっとむっとしたのか彼女に対して舌をべーっと出した。

 

「ネウロイとは何か……それがまだ明確に判っていない以上、この先どんなネウロイが出ても不思議ではないわ」

「仕損じたネウロイが連続して出現する確率は極めて高い」

「そうね、そこでしばらくは夜間戦闘を想定したシフトを組もうと思うの、サーニャさん」

「はい」

「宮藤さん」

「は、はい!」

「それとガロード君……ガロード君?」

 

ミーナに名前を呼ばれて返事をする芳佳とサーニャ、しかしガロードの返事が返ってこず、一同は部屋の隅でしゃがみ込んでいる彼に視線を集中させる。

 

「しっかりしろガロード・ラン……! 正気を保つんだ……!」

 

よく見るとガロードは何故か目を血走らせ、芳佳達の姿を見ないよう背を向けていた。

実は芳佳達の殆どは風呂上がりでかなりラフな格好……つまり薄着であり、ガロードはそんな桃源郷を気恥ずかしさから直視できず、必死に冷静を保とうとしていたのだ。

 

「おいおい、本当にウブだなガロードは……それ!」

 

そんなガロードを見て、シャーリーは後ろから抱きつき、自分の豊満な乳房を彼の頭に載せた。

 

「のわああああああ!!? やめろってー!!」

 

ガロードはシャーリーのハグ攻撃から逃れようと暴れるが、胸と腕でうまい具合にホールドされていて抜け出せなかった。

対してシャーリーは意地悪く笑いながらガロードの頭を拳でぐりぐりする。

 

「なんだこのぐらい〜? この前私の生まれたままの姿見たくせに〜?」

「ぶっ!!?」

 

ガロードはこの前の作戦の(第四話参照)どこぞのラッキースケベも真っ青なハプニングを思い出し、大量の鼻血を噴出し、床を紅に染めた。

 

「こらリベリアン! ガロードに何をしておるか!」

「そそそそうですわ! そんなの卑怯ですわ!」

 

その様子を見てバルクホルンとペリーヌが止めに入る。ちなみにルッキーニは現在爆睡中なのでいつものように文句を言ったりはしない。

 

「ああん? 別にいいだろ、なんでお前らが文句言うんだよ?」

「そ、それは私がガロードの姉代わりだからだ!」

「いつのまに姉になったのトゥルーデ!?」

 

バルクホルンとガロードの意外な関係に驚くエーリカ。

 

「わ、わたくしはただその……ガロードさんが他の女性といちゃいちゃしているところ見たくないというかその……ごにょごにょ……」

(ペリーヌさん……いつの間にガロード君をさん付けで呼ぶようになったんだ……)

 

芳佳はあれだけ喧嘩していたペリーヌとガロードが仲良くなっている事に驚いた。

そして三人はガロードを巡って言い争いを始める。

 

「とにかく! ガロードをたぶらかすのはやめろ!」

「別にいいだろ〜、それにガロードは固物なカールスラント軍人より私の柔らかい胸のほうが好みなんだよ」

「きぃー! 女性の魅力は胸では決まりませんわ! やはり気品と上品さを兼ねそろえているワタクシが……!」

 

 

「な、なんだかとんでもないことになっているね……あれ? リーネちゃん?」

 

三人のやり取りを距離を置いて見ていた芳佳は隣にいたリーネに話しかけようとしたが、彼女がいつの間にか居なくなっている事に気付く。

 

 

「ふにゃあ〜」

「うふふ、大丈夫ガロード君?」

 

リーネはいつの間にか鼻血を出して倒れていたガロードを膝枕で介抱していた。俗に言う漁夫の利って奴である。

 

 

((((く、黒い……!!))))

 

芳佳、サーニャ、エイラ、エーリカはそんなリーネの抜け目の無さに戦慄する。

 

「あ! こらリーネ!」

「抜け駆けはゆるしませんわ!」

「というか私にもやらせろ!」

 

そして始まる4人のウィッチによるガロードの屍争奪戦。

 

「……我々は何の話をしていたんだっけ?」

「四人とも……後でちょっと廊下に来なさい」ユラァ……

 

 

 

結局その日の作戦会議はグデグデのまま終了し、はしゃぎすぎたリーネ達はその後水の入ったバケツを持って廊下に立たされた……。

 

 

 

次の日の朝、微妙に低血圧なガロードはウィッチ達の食堂に足を運んだ。

 

「お! 何このおいしそうな果物?」

 

そしてテーブルの上に乗ったボールの中にある大量の青い粒状の果実を発見する。

 

「ブルーベリーだよ、私の実家から送られてきたの、目にいいんだよー」

 

するとそこに大量のブルーベリーが入ったボールを持ったエプロン姿のリーネがやってくる。

 

「へー、旨そうだ、ひとつもらっていい?」

「ふふふ……どうぞ」

 

ガロードは許可をもらってブルーベリーを一つ手に取り、それを自分の口の中に運んだ。

 

「うんめぇ〜! 新鮮な果物なんて久しぶりだ〜!」

「沢山あるからもっと食べていいよー」

 

 

「あ! ガロードだ! ねえねえ!」

 

するとそこにルッキーニがガロードの元に駆けよって来る。

 

「お、どうしたルッキーニ?」

「コレ見て! べー」

 

そう言ってルッキーニは自分の舌を見せる、彼女の舌はブルーベリーを食べた事により青くなっていた。

 

「はははは! 面白いなそれ!」

「でしょでしょー! 今度はあの二人に見せよーっと!」

 

ルッキーニはそのまま、バルクホルンと一緒のテーブルで食べているエーリカの元に向かった……。

 

「そーいやなんで皆でブルーベリーなんて食べてんだ?」

「そうか、昨日お前は途中で気絶してたな」

 

するとそこに美緒が現れ、ガロードに対し説明を始める。

 

「これからしばらくの間、夜間哨戒任務の人員を増やすことになってな……ガロード、お前にも宮藤とエイラとサーニャと一緒に出撃してもらうぞ」

「ん? 別にいーけどなんで俺?」

「輸送機でお前はあの戦闘を目撃している……それと上層部がDXの夜間戦闘のデータを欲しがっているのだ」

「成程ねえ……」

 

軍の上層部がらみだと知り、ガロードは憂鬱そうにため息をつく。

 

(すっかり忘れていたけど、俺そのうちここから逃げ出さないといけないんだよな……それまでにアレの隠し場所をなんとかしないと……)

 

 

 

そして朝食が終わり、美緒は芳佳とエイラとサーニャ、そしてガロードを自分の元に集める。

 

「さて、朝食も済んだ所で、お前達は夜に備えて……寝ろ!」

「へ?」

 

 

 

その数分後、“四人”は日光を遮って暗くしてあるサーニャの部屋兼・臨時夜間専従員詰め所に集められていた。

 

「はいはいはい! 異議ありだぜもっさん!」

 

早速ガロードが手を挙げて異論を申し立てる、ちなみに皆寝やすいようラフな格好をしており、ちょっと手を加えたら下にある中身が垣間見えそうである。

 

「どうしたガロード?」

「いや! 女三人と男一人が一緒に寝るって流石にそれはねえんじゃねえの!? 芳佳達だって気を使うだろうし……!」

「これもチームワークの向上を図るためだ、それに……お前はそういう間違いをする度胸が無いことぐらい重々承知だ」

「いや! 否定できないけどさ!?」

 

ガロードの異論を一蹴する美緒、そして彼女は右手で果物を枝から思いっきり?ぎり取る動作をしながら、芳佳達にアドバイスを送った。

 

「宮藤、万が一ガロードが襲いかかってきたら、こう握って……ブチッと引っこ抜いてやれ」

「「「「何を!!?」」」」

 

 

 

という訳でガロードは半ば強引に芳佳、サーニャ、エイラと一緒の部屋で寝る事になった。

 

「ごめんねガロード君、ベッドは私達が占領しちゃって……」

「別にいいぜ、むしろ野宿で雑魚寝の方が多かったからな俺、屋根の下で寝れるのはありがたい」

「どんだけ過酷な世界で生きてきたんだよお前……」

 

そう言って苦笑しながら、エイラはベッドの上に広げたタロットカードをペラペラとめくり始める。

 

「なんだかコレお札みたい……」

「お札?」

「お化けとか幽霊とかが入ってきませんようにっておまじない」

「私……よく幽霊と間違われる」

「へー、夜飛んでいるとありそうだよね」

「ううん、飛んでなくても言われる、いるのか居ないのか判らないって……」

「あはは……」

 

サーニャの話に芳佳は思わず苦笑いをする。恐らくペリーヌに言われたのであろうというのは想像するのに難しく無かった。そしてガロードは幽霊と聞いて、ある人の事を思い出す。

 

「幽霊か……なんかルチルさんを思い出すなー」

「ルチル? 誰だそれ?」

「正真正銘、本物の幽霊さ、その人に俺達助けてもらったことがあってさ……その人がいた海は皆に“ローレライの海”って呼ばれていたんだ」

「ガロード君本物の幽霊に会ったの!? すっごーい!」

「その幽霊……どんな人だったの……?」

 

ガロードの話に興味を抱く芳佳達。

 

 

 

それから数分後、ガロードの話を聞き終えた皆は次にタロット占いに興じていた。

 

「エイラすげーな、未来予知の魔法が使えるのか、まるでニュータイプだな」

「ほんのちょっと先の未来しか見れないけどな……ていうかなんだよニュータイプって?」

 

そう言いながらエイラはタロットで芳佳の未来を占う、そして彼女が手に取ったカードを見せてもらう。

 

「どれどれ……おおよかったな、今一番会いたい人ともうすぐ会えるって」

「え!? そうなの? でも……それは無理だよ」

 

占いの結果を聞いて芳佳は喜ぶが、すぐに暗い顔をする。

 

「なんで?」

「だって私の会いたい人……」

 

エイラは何となく、芳佳の会いたい人が恐らく遠い世界に行ってしまった事を察知し、苦い顔をする。

 

「そっか……うう〜ん、そう言われてもなー」

「まあ未来なんて誰にも判らないさ、俺が言うんだから間違いない」

「ちぇー、なんだよガロードまで……」

 

そう言ってエイラはベッドにごろんと寝転がった。

 

「……あれ?」

 

その時芳佳は部屋に掛けてあったカレンダーの8月18日の欄が赤いペンで○を付けられてチェックされている事に気付く。

 

(あの日……確か……)

 

 

 

 

 

その日の夕方、それなりに睡眠をとった四人は再び食堂に足を運ぶ。

 

「ん? なんか暗いね……」

「暗い環境に目を合わせる訓練なんだって」

「へー、で何このお茶?」

 

ガロード達はテーブルの上に置かれていたティーカップをまじまじと見つめる、するとペリーヌが声高らかに説明を始めた。

 

「マリーゴールドのハーブティーですわ、これも目の働きを良くすると言われていますわ」

「あら? それって民間伝承じゃ……」

 

そう指摘するリーネに対し、ペリーヌは猛犬のように噛みつく。

 

「失敬な! コレはおばあさまのおばあさまのそのまたおばあさまから伝わるものでしてよ! がるるる……!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 

そして他の隊員達も、ペリーヌが出したハーブティーをそれぞれ口にする。

 

「サンショウみたいなにおいだね」

「サンショウ?」

「芳佳、リーネ、もっかいべーってしてみて」

 

そう言ってルッキーニは自分の舌を見せる、舌はブルーベリーの時と違い何も色が付いていなかった。

 

「「べー」」

 

ルッキーニの言うとおり見せた芳佳達の舌も同じだった。

 

「うう〜! つまんなーい!」

 

 

「く……!」

「どっちらけ……」

 

ルッキーニの反応を見て悔しそうにするペリーヌに、エイラはフッとバカにしたような笑みを浮かべる。

それを見たペリーヌは烈火のごとく弁解した。

 

「べ、別にウケを狙ったわけではなくてよ!?」

 

 

「うーん、お茶の味はよく解んねえや、全部同じ味がする」

「まずい……」

 

そのすぐ傍では、ハーブティーをがぶがぶ飲むガロードと、対照的にサーニャはまずそうにちびちびと飲んでいた……。

 

 

 

その日の夜、芳佳、エイラ、サーニャはストライカーユニットを履いてライトが照らす滑走路に立っていた。

 

「ふ、震えが止まらないよ……!」

「なんで?」

「夜の空がこんなに暗いなんて思わなかった……!」

 

芳佳はどこまでも広がる夜の闇の予想以上の暗さに、奥底から湧き上がる恐怖で全身を震わせていた。

 

「夜間飛行初めてなのか?」

「無理ならやめる?」

 

芳佳を気遣うサーニャとエイラ、しかし芳佳は首を横に振った。

 

「て……手を繋いでもいい? サーニャちゃんが手を繋いでくれたらきっと大丈夫だから……」

「……わかった……」

 

そう言ってサーニャは芳佳の右手を掴む、するとエイラも面白くなさそうな顔で芳佳の左手を掴んだ。

 

「エイラさん……?」

「さっさといくぞ!」

「え!? ちょ! 心の準備が〜! う、う、うわ〜!」

 

そしてサーニャとエイラは芳佳の言葉も聞かず、手を繋いだまま夜の空へ飛翔した。

 

「手え離しちゃダメだよ! 絶対離さないでね!」

「もう少し我慢して……雲の上に出るから……」

 

ドンドン上昇する三人、そして三人は雲の上の月と星の光に照らされた空域にやってくる。

 

「すごいなー! 私一人じゃ絶対にこんな所まで来れなかったよ〜!」

 

芳佳は先程とは打って変わって嬉しそうに飛びまわる。

 

「ありがとう! サーニャちゃん! エイラさん!」

「ふふ……」

「いいえ……任務だから……」

 

 

『おおーいお前らー、俺を置いていくな〜!』

 

するとそこにDXに乗ったガロードが芳佳達の後ろに現れる。

 

「あ……ガロードさん……」

「おおー、ようやく来たか〜、早く来ないと置いて行っちゃうぞー」

「あははは……」

 

 

 

 

 

次の日の朝、食堂のテーブルに湯呑に入ったある飲み物が置かれていた。

 

「な、なんですのコレ……」

「肝油です、ナツメウナギの、ビタミンたっぷりで目にいいんですよー」

 

試しにエイラが飲み物の香りを嗅いでみる、そして顔を顰めた。

 

「すんすん……なんか生臭いぞ」

「魚の油だからな、栄養があるなら味など関係無い」

 

皆のリアクションを見るに、どうやら肝油の評判は悪いようだ。そしてペリーヌは芳佳に対しバカにしたような高笑いを上げる。

 

「おーっほっほっほ! いかにも宮藤さんらしい野暮ったいチョイスですこと!」

「いや、持ってきたのは私だが?」

「ありがたく頂きますわ!」

 

そう美緒に指摘され、ペリーヌは慌てて肝油を一気飲みし、あまりの不味さに顔を青く変色させる。

 

「っ〜〜〜!!?」

 

 

「べぇー!? なにこでー!?」

「エンジンオイルにこんなのがあったな……」

「ぺっ! ぺっ!」

「ううう……」

 

そして他の隊員達も肝油を飲んで不味そうなリアクションを取っていた。それを見た美緒はやはりかといった様子で頭をポリポリ掻いた。

 

「新米の頃は無理やり飲まされて往生したもんだ、あっはっは!」

「心中おざっじしまずわ……」

 

 

しかしそんな中! 肝油を飲みほす兵(つわもの)が二人!

 

「美緒、おかわりもらっていい?」

「おいおい残すなよ、もったいないな〜」

 

鉄の舌を持っていると噂されているミーナと、食べられるものは何でも食べておく習慣が身に付いているガロードはちゃんと飲んでいた……。

 

 

 

それから数時間後、芳佳、エイラ、サーニャ、そしてガロードは夜間哨戒任務の為寝ようとするが……。

 

「あづー、全然寝れねえー」

 

気温が高く体が汗まみれになり眠れないでいた。

そこで芳佳は気を紛らわすためエイラとサーニャに話しかける。

 

「ね、ねえ、サーニャちゃんとエイラさんの故郷ってドコ?」

「私スオムス」

「オラーシャ……」

「えっと……それってどこだっけ?」

「スオムスはヨーロッパの北の方、オラーシャは東」

 

その時芳佳は、ヨーロッパのほとんどはネウロイに襲われて壊滅状態である事を思い出し、まずい事を聞いたかなと思い方をすくめる。

 

「そっか……ヨーロッパって確かほとんどがネウロイに襲われたって……」

「うん、私のいた街もずっと前に陥落したの」

「じゃあ家族の人達は?」

「皆街を捨ててもっと東に避難したの、ウラルの山々を超えてもっともっと……ずっと向こうまで……」

「そっか……よかった」

「家族は無事なんだな」

「何がいいんだよ、話聞いてないのかお前ら」

 

そう言ってエイラは頬を膨らませながら芳佳とガロードに言い放つ。

 

「だって、今は離れ離れでもいつかまた皆と会えるってことでしょ?」

「あのな、オラーシャは広いんだぞ、ウラルの向こうったって扶桑の何十倍もあるんだ、人探しなんて簡単じゃないぞ、大体その間にはネウロイの巣だってあるんだ」

「そっか……そうだよね、それでも私は羨ましいな」

「強情だなお前……」

「だってサーニャちゃんは早く家族に会いたいって思っているでしょ? だったらサーニャちゃんの家族だって絶対早くサーニャちゃんと会いたいって思っている筈だよ、そうやってどっちもあきらめないでいれば、きっといつかは会えるよ、そんな風に思えるのって素敵な事だよ」

「だよなあ、俺なんてもう家族は皆死んじまったし、サーニャ達が羨ましいぜ」

「……」

 

 

 

その日の夕方、寝汗でびっしょりの芳佳達はこれからどうするか話し合っていた。

 

「ガロード、お前はこれからどうすんだ?」

「へっへっへ……実はこの前、いい穴場を見つけたからそこに行ってくるぜ、ここの大浴場は男は使えないからな」

 

そう言ってガロードは芳佳達と別れ、そのまま外に出かけていった。

 

「んじゃ私達はサウナにでも行くか、その後は水浴びだなー」

「サウナ? 何ですかそれ?」

「へっへー、付いてくれば判るさ」

 

 

 

数分後、ガロードは基地から大分離れた場所にある湖にやってきた。

 

「いやー、この前散歩してたらこんなにきれいな湖見つけちまったんだよなー、行水には最適だぜ」

 

そう言ってガロードはおもむろに服を脱いで海パン一丁(この前海に行った時に支給された奴)で湖の中に飛び込んだ。

 

「はぁー! 冷たくて気持ちいいぜ! お……!」

 

そしてガロードは水に浸かりながら水平線に沈んでいく夕陽を眺める。

 

「おお、絶景絶景、それにしても皆今頃なにしているのかな……」

 

ガロードは離れ離れになったかつての仲間達の事を思い出す。

 

(あの戦争の後、皆ちゃんと生き延びたのかな……? 激しい戦闘だったけど、まさか誰かやられたりしていないよな……)

 

頭の中にドンドンと悪い考えが巡って行き、ガロードはそれを振り払うかのように頬をパンパンとたたく。

 

「いかんいかん! 悪い風に考えちゃ……! きっとあいつらは大丈夫! うん! きっとそうだ!」

 

そう言ってガロードはざぶんと湖の中に潜り込んだ、その時……。

 

「ららーららー……」

「ん? この歌……」

 

湖の奥の方から聞き覚えのある歌声が聞こえてきた事に気付き、ザブザブと声のする方角に向かって行った。

 

「ららーららー……ん?」

 

するとそこには、生まれたままの姿のサーニャが岩の上で歌を歌っていた。

 

「うっ……!?」

 

ガロードは思わず叫びそうになりながらも言葉を飲み込み、その場で身を隠した。

 

(あ、あぶねー、見つかるところだった……というかサーニャ、なんでこんな所に……)

 

 

 

「サーニャちゃーん」

「おーいサーニャー」

 

すると今度は芳佳とエイラも現れる、もちろん二人は何も着ていないすっぽんぽんの状態である。

 

「あ、宮藤さん、エイラ……」

(げえー!? 今度は芳佳達まで!? は、早く逃げないと……!)

 

ガロードは芳佳達に見つからないようにその場から去ろうとするが……。

 

「!? 誰だそこにいるのは!?」

 

エイラがガロードの気配に気付き、近くに会ったゴルフボール大の石ころを拾い、ガロードのいる方角に投げた、すると石ころは見事カツンとガロードの脳天を直撃した。

 

「いってー!!? 何しやがる!?」

 

あまりの痛さにガロードはエイラ達の前に飛び出す。

 

「「「「あ」」」」

 

そしてガロードは芳佳達三人の生まれたままの姿を直視してしまった。

 

「うわわわ!!?」

「ひゃ……!」

 

芳佳とサーニャはすぐさま水の中に体を沈めて自分の体を隠す、そしてエイラは……。

 

「ガロードお前! なんでここにいるんだよ!?」

 

一切隠そうとはせず、逃げようとしたガロードを捕まえて芳佳達の元に引き摺ってきた。

 

「あ、あの……この前この水場を見つけて水浴びしようかなーって思って……」

「ここは私とサーニャの水浴び場だ! それで!? お前見たのか!?」

「み、見ていない! 三人の綺麗な水水しい肌なんて見て無い!」

 

思わず素直に答えてしまうガロード、相当混乱しているようだ。

 

「見てんじゃねえかあああああ!!!」

 

怒り心頭のエイラはそのままガロードの首にアームロックを決める。

 

「ぐえええええ!! 苦しい! それと当たってる!」

 

ガロードは首が締まる感覚と背中のやわらか〜い感触で、脳味噌がぐつぐつと沸騰しそうになっていた。

 

「うっせ! おいこいつどうする!? 隊長に引き渡すか!?」

「そ、それは可哀そうだよエイラさん……」

「ガロードさんは悪気があって見たわけじゃないんだし……」

 

水に浸かったせいか意外と冷静な芳佳とサーニャ。

 

「うーん、まあサーニャが言うなら……」

 

そう言ってエイラはガロードを解放する、そしてガロードはすぐに岩場の影に隠れてしまった。

 

「はー! はー! いや悪かったな、今度から気を付けるよ」

「わかりゃいいんだよ、たく……」

「あはは……私お父さん以外の人に裸見られたの初めてだよ」

「私も……そう言えば昔お父様に言われた事がある、裸を見せていいのは家族と友達、それと結婚する相手だけだって……」

「「何!!?」」

 

サーニャの言葉に目を見開いて驚くエイラとガロード、そしてサーニャは頬を赤く染めながらガロードに語りかける。

 

「ガロードさん……私と結婚する?」

「えええええ〜!!?」

 

サーニャの大胆発言に仰天する芳佳、するとサーニャとガロードの間に立ちふさがるようにエイラが仁王立ちした。

 

「だ、ダメだそんなの! サーニャを渡すくらいなら……渡すくらいなら……! 私がガロードと結婚する!!!」

「「えええええええええええ!!!?」」

 

エイラもまた大分混乱しているようで、自分が随分と的外れな事を言っている事に気付いていなかった。

 

「エイラ……ガロードさんと結婚するの?」

「はっ!? いやいやいやそういう意味じゃないというか、私が結婚したいのはサーニャ……うあああああ!! 何言ってんだ私〜!!?」

 

頭の中がぐちゃぐちゃになり顔をばしゃんと水に沈めるエイラ。そしてガロードは……。

 

「ご、ご、ごめんなさーい! 俺には……俺にはー!!」

 

そのまま物凄い勢いで泳いで行ってしまった……。

 

「ああガロード君……いっちゃった」

「違うんだ、違うんだよサーニャ〜!」

「よしよし……」

 

サーニャはそんなガロードの後ろ姿を見送りながら、涙混じりに必死に弁明しているエイラの頭を優しく撫でてあげた。

 

 

その日の夜、芳佳達は夜間哨戒任務の為夜空を飛行いていた。

 

『そーいえばさ、サーニャがいつも歌っている歌って何だ? すげー綺麗だよな』

「これは……昔お父様が私の為に作ってくれた曲なの、小さい頃、雨の日が続いていて、私が退屈して雨粒を数えていたらお父様がそれを曲にしてくれて……」

「サーニャの家は音楽一家でさ、サーニャ自身もお父さんの薦めでウィーンで音楽の勉強をしていたんだ」

「素敵なお父さんだね」

「宮藤さんのお父さんだって素敵よ、あなたのストライカーは博士がお前の為に作ってくれたんだろう?」

『え!? そうなの!? すげえじゃん!』

「えへへ……だけど折角ならもっと可愛いのがよかったかも……」

「贅沢いうなよ、高いんだぞアレー」

 

そして楽しくなって笑い合う四人、すると芳佳は少しストライカーを加速させ皆より一歩前に突き出た。

 

「ねえ聞いて、今日私誕生日なんだ!」

『へえ! おめでとう芳佳!』

「なんで黙ってたんだよー」

「私の誕生日はお父さんの命日でもあるの、なんだかややこしくて皆に言いそびれちゃった」

「バカだなあお前、こういう時は楽しい事を優先したっていいんだぞ?」

「ええー? そういうものかなー?」

『そういうもんじゃねえの? 俺はよくわからないけどさー』

 

するとサーニャは広域探査の魔法を強め、芳佳に語りかける。

 

「宮藤さん……耳をすませて」

「え?」

 

すると芳佳の耳に装着してあるインカムに、音楽らしき音が流れてきた。

 

「あれ? 何か聞こえてきたよ?」

『こっちも傍受したぜ、これは……』

「ラジオの音……」

「夜になると空が静まるから、ずっと遠くの山や地平線からの電波も聞こえるようになるの」

「ええ〜!? すごいすごい! こんな事できるなんて!」

「うん、夜飛ぶ時はいつも聴いてるの」

「二人だけの秘密じゃなかったのかよ」

 

そう言ってエイラは不満そうにサーニャに語りかける。

 

「ごめんね、でも今夜だけは特別……」

「ちぇ、しょうがないなー」

 

エイラはまあいっかといった感じで芳佳とサーニャの周りをぐるぐると飛んだ。

 

「え? どうしたの?」

「あのね……」

「あのな、今日はサーニャも……!」

 

その時、広域魔法に何か引っかかったのか、サーニャは突如会話を中断する。

 

『ん? どうしたサーニャ?』

 

そして辺りにこの世のものとは思えない、曇った声の歌声らしきものが響き渡った。

 

「ん!? なんだ!?」

「これ、もしかして歌……!?」

『お、おい皆! 雲の中から何かがこっちに近付いてくるぞ! スゴイスピードだ!』

 

するとDXのレーダーはその“何か”が近付いてくることを察知する。

 

「ネウロイだよきっと!」

『くそ……! まさか俺達だけのところを狙ってきたのか!? 通信も繋がらねえ!』

「……! 皆避難して!」

『お、おい!?』

 

するとサーニャはある事に気がついたのか、突然急上昇して芳佳達から離れた。

 

「サーニャちゃん!?」

 

するとネウロイは突如赤い光線をサーニャに向かって放つ、そのビームはサーニャの左足を掠めた。

 

『サーニャ!』

 

バランスを崩して落下しそうになるサーニャ、そんな彼女をガロードはDXで空中で受け止める。

 

『バカ! いきなりなんて無茶するんだ!?』

「一人でどうするつもりだよ!?」

「敵の狙いは私……! 間違いないわ、私から離れて……一緒にいたら……!」

 

サーニャはネウロイが自分を狙っている事に気付き、芳佳達を危険な目に遭わせないよう自分から離れていったのだ。

 

「バカ! 何言ってんだ!」

「そんなことできるわけないよ!」

「だって……!」

 

サーニャは涙目になりながら二人に訴える、するとガロードはDXの手の上にいたサーニャを芳佳に抱えさせた。

 

『そんなことしなくても……俺達がパパッとやっつければいいんだよなぁ?』

「……! ああ、その通りだ!」

 

そう言ってエイラはサーニャの武器、フリーガーハマーを肩に抱えてガロードのDXと共に迫ってくるネウロイに対し向かい合った。

 

「サーニャは敵の動きを私に教えてくれ、大丈夫……私は敵の動きを先読みできるから、やられたりしないよ」

『俺も一緒だ! 皆がいればあんな奴怖くねえぜ! 俺達は絶対負けない!』

「あ……うん」

 

サーニャはエイラとガロードの力強い言葉にコクンと頷いた。

 

「ネウロイはベガとアルタイルを結ぶ線の上をまっすぐこっちに向かっている、距離……約3200」

「こうか?」

「加速している、もっと手前を狙って、そう……あと三秒」

『わかった!』

 

サーニャは広域魔法を駆使してエイラとガロードに敵の現在位置を伝える。

 

「今だガロード!」

『当たれえー!』

 

そしてネウロイが標準内に入った時、二人は一斉に持っていた武器の引き金を引いた。

飛んでいくフリーガーハマーの砲弾とバスターライフルのビーム、すると入れ替わりでネウロイから放たれた赤い光線が芳佳達を襲った。

 

『おっと!!』

 

皆はそれを上昇することで回避する、そして下にある雲の中に大きな物体が通り過ぎていくことに気付いた。

 

『仕留めそこなった!?』

「ううん、速度が落ちてる……ダメージがあったんだ、あ! 戻ってくる!」

「戻ってくんな!」

 

そう言ってサーニャは雲の中を駆けるネウロイに向かってフリーガーハマーの弾を撃ち込んでいく、しかしネウロイはそれを悠々と回避してしまった。

 

「避けられた!?」

『畜生お前! ちょろちょろすんな!』

 

ガロードはDXのビームだけでなく、体に装備されているバルカン砲も駆使してネウロイを攻撃する、するとネウロイは雲の中から飛び出し、まっすぐガロード達に向かって飛んできた。

 

『エイラ!』

「判ってる! うりゃー!」

 

エイラは持っていた自分の銃で迫ってくるネウロイの先端をガリガリと削る。そしてついにコアが露出した。

 

「ガロード!」

『おうよ! 俺の射撃技術見て度肝抜かすなよ!』

 

そう言ってガロードは一度深く深呼吸し、ビームライフルの標準を露出したネウロイのコアに定め、そのまま引き金を引いた。

放たれたビームはそのままコアを撃ち抜き、ネウロイはガラス片になってバラバラと崩れ、慣性の法則で破片は下の雲をすべて払ってしまった。

 

『よっしゃ一発必中……ってうわ!』

「ガロードくん!」

 

ガラス片はそのままガロード達を飲み込もうとしたが、芳佳がとっさに魔力シールドを張ったことで大事には至らなかった。

 

「気がきくな宮藤」

「えへへ……あれ? 歌がまだ聞こえる……」

 

芳佳はネウロイを倒した筈なのに音楽がまだ聞こえてくることを不思議に思う、するとサーニャはその音の正体に気付いた。

 

『これって……ピアノの音……お父様のだ!』

 

そう言ってサーニャは芳佳の手から離れ、月に向かって舞う様に飛んだ。

 

「そっかラジオだ! この空のどこかから届いているんだ! すごいよー奇跡だよ!」

 

そう言って芳佳は喜ぶが、エイラはふふふと笑って首を横に振った。

 

「いや、そうでもないかも」

「え?」

「今日はサーニャの誕生日だったんだ、正確には昨日かな……」

『え!? じゃあ芳佳と同じ日なのか!?』

「サーニャの事が大好きな人なら誕生日を祝うのは当たり前だろ? 世界のどこかにそんな人がいるなら、こんな事だって起こるんだ、奇跡なんかじゃない……」

『そっか……そうだよな』

「エイラさん優しいね」

「そんなんじゃねえよ……バカ」

 

そう言ってエイラは芳佳達から顔を反らす、彼女の顔は気恥ずかしさで真っ赤になっていた。

 

 

そしてサーニャは涙を舞い散らしながら父と母を想い夜空を見上げた。

 

「お父様、お母様……サーニャはここにいます……ここにいます」

 

そんな彼女に対し、芳佳はお祝いの言葉を捧げる。

 

「お誕生日おめでとう、サーニャちゃん」

「貴女もでしょう? お誕生日おめでとう宮藤さん」

「おめでとな……」

『二人ともおめでとう!』

「あ……ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ガロードのコックピットに501基地の指令室から通信が入った。

 

『ガロード君! 皆! 聞こえてる!?』

「お、ミーナさん、こっちは終わったぜー」

『そうじゃない! もう一つ近付いて来ているぞ!』

「え?」

 

 

すると雲の向こうからキラリと光り、そこから一つの影が猛スピードで接近してきた。

 

「なんだアレ……?」

「まさか……ウィッチ!?」

 

芳佳達は急接近してくる物体が仮面を被り白鳥のような羽を頭から生やしたウィッチだという事に気付く。

そしてそのウィッチは持っていた銃の銃口を芳佳達に向けた。

 

「! 宮藤! シールドだ!」

「え!? あ、はい!」

 

エイラは危機を察知して芳佳にシールドを出させる。すると仮面のウィッチは銃の引き金を引き、銃口からビーム弾を1、2、3発と放った。

 

「きゃ!!」

「私達に向けて撃った……!?」

「反撃するぞ宮藤!」

 

芳佳にビーム弾を防いでもらい、相手に敵意があると判り反撃しようとするエイラ。

 

「そ、そんな私……人を撃つなんて……!」

 

しかし芳佳は手が震えて銃を構える事が出来なかった。

 

(くっ……宮藤はビビっちゃってるし、サーニャはストライカーが片っぽ壊れてる、DXじゃ小回りが利くウィッチ相手は不利だ……なら!)

 

覚悟を決めたエイラはガロードと芳佳に指示を出す。

 

「私があいつを引きつける! 宮藤はサーニャを頼む! ガロードはそれとなく援護してくれ!」

「エイラ!?」

「エイラさん!」

 

エイラはそのまま仮面のウィッチに向かってストライカーを加速させ、持っていた銃の引き金を引く。しかし仮面のウィッチはそこから放たれた銃弾を難なく回避した。

 

「読まれたか!? くっ……!」

 

エイラはそのまま仮面のウィッチを追いかけるが、相手はそのままエイラの後ろに回り込もうとする。

 

「んな?! くそ!」

 

有利な位置に移動しようとしても、相手に動きを読まれて思う様にいかないエイラ。

 

(なんでだ!? 相手の動きが読めない! まるで向こうも私の力を使っているみたいだ……!)

 

その時、エイラのインカムにガロードのうろたえる声が聞こえてきた。

 

『あの動き……まさか……!』

「ああん!? なんだよガロード! あのウィッチの事知っているのか!?」

『い、いや……でもそんなバカな……!』

 

ガロードの脳裏に、かつて味方として、そして敵として戦ったある特殊能力をもった戦士達の戦う姿が浮かんでくる。

 

『あのウィッチの動き、ジャミルやカリスの……! 気を付けろエイラ! そいつニュータイプだ!』

「にゅー……!? またそれかよ!?」

 

意味が解らないガロードのアドバイスに、ただでさえ不可解な相手と戦っているエイラの頭はさらに混乱した。

 

『とにかく援護する!』

 

そう言ってガロードはブレストバルカンを仮面のウィッチの進行方向に向かって放ち、動きを一瞬だけ止めた。

 

「今だ!」

 

その隙を見逃さなかったエイラは銃で反撃する、しかし仮面のウィッチはシールドを張ろうともせずに、上体を捻らせ銃弾を回避し、その勢いで背中を向けたままエイラに向かってビーム弾を放った。

 

「くっ……!?」

 

ビーム弾はエイラのストライカーを翳めた。

 

「そんな!? エイラが被弾するなんて!!」

「こ、この!」

 

エイラは反撃を試みようとする、しかし……。

 

 

「うっ!?」

「な、何これ……!?」

「息苦しい……!」

 

 

戦っているエイラだけでなく、芳佳とサーニャも頭に電流が流れる感覚と胸を圧迫されるような感覚に襲われて苦しみ出す。

 

(まさか……ウィッチとニュータイプが共鳴しているのか!?)

 

彼女達の症状に見覚えのあるガロードは、謎のウィッチがニュータイプ能力を使っている事と、芳佳達ウィッチがそれに共鳴していることに驚いていた。

 

「データ収集完了……帰還します」

 

仮面のウィッチはエイラの被弾を確認すると、そのまま猛スピードでその場から去っていった。

 

「逃げた……?」

「何だったんだアイツ……?」

 

芳佳達は追いかける余力が無く、去って行く仮面のウィッチを呆然と見送った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、美緒とミーナは芳佳の父、宮藤博士の墓がある丘に赴き、花を添えていた。

 

「今回のネウロイは明らかにサーニャに拘っていた、行動を真似してまで……」

「ネウロイに対する認識を改める必要があるのは確かなようね」

「上の連中……このことをどこまで知っていると思う?」

「さあ? もしかしたら私達よりもっと多くの事を掴んでいるのかも……」

「うかうかしてはいられないか……それにあの仮面のウィッチの事もある」

「そうね、一体何者なのかしら……ガロード君は何か知っている様子だったけど……」

「ん?」

 

すると美緒達は墓に一枚の写真が添えられている事に気付き、それを見て思わず笑みをこぼした。

 

 

写真には芳佳とサーニャがガロード達に囲まれながら、バースデーケーキを持って笑顔を向けている姿が映っていた……。

 

 

 

 

説明
第五話です、エイラとサーニャがメインの回になります。
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サテライトウィッチーズ クロスオーバー ストライクウィッチーズ へたくそ 黒リーネ 

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