転がったキング
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カツン、とキングがチェス盤を打つ軽い音が響いた。

「チェックメイト、です」

日本はふわりと笑い、黒のキングを手駒に白のキングを倒した。

ころり、と転がった白のキングは、そのままコロコロとチェス盤の上を転がり、そのまま小さな机に落ち、床へと転落した。

「中々の腕前だな」

俺に勝つとは、と続いた言葉に、大日本帝国はクツリと笑って見せた。

「こういった遊戯は我が国の十八番でして。よく似たものもございますし」

そうか、とたいして興味もなさそうに返してから、大英帝国は指を組み合わせた手の上に顎を乗せて悠然と大日本帝国を見た。

「確か、今日貴殿が来たのは謝罪のためだと聞いたのだが?」

「えぇ。その通りです。……上司たちは、ですが」

大英帝国は目を瞬かせた。

「貴殿は謝る気などない、と?」

「勿論」

大英帝国は思わずニヤリと口角を上げた。

開国してまだ十年やそこらの国とは思えない。

「此度の件ですが、確かに当国の国民にも非はありましょう。しかしながら」

そこで一度言葉を区切り、大日本帝国は鋭い目で、まっすぐに大英帝国を見つめた。

「先に礼を欠いたのは貴国の国民かと存じますが?」

大英帝国は思わず声をあげて笑った。

もう堪えることなど不可能だった。

「俺は戦争を仕掛けるぞ。貴国はそれでよいと?」

「えぇ。受けて立ちましょう」

冷たい笑みを交わし、大日本帝国は立ち上がって踵を返した。

「では、失礼致します」

 

 

 

砂埃の舞う地面に横たわる大日本帝国を見て、大英帝国は呆れたように笑った。

「……あれだけ大口叩いてたくせに、なんてザマだよ」

「いやぁ、おかしいですねぇ。これでも昔は結構暴れまわってたんですが、いやはや、年を取ると行動にかかる制限が増えますねぇ」

ほら、と大英帝国が手を差し伸べると、大日本帝国は驚いたようにその手を見返した。

「あなた、さっきまで刃を向け合った相手になんのつもりですか?」

「さっきまで、だからだろう。終わったことだ。もう関係ない」

大日本帝国は目を瞬かせてその手をジッと見つめ、それから「おかしな人ですねぇ」と笑った。

手に手を重ねると、グッと引き寄せられて簡単に立ち上がらされる。

すぐに放してもらえるものだと思っていた大日本帝国だが、大英帝国が手を掴んだまま歩を進めはじめたことに動揺して「大英帝国さん」と声をかけた。

「どうした?」

あまりに自然に返されてしまい、二の句が継げない。

ただ、俯いて「いえ」と返した大日本帝国に、大英帝国は首を傾げるばかりだった。

(嗚呼。不思議です)

あんなに、面倒臭いと思っていたのに。

開国を余儀なくされて、一気に流れ込んできた西洋の文化たち。

付いていくのに必死で、何度鎖国し直そうと思ったことか。

それでも。

(憧れるといっても、どうしてこんな人なんかに……)

日本はされるがままに手を引かれながら、俯いて溜息を吐いた。

大英帝国の顔が染まっていることに気付くのは、一体いつになるのだろうか。

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大英帝国→←大日本帝国
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