織斑一夏の無限の可能性31 |
Episode31:学年別トーナメントC―恋敵で最高に頼もしい相棒―
【千冬side】
第三アリーナ管制室―――。
学年別トーナメント一日目が無事に終わった。
前回のクラス対抗戦はあの天災(※誤字に非ず)の所為で襲撃という形の面倒な仕事が増えたのだが、今日は至って何も変な事は起こらなかった。
またあの天災が余計な事をしてくると思ったが、杞憂だったようだ。
ただ、まだ一日目なのだ。 トーナメントは月曜日から土曜日に行われる決勝戦まで予定されている。
「―――このまま、何も起こらなければいいのだがな......」
「ほぇ? どうしました? 織斑先生」
「いや、何でもない」
私の隣では明日行われるC・Dブロックの一回戦の準備を一通り終えた真耶がコーヒーを飲んで一息ついている。
私もコーヒーを飲んでいるのだが、私は当然ブラック派だ。
砂糖やミルクを入れたコーヒーはどうにも口に合わないのだが、隣にいる真耶はミルクと砂糖をドバドバ入れて、劇的に甘くなったコーヒーを飲んでいる。
見ているだけで胸やけがしそうだ......。
「どうしました? やっぱり砂糖いれます?」
「いらん」
じっと見ていたら、真耶が何を勘違いしたのか私に砂糖を差し出してくるが、私は甘党ではないので断った。
全くあれだけ糖分を摂取しておいて、よく太らないものだな。
あれだな、全て胸の脂肪になっているのだろう。
「それにしても織斑くんは本当強かったですよね」
「ふん、まだ一回戦を勝ち上がったばかりだ」
「ふふふ、そんなツンツンしても無駄ですよー。 織斑くんが一回戦突破してから、ずっと顔がニヤけてたじゃ―――」
真耶が何かを言おうとしていたが、構わずに真耶の頭をアイアンクローで掴む。
「いだっ! いだだだだだだだだだだだだだだだ」
「ふふふ、山田先生はどうやら幻覚でも見たようだな。 その幻覚、私が未来永劫消し去ってやろう。 感謝しろ、山田先生」
ギチギチと真耶の頭を掴む右手の握力を強めていく。
「ーーーっ! ーーーっ! ーーーっ!」
声にならない悲鳴を上げていた真耶も暫くしたらピクピク痙攣し出したので、ここらで止めておいてやった。
そのまま、椅子にしなだれるように倒れ伏す真耶。
解放してやった瞬間、「このブラコン......」と聞こえた気がしたが、既に真耶は気絶していた。
ふむ。 目覚めたら、さらにお仕置きする必要があるようだな。
私は決してブラコンなんかじゃない。
そう、一人だけの家族である弟を心配するのは当然の事だろう。
昔はよく一夏の成長を確かめる為に風呂場に突撃を仕掛けたり、寝ている一夏の布団に侵入したりもした。
まぁ、一夏の前では決して甘い顔はしないのだが。 あんまり甘い顔をすると一夏もつけあがってしまうからな。
風呂場への突撃は毎回、一夏が慌てふためき逃亡を図るから、じっくり観察はできないのだが、寝ている時は当の一夏が寝ているため、逃げられることはない。
ついつい魔が差して服を脱がせ、そのまま一線を越えてしまおうかと考えた事もあったが、やはり姉と弟......血の涙を流しながら我慢した。
そんな一夏も今やIS操縦者だ。
まぁ、私から見たらまだまだではあるが、弟の成長は嬉しく思う。
ただ、その反面、私の手から離れて行ってしまいそうな寂しさも感じるのだが。
一夏がISを起動できたのもアイツの差し金である事は容易に想像できるが、前世の記憶と経験を継承したのはアイツも予想外だっただろう。
そのおかげもあって一夏はIS初心者にも関わらず、並みいる代表候補生にも引けを取らない強さを誇っている。
今や世界中が一夏に注目している。
これから一夏にはよからぬ輩が近付いてくることもあるだろう......その時は私の命を懸けてでも一夏を守ってみせる。
一夏は私の唯一人の弟であり、私が愛情を向ける唯一人の男なのだからな。
さて、トーナメントもまだ始まったばかりだ。
私も今夜は早めに就寝して明日に備えるとしよう。
............
.........
......
...
あ......真耶を忘れてきてしまった......。
まぁ、あいつもいい大人だ。 このまま置いていっても何も問題がないだろう。
取り合えず「ブラコン」発言をした真耶は明日またお仕置するつもりだがな。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*
【箒side】
学年別トーナメント二日目。
あまり眠れなかったので今朝は早くから真剣による鍛錬を行っていた。
私にとって、ISを使っての初めての公式試合。
私はあれから強くなれたんだろうか?
頭によぎるのは、一夏と別れてから、一人で過ごしてきた日々。
我武者羅に強さだけを求めていた日々。
友達もいなかった―――家族とも引き離された―――そして―――傍に一夏がいなかった。
そんな寂しい思いを押し隠すかのように私は強さだけを求めた。 中学最後の剣道の全国大会において、相手をただ一方的に蹂躙してしまった―――。
武道とは、ただ己の強さの身を求めるに非ず。
しかし、私は心の鍛錬を怠っていた。
だから決勝で一方的に蹂躙してしまった相手の気持ちに後になって気付いた。
決勝の相手がこれまで費やしてきた努力を、私はただ自分の欲求に従い一方的に蹂躙してしまったのだ。
私は愕然としてしまった。
これまで私がしてきた事とは何だったのか、と......。
そんな失意の底にいた私に一筋の光を与えてくれたのが、偶然テレビで見た政界で最初の男性IS操縦者となった私の想い人、一夏のニュースだった。
私も姉の関係でIS学園に入学する事が決まっていた。
当然、ISを動かせる一夏もIS学園に入学する。
つまり、一夏に会えるのだ。
―――嬉しかった。
これまで沈んでいた気持ちが嘘のように晴れていく。
織斑一夏、私の好きな人。
世界で一番大好きな人。
IS学園で再会した一夏は昔の面影を残しつつも物凄くかっこ良くなっていた。
さらに私の知らない流派の剣術を嗜んでいた。
そして一夏はIS初心者にも関わらず、代表候補生であるセシリアに勝ち、鈴と一緒に襲撃者を撃退し、暴走したラウラを止めた。
それに比べ、私は何もしていない。
クラス対抗戦に限っては、千冬さんに窘められた。
私は弱い。
だからこそ、一夏と肩を並べられる強さを持っているセシリアが、鈴が、シャルルが、ラウラが羨ましかった。
一夏と一緒に戦える強さを持ちたい。
一夏と肩を並べたい。
だからこそ、私はこのトーナメントで優勝するのだ。
一夏に認めてもらうために。
「ふうっ......」
携帯電話で時間を確認すれば、既に時刻は7時を回っていた。
私とセシリアの試合はCブロック第一試合のため、9時開始予定だ。
そろそろ切り上げて準備をしなければ。
私はそのまま荷物からタオルを取り出し汗を拭いながら、シャワーを浴びるため、その場を後にする。
「まずは今日の試合を勝たねば......な」
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*
既に私は打鉄を展開し、瞑想しながら静かに試合開始の瞬間を待っていた。
私にとっての初の公式試合となる。
一夏にこの想いを受けとめてもらうためにも、そして一夏の傍にいられる強さを持っていることを証明するためにも、私は負けられないのだ。
しかし私の隣にいるセシリアは試合前の緊張を感じるよりも、一夏との情事に想いを馳せているようだ。
「ふふふ、一夏様との初夜......むふふ」
まったく、この痴女め。
「おい、そこの痴女。 そろそろ試合開始だぞ。 後、一夏の初めては私のものだぞ」
しっかりと一夏が私のものであることは主張しておかねばならん。
この痴女は油断も隙もないからな。
「なっ! 誰が痴女ですか!?」
「セシリア、お前だ」
ふぅ〜、やれやれ。 まったく、自覚もない痴女というのも困りものだな。
「ふふん、箒さん。 貴方、わたくしのことを痴女呼ばわりしていますが、貴方も痴女という自覚はないのですか?」
む? 何を言ってるんだ、この痴女は?
「わたくし、知ってるんですよ。 この前、一夏様と訓練をした後、ロッカールームに置き忘れた一夏様のタオルをスーハーしてたのは誰ですか?」
な、な、な、な、何で、それをぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!
ま、ま、ま、まさか、み、み、み、み、み、み、見られていたというのか!?
あれだけ周囲を見回して誰もいないことを確認していたのにっ!
「わたくしが痴女なら、箒さん。 貴方は変態ですよ」
ズガァァァーーーーン!
私の頭に衝撃が走った。
この痴女は、自分の事を棚上げして、私の事を変態と罵ったのだ。
「き、き、き、貴様ぁー、そこに直れ! その腐った性根、叩き直してくれるっ!」
「ふふふ、よろしいですわ。 まずは箒さんとの決着を着けるというのもいいかもしれませんわね」
私は近接ブレードを正面に構え、ブルー・ティアーズを装備したセシリアはスターライト.mkVを構える。
例え、ピット内であろうが、この腐った痴女を葬り去れるのなら問題はない。
覚悟しろ、セシリ―――
ゴン!
ゴン!
いきなり体に衝撃が走る。
何だ、と思い、その衝撃の先に視線を投げると、生身で近接ブレードを携えた鬼の形相をした千冬さんがいた......
「貴様等......ここで私が直々に引導を渡してやろうか......?」
「「いえ、結構です!」」
「もう試合開始だ。 早く行け、馬鹿者ども!」
「「サー、イエッサー」」
千冬さんの怒気に気圧され、逃げるようにセシリアと共にアリーナへと飛び立った。
「まったく、どこかの変態さんの所為でわたくしまでとばっちりを受けてしまいましたわ」
「ほう、まだ言うか。 この痴女め」
アリーナの中央までお互いの文句を言いながら移動すると、既に対戦相手が待機していた。
「遅かったわね。 私達に恐れをなして逃げたのかと思ったわ」
「代表候補生だか何だか知らないけど、私達も学年でも上位に入る程の実力を持ってるのよ。 貴方達に勝ち目がない事を身をもって教えてあげるわ」
目の前にいるのは、確か五組の生徒だったな。 名前はえっと何だったかな?
「セシリア。 お前はこいつらを知ってるか?」
「あら、箒さん。 知るわけないじゃないですか。 大した実力もないのに口だけは達者みたいですけど」
「この〜、言わせておけば......」
「目にもの見せてあげるわ」
目の前に対峙している五組の......まぁ、モブAとBでいいか。
Aが私と同じ打鉄、Bがラファール・リヴァイブか。
私はこんなところで負けるわけにはいかない。
隣にいる恋敵《ライバル》は痴女だが、今の私にとっては最高に頼もしい相棒《パートナー》だ。
だから私はこのトーナメントで優勝する。
試合開始の合図と共に私は駆けた―――
【セシリアside】
「それではいくぞ」
「ええ。 いきましょう、箒さん―――」
試合開始の合図と共に箒さんが瞬時加速《イグニッション・ブースト》を使い、相手に迫る。 わたくしはサイド・バインダーに装備している4基の射撃ビットを展開し、箒さんをアシストするようにレーザービットによる視界外射撃を連続で行っていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ」
箒さんはさすがに剣道で全国優勝を果たしただけあり、縦横斜めと斬撃の軌道を変えながら相手を圧倒していく。
わたくしも負けていられませんわね。
モブBのラファール・リヴァイブを装備した相手からのマシンガンによる射撃をサイドロールで回避しながら、ビットを展開し、相手のマシンガンを撃ち抜く。
「うそっ!?」
対戦相手もまさか武装をピンポイントで破壊されるとは思っていなかったらしく、その表情を驚きに染めている。
ふふ、イギリスの代表候補生を舐めないでいただきたいですわね。
まだまだこんなものじゃありませんわ。
六七口径特殊レーザーライフル〈スターライト.mkV〉で即座に相手をロックオンし、そのまま撃ち抜く。
〈スターライト.mkV〉から放たれた閃光はそのまま相手のシールド・エネルギーを大幅に削り取った。
わたくしはこのトーナメントで優勝すると心に決めているのですわ。
もちろん、一夏様の初めてを頂くためでもありますが......少しでもあの人の、わたくしの愛おしい一夏様と肩を並べていたいから。
あの人は強い。
世界一の称号を持つ姉がいるから?
違う―――あの人、織斑一夏自身が強いのだ。
わたくしはこの学園で初めてあの人の強さに触れる事ができた。
誰よりも早い段階であの人の強さをその身で実感した。
そんな一夏様に少しでも追い付きたい。
好きな人の傍にいるためにも―――愛おしい一夏様に守られるだけでなく、わたくしも一夏様を守れるようになるためにも―――わたくしは強くなる。
だからこそ、このトーナメント―――
「絶対に勝ちあがってみせますわっ」
レーザービットにミサイルビットを展開し、さらに二人の相手の回避先を潰すかのように〈スターライト.mkV〉によるライフル射撃を行う。
元々、ブルーティアーズは多対一を目的とした設計をされているため、このようなペアによる対戦形式ではその機能がかなり生かされる。
「なによ、こいつらっ」
「つ、強すぎるっ」
相手ペアも三次元による射撃攻撃を躱しきれず、徐々にシールド・エネルギーを削られていく。
「箒さん!」
「分かっているっ」
わたくしの呼びかけに呼応するかのように瞬時加速《イグニッション・ブースト》による刺突を打鉄装備の相手に突きつけ、撃墜する。
そして残った最後の一人をロックオンし、―――
「王手《チェックメイト》ですわ」
―――〈スターライト.mkV〉による狙撃で撃墜する。
二人目を撃墜した事で試合終了のアナウンスが流れる。
―――『試合終了。 勝者―――篠ノ之箒、セシリア・オルコット』
「先ずは一回戦突破......ですわね」
「そうだな」
わたくしの言葉に箒さんも笑顔で応えてくれる。
目の前にいる恋敵《ライバル》との決着も大事だが、目の前のトーナメント優勝を果たさなければならない。
わたくしの目の前にいる恋敵《ライバル》でもあり、最高の相棒《パートナー》と一緒なら、優勝も可能......ですわね♪
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*
【一夏side】
「箒にセシリアも無事に一回戦突破だな」
「そうだね」
「まぁ、あの二人なら当然よね」
今日は試合がないため、モニターでシャルロットと鈴を伴って、試合を観戦していた。
ラウラと清香さんの試合は午後からなのだが、午後の試合に向けて、二人でミーティングするという事で別行動だ。
ちなみに鈴のパートナーのハミルトンさんは前日深夜に放送されているアニメの見過ぎで寝不足に陥り、惰眠を貪っているらしい。
容姿端麗に関わらず、相変わらず残念だ。
しかし、あれだな。
箒、またサイズ上がってないか?
「一夏? また変な事考えてない?」
不意にシャルロットが俺に声を掛けてくる。 その表情は笑顔なのだが目が笑っていない。 コワインデスガ......
「ハハハ......ソンナバカナ......」
最近、シャルロットは心《モノローグ》だろうと何だろうと反応してくる。 まるでサイコメトラーじゃないか。
「なに? やっぱり一夏って.....その......お、おっきくないとダメなの?」
「馬鹿言うな、鈴! 真のおっぱい戦士は大小関係なく愛せるものだっ」
「あ、あ、あ、愛って......」
俺の言葉に急に赤面する鈴。 うん、こういういじらしい鈴はなかなか可愛いものだ。
ナデナデ......
「ふぇっ?」
ナデナデ......
「一夏? ナニヲシテイルノ?」
へ?
......はっ!?
あまりにも鈴がいじらしいものだから、ついつい頭を撫でてしまっていた。
恐る恐る視線を後ろに向けると、そこには無表情な能面のような顔をしたシャルロットさんがいた......。
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第31話です。 更新が遅くなってしまい、ごめんなさい。 なかなか話がまとまらず二転三転して漸く出来上がりました。 |
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