サテライトウィッチーズ 第八話
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 第八話「死なせるもんか!」

 

 

ある日の朝、ガロードはいつものようにウィッチ達の食堂に赴いて彼女達が作るおいしい朝食を食べようと廊下を歩いていた。

 

「今日の当番は誰なのかなーっと……ん?」

 

するとガロードは一人でふらふらと廊下を歩く芳佳を発見する。

 

「おーい芳佳、おはよー……ん? ずいぶんとフラフラじゃねえか」

「あ、ガロード君……くしゅんっ!!」

 

芳佳はガロードの方を向いた瞬間くしゃみをした。

 

「おいおいどーした? もしかして風邪でもひいたのか?」

「うーん、昨日訓練の途中で夕立に当たっちゃって……熱はないみたいなんだけどね」

「そっか……あんまり無理すんなよ、せっかくだし飯食ったら薬もらいに医務室行こうぜ」

「うん、ありがとうガロード君……」

 

 

 

そして二人は一緒に食堂に向かった、するとそこではシャーリーとエーリカが厨房に立って朝食を作っていた。

 

「お、芳佳とガロードだー、おはよー!」

「おいおい、今日は芳佳と一緒なのかー? お前ずいぶんと他の奴らとも仲いいよなー」

 

そう言ってシャーリーは人参を切りながらつまらなさそうに口を尖らせる。

 

「あんまりいちゃいちゃするとー! 隊長が頭に角生やして怒っちゃうよー?」

「私は鬼じゃありませんよ、フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」

「ひっ!?」

 

ミーナを使ってからかっていたら、ご本人がいつの間にか背後にいて飛び上がるほど驚くルッキーニ。

 

「ミーナさんも朝食?」

「ええ、どうせなら一緒にどう? ガロード君」

「あはは、それじゃー」

 

 

 

それから数分後、食堂にウィッチ全員が集まり朝食を食べ始める、ちなみにガロードの右隣には芳佳が、左隣にはミーナが座っている。

 

「今日はボンゴレとスープだよーん!」

「ロマーニャ料理ですか……おいしいですー」

 

シャーリーとルッキーニが作った料理に舌鼓を打つウィッチ達、そんな中ミーナはガロードの頬にボンゴレの食べカスが付いていることに気付く。

 

「あらガロード君、頬についているわよ」

 

ミーナは食べかすを指で取ると、それをペロリと舌で食べてしまう。

 

「あ、サンキューミーナさん」

「うふふ、慌てなくてもいいのよ、しっかり噛んで食べなさい」

 

その様子をエーリカはまるで面白い物を見るかのように、ニヤニヤしながら見つめていた。

 

「おいおい、なんか恋人みたいだな二人とも、姉さん女房に世話を焼かれる年下みたいな」

「へっ!!?」

 

するとミーナはボンッと頭上から煙を吹き出しながら顔を真っ赤にした。

 

「おー照れてる照れてる!」

「あれー? ウィッチと男の人って恋愛禁止じゃなかったのー?」

 

エーリカとルッキーニは一緒になってミーナをからかい出す、それを美緒はわっはっはと笑っていた。

 

「はっはっはっは! ミーナ……新しい恋に目覚めたか!」

「そそそそそそんな訳ないでしょう美緒!? わわわわわわわ私がそんなガロード君と恋人同士だなんて!」

「でも悪い気はしないだろう?」

「そりゃあまあガロード君はイケメンだし、この前も正直ドキッとして……って何言わせるの!!?」

 

目をぐるぐる回し手と顔をぶんぶん振って否定するミーナを、にやにやしながら見つめるエーリカ、ルッキーニ、美緒、しかし彼女達は気付いていなかった、そのすぐ傍でリーネとペリーヌが並々ならぬ殺気を放っている事を……。

 

 

「ヤダナアサカモトショウサ、ガロードクントミーナチュウサガツキアッテイルワケナイジャナイデスカ……」

「え? ちょ、なんだリーネ? 目が怖いんだが」

 

 

「オフタリノジョークモワラエマセンワ……トネールデヤキキリマスワヨ?」

「あ、あれ!!? なんか私まずい事言った!?」

「びえー!? 殺されるー!」

 

人殺しの目をして脅迫してくる二人に心底ビビる三人、だがそんな中シャーリーは余裕の表情で皆に言い放った。

 

「まあ私はガロードに裸見られたからなー、そういう意味では一歩リードしてるな!」

「「「えっ!!?」」」

 

ウィッチ達の視線が一気にシャーリーに集中する、しかしリーネはすぐさま気を取り直して胸を張ってシャーリーに言い放つ。

 

「わ、私なんてガロード君に胸を揉まれました!(第一話参照)そういう方面では私が一歩リードしています!」

「な、なんだと!? 私だって揉まれた事あるぞ! しかも生で!」

「わ、わたくしもですわ!(第一話参照)」

「揉みすぎだろガロード……」

 

顔を真っ赤にして言い合いをする三人、そんな中エーリカとルッキーニは何かを思い出したかのように手をポンとたたいた。

 

「あ、そういえば私、ガロードにズボンの中を見られたことがある(第六話参照)」

「そういえば私もだ!(第六話参照)」

 

すると二人は挑発するように体をもじもじさせ始めた。

 

「つまりぃ、私はガロードに責任を取ってもらわなきゃいけないね!」

「そうだね!」

 

エーリカはともかく、ルッキーニは責任の意味がよく分からずノリで言っていた。すると二人の発言にリーネとペリーヌが噛みつく。

 

「お二人とも……次の任務の時は気を付けてください、私間違って撃っちゃうかも」

「トネール使うとき巻き込んじゃうかもしれませんが、まあ不幸な事故だと思って……」

「へ、へん! 脅そうったってそうはいかないぞ! 私だってガロードのこと結構気にっているんだから!」

 

今度は臆することなく反論するエーリカ、そんな中サーニャはぼそりと隣にいたエイラに話しかける。

 

「ねえエイラ……私たちもガロード君に裸見られているよね?(第五話参照)」

「またソレか、言っとくけど私はサーニャを渡すつもりはない、サーニャは私のy……ゲフンゲフン!」

 

ゴニョゴニョと言葉を詰まらせながら人差し指の先端同士をぐりぐりさせるエイラ。

 

「エイラ!」

 

するとサーニャは突然エイラの肩をガシッと掴み、いつもの眠そうな目とは打って変わってキリッとした目で彼女を見つめる。

 

「さ、サーニャ!?」

「エイラ聞いて……私はエイラとずっと一緒にいたいけど、お父様達に孫の顔も見せてあげたいの、そこで知ってる? この世界には“妻妾同衾(さいしょうどうきん)”というのがあるの」

「さい……なんだって?」

「妻と愛人が夫と一緒のお布団で寝る、妻公認の不倫で三人一緒に暮らすこと……つまり私とエイラが結婚して、ガロード君が愛人になれば私たちは女としての幸せを手に入れられるうえにいつまでも一緒でいられるのよ! これで一石二鳥よね!」

 

なんかもうツッコミ所が多すぎてツッコミきれないのだが、エイラはサーニャの謎の説得力に圧されて思考能力が低下していた。

 

「な、成程……それなら三人一緒に幸せになれるな!」

「でしょう? だから私たちもガロード君に責任とって愛人になってもらいましょう」

 

こうしてサーニャとエイラもガロード争奪戦に加わることになった。

 

「あ、あのみんな落ち着いて……」

 

事の発端になったミーナは必死になって今にも血の雨を降らせそうなウィッチ達を宥めようとする。

 

「なあミーナ、少し聞きたいことがある」

 

すると両肘をテーブルについて両手で頬杖をついていたバルクホルンがミーナに語りかけた。

 

「な、何トゥルーデ!? 何かいい方法を思いついたの!?」

「お前がガロードの恋人になるということは……ガロードの姉である私はお前のことを義姉さんと呼ばなければいけないのか?」

「かんっっっけいないわよね今ソレ!!!!?」

 

ゲルトルート・バルクホルン、この状況で一人フリーダムだった。おまけに本人は本気の本気なので始末に負えない。

そしてどんどん収拾がつかなくなる食堂、そんな時ルッキーニがある提案を出す。

 

「よおーっし! こうなったらガロードに誰がいいか直接聞いてみよう!」

「ルッキーニナイスアイディアだ!」

 

すごくいい笑顔でウィンクしながら親指を立てるシャーリー。

 

「ガロード君! 私たちの中で一番好きなのは誰!?」

 

目を血走せながらガロードの方を向くウィッチ達、はたしてガロードの答えは……!?

 

 

 

「あ、ごめん……聞いてなかった」

「わふーん」

 

いつの間にかテーブルの下にいた兼定にパンを与えていて、「あ、サンキューミーナさん」というセリフの後のウィッチ達の会話を聞いていなかった。

 

 

 

「「「「「「「「「「ズコーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」

 

一斉にひっくり返るウィッチ達、ついでに天井のシャンデリアがテーブルの上にガシャンと落ちたり、たまたま近くを通りかかった整備兵が窓を突き破って激しくズッコケたり、外にいたカモメが落下したり、四方のハリボテチックな壁が外に向かって一斉に倒れたり、最後に501基地が島ごとズモモモモと海に沈んでいくという見事なオチがついた。

20年後ぐらいにそのエピソードを聞いた扶桑の放送作家が、それを元に5人のコメディアンを用いた土曜8時の超国民的長寿コント番組を作るのだが、詳しい内容はいずれ機会があったら語るかもしれないし語らないかもしれない。

 

 

 

 

 

そんな騒動があったその日の昼、外は激しい雷雨に見舞われていた。

 

「うわー、ひでえ嵐」

「珍しいな、扶桑の台風並みじゃないか」

 

格納庫の入り口でガロードと美緒は外を眺めながら語り合う。

 

「リーネも洗濯物が乾かないとか言って困っていたな」

「この状況でネウロイが来たら苦戦は必至だな」

「おいおい、そういうこと言うと……」

 

その時、基地全体にネウロイ襲撃を告げる警報が鳴り響いた。

 

「ほら見ろ! フラグ立てたから来ちゃったじゃん!」

「わ、私のせいか!? すまん!」

 

ガロードのツッコミに珍しく慌てる美緒、するとそこに警報を聞きつけた芳佳とリーネが格納庫にやってくる。

 

「ネウロイが出たんですか!? 出撃します!」

「他のみんなも後から来るそうです!」

「よし……なら我々で先行しよう、ガロードも一緒に来てくれ」

 

 

数分後、芳佳、美緒、リーネ、ガロードは嵐の中ネウロイが出現した空域に向かっていた。

 

「もうすぐ目的地に着くぞ、皆気合を入れろ!」

『りょーかい!』

「はい!」

「……」

 

元気よく返事をするリーネとガロード、しかし芳佳だけは返事をしなかった。

 

「ん? どうした宮藤? 聞こえていないのか?」

「え? あ! はい! すみません……!」

「大丈夫芳佳ちゃん? 今朝から風邪気味だったよね?」

『あんまり無茶するなよ? ダメそうだったら下がったほうが……』

 

心配して声を掛けるリーネとガロードに対し、芳佳は無理やり笑顔を作って答える。

 

「へ、平気平気! なんともないから心配しないで!」

 

それを見た美緒は嬉しそうにいつものような大笑いをする。

 

「はっはっは! よくぞ言った宮藤! 病は気から! 気合で乗り切れ!」

「はい!」

 

 

 

そして四人はネウロイが到着した空域に到着する。

 

「いたぞ! ネウロイだ!」

「あれってこの前の300m級!? どうしてまた……!?」

 

するとネウロイは以前と同じように数十個の個体に分裂し、芳佳達に襲いかかる。

 

「来たぞ! 各機散開!」

「「はい!」」

『よっしゃ! 暴れちゃうぜ!』

 

美緒の指示で他の三人は分散してネウロイを各個撃破していく、その中でも特にガロードの動きは格段に目立っていた。

 

『へっへーん! こう広いとやりやすくていいぜ!』

 

ガロードはDXの機動力を最大限に利用し、MSにとって小さくて当てにくいネウロイをビームライフルで次々と破壊していく。

 

(スゴイ! ガロード君次々とネウロイを落としている……もしかして私達を攻撃に巻き込まないように今まで手加減していたのかな?)

 

離れた場所で狙撃をしていたリーネは、いつもより動きのいいDXを見て驚く、その時……すぐ傍で戦っていた芳佳の動きがおかしい事に気付いた。

 

「!? どうしたの芳佳ちゃん!? ふらふら飛んでいたら落とされちゃうよ!」

「ハァハァ……ご、ゴメン……!」

 

芳佳はふらふら飛行しているうえ、いつもは当てられるような銃撃も全然当てられなかった。

 

「……!? 宮藤どうした!? しっかりしないと……!」

「は、はい……!」

 

しかしその時、芳佳の後ろにいたネウロイの一体がビームを放つ、そのビームはそのまま芳佳のストライカーの先端のプロペラ部分を撃ち抜いた。

 

「あ……!」

「宮藤!?」

 

間髪いれず二射目を放とうとするネウロイ、それに気付いた美緒はすぐに芳佳の前に立ってシールドを張った。

すると放たれた二射目のビームは美緒のシールドを撃ち抜き、彼女のストライカーを破壊した。

 

「うっ……」

「ああああああ!!?」

 

そして宮藤は力尽きるように、美緒は破壊されたストライカーの制御が出来ずに、近くの無人島に落下していった。

 

「芳佳ちゃん! 少佐!」

『く……!』

 

ガロードはすぐさま落下していく芳佳と美緒を追いかけていく。

 

「ガロード君!」

『リーネは撤退してシャーリー達と合流しろ! 二人は俺が連れて帰る!』

「そんな……! きゃ!!」

 

リーネは自分も付いて行こうとするが、大量のネウロイに行く手を阻まれてしまい、そのまま口惜しそうにその場から撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ……はあっ……」

「おいどうした宮藤!? しっかりしろ!!」

 

数分後、空中で芳佳と美緒を受け止めたガロードは、そのまま無人島に着陸し二人を地面に降ろす。

 

「もっさん! 芳佳はどうしたんだ!?」

「そ、それが……さっきから呼吸が荒いんだ、それにどうやら熱が……!」

 

ガロードは試しに芳佳のおでこを触ってみる、すると芳佳のおでこは通常より明らかに熱くなっていた。

 

「スゴイ熱じゃないか! どうしてこうなるまで……!」

「だって……私はウィッチだし……休んでいられないと思って……」

 

熱で顔を真っ赤にし、息も絶え絶えに芳佳は語る。彼女は風邪の症状が悪化していくにも関わらず、皆に迷惑をかけまいとやせ我慢をしていたのだ。

 

「とにかくコックピットで休ませよう、ここじゃ病状が余計に悪化する」

 

そう言ってガロードは芳佳を背負い、美緒と共にDXのコックピットに入った。

 

 

 

一方援護に来たミーナ達と合流したリーネは、彼女達と共に悪化していく状況に絶望を感じていた。

 

「そ、そんな……! ネウロイが増えている!」

 

ガロード達が着陸した無人島の周りに、もう一体同じ形のネウロイが現れ、最初に現れたネウロイと同じように分裂し無人島を囲っていたのだ。

 

「これだけの数じゃ近付けない……!」

「おい少佐! 宮藤! ガロード! ……ダメだ! 通信も妨害されている!」

 

そう言って悔しそうに歯噛みするバルクホルンとシャーリー、そしてミーナは心苦しそうにある辛い決断を下す。

 

「……ここでこうしていても仕方がないわ、一度基地に帰還して作戦を考えましょう」

「ミーナ! 三人を見捨てるの!?」

 

ミーナの決断にエーリカが珍しく声を荒げ反論する、そんな彼女をバルクホルンが宥める。

 

「よせハルトマン、ミーナだってよく考えて決断したんだ」

「くっ……判っているけどさ……!」

 

エーリカはまだ納得していない様子だったが、とりあえずミーナの指示に従う事にしたのか、彼女に背を向けた。それを見ていたペリーヌは少し自嘲めいた笑みを浮かべた。

 

「というか……ワタクシより先にエーリカさんが噛みつくなんて以外でしたわ」

「仲間を心配するのは当たり前じゃん……それよりも早く基地に戻って作戦を立てよう」

 

 

 

一方DXのコックピットの中に避難した美緒とガロードは、モニターで外のネウロイの様子を監視しながらシートに寝かせている芳佳の額に濡れタオルを乗せていた。

 

「やつら、どうして俺達を襲わないんだ? 何にせよ助かるけど……」

 

ふと、ガロードはすぐ傍にいる美緒を見る、彼女のいつもの豪快な雰囲気は陰っており手をぎゅっと握りしめて歯ぎしりしていた。

 

「情けない……! 隊長なのに隊員の異常にも気付かなかった! それどころか気合でなんとかしろなどと……!」

 

自分の先程の発言と行動を思い出し激しく後悔する美緒、そんな彼女をガロードは優しく励ます。

 

「もっさんだけのせいじゃねえよ、傍にいた俺やリーネだって気付けなかったんだし、こいつが変に我慢しすぎたせいでもあるんだ、だからあまり自分を責めるのは……」

「それでも、それでも私は……!」

「う、ううう……!」

 

その時、芳佳は突然震えだした。

 

「ん!? 芳佳どうした!?」

「いかん、体温が下がってきている、クソ! 私にも治癒魔法が使えれば!」

「使える本人がこれじゃあなあ」

「……よし!」

 

すると美緒は何か思いついたのか、徐に軍服を脱ぎ捨て、さらにスク水風スーツの上だけを脱ぎ始めた。

 

「わあああああ!!? いきなり何してんだもっさん!?」

 

美緒の行動に驚いたガロードは慌てて美緒から視線を反らした。

 

「体温が落ちたのなら人肌で温め合うのが一番だ! む……それだと宮藤も脱がせる必要があるな」

「ううぅ……」

 

そう言って美緒は今度は熱で苦しむ芳佳の服を脱がし始める。

 

「だから〜! なんで俺がいる時にするかなあ〜!? しょうがないから俺は外へ……」

 

そう言ってコックピットから出ようとするガロードの手を美緒はガシッと掴んだ。

 

「どこへ行くガロード?  お ま え も ぬ ぐ ん だ 」

「簡便してください! 俺には……! 俺には心に決めた人が!」

「はぁーはっはっは! 問答無用!」

 

美緒はなんか悪役っぽい笑顔で嫌がるガロードの服を無理やりはぎ取った。

 

「いやあああああ!!! もっさんのケダモノおおおおお!!!」

 

雨が降りしきる曇り空に、絞め殺された鶏のようなガロードの悲鳴が響き渡った……。

 

 

 

 

 

「ううう……ティファにも見せた事ないのに……!」

 

数分後、そこにはコックピットの端っこでパンツ一丁で大切な物を散らしてしまった乙女のようにさめざめと泣くガロードの姿があった。

 

「泣いている暇はないぞ! 早く宮藤を温めるのだ!」

 

そう言って上半身裸の美緒は上半身裸の芳佳にピトッと抱きついた。

 

「あ、あの……ホントにやらなきゃダメ?」

「お前! 宮藤を助けたくないのか!?」

「判りました……」

 

美緒に怒られガロードは渋々、そして顔を真っ赤にしたまま芳佳に抱きつく。

 

(あああ〜……! 柔らかい、そしていい匂い……ティファゴメンよ! ゴメンよぉ〜!)

 

ガロードは芳佳の温もりを直に感じながら、心の中でティファに何度も謝った、その時……芳佳がうつろな声で美緒とガロードに話しかける。

 

「ごめんなさい……二人とも……私のせいで……迷惑かけて……」

「な、何気にするな、お前はゆっくり休んでいろ」

「坂本さん……私死んじゃうんでしょうか……? こんなに苦しいの生まれて初めて……」

「そ、そんな事……」

 

高熱でうなされる芳佳は、今まで吐いた事の無いような弱気を吐いてしまう。それに対して美緒はうろたえて何も言えなかった、すると……ガロードは芳佳の手をギュッと握りしめて彼女に優しく語りかける。

 

「大丈夫だ……芳佳は死なない、俺達が死なせるもんか、だから安心して眠っていろ」

「う、うん……」

 

すると芳佳はすうっと目を閉じて眠ってしまった。

 

「眠ったか……震えも収まったみたいだな」

「ああ、何か掛けてしばらく寝かせよう」

 

 

 

数分後、二人の上着を掛けた芳佳の容体が安定したのを確認したガロードは、コックピットの外で体育座りで項垂れている美緒の元に向かった。

 

「はぁぁ〜……」

「どうしたんだもっさん? ため息なんてらしくないじゃん」

「……私だってため息ぐらいつくさ、今日ほど自分の無力さを呪った日は無い……」

「そんな気にするなよ、誰だってミスはあるだろう?」

「いや……私の場合そう言う訳にはいかない、宮藤の事ならなおさらだ」

「あん? どういうこった?」

 

ガロードは美緒の隣に座って彼女の話を聞く態勢にはいった。

 

「ガロード、お前は……我々ウィッチの“あがり”の事は知っているか?」

 

ガロードは首を横に振る。

 

「我々ウィッチは一部の例外を除いて、20歳を過ぎると魔力を失って飛べなくなるんだ、私ももうすぐ飛べなくなる……」

「ええっ!? そうだったのか!?」

 

初めて聞くウィッチの真実にガロードは一度は驚くが、そう言えば自分が会ったウィッチは皆20歳以下だったなと思い出しすぐに納得した。

 

「だから私は、私の代わりに世界を守るウィッチを育てなくてはならない」

(だからもっさん……特に芳佳に目をかけていたのか)

「だが今回のような事になるとは……私の今までしてきたことは一体なんだったんだ!?」

 

そう言って美緒は自分に対する不甲斐なさへの怒りで、地面に自分の拳をガンッと打ち付けた。

そんな彼女の手を、ガロードはそっと握った。

 

「もっさん……あんまり自分を責めんなよ、人間誰だってミスはあるんだ、俺だって昔……自分のミスで仲間に大けが負わせたことあるしよ」

「……? お前にもそんなことがあったのか?」

「ああ、俺がまだフリーデンの一員になったばっかりの頃だったかな、その時の俺、ちょっと考え事しながら作業していたせいで仲間を危うく下敷きにしちゃいそうになってさ、おまけにそのあと、名誉挽回しようとMS工場の機材を持ち出そうとしたら敵に襲われて、そこにあった動力炉が暴走して大爆発を起こしたんだ、幸い俺は無事だったけど助けようとしてくれたジャミルに大けがを負わせちゃってさ……ははは、あの時の俺ってホントかっこ悪かったんだよな」

「お前にそんなことが……」

 

美緒は初めて聞くガロードの昔話に真剣に耳を傾ける、そしてガロードはすっかり暗くなった空を見上げながら再び語り出した。

 

「もっさん……あんまり焦るのはよくないぜ? じゃないと俺みたいにとんでもないバカやっちまうぞ、もっとこう……リラックスした方がいいぜ」

「リラックスか……そうだな、お前の言うとおりかもしれん……」

 

美緒は先ほどまでの落ち込んだ表情はどこへいったのか、今はすっかり優しい微笑をガロードに向けていた。

 

「いやーしっかし、もっさんのあんな様子初めてみたぜ、いっつも豪快に笑うか厳しく怒鳴るかのどっちかだからさ……」

「ひ、人をなんだと思っているんだ……これでも昔は宮藤みたいにオドオドしてばかりだったんだぞ」

「ぶっーー!!?」

 

美緒の言葉を聞いて、笑いのツボが刺激され思わず吹き出すガロード。

 

「貴様! 笑うとは何事だ!?」

 

それにむっと来た美緒はガロードにヘッドロックを決める。

 

「だ、だって芳佳みたいなもっさんなんて想像できないぜ!!? だははははは!!」

「わ、笑うなあ〜!!!」

 

ガロードがあまりにも笑うので、美緒はムキになって怒り顔を真っ赤にしていた。

 

 

そして数分後、ようやく落ち着いてきたガロードは息を切らしながら美緒に謝罪していた。

 

「はーはー……いやあ悪いもっさん、あまりにも面白くてよー」

「まったく……次に笑ったら刀の錆にしてやるからな、それにしても……こうやってふざけあうのは久しぶりだ、醇子や徹子と一緒にいた頃を思い出す」

 

そういって美緒は昔を懐かしむように空を見上げる。

 

「その人たちってもしかして……もっさんが新人だった頃の仲間?」

「ああ、今は別の場所でネウロイと戦っている、しばらく会っていないがな……」

「んじゃ、ネウロイ全滅させたら同窓会でも開いたら? 芳佳やエイラ達も誘ってさ」

「それはいい! また一つネウロイを倒した後の目標ができたな! はっはっはっは!」

(ははっ、ようやくいつものもっさんに戻ってきたな、よかったよかった)

 

ガロードはいつものように豪快に笑う美緒を見て一安心していた……。

 

 

 

 

 

その頃無人島周辺では、基地に戻り作戦を立て直したミーナ達が再び戻ってきた。

 

「これより私たちは三人の救出作戦を行います、まずはペリーヌ機とルッキーニ機、そしてハルトマン機が先行し、他の隊員は彼女達の援護を」

「どこか一点でもネウロイの集団に穴を開けて、そこから少佐達を救出する」

「ここに少佐がいればコアを狙い撃ちできるんだけどね……ま、ない物を強請ってもしょうがないか」

 

皆の緊張をほぐそうと、エーリカは作戦前にも関わらず軽口を叩き、それを咎める者はいなかった。

 

「それでは作戦開……!!?」

 

その時、号令を下そうとしたミーナは上空から何かが近づいてくる事に気づく。

 

「あれは……あの時の!?」

 

エイラはその何かが先日自分たちに襲いかかった仮面のウィッチということに気付く。

 

「……」

 

仮面のウィッチはそのままネウロイの集団にビーム弾を撃ち込んでいく、するとネウロイの集団の一部はそのまま仮面のウィッチに向かっていった。

 

「あのウィッチ……まさか私達を助けてくれるの?」

「なんにせよ有難い! 我々も続くぞ!」

 

 

 

一方その様子に気付いたガロード達もすぐさま出撃の準備を始めようとする。

 

「皆が助けに来てくれたのか! もっさん! 飛べるか!?」

「いや……さっきの攻撃でストライカーが……! 宮藤もダメだ!」

「しょうがねえ、DXに乗れ!」

 

ガロードは美緒をDXに乗せてコックピットハッチを閉じ、外の様子をモニターで見る。

 

「皆苦戦しているな……この前の倍の数だからな」

「くそ! 一体どうすれば……! そうだ!」

 

突如美緒は何かを思いついたのか、突如シートに座っているガロードに抱き寄った。

 

「うおっと!? なんだよいきなり!?」

「私がコアの位置を指示する、お前はそれをビームライフルで撃ち抜いてくれ」

「成程ね……判ったぜ!」

 

美緒は眼帯を取り捨てて自分の右頬をガロードの左頬にぺったりとくっつけ、左手は操縦桿を握る彼の手の上に乗せる。

 

「頼むぜもっさん……!」

「任せろ!」

 

ガロードは魔力で光る美緒の右目の光を感じながら、操縦桿を握る左手の力を強める。

 

「くそ! どこにあるんだコアは……!」

 

 

 

一方空で戦っているミーナ達も、コアを見つけようと必死にネウロイと戦っていた。

 

「うにゅ〜! 数が多すぎる〜!」

「泣きごと言うなルッキーニ! 敵は待ってはくれないぞ!」

「もう! 勲章はお腹一杯だよ!」

「弾も無くなってきた……コレは本格的にきついな」

 

 

そう言って冷や汗をかきながら戦うウィッチ達、その時エイラと小隊を組んで戦っていたサーニャが仮面のウィッチの様子に気付いた。

 

「……!? サーニャあの人……!」

「あん? なんだあいつ……ここから離れていくぞ」

「……!? まさか!」

 

 

 

仮面のウィッチは群れから離れていたネウロイの一団に向かってビームを放つ、するとその一つがネウロイの個体に命中し、次の瞬間半数近くのネウロイがガラス片になって砕け散った。

 

「きゃ! まさかあの方、コアの居場所が判っていましたの!?」

「一体どんな魔法を……!」

 

底の見えない仮面のウィッチの能力にペリーヌとリーネは驚愕する。

 

 

「……」

 

一方仮面のウィッチはそのまま動きを止めてDXの方を見た。まるで何かを伝えるように。

 

 

 

 

 

「うっ!?」

 

同じころ、ネウロイのコアの位置を探っていた美緒は、突然頭の中に“キィィィィン”と不快な金属音のようなものが響くのを感じた。

 

「どうしたもっさん!?」

「い、いや……何でもない、ん?」

 

ふと、美緒はモニターに映るネウロイの集団の中に、コアを持つネウロイを発見する。

 

「いたぞ! 標準を右30度ずらせ!」

「わかった!」

 

そしてモニターに映る標準がコア持ちのネウロイをロックオンする。

 

「今だ! 撃てー!!!」

「うおおおお!!!」

 

美緒の言葉でガロードは勢いよく引き金を引く、するとビームライフルから放たれたビームは見事コアを持つネウロイを貫き、残りの他のネウロイもすべてガラス片になって砕け散った。

 

「やった……!」

「ああ……」

 

美緒はそう答えながらモニターに映る仮面のウィッチを見る、すると仮面のウィッチはそのまま何処かに去っていった。

 

(先程の感覚……まさか奴が……?)

 

 

 

その後、ガロード達はミーナ達に無事保護され、医務室に運ばれた芳佳の体調も次の日には回復に向かっていた……。

 

 

その次の日の昼、ガロードはリーネとペリーヌ、そして美緒と共に芳佳のお見舞いをしに医務室に足を運んでいた。

 

「芳佳ちゃん、もう大丈夫なの?」

「うん、もう平気……心配掛けてごめんね」

「ふ、ふん! わたくしは別に心配なんてしていませんわ! これからはちゃんと体調管理に気を付けるように!」

 

そういってペリーヌは芳佳からプイッと目をそらした。

 

「そんなこと言って……ペリーヌも結構心配していたよな」

「が、ガロードさん、からかわないでくださいまし……」

 

ガロードに褒められ頬を赤く染めるペリーヌ、その時……美緒は芳佳の毛布で何かもぞもぞ動いていることに気付く。

 

「ん? 宮藤……毛布の中に何かいるぞ」

「ああ、兼定ですよ、ホラ」

 

芳佳が毛布をめくると、そこには芳佳の膝の上でちょこんと丸まっている兼定がいた。

 

「ははは……兼定は本当に宮藤が好きなんだな」

「使っている使い魔が同じ豆柴だからでしょうか?」

「くぅーん」ウヘヘ

(なんかこいつ怪しいな……)

 

芳佳達の見えないところでいやらしく笑う兼定を見て怪しむガロード。そして彼はそのまま芳佳に話しかける。

 

「何にせよもう無茶してみんなに心配かけんなよ、お前だってここの一員なんだからさ」

「う、うん……」

 

すると芳佳は顔を真っ赤にして毛布の中にもぐりこんだ。

 

「どうしたの芳佳ちゃん?」

「な、なんでもない、多分熱がまだ残っているんだよ」

「そう……?」

 

リーネの心配する声に答えながら、芳佳は毛布の中で昨日のガロードの言葉を思い出していた。

 

 

――死なせるもんか!

 

 

(ガロード君の手……暖かかった……お父さんみたいに……)

 

芳佳は自分の手の中に残るガロードの温もりを思い出す、すると胸がチクチクと痛みだし、彼女は胸をぎゅっと手で掴んだ。

 

(なんだろうこの気持ち……私どうしちゃったんだろう……?)

 

芳佳は自分の中に芽生えたガロードに対するある感情に戸惑いながら、静かに目を閉じた……。

 

 

 

説明
第八話です、美緒がメインのオリジナル話です。
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コメント
>>FDPさん 笑いとシリアスのバランスは難しいです……でも気に入っていただけて何より(okura)
!!!!坂本さんだけでなく、芳佳ちゃんまでも・・・・・!!!                                ていうか、シリアスなんだかお笑いなんだか分からなくなってきました                                      だけど・・・それが、イイッス!!!!(FDP)
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