博麗の終 その10 |
【吸血鬼というもの】
鳥居の両脇はかがり火が焚かれて、ぼんやりとその朱さを主張している。
その向こうには、博麗神社へと参拝するための石段が続いているのだけれど、いくら覗き込もうとも数段以降は夜の闇に塗り潰されてしまう。
確かに会合の時、魔理沙が冗談めかして言ってはいた。
『あいつのことだから、いつもみたいに石段を上がって行くんじゃないのか?いくら本気だなんだって言ってもさ、正面突破好きは変わらないだろう』
対して、永琳は『本気なのだから、効率重視で向かってくる』と主張した。
霊夢の部屋のある、神社側面へのダイレクトアタック。または超上空から真下に飛び込んで天井を突き破る突入法。この2点の防御を重視する方向で話がまとまっていた。
当然だ。天才に論理で逆らえるものなどいやしないのだから。
『今だからこそあいつも、普段通りに、行きたくなるんじゃないかなあ……』
魔理沙の呟きは、届かなかった。
結論として、魔理沙の思いつきに軍配が上がる形となった。
レミリア・スカーレットは、石段を一段一段、丁寧に上がってきているとの報告を受けた。
いつものように、傍には従者が控えているらしい。
時間が昼で、従者が日傘を差していれば、ややもすると普段と変わらない様子に見えるのかもしれない。
ただしそれは遠目に見た場合か、よほど遠視のものに限る。
近場にいたら、人なら卒倒する。
妖怪なら、逃亡を試みる。
その場に留まることのできる者など、ごく限られた一部だけだ。
味方以外、身内以外、あるいは自分の認める存在以外、一切を拒絶していることがさとり妖怪のように理解できてしまう。
理解などしたくもないのに、本能が証明してしまうのだ。
近付けば、気絶するよりも早く殺されることを。
かくして、月の頭脳こと八意永琳の想定は外れた。
神社上空からの突撃を絡め取る結界も、側面に配置された強靭な者たちの肉壁も、いくつかの想定に合わせて行ったシミュレーションと演習も、その一切を無駄にした。
八意永琳には勝算があった。
冷静ならば博麗霊夢を吸血鬼化しようとは思わないはずだから、全てが無駄になって『めでたしめでたし』で話は終わる。レミリア・スカーレットは博麗神社を訪れないのだ。
しかし極限まで感情が暴走しているならば、永琳の思惑通りの手法で突撃を仕掛けてくるはずだった。
長年生きてきた天才が、真剣に考えて出した予測である。外れようはずもない。
だからこそ、今、一段一段登って来るレミリア・スカーレットに対して、永琳は激しい戸惑いを感じてしまう。
『あれは、何だ?』
この現実に行われている手法でやって来るレミリアの心の内が、その一部さえも読むことができなかった。
博麗神社へやって来るという選択と、来る手法がちぐはぐなのだ。
博麗霊夢を吸血鬼化しに来たはずなのに、あえて困難な手法でやって来るという意味が、天才の頭脳をしても解釈不能だった。
それはきっと、天才だからこそ、わからないことなのだ。
コツンコツンと足音を立てて、鳥居の向こうからやって来る。
幻想郷の誰もが出会ったことのない、本気の吸血鬼がやって来る。
まだ、姿は見えていない。
が、抵抗力の弱い人間から気を失う者が出始めたようだ。
境内に配置されている者たちから言葉が消えて、静寂が広がっていく。
虫や、鳥や、獣の声などあるわけがない。
まともな生物ならすでに逃げ出している。
後に卒倒した人間が言った。
『空気がおかしい』
『呼吸ができない』
『体が動かない』
『内臓が動かない』
『脳が動かない』
――生きていられない――
種として他を圧倒する吸血鬼が、今、姿を現す。
まずは愛用の帽子が見えて、次いでやや後ろに控える従者の銀髪が見える。
そして、目が――――
事前に『見てはいけない』と強く言われていたにもかかわらず、直視してしまった数人がまた倒れていく。
嫌々ながらも人間を率いているアリスは、『これじゃあ何もできないじゃない……』などと考えている。
副指揮官の慧音と視線を交わして、『レミリアとは関わらない』ことを選択することを確認し合った。
敵は、あの二人の他にもいるはずなのだから。
レミリア・スカーレットはゆっくりと石段を登り切り、鳥居の前に立った。
従者もすぐ後ろに控えて、主の動きを待つ。
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幻想郷は、吸血鬼の恐ろしさをわかっているのでしょうか。 | ||
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