とある海賊の商人記録 2
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■月15日

もう大丈夫、治った。

そう朝から仲間たちに言ってまわる。

もう大丈夫だから今日は出掛けてくる、と仲間たちに伝え、俺は外出の準備を始めた。

 

あの時からしばらくベッドの上生活だった。

いや、動けなくはなかったんだけど、さ。

看病してくれてた航海士が、動かないでください安静にしててください私がちゃんと看病しますから、と。

 

あの、

まあ、

あれには抗いがたい。

よな。

 

ここ数日の甘い甘い安静生活を思い出しながら、俺は部屋を出る、と

 

っうお。

 

部屋からでてすぐに、俺の頭目掛けて上からなんか降ってきた。

間一髪で避ける。

…朝からずっとこうだ。

何かしら降ってくるわぶつかりそうになるわ転びかけるわ。

なんなんだ。

 

高い所から落下し、バラバラになった物体に視線を落としながら俺は不可解な気持ちになる。

そんな俺にへらっと笑いかけながら仲間が話しかけてきた。

 

「ああ、なんか皆『キャプテンを怪我させたら、責任もって看病しなきゃいけないらしい』って言ってたよ」

 

仲間の言を聞いて、俺はさらに不可解な顔となる。

それでなんで俺が攻撃されるんだ。

そう呟くと仲間は笑ったままこう言った。

 

「キャプテンを看病したいんじゃない?独り占めできるだろ?」

 

いやおかしいだろそれ、…歪んでるだろそれ!

 

嫌だもう、と軽く涙目になりながら俺は額に手を当てる。

頭痛くなってきた。意味がわからない。

 

これ以上ここにいたら俺の身が危ないな。

そう考えた俺は若干身震いしたのちに、じゃあ出掛けてくる、と足早に外へ向かった。

 

競歩ならいい記録がでるんじゃないかと思うほどの速さで慌てながら。

しばらく歩みを進め、十分離れた場所でようやく俺は一息つく。

 

さて、カリムーんとこ行くか!

 

 

カリムーたちの家に向かってトコトコ歩く。

3回目だから、あまり迷わずに…、

迷わずに…。

 

 

…迷っ

 

 

あああったここだ!

おうわまた迷ったかと思った!

ここわかりにくいっつの。

人里離れすぎ。

 

はぁ、とため息をもらして俺は扉をノックする。

中から声が聞こえたのを確認し、俺は扉を開けて声を出した。

 

「よう!約束通り、土産話を持ってきたぞ!」

 

「あ、いらっしゃい。おかえり、久しぶりだね」

 

俺が声をかけると、アイツが笑いながら返事を返す。

その返事を聞いて俺は少し戸惑った。

 

…おかえりって言われた。

なんか家に帰ってきたみたいだ。

 

そんなことを考えたからだろうか、つい顔がほころんだ。

 

「…おう」

 

俺がへらっと返事をすると、アイツは座ってて、カリムー呼んでくる、と言って部屋から出て行った。

言われた通り、素直にテーブルにつく。ほどなくしてカリムーが来た。

カリムーが俺と向かい合うように座り、アイツはそのままキッチンに向かう。

アイツを軽く目で追っていたら、カリムーが話しかけてきた。

 

「おかえり。…何か面白いことでもあったのか?」

 

そう言われ、少しキョトンとした俺に向かってカリムーは、楽しそうに顔が笑ってる、と微笑む。

 

ああまぁな、と俺は曖昧に返したが、…そんなに顔笑ってるかな。

俺はカリムーから視線を逸らし、口元を手のひらで軽く覆う。

そんな俺を見て、カリムーはまた微笑んだ。

 

しばらくして、アイツが3人分のお茶を持ってきた。

幸いと、俺はこの間あったことを話始める。

 

「ここより少し北の海でな…」

 

あの時の、化け物を退治した話。

それを身ぶり手振り交えて話した。

 

話終わってどうかな、と目でふたりに聞いてみる。

ご満足いただけたでしょーか?

 

「凄いな。…俺らが旅した時はそんな化け物は見たことなかったぞ」

 

感心してくれたカリムー。

 

「大変面白い話でした」

 

と拍手してくれたアイツ。

 

合格点もらえたかな。よかった。

俺はほっと胸を撫で下ろす。話し下手というわけではないが、上手く話せたか心配だったんだ。

安堵している俺に、アイツが頬を掻きながら笑う。

 

「まぁ、ちょっと脚色がひどいけど…」

 

…いや、全く脚色してないんだけど。

 

俺がそう言っても、まさか、とアイツは信じない。

まぁいいさ。

楽しんでもらえたなら。

そう思いつつも俺は頭を掻く。

そのままアイツはポツリと呟いた。

 

「…でも、そうだな」

 

ん?

 

「暗いとこで寝てたらいきなり明るくなって起こされて、ムカついたから執拗に追いかけた、ってのは少し気持ちがわかるかな…」

 

…え?

お前化け物の方に同調すんの?

そっちの気持ち代弁すんの?

つまり、あの化け物はただ単に寝起きが悪かっただけってか?

んな馬鹿な。

なんで思考がそっちいくんだ。

 

…変なヤツ。

 

アイツの変な言動に少しばかり頭を捻りながらも、三人でいろいろな話を続けた。

まったりとした時間。

…なんかここ落ち着くなあ…。

 

ぼんやりと少し目を細めていたら、「あれ?」とアイツが俺の背中をみて声を出した。

 

「血がにじんでる」

 

そう言われて思い出した。包帯代えるの忘れてた。

あの時の傷の痛みはあまりないものの、じわりじわりと血がにじむ。

まだ完全に治ってはいないから、と一日数回は包帯を換えてはいたが、今日はまだ一度も換えていなかった。

 

やべ、と頭を掻く俺を見て、アイツは棚から救急箱を持ってくる。

そして、手当てする?と小首を傾げながら問われた。

 

……。

オネガイシマス。

 

血をにじませたまま、町を歩く気はない。

そう考えて俺は服を脱ぎアイツに背中を向けた。

手際よく包帯を巻いてもらう。

 

…慣れてるな?

 

「まぁ、したっぱ水夫だったからね」

 

雑用は何でもやったよ、いろいろやらされたし。とアイツは頬をかきながら言う。

ありがとう、と礼を伝え、アイツの手に視線を落とす。

ボロボロの、働き者の手だった。

 

…水夫って大変なんだな。

明日からウチんとこの水夫に優しくしよう。

 

俺は少し目を伏せて、今更ながら水夫の仕事の過酷さについて考える。

しんどい割にはあまりいい目をみられない。

報酬の配分も最後、朝昼晩と働き詰めで、…船長によるけれど…怪我をしても手当てすらされない。

船の上で水夫の命は、使い捨てられることが、少し、多い。

 

俺は顔を上げてアイツを見た。

…船に居たとき、コイツは大丈夫だったのかな。

 

そんなことを一瞬考えたものの『今ピンピン生きてんじゃねーか』と気付いた。

いい船長に恵まれたんだろう、きっと。…少ーし厳しい優しい船長に。

 

いろいろと話し、いろいろと考えていたら外が少し薄暗くなっていた。

…時間がやばくなってきたから、そろそろ帰るか。

 

「じゃあまたくるからな!」

 

「いってらっしゃい。楽しみにしてるよ」

 

「気を付けろよ」

 

帰る旨を伝えると、ふたりは笑って『また好きなときおいで』と手を振った。

 

それに応えるように手を振り返し、俺は帰路につ。

さて、明日からまた仕事再開だ。

しばらく休んだツケを払わねーと。

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▽月13日

最近は遠くへ積荷を運んだり、大掛かりな仕事が入りはじめた。

…世間にもじわじわとだが、商人だって認知されるようになってきたな。

いいことだ。

 

今日は遠くの国に運搬。

行ったことのない国だ。

そう伝えたら、

依頼人から地図をもらった。

…目的地は北だな。

グレートクインよりもっと北か。

あっこ半端に寒いんだがな。さらに寒そうだ。

 

少し仲間たちと話し合い、船を少し改造することにした。

寒さに耐えられるように。

…寒すぎて船が割れただのヒビ入っただの、そんな事態になるのは避けたい。

 

あとは全員の防寒具…。なんだけど、この辺にはあんま売ってないな…。

作るのも大変だし、別の国で買うか。

半端ない寒さにも耐えられるくらいの防寒具。

どこに売ってるかな。

 

 

▽月18日

依頼された国に向かって特に異常なく航海中。

つっても北に進むに従い、少しずつ肌寒くなってきていた。

いまさっき立ち寄った国で買った防寒具を全員に渡す。

モコモコー、と女性陣がはしゃいだ。

 

「今はまだそれほど寒くはないでやんすね」

 

まーな。

っつても、依頼人が凄く寒いから気をつけてください、って言うくらいだからな。

用心するにこしたことはない。

 

 

▽月20日

北へ北へ。

ぐんぐん船を進めて、…

…寒っ!

 

うわ、スゲーなこれ。マジ寒いわ。

 

冷たい風を防ぐすべのない船の上。全員防寒具着こんで休みなく働く。

少し休め、と言ったら、

動いてないと寒い、と返された。

たしかにな。

ここで下手に寝たら多分死ぬ。

 

軽く欠伸をかみ殺し、俺は頭を掻いた。

下手に寝れない、というか、寒くてなかなか寝付けないせいで全員軽く睡眠不足。

早く陸にいかないと。

 

そう考えて少し船の速度を上げるよう指示を出した。多少なら無理しても、多分大丈夫なはず…。

 

指示を出してすぐ、ゴッと船に何かがぶつかる音と衝撃がした。

何だ?と慌てて甲板に出る。が、

うわ外さっむー…。

 

息を白くしながら、ガチガチ歯を鳴らしながら、何かがぶつかったらしい音がした箇所を覗き込む。

なんだあの馬鹿デカい塊。

 

「ちょっと調べてみるよ」

 

不可解な顔をする俺に向かって、学者の仲間が言った。

命綱つけて綱の片端をマストに縛り付ける。

手の空いている仲間たちがその綱を掴んで支え、学者はスルスルと船の側面に沿って降りていった。

降りる度に綱がギシギシ音をたてる。

綱がたゆんだり、引っ張られたりする。学者がぶつかったモノを触ったり削ったりしているんだろう。

少し綱が嫌な音をたて始めた頃、ようやく学者から合図があった。

 

「おーい、わかったよ。引きあげてくれ」

 

声と引きあげて欲しいというジェスチャーを確認した俺は、綱を掴む仲間たちに引き揚げの指示を出す。

 

ギシギシとマジ嫌な音が甲板に響く。あと少しだから耐えてくれ綱。

ハラハラしながら甲板の仲間を、登ってくる学者を見守る。

よっ、と小さく声をあげ、学者がようやく姿を見せた。良かった無事に引きあげることが出来た。

綱切れなくて本当よかった。

 

ほっとしていたのも束の間。学者が持っていた欠片を差し出しながらこう言った。

 

「あれ、氷だ」

 

…氷?

馬鹿デカい氷だな。

 

「水温も低いし、海が凍ったって感じだ。だからあの大きさなんだろうな」

 

で、サイズが大きいからか非常に冷たいからかわからないが、とても固い。と言う。

そりゃ困るな。

いくつもぶつかってこられたら船がもたない。

 

「…!、キャプテン…」

 

嫌そうな顔の俺に向かって、仲間が俺の袖を引っ張りながら船の進行方向を指差す。

何だ?と指差された方の海を見ると、

 

うっわ。

 

見渡す限りの海にプカプカと氷の塊が浮いていた。

小さいのは波に流されながら、大きいのはドンと陸地のように浮いている。

…多くね?

 

若干青ざめながら、俺は大工の仲間に問いかける。

あれ、耐えられるか?と。

すこぶる困った顔をしながら、ふたりの大工の仲間はお互い顔を見合わせ、俺に言う。

 

「…小さいのなら何とか大丈夫、だと思うけど…」

 

「デカいのは多分無理だ。…地面に突っ込むようなもんだしな」

 

あれ固いんだよね?…なら、小さいのも大量にぶつかると危ないかも、と。

 

だよなぁ…。

ふたりの船大工の困ったような顔につられて、俺も困ったような顔になる。

俺は軽くため息をつきながら、眼下に広がる冷え冷えとした海を眺めた。

引き返すにも、潮の流れが変わったせいか、船全体が氷に包囲されている。

まずいな、と小さく呟いた俺に褐色の肌の航海士が声をかけてきた。

 

「…今、引き返すならダイジョウブです」

 

へ?

 

「進行方向より氷の量もサイズも大したことないです。多分あまり破損なく帰れます」

 

そうか。

…どうする?

 

 

→ 先に進む

 

  引き返す

 

  待つ

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…先に進もう。

 

全員寝不足で、なおかつこの寒さにまいっている。航海日数を増やすのは危険だ。

予定通りなら、もうすぐ陸につくはず。戻るよりは目的地に向かう方が早い。

 

俺はそう考えて、その旨を航海士に伝える。

俺の指示を聞いた航海士は笑って、俺の指示を了承した。

 

「了解です」

 

その返事を聞いて、俺は操舵室に向かう。

少し驚いたような表情をする航海士に、こっからは俺が舵とるよ、とぽんと頭を撫でて伝えた。

 

何か言いたそうな航海士を尻目に、俺は大声で浮いてる氷の動向を教えてくれ、と仲間たちに指示する。

 

協力よろしく。

生きて帰ろうぜ。

小さいのは数個ぶつかっても問題ないみたいだしな。

どっちかってーとデカいのに気をかけてくれ。

…なんかもう小さいのはぶっ壊す勢いで構わない。

数が多いからいちいち避けるのも面倒だ。

 

そう伝えると、仲間が呆れたように俺に言う。

 

「…結構キャプテンは問題を力業で解決しようとするでやんすね」

 

…ガンガンいこうぜ。

 

「嫌いじゃないでやんす」

 

そりゃどーも。

 

さて…、プカプカ邪魔する氷を避けるゲームのはじまりだ!

ぺしんと己の頬を叩いて気合いを入れる。

仲間たちの指示に従い、俺はくるくると舵をとっていった。

 

「キャプテン、2時の方向にでかいの来た!」

 

了解、…進路変更左に。

 

「キャプテン正面正面正面!」

 

おぉっと、右に…。

あの大きさならあまり旋回しないで大丈夫だな。

 

「うわキャプテン、あれスゲー微妙なサイズー」

 

…突っ込むぞ。

いける。

 

「キャプテン!横、真横から来た!刺さる!」

 

いいっ!?

正面にデカい氷無し、速度上げんぞ!

 

氷の動きに翻弄されながら、時には避けて、時には突っ込んで、前に進んでいく。

必死に舵を廻し、必死に声を聞き、たまに船を襲う嫌な感じの音や、やばそうな衝撃に目を瞑りながら前へ前へ進んでいたら、航海士がポツリと呟いた。

 

「…少し楽しくなってきましたです」

 

お前な。

 

少し呆れたように俺はクスッと笑った航海士を見た。

笑ってはいたものの、航海士の目は真剣そのものだ。

…ガチガチになるよりは、悲しそうな顔になるよりは、こっちのがいいか。

 

少し微笑んだ俺を見て航海士が言った。

 

「…ワタシも操舵出来るですよ?」

 

や、俺がやるよ。

 

「……ワタシ信用ないですか?」

 

そう寂しそうな顔で呟いた航海士。そいつの額を軽く弾いて、俺は笑った。

 

先に進む、と判断したのは俺。

で、責任とるのは俺の仕事。

そんだけ。

 

そう笑いながら伝えると、少し驚いたように額を押さえ航海士も笑った。

 

仲間を信じてないわけじゃない。

つーか、多分俺がやるより完璧に操舵してくれるだろう。

でもな、あんな顔させたまま、船を操舵させるのは嫌だな、と思ったわけだ。

気を張ったまま、強張った顔のまま。

嫌だろ?笑って楽しそうに操舵する姿を知ってるのに。

 

だから俺がやるさ。

お前はあんま寝てないだろ?

 

「…ありがとうです」

 

そう言って視線を前に戻す航海士。

お互い無言のまましばらく船を進ませた。

 

▽月21日

氷がプカプカ浮いている海を越えて、なんとか目的地に到着した。

ようやく着いた、と安堵の息を吐く。

 

先方に依頼された積荷を渡し、大工の仲間と少し会話。

 

「ちょっと損傷してるな…、直すのに2日くらいかかるぞ」

 

ん、わかった。

 

「帰りはまたあそこ通るんだよな?…もう少し丈夫に改造を、」

 

「待って!またガチガチにするつもり!?」

 

もう一人の大工の仲間が割って入る。

 

「コストかかりすぎだし、速度落ちちゃうでしょ!」

 

「速度より耐久だろ!?行きはなんとか無事だったが帰りはどうなるかわかんねぇじゃねーか!」

 

「だからって、また鉄板巻くとか言うの?2日じゃ終わらないよ!」

 

ふたりでギャーギャー言い合う。

挟まれた俺は困った顔で、ふたりを宥めようと手を伸ばした。

仕事同じなんだからもうちょい仲良く…。

そんな俺を無視して、ふたりは仲良く口喧嘩。

 

「っていうか重くて沈んじゃうよ!」

 

「だったらどうしろってんだ!またボロボロになんぞ!?」

 

そして、ついこの間の無理な航行のダメージがまだ残ってるのに、キャプテンは船ごと突っ込む癖があるじゃねーか、頻繁にやられたら持たねぇよ!と叫ばれてしまった。

 

…あの、

…スイマセン…

 

俺はとてもとても小さくなる。

すると、もうひとりの大工の仲間が赤いリボンを震わせながら言った。

 

「…!もー!キャプテン落ち込んじゃったじゃない!」

 

「あ。いやキャプテンが悪いわけじゃねーから!おかげで生きて帰れたわけだし!」

 

口喧嘩していたふたりは、慌てて俺をフォローする。

いやあの、事実だし。

次からはもうちょい慎重に航行します…。

 

浮上できないまま、ふたりに「ごめんな」と謝罪すると、ふたりはオロオロしはじめた。

確かにこれ以上船に無理させるのも、コストかかる装甲にするのも無理だ。

どうしようかと無い頭をなんとか搾り出して、俺は提案する。

 

一気に行かなきゃいいんじゃないか?帰りはグレートクインに寄ろう。

その距離なら時間かかる装甲にしなくても大丈夫だろ?

 

「…まぁ、それなら下部を少し強化するくらいでいける、か」

 

俺の提案に船大工は頷く。

じゃあその方向で修繕頼んでいいか?

 

「…ああ」

 

よろしく。

いつもありがとうな。

 

そう言って俺はふたりから離れた。

んー…、確かに最近無理させてたな…。

船にも、仲間にも。

特に大工やってくれてるふたりには苦労かけっぱなしだ。

…、あのふたりに何か買ってプレゼントしよう。

 

そう考えて、情報収集をかねて市場に向かった。

あいつら何渡せば喜んでくれるかな。

 

 

▽月25日

船の修理と改造も終わり、品も積み込んだ。

この国、寒いところに耐えられるレベルの丈夫な木が大量にあるらしく、その木を加工したタルが特産みたいだ。

 

特産のタルを船に大量に積み込む。

と、ついでに大工の仲間に、市場で買った装飾品を渡した。

喜んではもらえた。よかった。

 

さて、用事は済んだな。

とりあえずグレートクインに向かって出航ー。

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▽月28日

無事にグレートクイン到着。

積んできたタルを少し売る。

ついでに船の修理。今日1日かかるらしい。

 

…。

丸1日か…。

 

そっかじゃあカリムーんとこ遊びに行ってこよう。

そう思って、急いで出掛ける。

 

「夜には帰ってくるでやんすよー」

 

そんな仲間の声を背に受け、俺はカリムーんちに向かって歩きはじめた。

 

…こっちを、右、…

…あれっ?

 

いや、あれ?こっちじゃなかったっけ?

おかしい。見たことない道に、

出、た。

 

あっれー?

 

しばらくどこかをウロウロとさまよった。

どこだろうここ。

おかしい。

道が無くなった。

 

ガサガサと前に進む。

とりあえず前に。戻るとかなんか負けた気分になるよな?

だから俺は前へ進む。

 

おっかしーな、

こっちだったと思ったんだけど。

 

そう前に進みながら考えてたら、ようやく見覚えのある道に出た。

 

あ。

 

じゃあ確かこっち…、に、…あったここだ!

よかった。

 

ようやくたどり着いたカリムーの家の前で、俺はパンパンと服を叩く。

うわ、ゴミまみれ。

あらかた払い終わった俺は、身だしなみを整えてから扉をノックする。

中にふたりともいるみたいだ。

おかしな所はないだろうかと、くるりと体を見直してから俺は扉を開いて声を出した。

 

「よう!…た、…」

 

…た。

そこまで言葉を発してから、俺は単語を飲み込んだ。

『ただいま』って言っていいのか俺。

俺ここに住んでるわけじゃないし。

家族とかじゃないし。

いやでも前おかえりって言ってくれたし言っていいんかな言うべきか?

 

少し混乱して、俺は少し口ごもる。

するとこっちの気持ちを知ってかしらずか、アイツがスゲー普通に

 

「あ、いらっしゃい。今回は長かったね。おかえり」

 

と言った。

なんか凄くナチュラルに言われた。

悩んだ俺が馬鹿みたいだ。

えー、と

 

「…た、ただい、ま」

 

「?…おかえり」

 

不思議そうな顔された。

カリムーは…、と思ったらすぐカリムーも部屋からでてきて俺に、おかえり、と言った。

 

ただいま。

 

…駄目だなんか照れる。

なんつーかこう、わざわざ言わなくてもいいよな、みたいな。

…でもなんか

 

「帰ってきて『おかえり』と言われると、…嬉しいな…」

 

「は?」

 

「あ、いや、なんでもない。なんでもない!」

 

しまった呟きがもれた!

なんか恥ずかしいから聞き返すな!

追及すんな!

こっちみんな!

 

「そ、そうだ。今回はかなり北の方に行ってな!」

 

なんかもう挨拶の話はいいから、と俺は今回の旅のことを早々に語り始める。

 

買い物途中で集めた、この間行ったあの国の話。

カリムーたちは北の方に行かなかったらしく、興味深そうに聞いていた。

 

…ここも結構寒いじゃんか。

そんな驚く話か?

話しながら少し不思議に思う。

 

「寒い国だが、ちゃんと人がいるんだな。加工技術もしっかりしてるのか」

 

「ボクらが行った寒い場所は、ほとんど人いなかったですしね」

 

ここも寒いけど街あるじゃねーか。

 

「や、…ここそんなに寒くないよ?」

 

寒いから。

 

「そう?……まぁいいか。雪と氷の世界でも人は生活できるんだね」

 

凄いな、と笑う。

生きるだけじゃなく、生活できるように発展しているのが凄いよ、一回行ってみたいな。とアイツは言った。

寒いのは苦手だけど、とまた笑った。

 

ここで生活してんだから大丈夫じゃねーかな。

 

さてそろそろ時間だ。

 

「またな」

 

そう言ってカリムーたちに別れを告げて帰路につく。

 

『1回行ってみたい』か、とアイツが言った言葉を反芻した。

…今、噂広まってカリムーたちウソつき集団に注意!になってるからな…。

難しい、かもな。

 

しかしまぁ、

世の中には海賊やら盗賊やら殺人やらが蔓延してんのに、

この程度で注意喚起とか平和なんだか阿呆なんだか。

ちょっと噂に尾ヒレついたからって、危険人物扱いはどうかと。

 

ふぅとため息つきつつ、俺は船に帰った。

 

 

▽月29日

出航する前のミーティングで、最近余裕がでてきたし、全員休暇をとろうか、と言ってみた。

一瞬キョトンとした後、悲しそうな顔になる仲間たち。

 

「…クビ?」

 

違う!

 

最近依頼が多くて、全員疲れてるだろ。

蓄えに余裕ができたから少し休めって話だ。

ウチは全員一気に休んでも問題ないしな。

 

とりあえず、これからパラボルトに帰って、

 

「…あ。キャプテンそれ無理」

 

へ?

 

「ウチのお嬢様から、今すぐきて、って連絡が」

 

…。

またなんか依頼ぃ?

 

「…お嬢様に聞いて」

 

そんな顔しないでもいいじゃない、とスゲー顔された。

しまった嫌そうな感じが表情に出た。

怒らせたらしい。

ごめん。

 

 

…だってお嬢様の依頼って変なモンばっかなんだもん。

なるべく遠慮したい、が…。

 

どうする?

 

 

  行かない

 

→ 行く

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じゃあ、

…行ってきますか…。

 

 

仲間を連れ添ってお嬢様の屋敷に向かう。

 

屋敷に到着するとすぐに、お嬢様の部屋に通された。

顔パスかよ。

いやここのお嬢様のメイドのおかげか。

 

通された部屋でお嬢様と対面。

まずは挨拶。

 

どうもお嬢様。お久しぶりです。

 

「うん…」

 

お嬢様は静かに笑う。

そしてすぐに依頼内容を喋った。

…近くの小島にあるモノをとってきて、だそうだ。

 

「お願い…」

 

…俺、商人なんですけど。

 

「うん、知ってる…」

 

そこらの探検家か冒険家に頼んでくださいよ。

 

「…あなたたちがいい…」

 

商人なんですけど。

 

「知ってる…」

 

…。

 

「あなたたちに、とってきてもらいたいの…」

 

…あの、

 

「他の人じゃ、嫌…」

 

…。

 

「よろしく…」

 

 

…。

泣きたい。

 

 

お嬢様の屋敷からの帰り道、仲間と会話をする。

 

「依頼名は『お嬢様のお願い』でいいでやんすかね」

 

いや、『お嬢様のわがまま』で。

 

わがまま以外の何でもないだろコレ。

俺らじゃなくてもいいだろ。商人の仕事じゃないだろ。他のヤツにまわしてくれ。

 

休暇とろうと思ったのに。

詳細がわからない島に行って探検してこいって。

商人に依頼するか普通。

 

少しプリプリしながら歩く。

仲間がポツリと言った。

 

「…でも、断らないんでやんすねー」

 

…うっせぇ。

 

「あ、『お嬢様のおねだり』ってすると若干やる気が、」

 

出るかぁ!!

 

◎月1日

お嬢様に依頼された用事を済ますため、出航。

 

スゲー近い。

こんな近くに島あったっけ。

 

あっさり島に到着し、探索開始。

ええと、

これじゃない

これじゃない

ここも違う…

 

あああもう!

 

ここじゃないのか!次行くぞ!

 

ここ…も違う!次!

 

畜生またか!違う、次!

 

 

 

そろそろイライラしてきた。

お嬢様ご依頼の品が見付からない。

気付けば島のかなり奥まで来ていた。

だぁもー!

小島のくせに木がわんさか生えてて鬱陶しい!

 

「…キャプテンは、皆から離れんようになー」

 

なんで。

 

そう聞いたら仲間は曖昧な笑みを浮かべた。

まぁその、自覚はしてる。

カリムーんとこ行くときも、毎回、迷うし。

 

 

しばらく探索したけれど。

もういいんじゃないかな。

帰りたい。

 

そう考えはじめたころ、何かが光ったのが見えた。

フラッとそちらに向かう。

 

あった、これだ。

これを持っていけばいいんだな。

 

見付けたぞ、と後ろを振り向いて仲間に報告。

しようと思ったけど、

 

影も形もなかった。

 

あれ?誰もいない。

周りは木がうっそうと繁り、草も地面を覆っている。

 

…しまった。

 

律儀にフラグ回収すんなよ俺。

やばいな、どっちから来たっけ。

どっちに行くつもりだったっけ。

 

…どうしよう。

 

 

  右に進む

 

  左に進む

 

  前に進む

 

  後ろに進む

 

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駄目だ、選べない!

 

 

多分どこ行っても迷う。

土地勘もない、現在地もわからない。

そんな場所でウロウロしたら、完全に迷う。

 

でもだからと言って、

…ここで立ち止まってても死ぬんじゃねーかな。

 

どうしよう。

進んでみてもドツボにはまるし、

立ち止まってても力尽きる。

四面楚歌。

 

途方に暮れてたら昔仲間に言われたことを思い出した。

 

『キャプテンは下手に動くと変なとこに行っちゃうでやんすね。…迷ったら動かないでほしいでやんす』

 

『大丈夫!オイラたちが絶対見付けにいくでやんすから!』

 

だから、信じて待っててほしい、と。

仲間たちの笑顔と共に、思い出した。

 

…、そうだ待ってよう。

あいつらはきっと俺を見付けてくれる。

 

つっても、

ただ待ってるだけじゃ駄目だよな。

火でも焚いてみるか…?

待て。

周りは燃え移りそうなモンばっかだ。

自殺行為か?

 

悩んでいたら

背後からガサガサッという音がした。

 

仲間たちかと思い

振り向いたら

 

腹ペコそうなライオンと目があった。

 

 

…どう、も。

 

思わず挨拶した。

何やってんだ俺。

 

挨拶が気にくわなかったんだろう。

ライオンは唸りながら襲いかかってきた。

 

 

反射的にサーベルで防御する。

うっひゃ、近ぇ!

 

防御はしたもののライオンの勢いが強く、ガツンとライオンごと地面に倒れ込んだ。

 

まてマウントとられた。

ちょ、

ま、

 

やべぇやべぇやべぇ!

どうにか体勢変えねーと死ぬ!

 

重低音の唸り声が間近で聞こえる。

光る目玉に吸い込まれそうだ。

 

どうにか出来ないかと頭をフルに使っていたら、

 

ライオンのヨダレが顔にかかりそうになって、

 

思わず

 

ライオンを蹴り上げた。

 

 

テメェ何のつもりだコラ、…って、あ。

ライオンが怯んだ。

 

マウントとられていた体勢から多少は動けるようになった。

隙をついて全力で斬りかかる。

 

が、

 

かってぇ!

おいコイツ強ぇぞ聞いてねぇ!

 

血の気がひく。

強いライオンをひとりで倒せと?

畜生、もうちょい武器考えるんだった!

 

後悔してももう遅い。

ただ幸いなのは、

斬りかかったためかライオンは俺と距離をとったことだ。

 

…これなら、

なんとか、逃げられる…んじゃねーか、な。

 

野生動物から走って逃げられるとは思わねーけど。

そこらじゅうに木やら岩やらなにかしらがある。

オブジェクト使えば、逃げきれるかもしれない。

迷ったら動かないで待ってろ、とか今無理だ。

逃げないと死ぬ。

 

そう考え、まずはじわじわとライオンから離れる。

目は逸らさずに、

逃げることを悟らせないように。

 

逃げることを気付かれてはいけない。

気付かれたら最後、

獣は襲い掛かってくる

 

じわじわと間合いを取る。

 

 

多少距離がひらいた。

 

 

今だ!

 

 

ダッと思いっきり駆け出した。

くっそ、地味に走りにくい!

草を掻き分け、岩を飛び越え、必死に真っ直ぐ走る。

走りながら後ろを横目でみると、

 

ああやっぱ追ってくるよなぁ…。

 

物凄い勢いでライオンが走っていた。

勘弁してくれ。

この勢いだと、木の上に避難しても岩山に隠れても川を泳いで逃げても、俺を喰うまで追ってきそうだ。

 

川あたりで諦めてほしい。

 

 

結構逃げてるはずだが、ライオンの勢いは弱まらない。

駄目だ俺がそろそろやばい。

息あがってきた。

 

もう駄目かもしれん、と軽く諦めた時、

ガサッっと草を掻き分けたら比較的均された広い道に出た。

逃げやすくなった、と少しほっとした。

 

 

「あ!」

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

顔を向けるとノッポの仲間がこちらを指差していた。

 

「キャプテン見っけ…、っ!?」

 

仲間も俺の背後から追ってきているライオンに気付く。

彼女はヒッと小さく悲鳴をあげて、同じ方向に一緒に駆け出した。

 

 

「キ、キ、キ、キャプテンの阿呆ぉ!フラッとどっか行ったと思ったら、何連れて来てん!」

 

連れ、てきた、くて、…連れてき、た、わけじゃ…、…ねぇ!

 

息を荒くしながら答える。

しんどいんだから喋らすな。

やばそうな状態の俺に気付いた仲間は、周りを軽く見渡した。

キッと前を見る。

 

「…、キャプテン」

 

なん、だ?

 

「もーちょい、頑張って真っ直ぐ進んでくれへん?」

 

…言われ、なくても。

 

 

そか、頑張って。そう言って仲間はスッと走る速度をあげた。

すぐさま姿が見えなくなる。

速ぇー…。

 

一瞬、俺見捨てられた?と考えた。

ほんの一瞬だけ。

俺の仲間は見捨てて逃げるようなヤツはいない、とすぐ考え直す。

きっと、今の状態を打破するような方法が浮かんだんだろう。

 

『頑張って』と言われた。

ならばもうちょい頑張って逃げてやる。

 

とはいえ、さすがにそろそろ限界だ。

足の感覚がない。

正直、惰性で走ってる。

つかなんかもう止まれない。

足の止め方忘れた。

 

 

走ることで頭いっぱいだった俺の目の端で木が揺れ、

俺の耳に、

ビュッと風を切る音と、獣の断末魔が届いた。

 

え?

 

思わず後ろを見ようと首を回す。

と、

…正面にあった木にドカンと思いっきりぶつかった。

 

痛ぇ。

 

 

おかげで止まれたけど、と感謝しながら痛みに耐えきれずズルズルと木に沿って倒れた。

痛ぇ。

 

 

そうだ、ライオンはどうなった?と、なんとか体を向ける。

俺がみたのは、

少し返り血を浴びた仲間と

背中から槍を生やして倒れてるライオンだった。

 

「キャプテン大丈夫?」

 

心配そうに聞いてきた仲間に、なんとか無事と答える。

ええと…

 

「いやー、上手くいったわ。よかったー」

 

仲間は、進行方向にあった巨大な木からライオンに向かって飛び降りたらしい。

槍を持って。

 

あの早さで走ってる獣にピンポイントで槍突き立てるとか凄ぇな。

 

感心してたら、仲間が言った。

 

「…キャプテン、立てる?」

 

ああ、と答えたいが足が動かない。

ヒザが大爆笑。

立てねぇー…。

 

さよか、と言って仲間は俺をひょいと抱き抱えた。

これはなんというか、

俗にいう、

姫だっこ(男女逆)

 

一瞬思考が停止した。

我にかえって仲間に言う。

 

ちょ、待て

やめてくれ。

勘弁してくれ。

俺凄くカッコ悪い。

凄まじくカッコ悪い!

 

するなら俺がするから!

俺が抱えるから!

俺を姫だっこで抱えるのやめて!

 

スゲー必死に言ったら

不憫に思ったのか下ろしてくれた。

 

俺すんごい簡単に持ち上げられた。

泣ける。

 

じゃあ、と仲間は俺に背を向けてしゃがんだ。

 

…え?

 

「おんぶなら、ええ?」

 

……いや、

いやいやいや!

俺ここにいるから、誰か連れてきてくれ。

うん、そうだそれがいい。

 

「無理やー、アタシここ離れたらまた迷わずここ来る自信ないわー」

 

ソウデスカ。

 

 

どうする?どっちで運んで貰いたい?と笑顔で聞いてくる仲間。

く…くっそう。

 

少し考えて、

姫だっこよりかは、おんぶのが、マシだ、という結論に達した。

 

…ヨロシク、オネガイ、シマス。

 

そう言って、仲間の背に体を預けた。

 

「はいはい、出発ー」

 

と仲間は笑いながら立ち上がり歩き出した。

ううううう。

 

 

仲間は森の中をスタスタと休みなく歩く。

疲れたなら言ってくれ。

休み休み行こう。

 

「大丈夫やー。キャプテン軽いし」

 

笑顔でプライド抉りにきたぞコイツ。

俺軽くない。

…自然の中で育った子だから、多分基本的スペックが高いんだろう。

俺軽くない。

軽くないからな。

 

「なぁキャプテン」

 

どうした?

 

「あの、…さっき言うたん、ホンマ?」

 

さっき?

 

「あ、えーと、」

 

口ごもる仲間。

さっき?俺何て言ったっけ?

 

「…覚えてないんなら、ええわ」

 

少し寂しそうな声が聞こえた。

表情はみえないけれど、おそらく悲しそうな顔してんだろうな。

 

さっき…

あ。

 

あ、えー、と

『姫だっこするなら俺が抱える』って話か?

 

そう言ったら

ビクンと反応した。

耳赤くなったのが見える。

 

 

なんだ、そのことか。

ああ何回でも抱えてやる。

お前は見た目の体格より軽いし…

 

 

そう言ったら

仲間は耳赤くして無言で歩みを早めた。

が、

しばらくしてピタッと止まる。

 

 

…どうした?

 

「…キャプテン、いつアタシの体重知ったん?」

 

いや、この間、商品の重さ測るハカリで遊んでただろ。

 

他にも女性陣が集まってたのを覚えてる。

キャーキャー言ってたから、何事かと遠巻きに見てたんだ。

そんときに見えた、と言ったら

パッと手を離された。

急だったので手が間に合わず、無様に地面に落下した。

 

…あの、

 

「乙女の体重知ったからには、…生かしておけんなー」

 

え、いや

偶然、…

 

「やかましい」

 

ガンと頭に衝撃が走り

俺はうっかり気を失った。

 

-7ページ-

◎月2日

昨日うっかり気絶した俺は、あの後ノッポの仲間に

姫だっこされて

船に帰った。

 

おかげで死ぬほどからかわれた。

死にたい。

 

あと女性陣の俺を見る目がすこぶる冷たい。

怖い。

 

「なんか言ったんでやんすか?」

 

いや、まぁ、ちょっと。

女性のタブーに触れたというか。

 

「船内の空気が悪くなるでやんすから、早めに仲直りしてほしいでやんす…」

 

…おー…

 

 

仲直り…

どうするかな。

今俺女性陣に話しかけたら軽く睨まれてから対応される。

切ない。

 

あぁそうだ。

ノッポの仲間は今回のことで服が汚れてたな。

洋服をプレゼントしよう。

ワンピースなんか、似合うんじゃないかな。

 

 

◎月5日

グレートクインに到着。

お嬢様のご依頼の品を渡しに行く。

あれだけのことがあったのに、依頼の品を落とさなかった自分を誉めたい。

 

「…うん、これ。ありがとう…」

 

どーいたしまして。

 

「また何かあったらお願いする…、よろしくね…」

 

そう言ってお嬢様はニッコリと笑った。

またあるのか…。

次はもうちょい簡単な依頼にしてほしい。

 

報酬を貰って屋敷を出る。

外に出たついでだ。

プレゼント買いに行ってこよう。

 

 

◎月6日

昨日買った洋服をノッポの仲間に渡した。

買うのスゲー恥ずかしかった。

ああいう服を買うときは女性伴っていくべきだ。

ああ恥ずかしかった。

 

渡した結果は、

まぁ良好。

あああ良かった。

ハズしたらもう顔合わせられなくなるとこだった。

 

「あ、そうやキャプテン」

 

ハイ!?

 

ほっとしていたところに声かけられて、変な声がでた。

俺ビビりすぎ。

 

「いや、あの…ごめんなぁ?」

 

強く殴りすぎた、と申し訳なさそうな顔をするノッポの仲間。

 

いやいいよ、大丈夫だ。

…ああそうだ。

どうする?

 

「?」

 

だっこ。

 

 

今やる?と腕を開いて聞いた。

すると顔を真っ赤にしてオロオロしはじめる。

 

「あ、えーと、えーと、えーと…、…ま、また今度で!また今度でええわ!」

 

手をブンブン振りながらそう言った。

 

…そう?

よくわかんねーなぁ…。

まぁいいか。

 

その服、似合うんじゃないかなと思って買ったんだ。

暇なとき着てくれたら嬉しい。

 

そう話してから彼女から離れた。

いつか着てくれたら嬉しいなぁ。

 

◎月7日

今日は休日。

つか俺が疲れた仕事したくない、とワガママを言った。

まぁ仕方ない、と全員了承してくれた。

ありがとう。

 

 

そんな経緯でもぎ取った休日。

そうだ。

ちょうどグレートクインにいるんだ。

カリムーんとこ行こう。

 

今回こそは迷わずに行ってやる、と意気込んで出発。

したはずなんだがな。

 

まぁ予想通り道なき道を進んでいる。

おかしいなぁ…。

 

でも毎回到着はするんだから、方向音痴ってわけじゃないだろ。

ちょっと道順覚えるの苦手なだけで。

 

自分自身に言い訳しながら歩く。

 

っと、

この辺は見たことあるぞ!

たしかこっちに…

 

よっしゃ、着いた!

前より時間かかんなかったぞ!

 

嬉しい気持ちのまま扉を開ける。

 

「ただいま!」

 

「あ、おかえり。今回は早いね。近場?」

 

アイツが出迎えた。

…そういやスッと挨拶したな。ただいま、って。

不思議。

 

カリムーにも挨拶。

さて本日のお話は…

と、お嬢様からの依頼の話をした。

 

「近場の小さな島でな、…まぁめぼしいものはなかったんだけどな」

 

お嬢様の依頼の品も、金品として考えるなら大したことないものだ。

なんであれを欲しがったのかがわからん。

 

ただまぁ、島自体は近いし、奥に行かなければ生き物も強いのはいない。

航海の訓練によさそうな島だった、と話した。

 

それを聞いてカリムーも、地図を見ながら

 

「いい場所にある島だな」

 

と言った。

…なんか、カリムーの目が一瞬煌めいた。

行きたいのかな。

 

島には誰もいなかったし、朝早くに出掛ければ街の人にもバレない、よな。

 

そうだな。

 

今思い付いたことを口に出してみた。

 

 

「暇になったら、…この島行かないか?」

 

「…え。あ、…え?」

 

アイツが狼狽した。

誘われるとは思ってなかったんだろう。アイツは、言葉では悩んでるけど、行きたそうな目をしてる。

カリムーもだ。

 

…カラダは正直だな。

ソワソワしてる。

 

ニヤニヤ笑いながら、止めとばかりに一言つけたした。

 

「固く考えずに、ピクニックみたいなもんだと思えばいいんじゃねーか?」

 

行って、楽しんで、すぐ帰る。

そんだけの旅行。

 

3年近く旅したカリムーたちには生温いだろうけど、今の生活からしてみれば魅力的だろう?

 

ニッと笑いながら返事を待つ。

 

「行く!」

 

元気のよい声が響いた。

 

そうこなくちゃな!

そうと決まれば準備がある。

そうだな、行くのは今月末あたりか。

俺の都合で悪いな。

 

そう伝えたら、構わないと返事された。

 

「そっちに合わせる」

 

期間も準備もそっちの都合でいい、と言われた。

 

 

そうか。

ならまずは、

 

 

少し手合わせしようか!

 

「…なんで」

 

いや、少しばかり強い生き物がいてな。

 

「それ、島の奥にだよな?」

 

もしかしたら、奥に行かなくてもいるかもしれないだろ?

餌探しにきたりとか。

 

「いや普通そういうのはテリトリーから離れない…」

 

いいからいいから。

お前らがどのくらいの力量かを確かめておきたいんだよ。

表出ろ。

 

「嫌だ」

 

準備はこっちの都合でいいんだよな?

合わせるんだよな?

言ったよな?

 

「…言ったけど」

 

表出ろ。

 

 

笑顔でクイと親指で扉を指す。

大丈夫確認するだけだから、怪我はさせねーよ。

 

待って、ボク弱いんだってば、滅茶苦茶弱いんだってば!と騒ぐアイツを引っ張って庭に出る。

 

カリムーは次なー。

 

そう言ったら微笑ましそうに笑われた。

ほい、と武器を渡される。

なんだこれ。

 

「そいつの武器だ」

 

「ちょっとカリムー!」

 

ギョッと慌てるアイツ。

…専用武器持ってんのかコイツ。

ならまぁ、十分戦えるんだろう。

手加減しなくてもいいか。

 

「やめて手加減して!無理だから!本当に戦闘苦手なんだってば!」

 

はいはい。

 

 

手合わせ開始。

しばらくアイツと打ち合った。

 

…なんというか

ビミョーな…。

 

専用武器持ってるだけあって、多少は心得があるみたいだ。

けど、コイツ凄く強いわけでも、凄く弱いわけでもない。

 

スポーツとして試合すればそこそこ強いだろう。

ただ、実戦では多分ロクに戦えない。

 

トリッキーな動きに弱いな。

反応が遅い。

 

 

つーか、凄ぇ嫌そーに打ち込んできやがる。

こっちが打ち込むとちゃんと避けるか受けるかするけど凄ぇ嫌そーな顔しやがる。

イジメてる気分になってきた。

んな顔すんな。

 

…んー、このくらいにしとくか。

 

 

そう言ったら露骨にほっとした顔をした。

この野郎…。

みっちり特別武術訓練してやろうか。

 

そう言ったら、

 

「断固拒否する。ボクは弱いって言ってるだろ」

 

弱くはねーぞ?少し特訓して慣れればイイ線いくと思う。

 

「…元々戦闘には向いてないんだよ。人には向き不向きってもんがあるじゃないか」

 

向いてる向いてないじゃなくて、やったほうがいいだろ。中途半端だと怪我すんぞ?

 

「怪我なら慣れてる」

 

だから別にいい、とスゲー拒否られた。

大怪我するよりは戦闘訓練したほうがマシだと思うんだがなぁ…。

死ぬぞ?

 

「…避けるのとナイフ投げなら自信あるから大丈夫」

 

いやそういう話じゃないんだが。

 

相当、直接戦闘が嫌いみたいだな。

いい武器持ってんのに、勿体無い。

 

…そういやコイツの武器、戦闘スタイルに合ったいい武器だな。

コイツ隙をついて的確に急所狙ってくるから、細剣がぴったりだ。

ただまぁ、粗があるというか、動作が読みやすいから簡単に避けられるんだよな。

 

対人戦で勝てない。

だから自分は弱いって思ってんじゃねーかな。

だから、やっても無駄だって認識してんだろう。

勿体無い。

 

 

まぁ…動物相手なら十分戦えるだろう。

コイツは戦力的には問題ない。

ナイフ投げに自信あるなら遠距離から攻撃出来るし。

 

さて、次はカリムーだ。

 

まぁ、年寄りだし。

多少は手加減するか。

 

そう考えて、カリムーとの手合わせを開始した。

 

少し打ち合ってから、すぐに気付いた。

 

強い。

 

ちょっと待て、じいさんだろ!?

なんだこれ。

動きが読めない。

絶対に打ち込めないだろうと思った箇所から打ち込んでくる。

突きや払い、攻撃の全てが綺麗だ。

弧を描くような流れる動作。

力強い打ち込み。

凄ぇ。

 

槍とサーベルだから間合いの差があるってだけじゃない。

狙ったものは必ず貫く、そんな気迫。

俺の攻撃に対して避けるときも最小限に抑え、すぐ反撃を返してくる。

 

やべぇ楽しい。

 

 

百戦錬磨のプロに戦い方を教えてもらってるみたいだ。

いや多分カリムーはそう教えてくれてたんだろう。

親が子供に教えるように、優しく。

 

スゲー楽しくて、

本気で打ち込んだ。

そっか、

こういうときはああ動けばいいのか。

そこから反転すんのか!

足捌きは…ああなるほど、無駄がねぇわ。

 

真似をして俺も動作を変える。

こうして、こう、っと、

あー、反撃しやすくなるなこれ。

次は…

 

 

気付いたら辺りが薄暗くなっていた。

そろそろ日が落ちる。

 

あ、やべ。帰らねーと。

 

その旨を伝え、手合わせを止める。

 

「ああ、もうそんな時間か」

 

いやはや、楽しかった。とカリムーが笑った。

久しぶりに思いっきり体を動かした、と満足そうだ。

 

「あ、帰るの?」

 

ああ、んじゃまー詳しい日程決まったらまた連絡する。

 

 

じゃあまたな、と手を振って帰路につく。

わかった、とふたりは手を振り返した。

 

カリムーも戦力的に全く問題ない。

強い生き物に出会っても、多分あっさり倒せる。

 

戦闘面では問題ないな。

じゃ、今回の旅行はなんとかなるだろう。

 

…あ、

仲間たちに何て言おう。

…そうだ、前取れなかった休暇を月末あたりにしよう。

今月末から2週間くらいの長期休暇。

たまには全員ゆっくり休ませないとな。

最近仕事ばっかだったし。

-8ページ-

 

◎月8日

カリムーたちと軽い旅行に行くことになった、と仲間たちに報告。

俺が旅行に行ってる間、皆も休暇にしようぜ。

 

「どのくらいの期間でやんすか?」

 

10日…、まぁ2週間くらい余裕みようかと。

 

「了解でやんすー」

 

…いやに物分かりがいいな。

『勝手に決めるな』とか文句言われると思った。

 

「キャプテンは決めたらなにがなんでも実行する性格なのは、よーくわかってるでやんす」

 

…スミマセン。

 

「どうであれ休暇は休暇でやんす。…皆喜ぶと思うでやんすよ」

 

ならいいが。

まぁ仲間からの文句なら喜んで聞くさ。

俺の独断だし。

 

 

文句言われるのを覚悟しつつ、仲間たち全員に休暇の話をした。

 

スゲー喜ばれた。

 

自宅に戻ったり、出掛けたり、友人と遊びに行ったりしたい、と早々に休暇の計画を立て始める。

 

気ィ早いな。

 

少し苦笑い。

まぁ仕方ないか。

…怒濤の仕事量だったからな…。

ゆっくり休んでくれたまえ。

 

 

◎月11日

パラボルトに戻った。

休暇とるために準備やら挨拶やら整理やらの、しなくちゃならないことが目白押しだ。

 

バタバタと走り回る。

い、忙しいな。

 

 

おいそこ!

遊びの計画立ててないで手伝ってくれ!

スイマセンお願いします!

 

 

◎月14日

自宅が遠すぎる仲間や、帰りたくない仲間は休暇中はパラボルトで過ごすらしい。

 

「急な仕事とか、もしなんかあったら連絡するよ」

 

と言われた。

了解、悪いな。

 

 

◎月30日

数日前に仕事のゴタゴタが落ち着いた。

 

今日はカリムーたちと旅行行く日。

今はグレートクインの港の外れでカリムーたちが来るのを待っている。

まだ少し薄暗い。

 

朝早すぎるせいか、周辺はとても静かだ。

夜通し飲み騒いでた人たちも、力尽きる時間帯なんだろう。

 

俺もまだちょっと眠い。

 

ふぁと欠伸をしながら待っていたら、

あ、来た。

 

おはよー。

 

「おう、おはよう。よろしく頼む」

 

「……、おはよ…」

 

 

カリムーは元気よく、

アイツは心底眠そうに挨拶してきた。

大丈夫かコイツ。

 

グズグズしてる暇はない、さささっと乗り込みすぐに出発した。

 

微妙に薄暗いとはいえ、夜はあけているし、まだ港近く。

周辺に他の船もないし、とゆったりと進む。

 

舵をとっているのは俺。

カリムーは船の中を楽しそうにみてまわり、一通り見たあと甲板に行った。

アイツは船室の隅でぼんやりしてる。まだ半分寝てんだろうな。

…こんなに寝起き悪いのに、よく水夫やってたな…。

 

本格的に二度寝に入ったアイツを見て呟いた。

すると、一通り見て回って満足したらしいカリムーが話しかけてきた。

 

「あの旅やってたときは、テキパキ働いてたよ」

 

…。想像出来ん。

 

「気ぃ張ってたんだろうな。ひとりで旅の記録もしていたし」

 

そうなのか。

 

「航海日誌と日記でな。…日記はまだ続けてるみたいだな」

 

直で読んだことはないけど、とカリムーは笑う。

 

 

…日記か。

1回読んでみてーな。

カリムーたちの冒険が、どんな旅だったのか知りたい。

 

そう思ったが、アイツはまだ他人に話すには抵抗があるみたいだ。

前少し話を振ってみたが、スッとはぐらかされた。

カリムーもざっとなら話してくれるが、詳しくは話してくれない。

 

…まぁ、出航時に船は5隻・船員200人以上だったのに、帰還したときは船は1隻・船員は19人だ。

かなり過酷な旅だったんだろう。

まだ気持ちの整理が出来てないのかもしれない。

 

アイツやカリムーが話したくなった時に、喜んで聞こう。

 

いつか、話してくれるといいな。

 

 

そう思いつつ、再度アイツの方に顔を向けた。

 

アイツまだ寝てんのか。

そろそろ起きて手伝ってほしいんだが。

 

「…楽しみで昨夜眠れなかったんじゃないか?」

 

そんなタマか?

 

「…。まぁ、お前さんを信頼してるってことじゃないか?落ち着いて寝てられるくらいに」

 

…。

そりゃどーも…。

 

 

じゃなくて!

この船俺ら3人だけだから、手が足りねーんだよ。

手伝ってもらわねーと。

 

「俺も手伝うし、もう少し寝かせてやってもいいんじゃないか?」

 

 

…どうする?

 

 

  寝かしとく

 

→ 叩き起こす

 

  海に放り込む

-9ページ-

 

…叩き起こそう。

 

俺が頑張って働いているのに、横でスヤスヤ寝られるのも少し腹立たしい。

 

 

カリムーに舵を任せて、俺は寝てるアイツの側に行く。

 

畜生イイ顔して寝てやがる。

俺もちょっと眠いのに。

…むかつく。

 

 

オラァ!と少し怒りを含ませながら頭をひっぱたいた。

 

「!?」

 

叩いたらすぐ起きた。

頭を押さえてキョロキョロする。

 

 

「?…、…。ああ、そうか」

 

船の上だったっけ、と呟いた。

まだ少しぼんやりしてるな…。

少し甲板に出て、目ェ覚ましてこい。

 

「…んー」

 

そう言ってアイツはフラフラ甲板に向かった。

…なんか不安だからカリムーもついってってくんねぇ?

 

「わかった」

 

カリムーから舵を受け取り、しばらく待った。

…ふたりがなかなか帰ってこない。

 

進行方向確認。

しばらくまっすぐ。

 

よし、と舵を固定し甲板に出た。

するとそこには、幸せそうに船旅を満喫してるふたりがいた。

 

 

お前ら…

 

目ェ覚めたなら潮風楽しんでねーで少しは手伝え!

働くのは俺だけか!

 

 

☆月4日

よし、到着!

船を岸に寄せ、島に降り立った。

 

…なんかふたりとも少しフラフラしてんな。

久しぶりに船に乗ったから酔ったみたいだなぁ。

 

 

「すまん。…少し、休ませて、くれ」

 

カリムーが顔を真っ青にして言った。

ダウン寸前。

そのままカリムーはフラフラと木陰に倒れ込む。

そんなカリムーを心配そうに覗きこむアイツ。

 

看病したほうがいいんだろうが、暗くなったら身動きが取れなくなる。

明るいうちに食料を集めたり、もう少しちゃんとした場所に小屋を作りたい。

 

「…カリムーはここで休んでてくれ。俺とコイツで食料集めたりしてくるよ」

 

「…え。ボクも少し休みた、」

 

「働け!」

 

不満そうな顔された。

生意気言う元気があるなら、十分働けるだろ。

サクサク行くぞ。

 

そう言ってアイツを引っ張って森の中に向かった。

 

この辺はそんな危ない生き物はいなそうだな。

船からも近いし、多少見通しもいい。

この辺に軽い小屋を作ろう。

 

そう伝えてふたりで小屋を作り始めた。

雨風凌げればいい。

しっかり作らなくてもいいだろう。

サクサク板を組んでいく。

 

…コイツ手際いいな。

予想より早いスピードで完成していく。

俺いないほうが早いんじゃないかこれ。

 

…ちょっと船行って、毛布とかとってくる。

 

「ん」

 

アイツはこっちを見ずに作業しながら答えた。

せめてこっち向け。

 

 

毛布を抱えて小屋に向かおうとしたら、カリムーに声をかけられた。

もう動いて大丈夫なのか?

 

「ああ大分いい。すまんな」

 

無理はするなよ?

 

「大丈夫だ」

 

そう笑って言われたので、じゃあ、と船に乗せていた食べ物を少し運んでもらうことにした。

オヤツ感覚。

本格的な食料探しは、コレ食ってから始めよう。

 

 

小屋のある場所に着いた。

うお、完成しとる。

なのにアイツはなんかまだ黙々と作っている。

何やってんだ。

 

「…この辺にスキマが」

 

いいから。

そこまでしなくていいから。

 

アイツを板から無理矢理引き離す。

とても不満げな顔された。

数日しかいないんだから、そんな凝らなくていい。

 

 

少し休憩。

 

 

小屋の中を整える作業はカリムーに任せて、

食料探しは俺たちで行くことにした。

 

暗くなる前には戻るよ。

そう伝えて、俺らは森に入っていった。

 

ふたりで森の中を探索。

果物やらは結構見付かったが、動物がいないな。

肉食いたいのに。

 

ガサガサ探していたら、大量のウサギを発見。

なんか群れてるな。

ウサギを見つめながら、俺は前聞いた話を思い出す。

 

動物同士は、

『狩っていい?』

『いいよ』

と会話があるらしい。

 

『いいよ』と言った動物だけ、殺されるらしい。

 

動物たちは知ってるんだろう。

喰われることは無駄じゃないと。

喰われても生まれ変われると。

 

だから、他のいのちをいただくときは、感謝の心を忘れてはいけない。

 

そんな話。

俺は頭を掻く。

ウサギが群れてたから、つい。

仲間かなとか家族かなとか考えちまった。

 

全てに感謝しながらいただきます!そう考えるのが喰う者の勤め!

よし、オッケ!

数羽捕まえるぞ!

 

ウサギをナイフでシュッと仕留めるアイツ。

自信あるとか言ってたしな。無駄がない。

 

俺はウサギに飛びかかる。

ナイフなんか持ってねー。

ようやく1羽捕まえた。

 

ふう、とウサギをひっくり返す。

ウサギってのは、ひっくり返すと催眠状態になって身動きがとれなくなる性質がある。

おぉ、なんかぼんやりプルプルしてる。

可愛い。

 

仕留めたウサギと集めた果物を持って小屋に戻った。

☆月5日

島滞在中。

今日はのんびりすることにした。

 

小屋からそう離れてない砂浜でまったり。

…。

……。

 

 

暇だ…。

カリムーは少し暑いな、と小屋に戻っちまったし、

アイツは砂浜で日光浴、…いやアレ寝てね?

 

つまらん。

 

 

むう、と少し考えた。

 

どうしようかな。

 

 

  ひとりで遊ぶ

 

  カリムーと遊ぶ

 

→ アイツで遊ぶ

 

-10ページ-

アイツからかって遊ぼう。

暇だし。

 

 

よし、と船からバケツを持ってきて海水を汲む。

 

「おらよ!」

 

掛け声と共にアイツにバシャッと海水をかけた。

全身くまなく、とはいかないか。

勢いよくかけたらバケツはどっか飛んでった。

…ま、まぁいいか。

しばらくすれば潮の流れで岸につくだろう。

 

「うわ、何!」

 

顔にいきなり海水をかけられ、アイツは慌てて飛び起きた。

 

「ここに来て寝るなよ。遊ぼうぜ」

 

そう言ったら、憤慨しつつ、砂浜ではしゃぐ年じゃない、と言ってぶつぶつ文句を言いはじめた。

ごちゃごちゃうるさいヤツだなー…。

遊ぼうっつってんのにスルーか。

 

少しムッとしたので、アイツの首根っこ掴んで海に放り投げた。

バッシャンとド派手に着水。

 

「あははははは、バーカ」

 

これで目ェ覚めただろ?

こんな天気がいい日に寝てるなんて勿体無い!

さあ、遊ぼうぜ!

 

そう言おうとして、アイツの方を見たら

思いっきり海水をぶっかけられた。

陸地にいるのに全身ずぶ濡れ。

 

畜生そのバケツ俺のじゃねーか!

裏切ったなバケツ!

放り投げたのは悪かったごめん!

 

 

ここまで濡れたらもうなにも怖くない。

服を着たまま海に飛び込む。

 

俺そんなに水かけてねぇじゃねーか!

テメェこの野郎お返しだ!

 

海水をアイツに向かって吹き飛ばす。

お返しのお返しとばかりにスゲー量の海水が返ってくる。

畜生あっちバケツ持ってんじゃねーか!

俺不利すぎる!

 

「あああ、くっそ!」

 

もういい、直接掴んで沈めてやる!

一言、参ったと言え糞野郎!

 

アイツを掴もうと勢いよく手を伸ばす。

あ、この野郎避けん、な…!?

 

海水に足をとられてバランスを崩した。

やべぇ、転ぶ。

 

ただでは転ばない、とアイツを目で追いそちらに手を伸ばす。

よし服掴んだ!

 

バッシャーンと辺りに響く水音。

ふたり同時に倒れた。

 

 

 

「おま、何すんだ!」

 

「うっせ!お前が避けるからいけねーんだろ!」

 

 

ギャーギャー言い争う。

口じゃ勝てそうにない、畜生!

 

そう思った俺は、ガッとアイツの頭を掴んで沈めた。

武力行使。

しばらく苦しそうにもがいたアイツから手を離す。

どうだ!

と勝ち誇ったのもつかの間、お返しとばかりに逆に頭を捕まれて水面に押し付けられた。

しばらくして手を離され、俺はぷは、と大きく息をする。

 

テメェこの野郎…。

 

お互いに顔を見合せ、

お互いに同時に笑みを浮かべて、

 

お互いに同時に

掴みかかった。

 

軽く生きるか死ぬかの瀬戸際だった。

アイツ容赦ねぇ。

 

喧嘩が終わったのは、カリムーが飯だぞー、と声掛けてくれたからだ。

カリムーが声掛けてくれなかったら1日中やってたか、多分どっちか死んでた。

 

うおお、

疲れた。

☆月6日

夜。

 

小屋では基本的に、三人で川の字になって寝ている。

今日は海で遊びすぎた。

疲れたのですぐに横になる。

おやすみ、と声をかけた後すぐに眠ったはずだった。

 

肌寒くて目が覚めた。

なんでだ?

そう思って首だけ回したら、横に寝てるはずのアイツが俺の毛布を引っ張っていた。

 

嫌がらせかコイツとイラッとしたが、よくよく見たらちゃんと俺には毛布がかかっている。

 

…あれ?

 

ああつまり俺がコイツの毛布取ったんですね。

コイツは自分の毛布を取り返しただけなんですね。

 

…ごめん。

無意識だ許せ。

 

完全に目が覚めた。

横を見るとカリムーは多分寝てるが、アイツはなかなか寝付けないらしくワキワキ動いていた。

星でも掴もうとしてるような動きだ。

 

まだ起きてんのか。

…再度眠りにつくまで、おしゃべりに付き合ってもらおう。

 

「なんだ、寝てないのか」

 

「…そっちも?」

 

すぐに答えが返ってきた。

ただまぁ、なんか微妙に機嫌が悪そうな声だったから、ほぐすためにジョークを言ってみた。

ウケなかった。

ウケないジョークを言った後って惨めだ。

 

ふぅとため息が聞こえたあと、アイツがウチの紋について質問してきた。

 

カブトムシの紋の話。

カブトムシにもいろいろいるから、全部が自分から襲わないわけじゃないけどな。

そうだな、アホウドリとかもかな。

遠洋の旅の象徴でもあり、トロい鳥の象徴でもある。

いくつか意味があって、知識がある人からみれば違和感があっても、

自分がその象徴を主張すればいいだけの話だ。

『それは違うよ』と言われたら、ドヤ顔で説明してやりゃーいい。

俺はこういう点が気に入って、紋にしました、ってな。

 

 

そう考えながら俺がカブトムシを紋にした理由を話していたら、

アイツはそうなのか、と感心したように聞いていた。

 

「ふーん…、思ったよりいろいろ考えてるんだな」

 

失礼だなお前!

 

身を起こして反論しようとしたら、

というか、海賊も商人も向いてるとは思えない、と続けざまに言われた。

コイツ酷い。存在否定された。

 

身を起こるのをやめ、アイツとは反対側を向いて寝っ転がる。

お前の顔なんかみたくない。

バーカ。

 

「…自分が何に向いてるかなんてわかんねーよ」

 

声を出したら、思ったより気落ちした声が出た。

地味にショックがデカい。

 

さすがに言い過ぎたと思ったのか、アイツのオロオロしたような気配とフォローするような声が聞こえてきた。

 

「いや、…えっと。…ぼ、冒険家とか向いてんじゃない?」

 

「…は?」

 

「ボクがいた、あの旅にでた船団。…そういう人、多かったから」

 

海賊崩れとか、行き場を無くした船乗りが集まっていた船団だったらしい。

依頼されたらなんでもやる、海専門の何でも屋。

商船の護衛に船員、冒険に探索。いろいろやっていたらしい。

 

…つまり、

 

「…海洋冒険家か?いいなそれ」

 

うん、それやりたいな。

冒険は楽しい。

今は商船がメインだけど、いずれは冒険をメインに…

 

「…まぁ、冒険メインにすると金かかるけど…」

 

「…だよな」

 

たまに依頼されて冒険に行っても、基本的に赤字になるのは身を持って知っている。

なにか見付けられればいいんだが、毎回物珍しいものがあるとは限らない。

むしろ無い方が多い。

 

仕方ない、

 

「じゃあ、しばらく商人頑張るか」

 

いつか冒険に。

カリムーたちのような

物凄い冒険に行けるように。

今は資金を貯める!

 

 

未来を思い描いたら、楽しそうな声が出た。

俺単純。

 

 

そのあともグダグタと話続けた。

コイツは意外とよく喋る。

いろいろなことを楽しそうに話す。

不思議と俺も楽しい。

コイツとこんなに話をしたのははじめてだな。

 

「そうだな、最悪俺が冒険に行けなくてもいいか。…子孫が、先祖の夢を叶えるため、とか言って」

 

行ってくれたらいいなぁ、と夢を語る。

 

「そか、…叶うと、いいな」

 

消えそうな声が聞こえた。

ん?と思ったら、アイツはスヤスヤ寝息をたてていた。

 

 

…おやすみ。

 

 

☆月7日

さて、今日は帰る日。

そろそろ帰らないと仕事がヤバい。

 

 

帰り支度も終わり、出航。

ふたりとも今回の旅行は満足してくれたようだ。

ほわっと幸せそうな顔をして話をしていた。

 

よかった。

俺はほっと胸を撫で下ろした。

-11ページ-

 

☆月9日

グレートクインに向かっての帰路。

特に問題なく航行していた。

が、少し違和感。

なんだろう、ちょっと風が重い。

海荒れるかもな…。

 

 

その日の夜。

 

 

少し夜風に当たろうと、甲板に出た。

昼間より船体に当たる波が強い。

風も強く船がギシギシ音をたてる。

雲が空を覆っている。

雷でもきそうだ。

 

小さい船だしな。

荒れすぎるとやばい。

 

陸に着くまで無事でいてくれよ、と願う。

船全体を見渡して、

 

…!?

なんだあれ!

 

慌ててカリムーとアイツを起こす。

 

「…なに…」

 

マストが燃えてるっつか光ってるっつかなにあれ!

 

捲し立てたら『燃えてる』の単語でぼんやりしてたアイツが飛び起きた。

 

「どこ!?」

 

そう叫んで外に向かった。

全員で甲板に出て、俺が指差すマストの先端を見た。

厳しい顔をしていたアイツがほっとした表情にかわる。

 

「…なんだ、あれなら大丈夫だよ。燃えてるわけじゃない。放っといていい」

 

え?

 

「えーっと、…セントエルモの火、だっけかな」

 

悪天候のときに光るんだよ、と言われた。

いやそれ大丈夫じゃなくね?

 

「ふたつ、光ってる」

 

大丈夫だよ、と笑った。

 

よくわからない。

説明してくれ。

 

「んー…、なんで光るのかはわからないんだけどさ。なんか天気悪いときたまにマストの先端がぼぅっと光るんだ」

 

いつも光がひとつのときは嵐は継続して、ふたつ光ると嵐は収まった。と言われた。

 

「…悪天候のしるしみたいなもんかな、と思ってる」

 

…そうなのか…。

しかしお前全然慌てないな。

 

「はじめは不気味だなと思ったけどね、…慣れた」

 

旅してたとき、何回か見たから、と少し遠い目をした。

 

…。

なあ、

 

 

「しかしあれだ、あそこまで慌てるなんて意外だったよ。意外と怖がりだな」

 

な、…!

 

 

俺が話しかけようとしたのを遮ってからかいながら笑う。

 

普通ビビるだろあれ!

初めて見たんだし!

なんか悪いことおきるんじゃないかと思うだろ!?

 

 

軽く図星さされて、慌てて言い訳した。

怖いもんは怖い。

幽霊とかはあれだ、もうちょい空気読んで出てきてほしい。

明るい真っ昼間に爽やかに出てきてくれればいいのに。

 

そんな俺の言い訳を聞いてるのかいないのか、アイツは上を向いて寂しそうに火をみる。

 

「…よくみると、あれ、綺麗なんだよ?火が暗闇に映えて、穏やかに光って」

 

言われて俺も火を見上げた。

 

マストの先端が青白く光っている。

ぼうっと儚く。

ユラユラと。

 

暗闇に映える青白い光。

周辺も光に照らされ淡く映し出されていた。

 

ああ、確かに綺麗、かもな。

 

 

「…じゃあ、ボクはもう寝るよ」

 

…あ、ああ。

騒いで悪かったな。

 

 

アイツは、いや…、と言って船室に戻って行った。

…、なんで、あんな寂しそうな、…?

 

「むかーし、な。あいつも同じように騒いだことがあったらしい」

 

カリムー…。

 

「その時に、団長…あいつがいた船団の団長だが…、その人がなだめたことがあったようだ」

 

船団の団長?

ああ、あの旅の…。

そしてカリムーはこんな話をしてくれた。

 

マストの上の火をみて怖がって、怯えていたアイツの頭をポンと撫でながら、

 

 

『お前は怖がりだな。…なにが怖い?光ってるだけだ』

 

『…よーく見ろ、綺麗じゃねーか』

 

『…な?火が暗闇に映えて、綺麗だろ?』

 

と言ったら落ち着いたそうだ。

 

「まぁ俺もあの旅で初めて見た時驚いてな。…その時団長が話してくれたんだ」

 

『あの時は可愛かったが、今はクソ生意気になったなぁ…』

そう笑いながら、楽しそうに語ったらしい。

 

「あいつが少し寂しそうな顔したのは、…そうだな、思い出しちまったのかもしれないな」

 

…。

 

「…今はもう居ない、共に旅した仲間たちのことを」

 

俺はしゅんと顔を伏せる。

そんな俺を見て、カリムーは俺の頭をポンポンと撫でた。

 

 

「…お前さんがそんな顔しなくていい」

 

俺は少し顔をあげて、まだユラユラと光っている青白い火をみた。

さっきまでは、ただ綺麗な火に見えたけれど、

今は、寂しげに悲しげに光っているように見えた。

説明
海洋冒険編、過去捏造。「水夫」の視点変更版。  作品背景だけ借りた半オリジ話。
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ぱわぽけ

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