鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第五十四話
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〜暁の大地〜

 

依頼者との集合場所に辿り着いた三人は、

 

次に目印の崖を探すこととなった。

 

崖の下に建てられた宗教施設。

 

その中のどこかに、カノンノが居るはずなのだろう。

 

『……目の前からいきなり、教徒が現れたってんなら、可能性は高いはずだよな』

 

エドがそう呟くと、三人はすぐに息込んだ。

 

先ほど、アーチェとかなり喧嘩したのが嘘みたいに収まっていた。

 

いや、正しくは収まっているのではなく

 

≪俺はもうお前とは口聞かねぇからな!!≫

 

≪上等よぉ!!乗ってやるわ!!≫

 

という、子供のような喧嘩から始まったのだが。

 

もう少し仲良く出来ないものか。とカノンノは溜息を吐いた。

 

『…………』

 

『……………』

 

それ以来、二人は全く会話をしていない。

 

二人とも子供だ。そう確信した。

 

このままで大丈夫なのだろうか。

 

そう不安になった。

 

『エドワード君。』

 

エドの聞き覚えのある声が、二人の耳にも届いた。

 

依頼人の声だと認識しかしなかったが、エドは約束を果たしてくれたという事に信頼をした。

 

『ダオス。』

 

『ダオス?』

 

エドの呼んだ名前に、アーチェは疑問を抱いた。

 

『鎧の弟君は、一緒じゃなかったのだね。』

 

ダオスがエドに親しげに話すところを見て、アーチェが突っかかった。

 

『ちょっと何よこいつ。アンタの知り合い?』

 

『……………』

 

エドは返事をしなかった。

 

次に、カノンノが言葉を発した。

 

『エド…。この人、前にどこか出会った事あるの?』

 

『ああ。こいつらとは、パラサイス都市で殺されかけたとき、協力した奴らだ。』

 

エドのその態度に、アーチェは再び不機嫌になった。

 

『〜〜〜っ……!!アンタ本っ当に子供ね!!本っっ当に!!』

 

『ところで、他の奴らはどこに行ったんだ?見かけないんだけど』

 

エドは、他の仲間が居ないこの状況に疑問を抱いた。

 

ダオスは、状況をエドに説明をした。

 

『ああ、もう崖を降り始めているよ。元々、君たちとは僕だけで合流する予定だったからね。』

 

そう聞かされて、エドは、ふーんと適当に納得しながら腕を組んだ。

 

『大丈夫なのか?』

 

『ああ。彼らはこれ程の崖の高さ位はなんて事ない。いつも暁の従者に逆襲する為に訓練を受けているからね。』

 

ダオスのその答えを聞いて、エドは呆れの溜息を吐いた。

 

『………無駄な事だと思うけどな。』

 

『?』

 

エドのその答えには、少し納得の行かない所があった。

 

そう感じながらも、ダオスは表に出さなかった。

 

『奴らは、俺の使う錬金術を理解していないんだ。それに、この施設は随分前に建てられた物だろう。つまり、俺が居ればこのくらいの警備なら簡単に突破出来るんだよ』

 

『ほーうほーう。それはご立派ですこと。』

 

アーチェが、エドは自惚れていると感じた為、皮肉るようにそう言ったが、エドは約束を守る正確である為ここでも無視した。

 

『………なる程。前に見せてくれた、錬金術というものか。』

 

錬金術

 

そう言う言葉を聴いて、アーチェは首を傾げた。

 

『アンタの使うその術で、施設まで道を作る気?派手だし、バレるんじゃない?』

 

アーチェがそう言うと、エドは黙ったままだった。

 

そして、木の枝を広い、屈んで文字を書き始めた。

 

書き終えた後、エドは立ち上がった。

 

≪馬鹿≫とかかれていた。

 

アーチェは、エドを殴ろうと拳を突きつけようとしたが、

 

カノンノに両腕で止められた。

 

『アーチェさん!落ち着いて!!』

 

カノンノがいくら行っても、アーチェは止めようとしなかった。

 

そのアーチェを無視して、エドはダオスに顔を向けた。

 

『でも、その錬金術でどう道を作るつもりだい?』

 

ダオスの質問に、エドは不敵に笑った。

 

『簡単だ。錬金術の”分解”と”再構築”を上手く使えば良い。』

 

そう言った後、エドは両の手を合わせ、錬金術を発動させた。

 

発光した手は、吸い込まれるように地に落とされ、地面は小さく発光した。

 

正しくは、地中から光が漏れているようだった。

 

光に包まれた部分は、大きな穴となり、地中深く続いていた。

 

壁には、降り易いようにはしごが作られていた。

 

錬金術が終わると、施設まで続いているであろう。マンホールが出来上がった。

 

『………本当に便利な能力だね』

 

そう言うと、まず一番最初にエドが穴の中に入って行った。

 

それを見て、アーチェが疑問の声を上げた。

 

『え?アンタが一番最初なの?』

 

アーチェがそう言うと、エドは不機嫌そうに答えた。

 

『当たり前だろ。途中で途切れてたとき、誰が穴を作るんだ。』

 

エドがそう答えると、アーチェはにやけた笑顔になった。

 

『はい、アンタの負け』

 

『は?』

 

アーチェがそう言った瞬間、エドは一瞬疑問の声となった。

 

そして、瞬時に理解した。

 

『なっ……!!てめぇ!!お前が最初に負けてんだろうがぁあああ!!』

 

『私は、”口聞かねえ”とは言ってないわ。”乗ってやる”と言ったのよ。つまり、アンタが口を出した以上、アンタの負けになるわ』

 

アーチェのその妙に説得力のある言葉に、エドは更なる苛立ちを感じた。

 

そして、叫ぶように言葉を吐き出した。

 

『次だ!!次は絶対に口を聞かねぇ!!これからもずっとな!!賭けても良い!!ンゴラァアア!!!』

 

その子供のような言い草に、ダオスは苦笑いをしながら答えた。

 

『まるで本当に子供だな。』

 

そう言って、ダオスはそこで立ち止ったまま、動かなかった。

 

『アンタは行かないの?』

 

『お先にどうぞ。僕はアンチレディファーストの趣味はございませんので。』

 

ダオスがそう言うと、カノンノは苦笑いしながら進んだ。

 

二番目に、カノンノが入ろうとした瞬間、アーチェが叫んだ。

 

『カノンノ行くよー!絶対に上見るんじゃないわよー!スケベ!』

 

『ちょっ…ちょっとアーチェさん……』

 

カノンノは、顔が真っ赤に染まるのが分かった。

 

返答がない事から、更にアーチェは更に笑顔になった。

 

『んじゃ、私もお先に』

 

そう言って、三番目にアーチェが穴の中に入って行った。

 

アーチェは、せかすようにカノンノに突っかかり、下に下りて行った。

 

『あの……アーチェさん?』

 

ダオスと随分距離が遠くなった。

 

と言おうとしたが、アーチェが呟くように小さな声で語り始めた。

 

『………全く、おチビちゃんもおチビちゃんよね。なんであんな胡散臭そうなの、頼れるのかしら。』

 

『アーチェさん?』

 

アーチェが言葉を言い終える前に、下から叫ぶような声が響いた。

 

『誰だぁぁああああ!!チビっつった奴はぁああああああああああああ!!!』

 

その叫びが穴の中で響くと、アーチェは身体をビリビリ震わせた。

 

『………相変わらず、地獄耳』

 

そう言って、再びせかすように下に降り始めた。

 

カノンノは、先ほど言ったアーチェの言葉がどこか気になっていた。

 

『……アーチェさん?さっきの話……ダオスさんがどうかしました?』

 

カノンノがそう言うと、アーチェが顔を嫌そうに歪ませながら、階段を降りながら答えた。

 

『………なーんか、エドより気に入らないのよね。アイツ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 神言の間〜

 

進入しようとしている者が近づいているとは知らず、信者達は広場で教祖が現れるのを待っていた。

 

ほぼ全員、それ以外の者は警備に回る。

 

この時間が、一番警備が薄い時間帯にある為、

 

警備の者は、より強い武器を持ち目を光らせている。

 

そんな危険な状態の中、信者達は教祖ともう一人、神の子(ディセンダー)を崇めようと広場で集まる。

 

『ディセンダー様、この頃元気が無いと言われてますわよ。』

 

『きっと、世界のバランスが、自分勝手な国のせいで崩れ始めているからだ……。くそっ!政府め…』

 

私語を語っている者の横で、腕を組んだ強豪そうな男が不敵の笑みで睨みつけた。

 

『なんだ?』

 

『お前ら、まだそのような事が不安なのか?』

 

その男は、自身が有り気だ。

 

どこか、確信があるのだろう。

 

『何か、確信があるのか?』

 

『そうだ。神の使えし者である教祖様と、ディセンダー様が今、ここで組まれているのだぞ?ならば、我々は無敵ではないか。どこに不安になる要素があるというのだ?』

 

男の言葉を聴いて、相談をしていた者達は安堵の表情を表した。

 

『そ…そうだよな。ディセンダー様は我々の味方なんだ。それじゃぁ、僕達は何の心配も無い!』

 

『ああそうだ。我々がする事は、教祖様とディセンダー様を……』

 

最後の言葉を言い終える前に、神官が叫ぶように教徒達に語りかけた。

 

『これより!バベル教祖様と、ディセンダー様の会見を行う!!私語を慎み、教祖様の言葉を一言一言、身にしめるように!!』

 

そう叫んだ後、教徒は全員静まり、軍隊のように並んだ。

 

様々な楽器が鳴り響き、紙ふぶきが舞う中から、一人の中年男性と

 

死んで濁った色をした瞳を浮かべ、俯いている髪飾りの無いピンクの髪の少女が立っていた。

 

その二人の姿を拝見した教徒達は、一瞬で興奮し、狂喜した叫びを上げていた。

 

教祖が、腕を上に挙げる合図をすると、全員がまた静まり返った。

 

『……世界はディセンダー様の為、世界樹のままに。』

 

その一言を、何度も言い慣れているような口ぶりで答えると、次に威厳のある声で、足を大きく踏むように歩き、民衆に近づいた。

 

そして大きく手を広げ、教徒にとっては偉大なる言葉を浴びせるように叫ぶ。

 

『我は、ディセンダー様と永遠の共として!世界樹を、いや世界を!!私とディセンダー様により、人生を賭けて変える事を宣言する!!!』

 

叫んだ後、教徒は再び歓声を浴びせた。

 

これ程、歓声を受けても、ピンクの髪の少女は一切表情を変えなかった。

 

だが、それでも教徒は良かった。

 

これで、世界が自分たちの思い通りになるのだ。

 

教祖とディセンダーの入籍、教徒達にとっては何以上にも無い喜びだったからだ。

 

『我々がする事は……』

 

強豪そうな男がまた言いかけ、微笑み、そして答えた。

 

『教祖様と、ディセンダー様を見守る事だ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 屋根〜

 

人が立つような場所ではない場所、

 

人が見えない、死角となる屋根で、盗賊団の仲間であるルーティとカイウスが立っていた。

 

『………ここに、あいつらの中心核が……』

 

カイウスの表情は、殺意の混じった物に変わっていた。

 

ルーティは、屋根の材質を拳で叩いて調べ、叩いた音を聞き、理解した。

 

『………。ここから東の方角なら、人が少ないわね』

 

そう言って、ルーティはカイウスを手招きして移動した。

 

カイウスは、ルーティのその技にただ感心するだけだった。

 

『……ルーティって凄いよな。たったその物音で大体の状況が理解出来るんだから。』

 

『んふふ……。伊達に盗賊やってるわけじゃないからね。』

 

そう言って、忍び足で徐々に、早足で東の方角へと向かう。

 

すると、ルーティは、次に真剣な表情になった。

 

『……………』

 

物音を察知した、または人がこちらに向かっていると言った表情だった。

 

『どうした?ルーティ』

 

『なんでもないわ。』

 

何も気にせず、ルーティは歩き出した。

 

東の方角の端には、勝手口と思わしき場所が存在した。

 

そこに近づく足音がカイウスにも聞こえたとき、少しだけ慌てだした。

 

『おい……。どうすんだ?……』

 

カイウスの隣には、ルーティが崖の一部から取ったのか、大きな岩を持っていた。

 

そして、屋根の端に手を伸ばし、しばらくまった。

 

芝生を踏む音が聞こえたと同時に、ルーティは手を離した。

 

『ジュビシュッ!!!』

 

鈍い音と共に、教徒の短い悲鳴が近辺に響いた。

 

幸い、聞こえる近辺には誰も居なかった為、誰も聞こえなかった。

 

『…………』

 

頭から流れる赤い液体と、血溜まりを見て不安を感じたのか、カイウスをルーティの顔を窺った。

 

『まぁ、大丈夫でしょ。死んでない死んでない』

 

そう言って、屋根から下りて死体を確認した。

 

足でつついたが、ピクリともしない。

 

徐々に、体温が低下していくのが、触ってみて分かった。

 

『…………』

 

次第に慌てだしたルーティは、思考を外すことに決めた。

 

『わ……私達の目的は!施設の中で大暴れ!さぁ頑張ろぉ―――!!!!』

 

開き直り、図々しく施設の中へと入って行った。

 

『…………』

 

カイウスは、こいつについてきて大丈夫かという不安と、

 

このままだと、責任を俺が取らされそうな気がするという不安に掻き立たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 新たなる道〜

 

エドの錬金術で作り上げた道は、そろそろ終盤に差し掛かった。

 

最終地点、すなわち施設の隣に辿り着くと、エドはその場で立った。

 

『そのまま動くな。』

 

『え?』

 

『動くなと言ったんだ。カノンノ、ダオス』

 

アーチェの名前は言わなかった。

 

エドは、両の手を合わせて錬金術を発動させた。

 

すると、地には新しく扉が出来上がった。

 

『よしっ。』

 

その瞬間、上から箒を使う魔法使いが落ちてきた。

 

『ぐっほぉ!!!』

 

そして、重みに耐え切れなかった扉は地に落ち、エド達は結果的に施設の中に侵入した。

 

『アーチェさん!』

 

カノンノが、アーチェの行動に疑問を持った。

 

『そんな、エドさんに酷いことしないでくださいよ!』

 

『だって、こいつ私の名前言わなかったでしょ?じゃぁ私はこいつの言葉に囚われる権利もくそったれも無いわよ。』

 

アーチェは、ほとんど反省していなかった。

 

エドの表情には、ほとんど怒りの血が滾っており、血管が複数浮き出ていた。

 

『もー。大体アーチェさんは……』

 

カノンノが下に下りた瞬間、脱帽した。

 

周りに、教徒が一人居たからだ。

 

目が合った時。両者とも固まってしまった。

 

見つかった。

 

そんな思考が、頭の中で30通り流れたからだ。

 

『侵入者だぁ――!!!』

 

そう叫んだ瞬間、エドは上に乗ってるアーチェを押しのけて立ち上がった。

 

『うわぁ!』

 

『侵入……』

 

瞬間、エドと周りに居た教徒を囲むように壁を練成した。

 

『!?』

 

『これで、声は響かないと思うぜ。』

 

そう、余裕の言葉を吐きかえると、教徒はワナワナと怒りで震えていた。

 

『舐めるな!』

 

教徒がそう言った瞬間、銃を突きつけた。

 

『舐めてんのはそっちだ!!』

 

エドは、教徒の目の前で壁を練成した。

 

『!?何だこの魔術は!』

 

エドは、錬金術の説明をするのも面倒くさかった為、この言動は無視した。

 

『ダオス!』

 

『ええ。分かっております。』

 

エドがダオスに声をかけた瞬間、屈んだ。

 

『え?エド?』

 

『早くお前も屈め!』

 

エドがそう言うと、カノンノとアーチェが早い速度で屈んだ。

 

すると、ダオスは手から暗黒の波動を発射した。

 

『ぎゃふぁ!!』

 

短かな悲鳴と共に、教徒は消えてなくなった。

 

『………っ!?』

 

『消えた…?』

 

さすがにこれは、エドも予想外だったのか、そのまま固まってしまっていた。

 

『安心してください。彼は消えていませんよ。ただ、”ある未来のある場所へ肉体ごと移動した”だけですから。』

 

『………』

 

全員、あまり理解は出来なかったが、とりあえず現状の確保には安心した。

 

『……まぁ、死んでねぇってんなら。何の文句も無えな。』

 

そう言って、エドは手を叩き、地に手を置いて、

 

壁の練成物を分解して、元通りにした。

 

元通りにした壁の向こうには、さらに多くの教徒がこちらを睨んでいた。

 

『…………』

 

そのまま、エド達は固まってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 神の間〜

 

教祖と少女と二人、その部屋で佇んでいる中で

 

教祖だけが、嬉しそうな表情で窓の外を見ていた。

 

『…………ふふふ。』

 

不気味に笑い、少しだけ表情を変えただけで凄まじい程歪むその顔は、教徒以外には嫌悪を抱くであろう。

 

その表情をした後に、ブツブツと教祖は窓に語りかけるように呟いた。

 

『世界が……世界が本格的に私を中心に回るようになってきた……。』

 

すると、ぐるりと猛スピードで後ろに振り向き、満面の笑みで少女に語りかけた。

 

『お前もそう思うだろ!?ディセンダー!!』

 

教祖がそう言っても、ディセンダーと呼ばれた少女は、ピクリとも動かなかった。

 

教祖は、それでも構わなかった。

 

『……ふ。まだ世界に不安があるというのか?』

 

不気味に笑いながら、少女に背を向け、再び窓の方に目を向けた。

 

『安心したまえ。世界に不安となる人物は、私達が全力を持って潰してあげよう。そう、私の指一つ動かせば誰一人逃げる事はできのだよ!!!』

 

急にトーンを上げて、終盤に声を大きくさせた教祖は、再び少女に目を向けた。

 

『笑え!!笑うのだ!!さぁ!さぁ!!!私の為に、この世界の為に!!私を中心に回り始めている、世界の為にも!!』

 

教祖は、少女の肩を掴み、中年の顔を少女に近づけさせた。

 

『私の前で……笑ってくれ……。』

 

徐々に、少女の顔に教祖の顔が近づこうとしている。

 

少女は、もう何もかもどうでも良いような表情で、ただ呆けていた。

 

最早、何も感じても思ってもいないのだろう。

 

そのまま、何一つ動こうとしなかった。

 

『教祖様。ご報告するべき事があります』

 

もう一人、ピンクの神のツインテールの少女が部屋に入ってきた。

 

少女は、そのツインテールの少女を知っている。

 

だが、今は私が思っているような”そいつ”ではない。

 

ツインテールの少女が部屋に入ってきたと同時に、教祖は舌打ちをした。

 

『………何の用だ。プレセア』

 

『この館に、侵入者が入り込みました。』

 

侵入者という言葉を聴いて、少女は少しだけ反応した。

 

教祖は、少しだけ嫌な顔をした。

 

『………侵入者か』

 

教祖は、軽いことを考えるかのように、その対処を考えていた。

 

『容赦はするな、殺せ。遺体は燃やして処理をしろ。』

 

冷たくそう言い放つと、教祖は最後に付け加えた。

 

『世界樹とディセンダーを逆らう者に、粛清』

 

その言葉を聴いたと同時に、プレセアは一礼をした。

 

そして、付け加えるようにさらに言葉を発した。

 

『……しかし、次の敵はかなり手強い相手かと。』

 

『どのような者だ?』

 

プレセアは、少しだけ躊躇って答えた。

 

『………私が、前に出会った記憶が微かにあります。ノーモーションで魔術を使う、金色の目をした者です。』

 

プレセアが発した侵入者の特徴を聞いて、少女は目を見開いた。

 

『エド………』

 

その瞬間、動かなかった身体は、部屋の入り口へと向かって走り出した。

 

『!!プレセア!!』

 

教祖が叫ぶと同時に、プレセアは躊躇う事無く少女に飛び掛った。

 

腕の関節を背中に乗せ、動けないように縛り付けた。

 

『エド……エド!!エド!!!』

 

少女は、叫ぶのを止めなかった。

 

助けが来るまでに叫ばなくては、そう考えていた。

 

『綿!!!』

 

教祖がそう叫ぶと、プレセアは近くにあった人形を引き裂き、中の綿を少女の口の中に無理矢理押し込んだ。

 

これで、しばらくは必死に声を出しても部屋の外には漏れないようになってしまった。

 

『よくやった。』

 

教祖はそう言うと、抑え付けられて動けないカノンノの方へと歩み寄った。

 

顔の目の前に座り込むと、カノンノの頬にビンタをした。

 

『目を覚ませ!!ディセンダー!!お前に我々以外の仲間は居ない!!増してあの者達は敵だぞ!!情を移してはならない!!このままでは……ディセンダー様の身が滅ぼされるのだぞ!!』

 

教祖は、必死に少女に説得するように言葉を浴びせた。

 

すると同時に、殴る、蹴る等の行為を行った。

 

『目を覚ませ!!目を覚ませ!!目を覚ませ!!目を覚ませ!!目を覚ませ!!目を覚ませ!!目を覚ませ!!目を覚ませぇえええ!!』

 

教祖の息が切れて、暴力を止めた所、少女は涙を流した。

 

その少女の涙を見て、教祖は安堵の息を吐いた。

 

『分かれば良いのだ。分かれば……。お前は、私達”暁の従者”にとって、大切の存在なのだ。だから、道を外してはいけない。分かったね?』

 

少女は、首を横にも縦に振らず、ただ泣き続けた。

 

口に物を詰められ、声がほとんど出なかったが、嗚咽とも言える音を口から出した。

 

教祖は、また満足した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 東口廊下〜

 

『侵入者が現れたぞ!!』

 

『南口の方からだ!!』

 

『教祖様の部屋からは遠くない!!急ぐんだ!!』

 

多くの教徒達が、侵入者の存在に気付き、全速力で廊下を駆け抜けている。

 

教徒が言っている内容から、ルーティとカイウスはダオスとアドリビドムの者達であると察した。

 

『……あいつ、もう見つかったの。』

 

ルーティは、その場で呆れの溜息を吐き、その場の教徒達の数が少なくなるのを待った。

 

『作戦通りとしても……早すぎねえか?』

 

『この時間のズレは、作戦に大きく影響を及ぼしかねないからね。文句は言える立場になるわ。』

 

足音が徐々に小さくなるのを待ち、ルーティとカイウスはじっと待った。

 

小さくなり、ついに足音がしなくなるのを確認して、

 

ルーティとカイウスは扉を開けて、確認した。

 

『……いくらなんでも、ロッカーの中ってのは狭すぎると思うぞ。』

 

『しょうがないじゃない。ここが一番絶好の隠れ場なんだから。』

 

付いた誇りを払い、辺りを確認しながら二人は歩き回った。

 

二人が入った所は、休息室のロッカーだった。

 

『……にしても、本当に趣味の悪い部屋よね。』

 

休息室の壁には、教祖と思われる男のポスターがずらりと貼られていた。

 

他に、三角形が二つ重なったマークや、何かの儀式もしくは呪いで使ったであろう、動物の生首のミイラなどが並べられていた。

 

『よっぽど、暁の従者が狂った教団だってのが分かるよな。』

 

カイウスが、憎しみを込めた言葉で吐き捨てた。

 

そして、部屋から出ようとその場から離れようと動き出した。

 

『行くぞ、ルーティ』

 

そう言って、カイウスは歩き出したが、

 

後ろで足音がしない。

 

『ルーティ?』

 

カイウスが振り向くと、後ろでルーティはロッカーをあさっていた。

 

『…………』

 

『お♪250G発見』

 

その能天気さに、カイウスは呆れの溜息を吐いた。

 

『おい、ルーティ!』

 

『ちょっと待ってよ、せめてロッカーだけでも全部調べさせて。』

 

『……目的忘れてんじゃ無えよな……?』

 

鋭い目つきで睨みつけたカイウスを見て、ルーティは少しだけ慌てた表情になった。

 

『あ……いやいやぁ〜。忘れない。忘れない。』

 

そう言って、ルーティは小刀を取り出し、壁の教祖のポスターに刺した。

 

ナイフの刺さったポスターは、深く突き刺さり、目の方に直撃していた。

 

その唐突さに、カイウスも驚くほどだった。

 

『………出来る事なら、私の恨みなんてものは、忘れたいんだけどね。』

 

ルーティは、壁に刺さったナイフを引き抜いて、鞘に戻した。

 

そして、次にルーティが先頭に歩いた。

 

そうだ、思えばルーティも暁の従者に恨みを持ってこの盗賊団に入ったのだ。

 

『…………』

 

その恨みは、どのような物かは教えてくれないが

 

カイウス達と変わらず、それ以上も以下でもない、大切な原因なのだろう。

 

目は、白い空間が闇の光で包まれるように黒く光っていた。

 

『………で、上に続く階段は一体どこ?』

 

『……とりあえず、北に向かってみよう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 南廊下〜

 

死屍累々

 

殺してはいないが、今のこの状況は、そんな言葉が良く似合うだろう。

 

ほとんどエドの錬金術と、ダオスの魔術、アーチェの魔術、その三つだけでほとんどの者を蹴散らしたのだ。

 

カノンノの出番が無かったほど。

 

『………』

 

カノンノは、自分の存在意味を考えた。

 

考えても、今は答えが出るわけが無いのだが

 

『行くぞ!カノンノ!』

 

エド達は、勝利を喜ぶ暇も無くそのまま直進した。

 

『あ………うん!』

 

エドに呼ばれて、カノンノは再び動き出した。

 

今はもう一人のカノンノ、イアハートを探さなくてはならないのだ。

 

そんな事を考えている場合ではない。

 

4人は、皆で倒した教徒の身体を踏みつけながら走った。

 

足の感触が気持ち悪かったが、ほとんどの者は気にしなかった。

 

『居たぞ!!ここだ!!』

 

また、教徒達がワラワラと湧き出てきた。

 

『ここで仕留めろ!!教祖様の所へ行かせるなぁ!!!』

 

教徒達は武器を取り、銃を持つ者も居た。

 

それを見て、逆にエド達はにやけた。

 

『何を笑っている!?貴様らは……』

 

エドは、錬金術で機械鎧を大きな剣に練成した。

 

アーチェは、魔術で腕から巨大な雷を発動しようとしている。

 

ダオスは、どこから見ても完全に真っ黒な暗黒物質を作り出した。

 

見るからにやばそうな物を作り出した三人を前に、教徒達は一瞬動けなくなり、口を大きく開けた。

 

そして、一人が声をかけた。

 

『教祖様の所まで、ご報告だぁあ―――!!』

 

そう言って敵に背中を向けて走りだした。

 

『『逃がすかこの野郎!!』』

 

二人の掛け声と共に、エドは錬金術を発動させ、自身を反動で教徒まで飛び、

 

アーチェは、巨大な雷の剣の発射準備を行い、

 

ダオスは、暗黒物質を肥大化し、破壊光線を発射した。

 

『ぎゃぁあああああああああああああああああ!!!』

 

これで、ほとんどの者全てが一斉に吹き飛んだ。

 

だが、これでは一つ疑問点がある。

 

『………エドは?』

 

エドが、教徒達に向かったまま、ダオスの魔術が発動された。

 

つまり、エドが巻き添えを食らっているのだ。

 

『あ』

 

ダオスがそう声を漏らすと、アーチェが笑いだした。

 

『ひゃひゃひゃ!大丈夫よ、アイツこんなもん位で死なないでしょ。』

 

全く心配も何もしていないかのようだった。

 

むしろ、良い気味をしたかのような表情になっている。

 

カノンノは、心の底からアーチェが恐ろしくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 神の間〜

 

プレセアから次に、もう一人の青年が部屋に入ってきた。

 

それは、死に直面するかのように怯えていた表情だった。

 

『教祖様!!』

 

『落ち着くのだ。』

 

教祖は、あくまで威厳を保つ為に、冷静を装った。

 

だが、次の言葉で、おそらくは冷静で居られなくなるだろう。

 

その言葉を、教徒は口から放った。

 

『大変です!!侵入者……4人に!たった4人に我々は、4分の3ほどの兵士が戦闘不能となりました!!』

 

『…………!』

 

その驚愕な事実に、教祖は一瞬驚きと焦りの混じった表情を見せた。

 

『………プレセア。』

 

教祖は、プレセアの方に目を向けた。

 

プレセアも、教祖の目を見た。

 

その瞬間、変な物音が聞こえた。

 

『………?』

 

物が壊れる音、

 

もうすぐ、こちらに近づいてくるのだろうか。

 

と思った瞬間、壁が急に崩壊した。

 

『!!』

 

『……ぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!』

 

崩壊した壁の中に、見覚えのある錬金術師が居た。

 

『……!!』

 

その姿を見た瞬間、イアハートの表情に明るみが表れた。

 

『痛っってぇ〜……。あの野郎……俺が教徒側に居ると知っていて……ぶっ放しやがったなぁぁぁぁ…!!』

 

エドの表情が怒りに染まっていく中で、イアハートは湿った綿を手で引っ張り出し、一度咳こんだ。

 

『?』

 

エドが正面を向くと、そこに見覚えのある顔があった。

 

『…………エド!!!』

 

目の前に、そいつが居たのだ。

 

助けるべき相手。救うべき相手、一緒に帰るべき相手が。

 

そいつが、目の前に居る事で、エドの表情にも明るみが現れた。

 

『イアハート!!』

 

『エ……』

 

イアハートが再び名前を呼ぼうとした瞬間、教祖がイアハートの口に布を押し当てた。

 

『!!』

 

しばらく暴れたと思ったら、徐々に力を失っていき、最終的にはイアハートはそこでだらりと脱力擦るようにうな垂れた。

 

『てめぇ……何しやがった!』

 

『ディセンダーを、お前らみたいな悪魔に渡さない為にだ。』

 

教祖がそう言った瞬間、エドの額に血管のような物が浮き出た。

 

そして両手を合わせ、再び機械鎧を武器に変えた。

 

その様子を見て、青年は情けない悲鳴を上げながら逃げ出した。

 

『ざっっっけんなよ!!てめぇ!!!!最初に拉致ったのはてめぇだろうがぁあああああああ!!!!!』

 

そう言って、エドは教祖に向かって突進をした。

 

すると、横に居たプレセアが斧でエドの行く先を防いだ。

 

『!!』

 

プレセアの攻撃を見て、エドは目を見開かせた。

 

まだ、洗脳が解けていない。

 

むしろ、酷くなっているのではないのだろうか。

 

そう感じずには居られなかったからだ。

 

『黙りたまえ!!最初にディセンダー様に悪魔の知識を植え付けたのはお前等!!監禁していたのもお前等!!お前等のせいで……ディセンダーは間違った知識ばかり知ってしまう!!貴様等のしている事がどれ程愚かしい事なのか、分からぬのか!!』

 

『何言ってんだてめぇ!!??なんでも自分達が正しいと思ってンじゃねぇええ―――――!!!!』

 

エドは、蹴りでプレセアの斧を弾き飛ばした。

 

だが、またプレセアは斧を持って向かって来る。

 

『ふん!!』

 

エドは、自分の前に壁を練成し、行く手を遮らせた。

 

だが、それは誤算だった。

 

向こうで、教祖がイアハートを抱えて扉を開いて逃げようとしているのだ。

 

『!!』

 

『もう二度と、ディセンダー様を貴様等の手に渡しはしない!!』

 

そう言って、教祖はエレベーターを使って上へと登って行った。

 

『待ちやがれてめぇ!!』

 

エドが壁を飛び乗り、プレセアを飛び越えようとした瞬間、斧の背にぶつかり、壁まで飛ばされた。

 

『ぐっ……!!!』

 

壁にぶつかり、背中を強打したエドはプレセアを睨みつけた。

 

プレセアの目は、冷たく無表情の目だった。

 

『行かせませんよ。錬金術師』

 

エドも、もう覚悟を決めたのか、考えを改めることにした。

 

こいつは今、敵だ

 

『邪魔……すんじゃねぇぇえええええええ!!!!』

 

エドは、両手を合わせ、錬金術を発動させた。

 

地から練成される、突起物がプレセアに向かって発射するように向かう。

 

プレセアは、それを斧で突き刺し、完全には斬らず、

 

そのまま斧を軸にして突起物の上に飛び乗った瞬間、斧を完全に振り下ろした。

 

瞬間、突起物は切り落とされ、斧は自由となった。

 

『データは……採取済みです』

 

プレセアがそう言った瞬間、

 

そのままプレセアは、エドの元へと向かって走りだした。

 

『俺より年低いガキが……錬金術の全てを理解してたまるかってんだよ!!』

 

エドがそう叫ぶと、次にプレセアの下に練成陣を発動させた。

 

『!?』

 

すると、地から発生した突起物がプレセアの腹をめがけて飛び出した。

 

くだらない攻撃だ

 

そう感じたプレセアは、ひらりと避けたが、

 

それと同時に、突起物は再びプレセアの腹をめがけて発射するように移動した。

 

突起物が自由に動き回るとは思いもしなかった為、予測できずに見事に腹に直撃した。

 

『………!!』

 

歯を食いしばり、エドと同じように壁に叩きつけられたプレセアは、

 

再び、ゆっくりと立ち上がった。

 

『……へっ、ざまあ見やがれ。俺と同じ目に合わせてやったぜ。』

 

エドが笑顔でそう言うと、プレセアは再び無表情へと変わった。

 

その目は、殺意の目に変わっていた。

 

『……やっと殺る気になったってか』

 

すると、プレセアはじぃっとエドの方を見つめた。

 

そして、斧を持ちながら突進した。

 

洗脳されて、思考が少しだけ単純化されているのだろう。

 

それを確信したエドは、再び錬金術を発動させた。

 

『思ったとおりだ!!待ってたぜぇ!!』

 

エドがそう叫んだ瞬間、エドは地に両手を付け、発動させた。

 

プレセアの足元に、一部だけ盛り上がり、バランスが猛烈に崩された。

 

倒れこもうと、地面に吸い込まれるように落ちる瞬間、再びエドは錬金術を発動させた。

 

『もういっちょう!!』

 

次に、プレセアが地面にぶつかった瞬間、地中から管が練成され、プレセアの身体に巻きついた。

 

『!』

 

『これでしばらくは動けねぇだろ……しばらく大人しくしてやがれ!』

 

エドがそう吐き捨てると、エドはエレベーターの横に設置されている階段を利用した。

 

おそらく、もうエレベーターは使えないように設定してあるに違いない。

 

そう考えたエドは、体力は消耗するが、階段を駆け上がることにした。

 

『エド!』

 

後ろから、エドを追って三人が追いついて来た。

 

カノンノが、縛られているプレセアを見下ろすと、次にエドの方に目を向けた。

 

『………これ、エドが?』

 

『話は後だ!今は上に行くぞ!!』

 

エドがそう叫んだ瞬間、プレセアを縛っていた管にヒビが入った。

 

『!?』

 

次第にバラバラになって行き、プレセアを縛り付けていた管は音を立てて崩れ

 

最終的に、プレセアは自由になった。

 

『……嘘だろ?おい』

 

プレセアの手には、小刀が握られていた。

 

それで縛り付けていた管を砕いたというのか。なんと言う馬鹿力だ。

 

『行かせませんよ』

 

プレセアが再びその言葉を口にすると、カノンノとダオス、アーチェがプレセアの前に立ちはだかった。

 

『エド!早く行って!!』

 

『ここは、我々がプレセア君を引きとめよう。』

 

『とっとと行きなさいよ!豆助!!』

 

三人は、エドにエールを送ってプレセアに向かって戦闘体制になっていた。

 

一人だけ、さりげなく罵声をエドに送ったが。

 

『………ああ、頼むぞ!!』

 

エドが、全速力で階段を駆け上がると共に、プレセアが動き出した。

 

だが、やはり三人はプレセアの前に立ち、必死に引きとめようとする。

 

『プレセアさん!本当に何もかも忘れたんですか!?私達は仲間だったのですよ!?』

 

『そうよ!肉球肉球言っているあの時はどうしたのよ!……こんないかれた教団に本気で肩入れする気!?』

 

二人の罵声と共に、無理矢理突き進もうとするプレセアの斧を剣で防ぎ、必死に説き伏せていく。

 

『それに……こんな事して、アンタの大切な人は喜ぶの!?どうなの!?』

 

『プレセアさん!目を覚ましてください!!貴方が……貴方が望んでいたことは本当にこの事なんですか!?人を不幸にして、自分達の事しか考えない者達を助ける事が、貴方の望んだ事なんですか!?』

 

カノンノがそう叫んだ瞬間、プレセアの動きはピタリと止まった。

 

そして、そのまま固まったまま斧をゆっくり振り下ろし、戦闘体性を解いた。

 

その様子を見て、カノンノは少しだけ混乱したが、

 

安堵した表情を浮かべた。

 

アーチェも、やれやれと安心した表情になっている。

 

そしてプレセアは、次のような言葉を発した。

 

『……貴方達には興味ありません。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 屋上〜

 

『うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

エドが、全速力で階段を駆け上がっていく。

 

早くしなければ、もう二度と会えない気がするのだ。

 

早く上に行かなければ、早く連れて帰らなければ、

 

イアハートの、必死に訴えかけるような目を見て、彼女がどれ程苦痛を受けているのか、

 

今、どれ程不幸を感じているのか、その”目”を見るだけで感じ取れたのだ。

 

そんな奴等の所には、もう一秒たりとも置いて置けない。

 

『待ってろ……。ふんぬぅぅうおおおおおおおおお!!!!』

 

エドは、更に最高速度を上げ、上の階上の階へと向かって走り続けた。

 

いくら走っても、終わりが見つからなかろうと、

 

気が遠くなる程、まだ階段が残っていようとも、

 

死ぬ気で走りぬか無かれば、全てが終わりそうな気がしたのだ。

 

『おおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

さらに、スピードを落とさずに走り続けて

 

足を大きく一歩一歩素早く走り抜けると、

 

ようやく、光を見つけた。

 

『屋上だ!!』

 

エドが叫ぶと、エドの足は歓喜するように残りの体力を絞って駆け上がったのだ。

 

『おらぁああああああああ!!』

 

飛び出すように屋上に出ると、目の前には大きな羽のついた機械があった。

 

その羽のついた機械の横に、教祖がイアハートを抱きかかえ、その機械に乗ろうとしていた。

 

『イアハート!!!』

 

エドが叫んでも、イアハートは目を覚まさなかった。

 

エドが叫ぶ姿を見て、教祖は笑い出した。

 

『はっはっはっは!!言っただろう。お前等にディセンダーは渡さぬと!!』

 

教祖とイアハートが乗り出すと、機械は上に飛び上がろうとした。

 

『くそっ!!』

 

エドは、更に全速力で駆けようとしたが、間に合わない。

 

このままでは、確実に逃げられてしまうだろう。

 

『諦めろ!!いくら戦いを挑もうとも……世界という神が居る限り、正義が勝つのだ!!』

 

教祖は、機械に乗って徐々に徐々に高く上っていく。

 

教祖は、愉快そうに大声で笑った。

 

『諦めろ!!肝心だ!諦めろ!!肝心だ!諦めろ!!肝心だ!諦めろ!!諦めろ!!諦めろ!!諦めろ!!諦め……』

 

瞬間、機械は大きな音と共に動きを停止した。

 

『!?』

 

まるで、何かに引っ張られているようだった。

 

下を覗くと、機械は紐でくくられていた。

 

『なっ……なんじゃこりゃぁあああ!!!』

 

紐は、屋上の太い柱に繋がれていた。

 

これでしばらくは、逃げる事は不可能だ。

 

柱の影から、二人の人影が現れた。

 

『随分、間抜けな姿だな。バベル!!』

 

カイウスがそう叫ぶと、教祖の表情が徐々に怒りで染まる。

 

『舐め……舐めるなぁ!!』

 

教祖は、そう言って銃を取り出し、縄を絶ち切ろうとした。

 

だが、それも遅いだろう。

 

エドは、既に縄のつながれた柱の前に居たのだ。

 

『返してもらうぞ!!俺達の仲間を!!!!』

 

エドはそう言って、柱に錬金術を発動させた。

 

遠隔練成

 

繋がりがあれば、ずっと先に存在する物質を錬金術で練成することが可能だ。

 

宙に浮かばれては、触れなければ錬金術は使えないが、

 

この状態ならば、繋がりがある状態ならば、あの機械でさえ練成することが可能なのだ。

 

『くらいやがれぇぇえええええええ!!!』

 

エドは、錬金術を発動させ、羽のついた機械の中を変形させた。

 

『なっ!?』

 

教祖の下の床が分解され、消失した。

 

教祖を支える物質が消失し、教祖とイアハートは地に吸い込まれるように落ちようとされる。

 

『ぐぅぅううっ!!!』

 

教祖は、必死に生き残っている床にしがみつき、耐えていた。

 

だが、眠りについているイアハートの身体は、そのまま地に吸い込まれるように落ちて行った。

 

『ディセンダー様!!』

 

運転手が、ディセンダーの逃がした事に声を荒げた。

 

だが、教祖は

 

『何をしている!!早く私を引き上げろ!!!』

 

そう叫んで、助けを媚びた。

 

イアハートの身体は、そのままエドの居る地にまで叩き付けられようとしている。

 

だが、エドがそんな事をさせるわけが無く、エドは地面を練成させた。

 

『イアハートォー!!!』

 

イアハートが落ちるであろう場所まで床を練成し、エドは駆け抜けた。

 

そして、落ちる場所まで走ったエドは、腕を広げてイアハートが来るのをまった。

 

だが

 

『!?』

 

場所がずれて、腕を伸ばしても届かない所まで落ちようとしていた。

 

エドは、その現状を見て、足に力を入れた。

 

『うぉぉぉおおおおおおお!!!』

 

エドは、足に力を込めてイアハートが落ちる場所まで飛んだ。

 

そこに足場は無い事は分かっている。抱きしめれば恐らく錬金術は使えないだろう。

 

だが、今はイアハートを助ける義務があった。

 

エドは、自分の危険覚悟でイアハートを守りに入ったのだ。

 

『おぉう!!』

 

エドは、見事イアハートの身体を両腕で捕まえると、そのまま地に落ちようとした。

 

俺なら大丈夫だ。これくらいの高さ。

 

そう考え、ダメージ覚悟で落ちようとした瞬間、

 

後ろ襟首を掴まれた。

 

『!?』

 

同時に、宙に浮いた感覚となった。

 

エドは、イアハートを抱きかかえながら横目になった。

 

『………本っ当。自分勝手に行動するわね。あんた』

 

エドは、礼を言わなかった。

 

助けられたのはともかく、第一声がそれだったからだ。

 

それに、今は勝負に出ている。

 

エドは、ふてくされた表情になっていた。

 

『……でも、ま。ちょっと格好良かったんじゃない?』

 

だが、アーチェはエドの予想外な答えを答えた。

 

それを言われたエドは、表情に曇りを生じた。

 

なんだか、この自分ルールありきを行っている自分が、とてつもなく子供に感じ、恥ずかしさを感じたのだ。

 

アーチェに掴まれながら、ボソリと呟くようにエドは言葉を発した。

 

『………あんがとよ』

 

『え?何?何?聞こえない?』

 

アーチェは、わざとらしくふざけた返答をした。

 

エドは、再び表情に怒りを生じた。

 

『あ・り・が・と・な!!!!!』

 

やけくそ気味で、大声で叫ぶと、

 

アーチェが愉快そうに笑い出した。

 

『はい!私に返答したしたわね!!今度こそアンタの負けよ!!!』

 

アーチェが笑い出し、エドを馬鹿にするような態度を取った。

 

その態度に、エドはかなりの苛立ちを感じた。

 

この依頼が終わったら、殺してやろうとも思ったくらいだった。

 

笑い続けているアーチェの横に、殺意を溜め込んでいるエドの怒りの表情が置かれていた。

 

『エド!!早く来て!!』

 

カノンノの声と共に、アーチェとエドは、イアハートを抱えながら再び屋上の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方達に、興味ありません。』

 

プレセアがそう呟いた後、2人を払いのけて屋上へと全速力で向かった。

 

ダオスに関しては、避けて無視して向かった。

 

『プレセアさん!!』

 

カノンノが叫んでも、プレセアは振り向きもしなかった。

 

振り向きもせず、屋上へと向かうエドの後へと走って行った。

 

『早く行こう。手遅れになる前に!』

 

ダオスがそう言うと、アーチェだけ別の方向へと走った。

 

窓の方向だった。

 

窓を開けて、身体を乗り出して箒にまたがった。

 

『アーチェさん!?』

 

『そんな所行くより、外から行った方が早いわよ!』

 

そう言って、アーチェは二人を手招きした。

 

カノンノは、のこのことやって来たが、ダオスは近づきもしなかった。

 

『ダオスさん?』

 

ダオスは、窓を見据えるように見つめながら、

 

しばらくして、階段の方へと目を向けた。

 

『私はいい、君たちは先に行ってくれ。』

 

ダオスがそう言うと、アーチェは引き止めようとせず、むしろ笑顔で対応した。

 

『ああ、そうなの?それじゃぁ、階段頑張って。』

 

そう言って、身を乗り出し、前を見ると、目の前には壁が広がっていた。

 

そうだ。ここは崖の中だったのだ。ここから先は、壁になっていてもおかしくない。

 

『………』

 

人が一人通れるかも怪しいその隙間に、カノンノは苦笑いで後ろ退がった。

 

『あ……。私、やっぱり階段使います……。』

 

カノンノはそう言って、階段の方へと駆け寄った。

 

一人になったアーチェは、ただ隙間を見つめていた。

 

その、恐ろしく狭い隙間に。

 

『あああああああああああああああああああああ!!』

 

叫びながら、無理矢理箒にまたがり、隙間を強引に抜けて、空を飛びながら突破して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーチェがエドを掴み、再び屋上へとたどり着く。

 

すると、紐が切られ、機械は再び空へと向かおうとしていた。

 

『くそっ!逃げられちまう!!』

 

これは、自分の責任だ。

 

機械ごと、滅ぼしてしまえば、全て解決していたはずだった。

 

なのに、このままでは逃がしてしまう。

 

『エド!!錬金術だ!!』

 

カイウスが、そう叫ぶと

 

大きく頷いて手を叩いた。

 

『逃がさねぇぞ!!クソッタレ教団!!!!!』

 

エドはそう叫びながら、腕を地に置いて錬金術を発動させた。

 

大きな突起物が練成され、それは機械に向かって伸びていた。

 

『いっけぇぇぇええええええええええええええええ!!!』

 

その上に、ルーティが乗って、突起物が上へと登っていくと同時に、先端部分に乗り、自動的に機械に近づいている。

 

この速さなら、機械を捕まえられるだろう。

 

もう少しだ。もう少しと思った所、

 

その希望は、費えた。終わった

 

足場に、ヒビが入ったのだ。

 

『!!』

 

これ以上、伸びていけば壊れてしまうだろう。

 

悔しいが、ここで止めるしかない。

 

だが、ルーティの意地は強かった。

 

そして悪かった。

 

『させるかぁ!!』

 

そう言って、ルーティは足場から飛んで、機械まで飛んだ。

 

『おおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

だが、

 

『!』

 

無理だった。

 

届かなかった身体は、地に吸い込まれるように落ちて行った。

 

まるで、さっきのイアハートと同じように

 

『ルーティ―――――!!!!!』

 

カイウスが叫ぶと、同時にルーティは暗黒の物質に包まれた。

 

『!?』

 

暗黒の物質に包まれたルーティは、そのままゆっくりと降落して、

 

しばらく時間が経った後、エド達と同じ高さの屋上まで足を置いた。

 

『間に合ったようだ。』

 

ダオスが手を垂らす、ルーティは感謝の笑みをダオスに見せた。

 

『ああ、ありがとう。ダオス』

 

ダオスが、安堵した息を吐くと、同時にルーティの目を見て、説教をした。

 

『ルーティ、いくらなんでもアレは無謀すぎる。無理はしてはいけないよ。』

 

ダオスがそう言うと、ルーティが少し鬱陶しそうな表情になった。

 

『あー…はい、はい。分かりました。分かりました。』

 

まともに聞いていないと知ったエドとカノンノは、少しだけ呆れた表情となった。

 

そして、身近に似たような人が居ると感じて、アーチェの方を見た。

 

『何よ』

 

アーチェの顔は、一瞬で不機嫌になった。

 

 

 

 

 

エドは再び前を向きなおした。

 

屋上に全員が集まった。

 

それに、イアハートも取り戻した。

 

これで、依頼は終了したと言っても良いだろう。

 

まだ、根源を倒しては居ないが。しょうがないだろう。

 

だが、エドは一つ疑問を感じた。

 

『おい、カノンノ』

 

カノンノ達三人が、プレセアを引きとめていた。

 

そして、今三人がこの屋上に居る。

 

ならば、

 

『プレセアはどこだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁ヘリ 中〜

 

ディセンダーを取り逃がした。

 

いや、正しくは連れ去られてしまった。

 

このような屈辱は初めてだ。

 

教祖は、頭を抱え、悩んだ。

 

『教祖様……』

 

『うるさい!』

 

いつもの様に冷静ではいられなくなり、気も荒くなっていた。

 

多くの教徒達も、施設に残したままだ。

 

この犠牲は痛い。

 

だが、更に痛いのは、やはりディセンダーを取り逃がしたことだ。

 

このままでは、世界が上手く回らない。

 

私、暁の教祖がそばに居なければいけないのだ。

 

『………っくそ!!』

 

考えれば考えるほど、頭が痛くなる。

 

悔しさと辛さが、一気に押し寄せてくるのだ。

 

『取り返せば良い事です。』

 

後ろで、プレセアの声がした。

 

『暁の従者は、ディセンダーは間違いは無いはずです。言いましたでしょう?間違っているのは彼らなのです。ですから、私達が強くなり、取り返せば良いのです。』

 

淡々と、冷たい感情で言葉を発して言った。

 

まるで、ロボットのように。

 

いや、それは間違っていない。

 

ロボットそのものなのだ。洗脳され、感情という物を消し去り、本当の暁の従者となった。

 

教祖は、愉快そうに笑っていた。

 

『……そうだ。取り返せば良い。例え……例え抵抗しようが、しまいが、間違った正義を説いているあいつらは、粛清すれば良い。』

 

そう言って、再び前を向いた。

 

『立て直すぞ!暁の朝日は、また再び芽吹く!我々の正義を、異端の正義にぶつけるのだ!!!』

 

教祖は、再び笑った。

 

愉快そうに、笑って、笑って、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の館 屋上〜

 

『…………』

 

エドは、去っていくヘリを眺めながら、遠い目をしていた。

 

また、連れ戻すことが出来なかった。

 

ジーニアスは、どう思うだろう。

 

連れて来れなかったが、この結果は残酷だ。

 

まだ、奴らを追いかけなければならない。

 

その為にも、自分達はまた、探さなくてはならないのだ。

 

根源を捕らえる事も出来ず、

 

仲間も、全員取り戻す事も出来ず。

 

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

『……また、探しなおしだな。』

 

エドが、盗賊団に申し訳ないような気持ちの表情を見せた。

 

だが、盗賊団達の表情は沈んでいなかった。

 

『案外、早く済むかもよ?』

 

ルーティがそう言った瞬間、エドは少し疑問を感じた。

 

瞬間、ルーティは懐から画面の付いた板を取り出した。

 

円の左上に、点滅する赤色の光が徐々に真ん中から離れていく。

 

『これは……』

 

『私があそこまで登っといて、ただでノコノコ逃がすと思う?逃げていく合間に、発信機つけてやったのよ。』

 

そのとてつもない行動力に、カノンノは脱帽した。

 

『むしろ、これで良かったのかもしれないしな。』

 

『ええ。居場所が分かると知らぬまま、いつまでも追いかけられる恐怖を与えてやる事が出来ますからね……。』

 

盗賊団の顔は、むしろさっきまでよりも活き活きしていた。

 

おそらく、自分達よりも、暁の従者よりも何枚も上手なこいつらには、エドも苦笑いするだけだった。

 

『そうか……。すげぇな、お前らやっぱ。』

 

『私には、ノーモーションで魔法を使う貴方の方が上等な人間だと思いますがね。』

 

ダオスが、エドに興味を持つ目で見ていた。

 

だが、エドはその目にはあまり気が付かなかった。

 

『貴方達は、あいつらに奪われた仲間を取り返してぶっ飛ばす…。私たちは、あいつ等に謝罪させてぶっ飛ばす…。』

 

ルーティは、発信機を掌で上に飛ばし、再びキャッチする。

 

『目的はあまり変わりないんだからさ。気を使ったり遠慮したりする必要ないさ。私たちは仲間なんだからさ。』

 

仲間……

 

『んなもん、当たり前だろ』

 

エドが、当然かの様に答えた。

 

そう答えられたら、ルーティが再び笑った。

 

『はっはっは!言うのが遅すぎたか。』

 

ダオスは、エド達の方へ顔を向け、そして微笑を返した。

 

『愚かな人間も居れば、マシな人間も居る……。そして、それ以上の人間も居るのですね。』

 

そう呟いたが、ダオス以外の人間には聞こえなかった。

 

『何か言った?ダオス』

 

『いや、なんでもありません。』

 

そう言って、ダオスは再びエドに背を向けた。

 

『では、一度拠点に帰りましょう。ルーティ、カイウス』

 

ダオスがそう言うと、二人は何も言わずにダオスの後を付いていった。

 

しばらく歩いて、ピタリと足を止めた。

 

『数時間後、また連絡します。その時に、集合場所もご報告いたします。』

 

そう言って、また再び歩き出した。

 

『では。』

 

別れの挨拶をして、ダオス達は歩き出した。

 

それを見たエドは、また再び決意をした。

 

『帰るぞ。そして……次は絶対に終わらせてやる』

 

全てが間違っているこの世界を、あのいかれた奴らが笑う世界など

 

全て、分解して壊してやろう。と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

ルーティの表情は、無表情になっていた

 

今までこなして来た依頼の中で、結局奴を捕まえる事が出来なかったからだ。

 

いや、それまでにも

 

かなり大切な、あの事を思い出せば、狂ってしまいそうで

 

『……………』

 

『ルーティさん?』

 

ダオスが振り向いた瞬間、ルーティはハッとして、表情を戻した。

 

『ん?どうしたの?』

 

だが、ダオスは全てが分かっていた。

 

『……いや、なんでもない。』

 

そう返しながら、ルーティはある出来事を思い浮かんだ。

 

急に、私達の村に押しかけながら、

 

私たちの仲間を、奪い去って行った。

 

『…………チェルシー…』

 

この施設の中には、居なかった。

 

そのおかげで、ルーティはその後脱力と似た感覚に陥ったが、

 

絶対に見つけ出す、そして、取り戻してみせる。そして

 

ルーティは、再び暁の従者に迎え撃つと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の大地〜

 

崖の上へとようやく登りつめ、後は帰るだけという現状になった今、

 

エドは、一度抱えていたイアハートを降ろして背伸びをした。

 

『ちょっと、サボらないで担ぎなさいよ。』

 

『サボってねぇよ!!』

 

アーチェの言い方に、エドは苛立ちの返事をした。

 

途中から、ようやく仲良く慣れたのかなと思ったら、

 

結局最後まで、仲が悪いままだった。

 

カノンノは、その場で苦笑いをした。

 

降ろされたイアハートの腕が、ピクリと動いた。

 

『……お?』

 

薬が、ようやく切れ始めたのだろうか。

 

寝息が、次第に無くなってきていた。

 

『………………』

 

イアハートの瞼が動き出す。

 

それを見て、カノンノとアーチェ、エドは安堵した表情になった。

 

『………イアハート。』

 

カノンノが、イアハートに歓迎の声をかけた。

 

イアハートの視界が次第に定まっていくと、目の前にはエドが居た。

 

腕に力を込めて、上半身を起こした。

 

そして、エドの方を見つめている。

 

エドは、イアハートの目の前に立つように、膝を曲げて屈んだ。

 

『………エド…?』

 

か弱く、今にも折れそうな声を出したイアハートを見て、エドは笑みを返した。

 

帰れた。

 

あいつらから逃げられたのだ。と暗示しているのだろう。

 

『へっ。ようやくお目覚めか。大変だったぜ。担ぐの』

 

エドが笑いながらそう言っても、イアハートは表情を動かさなかった。

 

だが、先ほどよりは悲しい表情をしていない。

 

あのイカレタ教祖の近くに居た時よりは、安堵した表情になっている。

 

だが、無表情に近かった。

 

『………』

 

言葉も発せず、ただエドの顔を見つめていた。

 

『?』

 

その行動を理解できず、エドもただ見つめていた。

 

瞬間、イアハートは屈んだエドの腕を握り、急接近した。

 

『!!』

 

イアハートは、エドに極端に近寄り、接吻をした。

 

その唐突さに、エドは何が起こったのか理解できなかった。

 

カノンノが、それを見て顔を真っ赤にさせている。

 

アーチェは、唖然として二人を見つめていた。

 

『イ……イアハート!!!』

 

カノンノが、イアハートをエドから無理矢理引き剥がすと、接吻はようやく解除された。

 

『なっ……ななっ……なっ!!』

 

エドは、顔が真っ赤になり、この状況が全く理解できなかった。

 

イアハートの唾が、まだエドの唇についている。

 

くもの糸のように、引いているのだ。

 

カノンノも、この状況に動揺し、頭がグルグル回っていた。

 

一体、イアハートが何をしているのか、分からなかったくらいだ。

 

アーチェは、ほとんど考えるのを止め、ただ呆然としていた。

 

だが、次の状況で三人はすぐに冷静となった。

 

イアハートが、泣き出した。

 

次第に声を出し、誰にも泣き顔を見られたくないのだろうか、顔は俯いたままだった。

 

『……ぅ……ぅくく………く……』

 

鼻水混じりの声で、大粒の涙を流し続けていた。

 

それは、苦しみの中からようやく脱出できた歓喜の涙と、

 

苦痛と、悲しみと、辛い。その三つの感情が合わさった涙だった。

 

イアハートは、エドの服を強く握り締め、胸の中で泣いていた。

 

顔を見られたくない、それ以上に

 

守って欲しい、包んで欲しい、そばに居て欲しい。

 

そう感じていたからだ。

 

余程、恐ろしい目に合っていたのだろう。

 

そして、その恐怖はまだ残っているままなのだろうか。

 

苦しみの涙は、まだ続いていた。

 

エドは、何も言わずにただ胸を貸していた。

 

『イアハート……』

 

カノンノは、イアハートに言葉を送っていた。

 

『もう……助かったんだよ…。また、一緒に居られるんだよ……。』

 

だが、イアハートは泣き止まなかった。

 

『…………』

 

アーチェは、こんな時何を言えば良いのか分からなかった。

 

あそこで何をされたのか、この怯えようと泣き声は異常だと分かる。

 

だが、それを聞くことは出来ない。

 

それからしばらく、三人はイアハートが泣き止むのを待っていた。

 

『………………』

 

『だから………帰ろう。帰ろうよ……イアハート。』

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いつの間にか、ここまで来ました。レディアントマイソロジー3の本当のストーリーが見たかったら、買ってね。
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