双子物語-22話- |
夏休みの初日。いきなり雪乃のことで色々なことがあって動揺して部屋に篭った
雪乃を見た後に先輩さんに捕まった私は今、先輩さんと対峙しているところだった。
私は先輩さんの言葉を聞いてツバをごくりっと飲み込んだ。
「今、なんて?」
「聞こえなかった?」
「や、今一度」
「雪乃ちゃんの子供の頃の写真を見せて」
そ、そこまで雪乃が気になっているのか〜…!ということは、彼女は雪乃に気がある
と思っていいのだろうか。しかし、雪乃はあのキモオタのことが好きなはず。大した脅威
ではないはずなのに先輩さんの余裕と雪乃の反応を見ると思わずツバも飲み込む展開だ。
「まぁ、そのくらいなら」
「やたっ」
「でも、写真管理してるのは母ですよ?」
「なんとっ…!」
「私に持たせるとおかずにしちゃうらしいのでダメみたいです」
大らかそうで雪乃のことになると割と独占欲が強いことがわかった。特に最近は。
あの件以来、私は持っていた雪乃の写真を没収されて心身共にボロボロだったときが
あることを先輩さんに告げると先輩さんは戦慄を覚えるほどなのか少しの間、身動き
一つできなかった。
「それは…すごいわね」
「そうでしょう!?」
なんとなくこの人とは気が合うような気がした。そうして、雪乃の写真を見せて
もらう作戦を考えながら私たちは戦場へ向かった。いざゆかん、幼き魅力の雪乃に
会いに!
そして、宴会跡を訪れると未だに楽しそうに笑いながら晩酌を続けていた先生と母さん。
父さんは仕事のために今日は早めにもう寝たようだった。するとさっきまで勢いよかった
先輩さんがまじまじと先生を見つめてから先生の隣に座る。少し作戦とは違っていて
先輩さんの目の色が明らかに変わっていた。まるで憧れの人にあったかのように。
子供がヒーローを見ているように目がきらきらしている。
「県先生ですよね」
「ん、君は誰だったかな」
だいぶ酒を呑んでいらっしゃるようで、かなり酒の臭いが漂っていたがそれでも
先輩さんが先生を見る目は変わっていなかった。相当集中しているように見える。
「私が幼い頃、幼稚園でお世話になりました。雪乃ちゃんがいる学校の近くの…です」
「ああっ、黒田…ってみーしゃか。懐かしいなぁ、こんなに大きく美しくなって」
まるで親子が久々の再開をしたかのように反応をする先生。ちょうど私たちが先生と
会う一年前くらいのことだろうか。今では高校生だから、随分会ってないことになる。
そしてあだ名だろうか、随分可愛い猫のような名前だ。
「私は、先生の言われたことを胸に秘めてがんばってるつもりです」
「うん、目を見ればわかる。まっすぐに生きている目をしている」
あの両親とは大違いだ。と、うれしそうに語る先生。その頃、園の先生になりたての
県先生は実習生として先輩さんの幼稚園に入って他の先生たちとは違う教え方を
していたらしい。今でもそのスタイルはあまり変わってはいないけど、勉強とは違う
大切なことを教えてくれる先生だ。今の授業でも退屈な内容をわかりやすいことに例えて
面白おかしく進めていくから、脳に入るか入らないかは別としてその授業中のクラスは
みんな先生のトークに耳を傾けておしゃべりしている生徒は見当たらないほどだ。
先輩さんは昔話を語りだした。それは先生との思い出が鮮明にイメージできるような
わかりやすい言葉で水のせせらぎのように透き通った声で聞いている方もリラックスして
聞けるようなそんな声で。県先生とのやんちゃな園児時代の話を聞かせてもらった。
先生たちの焦る姿を横目に好奇心旺盛な子供たちと園を抜け出して課外授業を勝手に
行ったり、夏のあまりの暑さに子供たちが引くくらいの勢いで川に飛び込んで泳ぎ
まくって後で他の先生に怒られていたり、大体が今の先生がそのまま浮かんできそうな
ほど変わらなく楽しい思い出。
「他にもかっこよくて面白い県先生が犬におっかけられていたときはびっくりしました」
「ぶっ!」
それまで優雅に呑んでいた先生がむせるように口から酒を噴出した。あまりにも驚いた
のか、服に染み込みながらも近場にあったティッシュで拭く先生。確かに聞いてるほうも
にわかに信じがたい内容なだけに驚いてはいたがまさか噴くほどとは。母さんは先生の
あわてぶりがよほどツボにはまったのか大笑いしている。
「まさか…先生」
「あ、ああ。昔の話よ」
「じゃあ、今は平気なんですか!?」
「うっ…」
先輩さんの台詞に言葉が詰まる先生は普段は動揺することがなかったのに今、表情を
変えて言い訳染みたことを探している最中なのは今まで見たことがないから新鮮だった。
「園に迷い込んだ凶暴そうに見えた野良犬に怯えていた私たちを助けに先生は飛び出した
んだけど」
「…」
「だけど?」
私は先が気になり、先輩さんの言葉をまだかまだかという気持ちを込めて続きを促す。
ようやく先生も落ち着きを取り戻して先輩さんの言葉をつまみに梅酒を呑み始めた。
ってか、まだ呑むのか。
「相手があまりに大きくて逆にびびったのね。その後、犬を惹きつけていきなり園の外に走り出したのよ。私たちに危害を加えないよう誘導してくれたのか、とまるで英雄を見る
ような目で見てたんだけど。私だけ、走る間際の先生の表情を見て今思えば怖かったの
かなって」
「まぁね。普通の大きさなら可愛いものだけど、あまりに強面で大型だったから必死だったわ」
昔、大型の強面の犬にひどい目にあったんだなぁと思えた。初めて先生の苦手なものを
見たような気がする。なんだか、雪乃の写真を目的にしたけど思わぬ収穫があった。
「人間誰しも苦手なもののひとつやふたつはあるものよね、先生?」
母さんも軽くからかいながらも自分にも当てはまると言わんばかりに頷いている。
それにしても日が変わっても呑むペースが一向に変わらない先生たちに私も流石に
少し眠くなってきた。先輩さんは本当に久しぶりの先生との再会にまだ話も弾む
だろう。私も写真については今は意気がなくなったので部屋に戻るとしよう。
「皆さん、おやすみなさーい」
一言声をかけてからその場から離れた。改めて、先生の良いところやダメそうな
ところも確認できて本日の良いオチがついたと思えた。せっかくだから雪乃にも
聞かせてあげたかったなぁ。それに、先輩さんのあの子供のような表情は雪乃も
あまり見たことないかもしれないし。
双子だからか、なんとなく直感でそう思えた。雪乃の部屋の反対側にある
私の部屋の扉。ノブを回して中に入る。シンッと静まり返った空間。少し暑いが
眠気がピークにきているのでさほど気にならないだろう。私は余所行きの服では
なく、家中どこでも着ていられる部屋着だったので着替えるのが面倒でそのまま
ベッドに潜って目を瞑った。今頃、雪乃はどんな夢をみているのだろう。
同じ夢を見れたらいいな。そう考えているうちに、すっかりと私も眠りの中へと
意識が溶け込んでいった。
「彩菜、朝よ。起きなさい」
「んんっ、夏休みなんだからもっと寝かせてよ母さん〜」
「誰が母さんかっ」
「えっ…」
眠気が残る目を手で軽くこすりながら上半身をゆっくり起こしてこれまたゆっくり
と目を開けるとそこにはラフなスタイルで両手を腰に当て困り顔の白髪が特徴の超絶
美人が立っていた。
「ゆ、雪乃…」
「はあっ、私が家を出る前とちっとも変わってないわね」
「うっ…」
「安心したわ」
「えっ?」
「いきなり別人に変わってたりしたら気持ち悪いもんね」
寂しいとか、おかしいとかじゃなくて気持ち悪いなんだ…なんて言い草なんだ。
でも、雪乃に言われたからか、何か嬉しいと思える私はMなのだろうか。そしてつい
口に出る雪乃に一言。
「起こして」
「自分で起きなさい」
「えーっ…」
「流石にそこは変わって欲しいわ」
そこってどこのことだろうか。甘え癖のことなのだろうか。確かにこの年でこれは
恥ずかしいのかもしれないが、癖だからそう簡単には直せないだろうなぁ。
小さいときのように甘えられない切なさに軽く息を吐いて下半身を床に移動させて
立ち上がる。さすがに二日同じ服を着るわけにもいかないから簡単に着替えを
済ませようとすると雪乃は部屋から出て行った。早めに済ませた私も後を追いかけるよう
に部屋を出ると、既に起きていた先輩さんがにやりと笑いながら私を見て言った。
「雪乃ちゃんと比べるとあまりしっかりしてないみたいね」
「なんとっ」
雪乃に言われるならともかく、先輩さんに言われると軽くカチンッとくるんだけど。
先輩さんの後ろで呆れながら一言声をかけてきた。
「朝から何を対峙しているの。朝食できるよ、朝食!早くしないと全部私が食べますから
ね!
『わぁっ、それはシャレにならない!』
朝から牽制、朝からハモリ。好ましくない一致に雪乃は仲が良いのかと思ってるのか
すごく優しい微笑みを浮かべていた。や、全然微笑ましくないから!自分の顔の前で
手を左右に振るが雪乃は見もせずに下へと降りていった。
「行こうか…」
「そうだね…」
また何か言おうものなら本当に全部食べられて昼食まで飢えを凌がなければいけないの
は勘弁だから私と先輩さんは互いに頷き合って階段を降りていった。今日の朝食は普通に
トーストに目玉焼きに軽く野菜を乗っけた軽食にコーヒーだった。
それらを胃に収めると昨日のことを思い出して先輩さんと練った計画を実行することに
した。ザ・雪乃写真をゲットしてウハウハ☆計画を!
「ねぇ、母さん」
「なに?」
「雪乃の小さいころの写真頂戴?」
「却下」
「即答!」
とりつく島もなかった。いつも以上に可愛い子ぶって甘えたっていうのに。しかし、
お客さんである先輩さんの頼みとあらば聞かないわけには行くまい。どうする、母さん。
「一生のお願いです、お嬢さんをください!」
「却下」
「先輩さん、それちょっと話が違いますが…」
「もう、何馬鹿やってるの。二人とも」
それまで何をしていたのかわからない雪乃がいつの間にか私たちの隣でまたも呆れた
ような顔をして立って腕を組んでいる。すごく、疑われています。そんな中、母さんが
雪乃に手招きしながら楽しそうにそのことを言う。
「それがね、小さい頃の雪乃が見たいってきかなくて」
「なんで、そんなの見たいのさ」
雪乃が腰に手を当ててため息を吐いていると、それを聞いた先輩さんが目に炎を
宿らせながら熱く叫んだ。
「そんなのとは!ぜひとも可愛らしい雪乃ちゃんを見てハァハァしたいだけよ!」
「却下」
今度は雪乃にも同じことを言われてショックを受けて固まる先輩さん。そりゃハァハァ
なんて言えば断られるに決まってるじゃないか。それより、ハァハァって…どこでそんな
オタク言葉を覚えたのだ。そっちの方が少し気になってきた。
「とにかく、気になって気になって夜も眠れませんでしたし!」
「それにしては元気いっぱいのようですが。よく眠れたみたいに見えますよ」
「うん。それはもう、ぐっすりと!」
「ぷっ、ぷぷっ。矛盾してる」
雪乃とのやりとりに笑いを堪える母さん。そんな母さんの様子に私の方に振り返る
先輩さんの表情はしてやったりなドヤ顔をしていた。いや、何もまだしてやってないから。
リビングでのシュールなやりとり。しまった、この先輩さん。意外と使えない。
私がこの任務の失敗がほぼ確定になりかけ絶望していた矢先、母さんが微笑みながら
私たちに視線を向けてきた。
「いいでしょう。そこまで気持ちが強ければ―」
「もらっていいの!?」
先輩さんより前に出た私は身を乗り出す気持ちで母さんに詰め寄る。それに続いて後ろ
から先輩も近寄ってきた。
「私と勝負して勝ったらあげるわ!」
「オワタ!」
私は堂々と仁王立ちする母さんの前で両腕を逆ハの字のように挙げてガクッと膝を床に
ついた。そんな私の行動に先輩さんは励ましの言葉を投げかけるが、私の心には届かない。
「なに弱気になってるの!まだチャンスはあるわ」
「先輩さんは母さんの勝負強さを知らないから言えるんだ…。今まで私が母さんと勝負を
挑んで今年に入って100戦100敗…」
「どんだけ暇なのよ…」
私の絶望溢れる台詞の後に雪乃がつまらなそうにツッコミを入れてくれた。いつもは
それはそれでうれしいのだが、今はちょっと傷ついた。そんな私の手を先輩さんは引いて
上げてくれた。手が思ったより大きくて暖かくてなんだか少し安心できた…気がする。
「安心しなさい、彩菜」
「何か策でも?」
あまりに堂々としている先輩さんに何か策でもあるのかと思い聞いたところ先輩さんは
自信満々に頷いて、私と目を合わせる。その力強さはとても印象が強くて頼りたくなる目
をしていた。
「私は0戦0敗よ」
「…」
前言撤回。やはりこの人は馬鹿なのかもしれない。確かに数字上では初めてかもだけど。
百戦錬磨の母さんに勝てるとは到底…いや、まてよ。この世の中にその道理を全て
ひっくり返す言葉があるじゃないか。
ビギナーズラックという名の!!
そして、人数の調整のためという名目の下。4人で麻雀対決と相成った。
1着になった者が勝利者となり、好きなことをひとつだけ望めるというもの。あれ、
それだと写真もらう以上のことができるんじゃ…と先輩と見つめ合い、同じ考えと
大きく頷いた。
「安心しなさい、私には県先生以外にも憧れの人の伝説で教えを頂きそれなりに強いから」
「わかりました。過剰しない程度に期待してます」
「じゃあ、はじめるわよ〜」
「お母さん…嬉しそう」
言われた通りに4人で卓を囲む。正直、素人3人。いや、雪乃は今回中立の立場だから
事実上二人か…。その二人で母さんに勝てるかどうかは母さん次第なのだけど。
私はちらっと母さんの表情を確認するために覗き込むと無表情でジャラジャラと
牌をかき混ぜていた。母は本気モード突入であった。まさに絶望的。
「うぅぅ…勝てる気がしない」
麻雀は半荘(ハンチャン)勝負。東場4局・南場4局の間、4人の点棒を取り合う
ゲーム。途中一人の点棒がマイナス。いわゆる箱割をした時点でゲーム終了。
竹のソウズ・丸のピンズ・漢字のマンズ(ワンズ)漢字一文字、もしくは無字の字牌から
組み合わせて誰よりも早く和了(あが)ることをするものであるから、ちんたら
打っていたらいつまで経っても勝ちへは近づけない。
素人すぎる私や先輩はおそらく相手の捨て牌からの予想はできないだろう。ここは、
恐れず一直線に和了りに向かうのが得策だと感じた。牌をそれぞれ集め積み上げて山に
する。4つの山ができた後、親(この場合最初に行動できる人)から4牌ずつ山から
取っていく。3人は13牌・母が14牌を手にしてから開始。
まずは私の手はバラバラだったために、地道に数字を近づけていくしかなかった。
その間に機嫌よく鼻歌交じりで取っては捨て取っては捨てを繰り返している先輩。
あまり表情を露にするとばれそうで怖い。
「ツモ。ピンフ・タンヤオ・ドラ1です」
幸先の良いスタートを切れた先輩さん。これで流れを掴めればなんとかいける
かもしれない。そんな気軽な気持ちでいると、先輩さんは2局目・3局目と自力で
ツモ和了りをして、それなりの点差は開いた。が、あまり手作りをしないせいか
先輩さんの和了る役は極端に点数が低い。
「ふふん、余裕ですね」
「そうかしら、まだまだ勝負は始まったばかりよ」
顔色を変えず、不敵な笑みを浮かべた母さんを見ると、その目の奥に深い闇の色
を感じて背筋が寒くなった。それからだ、流れが一気に変わり始めたのは。母さんが
本気を出した証拠である。以前、子供のときに感じた恐怖は今でも忘れられない。
まるで自分の考えを読みきっているかのような、打ち回し。あの笑みを浮かべた
後は誘導されるように、決して和了れることのない恐怖。それは雪乃も知っている。
「それよ、ロン。チンイツ」
「ひっ!」
「それは通らないわ、ロン。リーピンタン三色ドラドラ」
「嘘ぉッ!」
「ごめんなさいね、ロン。リーチ・サンアンコウ・ドラは…あら、6つ乗っちゃったわね」
「ヒィィィッ!狙い撃ち!!?」
「ツモ。ツーイーソー・ダイサンゲン」
その最大級の得点を誇るW役満の宣言で私たちの聖戦は終わりを告げた。卓に突っ伏す
無謀な勝負に挑んだ女子高生二人の亡骸がそこにあった。そんな敗者に雪乃が労いの言葉
をかけてくれた。
「お疲れ様」
終わったころには既に時刻は昼近くになっていた。立ち上がった母さんは私たちを
見下ろして呟く。
「これは、勝負よ。負けたからには何をしてもらおうかしら?」
『ひいいいいいぃぃぃっ』
怯え、肉食獣に食べられる草食獣の気持ちになって先輩さんと恐怖で抱き合うと母さん
はいつもの様子でやさしく笑い始めた。
「今から私の言うことを聞くこと」
「へっ?」
間抜けな声を上げたのは先輩さん。どんな恐怖が待っていると思ったのだろうか。
しかも、母さんが言うのは4人でっていうことらしい。何でも軽く適当に条件をあてる
のは母さんらしい。そして、私の考えとも少し違った言葉を最後に母は呟いた。
「ここにいる間は、もう、美沙ちゃんはお客様じゃない。今日から私たちの家族よ。
だから、私は貴女をこき使うかもしれないし、特別扱いもしない」
「そ、そんなんでいいんですか?」
「これが勝った私の特権…どうかしら?」
「は、はい・・・!」
すごく嬉しそうに返事をする先輩さん。こういうことに喜ぶということは、本当の
家族とは上手くいっていないのだろうか。そういえば、県(あがた)先生もそれっぽい
ことを言っていた気がする。そして、それを相手の心理を上手く読んだ母さんの圧勝なの
は勝負前から決まっていたのかもしれない。
「ところで聞きたいことが・・・」
「なに?」
「なんで、急にあんなに強くなったんですか?」
「ああっ、あれはね」
先輩さんが不思議そうに勝負中のことについて質問をしていると母さんは笑いながら
当たり前のように言っていたことに私たちは絶句した。打っている間、私たちはある条件
を満たすと動きに癖が出始めるらしい。他にも目の動き、見た箇所の表情、捨てた牌。
後は、流れの読み。と人間離れした理由ばかりが飛び出して私たちは見ながら
頷いた。こんな化け物めいた人には敵うわけがない、と。
「あっ、でもそれって。NANAさんの言葉みたい」
「NANAさんって?」
そういえば、他に麻雀を教わった人がいるとかなんとか言っていたような気がした。
先輩さんからそのことを聞いていると母さんがなんだか照れくさそうにしていた。
「それ、若い頃の私かもしれない」
その言葉に私と先輩さんが同時に驚きの声を上げた。
『えええぇっ!?』
「あははっ、いやぁ、そういうのどこで見つけるの?」
「あっ、ネットの裏サイトで見ました…」
どこから情報を得てるんだ、この人は。しかも子供の頃からって、親には叱られ
なかったのか。そこで、私はなんとなく。先輩の家庭の事情は一瞬わかってしまった気が
した。だから、あんなに家族という単語に敏感だったのかもしれない。
母さんに首周りを腕で捕われ拳で頭をぐりぐりされている先輩さんは本当に楽しそうな
顔をしていた。本人がこんなに楽しそうなのだ、このしばらくの休みの間は大いに
その疲れた翼をこの宿木で休めてもらおう。そう、思えた。
「じゃあ、これからの頑張り次第で、写真の件は考えてあげます」
『え!?』
「だから、二人ともがんばりなさいね」
『はい!』
姉の私でさえ、あまり見せてもらえなかったものを条件付でくれるかもしれない。
私も母さんに認められたみたいだ。さすがのその言葉に興奮しないわけにはいかない。
その辺のアイドルよりよっぽど貴重なアイテムなのだ。少なくとも二人にとっては。
それを見ている雪乃はそれはもう、冷たい視線を私たち二人に向けて。
「バカみたい…」
と、呆れていた。
続
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過去作より。高校生編。今回はアホの子二人の視点からの物語。県(あがた)先生の過去話や無謀な麻雀対決を含めたギャグ話です。 | ||
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