姜維伝 北郷再生工場シリーズ B |
『能力開花まで、我慢して使いつづける』
そんな事が、なにかの野球本で書いてあった。
たぶん、のむさんがオギさんの本だ。
……もしかしたら、某百科事典の野球ページを波乗りしてた途中で、見かけただけかもしれないが。
いやっ、その線の方が濃厚かも、俺、本あまり読まないし。
ま、まあ……「腐っても百科事典」という事で。
今回、俺は、その内容を信じて、能力開花までの間、我慢し続ける事を決めた。
「(うん、やっぱり決めた)」
もう一度、自分の心の中で、そう呟いて覚悟を固める。
……ふむ、一旦覚悟を決めると、なんだが清清しい物で、心に余裕が生まれてきた。
1年でも3年でも我慢が続けられるぞ! って、感じだ。
「(・・フッ、それに比べ)」
そんな、俺の横に居る4人といったら。
「姜維さん、まだですかー。兄弟子である私を待たせるなんて重罪ですよー」
「そうだ、そうだ、めしはまだかー。腹が減っては寝るにも寝れんぞー。私は1日12時間寝ないと死んじゃうだぞー」
「まったく、姜維殿は昨日も遅かった癖に、なんで今日も。……彼女には、改善するという発想がないのか。そもそもだ……」
「……おなか……すいたー」
4人揃って(上から、馬謖、李厳、楊儀、法正)。
クダをまいて、ブーブーと、不満をたれている。
「我慢」なんて物が一切無い様だ。
心の余裕が無いんだな、余裕が。
「す、すみません・・。もうすぐ、もうすぐですから」
奥の調理場から。
申し訳なそうな声が聞こえて来た。
「いいんだよ気にしないで、姜維。焦んなくていいから、自分のペースで料理を続けてねー」
はぁ、まったく……。
他の4人は、姜維にご飯を作って貰ってる立場の癖に、なに不満なんて口にしてるんだか。
「ジロッ(俺みたいに黙って待ってなさい!!)」
てな、感じで4人を目で俺は制す。
ふっ、こんな心が貧弱な文句たれどもを押さえるのも、余裕に溢れた、ダンディズムの権化である俺の役割だ。
「「「「ジロッ!!」」」」
い、いやっ、黙るのはいいけど。
「食い物の恨みは恐ろしいぞ」な、目で俺を睨み見返すのは止めなさい。
怖いから、ダンディズムの権化の俺でも、精神がまいちゃうから。
君達、仮にも三国史で活躍する凄い人ばかりなんだから、その眼力は凄まじいんだよ。
元々、平和の国から来た俺には冷や汗ダラダラ物なんだよ。
で、でも・・俺は、そんな圧力にも屈しないぞ。
俺は、待つんだ、周囲からどうみられようが、姜維を信じて待つんだ。
例え、己が馬鹿にされても、部下から眼で威圧されてもだ。
「(俺だけは一人、部下を、姜維を信じ待つんだよなー)」
……。
な、なんか、俺って「しぶい」。
ケンさんとか、ヒロキになった気分だ。
出所後に「黄色いハンカチ」が干してあるか。
観に行っても決まりそうなぐらいだ。
「(嗚呼……、俺の、目の前に黄色いハンカチが。アイツは俺を待ってて……)
「チッ・・」
……。
誰か(たぶん、一番性格に難のある法正)の、舌打ちに黄色いハンカチが消えた。
三国志の人物に舌打ちされるって、予想以上に恐ろしい。
ごめん、やっぱり、俺、ケンさんに絡んで瞬間のされる、三下のチンピラが精々の根性しかない。
「み、皆、もう少し我慢して・」
なので、俺は4人をなだめ始める。
姜維を待つように、また、キレないようにと……。
「グゥー」
あれ、腹の音。
何所からだ。
「ふっ」
「おっー」
「はぁー」
「くすっ」
あと、何で目の前の4人さん?
表現の違いはあれ、一様に馬鹿した顔をしているのでしょうか。
ちなみに、上から、馬謖、李厳、楊儀、法正。
「グぅー」
……、二発目で発生源特定。
なるほど、4人さんが、馬鹿にした顔しているのは・・「我慢しろ」って言ってる、張本人が腹の音を鳴らしたからですか。まあ、張本人=俺の事だけど。
「グぅー」
……、三発目かぁー。
俺の頭は我慢してるのに、「俺は、我慢できない!」と、ばかりに、俺の腹時計は自己主張してくる。
なんだなー。
我ながら、このタイミングでは、コレはかっこ悪いなー。
「笑えますぞー北郷殿―」
「おーおー、北郷殿の腹の虫殿も我慢できると叫んでいるぞー」
「まったく、注意してる張本人がこの様では・・」
「・・くっす、ばーかみたいー」
……「止め」を、4人、様々なやり方で刺された。
なんというか、さすがこの娘達(性格に問題有りな)だ、誰も気遣、いやっ、せめてもの情けである「聞いてない」フリすらしてくれない。
……、俺が、こんなかっこ悪い事になってしまったのは。
再びの参謀旅行(なんか、このごろキャンプ化している気がするが)のせいだ。
参謀旅行の途中の宿。
食事が出ない宿(楊儀が「安い」といって、ここに決めた)なので、調理場を借り、持込で自分達の食事を作る計画だったのだが。
俺は、この国の食材の知識が皆無で、料理に関しては「使えない」男であるし。
他の娘達も、基本自ら料理をするような生まれ(身分)でない。
その為。
戦場を長く経験し、野戦であるが、唯一炊事の経験がある。
姜維が料理当番になったのであるが。
彼女が、厨房に入ってから30分・・。
一切、なにも出てこない。
なんだろ、ヨーロッパのレストランのつもりなのかな。
ほらさ、料理だけじゃなくて、場の雰囲気(時間)を楽しむっていうタイプのさ。
もし、そのつもりなら、駄目だよ・・。
ここにあるのは唯の森林だよ、飛び虫と、正体不明の生物による、雄たけびだけの無法地帯だよ。
正直に言えば、昨日もそうだった。
彼女は、昨日は合わせて2時間ぐらい調理に時間がかかった。
スープ、野菜炒め、団子の3品で。
……、2時間だ。
なぜ、そんなに遅いかというと。
あの娘の「真面目」が過ぎるせいだ。
例えばだ、本来、料理というのは、全ての料理を計算した上で。
出来るだけ、並行して作り上げるものだが。
彼女の場合、前菜、メイン、デザートと3種に分ければ。
まず、真面目に前菜のみ作っている。
あの娘曰く。
「一つ一つ丁寧に取り組むことによって、料理は美味しくなる」
らしいが。
たかが、卵スープに「20分」は無いであろう。
いやっ、まあ、あの娘曰く。
「一つ一つ丁寧に取り組む・・以下略」
なのであろうが。
・ ・それが、それがだ、その調子が「メイン」と、「デザート」にまで付いて来ると。
楽に調理時間が2時間を越してしまう。
でも、あの娘は。
「美味しい料理のためには、一つ一つ丁寧に・・以下略」
と、のたうちまわりなさる。
・・もういい。
2時間の空腹で、俺も荒れ気味だ(「腹の音」の失態もある)。
包み隠さず、ハッキリという、あの娘(姜維)は生真面目「馬鹿」だ。
俺も我慢して。
この参謀旅行中の三日間(実は)。
あの娘に、料理番まかせたけど。
「なぜ、君はそこまでチンタラと出来るんだ!!」
っと、調理場の乗り込みたくなるほど。
我慢にも限界がき始めていた。
ここ3日間、ノムさんかウィーキーさんか知らないけど。
とにかく、あの我慢云々の言葉を念仏のように心で唱えて我慢してきたけど。
駄目です! 俺、我慢できません!!
あの娘に、今から料理のいろはというか、真面目も過ぎると駄目なだけの事を説教してやります!!
「皆さん、お待たせしました・・。前菜ができました」
「えっ、あっ、ほ、ほんと」
だが、俺が、立ち上がる寸前。
実に、丁度いいタイミングで。
姜維が、ぼんを持って厨房から出てくる。
「(前菜か、そ、そうだこれを食べて)」
これで、多少腹が満たされれば、我慢する気力も戻るというものだ。
やっぱり、俺は、君を信じて待つよ、姜維。
ウィーキーさん、俺は貴方の言葉を信じて待ちつづけます。
あれ? 外タレのウィーキさんは全然関係ない気が?
と、とにかく。
俺は、まだ、まだ我慢しますよ!
「ソーメンサラダです」
……、あぃ?
なにこの手のひらサイズのちっちゃい小鉢に盛り付けられた、実に自然に溢れた食べ物は。
「なんで、こんなちょっとしかないの?」
「前菜ですので、余り食べすぎてはメインに差し当たりが」
うん、前菜はあまりガツンとしないほうが基本なのは分るよ。
でもさ、メインが出るまで、どうせまた、数十分後なんだし。2時間もウダウダとしてるんだし元々、基本なんてどうでもよくないかな。ちがう、俺間違ってる?
あとさ。
一つ一つ、整えられて切られた野菜。
程よい湯で加減の麺。
調整を繰返して、纏め上げた、甘辛いタレ。
うん、これだけ、丁寧に調理すれば。
確かに、30分かかるかもしれない。
でもさ、なに、この二口で終わる量。
生徒を叱る塾講師じゃないけど、俺の時間(30分)を返してくれー!
で、でも、俺よ、我慢だ。
例え、どんなに辛い目に合おうが部下を信じてこそ・・以下略
てな事で、40分後。
「メインができましたよ」
このチンタラ娘、いやっ、姜維が持ってきたのは「エビチリ」。
ちなみに、調理手順は。
・海老の殻を剥く。
・ソースを作る。
・煮る。
本当は海老の処理はもっとややこしいが、簡略にいえばそれだけだ。
なのに、なぜ、それでも、40分も掛かる!
いやっ、もういい細かいことはいい。
量はあったから、量はあっからさ。とにかく、俺は目の前の海老を食べる!
「「「「……」」」」
他の4人も血走った目で黙々とエビチリ食べてる。
性格の差異はあれ、人間、欲望ってもんはいっしょだよね。
そりゃあ、1時間と10分、「ソメーンサラダ」って、いうジャブ食らいながらも、お預けされ続けたら腹が空き過ぎておかしくなるよね。
「よかった、皆さんに気に入ってもらえたようで」
……、君さ。
そりゃあ、皆、がっついて食べてるけどさ。
君(姜維)のいってる台詞は、的外れ極まりないよ!
俺たちは、君の兵糧攻めでこうなってるだけだよ!
いやっ、まあ。
エビチリ、食べるのが優先で。
一々、声を挙げては突っ込まないけど。
「「「「「はぁー、……」」」」」
食べた食べた、うん、八文目って所だな。
他の、4人も、満足げだ。
でも、もうちょっと欲しいな。
1時間余の、攻防で、俺たちの腹は何時も以上に餓えてるし。
「今日の、デザートはなにかな」
「葡萄です」
「葡萄か……」
全員がホッとした顔をする、葡萄なら直ぐに出てくるであろう。
なにせ、そのまま食べれるし。
でっ。
「お待たせしました、皆さん」
葡萄は20分後に出てきた。
……、これはなぜであろうか。
それは葡萄の皮をわざわざむいたからである。
ただ、それだけじゃこんな時間が掛からない。
数分で終わる、普通なら。
でも、この娘は、「普通」に手剥きすると残ってしまう、小さな皮ですら包丁で切り落としてくる。ご丁寧に種まで取り除いている仕事ぷりだ。
まさに、生真面目の「鏡」だ!!
そしてどうしようもない馬鹿だ!!
そのおかげでだ。
そこまで彼女が手塩、(手でべとべと触った)葡萄は「ぬるい」し、時間が掛かりすぎて水水差がはしけ飛んでる。
「どうでしたか?」
「う、うん・・まあ、美味しかったよ」
全ての戦い(彼女の迂遠過ぎる料理と、俺たちの腹との…)を終え、彼女がワクワクと、いった表情でそんな事を聞いてきた。
その瞳には、自信がかすかに覗える。
約2時間、手塩をかけて作り上げた料理であるが故であろう。
まあ、確かに、葡萄を除けば。
味は普通であった。いやっ、中華は火とスピードの世界だ。
それで、あんだけ、ちんたらやって、それなりの味だったので、味付け等は基本はいいのだろう。
ただ……、なんだろこの満足感のなさは。
腹があまりにも酷い時間差攻撃を受けて、驚きすぎて機能していないのかなんなのか。
十分な量も食ったし。
味も先ほどいった通り悪くなかった。
しかし、なんだろ。
このけだるさ。
「……、明日は参謀旅行の最終日だし、早めに寝ようか皆」
元気が出ない。
俺達は、それぞれの部屋にトボトボという雰囲気で向うが。
「明日は最期ですからね、手をかけてつくりますよ。楽しみにして下さいね」
ああ……なんだろ。
背後から聞こえる、姜維のそんな声が。
「時間かけて作りますよ!! 覚悟しとけ!!」に聞こえる。
でも、我慢だ・・。
まあ、怒る元気も無いだけなんだけど。
「運良く海産物が入ったので、明日はアサリを使った・・」
ア、アサリだと!!!!!!!
あんな下準備が恐ろしく時間掛かる物を使用するのか!!
もはや、我慢なんかできない!
ごめん、ノムさん、ウィーキさん!!
俺は、貴方を言葉を信じることが出来ませんでした!!
後日談
「姜維さん、なぜか、スープが真赤になったんですが、大丈夫ですか」
「はい、分りました馬謖さん。えっ、ちょっと、なんでこんなに真赤になってるんですか」
「姜維さんが言うとおりに、そこの粉を使ったら」
「唐辛子ですか、で、でも……私は、そのこさじ一杯っしか頼んでないんですか」
「適当に掴んで入れました……」
「な、なんで適当に」
「こさじでも、適当でも、対して変わらないのではないですか?結局辛いのは変わりないんだし」
「変わります!こんな真赤なスープからすぎて飲めませんよ!!」
……我慢できなくなった俺は。
姜維の手伝いとして、馬謖(前述の通り料理には無知)を付けた。
なにか、あれば「山!だ、基本戦術だ!」の彼女である。
結構、物事の細かいことを拘らない、つまり、大雑把なところがある。
「姜維さん、鍋から焦げ臭い匂いが」
「えっ、あっー、お湯がなくなって! アサリがぁー! って、なんで強火のままなんですか! さっき、弱火にしてくださいと頼んだじゃないですか!!」
「強火のほうが良く煮えるじゃないですか」
「煮えすぎで、黒焦げですよ!! メインが駄目になったじゃないですか!!」
なので、さっきからこの調子である。
とはいえ、そんな大雑把な馬謖のおかげで。
「(早く作らないと!この人に邪魔される!!)」
姜維の調理時間も大分、早くなっていた。
砂糖と醤油で甘辛みたいに、真逆の組み合わせっていうのは時にはいいという所だろう。
「姜維さん、米を洗い終わりましたよ」
「ほ、ほんとですか」
「うん、馬謖は、ちゃんと洗ってたよ姜維。俺もちゃんと見てた……まあ、洗剤でだけど」
「ちょ、ちょっと、洗剤って! 北郷さんも、ちゃんと馬謖さんを見ててくださいよ!!」
「えーっ、俺、ちゃんと馬謖を見てたよ。洗剤を入れるかどうかを悩んでる時から」
「止めてくださいって意味です!」
「なんと、そういう意味だったのか(……、実際は知ったたけどね。ここしばらくの恨みつらみもあるからなー)」
「なんと、じゃありません!」
ちょっと効きすぎて。
料理がドンドンと、潰されてる感はあるけど。
まあ、いいや。
食い物の恨みは恐ろしいよ、姜維。
「洗剤であらっちゃ駄目なのですか姜維さん?」
「駄目に決まってます!!」
あとがき
「真面目過ぎて失敗」
これで、姜維ssを書こうと、ネタを模索した所に。
シェフ大泉(水曜どうでしょう等)が頭に遮って、料理ネタにしました。
とはいえ、ある程度、料理できる人ならお分かりでしょうが。
具体性(料理)のかけらもない内容になっています。
総評。
いきなり過ぎる、料理ネタで何がしたいのか分らない。
ってな、感じでしょうか。
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姜維を恋姫風に……ssです。 ※基本的にはコメント返ししません。ご理解ください。 |
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生真面目すぎるのも良くないですよねぇ、人間、多少毒に触れて生きた方がいいって言いますからねぇ。(惣三) シェフ大泉のオーロラ風ソースは笑わせてもらいましたw(eitogu) |
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