Half_Beast (後編)
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7.

 コンテナの上を駆けていたリュウは、周囲をコンテナに囲まれた、すっぽりと入り込める空間を見つけ、そこへと降りた。降りてしまうと、長方形に区切られた天井だけが見え、安心感と不安が襲ってくる。とりあえず、はぁはぁと遠慮なく息を吐き出して、口元をぬぐい、オフにしていた本部への無線をつなげる。

「――こちら、リュウ/8192、本部、聞こえますか?」

「リュウ/8192か、無線を切っていたな。状況を報告しろ。」

「パートナーのボッシュが、例のディクの影響で、現在、意思の疎通がはかれません。」

「昨日のファーストと同じ症状か。」

「わかりません。瞳に虹色の膜がかかっていて、呼びかけても返事がないんです。いまは、身を隠してようすを見ています。」

「聞きなさい、リュウ。」 割り込んできた静かなゼノの声に、リュウの心は落ち着いた。

「ファーストの部隊を投入しますが、それには20分かかります。それまで、そのまま身を隠しているか、退避なさい。」

「部隊を投入って……まさか、手荒なことは……?」 リュウは、昨日のファーストの運命を思い出し、ぶるっと身を震わせた。

「それは、状況次第です。いいですか、……。」 だが、ゼノの声を最後まで聞くことはできなかった。

リュウの足元に、明らかに不定形の濃い影が落ちていた。見上げると、両腕をわずかに開いたボッシュが、天井へと開いた長方形の空間に立ちふさがっており、レイピアを構えて、そのまま、リュウのいる地点へと向かって、跳んだ。

リュウはあわてて、周囲に詰まれていたジャンクを引き倒して崩す。

かがめた後頭部のすぐ上を、ひゅん、と風が通り過ぎる。

リュウの代わりに切られたジャンクが、ばらばらと地面に落ちる。

 さらに、あたりの荷物を引き倒しながら、リュウは、コンテナの隙間を這いくぐって、反対側の通りへとようやく抜け出した。ゼノと会話するまでは、リュウは、ファーストの部隊投入を待つつもりだった。けれども、昨日ボッシュに倒されたファーストレンジャーの姿がどうしても、頭から離れない。

 昨日のボッシュの判断は正しかったとわかっている。

 そして、今日、突入してくる部隊も、間違いなく、同じ答えを選ぶだろう。抵抗をやめないなら、ボッシュを倒すという判断を。――あと20分。それまでに、ひとりで、この状況をなんとかしなくてはならない。

 絶望的な気分で、リュウは、天井を振り仰いだ。そして、さっきコンテナのてっぺんから見た倉庫全体の風景を思い出すと、この状況の打開方法を求めて、西の方角のコンテナの山によじ登りはじめた。

 立ち止まらずに、考える。これまでのボッシュの追撃は直線的で、リュウを出し抜いたり、先回りしたりといった作戦的な行動はいっさい見られなかった。(考えろ、考えるんだ…。ボッシュは、ただ、まっすぐに、俺の後を追っているだけだ。あのボッシュに頭脳戦を仕掛けられたら、勝てるどころか逃げられる見込みさえ、いっさいなかった筈だ。)と、リュウは思う。だから、おそらく、ボッシュが作戦を立てる頭脳までは乗っ取られていない。そのことと、この倉庫の広さが、リュウのわずかな救いだった。

 通り2つ分を乗り越えたところに、リュウが記憶していた通り、ドラム缶が並べられている場所が見つかった。複雑に積み上げられたコンテナの山を踏み越えて、リュウは、並べられたドラム缶のわきに飛び降りる。手近のひとつのドラム缶の蓋を開けてみるが、中には、目にしみる黒いタール状のなにかが詰められているようだった。

 がっかりしながら、次のドラム缶を開けてみる。また、次。と、最後から二つ目で、目当てのものが見つかった。『火気厳禁』と胴体に書かれた赤い文字を確かめて、リュウは、自分のグローブを噛んではずすと、独特のむっとした匂いのするドラム缶の中身につっこみ、パウチから金属マッチを取り出した。震える手でマッチをすると、ドラム缶の油を吸ったグローブから、オレンジ色の炎と黒煙が上がり始めた。

 それに気づいたボッシュが、こちらに向かって、コンテナを跳び渡る。リュウは、わざと剣を大きく振って、油の詰まったそのドラム缶を蹴り倒した。

 水をまくように、コンテナの隙間から流れ出た油が、倉庫の床に黒く広がり、その上を、どちらかといえば、青みがかった透明の炎が駆け抜けた。あたりを覆う黒煙が、ボッシュとリュウとの間を隔てたが、すぐに、赤いサイレンとともに、天井から消火用の水が降り注ぎはじめる。油と火は、走るような速度でたちまち大きく広がり、それを追うように、天井のスプリンクラーが、次々と多量の水を、下へと吐き出し始めた。

 黒煙に変わって、今度は水煙が、リュウとボッシュの視界をさえぎっている。リュウは、コンテナを飛び降り、次の通りをまっすぐに西へと向かって、倉庫の西の壁に取り付けてあった梯子へと身を引き上げた。

 運悪く、白と黒の煙がゆらぎ、リュウが壁際の梯子を登っているところを見つけ出して、赤い光と降り注ぐ水をものともせず、虹色の目をした金髪のパートナーが、リュウの後を追ってくる。リュウが、天井近くの梯子の上段まで登りきるころには、背後のボッシュは、梯子の真下にまで、せまってきていた。

 梯子の上段まで登り詰めたリュウは、剣を振るって、古い梯子の接続部分をがんがんと断ち切り、左手を伸ばして、天井にぶら下がるパイプへと飛びついた。手のひらにくっついた油と、スプリンクラーの水で滑る手元に苦戦しながら、リュウは、はずみをつけて、パイプの上部へとしがみつく。

 丸く、つるつるしたパイプは、細い金属で天井から吊るされており、リュウの重みに耐えかねて大きく揺れ、抗議の悲鳴を吐き出した。ようやくのことでバランスを取り戻し、リュウはパイプの上を這い進みはじめた。コンテナの山の上を横切っている、このパイプがまっすぐ向かう先に、リュウの目指していた、赤くて丸い光が見えた。ボッシュの使っていた自走式カメラだ。

 命令を送信しなくなった主人を待つボッシュの自走式カメラは、倉庫の西側部分の天井の一点に逆さまに貼り付いて停止したまま、丸い目のような赤い光で、リュウへ自分の場所を知らせている。そのカメラのとりついている場所の真下が、きっと、ディクに出くわして、ボッシュが乗っ取られた地点に違いない、とリュウは考えた。

 黒煙にあぶられながら、そろそろと這い進むと、停止した小さなカメラの真下に、放射状に並べられた、コンテナの集積地がはっきりと見えた。腰のベルトに剣を収めたまま、リュウは、その赤い目印に向かって、ぎしぎしときしむパイプの上を進んだ。振り返って見た背後にボッシュの姿はなく、リュウは、完全に相棒の行方を見失っている。天井から降り注ぐ濁流に押され、下からは黒煙にあぶられて、人間が乗る仕様にはなっていない通風パイプは、リュウが進むたびにかしいで、次第に大きな音できしみはじめている。

 やがて、ばつん、とワイヤーが切れる音が響き、手元のパイプが一瞬離れ、体が持ち上げられるような感覚が襲ってきた。リュウは、あわててパイプに抱きついたが、天井からの支えを失い、折れたストローのように、下方へと大きく垂れ下がったパイプの落下にはあらがえなかった。ちぎれたパイプの先は、天井にカメラが張り付いた西側のコンテナ集積地へと落ちていく。

「畜生っ……!!」

 がらがらん、と天井からコンテナの上へと斜めになって激突したパイプから、すべり落ち、ついでに追突の衝撃で、コンテナ集積地の天辺からも1、2段、転がり落ちたリュウは、後頭部を押さえ、やっとの思いで身を起こした。

「あ……。」

後頭部からまぶたにまで流れてきた血をリュウがぬぐうと、追突したパイプの衝撃で、何段かコンテナがかたむき、放射状に並んだコンテナの中央になったくぼ地の底に、真っ白いディクが横たわっているのが、見えた。レンジャールームひとつぶんほどもある巨大なディクが、頭だけを上げ、リュウに向かって、低いうなり声を上げている。冬眠したトカゲのように体は丸めたままで、顔はリュウのほうに向けていても、不思議なことに、その瞳は固く閉じられている。

「っ……!!」

リュウは、すんでのところで、頭を下げ、身をかがめた。背後から、鋭い切っ先が、リュウの肩口をかすめて、左手のコンテナの角にざくりと食い込んでいた。

 斜めになった足元のコンテナを、わざと転がり落ちつつ、リュウは、自分の剣を抜いた。剣を真横にかざし、すぐに追って来た二刀目を、ぎりぎりのところで受け止める。

「ボッシュ!! やめろ!!」

相棒は声も出さず、虹色をした瞳は、なんの感情も伝えてこない。剣をあわせた後、力技で押し返されたリュウは、一段落ちたところで待ち構えて、身を乗り出してきたボッシュのむこうずねを蹴って、後ろへ弾き飛ばそうと考えた。

 けれど、渾身の蹴りはあえなくかわされ、代わりに受け止められたボッシュの左手の楯で、たやすくひっくり返される。

 もんどりうって、コンテナの谷底に落ちたリュウを、コンテナからコンテナへと身軽に跳び降りつつ、レイピアを携えたボッシュが追ってくる。

 うつぶせに落ちたリュウは、その姿勢のまま、地面の土を掻いた。とぐろを巻くように座り込んでいるディクの体は、もうすぐそこだ。瞳を開かないまま、長い口吻をリュウのほうへと向けて、しゅうしゅうと威嚇するようにうなっている。

 身を奮い立たせて、剣を握り直し、白い獣を目の前にしたリュウが、背後に気配を感じて、肩越しに振り返った。虹色の瞳をしたボッシュが、すぐ、後ろにいた。両手に握ったレイピアが、天井の青白いライトを反射して、ボッシュの頭上に銀色の傷のように光っている。

「ボッシュ、俺だよ。聞こえないのか。」

「……。」

表情のない虹色の瞳は、はっきりと、目の前にあった。もしも聞こえていなくても、最後かもしれない。息が届くほど当たり前にそばにいるから、肝心な一言を、いままで伝えてこなかった。自信のなさに惑って、言葉を遠ざけていた。リュウは、悪夢を見ているような思いで、口にした。

「ボッシュ、やめろ。

俺をやると、ボッシュは殺される。殺させたくない。好きなんだ。死なせたくない。」

ボッシュが刃を振り下ろすその瞬間、リュウは、たまらずに頭をかばって左腕の楯と剣を交差させ、身を丸めて、片目を閉じた。

 

 

 周囲の白い霧はさらに濃く、その中からふたたび手が伸びてきた。

ボッシュは声をあげ、握ったレイピアをやみくもに振り回し、目の前に新たに現れた腕を斬り払おうとしていた。

だが、その手が、ただひとつ、ほかの手とは違っていることに、ボッシュはやがて気がついた。

古びて汚いグローブをはめた手は、武器を持たず、ボッシュを痛めつけようとはせず、ただ、静かに差し伸べられているだけだった。

ためらいがちに伸ばされ、頬に触れる不器用な感触を、なぜだか、知っている。

差し伸べられた、その手を、ボッシュは見失わなかった。

レイピアの切っ先を、真横にかざして切り返し、ボッシュは、伸ばされた手ではなく、まわりの白いもやを切り裂いた。

ベールのように濃い霧が、銀色の鮮やかな切り口を見せて、取り払われた。

 身を丸めたリュウの、開いたほうの目が、ボッシュの瞳の変化を捉えた。

虹色の膜は、円形のシャッターが開くように、円の外側へと流れ、中央から、ボッシュ本来の深い青色が現れた。

 レイピアの動きは早かった。

 両手で金色の柄を握り、リュウの頭をかすめて、ボッシュは全身の力をこめて、相手を突き刺した。

 リュウの背後で、ひきしぼるような獣の声が、長く響き、リュウが振り返ると、眉間に銀線を突き刺したまま、大きな獣の首がしなり、わきにあるコンテナにぶつかり、その山を崩しながら、倒れるのが見えた。

 横倒しになったディクは、七色の瞳をどろりと見開いたまま、のたうち、苦しそうな息を吐いて、まもなく動かなくなった。

 

 

 獣の死を確かめてようやく、リュウは腰を落としたまま、両手をぺたんと後ろにつき、思い切り息を吐き出した。レイピアを投げたボッシュは、腰に手を当ててその前に立ち、いつもの顔で、リュウを見下ろしている。

「……いつから、気がついてたんだ?」

「さぁ、な。――ちっ、思わず殺しちまったぜ。点数が減っちまう。」

「ファーストの部隊が突入したら……って、俺がどれだけ心配したか、わかってんのか。」

「ずいぶんと必死だったのは、その顔からよーく伝わってくるぜリュウ。」

「真面目に聞けよ!! 反撃できないし、ほうっておけないから、本気で心配したんだ!!」

リュウがボッシュをゆさぶって珍しく怒鳴り、ボッシュは、一瞬ひるんだ。

「ふざける? とんでもない。なかなか面白かったぜ、リュウ。」

伸びてくる手が、もう一度、ボッシュの目裏に浮かぶ。

忘れない。それは、ボッシュにさしのべられた、ただひとつの手だ。

リュウがさらに言い返そうとしたとき、ひゅん、ひゅん、と風を切る音に続き、倉庫内に打ち込まれた銀色の弾から、白いガスが噴き出した。

 倒れこんだ白い獣のそばで、向き合う下っ端レンジャーのふたりは、たちまち、はじける轟音と、催涙弾から勢いよく吐き出される、厚くて白い煙のベールに、取り囲まれた。

 

 

8.

「困りますね。あれは貴重なディクなんですよ。死なせてしまうなんて、まったく、なんて野蛮な連中だ。あれの価値がわかりますか? 滅多にいない突然変異だったのに!」

白衣を着た男は、いらいらと眼鏡をずらして、銀色のフレームごしに、指令室のゼノを振り返った。

ゼノはあわてることなく、静かな声で応じる。

「ふたりは、私の部下です。その行動の責任は私にありますが、今日の彼らの処置は間違っていなかったものと判断しています。」

「でも、こんな機会は、またとないんですよ。今回、あのディクの精神感応能力のよい戦闘データがとれたのはよかったものの、肝心の素材を殺してしまっては、なんにもならない……。」

「また、と言いましたか? いいですか、いくら政府の機密研究とはいえ、私の部下を実験に巻き込むことは、今後二度と許しません。覚えておくように。二度目はありません。」

白衣の男は、もの言いたげにデスクの上の書類をちらりと見たが、きっぱりと言い渡すゼノの物言いに、肩をすくめた。

「まったく、ここのやつらときたら、野蛮な連中だ。どいつもこいつも……。」

それ以上、反論せず、指令室で記録されたデータをかき集めると、男は、あわてて部屋を出て行った。

 

 

「この間抜け、お前がさっさと攻撃中止要請を出さないからだぜ、リュウ!」

 医務室から解放されたリュウとボッシュのふたりは、夕陽のライトがまだ廊下に長い影を作る時間に、ブラインドの隙間から差し込む光にあぶられた宿舎に戻ってきていた。

 ふたりとも、今日はもう、仕事にはならなかったからだ。日がまだ出ている時間に宿舎に帰ってきたのは、レンジャーになって初めてのことだった。廊下から部屋にまでなだれ込む、オレンジ色の熱気に蒸されながら、ソファに横たわり、足を投げ出したボッシュは、冷却用のアイマスクでまぶたを冷やし、その上に濡れたタオルを置きながら、それでもリュウにむかってぷりぷりと怒鳴っている。

 リュウはリュウで、まっさらの枕カバーに顔を押し付け、二段ベッドの下でうなりながら、うつぶせになっていた。応急処置は受けたものの、催涙ガスにやられた目は、涙でろくに開けていることもできず、顔全体が燃えているかのように、ひどく痛んだ。

 いくら患部を洗っても、とにかく、熱がひどい。露出していた部分が焼けたかのように熱くなっているから、たいして冷たくない枕カバーでも、氷のようにひんやりとさえ感じられた。

「まさか、本気で催涙ガスが使われるなんて、思わなかったんだ。第一、連絡してる余裕なんて、なかっただろ。」

「こんな有様じゃ、目だって開けられやしない、どうしてくれる。」

「即効性の目薬っての、ほんとに30分で治るんだか。まだ、ひどい目してるよ、ボッシュ……。」

ボッシュがアイマスクを少しずらして、リュウのほうを見た。碧色の大きな瞳は、夕闇に沈んで、灰青色になり、その上に、涙の膜がかかっている。ボッシュは、すぐに瞳をまたたかせて、アイマスクを元通り、まぶたの上にかぶせた。そのアイマスクの上に、こっそりとリュウが変な目の模様を落書きしておいたことに、いまだに気づいていないので、リュウは、口元がゆるむのを抑えきれなかった。

「なんだよ?」

「――いや、」なんとか空咳でごまかし、リュウが、起き上がる。「それにしても、一時は肝を冷やしたよ。本気でやられるかと思った。」

ボッシュは、目蓋を覆ったタオルとアイマスクを外し、目を何度かしばたたかせた。さっき、試した特効薬の目薬が、ようやく効いてきたようだ。

「安心しろ。あんなディクに、簡単にお前を殺させるかよ。お前にはたっぷり貸しがあるからな。」

「なんだよそれ、覚えがない。貸しなんて、あったか?」

「毎日、さんざん俺の足を引っ張ってるだろ。こんな手柄じゃ、全然足りないぜ。」

(リュウを殺す? もしもそんな日がきたら、誰にも渡さず、俺が手を下すさ。ディクのせいなんかじゃなく、俺自身で。)

――さらりとそんな物騒なことをさえ、ボッシュは思ったが、口には、出さない。

「まったく。危険な任務に巻き込まれてるのはこっちかもしれないとか、ちょっとは考えろよ。」

リュウも起き上がり、ボッシュのほうに向き直る。

「なぜ? 俺と組むのが不満かよ、ローディ。」

「それは……、」リュウは、言いよどむ。「――そんなことは……ないけど。」

あのとき、咄嗟に吐いた言葉は、届かなかったのかもしれない。それでも、リュウはなぜか、ふっきれたような思いだった。

ボッシュのために、なにかできることがあるのだろうか、

――そう悩んでいたことさえ、いまはなんだか、可笑しく感じる。

違いすぎて俺とはつり合わない、力が足りない、でも手に入れたい、できるなら守りたい……よどんでいたいくつもの思いは、リュウの中で、ぐるぐると渦を巻いて、いまは、ひとつの色をなしていた。

7つの色の光が、混じり合って、純白の光になるみたいに。

リュウがそんなことを考えていると、ボッシュは、腰のレイピアを一気に引き抜いた。

しゅっ、という、濁りのない音が、リュウに突きつけられる。

「どうせ今日はもう休暇扱いだ。暇だから、今夜は鍛えてやるぜ?」

「俺と訓練は嫌だって、確か言ってたよな。なぜ、気が変わったんだ?」

「かわりに、あの言葉、もっかい言えよ。」

「え。」

夕闇に溶け始めた、青い瞳が、リュウの目を見抜き、その距離を詰めてくる。

乾き始めた涙の膜に、オレンジ色の光が映っている。

リュウは言葉につまり、一度うつむくと、次いで、ベッドサイドに立てかけていた剣を手にして、横一文字に引き抜いた。

夕暮れのオレンジ色の闇の中で輝く剣を抜き、誓うようにボッシュにかかげ、やがて顔を上げたリュウは、ボッシュの耳元に口を寄せ、そっとささやいて、笑った。

「あぁ、わかったよ。訓練の後でちゃんと言うから、ちゃんと聞けよ、ボッシュ――。」

 

END.

説明
ゲーム「BOF5 ドラゴンクォーター」二次創作小説です。リュウとボッシュが正体の知れないディク計画に巻き込まれる話。後編です。※女性向表現(リュボ)を含みますので、苦手な方はご注意を。
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