八雲桜
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〜Yakumo blossom〜

 

「…………」

 つい思い返してしまう。

 彼女が私の後ろを歩くようになってからを。

 八雲紫はそう思いながら迷い家の縁側にいた。

 サクラの葉っぱも散り始め少しずつ日の暑さも感じ始める頃の時期である。

「こんな時期だったわね」

 胸に抱えられた藍は静かに寝息を立てる。

 起きた瞬間にこの出来事だったので最初はどうしたものかとも思っていたが。

 たまにはこのような時でもいいかしら。

 そう思ってしまう。

 この状況が起きたのは昼を向かる頃の時刻だった。

 幻想郷にも夏がやってこようとしていた。

 ピンク色の花が舞い散りながら緑をつけ始め世界の景色も代わりはじめる。

 それはここ迷い家にも変わらず訪れている。

「サクラは散るのはいいのですがやはり掃除には困りますね」

 金色の9本尻尾をなびかせ箒を片手に八雲藍はつぶやく。

「でもそろそろご主人様も起きてこられると思われますしきれいにしなくては」

 総意気込みをつけて八雲藍は掃除を続ける。

「藍しゃま〜!」

 ぼふっっ! とした音がして藍の尻尾に誰かがが顔を埋める。

「あらあら? 橙どうしたのそんなに息を弾まして」

 後ろを振り向くとそこには小さな猫耳の少女が尻尾の中からこちらを見上げていた。

「藍しゃま! あのね・・・プレゼント!」

 そういって橙は背中に隠していたと思われるものを取り出した。

「プレゼント? この瓶が?」

 それはひとつの小さな小瓶だった。横には橙がつけたのだろうか小さな花が結び付けられている。

「藍しゃま最近疲れた顔をしてたのでそれで少しでも元気になれるお薬をもらってきたんです」

「橙……」

 橙は無邪気に笑いながら藍のことを見上げてる。

「ありがとう橙。とても嬉しいわ」

 それに返すように藍も笑顔を返すと橙はぱぁっと笑顔が広がる。

「じゃぁ藍しゃま! どうぞ」

「えっ?」

 藍は小瓶を懐にしまおうとしたが橙がどうぞというのと同時に手がとまる。

 小瓶をじーっと見つめながら期待にした目で見てくる。

 これは……今飲まないとダメなのでは? と藍は思う。

「そ……それじゃぁいただくわね?」

「はい!」

 とは言ったものの藍は少し嫌な感じがしていたが橙の期待に答えざるをえないため小瓶を飲み干す。

「ふぅ……」

 ドクン

 突然藍の体が脈動するのを感じた。

 唐突に体が熱くなる。

「ちぇ……橙。この薬はどうやってもらったの?」

「? てゐちぇんに頼んでよういしてもらいまたよ」

 てゐ……あの悪戯うさぎから貰ったってことは……。

「うっ!」

 そのまま藍は地面に膝をついた。体の熱は更に上がる。

「藍しゃま!?」

 藍はそのままうずくまり息も絶え絶えになっている。

「はぁ……はぁ…………!?」

 そして藍は自分の異変に気づく。

 藍は手のひらを見ると徐々に体が小さくなりつつある。

「藍しゃま!! 藍しゃ……」

 藍の意識は橙の呼び声と共に消えていってしまった。

「……り様! ゆ……り様! ゆかり様あああ!!」

 体が揺さぶられるのに気づくのにどれくらいの時間がたっただろう。

 冬眠の時間を終えるくらいに目は冴えていた。

「うぅ……藍? もう少しだけ寝かせてもらえないかしら……ダメなのよ」

 正直眠気が抜け切れていない。もう少しだけ眠りたい気分だった。

「ゆかり様! 起きてくださいよ! 藍しゃまが……藍しゃまがああぁぁ」

 ん? 何か声が違うような。うっすらと目を開けるとそこには涙目の橙がいた。

「あら……橙? どうしたのかしら藍は」

「藍しゃまが……藍しゃまがぁあ」

 まだだるけの残る体を起き上がらせ橙をみる。その手には何か布の塊が大事そうに持っている。

「あら? その服は藍のじゃない……まさかあの子また脱ぎ癖が発症したの?」

 前にあれほど説教したというのに……あの子が脱ぐのは私の相手をする時だけでいいて言うのに……全く。

「違います! これを見てくださいー」

 そういうと橙は私に藍の服を見せる。

「あら?」

 その服の塊がもぞもぞと動き出す。となかから勢い良く手が出てきた。

「これは……赤子?」

 中から小さな赤子が飛び出してきた。

 年としては1歳前後というくらいの子だろうか。だが……なぜか見たことがあるような気がするのは。

「藍しゃま。そんなに暴れないでくださいよ〜」

「へっ?」

 橙は今なんといったろうか? 藍? そういえばこの金色の毛によく見ると尻尾も生えているような……。

「藍……なの? どうしてこうなったの!」

「ゆかり様! 大きな声で喋ると……」「ふぇええええ」

 泣き出してしまった。

「あわっ。 藍しゃま大丈夫ですよー大丈夫ですからー」

 そういって小さくなってしまった藍をあやす橙。どうしてこんなことに。

「ふぇええええ」

「ああ〜藍しゃま泣きやんでくださいよー」

 なかなか泣き止まない藍(赤子)に苦戦している橙。

「ふぅ……橙。藍をこちらに」

「えっ? は……はい」

橙から藍を受け取る。

「藍……ほら泣き止みなさい」

 優しい声をかける。そして橙が驚いたような目でこちらをみてる。そんなに私が優しくしてるのが珍しいのだろうか……。

「あっ……えっえ」

 私が少し抱くうちに藍の顔が落ち着いてくる。

「わぁ……流石紫様ですね。長年いきてるだけあって」

「橙? なにか言ったかしら?」

 橙は慌てて首を大きく横にふる。まったく……。

「で……この状況はどうしてなったの?」

 私は橙に状況を聞く。はぁ……またあの悪戯うさぎの仕業ね。あとで折……説教しなくてはね。

「これは蓬莱人に薬をもらってくるしかないわね……」

 あまりあの手の物に借りは作りたくなにのだけれど。

「ゆかり様。その薬私がもらってきます!」

 そういうと橙は立ち上がる。確かに私が行ってしまっては少し面倒になりかねないわね。

「それじゃあ、橙お願いできるかしら?」

「はい!」

 橙は言うが早いかとすぐに飛び出ていった。

「あっ。……どういう薬かも聞かないでいちゃったわ」

 まぁ……あの蓬莱人に状況を話せばわかるわよね。でも帰ってくるとしても夕方をすぎるでしょうね。

 それまではどうしたらいいものか。

「とりあえずは着るものね」

 さすがにこのまま藍の服にくるまらせているのもあれだからね。

 私は境界から幼児用の服を取り出すとそれを着せる。

「ちょっと藍動かないで! ちゃんと着せられないでしょう」

 以外にこの子こんなにやんちゃだったのね。いつものテキパキさがまるで見れない。まぁ……赤子だからしかたないのだけど。

「さてこれでいいわね」

 私は藍に服を着せると吐息を吐く。黄色の花模様の服に身を包ませて一息つく。

「あっ。忘れてたわね」

 私は花柄の服のお尻にゆかりはハサミで穴をあける。なかから小さな9本の尻尾が飛び出る。

「藍ったら尻尾までかわいらしくなって」

 つい笑みが漏れてしまった。

「なんだかんだあなたには面倒見てもらってたわね」

 こうしていると藍の方を世話するというのは初めてかもしれない。

 初めて私の式神となったときより色々面倒を見てもらっていた。

「あなたの小さな頃を見ることになるとはおもわなかったけど」

 きゃっきゃと言いながら胸に抱かれる藍をみつめる。

「仕方ないわね。今日だけは面倒を見る側を変わってあげるわ」

 そう……あの時からずいぶんと……。

 晴れた空に降る雨。

 何かの予兆だったのだろう。

 迷い家にある桜並木の下にそれはいた。

「ずいぶんとした目付きね」

 それは迷い込んだ子狐だった。 

「…………」

 こちらを睨みつける一匹の子狐。

「妖狐……いいえ九尾の狐ね」

 その尻尾は9つにわかれている。この幻想郷に流れ着いたということは……。

「あなた……一匹なのかしら?」

「…………」

 未だに睨みつけるだけの狐。

「いい加減にその目をやめなさい。私はただあなた一人かと聞いているの」

「……」

 こくんと頷く狐。つまりはあちらの世界では九尾もとうとう終わりを迎えたということか。

「あなたの親はどうしたのかしら」

「…………」

 それを聞くと先ほどよりも憎しみの篭る目で見てくる。

「なに? あなた喋れないわけではないでしょう」

「貴様らが……」

「?」

「貴様らのような化物が母様を追い遣ったのだ!」

 なるほどね……。

 おおよその検討はついた。彼女、つまり九尾というと妖怪のなかでも大妖に部類されるものだ。

 それゆえか敵も多い。多分彼女の母親もあちらの妖怪たちにも責められたのだろう。

「鬼か天狗といったところだろう」

 あちらで縄張り意識の強い妖怪といえばあの当たりだ。

「そうだ!」

 更に殺気立った目で私を見てきた。

「だから他の妖怪が信用できないの?」

「ええ! そうよそれに人間もだ!」

「そう……なにも信用出来ないのね」

 私は彼女に手を伸ばそうとする。

 ぼっ!

 私の手が蒼白い炎に包まれる。

 狐火

 妖狐が持つ妖術の一つだ、ただ……。

「綺麗な火ね……」

「!!」

 普通の狐火とは違い蒼い炎、それはこの妖狐がそれだけの力を持っているということだ。

「あなた……熱くないの?」

「ん? 熱くないわけないじゃない」

 当たり前よ。こんなにいい狐火食らって平気なわけではない。

 ただ……

「あなたが食らった痛みよりは軽いと思えば……ね?」

「っ……」

 私はそう言いながら炎を境界に入れて振り払う。

「あなたは、どうやってこの幻想郷にきたの? 確かにあなたの力は普通の九尾に比べると強めだと思うけど」

「……母様が送ってくれた。そのまま母様は」

「逝ってしまったのね」

 こくんと頷く。気づくと先ほどまでのきつい視線は少し安らいだ気がする。

「そうね。私のような隙間妖怪なら幻想郷とあちらをつなぐぐらいはたやすいでしょうけど、他の妖怪が強引に境界を開き、尚且つ無事にこちらまで送らせようとするのであればそれぐらいは必要よね」

「…………」

 今にも泣き出しそうだと思った。

 妖狐といえどまだ数十年程度の妖狐だ。

「あなた……これからどうする気? 言っとくけど、この幻想郷にはあなたが今嫌っている人間や妖怪は山というほどいるわよ? それを今のようにすべて焼き払おうというのであれば手間がかかるとは思うけど」

「…………」

「でも……あなたの母親はここなら受け入れてもらえると思ってあなたを送ったのでしょう」

「それは……」

「なら……あなた、私の式神になってみない?」

「えっ?」

 驚いた顔でこちらをみる。その後にこちらを睨み返す。

「なぜあなたの式神などに……」

「あなたは妖怪も人も信じられないといった。でもそれは妖怪と人間にとってほんの少しでしかないの」

 ほんの気まぐれのつもりだった。

 別に何の意味もなかったし、人や妖怪を焼き殺そうというならばそれでもよかった。

「だから私の式神になって、それを見定めてから決めてもいいのじゃないかしら? もしそれで見て行ったさきで殺し始めればいいわ」

「……それはあなたでも?」

 彼女の目は本気だ。だから……わたしも。

「ええ。それが私でもいいわ。別に式神になったからと言っても私を殺してはならない殺せないなんて制約はないもの」

 そうこの子の行き方はこの子しだいだもの。

 

「だから……私の後ろで常に見定めてみなさい」

 

「…………」

 雨の音だけが響く。

 数刻の後、晴れた空から降る雨が止む。

 雨でぬかるんだ地面は少しずつ乾き始め世界頃に答えはでた。

「そう……ならあなたは今日から私の式神」

「はい」

「ちなみにあなた名前はあるのかしら?」

「いえ」

「そう……ならあなた『青は藍より出て藍より青し』という言葉をしっているかしら」

「知りません。人間の作った言葉か何かですか」

 藍は人間の言葉というだけで少し顔を嫌そうにする。

「そうよ。この言葉は人間が作ったものでも意外に人の作るものも悪くはないのよ」

 そう。あの時のあなたにぴったりの言葉だと思ったのだ。

「この言葉の意味は、染め出すと非常に美しい青に染まり、その美しさは親よりも優れるという意味よ」

「それは私が母様以上に優れていると?」

「そうね。今は違うわ。あなたはどちらかと言うと染まる前の青色といったところかしら」

 そう……

「でもあなたはこれから見るものできっとその母様よりも優れていくわ」

 ただの感だった……

「だからあなたには【藍】という名前を与えます」

 でも今思うならあなたは……

「今日からあなたは【八雲藍】と名乗りなさい」

 もう【藍】の名にふさわしく染まっているわよ

「……はい。ご主人様」

 その日から私には式神『八雲藍』が隣に立つようになった。

「あれからもういくつの年をあなたと過ごしたのかしら……藍?」

 胸に抱かれてすーすーと寝息を立てる藍に声をかける。

 ただあなたには聞こえていても今の状況では答えることもできないだろう。

「あの時よりも小さいあなたを見るはめになるとは……思わなかったけれどね」

 あの出会いの時でもここまで小さくはなかったわね。

 そのかわり小さくなったあなたを見れたということは、あの日よりも前を知ることができたかもしれないわね。

「でも……あの時の答えは出たのかしら?」

 そうあの時から彼女は未だ答えを出したことはない。

 ずっと私の後ろに付き添い。

 一緒に幻想郷を見てきたあなたには、幻想郷の人々はどうみえたのかしら?

「まぁ……その答えはあなたの口から聞くことにするわ」

 残り少なくなる桜の葉が風で散る。その向こうに橙が飛んでくるのが見えた

「さて……あなたには、これからも頑張ってもらうからね? 私の横にいるかぎり」

 

 そう……あの時の誓いが果たされるまではね。

 

〜八雲桜〜

Form.Rino Miyakawa

説明
東方物二次創作物

なんとなく思いつきで書いた作品のためずいぶん雑な作りとなっています。

メインは紫と藍のはなしにしております
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タグ
宮川梨乃 思いつき 東方 

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