人類には早すぎた御使いが恋姫入り 十三話
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桃香SIDE

 

「……うぅ……ん…」

 

タタッと、薪が燃えながらする音がすることに気づいて、私は目を開けました。

 

「……うん?…何で私こんな……」

 

確か愛紗ちゃんたちの所を出て一人で……

 

「目が覚めたか」

「…へ?」

 

聞き慣れない男の声が聞こえて、私は横になっていた体を起こしました。

そしたら、

 

「きゃあああああ!!!!」

 

あああーー

 

ああーー

 

あーー

 

「……な、ななな何で私下着しか履いてないんですか!?」

 

洞窟の中に、私の叫び声が響き渡りました。

 

「濡れてたからな。お前が河から上がった途端倒れたので、近くに居た洞窟でお前の荷物の中にあった火打石で火を起こして濡れた服を乾かすために脱がした」

 

そう言っている人はある男でした。

私と同様、下着以外には何も身に着けぬまま焚き火の前に座っていました。

 

「だ、だだだからって脱がす必要な…はっ!もしかして……私もう…!!」

「……お前に今妄想しているようなことは、起こっていない」

「ほ、ほんとですか!」

 

単に、濡れた服を乾かすために脱がしただけ……?

 

「よもや男に脱がされるぐらいだったら濡れた服を着たままな方が良かったとは言うつもりか?。空気が冷えていて、風も強かった。あんな服を着たまま気を失っていたら、凍死してもおかしくはなかっただろう」

「あ、いえ……あの、ありがとうございます」

 

男の人に脱がされたのに…感謝した方が良いのかちょっと微妙ですけど、取り敢えずは私のためにとやってくれたみたいですし、礼を言っておきます。

……で、でも、いつまでも男の前で下着のままで居るというのは恥ずかしいです。

 

「あ、あの…私の服は……」

「…そこにあるだろ」

 

男の人が差した上を向くと、あの人を助ける時に使った縄が洞窟の高い岩に縛ってあって、そこに私の服と髪飾りや男の人の服が吊るされてました。地面には私の剣が鞘から外れて置かれてます。鞘に入ったままにしておくと錆びるかもしれませんからね。

 

「今着るつもりなら止めはしないが、まだ吊るしてあまり経っていない。裸なのが嫌だったらそこの俺の上着は水にあまり塗れない材質だからそれでも巻いていろ」

「は、はい」

 

立って私の服に触ってみると、本当にまだびしょ濡れでしたので、私は男の人の言うとおり端っこにあった白い上衣でなんとか肌を隠しました。なんか凄く柔らかい服です。何で出来てるんでしょうか。

 

「………」

「………」

 

な、なんか息苦しいです。

向こうでは何も言いませんし、その上になんか目がこっちを睨んでいるようにも見えます。

 

「っっ!」

「ど、どうしたんですか!?どこか怪我をしたんですか?」

「……いや…まぁ、どっちかと言うと昔の傷の方があるが」

「昔の……?」

「………」

「……」

 

また話が途切れました。

 

「あ、あの、どうして、河に流されちゃったのですか?

「…分からん。おそらく誰かが俺が気を失ってる間に河に投げたのだろう」

「へっ!?」

 

誰かの仕業って…事故とかじゃなくてですか?

 

「それって一体……」

「まあ、俺を河に落としたい奴は腐るほど居ただろうが……まさか実行に移す者が居るとは。どいつか知らんが最高のタイミングでやってくれた」

「そんなに沢山恨み買ってるんですか?」

 

私もしかして、凄く悪い人助けちゃったのかな。

 

「あと、これは明らかにしておこう。確かにお前が河に流されている俺を発見したことは事実だが、お前が居て助かったことよりは、寧ろお前が俺に助けてもらった部分が大きい」

「はぐぅっ!」

「支えにさせるために剣を投げては人の頭に命中させる」

「うぐっ!」

「縄を引っ張るかと思ったらいつまで経っても陸との差が縮まらない」

「はぅぅ…!」

「おまけに上がる時に手ぐらい掴んでほしいと思えば逆に自分が河に落ちた挙句泳げなくて最初に溺れていた方に助けてもらった上に、状況終了した後は力尽きて気絶。一体お前が何をしたというんだ」

「ふええええん!ごめんなさい」

「……………」

 

でもそこまで私の頼れなさを一々摘み出さなくてもいいじゃないですかぁ!

 

「………で、ここはどこだ?」

「ここですか……黄河ですよ」

「…やはりただの馬鹿か」

 

馬鹿って言われました!?

 

「アレが黄河だって事は溺れた俺が一番良く知っている。ここがどの地域が聞いている」

「ああ、そうでしたね。ここは冀州です」

「……冀州…結構流されたな」

「あの、あなたはどこから来たんですか?」

「俺は…」

「あ、その前に」

 

自己紹介がまだでした。

 

「私は劉玄徳と言います。あなたの名前は…」

「……何!」

「ひゃっ!」

 

なんですか?と聞く前に、男の人は私に迫って来て私の腕を掴みました。

ま、まさか!この期に及んでですか!?

 

「もう一度言ってみろ。お前がなんだって?」

「りゅ、りゅ、劉玄徳です」

「名前は?」

「ひっ!備です!劉備玄徳です」

 

ち、近い!

も、もしかして、本当にこのまま……

 

「………ふ……ふふっ」

 

……へ?

 

 

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一刀SIDE

 

はっ…

 

ははっ…

 

冗談だろ?

こいつが……コレが劉備だと?

あの漢中王の劉玄徳だと?

 

「くふふふふは……っ」

 

笑える……これは幾らなんでも笑える。

コレが…コレが劉備だと?

このどこかネジが抜けたかのような女が劉備だというのか?

 

「興味……いや、これは面白い」

「な、なんですか。人の名前が笑えるって」

「笑わずに居られるか。いや、それよりも俺をこんなに笑わせたのはこの世界に来てお前が始めてだ」

「へ?」

 

かの劉玄徳といえば、幽州の田舎で老母と藁を編んで暮らしていた凡人だった。

他の曹操や孫権が名もあり人材もある、基礎が堅いまま群雄割拠の時代を始めたことに比べ、劉玄徳は40が過ぎてまでも己のちゃんとした地を持たずとも、結局には三国の一つである『蜀』の皇帝となった英雄。

誰よりも低い場所から天下を目指したにも関わらず、あんな高い所まで上がったのが劉玄徳という者があったからこそ、現代に及んでまで三国志と言われるこの時代の歴史は多くの現代人たちに広がっていると言ってもいい。

 

それが、この世界の劉備がコレだと?

 

「それで、何故お前がここに居る?他の者はどうした?」

「ふえ?」

「とぼけるな。黄巾の乱が終わるこの際、既に幽州と冀州あたりでは名を上げているはずだ。契を結んだ義理の妹たちが居るだろ」

「どうしてそれを…!私たちのことを知っているんですか?」

「大体はな。あ、俺の紹介がまだだったな。俺は北郷一刀。曹孟徳の所の人間だ」

「北郷……一刀さんですか?」

「そうだ」

「……変な名前ですね」

「人の名前に変とは何だ」

「一刀さんも私の名前で笑ってたじゃないですか。仕返しです」

「………」

 

名で笑ったというよりは、異質感のせいで笑ったのだが…この際どっちでも良いだろう。

 

「で、何故こんな所に居る。他の者はどうした?近くに陣でもあるのか?」

 

だとすれば、今頃大将が居なくなったと大騒ぎだな。

 

「…実は…私、皆に言わずに出てきちゃったんです」

「……何?」

 

出てきた………まさかとは思うが、

いや、確実にそういう意味だろうが……常識的に考えてありえない所が……

 

「軍から逃げ出したと?」

「逃げたわけじゃないです!ちゃんと帰ります。自分に出来ることが見つかったら……」

「………帰れ」

「ひぇ?」

 

 

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桃香SIDE

 

「帰れ」

「ひぇ?」

 

いきなり帰れって言われて、私は少し変な声が出ちゃいました。

 

「話は大体つかんだ。見た通りでは強くもないし、頭が良いわけでもない。軍では義妹や他の部下たちは強かったり頭良かったりして軍に頼りになってるのに自分は一番偉い立場なくせに何も出来ないことが悔しくて出てきたんだろ」

「何でわかったんですか!?」

 

初めてあった人に私の諸事情をすべて見ぬかれています。

でも、

 

「だ、だけど、私はまだ帰るつもりはありません。私に出来ることが何か見つけるまで帰るわけには……」

「君一人で出来ることなんて何一つない。藁の編み以外には」

「はうっ!」

「……部下の誰一人でも君が役に立たないって嘆いてたか?」

「それは…そんなことはなかったんですけど、でも私だって皆と一緒に戦いたいです……いや、そもそも、私たちがしたかったことは戦うことじゃないです」

「じゃあ、何だ?人を助けるために旗をあげたんだろ?」

「はい」

「民を苦しめる賊を倒すのはソレじゃないのか?」

「でも、賊だと言っても、元々は民だったわけじゃないですか」

「人を殺す賊は人ではなくただの獣だ、それがこの世界の言い訳だろ?」

「言い訳は言い訳でしかありません。私たちはただ、人を殺す罪悪感から逃げるために、賊は獣だって言っているだけです。実は朝廷の人たちが強欲で、自分たちの権力を使って人たちを苦しめなかったらその人たちも賊にはならなかったはずです」

「……なら自分たちがしてきたことさえも目標からずれていると自覚した上に、己の無能さに悟ってそこを出てきたってことか?」

「はい」

 

なんか、この人凄いです。

私の心をすべてお見通しかのように、私の悩んでいた所を理解してくれます。

この人に話すと、愛紗ちゃんや朱里ちゃんたちに言っているより沢山自分の気持ちが言えます。

 

「………玄徳、君は『無能』だ。少なくも独りで居る時は、どう足掻いても、君だけじゃ何も出来ない。」

「…それはわかってます」

「そこで、周りの人と力を合わせた所で、お前の周りに居る人をすべて助けることは出来ない。不可能なことが出来ないと嘆くのは愚人がすることだ」

「でも!私は皆が幸せに出来るような世界になって欲しいです!だから今まで頑張ってきたんです。これが正しい方法だと思って……でも、振り返ってみたらそうじゃなかったんです。何かが間違っていたんです。でも、今からやり直そうとしてもどうすれば良いのかわかりません」

「…なら聞くが、玄徳、君が言う幸せとはなんだ?それはどんなものだ?」

「それは……皆が笑って暮らせるような場所です」

「なら、そんな場所を作るために君に出来ることは何だ」

「………」

 

私が初めて見た時、人たちは泣いていました。

それは、賊に襲われた村の中で、賊に殺された子供や妻や夫を抱えて喚く姿でした。

だから私は皆で力を合わせて、皆をで皆を守ろうと言いました。

そしたら、愛紗ちゃんが来てくれて、鈴々ちゃんが来てくれた、他にも沢山の人たちが集まってくれました。

それから、私はもう誰も泣かないようにと、人たちを守りました。

そして、人たちを苦しめる賊を倒そうと思いました。

でも、その賊も結局私が幸せにしたいと思った民だったわけじゃないですか。

 

「玄徳、もしあの河に落ちていたのが俺一人なかったとしたらどうだ?」

「へ?」

「五人、いや十人居たとしよう。そしたら君はその人たちをすべて助けられたか?」

「それは……できません」

「なら、もしお前以外にも……お前の妹たちが居たら?」

「そしたら……愛紗ちゃんも鈴々ちゃんもすっごく強いですから…鈴々ちゃんなんて槍で、人を一人ずつ釣り上げて助けられたかもしれません。

「それじゃ、溺れた人が百人だったら、君ら三人じゃ助けられないだろ」

「はい……もっと沢山の人たちの力があれば、もっと助けられるかもしれません」

 

……あ、そうか。

私一人の時は一刀さん一人助けるのこともろくに出来ない。

でも、愛紗ちゃんや鈴々ちゃんたちが一緒に居てくれたら、もっと多くの人たちが居たとしても助けられます。

河に溺れている人たちがもっともっと多ければ、助けようとする人もその分多くなければ、全員河から掬い上げることは出来ません。

 

今私が自分に力がないって嘆いてるのは、まるで私一人だけなのに何千、何万も居る溺れた人たちを助けられないと哀しんでいるのと一緒です。

自分に望むことを叶えるほどの力がないとすれば、同じことを望んでる人たちをもっと集めればいいんです。もっと力を集めたらいいんです。

私が今しようとしているのは、乱世という河に溺れた天下の人たちを助けること。

そのためにどれだけの人たちの力が必要となるんでしょうか。

 

それをするには、私にはまだ力が足りません。

よもや誰かの笑顔を守るために、誰かを殺さなければならないのですから。

それを知っているぐらいなら、自分の無能さを哀しんでいる暇なんてないんです。

そうするぐらいなら、もっと沢山の力を合わせて、それで力を溜めた方がいいんです。

 

「玄徳、今君が考えていることを他の英傑たちに言ったら、十のうち九は笑うだろう。なぜならそれは、不可能だと思うからだ。誰も今までそんなことができた者なんて居ない。なのにたかが何千の兵を持ったぐらいの君が、皆の幸せなんて言っても、ただの夢見る夢想家の言葉でしか聞こえない。こんな奴がこの先生き残るはずがないと、誰もが思うだろう」

「………」

 

そう言えば、白蓮ちゃんも、口では言わなかったけど、私がそんなこと言ったら、呆れた顔したかも………そんなに馬鹿なこと考えているのかな。私。

皆を幸せにするってことが、そんなにいけない考えなのかな。

 

「だがな、玄徳。そんな連中の浅はかな口ぶりに耳を澄ませるな」

「!」

「奴らは凡愚だ。自分に出来ないから誰にも出来るわけがないと思う井の中の蛙だ。君はそんな奴らと違うから、君が頑張ればその分、君の理想に近づく自分の姿を見つけられるだろう。だから、君の夢が君に答えてくれるまで、悲しまず、泣かず、挫けずに進んでいけ。君が始めたその夢と理想が既に多くの人々の心を惹かせたのだから、彼らの信頼を裏切ることなく、自分自身の信念を無駄にすることなく前に歩いていけ。そしたら、君がそれほど望んでいたものが……いつの間にか君の前に現れる」

「一刀さん……」

 

なんか……

 

……

 

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一刀SIDE

 

タタッと水を吸った薪が燃えながらうるさい音を出す。

 

「………」

「……<<ぼたっ>>」

 

長い話をしていたら、ふと玄徳の目から涙が落ちているのが見えた。

体はもう乾いたし、髪も乾いてきたところだから、ただの水だということはない。

 

「あ、あれ、ごめんなさい。ちょっと……煙が目に入っちゃったみたいです」

 

玄徳は目をこすりながら言った。

 

 

君主というのは……人の上に立つというのは誰よりも孤独な立場だ。

この劉玄徳は、俺が見る限りそんなものを耐えられるぐらい強そうには見えない。

だけどいつかはそれを耐えられるようになるだろう。

 

でも、俺は『経験者』として言える。

その耐性を得るには、自分にとって大切だった夢、希望……全て変えなければならない。

目標に達する課程を耐えぬくために目標を失わなければならない。

 

 

 

 

と、そろそろ服も乾いた頃か。

 

乾いた白いズボンと黒いシャツと靴まで全部履くと、後はそこで泣いている劉玄徳が着ている上着だけだ。

 

「そろそろ服を着てもよさそうだな」

「ふえ…?……あ」

「俺は外に居よう」

 

こっちの視線を気にしているようだったので、俺はそのまま洞窟の外へ向かった。

まだ水気が残っていて、外の風に当たったら冷えるだろうが……。

あの服は脱がす時も結構苦労だったから着るのも一苦労しそうだ。

 

後、

 

 

 

 

「動くな」

 

……洞窟を出た途端に刀をを当てられるぐらいは予想済みだ。

 

「貴様らは何者だ。何が目的だ」

「お前の目的は中にいる劉玄徳を『誘拐犯』から救出すること。俺の『目的』とやらを知る必要はないだろ」

「減らず口を……!」

「!」

 

刀に力が入るのを悟る前に後ろに倒れる。

俺の頸を斬るために向かった刀をそのまま虚空を斬る。

 

「何っ!?キャッ!」

 

倒れたまま足を絡めて相手を倒す。

 

「……見かけの割には大胆なモノを履くな」

「っ!貴様!」

 

両方同時に起きて、向こうが刀をぐるぐると振るいながら迫ってくる。

剣よりリーチが長いことを念に入れなければならない。

 

「えいっ!はぁっ!」

 

スッ スッ

 

「……訂正しよう、剣より避けやすい。リーチが長い分速度が足りない」

「っ!!気持ち悪い避け方を……」

 

失敬な……

 

「名前を聞こう、場合によっては話で解決出来る可能性も考えねばならない」

「我が姉を誘拐した下郎な奴に名乗る名はない」

 

ふむ、関雲長と。

 

「なら、いい。説明はその中に居る者に聞いたら良いというもの。ここで無駄に汗をかかなくても中に十分に火を起こしている」

「ふざけるな!姉上に何をした!」

 

別に何も……

 

「この声って、愛紗ちゃん!?」

 

その時、中に居た劉玄徳が出てきた。

 

「なっ!!」

「愛紗ちゃん、待ってその人は……」

「貴様、許さーーん!!!」

 

……何も着る途中で出てこなくても……

上着はまだ着終わってなくてまだはめてないボタンからプラがちらっと見えて、しかも靴は履くもスカートはまだ履かずと、その乱れた姿誰がどう見ても俺が玄徳を犯したかのようにしかみえな…と

 

スッ

 

「避けるな!大人しく殺されろ!」

「どっかの脳筋と同じことを言う……お前は負傷した者を全力で斬りかかろうとする己の姿を少し冷静に振り返ってみる必要がある」

「何!?」

「良くみろ。お前の姉は良く見るとまだ全身が濡れているし、俺が巻いた包帯は水を吸って膨らんでいる。それはつまり両方とも水に溺れていたということで、ここで溺れる場所など黄河しかない。しかも冬の風が冷たい上に、黄河な数日続いた雨に溢れている。俺がここまで丁寧に状況を説明しているのに玄徳に続いて関雲長までコレだとしたら俺はもう蜀はオワタと宣言する他ない」

「んな……」

「愛紗ちゃん、違うよ!私が出てきたんだよ!一刀さんが悪いわけじゃないよ!」

 

君は服をちゃんと着ろ。

 

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愛紗SIDE

 

 

それは三日前のことだった。

桃香さまの天幕の寝床に『探さないでください』という手紙とだけがぼつんと置いてあって、姉の姿は見当たらなかった。

陣内のどこを探しても見当たらなく、見かけた者も居なかった。

いつもはちょっとどこか抜けてるような姉なのに、こんな時に限って完璧に自分がやりたいようにやってくれる。

鈴々と朱里に陣を任せて探索隊を組んで各地に向かわせて、私は冀州の方に向かった。

在る村で桃香さまが港に行ったという情報を聞いて港の周りを探索する中、私は黄河をよもや桃香さまが黄河に溺れたのではないかという有り得ない妄想までしながら(実際にそうだったことには呆れて言葉も出ない)歩いていたら、近くの森にあったこの洞窟を見かけた。

外を見る限り、賊が使っている洞窟のようだったので、もしかしたらと思い中からする声に耳を傾けたら、桃香さまと他の男の声が聞こえた。

姉が賊に捕らわれたのだと確信した私は中に突入しようとしたが、その時中から人が出てくる声を聞いて入り口の方に身を伏せていたのだ。

 

なのに、それがまさかこんな状況だったとは……

 

「一体今までどこで何をしていたんですか!」

「はぅぅ…ごめんなさい!」

 

正座なさっている桃香さまに私は長々と説教をしていた。

外は寒かったので取り敢えず中の焚き火の側で話し始めたが、幾ら何でも今回の事件はやり過ぎだ。

桃香さまはもはや一人だけの身ではない。桃香さまに付いていく多くの人々があるというのに、そんな状況で家出などと……

 

「か、一刀さん、なんか言って?!」

「……うん?そうだな」

 

隣で黙ってこっちを見ていた、黄河に溺れていたという間抜けな男(という割には色々あったようだが)に桃香さまが救援を求めると、

 

「雲長」

「部外な人は黙っていてもらえるか?」

「黙るのは貴様だ、雲長」

「!」

 

な、何だ

 

「貴様に人の上に立つ人間の苦しみが解るか。貴様が姉に担わせた荷がどれだけ重いものか貴様が知らないのか。姉が逃げなければならなくなるまでお前は何をしていた」

「…っ!私は、桃香さまのために今まで……」

「貴様がやってたことは単にお前が勝手に貴様が姉のためだと思っていたことばかり。実際貴様の姉が一度でも貴様がやることが自分が望んでいた事だというのを聞いたことがあるか?貴様がやってきたことの中で、貴様の姉がやって欲しいと言ったことが一つでもあったか?」

「!?」

 

それは……

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「でも、やっぱり賊でも…人を殺さなければならないなんて…悲しいね」

「弱いことを言ってはなりません、桃香さま。相手は人とは呼べぬ下衆の群れ。情けを見せる必要がありません」

 

「桃香さま!こんな所で何をなさっているのです!」

「あ、愛紗ちゃん!村の娘たちに、藁で簡単に造れるお飾りの作り方を……」

「軍議が始まるのですよ。大将がこんな所に居てどうするのです。早く来てください!」

「ああっ、愛紗ちゃん、待って!ああ、ごめんね。後でまた来て教えてあげるね」

 

「賊の人たちも話し合ったら分かってくれないかな」

「何を馬鹿なことを……桃香さまは本陣に残っていてください。後は私たちにお任せください」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「貴様が劉玄徳に仕えているのではない。貴様は自分の理想の主に仕えるため、劉玄徳という都合の良い人間を探してそいつを己が望む主の形に変えようとしただけだ。貴様が姉のためだと思って何かをやる度に、貴様の姉はどんどん己が望んでいた目標から遠くなるままだった」

「………わ、私は…」

 

「一刀さん、言い過ぎだよ」

 

 

「…君が助けて欲しいと言ったんだろ」

「そうは言ったけど、私の代わりに愛紗ちゃんのことを落ち込ませてとは言ってないよ」

「……難しい奴だな」

 

桃香さま………

 

「桃香さま、私は…」

「ごめんね、愛紗ちゃん。もう勝手に居なくなったりしないから…」

「…申し訳ありません、桃香さま。私は…私がやっていることが桃香さまのためだとばかり思っていたことが…実は桃香さまのことを…桃香さまの理想を己の理想のために利用しただけです」

「そんなことないよ。だって、私が望むことは、皆が幸せになる世界を作ることだもん。もちろん、そこには愛紗ちゃんも含まれるんだよ」

「………」

「私が、愛紗ちゃんが望むような立派な君主になれることが、愛紗ちゃんの幸せに繋がるのなら、私は愛紗ちゃんが願うような立派なお姉ちゃんになってあげる」

「桃香さま……」

「だから、これからも私と一緒に来てくれるよね?」

「……はい……はい」

 

桃香さま、

あいつが言ったことで一言だけ文句を言わせてください。

私は決してあなた様が都合が良くて仕えたわけではありません。

私が主と思って従える方は、あなたしか居ない。そんな思いで貴女の槍となり、盾となることを誓ったのです。

 

「……ふん、これで終わりか。俺は行くぞ」

「あ、どこに行くんですか?」

「帰るんだ」

 

そうしていたら、あの男が突然帰ると言い出しました。

そもそもアイツはどこから来たのでしょう。

 

「ああ、そう。玄徳。俺の上着を返してもらおう」

「え?ああ、はい」

 

桃香さまは持っていた白い服を男に渡しました。

 

「愛紗ちゃん、私たちも帰ろっか」

「はい、朱里たちには今頃平原近くに来ているはずです」

「ふえ?どうしてそんな近くに居るの?幽州にいたんじゃ……」

「良くわかりませんが、私たちが居ない間朝廷から桃香さまに官位を与えるために訪れてたそうです」

「……?わかったよ、一刀さん、私たちは…」

「好きにすれば良い。俺はもう興味ないのでな」

 

男は本当に興味なさそうな顔で服を纏って外に向かいました。

私たちも外に行くと、風が止んで晴れていた。

何も言わないまま、お別れも挨拶もなくその男は先に歩き出した。

少し腰を曲げたまま歩くその姿は、誰が見ても少し不気味に見えますが、今更本人になんとも言うつもりはありません。

どうせもう会うこともないでしょうし。

 

「……あ」

「どうなさったのですか、桃香さま……」

 

その姿を見ていたら、ふと桃香さまが口を開けて男の後ろ姿を見ていました。

 

「あの占い………」

「占い?」

「…管路ちゃんが言ってくれた占い!」

 

桃香さまはそう叫びながらその男に向かって走って行きました。

 

「ちょっと、一刀さーん!」

「…ん?」

 

その男が振り向くと、白い服が太陽の光を浴びて輝いている姿が目に入りました。

そして同時に、以前、以前と言ってもあの時はまだちゃんとした軍もなく、桃香さまと私と鈴々しか居ない時に、桃香さまが言っていた言葉を思い出しました。

 

『今日街でこんな占いを聞いたんだ。太陽の光を巻いた天の御使いが乱世に舞い降りてくると、乱世は静まれ、世に平和が戻ってくるって』

 

あの時は、また桃香さまがどっかの者に騙されてきたのかと聞き流したが…まさか、桃香さまはまだあの占いを信じておられたのだろうか。

 

 

-6ページ-

 

 

桃香SIDE

 

「一刀さん!」

「ん?」

 

一刀さんが振り向くと、もっとしっかりと見えます。

さっきまでは暗くて分からなかったんですけど、一刀さんの服が、凄くキラキラしていて、まるで太陽の光のように輝く服を見た時、私は昔聞いたあの占いを思い出したんです。

 

乱世を鎮める天の御使いの噂。

 

「……一刀さんって、天の御使いなんですか?」

「……?……あぁ、そういえばそういう話もあったらしいな……合ってると言ったら?」

「私たちと一緒に来てくれませんか?」

「理由は?」

「あの……こう言ったらなんですけど、私と一緒に戦ってくれませんか?」

 

確か、一刀さんは今曹操軍に居るって言ってました。

曹操軍と言ったら、詳しくは知りませんが、少なくとも今の私たちよりは偉い所なのは違いありません。

そんな所に居る人にこんなことを言うなんておかしいとは思いますけど…

 

「それはヘッドハンティングか?…俺を引き抜くと?俺が君と一緒に居て何が得られる」

「それは……えっと、私たちの所は曹操軍よりはまだ力はないかもしれませんけど、私は、私と一緒に来てくれる人たちを皆仲間と思って大事にしています」

「で一人で逃げ出すと?」

「はうぅっ!……それは、ちょっとした迷いです。とにかく、一刀さんさえ良ければ、私たちと一緒に皆を幸せにすることを手伝って欲しいです」

「………俺が言ってなかったか?君のその考えを聞かれた十の九は笑うだろうと…」

「それでも、私はこの道を選びました。賊が居なくなって残された人たちの笑顔を守られるなら、私はそうします。他にどんなことでも、それが私を信じてくれる人たちの幸せに繋がるのなら頑張って見せます。私にあんなことを言ってくれた一刀さんじゃないですか。お願いです。私のこと、手伝ってください」

 

一刀さんの手を掴んで私に出来る一番切実な目で一刀さんを見つめました。

 

「……良い事を教えてあげよう、玄徳。俺は自分が興味深いことじゃないと百万金をやると言ってもやらない」

「………」

「君がやろうとしていることはこの大陸の誰よりも険しい道のりになるだろう。そして俺から言わせてもらうと、天下がひっくり返るほどの奇跡が何度もなければ、君のその願いは叶うことはない」

「…分かってます」

 

難しいことだって、不可能に近いことだってもう分かっています。

でも、だからと言って、それが私がこの理想を諦める理由にならないってことも…解っているつもりです」

 

「で、今日君はその中で一つの軌跡を見たんだ、劉玄徳。

 

 

 

 

俺が君のその理想に興味を持ったことだ」

 

 

 

 

-7ページ-

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

「タイムマシーンだと?そんなの不可能に決まってるじゃないか?」

「ドクター…本気でそう思ってるのか?」

「当たり前だ、MR.北郷。君は将来が有望な若者だ。俺をしては君がそんな虚しいだけの話に時間を流すことは薦められない。君はまだ博士論文も残っているではないか。君ほどの天才がこんなSF小説のようなことに時間を無駄にするなんて勿体ない!」

「ドクター…ドクター、あなたもまた凡人だ……あなたには理解できない。あなたたち凡人は自分たちに出来ないからと言ってあまりにも沢山のことを不可能だと決めつけて誰もそこに近づけないようにしている。だがな、

 

 

それでこそ俺のような変人はそこに興味を持つんだ。

 

 

あなたたちが不可能という事が俺は出来るんだ。

 

 

ざまぁみろ」

 

 

 

 

 

説明
なんか説明が長くなった。こんなのこの外史の一刀じゃないよ……

これが全部蜀を偏愛する作者のせいだよ。
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コメント
やっぱ どの外試の関羽もノウキンだなぁ(qisheng)
やらなければ確率は0%だけどやれば何%かにはなるからねえ。無理と決め付けるのはよくないね。(ZERO&ファルサ)
関羽はとりあえず謝ろうね、結果的に主の恩人を勘違いで殺そうとしたことは有耶無耶で済ませる問題ではないぞ、義を重んじるなら尚更無視はできまい(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
不可能と決めつける事こそ凡愚か・・・(ACE)
なるほど、不可能だからこそ…か。それなら確かに桃香ですよね。ただ愛紗とは相性悪そうだなぁ、朱里とは話合いそうだけど。(吹風)
俺もそう遠くない未来にでかいことやって言ってみたい・・・あ、誤字脱字の修正がんばってねq(patishin)
次に会ったときの華琳のが凄く気になる!(仕事人)
なんかすっごい三角関係ができた・・・ま、一刀くんだからしょうがないか。(下駄を脱いだ猫)
ラストかっけぇwwさすが一刀ww(lie)
この時期だと次に華琳に会うのは反董卓連合かな。反応が気になるな。(LG21)
華淋は実力重視でしたけど、桃香のところはそうはいきませんかんらね。さてさて、華淋たちが一刀が桃香のところに行ったことをしったらどんな反応をするのか、楽しみでしかたがない!!(幼き天使の親衛隊joker)
ラストかっけぇwww(アルヤ)
水に濡れているせいか、きれいな一刀さんですね。しかしこれで多くの人を悲しませることになるんですよね……(山県阿波守景勝)
一刀と話す愛紗と桃香が面白かった。 やっぱり一刀はツンデレ可愛良いなあ。(readman )
蜀√きた〜\(^o^)/(スーシャン)
きれいな一刀さんェ・・・(yosi)
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