ザン山ザン イベントネタ詰め合わせ
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【クリスマス】

 今日くらいはテキーラやウィスキーではなく、スパークリングワインだろう、と思い立って二度目の買い物から戻り、先に用意しておいたケーキの箱を、ぱかり、と開けた山本の目が点になる。

 クリスマス当日はボンゴレ主催の大きなパーティがあるが、ヴァリアーの面々、特にそのボスはその手の催しには一切、顔を出さないであろうことは想像に難くない。

 現十代目の綱吉と九代目が「どうしても」とお願いすれば多少の譲歩は考えられるが、それでも彼が会場に留まるのは僅かな時間であろう。

 それなら、と山本が「イヴにここでケーキだけでも食おうぜ」と言い出したのだ。

「ザンザス?」

 現在、この執務室に居るのは山本とザンザスだけだ。山本が買い物に行っている間に、誰かがやって来た形跡はない。

 両手で蓋を持ち上げた恰好のまま山本がザンザスの名を呼ぶも、呼ばれた本人は聞こえていないのか無表情に報告書らしきモノに目を落としている。

 返事をしない相手に、やれやれ、と肩を竦め、山本は改めてケーキに視線を戻す。

 日本にいた頃に慣れ親しんだ真っ白いクリームに真っ赤な苺でデコレートされたホールケーキではなく、装飾を省いた素朴感溢れるビュッシュ・ド・ノエル。

 その一部が抉られたかのように欠けている。

「ザンザス」

 再度、名を呼べば、渋々、といった体で顔を上げた。

「なんだ?」

「食った?」

 これ、と軽く箱の中身を指させばザンザスは「知らねぇ」と短く答え、直ぐ様、手中の書類へと顔を戻してしまった。

 あまりにもわかりやすい嘘にも山本は怒ることなく「つまみ食いなんて、ガキみたいなのなー」と、ははは、と朗らかに笑った。

「なーなー、美味かったか?」

「知らねぇ」

「お菓子なんて初めて作ったから、まずいとか言われたらさすがにちょっと凹むけどな」

 初めてにしては結構、うまくできてね? と同意を求められ、ザンザスは顔を上げぬまま一呼吸開けた後、「まぁまぁ、だな」と漏らした。

「そっかそっか。サンキューな」

 舌の肥えているザンザスにまずいと言われなければ及第点、との基準なのか、山本は彼の返答に機嫌を更に良くすると、切り分けるためのナイフと小皿、フォークを乗せたトレイをテーブルの片隅に静かに下ろす。

「そろそろみんな来るかな」

「みんな?」

 腕の時計に目を落とし、ぽそり、と漏らされた山本の言葉にザンザスが怪訝そうに顔を上げたその時、乱暴に扉が開かれそれまでの静かな空気は一転し、途端に複数人のざわめきに室内は満たされた。

「う゛ぉ゛ぉ゛ぉぉい、来てやったぜぇ!」

「お招きありがとう、武」

 鼓膜を、びりびり、と震わせるスクアーロの挨拶を皮切りにルッスーリアのまともな言葉、続いて「おいしくなかったら出張料請求するよ」とはマーモンだ。

 レヴィはザンザスを気にしてか、ちらり、と視線を動かしてから「ご相伴にあずかる」と礼儀正しく頭を下げた。

「特別に王子がわざわざ来てあげたんだから、感謝してよね」

「おう、ほんとありがとな!」

 ばんばん、とベルフェゴールの肩を正面から両手で叩き、その勢いのまま相手の肩に腕を回し、強引に引き摺るようにテーブルへと歩みを進める山本に来訪者達は続く。

 ひとり、話を聞かされていなかったザンザスは眼前に掲げた書類で表情を隠し、苦虫を噛み潰したような顔で「そういうことか……」と呻いた。

 山本が焼いたビュッシュ・ド・ノエルが、ふたりで食べるには随分と大きな物だったのだ。ふたりきりであることを望んだわけではないが、不意打ちに近いこの状況は愉快なものとは言い難い。

 ザンザスの不機嫌オーラに気づく者は居ないのか、はたまたいつものことだと流しているのか、執務机に眼をやる者は居ない。

 立食形式にするには少々、テーブルの高さが足りないがそのような些細なことにこだわる者はいないのか、ザンザスを除くヴァリアー幹部が、ぐるり、テーブルを囲む中、用意されたケーキやちょっとした軽食を目にしたスクアーロが声を弾ませる。

「武が作ったのかぁ?」

 そう言うが早いか取り上げたフォークでケーキを抉り取り、ひょい、と口に放り込んだ。

「お、やっぱうまいな」

「ちょっと、お行儀悪いわよ!」

 そう言いつつもルッスーリアの手にしっかり握られたフォークが、ぶすり、とケーキに突き立てられている。

「王子より先に手をつけるなんて許せないなぁ」

 こちらもいつものナイフではなく手にはフォーク。

 無言のふたりもフォークを閃かせる。

「え、あ、ちゃんと切り分けるからちょっと待てって……ッ!」

 前触れなく勃発したケーキ争奪戦に山本が慌てて声を上げるも、時既に遅し。

 まるでピラニアの水槽に生肉を放り込んだかのような、壮絶な光景だ。

 これで卓上が嵐の後のように滅茶苦茶であったのならばさすがの山本も怒声を上げたところだが、皆いらぬスキルを発揮してか他の料理には一切被害はなく位置も一ミリたりともずれてはいない。

 それはそれは見事にケーキのみが消失していたのだった。

「なんだ、みんなそんなにケーキ好きなのか。前もって言ってくれればもっと焼いたのになー」

 ははは、と底抜けに明るい笑い声に後押しされたか、マーモンが「あんまり食べられなかったよ」と告げれば、山本はソファに、ちんまり、とおさまった相手の前で膝を折り「そっかそっか。小僧はリーチないもんなぁ」と彼の口回りに付いたクリームを拭ってやりながら「また作ってやっからな」と朗らかに笑う。

「へぇ、話には聞いてたけど、なかなかイージャン。今度、王子にも作ってよ」

 料理に手を伸ばしながらベルフェゴールが、にしし、と笑えば、「ベルは酢飯、大丈夫なんだよな。なら特製ちらし作ってやるよ」との色好い返答が上がる。

 ここにきてようやっとザンザスの存在を思い出したか、スクアーロが、

「なにしてんだ、ボス。料理なくなるぜぇ」

 と、スパークリングワイン片手に声を掛けた瞬間、唸りを上げて飛んできた無惨にも引き千切られたケーブル付きのノートパソコンが、スクアーロの頭部に直撃したのだった。

 

 

 

 結局、テキーラやウォッカが開けられた為ただの宴会と化し、その後片付けを終えた山本が仮眠室を覗けば、数時間前に引き揚げたザンザスはベッドの住人となっていた。

 無言で室内へと踏み込み、ベッドへ近づきながら時刻確認。

 刻まれる秒針に合わせて心の中でカウントダウン。

 3、2、1……

「メリークリスマース!」

 秒針が文字盤の12に重なると同時に軽やかにベッドへとダイヴすれば、山本の見事なボディプレスにさすがのザンザスも目を白黒させ跳ね起きる。

「…ッ!? なにしやがる、このカスがッ!!」

「んー?」

 怒声を物ともせずザンザスの腰に懐くような恰好でいた山本が不意に伸び上がり、ちゅっ、と軽い音を立てて唇を啄んだ。

「なんの真似だ」

「クリスマスの日はキスしていいんだろ?」

「どこで聞いたか知らんが間違ってるぞ、カス。それはヤドリギの下での話だ」

 更に言うなら男女の話だ、と付け加えるザンザスに、そーなんだ、へー、と素直に感心してから、くぃっ、と口端を吊り上げる。

「でも、ちゅー、すんのに今更、理由いらないよな」

「愚問だな」

 遠回しな肯定に目を細め、山本は、するり、とザンザスの頬を撫でると、そのまま項へと掌を滑らせ、くしゃり、と髪に指を絡ませる。

「なー、プレゼントはくんねーの?」

「んなモン、ベファナに強請れ」

「えー? ザンザス、魔法使いみたいなモンじゃん」

 炎で空飛べるしさー、と喉奥で愉快そうに笑う山本の顎を捕らえ、おしゃべりな唇を緩く食む。

「なら、来月の6日に期待してろ」

 間近の深紅の瞳を見つめながら、あぁそっか、と山本は忘れていたことを思い出す。イタリアではクリスマスは12月25日に始まり、プレゼントを貰えるのは最終日の1月6日なのだ。

 ぼんやり、と記憶を探っている間にも、ザンザスの唇は額や鼻先、眦に触れ、くすぐったさに山本は肩を竦める。

「皆、隣に居るぜ?」

「知ったことか」

「言うと思った」

 ほぼ予想通りの返答に山本が笑えば、ザンザスはどこか不満そうに鼻を鳴らした。

 

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 参考:Wikipedia

 

2008.01.31

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【バレンタイン】

 執務室の扉を開けた瞬間、ザンザスは「うっ」と喉奥で低く呻き、常とは違う室内の空気に反射的に扉を閉めてしまった。

 なにか不穏なものが見えたワケではない。そもそも、室内に眼をやる前に扉を閉ざしたのだ。

 だが、室内に誰が居るかは見当が付いている。

 はー…、と溜め息を逃がしてから再度、扉を押し開ければ、途端に漂ってくる全身にまとわりつくような甘ったるい香り。

「……なにしてんだ」

「お、さっきはどうしたんだ? いきなりドア閉めて」

 眉間にしわを寄せているザンザスに気づいているのかいないのか、山本はマシュマロやフルーツの盛られた皿を手に首を傾げる。

「聞いてるのはこっちだ。とっとと答えろ」

「三時のおやつの準備なのな」

 悪びれた様子もなく、さらり、と答えテーブルに皿を下ろすと扉の前から動こうとしないザンザスに顔を向け、「早く座れよ」と促す。

 これ以上の問答は無意味と諦めたかザンザスはコートは椅子へ、アタッシュケースは執務机へと放り投げ、大股にソファへと寄った。定位置の三人掛けのソファのど真ん中へ腰を下ろせば、山本は向かいの一人がけのソファへとおさまった。

 位置関係は普段となんら変わりはないのだが、二人の間に用意されている物だけが異質であった。

 スタンドに乗せられた小振りの陶器の鍋から立ち上る甘い香りの正体は、紛うことなくチョコレートだ。

「なんのつもりだ」

「まーまー、いいじゃねぇか」

 鍋に落とした顔を僅かに上げ、じろり、と上目に剣呑な眼差しを向けるも、山本はすっかり見慣れてしまった笑顔で受け流し、いつの間に手にしたのかフォンデュ用のフォークに、ぷすり、と苺を突き刺すと躊躇うことなく、どぷん、とチョコレートのたゆたう鍋へと突っ込んだ。

 引き揚げたソレを、くるん、と器用に回し滴るチョコレートを切ると、にこにこ顔のまま正面に突き出し「あーん」と促すような声を発する。否、ような、ではなく完全に促している。その証拠に事態を把握しきれず固まっているザンザスの口元に、ゆっくりとだが着実にチョコレート濡れの苺が迫っている。

「なんの真似だ、これは」

「チョコフォンデュだよ。知らねぇのか?」

「そうじゃねぇッ!」

 聡いかと思えば不意に天然を発揮する山本に、ギリギリ、とこめかみが引きつるが、怒鳴ったところで堪えるような相手ではないのだ。

 テーブルに叩き付けそうになった拳を膝上で、ぶるぶる、と震わせながら、ザンザスは気を落ち着けるように深々と息を吐いた。

「なんでいきなりこんなモンおっ始めて、その上てめぇに食わされなきゃならねぇのかを聞いてるんだ」

「日本だとチョコをあげるのな」

 微妙に言葉足らずな山本の説明だが、ザンザスはその中から答えを拾い上げたか、低く「あー…なるほどな」と呟いた。

「それに甘い物好きなんだろ? スクアーロに聞いた」

「あンのカス鮫……」

 後でかっ消す、と呪詛のように漏らすザンザスに、珍しく山本はあからさまに失敗したと言わんばかりの表情を浮かべる。

「やべ、内緒にしてくれって言われてたんだった。悪ぃけど聞かなかったことにしてくんね?」

 あぁ見えてスクアーロは口の固い男だ。殊ザンザスに関わることならば尚更だ。だが、スクアーロ自身、山本を特別視していることを差し引いても彼が口を割ったと言うことは、余程しつこく食い下がられたか、あるいは……

 苺の刺さったフォークを手にしたまま、顔の前で、ぱんっ、と両の掌を合わせ懇願する山本を暫し無言で眺めた後、ザンザスは僅かに身を乗り出すと、ぐい、と山本の手を掴んで手前に傾け、驚きに目を丸くする相手に見せつけるように苺を唇に挟むと、するり、とフォークから抜き取った。

「口止め料に貰っといてやる」

 唇に残ったチョコレートを舐め取りながら、愉快そうに口端を吊り上げるザンザスの意図は理解したが、山本は先の失言を反省してか敢えて口には出さず、ただ、にこにこ、しながら、再度フォークに刺さったチョコレート濡れのマシュマロを差し出す。

「あれだけじゃ足りないだろ? 口止め料」

「ふん……」

 自分に向けられる甘い笑みと口に含んだ甘いチョコレートに、ほんの僅かだがザンザスの眉尻が下がった。

 

 

【おまけ】

 

 無造作に、ぽん、と放られた包みに山本が、きょとん、とした顔を向けるも、ザンザスはそれを無視して一人でフォンデュ鍋にフォークを突っ込んでいる。

 首を傾げながらも簡素な包装を解けば、出てきたのはどこからどう見ても間違いようもない立派な腹巻きだった。

「えー……と?」

 困惑を隠すことなく顔を上げれば、ザンザスは、ぐりぐり、と鍋を掻き回していたフォークを引き上げ、くい、と片眉を上げた。

「しょっちゅう、腹出して寝てんだろうが。それで腹壊されて俺のせいにされたんじゃたまったもんじゃねぇ」

「……ごめんなさい」

 心当たりがあるのか、一瞬、過ぎった綱吉の張り付いた笑顔を無理矢理に奥へと押し込め、山本は素直に頭を下げる。

 それにしても、と山本は膝上に広げた腹巻きに目を落とし、くつり、と笑う。

 随分と色気のないバレンタインの贈り物だが、色気など元からないから丁度いいか、と再度、喉奥で、くつり、と笑った。

 

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 Happy Valentine's Day!

 

 武は特別寝相が悪いワケじゃないけど、気がついたらパジャマがめくれあがってて腹丸出し頻度が高いと個人的に萌える。

 隣のボスが気がつく度に悪態吐きつつ直してあげてたら更に萌える。

 なんで隣にいるかなんて野暮なことは言いっこなしだぜ!

 

2007.02.12

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【武の誕生日】

 コツコツ、と指先で軽く卓上を叩きながら報告書に目を通しているザンザスと、執務机を挟んで正面に立っているスクアーロの片眉が不意に、ぴくん、と上がった。

「そうだ、ボスさんよぉ」

「なんだ」

 紙面から顔を上げることなく、心底、面倒くさそうに、それでも珍しく穏やかな返答を寄越したザンザスに、相手の気が変わる前に、とスクアーロは余計なことは口にせず話を進める。

「武になにやるか決めたのかぁ?」

「……あぁ?」

 問いの意味が掴めなかったか、ザンザスは不審そうに唇を曲げ、ちらり、と上目に部下を見やる。

「もうすぐ誕生日だろうがぁ。ひょっとして忘れて……」

「そんなワケあるか、カス。てめぇの言い方が悪ぃんだよ」

 ひゅっ、と超至近距離から投げつけられた拳大はあるクリスタル製のペーパーウェイトは、狙い違わずスクアーロの額へと吸い込まれるように直撃した。しかも、無駄に手首のスナップが利いており、その威力たるやさすがのスクアーロの眦にも、きらり、と光る物が浮かぶほどだ。

「ッう゛ぉ゛ぉぉぉ……」

 もんどり打つまではいかなかったが、しゃがみ込んで額を押さえるスクアーロの震える背中を離れたソファから眺め、ルッスーリアは「あらあら、可哀相に」との言葉を吐いたがその唇は言葉とは裏腹に、おかしくてたまらない、とでも言いたげな笑みが浮かんでいる。

「ねーぇ、ボス。プレゼントが被ったらイヤじゃない。だから、なにをあげるのか教えて頂戴よ」

「決めてねぇ」

 間髪入れずに返された言葉にルッスーリアは、一瞬、ぽかん、と呆気に取られるも、直ぐ様気を取り直したか、ひらり、と軽やかにソファを飛び越え、未だ蹲っているスクアーロを踏みつけんばかりの勢いで執務机へ寄ると、ずい、と身を乗り出した。

「ちょっとちょっと、ボス! そういう時は嘘でもいいから『俺以外のヤツのプレゼントは受け取らせない』とか、言うものでしょう!?」

「嘘でいいのか?」

 ツッコむのはそこかよ、と涙目のスクアーロが、ぼそり、と零したが、ルッスーリアもザンザスもそれは華麗にスルーした。

「おまえらで適当になんか選んで贈っとけ」

「ん、まー! 信じられない!!」

 キィーッ! とヒステリックな奇声を上げるルッスーリアに眉を顰め、「なにくれてやりゃいいのか、わかんねぇんだよ」と吐き捨てた後、ザンザスは唇を、きゅっ、とへの字に引き結ぶ。意外にも素直に白状したボスに、ルッスーリアもスクアーロも即座に反応できない。

 ザンザスは誰かの為になにかをするという行為に慣れていないと言ってしまえばそれまでだが、彼は根本的なところからしてわかっていない。

 大切なのは相手を思う気持ちなのだ。贈る物がどれだけ素晴らしかろうと、彼自身が選ばなければ意味がないのだ

 だが、ここで不用意なことを口にすれば、次に唸りを上げて飛んでくるのは間違いなく憤怒の炎だ。巻き添えは御免よ、とルッスーリアはスクアーロがなにか口走る前に、華麗なる脚裁きで相手の首筋を踏みつけ額と床をご対面させ口を封じたのだった。

「そういうことなら引き受けてもいいけれど、んー、なんでもいいのね?」

「あぁ」

「本当になんでも?」

「しつけぇ!」

 何かを含むルッスーリアの物言いに気づいていないのか、ザンザスは苛々と声を荒げつつも肯定を意味する言葉を吐いたのだった。

 

 

 そして山本の誕生日当日。

 ノックらしきノックもなく執務室の扉が開かれ、見慣れた黒髪が、ひょこり、と顔を出した。

「よっ」

 肩の辺りまで軽く手を挙げ、にかっ、と笑う山本を一瞥し、ザンザスは静かに万年筆を卓へ置いた。

「なんだ、あっちで祝ってもらってるんじゃなかったのか?」

 仲間を大切にしている綱吉のことだ。パーティの一つくらいぶちあげているだろうと予想しての問いであったのだが、山本は困ったように眉尻を下げた表情で、ほてほて、と近づき、机を挟んだザンザスの向かいではなくすぐ隣までやってきた。

「んー、引き換え期限があるからこっちにしたのな」

 そう言って山本からザンザスに差し出されたのは、紙幣ほどの大きさのチケットと思しき物。覚えのないそれを訝りつつも、紙面を目で辿ったザンザスのこめかみが、ぴくり、と引きつる。

 そこに刻まれていたのは『ザンザス引換券』の文字。

「な……んだこれは」

「ははは、やっぱ知らなかったか」

 その反応は予測済みであったか、山本は軽く笑い声を上げ、ルッスーリアから渡されたのな、と暴露する。

 なんでもいいのか、としつこく念押ししてきたのはこういうことか、とザンザスが喉奥で低く「あのオカマ野郎……」と唸れば、山本の喉から、くつくつ、と笑い声が漏れた。

「まぁ、本気でザンザスが貰えるとは思ってなかったけどな」

 受け取られなかったチケットをジャケットの内ポケットへと戻しながら、ふっ、と目を細めた山本の腕を咄嗟に掴み、ザンザスはどこか探るように相手の顔を見上げる。

「なら、なんで来た」

 じっ、と揺らぐことなく見据えてくる燦めく紅玉を見下ろし、山本は、にっ、と口端を引き上げた。

「……野暮なこと聞くなよ」

 膝を折り、そっ、とザンザスの膝へ頭を乗せ、なにかを強請るように頬を擦り寄せれば、硬い掌が、指先が、ゆうるり、と髪を撫で、耳元へ寄せられた唇が囁くように、だが、ハッキリ、と山本が待ち望んでいた言葉を紡いだのだった。

 

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2008.04.19

説明
■REBORN!の二次創作。
■10年後設定ザン山ザンのイベントネタ3本詰め合わせ。
『クリスマス』
『バレンタイン』
『武の誕生日』
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REBORN XANXUS 山本武 ザン山ザン 女性向け 

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