魔法薬店へ行こう
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「ねぇねぇ、この後さー」

「ごめん、無理」

「即答!?それ酷くない!?」

 放課後。隣の席のリナに声をかけたあたしだけど、五秒で玉砕。

 むぅ、本題を切り出す猶予すら与えないとは、なんと狡猾な……。

 仕方がないので、逆サイドのシャロンに声をかける。

 無口で毒舌気味なシャロンだけど、話は聞くだけ聞いてくれる子だしね。

「ねぇねぇ。学園の近くに新しく魔法薬店出来たでしょ?」

「……そういえば、そうだった気がするにゃ。それが?」

「今から行ってみない?かなりプロい魔女が薬作ってるって話だし、面白そうじゃない?」

「魔女の薬なんて、十中八九眉唾物にゃ。仮に効果があっても、酷い副作用に悩まされるのがオチにゃ」

「夢がないなー。もうちょっとこう、探究心って言うの?そうだ、フロンティアスピリッツだよ!開拓心を持って、さあ、不思議の扉を開こう!」

「……あたしは今をそこそこ楽しく生きられれば、それで良いんだにゃ。好奇心は猫を殺す。フィーアも、取り返しのつかない失敗をする前に、何にでも首を突っ込むのはやめるべきにゃ」

 うぅ……いつの間にかにお説教を喰らってる。

 二人とも年頃の女の子なんだから、惚れ薬とか、美容に良い薬とか、興味ないのかなあ。

 しかし、あたしにはある!

 ということで、一人でも行くことにしよう!そうしよう!

「わかったよ。じゃあ、一人で行く」

「はぁ……あたしには、とてもではないけどわかった様には思えないにゃ。いくらお金が有り余っていても、無駄遣いを繰り返してたら、お父様に叱られるんじゃないかにゃ?」

「無駄じゃないもん!お父様も未知を既知に変えて行くことで、なんとかかんとかって……」

「良いかにゃ?フィーアはこの国の王たる種族、妖魔。その実力も才能も、他の追随を許さない生まれながらにしての天才にゃ。そんなフィーアが呪術的なものに頼る必要はなく、むしろ、下手な薬を飲んでおかしなことになったら、色々な方面に迷惑が……」

「うぅー!でも、行きたいんだもん!自分の行動は自分で責任取るから、行っても良いでしょ!」

「ふにゃぁ……」

 可愛い声を出して、だけど、憂鬱な顔でシャロンは溜め息を吐く。

 うっ、何、そのすごくがっかりした目はっ。

「馬に念仏。豚に説教。ね?私が相手しなかった理由がわかるでしょう?」

「そうだにゃ……。フィーア、もうあたしはこれ以上何も言わないにゃ。でも、心配だから一人では行かせないにゃ。それで良いかにゃ?」

「えっ?シャロン、ついて来てくれるの?やったぁ!ねーねー、ついでだからリナも行こうよー」

『はぁ……』

 何故か、二人の溜め息が重なる。

 えっと、あたし、何か変なこと言っちゃった?

 いやいやいや、そんなことないよね。

「魔法薬学について知っておくのも、魔法研究には有益か……。良いわ。インチキな薬を売ってないか、私が確かめてあげる」

「やったー!じゃあ、さっさと行こう!マッハで!」

『はぁ……』

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 校門を出て、しばらく行った裏路地に、ひっそりとお店はある。

 その日の当たらない感じ、なんとなく漂って来る、魔法的な匂い、いかにもマッドな感じがして、それっぽい!

 これはもう、高名な魔女が薬を作ってるって話もホントみたい。

「ちなみに訊いておくけど、リナ。一人でなら、この店に入ろうと思うかにゃ?」

「思わないし、そもそもこんな奥まったところには来ないわよ。シャロンは?」

「お金を積まれても入りたくないにゃ。そもそも、硫黄の臭気にあてられて、頭がくらくらして来てるにゃ……」

 限りなく二人は嫌そうだけど、ロマンがわかってないなあ。

 全力で人に騙されるのが妖魔界流!報復をしっかりしたら、損してもプラマイゼロ!

「ほら、入るよ!」

「はぁ……度し難い」

「右に同じにゃ……」

 入口の扉には、喫茶店みたいに鈴が付いていて、開けるとカランカラン、と涼しげな音がする……って、冬なのに寒々しいよ!

 というか、冬だというのを意識し始めたら、すっごく寒く感じて来た……流石に冬だからちゃんとスカートはいてるけど、素足がすごく冷たい。ニーソ一枚穿いておくだけで大分変わるかなぁ……。

「いらっしゃいませー」

 店に入ると、絶妙に気の抜けた女の人が迎えてくれた。

 カウンターを見ると、黒いゴスロリ衣装を来た金髪の人が居る。というか、ゴスロリというよりは、イブニングドレス?若干露出が多い気がするけど、大人の色気が感じられて、同性なのにちょっと意識してしまう。

 見た感じ、二十そこそこって感じだけど、まあ、悪魔の見た目年齢ほどあてにならないものもないから、大分年上と考えておく。

「お邪魔しますー。繁盛して――ます、ね、はい」

 お客さんはあたし達以外に居なくて、棚に並べられている魔法薬(ポーション)の類も、減った様子がないけど、一応こういうのは言っておかないとね。社交辞令、だっけ。

「いえいえ、そんな気を遣わなくても良いですよー。きょうび魔法薬なんて流行りませんもんねー。まあ、正直ここまで売れないとは思わなかったですけど……」

 そう言うと、くたーっとカウンターに突っ伏してしまった。

 明るいんだか暗いんだか、よくわからない人だけど、悪い人ではなさそう。全体的に小柄な人の多い魔女の癖に、あたしより胸が大きいっぽいのは気に入らないけど。

「外の硫黄臭から察するに、こちらでは錬金術も取り扱っているんですね」

 と質問をしたのは、リナ。専門は魔学だけど、流石に色々と詳しい。

 ま、まあ、あたしも硫黄を使うのが錬金術だってことぐらい、知ってたけどねっ。

「はいー。火薬とか仙丹とか、結構お金になるんですよー。売れれば、の話ですけど」

 うっ、強烈に暗いっ。

 なんかもう、この店が流行ってない原因は店主さんにある様な……。

「な、何かお勧めとかありますかっ?」

「ないですー。正直、どれも水みたいなもんですよー」

「商売する気、あるんですか!?」

「ないですー。絶対に、絶対に働きたくないでござるー」

 ダメだこの人……全てが遅過ぎたんだ……。

 自分から誘っておいてアレだけど、もうさっさと出たくなって来た……。

「……マカイモモキダケの匂いだにゃ。薬効は軽い欲情と催眠。所謂惚れ薬に使われるキノコだにゃ。ついでに言えば、痺れ薬として有名なマカイシビレヅタの臭いもするにゃ」

「どちらも中々貴重な材料ね。上手く調合出来ていれば、かなりの高値が付く筈だけど……」

 何やら二人が、小瓶を手に取って色々と見ている。

 あれ?なんか、あたしより二人の方が盛り上がってる感じ……?

「ああ、それですかー。師匠から教えてもらって、見よう見まねで作ってみたんですけど、効能はあんまりですよー。惚れ薬の方は、ちょっとした出会いのきっかけになる程度で、痺れ薬はやわーい麻酔程度ですよ」

「師匠、って言うと、あなたはその弟子で、この店の店主はその師匠の方ですか?」

「そうなりますねー。けど、お店開いた後、直ぐにどっか行っちゃったんですよー。私にお店押し付けて。なもんですから、やる気も出ませんよねぇ」

 なんとなく、店員さんのだるーい理由がわかった気もするけど、このままだと普通に店、潰れないかなぁ?

 いつその師匠さんが帰って来るかわからないし、この人なんかもう、適当過ぎるし……。

「でも、それぐらいならフィーアにこれ、良いんじゃないかにゃ?香水タイプみたいだし」

「ど、どういうこと?」

 学園中のアイドルにして、顔も性格も良くて同性からも人気者なあたしに惚れ薬なんて……ねぇ?

「フィーアはあたしから見ても可愛いし、運動神経も抜群で憧れるけど、ドシで馬鹿で基本頭の中が空っぽなのが残念にゃ。この薬があれば、そういうことの粗隠しが出来ると思うにゃ」

「なっ……!あ、あたしが残念!?」

「ふふっ。言えてるわね。まあ、その馬鹿っぽさが萌え属性なのかもしれないけど」

「うがー!だからバカって言うなー!後、ついでだから言っとくけど、痴女も禁止!あたしは清純派妖魔なんだからね!」

 まったく、短い付き合いって訳でもないのに、失礼しちゃう。

 むしろ、長い付き合いだからこそ、目が曇っちゃってるのかな?失礼しちゃうなあ。

「あははー。良いですねぇ、仲が良くって。そんなお三人には、こんなのがありますよー?」

 さっきまでやる気が無さそうな店員さんだったけど、カウンターから身を乗り出して来て、ちょっとその気になって来たみたい。

 カウンターの後ろにある棚から、試験管みたいな細い瓶に入った薬を取って見せてくれる。

 中身は薄く黄色がかっていて、レモンジュースか何かみたいに見えるけど……。

「……もしかして、おしっ「それ以上はいけないにゃ!どんだけヨゴレ役扱いされてても、女の子としてその発言はやめておくべきにゃ!」んむっー!くひ、ふはがないへよぉ!」

「ま、まあ、確かに紛らわしい色ですけどねー。いやしかし、そんな反応が返って来るとは……」

 な、なんか滅茶苦茶退かれてるけど、当然の反応だよ、ね?

「まあ、それは良いとして……。これはですねー。実際に薬効のある薬というよりは、呪術的意味合いの強いものです。これを、ですね。絶対に離れたくないという友達同士で分け合って、いつも身に付けている布類に染み込ませておくんです。すると、たとえ何年、遠く離れて暮らしていたとしても、お互いが強く想い合えば、必ず再会出来る……と」

「へぇ……なんかすごくロマンチック」

「何か言われのある水なのかにゃ?」

「そうですねー。まあ、ぶっちゃけよくある話ですけど、この水の取れる泉で兄弟の契りを交わした男性二人が、実際に二十年ぐらい経った後に再会した、という伝説に基づいているんですー。実はそれが今の妖魔の祖先とかなんとかで……ほら、そちらのお客様は妖魔の方でしょう?丁度良いかなーっと」

 なるほど……というか、やっぱりあたしはアレだね。何も言わなくても、こう、スター性が漏れ出ちゃってるから、言わなくても妖魔ってわかるんだね。流石あたし。マジカリスマ!

「じゃあ、買おっかな。二人とも、良いよね?」

「フィーアのお金ならにゃ」

「科学的根拠のないものを信じたくない……と言いたいところだけど、たまにはそういうのに騙されてみても良いかもね」

「あははー。お買い上げどうもですー。ずっと染み込ませた布は身に付けておくと良いみたいなんですけど、そういうのってありますかー?ないのでしたら、リボンとかカチューシャも趣味で作ってるんで、ありますよー」

 じゃっ、と後ろの棚から適当にリボンを持って来るんだから、結構侮れない。

 でも、あたしは既にそういうのは持っている訳だし、必要ないかな。

「あたしのこの髪飾り、羽の所は布だからね。ここに染み込ませておこーっと」

「あたしは、尻尾のリボンが順当かにゃ」

「じゃあ、私はリボンタイね。ところでこれ、洗っても大丈夫なの?」

「水を染み込ませた時点で、魔力というか、呪い的なものは成立していると思うので、大丈夫と思いますよー。まあ、その辺りは師匠に訊かないと詳しくはわかりませんが。ですので、また今度覗いてみてくださいよー。多分、一月ぐらいしたら師匠も帰って来ますよー」

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「という感じに、また来させられることになりそうになった訳だけど」

「地味に商売が上手い人だったにゃ……ちなみにフィーア、どれぐらいしたんだにゃ?」

「んーと、金貨十枚って、いくらだっけ。今朝の妖魔界通貨レート見忘れちゃった」

「ちょっと……約1500ディールもしてるわよ?普通に一食、フルコースが食べれるじゃない」

「えー。でも、それで友情が買えるんなら、安いもんじゃない?」

「……フィーアに黒いことを言ってるって自覚はないんだろうにゃ……」

 え?なんかすっごく、シャロンがジト目で見て来てるんだけど……。

「ま、たまにはこんなのも良いよね!それに、あの店員さんと知り合いになれたのは、リナ的にも収穫でしょ?」

「正確には、あの人を通じて、凄腕の魔女に会えるかもしれない、ってところがね」

「それなら今日は良い事尽くめで良かったじゃん。ささ、もう外暗いし、さっさと帰ろー!」

説明
何気にフィーアをちゃんと文章で書いたものを投稿するのは初めてですね
これからも不定期に看板娘達のお話は書いて行きたいものです。もしそれが可能であるならば、挿絵なんかも自前で用意する方向性で
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短編 ファンタジー 看板娘 看板娘フィーアの話 

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